(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722758
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】内燃機関のクランク軸用主軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 9/02 20060101AFI20150507BHJP
F16C 3/14 20060101ALI20150507BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20150507BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
F16C9/02
F16C3/14
F16C17/02 Z
F16C33/10 Z
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-275833(P2011-275833)
(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公開番号】特開2013-124765(P2013-124765A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2012年8月8日
【審判番号】不服2014-15556(P2014-15556/J1)
【審判請求日】2014年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石吾 修
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】山田 素平
【合議体】
【審判長】
島田 信一
【審判官】
小柳 健悟
【審判官】
冨岡 和人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−69284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00-9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸のジャーナル部を回転自在に支持するための、内燃機関のクランク軸用主軸受であって、前記ジャーナル部は、その内部に延びる潤滑油路と、その外周面上に形成された前記潤滑油路の入口開口とを有している主軸受において、
前記主軸受が一対の半円筒形軸受から構成され、前記半円筒形軸受のいずれか一方のみがその内周面に形成された油溝を有し、
前記油溝は、前記一方の半円筒形軸受の少なくとも円周方向中央部を通って円周方向に延び、且つ、軸線方向における該油溝の幅の中央が前記ジャーナル部の前記入口開口の中心と整合するように配置され、前記油溝の円周方向端部は、前記一方の半円筒形軸受の円周方向端面まで延びておらず、したがって該油溝の円周方向端部と該一方の半円筒形軸受の円周方向端面との間には前記内周面が延びて分離内周面を提供しており、
前記一方の半円筒形軸受の前記油溝が延びていない前記円周方向端面、およびこれに接合する他方の半円筒形軸受の円周方向端面が、軸線方向の全長に亘って延びる傾斜面を内周面側にそれぞれ有し、それによって前記一対の半円筒形軸受の接合部に軸線方向溝を形成し、該軸線方向溝と前記油溝の間には前記分離内周面が延びており、
前記主軸受の内周面からの前記軸線方向溝の深さが0.1〜1mmであり、
前記主軸受の内周面上における前記軸線方向溝の円周方向の幅が0.2〜2mmであり、また
前記分離内周面の円周方向長さL1が、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2より小さくなされており、したがって前記油溝は前記潤滑油路の入口開口を介して前記軸線方向溝と連通可能である
内燃機関のクランク軸用主軸受。
【請求項2】
前記分離内周面の円周方向長さL1と、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2とが以下の関係式:
L2−L1≧0.5mm
を満たす請求項1に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項3】
前記分離内周面の円周方向長さL1と、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2とが以下の関係式:
L1≧L2×0.3
を満たす請求項1または請求項2に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項4】
前記分離内周面の円周方向長さL1と、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2とが以下の関係式:
L1≧L2×0.6
を満たす請求項3に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項5】
前記主軸受の内周面からの前記軸線方向溝の深さが0.1〜0.5mmである請求項1に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項6】
前記油溝の両方の円周方向端部が、前記一方の半円筒形軸受のそれぞれの円周方向端面まで延びておらず、したがって該油溝の円周方向両側に前記分離内周面が提供される請求項1に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項7】
前記一対の半円筒形軸受の各円周方向端面に隣接する内周面側にクラッシュリリーフが形成されている請求項1に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項8】
前記一方の半円筒形軸受の円周方向中央側の前記クラッシュリリーフの端部が、前記油溝の円周方向端部より円周方向端面側に位置する請求項7に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項9】
前記ジャーナル部の外周面上における前記入口開口の面積が、前記ジャーナル部内の前記潤滑油路の断面積より大きく、したがって前記入口開口と前記潤滑油路の間には断面積が徐々に変化する流路遷移部分が形成されている請求項1に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項10】
前記ジャーナル部の外周面からの前記流路遷移部分の深さ寸法が1〜2mmである請求項9に記載のクランク軸用主軸受。
【請求項11】
請求項1に記載のクランク軸用主軸受と、該主軸受によって支持される前記ジャーナル部とから構成される軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸用主軸受に関するものであり、より詳細には、クランク軸のジャーナル部を内燃機関のシリンダブロック下部に支持するための主軸受に関するものである。さらに本発明は、そのような主軸受および対応する軸部から構成される軸受装置にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半円筒形軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支持される。この主軸受を潤滑するために、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロックの壁内に形成されたオイルギャラリーおよび主軸受の壁に形成された貫通口を通して、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。クランク軸には、第1潤滑油路がジャーナル部を直径方向に貫通形成されており、その両端開口で主軸受の潤滑油溝と連通する。さらに、第2潤滑油路が第1潤滑油路から分岐してクランクアーム部を通るように形成され、クランクピンの直径方向に貫通形成された第3潤滑油路と連通している。したがって、主軸受の潤滑油溝内に送り込まれた潤滑油は、第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を通り、その後、第3潤滑油路の端部開口(クランクピンの外周面上に形成される潤滑油出口)からクランクピンとコンロッド軸受の間の摺動面に供給される。
【0003】
主軸受の潤滑油溝は、一対の半円筒形軸受のうちの少なくとも一方の内周面に、その円周方向の全長に亘って形成される(特許文献1の
図1)。この場合、シリンダブロック内のオイルギャラリーから主軸受の潤滑油溝に供給された潤滑油は、ジャーナル部の回転にしたがって半円筒形軸受の円周方向端部まで主として流れ、その多くが、一対の半円筒形軸受の接合部に形成された軸線方向溝を通して軸受外部に排出される。
【0004】
さらに、近年では、内燃機関の低燃費化を目的とする潤滑油供給用オイルポンプの小型化に対応して、半円筒形軸受の円周方向端部からの潤滑油の漏れ量を減少させるために、潤滑油溝の円周方向長さが半円筒形軸受の円周方向全長よりも短く構成され、したがって潤滑油溝の円周方向両端部の少なくとも一方が半円筒形軸受の円周方向端部まで延びていない(軸線方向溝で開口していない)主軸受も用いられている(特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭61−00573号公報
【特許文献2】特開平04−219521号公報
【特許文献3】特開2005−249024号公報
【特許文献4】特開2011−179572号公報
【特許文献5】特開2008−095858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンダブロック内のオイルギャラリーから主軸受およびクランク軸の内部潤滑油路を経てコンロッド軸受に送られる潤滑油は、例えば各部品の加工の際に生じた残留異物を随伴する可能性がある。この異物は、ジャーナル部と主軸受の間の摺動面およびクランクピンとコンロッド軸受の間の摺動面に損傷を与える恐れがあり、したがって潤滑油の流れから速やかに外部に排出する必要がある。
【0007】
半円筒形軸受の円周方向の全長に亘って内周面に潤滑油溝が形成された従来の主軸受では、シリンダブロック内のオイルギャラリーから主軸受の潤滑油溝に供給された潤滑油は、半円筒形軸受の円周方向端部まで流れることができるので、潤滑油に付随する異物は、主軸受の軸線方向溝とジャーナル部とによって形成される隙間を通して軸受外部に排出されることができる。しかし、上述したように潤滑油供給用オイルポンプの小型化に対応して軸線方向溝からの潤滑油の漏れ量を減少させるために、潤滑油溝の円周方向両端部の少なくとも一方が軸線方向溝に達しないように構成された主軸受の場合、潤滑油のみならず異物もまた主軸受の潤滑油溝から排出され難くなり、潤滑油溝の円周方向端部付近に滞留しがちである。
【0008】
潤滑油溝の円周方向端部付近に滞留した異物は、ジャーナル部と主軸受の間の摺動面に損傷を引き起こす原因となる。さらにそれら異物は、ジャーナル部の外周面に形成された第1潤滑油路の入口開口が潤滑油溝の端部付近を通過する際にクランク軸内部の潤滑油路に進入し、クランクピンとコンロッド軸受の間の摺動面に送られ、そこでも損傷を引き起こす原因となる。結果として、潤滑油溝の円周方向両端部の少なくとも一方が軸線方向溝に達しないように構成された主軸受は、主軸受それ自体のみならずコンロッド軸受の寿命も低下させる。
【0009】
したがって本発明の目的は、油の漏れ量を低減しつつ優れた異物排出機能を有する主軸受、すなわち軸受内周面に形成された潤滑油溝の円周方向端部から軸線方向溝への潤滑油の流出を抑制しつつ、潤滑油溝の円周方向端部に異物が多量に滞留することを防ぐことが可能な主軸受を提供することである。本発明の他の目的は、そのような主軸受およびジャーナル部から構成される軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第一の観点によれば、以下の内燃機関のクランク軸用主軸受が提供される。
クランク軸のジャーナル部を回転自在に支持するための、内燃機関のクランク軸用主軸受であって、前記ジャーナル部は、その内部に延びる潤滑油路と、その外周面上に形成された前記潤滑油路の入口開口とを有している主軸受において、
前記主軸受が一対の半円筒形軸受から構成され、前記半円筒形軸受のいずれか一方のみがその内周面に形成された油溝を有し、
前記油溝は、前記一方の半円筒形軸受の少なくとも円周方向中央部を通って円周方向に延び、且つ、軸線方向における該油溝の幅の中央が前記ジャーナル部の前記入口開口の中心と整合するように配置され、前記油溝の円周方向端部は、前記一方の半円筒形軸受の円周方向端面まで延びておらず、したがって該油溝の円周方向端部と該一方の半円筒形軸受の円周方向端面との間には前記内周面が延びて分離内周面を提供しており、
前記一方の半円筒形軸受の前記油溝が延びていない前記円周方向端面、およびこれに接合する他方の半円筒形軸受の円周方向端面が、軸線方向の全長に亘って延びる傾斜面を内周面側にそれぞれ有し、それによって前記一対の半円筒形軸受の接合部に軸線方向溝を形成し、該軸線方向溝と前記油溝の間には前記分離内周面が延びており、また
前記分離内周面の円周方向長さL1が、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2より小さくなされており、したがって前記油溝は前記潤滑油路の入口開口を介して前記軸線方向溝と連通可能である
内燃機関のクランク軸用主軸受。
【0011】
本発明の一実施形態では、前記分離内周面の円周方向長さL1と、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2とが以下の関係式:
L2−L1≧0.5mm
を満たす。
【0012】
本発明の他の実施形態では、前記分離内周面の円周方向長さL1と、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2とが以下の関係式:
L1≧L2×0.3
を満たす。
より好ましくは、前記分離内周面の円周方向長さL1と、前記ジャーナル部の前記入口開口の円周方向長さL2とが以下の関係式:
L1≧L2×0.6
を満たす。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態では、前記主軸受の内周面からの前記軸線方向溝の深さが0.1〜1mmである。
より好ましくは、前記主軸受の内周面からの前記軸線方向溝の深さが0.1〜0.5mmである。
【0014】
本発明のさらに他の実施形態では、前記主軸受の内周面上における前記軸線方向油溝の円周方向の幅が0.2〜2mmである。
【0015】
本発明のさらに他の実施形態では、前記油溝の両方の円周方向端部が、前記一方の半円筒形軸受のそれぞれの円周方向端面まで延びておらず、したがって該油溝の円周方向両側に前記分離内周面が提供される。
【0016】
本発明のさらに他の実施形態では、前記一対の半円筒形軸受の各円周方向端面に隣接する内周面側にクラッシュリリーフが形成されている。
好ましくは、前記一方の半円筒形軸受の円周方向中央側の前記クラッシュリリーフの端部が、前記油溝の円周方向端部より円周方向端面側に位置する。
【0017】
本発明のさらに他の実施形態では、前記ジャーナル部の外周面上における前記入口開口の面積が、前記ジャーナル部内の前記潤滑油路の断面積より大きく、したがって前記入口開口と前記潤滑油路の間には断面積が徐々に変化する流路遷移部分が形成されている。
好ましくは、前記ジャーナル部の外周面からの前記流路遷移部分の深さ寸法が1〜2mmである。
【0018】
本発明の第二の観点によれば、上述した第一の観点によるクランク軸用主軸受と、該主軸受によって支持される前記ジャーナル部とから構成される軸受装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の構成とすることにより、主軸受の壁に形成された貫通口を通して潤滑油溝内に供給された潤滑油は、油溝の円周方向端部と軸線方向溝との間に延びる分離内周面によって主軸受の軸線方向溝からの流出を抑制される一方、潤滑油に付随する異物は、ジャーナル部の入口開口が分離内周面の上を通過する際に油溝と軸線方向溝とが連通することにより、主軸受の軸線方向溝から適切に排出されることができる。
【0020】
本発明の他の目的、特徴および利点は、添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部でそれぞれ截断した模式図。
【
図2】本発明の実施例1によるクランク軸用主軸受およびクランク軸の正面図。
【
図3】
図2に示す主軸受の上側の半円筒形軸受を軸受内周面側から見た平面図。
【
図4】
図2に示す主軸受の下側の半円筒形軸受を軸受内周面側から見た平面図。
【
図5】
図2に示す主軸受の接合部およびクランク軸の、軸線方向から見た拡大断面図。
【
図6】
図2に示す主軸受の接合部を軸受内周面側から見た図。
【
図8】
図2に示す主軸受の接合部およびクランク軸の他の例の、軸線方向から見た拡大断面図。
【
図9】
図2に示す主軸受の機能を説明するための、一方の接合部を軸線方向から見た拡大断面図。
【
図10】
図2に示す主軸受の機能を説明するための、一方の接合部を軸線方向から見た拡大断面図。
【
図11】
図2に示す主軸受の機能を説明するための、一方の接合部を軸受内周面側から見た図。
【
図12】
図2に示す主軸受の機能を説明するための、他方の接合部を軸線方向から見た拡大断面図。
【
図13】クラッシュリリーフを設けた場合の
図2に示す主軸受の接合部の軸線方向から見た拡大断面図。
【
図14】
図13に示す主軸受の接合部を軸受内周面側から見た図。
【
図15】
図13とは異なるクラッシュリリーフを設けた場合の
図2に示す主軸受の接合部の軸線方向から見た拡大断面図。
【
図16】本発明の実施例2によるクランク軸用主軸受の正面図。
【
図17】本発明の実施例3によるクランク軸用主軸受の正面図。
【実施例1】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0023】
図1は、内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部でそれぞれ截断した模式図であり、ジャーナル部10、クランクピン12およびコンロッド14を示す。これら三部材の紙面奥行き方向での位置関係として、ジャーナル部10が紙面の奥側に、クランクピン12が手前側にあり、このクランクピン12は、他端にピストンを担持するコンロッド14の大端部ハウジング16で包囲されている。
【0024】
ジャーナル部10は、一対の半円筒形軸受17、18から構成される主軸受19を介して、内燃機関のシリンダブロック下部(図示せず)に支持されている。図面で上側に位置する半円筒形軸受17にのみ、主軸受の両端近傍領域を除いて円周方向に延びる油溝17aが内周面に形成されている。ジャーナル部10はその直径方向に貫通孔(潤滑油路)10aを有し、ジャーナル部10が矢印X方向に回転すると、貫通孔10aの両端の入口開口が交互に油溝17aに連通する。尚、油溝は、上側および下側の半円筒形軸受17、18の両方に形成すると主軸受19からの潤滑油の漏れ量が増加してしまうため、本発明では、上側および下側の半円筒形軸受のいずれか一方にのみ形成する必要がある。
【0025】
ジャーナル部10、図示されないクランクアーム、およびクランクピン12を貫通して、貫通孔10aに連通する潤滑油路20がクランク軸内部に形成されている。
【0026】
クランクピン12は、一対の半円筒形軸受22a、22bから構成されるコンロッド軸受22を介して、コンロッド14の(コンロッド側大端部ハウジング16Aとキャップ側大端部ハウジング16Bから構成される)大端部ハウジング16に保持されている。
【0027】
図2〜
図7に、主軸受19を構成する一対の半円筒形軸受17、18の詳細を示す。紙面上側の半円筒形軸受17は、ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側円周方向端面17A、および後方側に配置される後方側円周方向端面17Bを有する。下側の半円筒形軸受18は、ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側円周方向端面18B、および後方側に配置される後方側円周方向端面18Aを有する。半円筒形軸受17の前方側円周方向端面17Aは半円筒形軸受18の後方側円周方向端面18Aと当接し、また半円筒形軸受18の前方側円周方向端面18Bは半円筒形軸受17の後方側円周方向端面17Bと当接し、それによって円筒形状の主軸受19を構成している。
【0028】
半円筒形軸受17の前方側円周方向端面17Aおよび後方側円周方向端面17Bは内周面側に軸線方向の全長に亘って面取りの態様で形成された傾斜面17C、17Dをそれぞれ有し、また半円筒形軸受18の前方側円周方向端面18Bおよび後方側円周方向端面18Aは内周面側に軸線方向の全長に亘って同様に形成された傾斜面18D、18Cをそれぞれ有し、それによって半円筒形軸受17、18の接合部には軸線方向溝24A、24Bが形成される。
【0029】
図2から理解されるように、半円筒形軸受17の内周面17Sに形成された油溝17aは円周方向中央部を含む領域で一定の深さを有し、円周方向端部近傍領域では端部に向かって次第に深さが減少している。油溝17aの円周方向両端部17E、17Fは傾斜面17Cおよび傾斜面17Dまでそれぞれ延びておらず、したがって端部17Eと傾斜面17Cの間、および端部17Fと傾斜面17Dの間には内周面17Sが延びている(
図3および5)。本明細書では、以下、油溝17aの円周方向端部17Eと傾斜面17Cを分離するように円周方向長さ(直線距離)L1に亘って延びるこの内周面17Sの部分を、分離内周部17S’(
図6の斜線部分)と称する。
【0030】
図3から理解されるように、油溝17aは半円筒形軸受17の軸線方向における幅の中央に配置される。油溝17aの底部には半円筒形軸受17を径方向に貫通する貫通口(図示せず)が形成され、潤滑油は、シリンダブロックの壁内のオイルギャラリーから、この貫通口を通して油溝17a内に供給される。潤滑油の一部はその後、ジャーナル部10の矢印X方向の回転にしたがって油溝17a内を回転方向前方へ流れ、潤滑油の他の一部は油溝17a内を回転方向と反対方向に流れる。半円筒形軸受17はまた、油溝17aの幅方向の中央がジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の中心と整合するように配置されているので(
図6は、
図5の回転位置にある入口開口26を破線で示す)、油溝17a内に供給された潤滑油は、入口開口26を通してコンロッド軸受22へとさらに流れることができる。ジャーナル部10内の潤滑油路10aの入口開口26の寸法は、内燃機関の仕様により異なるが、例えば乗用車用の小型内燃機関の場合、直径で5〜8mm程度である。
【0031】
入口開口26は、
図5では潤滑油路10aと同じ断面積を有するものとして記載している。しかし入口開口26は、加工の結果として
図8に示すように潤滑油路10aより大きい断面積を有していてもよく、またジャーナル部10の外周面上において円形または楕円形の開口形状を有していてもよい。入口開口26の断面積が潤滑油路10aの断面積より大きい場合、入口開口26と潤滑油路10aの間には断面積が油路方向に徐々に変化する流路遷移部分29が深さ1〜2mmまで形成される。いずれの場合も、入口開口26はジャーナル部10の外周面上における円周方向長さ(直線距離)L2を有している。
【0032】
油溝17aに供給される潤滑油に異物28が混入していると、異物28は潤滑油との比重差のために油溝17aの円周方向両端部のいずれかへ移動する(
図5)。従来のクランク軸用主軸受では、この異物が油溝の円周方向端部に滞留してジャーナル部と主軸受の間の摺動面に損傷を引き起こす原因となり、あるいはジャーナル部の入口開口が油溝の円周方向端部の上を通過する際に潤滑油路に潤滑油とともに流れ込み、クランクピンとコンロッド軸受の間の摺動面に損傷を引き起こす原因となっていた。しかし本発明の実施例によれば、分離内周部17S’の円周方向長さL1が入口開口26の円周方向長さL2よりも小さく形成され、したがってジャーナル部10の回転に伴って入口開口26が油溝17aの端部17E上を通過する際(
図9参照)に潤滑油路10aに進入した異物28は、入口開口26が分離内周面17S’の上に位置し、それにより油溝17aが入口開口26を介して軸線方向溝24Aと連通したとき(
図10参照)に軸線方向溝24Aへ排出される。
【0033】
より詳細には、油溝17aが入口開口26を介して軸線方向溝24Aと連通したとき、(1)ジャーナル部10の回転による遠心力F1、(2)油溝17a内と潤滑油路10a内の潤滑油の圧力勾配による流れF2、および(3)潤滑油路10a内と軸線方向溝24A内の潤滑油の圧力勾配による流れF3が、入口開口26付近にある潤滑油路10a内部の異物28および潤滑油に同時に作用し、潤滑油路10a内に進入した異物28を軸線方向溝24Aへ移動させるのに十分な潤滑油の流れが瞬間的に形成される。またこの瞬間、軸線方向溝24A内には主軸受19の軸線方向への流れも形成され、異物28の軸受外への排出を助ける(
図11)。
【0034】
その後、ジャーナル部10の回転とともに油溝17aと軸線方向溝24Aの間の連通は遮断され(例えば
図8参照)、軸線方向溝24A内の軸線方向の流れも減少するので、主軸受19からの潤滑油の流出が抑制される。
【0035】
さらに、本発明によれば、油溝17aの回転方向後方側端部17Fで油溝17aと軸線方向溝24Bが入口開口26を介して連通する瞬間にも、
図12に示すように上述した作用F1〜3が働くので、潤滑油の漏れ量を低減しつつ異物を排出することができる。
【0036】
本発明によれば、分離内周部17S’の円周方向長さL1は入口開口26の円周方向長さL2よりも小さいことが要求される。L1≧L2の場合、入口開口26が軸線方向溝24Aと連通を開始した時、入口開口26は油溝17aと既に連通しておらず、それゆえ
図10に示す油溝17aからの流れF2が生じないので、潤滑油路10aに進入した異物28を軸線方向溝24Aに押し流すことができなくなるからである。
【0037】
潤滑油路10aに進入した異物28を軸線方向溝24Aに押し出すのに十分な潤滑油の流れのために、分離内周部17S’の円周方向長さL1と入口開口26の円周方向長さL2とが、L2−L1≧0.5mmの関係を満たすことが好ましい。また油溝17aが軸線方向溝24Aと連通している際に過剰に潤滑油が流出することを防止するため、分離内周部17S’の円周方向長さL1と入口開口26の円周方向長さL2とは、L1≧L2×0.3の関係を満たしていることが好ましく、またL1≧L2×0.6の関係を満たしていることがより好ましい。これは、分離内周部17S’の円周方向長さL1が短すぎると、油溝17aと軸線方向溝24Aとが連通する時間が長くなり、油溝17aの端部17Eから軸線方向溝24Aに流れ込む油量すなわち漏れ量が増加し、したがってコンロッド軸受22へ送られる油量が減少するためである。
【0038】
主軸受19の内周面上における軸線方向溝24Aの円周方向長さ(直線距離)L3は0.2〜2mmとすることができ、また主軸受19の内周面からの軸線方向溝24Aの最大深さD1は0.1〜1mm、好ましくは0.1〜0.5mmとすることができる(
図7)。軸線方向溝24Aの円周方向長さL3および深さD1は、潤滑油に混入する異物のサイズ(一般には、最大0.1mm程度)に鑑みて、異物を排出可能な最小寸法としてもよい。
【0039】
上述したように入口開口26の断面積が潤滑油路10aの断面積より大きく、そして流路遷移部分29が少なくとも入口開口26の円周方向両側に形成されている場合、油溝17aと軸線方向溝24Aが連通したときに油溝17a内の潤滑油が流路遷移部分29の傾斜面によって誘導され潤滑油路10a内へ流れ易くなり、したがって異物28を軸線方向溝24Aに向けて押し流す円周方向の流れF2(
図10)を強めることができる。また入口開口26の回転方向前方側の傾斜面は、異物28が軸線方向溝24A内へ進入するのを助ける。
【0040】
本発明によるクランク軸用主軸受19は、半円筒形軸受17、18の接合部に隣接する軸受内周面にクラッシュリリーフ42、44を有していてもよい。クラッシュリリーフは、
図13および
図14に示すように、各半円筒形軸受17、18の円周方向端部領域において壁部の厚さを回転中心と同心である本来の内周面40(主要円弧)から半径方向に減じることによって形成される逃し空間42、44のことであり、これは、例えば一対の半円筒形軸受17、18をクランク軸10のジャーナル部19に組み付けた時に生じ得る半円筒形軸受の円周方向端面の位置ずれや変形を吸収するために形成される。したがってクラッシュリリーフ42が形成された領域Rでの軸受内周面17Sの曲率中心位置は、その他の領域における軸受内周面(主要円弧)の曲率中心位置と異なる(SAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497、セクション3.2、JIS D3102参照)。一般に、乗用車用の小型の内燃機関用軸受の場合、半割軸受の円周方向端面におけるクラッシュリリーフの深さ(本来の内周面から実際の内周面までの距離)は0.01〜0.05mm程度である。
【0041】
クラッシュリリーフ42は半円筒形軸受17の円周方向中央側に向かって徐々に深さを減少し、クラッシュリリーフ42が形成される領域を画定する端部42Aを軸受内周面17S上に形成するが、この端部42Aは
図13および
図14に示すように油溝17aの円周方向端部17Eより円周方向中央側に位置していてもよく、あるいは
図15に示すように油溝17aの円周方向端部17Eより円周方向端部側に位置していてもよい。これは、クラッシュリリーフ42の深さが油溝17aや軸線方向溝24Aの深さに比べて十分に小さいので、本来の内周面40と実際の内周面17S’との差異が異物の排出作用に影響しないからである。しかし、クラッシュリリーフ42の円周方向端部42Aが油溝17aの円周方向端部17Eの位置より円周方向中央側に位置している場合、分離内周部17S’とジャーナル部10の外周面との間に形成される隙間が僅かに増加するので、油溝17aから軸線方向溝24Aに流れる油量すなわち主軸受19からの漏れ量が若干増加する。したがって潤滑油の漏れ量を低減する観点から、クラッシュリリーフ42の端部42Aは
図15に示すように油溝17aの円周方向端部17Eより円周方向端部側に位置していることが好ましい。
【0042】
換言すれば、
図15に示されるクラッシュリリーフ42が形成された半円筒形軸受17の場合、ジャーナル部10の入口開口26が、油溝17aをクラッシュリリーフ42の形成された領域Rだけと連通させる円周方向長さL2を有していても異物は排出されず、油溝17aの端部に滞留する。これは、クラッシュリリーフ42は異物が進入するのに不十分な深さであるという上述した理由に加えて、入口開口26とクラッシュリリーフ42とが連通した初期段階において、潤滑油はクラッシュリリーフ42の特に容積の小さい部分に流れ込んでそこを充填するので、潤滑油路10aおよびクラッシュリリーフ42の差圧が小さくなり、圧力勾配による流れF3が発生し難いからである。したがって本発明によれば、入口開口26および分離内周面17S’は、油溝17aを軸線方向油溝24Aまたは24Bと連通するように寸法決めされることが必要である。
【実施例2】
【0043】
図16は、本発明の実施例2によるクランク軸用主軸受19’を示す。図面から理解されるように、軸線方向溝は、半円筒形軸受17’、18’の接合部のうち、紙面右側の接合部にのみ形成されており、また紙面上側の半円筒形軸受17’に形成された油溝17a’は、ジャーナル部の回転方向前方側にのみ上述した本発明の構成を有している。すなわち油溝17a’は回転方向前方側の端部に向かって次第に深さを減少させ、それによって回転方向前方側に分離内周面を形成しており、一方、円周方向中央部を含む領域から回転方向後方側の端部にかけては一定の深さを維持し、それによって半円筒形軸受17’の円周方向端面まで延びている。
【実施例3】
【0044】
図17は、本発明の実施例3によるクランク軸用主軸受19”を示す。図面から理解されるように、軸線方向溝は、半円筒形軸受17”、18”の接合部のうち、紙面左側の接合部にのみ形成されており、また紙面上側の半円筒形軸受17”に形成された油溝17a”は、ジャーナル部の回転方向後方側にのみ上述した本発明の構成を有している。すなわち油溝17a”は、半円筒形軸受17”の回転方向前方側端面から回転方向後方側の端部に向かって次第に深さを減少させるように円周方向に延び、それによって回転方向後方側にのみ分離内周面を形成している。
【0045】
上記記載は実施例についてなされたが、本発明はそれに限らず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更および修正をすることができることは当業者に明らかである。例えば、上記実施例では油溝は上側の半円筒形軸受に形成されているが、下側の半円筒形軸受にのみ形成されてもよい。また油溝は、深さが半円筒形軸受の円周方向中央部で最大で、半円筒形軸受の円周方向の両端部に向かって次第に減少するよう形成されてもよく、油溝の長手方向に垂直な断面形状は、矩形の他に、半円形形状、三角形形状など任意の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 ジャーナル部
10a 貫通孔(潤滑油路)
12 クランクピン
14 コンロッド
16 大端部ハウジング
16A コンロッド側大端部ハウジング
16B キャップ側大端部ハウジング
17 半円筒形軸受
17a 油溝
17A 前方側円周方向端面
17B 後方側円周方向端面
17C、17D 傾斜面
17E、17F 油溝17aの円周方向両端部
17S 内周面
17S’ 分離内周部
18 半円筒形軸受
18A 後方側円周方向端面
18B 前方側円周方向端面
18D、18C 傾斜面
19 主軸受
20 潤滑油路
22 コンロッド軸受
22a 半円筒形軸受
22b 半円筒形軸受
24A、24B 軸線方向溝
26 入口開口
28 異物
29 流路遷移部分
42、44 クラッシュリリーフまたは逃し空間
42A 端部