(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、高周波電源装置から出力される高周波電力をプラズマ処理装置に供給し、エッチング等の方法を用いて半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を加工するプラズマ処理システムが開発されている。
【0003】
図8は、一般的なプラズマ処理システムの構成を示すブロック図である。
【0004】
プラズマ処理システムAには、プラズマ処理中のプラズマ処理装置400のインピーダンスなどを監視するための高周波測定装置300が、プラズマ処理装置400の入力端に設けられている。高周波測定装置300は、プラズマ処理装置400の入力端における高周波電圧および高周波電流をセンサによって検出し、その検出値からインピーダンス等の各種高周波パラメータを演算によって算出する。
【0005】
一般に、計測装置や測定装置は、センサの感度がばらつき当該センサで検出される検出値が正しい値と異なるため、予め基準となる被測定物を測定して検出値を正しい値に換算する校正パラメータを取得しておき、実際の測定では検出値を当該校正パラメータで正しい検出値に校正して出力する構成となっている。
【0006】
高周波測定装置300が検出した高周波電圧vおよび高周波電流iの校正では、例えば、SOLT(Short-Open-Load-Thru)校正が用いられる。SOLT校正では、まず、インピーダンスの真値があらかじめ特定された模擬負荷装置(ダミーロード)500を高周波測定装置300に接続して、高周波測定装置300によってインピーダンスを測定する(
図9参照)。このときの模擬負荷装置としては、測定系の特性インピーダンス(測定のために高周波を伝送する伝送線路の特性インピーダンスであり、一般的には50Ω又は75Ω)を有する模擬負荷装置、開放状態のインピーダンス(無限大)に近いインピーダンスを有する模擬負荷装置、および、短絡状態のインピーダンス(ゼロ)に近いインピーダンスを有する模擬負荷装置が用いられる。次に、高周波測定装置300によって測定された各模擬負荷装置のインピーダンス測定値と各模擬負荷装置のインピーダンスの真値とから、高周波電圧vおよび高周波電流iを校正するための校正パラメータを算出して、高周波測定装置300のメモリ(図示せず)に記録する。実際の測定では、検出された高周波電圧vおよび高周波電流iを、メモリに記録されている校正パラメータで校正してから、各種高周波パラメータを算出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記校正では、高周波測定装置300に各模擬負荷装置500を直接接続してインピーダンスを測定し、このインピーダンス測定値に基づいて校正パラメータを算出している。つまり、当該校正パラメータは、高周波測定装置300による検出値を高周波測定装置300の出力端における値に校正するものである。したがって、当該校正パラメータに基づいて校正されたインピーダンスは高周波測定装置300の出力端から負荷側をみたインピーダンスである。しかし、プラズマ処理装置400の監視のためには、プラズマ処理装置400のチャンバー内の電極間におけるインピーダンスを測定する必要がある。
【0009】
高周波測定装置300とプラズマ処理装置400とが直接接続されている場合、高周波測定装置300の出力端から負荷側をみたインピーダンスがプラズマ処理装置400の電極間におけるインピーダンスに相当すると考えることもできる。しかし、両者が完全に同一とはならないので、高周波測定装置300の測定値の精度は低くなる。
【0010】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、高周波測定装置の測定値の精度を可及的に高くするように校正するために使用される模擬負荷装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0012】
本発明の第1の側面によって提供される模擬負荷装置は、1以上の受動素子と、前記受動素子に接続された2つの電極板と、
プラズマ処理装置のチャンバー内に配置されたときに、前記2つの電極板を前記チャンバー内の2つの電極にそれぞれ押し付けるように付勢する付勢手段とを備えていることを特徴とする。
【0013】
なお、「模擬負荷装置」とは、所定のインピーダンスを有する負荷を擬似的に再現するための装置である。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記2つの電極板は互いに略平行となるように配置されており、前記付勢手段は、前記2つの電極板を互いに離れる方向に付勢する。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記付勢手段は、前記2つの電極板の間に配置されたコイルばねである。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記受動素子および前記受動素子と前記電極板とを接続する配線を有する回路が、前記2つの電極板の間に配置され、前記回路を囲むように配置された絶縁手段をさらに備えている。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記2つの電極板は銅板である。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電極板の一方と前記受動素子とは、可撓性がある導体を介して電気的に接続されている。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記導体は銅箔である。なお、「銅箔」とは、均一な肉厚(例えば、0.1mm未満)で、長方形断面を有する銅の圧延製品である。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記2つの電極板に接続された同軸構造のコネクタをさらに備えている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、付勢手段によって電極板が付勢されるので、電極板を所定の方向に押し付けることができる。したがって、本発明に係る模擬負荷装置は、プラズマ処理装置のチャンバー内の2つの電極間に配置して使用することができる。これにより、例えば、プラズマ処理装置の入力端に配置される高周波測定装置の校正を行う場合に、本発明に係る模擬負荷装置をプラズマ処理装置の2つの電極間に配置して、高周波測定装置によってインピーダンスを測定し、当該測定されたインピーダンス測定値と模擬負荷装置のインピーダンスの真値とに基づいて、校正パラメータを算出することができる。当該校正パラメータは、高周波測定装置による検出値をプラズマ処理装置の電極間における値に校正することができる。したがって、当該校正パラメータを用いることにより、高周波測定装置の測定値の精度を高くすることができる。
【0023】
また、付勢手段によって電極板がプラズマ処理装置の電極に押し付けられるので、2つの電極間の距離が異なるプラズマ処理装置にも用いることができる。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、高周波測定装置の校正に用いられる模擬負荷装置を例として、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1〜
図5は、本実施形態に係る模擬負荷装置を説明するための図である。
図1は、模擬負荷装置1を高周波測定装置300の校正処理に用いる場合の使用例を説明するための図である。
図2〜
図5は、模擬負荷装置1の構成を説明するための図である。
【0028】
模擬負荷装置1には抵抗器21およびコンデンサ22などの受動素子が配置されており(
図2参照)、模擬負荷装置1のインピーダンスは所定のインピーダンス値とされている。これにより、模擬負荷装置1は、所定のインピーダンスを有する負荷を擬似的に再現することができる。模擬負荷装置1は、プラズマ処理装置400のチャンバー内の2つの電極401,402の間に配置されて、高周波測定装置300の校正に用いられる(
図1参照)。すなわち、
図1に示すように、模擬負荷装置1が配置されたプラズマ処理装置400の入力端cに高周波測定装置300を接続し、高周波測定装置300で測定されたインピーダンス測定値と模擬負荷装置1に設定されているインピーダンスの真値とに基づいて校正パラメータを算出する。校正パラメータの算出方法は後述する。
【0029】
図2は、模擬負荷装置1の平面図である。同図においては、後述する正電極板70を省略している。
図3は、模擬負荷装置1の断面側面図であり、
図2に示すB−B’線での断面を示している。
図4は、模擬負荷装置1のコイルばね40の部分の構造を説明するための図である。
【0030】
図2および
図3に示すように、模擬負荷装置1は、プリント基板10、抵抗器21、コンデンサ22、絶縁樹脂30、コイルばね40、同軸コネクタ50、グランド電極板60、および、正電極板70を備えている。
【0031】
プリント基板10は、例えばガラスエポキシ等の絶縁材料からなる略矩形状の基板にプリント配線を行ったものであり、抵抗器21およびコンデンサ22などの受動素子が搭載される。
図2に示すように、プリント基板10には、グランド配線11、接続配線12、および、正極側配線13が設けられている。
【0032】
グランド配線11は、コンデンサ22の一方の端子と同軸コネクタ50の負極側の端子とを電気的に接続するものである。プリント基板10は、4つのネジ14でグランド電極板60に固定されている。導電性のあるネジ14のうちの1つがグランド配線11上でグランド電極板60への固定を行うので、当該ネジ14を介してグランド配線11とグランド電極板60とが電気的に接続される。グランド電極板60は、模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたときに、グランド電極402に電気的に接続する。プラズマ処理装置400のグランド電極402は接地されて、0ボルトの基準(グランド)電位となる。したがって、グランド配線11の電位も、基準(グランド)電位となる。なお、プリント基板10をグランド電極板60にネジ14で固定しない場合は、プリント基板10に設けたスルーホール(基板を貫通した穴にメッキなどを施して基板の両面を電気的に接続させるための穴)を介してグランド配線11とグランド電極板60とを電気的に接続するようにしてもよい。また、他の方法で、グランド配線11をグランド電極板60に電気的に接続してもよい。
【0033】
接続配線12は、抵抗器21の一方の端子とコンデンサ22の他方の端子とを電気的に接続するものである。これにより、抵抗器21とコンデンサ22とが直列接続される。
【0034】
正極側配線13は、抵抗器21の他方の端子と同軸コネクタ50の正極側の端子とを電気的に接続するものである。正極側配線13と正電極板70とは、後述する接続導体72を介して電気的に接続されている。正電極板70は、模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたときに、正電極401に電気的に接続する。したがって、プラズマ処理装置400の正電極401に供給される高周波電力が、正極側配線13に供給される。
【0035】
なお、プリント基板10の構成はこれに限られない。例えば、プリント基板10の形状は矩形状に限られないし、抵抗器21およびコンデンサ22の配置や各配線の形状も限定されない。
【0036】
抵抗器21は、抵抗値が約50Ωの抵抗を有する受動素子である。抵抗器21の抵抗値は、各配線などによる寄生抵抗も合わせて模擬負荷装置1全体での抵抗値が50Ωとなるように設定されている。抵抗器21はグランド電極板60に固定され、一方の端子が接続配線12に接続され、他方の端子が正極側配線13に接続されている。抵抗器21から発生する熱は、グランド電極板60によって放熱される。なお、抵抗器21から発生する熱を放熱する必要がない場合は抵抗器21をグランド電極板60に固定する必要はない。したがって、抵抗器21をプリント基板10に固定するようにしてもよい。
【0037】
コンデンサ22は、所定の静電容量を有する受動素子である。コンデンサ22の静電容量は各配線などによる寄生インダクタンスを打ち消すための静電容量であって、高周波電源装置100(
図1参照)から高周波電力が供給されたときに模擬負荷装置1全体でのリアクタンスがj0Ωとなるように設定されている。
【0038】
図5は、模擬負荷装置1を回路図で表した図である。同図に示すように、正電極板70とグランド電極板60との間で、抵抗器21とコンデンサ22とが接続配線12で直列接続されている。
【0039】
模擬負荷装置1は、全体としてのインピーダンスが50+j0Ωとなるように設計されている。後述する高周波測定装置300の校正では、3つの模擬負荷装置を用いる。模擬負荷装置1は、特性インピーダンス(50+j0Ω)を有する模擬負荷装置であり、3つの模擬負荷装置を区別して説明する場合には模擬負荷装置1aと記載する。また、開放状態のインピーダンス(無限大)に近いインピーダンスを有する模擬負荷装置を模擬負荷装置1bとし、短絡状態のインピーダンス(ゼロ)に近いインピーダンスを有する模擬負荷装置を模擬負荷装置1cとする。模擬負荷装置1bおよび1cも模擬負荷装置1aと同様の構成であるが、抵抗器21の抵抗値およびコンデンサ22の静電容量が模擬負荷装置1aの場合と異なる。なお、模擬負荷装置1bおよび1cの抵抗器21の抵抗値およびコンデンサ22の静電容量は、適宜設計すればよい。
【0040】
なお、模擬負荷装置1a,1b,1cに用いられる受動素子は、抵抗器21およびコンデンサ22に限定されない。コンデンサ22に代えてインダクタを用いるようにしてもよいし、抵抗器21およびコンデンサ22に加えてインダクタも用いるようにしてもよい。また、各受動素子を直列接続する場合に限定されず、並列接続するようにしてもよい。模擬負荷装置1a〜1cが所定のインピーダンスを有する負荷を擬似的に再現できるように、各受動素子の配列および接続の方法は適宜設計すればよい。
【0041】
絶縁樹脂30は、正電極板70とグランド電極板60とが短絡しないように絶縁するためのものである。本実施形態では、絶縁樹脂30の素材として、テフロン(登録商標)を用いている。なお、絶縁樹脂30の素材は絶縁性のある素材であればよく、他の合成樹脂などであってもよい。
図2に示すように、絶縁樹脂30は、平面視ロの字形状の一部分が欠けた形状となっている。なお、絶縁樹脂30の形状は限定されない。欠けた部分のない平面視ロの字形状として、同軸コネクタ50を配置するための穴を設けたものでもよい。また、平面視がリング状であってもよいし、平面視の外形がロの字形状で内形が円状であってもよい。また、上面(
図2において、紙面手前側の面)が塞がった箱形状であってもよい。
【0042】
絶縁樹脂30は、外周を合わせる様に、グランド電極板60に固定されている。プリント基板10、抵抗器21、およびコンデンサ22は、絶縁樹脂30の平面視中央の空洞部分に配置されている。これにより、プリント基板10、抵抗器21、およびコンデンサ22は、絶縁樹脂30によって囲まれた状態となる。絶縁樹脂30で囲まれていない場合、模擬負荷装置1をプラズマ処理装置400に配置したときに、プリント基板10上の各配線とプラズマ処理装置400のチャンバーの壁との間で浮遊容量が生じる場合がある。浮遊容量が生じるとインピーダンスが変化する。したがって、プラズマ処理装置400に配置する前と後とで、模擬負荷装置1のインピーダンスが異なることとなる。このように、絶縁樹脂30は、浮遊容量の発生を抑制して、模擬負荷装置1のインピーダンスの変化を抑制する機能も備えている。
【0043】
また、絶縁樹脂30は、上面の四隅に穴31がそれぞれ設けられている。各穴31には、それぞれコイルばね40が挿入されている(
図4参照)。絶縁樹脂30は、コイルばね40を固定する役割も担っている。なお、穴31の数は4つに限定されない。
【0044】
なお、絶縁樹脂30の構成はこれに限られない。模擬負荷装置1をプラズマ処理装置400に配置したときに生じる浮遊容量が無視できるようであれば、プリント基板10などを絶縁樹脂30で覆う必要はない。したがって、絶縁樹脂30を設ける代わりに、グランド電極板60の四隅に絶縁物の柱を設けるようにしてもよい。また、グランド電極板60の中央に絶縁物の柱を設けて、プリント基板10などをその周りに配置するようにしてもよい。
【0045】
コイルばね40は、弾性力によって正電極板70とグランド電極板60とを引き離す方向に付勢するものである。コイルばね40は、絶縁樹脂30の上面の四隅に設けられた4つの穴31にそれぞれ挿入されている(
図4参照)。模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたとき、コイルばね40は弾性力によって、正電極板70を正電極401に押し付け、グランド電極板60をグランド電極402に押し付ける(
図1および
図3参照)。なお、コイルばね40に代えて他の弾性体を用いてもよい。弾性力によって正電極板70とグランド電極板60とを引き離す方向に付勢すればよいので、例えば、板ばねやゴムなどを用いた構成としてもよい。
【0046】
また、プラズマ処理装置400の正電極401とグランド電極402との距離(以下では、「電極間距離」とする)H(
図1参照)と模擬負荷装置1の高さh(正電極板70の上面とグランド電極板60の下面との距離、
図3参照)とが一致するのであれば、コイルばね40などの付勢のための構成は必要ない。したがって、高さhが高さHと一致するように模擬負荷装置1を設計するか、高さhを調整するための構成を設けるようにしてもよい。ただし、正電極401と正電極板70とを密着させ、グランド電極402とグランド電極板60とを密着させるためには、厳密な設計または調整が必要となる。また、高さHはプラズマ処理装置400ごとに異なる場合があり、チャンバーの蓋に正電極401が配置されている場合は蓋の開け閉めにより高さHが変化する場合もある。したがって、コイルばね40などの付勢のための構成を有する方が望ましい。
【0047】
同軸コネクタ50は、インピーダンスアナライザで模擬負荷装置1のインピーダンスを測定するときに使用される。模擬負荷装置1はインピーダンスが所定のインピーダンス値となるように設計されている。すなわち、インピーダンスを測定しながら受動素子の選択や各配線の調整を行ったり、測定したインピーダンスを所定のインピーダンス値に決定する。インピーダンスを測定するときに、インピーダンスアナライザの測定端子のコネクタを同軸コネクタ50に接続する。なお、他の方法でインピーダンスを測定する場合は、同軸コネクタ50を設ける必要はない。
【0048】
グランド電極板60は、模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたときに、グランド電極402に電気的に接続するためのものである。グランド電極板60は、矩形状の銅板であり、導電性および導熱性を有する。本実施形態において、グランド電極板60は放熱板としても機能し、グランド電極板60に固定されている抵抗器21から発生する熱を放出する。模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたとき、グランド電極板60はコイルばね40によってグランド電極402に押し付けられる。これにより、グランド電極板60とグランド電極402とが密着するので、グランド電極板60の電位を基準(グランド)電位とすることができる。なお、グランド電極板60の形状は限定されない。例えば、プラズマ処理装置400のグランド電極402の形状に合わせてもよい。また、グランド電極板60の素材も限定されず、導電性を有する素材であればよい。
【0049】
正電極板70は、模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたときに、正電極401に電気的に接続するためのものである。本実施形態では、正電極板70をグランド電極板60と同様の形状の銅板としている。模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたとき、正電極板70はコイルばね40によって正電極401に押し付けられる。これにより、正電極板70と正電極401とが密着するので、高周波電源装置100からプラズマ処理装置400に入力される高周波電力を、模擬負荷装置1に適切に供給することができる。なお、正電極板70の形状は限定されない。例えば、プラズマ処理装置400の正電極401の形状に合わせてもよい。また、正電極板70の素材も限定されず、導電性を有する素材であればよい。
【0050】
正電極板70は、ガイド71によって、グランド電極板60に対する位置を規定されている(
図3および
図4参照)。本実施形態では、正電極板70の四隅に設けられた穴にネジを螺合し、正電極板70の下面(
図3における下方の面)から突き出た部分をガイド71としている。ガイド71は、絶縁樹脂30の上面の四隅の穴31の位置にあわせるように設けられている。正電極板70は、4つのガイド71をそれぞれコイルばね40および穴31に挿入するようにして(
図4参照)、絶縁樹脂30の上方(
図3および
図4における上方)に、グランド電極板60に対して略平行となるように配置される。ガイド71によって、正電極板70のグランド電極板60に対する水平位置(
図2における上下左右方向の位置)の変化が制限される。なお、ガイド71を設ける代わりに、コイルばね40を正電極板70に固着するようにしてもよい。
【0051】
また、正電極板70は、接続導体72によって、正極側配線13と電気的に接続されている(
図3参照)。コイルばね40によって正電極板70とグランド電極板60との距離が変化可能になっているので、グランド電極板60に固定されたプリント基板10と正電極板70との距離も変化する。したがって、接続導体72には可撓性がある導体を用いている。本実施形態では、可撓性に優れた銅箔を導体とし、この銅箔を接続導体72として利用できるように加工して用いている。例えば、銅箔を基材とし、銅箔の片面に導電性粘着剤を塗布してテープ状に形成した銅箔テープを用い、この銅箔テープの導電性粘着剤が塗布された面を内側にして折り曲げたものを接続導体72とすればよい。なお、上記のように、プリント基板10と正電極板70との距離が変化する。そのため、このプリント基板10と正電極板70との距離が変化することを考慮して接続導体72の長さや形状を設計すればよい。
【0052】
また、接続導体72はこれに限られず、導電性がある素材を可撓性があるように加工したものであればよい。例えば、銅線などでもよい。ただし、接続導体72の断面積が小さく、長さが長いと接続導体72自体の抵抗値も大きくなる。したがって、接続導体72自体の抵抗値の影響を小さくするためには、断面積が大きく、長さが短い方が適している。また、接続導体72を設ける代わりに、コイルばね40の素材を導電性のあるものとし、コイルばね40の一方端を正電極板70に固定し、他方端を正極側配線13に接続するようにしてもよい。
【0053】
模擬負荷装置1の高さは、コイルばね40によって変化可能になっている。すなわち、模擬負荷装置1に力を加えない状態(正電極板70自身による重力のみが働く状態)の高さhから、正電極板70の下面と絶縁樹脂30の上面とが接する状態の高さh’まで、模擬負荷装置1の高さは変化する。したがって、模擬負荷装置1は、電極間距離Hがこの変化範囲(h’<H<h)に入るプラズマ処理装置400に対して使用することができる。また、使用する可能性のあるプラズマ処理装置400の電極間距離Hに応じて、絶縁樹脂30の高さ(
図3における上下方向の寸法)やコイルばね40の長さなどを調整して、模擬負荷装置1を設計すればよい。
【0054】
模擬負荷装置1の水平方向(
図2における上下左右方向)の大きさ、すなわち、正電極板70およびグランド電極板60の大きさは、使用する可能性のあるプラズマ処理装置400の電極401,402の大きさに応じて設計すればよい。この場合、電極401,402の大きさより少し小さいものとしてもよいし(
図1参照)、十分小さいものとしてもよい。
【0055】
次に、模擬負荷装置1a,1b,1cを用いた、高周波測定装置300の校正方法について説明する。
【0056】
高周波測定装置300は、プラズマ処理中のプラズマ処理装置400の状態を監視するために、プラズマ処理装置400のチャンバー内のインピーダンス、反射係数、高周波電圧、高周波電流、進行波電力および反射波電力などの高周波パラメータを測定する、いわゆるRFセンサである。
図1に示すように、高周波測定装置300はプラズマ処理装置400の入力端に配置される。高周波測定装置300は、プラズマ処理装置400の入力端における高周波電圧vおよび高周波電流iをセンサによって検出し、その検出値からインピーダンス等の高周波パラメータを演算によって算出する。なお、高周波測定装置300の詳細な説明は省略する。
【0057】
高周波測定装置300の校正では、まず、各模擬負荷装置1a,1b,1cを順にプラズマ処理装置400の電極401,402の間に配置して、高周波測定装置300によってそれぞれのインピーダンスを測定する(
図1参照)。各模擬負荷装置1a,1b,1cは、それぞれ所定のインピーダンスとなるように設計されている。次に、高周波測定装置300によって測定された各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンス測定値と各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンスの真値とから、高周波電圧vおよび高周波電流iを校正するための校正パラメータを算出する。高周波測定装置300による実際の測定では、検出された高周波電圧vおよび高周波電流iを、校正パラメータで校正してから、各種高周波パラメータを算出する。
【0058】
高周波測定装置300が検出して出力する電流信号I
0および電圧信号V
0と、プラズマ処理装置400の電極間に流れる電流信号I
1および電極間に生じる電圧信号V
1との関係を2端子対回路に置き換えると、電流信号I
0および電圧信号V
0を電流信号I
1および電圧信号V
1に校正する校正パラメータXを、
図6に示す2次元のベクトル行列と考えることができる。
【0059】
各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンスの真値と、高周波測定装置300によって測定された各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンス測定値とから、校正パラメータXの各要素X
11、X
12、X
21、X
22を算出することができる。なお、当該算出を行うためには、基準となる電圧値と電流値の絶対値が必要となる。電圧値と電流値の絶対値を基準値として利用するには、精度の高い電力測定値が必要となる。精度の高い電力測定値を測定するには、反射電力が「0」となる負荷を接続して測定するのが最もよい。したがって、本実施形態では、反射電力「0」を実現するために、特性インピーダンスと同一のインピーダンス(すなわち、50+j0Ω)を有する負荷である模擬負荷装置1aを用いている。
【0060】
算出された校正パラメータXを用いて、
図6より、電流信号I
0および電圧信号V
0を校正後の電流信号I
1および電圧信号V
1に変換することができる。すなわち、
図6より導かれる下記(1)、(2)式より、校正後の電流信号I
1および電圧信号V
1を算出することができる。
【0062】
次に、高周波測定装置300の校正を行う手順について、
図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0063】
図7は、高周波測定装置300の校正の手順を説明するためのフローチャートである。当該フローチャートは、高周波測定装置300でプラズマ処理装置400のチャンバー内の電極間のインピーダンスを測定する場合の、検出された電流信号I
0および電圧信号V
0の校正を行う処理手順を示している。
【0064】
まず、各模擬負荷装置1a,1b,1cを順にプラズマ処理装置400の電極401,402の間に配置して(
図1参照)、高周波測定装置300でそれぞれインピーダンスを測定する(S1)。次に、高周波測定装置300によって測定された各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンス測定値と、各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンスの真値とから、校正パラメータXを算出して、高周波測定装置300のメモリに記録する(S2)。本実施形態では、高周波測定装置300の図示しない演算回路が、各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンス測定値をメモリに記録してゆき、3つのインピーダンス測定値を測定した後に、あらかじめ記録された各模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンスの真値を用いて、校正パラメータXの各要素を算出してメモリに記録する。なお、校正パラメータXの算出は高周波測定装置300の演算回路が行う場合に限定されず、例えば、作業者が別途行うようにしてもよい。この場合、作業者が高周波測定装置300の図示しない入力手段で校正パラメータXを入力することで、メモリに記録すればよい。
【0065】
次に、実際にプラズマ処理を行っているときのプラズマ処理装置400のチャンバー内の電極間のインピーダンスを測定する(S3)。このとき、高周波測定装置300は、検出した電流信号I
0および電圧信号V
0をメモリに記録された校正パラメータXで校正して、校正後の電流信号I
1および電圧信号V
1に基づいてインピーダンスを算出する。
【0066】
なお、上記校正の処理手順は、高周波測定装置300のメモリに校正パラメータXが記録されていない場合の処理手順である。上記処理手順のうちステップS1およびS2については毎回行なう必要はなく、1度行ってメモリに校正パラメータXを記録しておけばよい。この処理は、高周波測定装置300の製造時に、製造メーカーが行っておいてもよい。
【0067】
本実施形態によると、模擬負荷装置1の正電極板70とグランド電極板60とは、互いに平行となるように配置されている。したがって、正電極板70をプラズマ処理装置400の正電極401に接続し、グランド電極板60をグランド電極402に接続するようにして、模擬負荷装置1をプラズマ処理装置400の正電極401とグランド電極402との間に配置することができる。これにより、高周波測定装置300の校正において、模擬負荷装置1をプラズマ処理装置400の2つの電極401,402の間に配置して、高周波測定装置300でインピーダンスを測定することができる。当該測定値と模擬負荷装置1のインピーダンスの真値とから校正パラメータXが算出される。当該校正パラメータXは、高周波測定装置300による検出値をプラズマ処理装置400のチャンバー内の電極間における値に校正することができる。したがって、当該校正パラメータXを用いることにより、高周波測定装置300に模擬負荷装置500を直接接続して測定したインピーダンス測定値に基づく校正パラメータを用いる場合より、高周波測定装置300の測定値の精度を高くすることができる。
【0068】
また、模擬負荷装置1がプラズマ処理装置400に配置されたとき、模擬負荷装置1の正電極板70およびグランド電極板60は、コイルばね40によって、プラズマ処理装置400の正電極401およびグランド電極402にそれぞれ押し付けられる。したがって、正電極板70と正電極401とを密着し、グランド電極板60とグランド電極402とを密着することができる。また、模擬負荷装置1の高さhは変化するので、電極間距離Hが所定の範囲であれば、いずれのプラズマ処理装置400にも配置することができる。
【0069】
なお、上記実施形態では、3つの模擬負荷装置1a,1b,1cを用いて校正を行う場合について説明したが、これに限られない。模擬負荷装置1の抵抗器21およびコンデンサ22をそれぞれ可変抵抗器および可変コンデンサとして、3種類のインピーダンスの切り替えができるようにしてもよい。この場合、模擬負荷装置1をチャンバーから取り外して交換することなく、インピーダンスの切り替えにより各インピーダンスを有する負荷を再現することができる。
【0070】
上記実施形態では、インピーダンスの広い範囲で校正を行うことができるように、模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンスを極限値に近いインピーダンス値とするように設定しているが、これに限られない。高周波測定装置300が測定するインピーダンスの範囲に応じて、模擬負荷装置1a,1b,1cのインピーダンスを設定するようにしてもよい。
【0071】
上記実施形態では、プラズマ処理装置400の正電極401およびグランド電極402が平行平板電極である場合について説明したが、これに限られない。正電極401またはグランド電極402が平板でない場合や、正電極401およびグランド電極402が平行でない場合は、正電極板70またはグランド電極板60の形状や固定の仕方を変更すればよい。例えば、正電極401が平板でなく曲面板である場合は、正電極板70の正電極401に対向する面を同様の曲面にすればよい。
【0072】
本発明に係る模擬負荷装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る模擬負荷装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。