(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸は、一般的に、気相接触酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮塔または捕集塔に導いて粗(メタ)アクリル酸溶液とし、さらに精製することにより製造される。かかる精製方法としては、蒸留や放散、抽出などの他に晶析が用いられる。
【0003】
晶析は、単に粗(メタ)アクリル酸溶液を冷却することにより行うこともあるが、工業的な大量生産においては、反対側が冷媒と接触している伝熱面上で被膜状の粗(メタ)アクリル酸溶液を流下させて冷却する動的結晶化が主に用いられる。
【0004】
かかる動的結晶化を行うための晶析装置としては様々なものがある。例えば、晶析管を有し、当該晶析管の外側を熱媒が流れ、且つ粗(メタ)アクリル酸溶液が晶析管に繰り返し循環供給されるようになっているものがある。かかる晶析装置においては、通常、直径の細い晶析管が多数備えられている。直径を細くすることにより伝熱面の表面積を大きなものとし、熱媒の熱を粗(メタ)アクリル酸溶液へ効率的に伝えるためである。
【0005】
しかし、細長い晶析管の伝熱面で結晶を均一に成長させることは容易ではなく、特に晶析管の下部で結晶が偏析し、ついには晶析管が完全閉塞する場合がある。晶析管が完全に閉塞すると、閉塞した箇所から上部には粗(メタ)アクリル酸溶液が残存する。得られた(メタ)アクリル酸結晶は、発汗工程と融解工程を経て融解液として得られるが、その際に残存した粗(メタ)アクリル酸溶液が混入するので、(メタ)アクリル酸の純度が低下するという問題がある。さらには、閉塞による系内の圧力上昇が顕著である場合には、晶析装置から(メタ)アクリル酸の漏れが発生する場合もある。
【0006】
ところで特許文献1には、(メタ)アクリル酸を製造する技術であって、接触気相酸化反応により得られたガスの熱を熱交換器により回収してから吸収塔へ導入して粗(メタ)アクリル酸溶液を得るに当たり、熱交換器が閉塞して反応器における圧力が上昇した場合にはガスを熱交換器に通さずバイパスから吸収塔へ導入する技術が開示されている。しかし、反応器における圧力上昇の問題と晶析装置における閉塞の問題は全く異なるものであり、また、当該技術では熱交換器での閉塞を抑制できないという問題が残る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、本発明に係る晶析装置につき説明する。
【0016】
本発明の晶析装置は、所定量の粗(メタ)アクリル酸溶液を導入し、循環させつつ晶析管の内壁に被膜状に流下させながら動的晶析を行うための回分式のものである。より具体的には、特開2005−15478号公報に記載されている回分式の晶析装置や、Sulzer Chemtech社(スイス)の層結晶化装置などを用いることができる。
【0017】
晶析管は、ステンレス鋼や銅など(メタ)アクリル酸などに対する耐食性と伝熱性に優れた材質よりなり、熱媒の冷熱または温熱が伝熱面を介して粗(メタ)アクリル酸へ効率的に伝わるように工夫されている。一般的には、直径50mm以上、100mm以下程度、長さ5m以上、25m以下程度と比較的細く長い管であり、表面積が大きいものとなっている。
【0018】
晶析管の本数は、晶析装置の規模や製造規模などにもよるが、工業的な大量生産においては、1000本以上、2000本以下程度とすることが好ましい。
【0019】
晶析装置において、粗(メタ)アクリル酸溶液の供給部は、粗溶液を晶析管へ極力均等に供給できるように構成することが好ましい。
【0020】
晶析装置には、熱媒の供給管と排出管を設け、晶析管の外壁部へ熱媒を供給し、熱媒の冷熱または温熱を晶析管内壁の粗(メタ)アクリル酸溶液に付与する。
【0021】
晶析装置には貯留部を設け、供給部から晶析管を経た粗(メタ)アクリル酸溶液をいったん貯留した後、循環供給管により当該貯留部から粗溶液を抜き出して再び供給部へ供給することにより循環させる。粗(メタ)アクリル酸溶液を供給部へ循環供給するためのポンプは、循環供給管のうち最も低位置の部分に設置することが好ましい。
【0022】
本発明の晶析装置は、上記循環供給管に圧力計を設置する。圧力計としては、ブルドン管圧力計、ベローズ式圧力計、ダイアフラム式圧力計などがあり、これらの中ではダイアフラム式圧力計が好適である。
【0023】
圧力計の設置箇所は適宜調整すればよいが、可能であれば、晶析装置内の粗(メタ)アクリル酸供給部における圧力を反映できるように、循環供給管のうち最も高位置の部分、または最も高位置の部分から晶析装置にかけての部分に設置することが好ましい。
【0024】
上記晶析装置においては、上記圧力計の測定圧力値に基づいて循環供給する粗(メタ)アクリル酸溶液の量を制御する手段を有するものが好ましい。かかる晶析装置であれば、後述する本発明に係る(メタ)アクリル酸の晶析方法の実施を容易にできる。当該手段としては、例えば、通過溶液量を制御できるバルブや、吐出量を制御できるポンプを挙げることができる。
【0025】
次に、本発明に係る(メタ)アクリル酸の晶析方法を、
図1に従って説明する。
【0026】
晶析の原料である粗(メタ)アクリル酸溶液は、目的化合物である(メタ)アクリル酸に加えて不純物を含むものであれば、特に制限されない。例えば、接触気相酸化反応により得られた(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集液に接触させるか或いは凝縮することにより得られる粗(メタ)アクリル酸溶液や、さらに当該粗(メタ)アクリル酸溶液からアクロレインなどの低沸点不純物を留去したものを挙げることができる。
【0027】
また、より高純度の(メタ)アクリル酸を得るために、いったん晶析精製した(メタ)アクリル酸を溶融した上で粗(メタ)アクリル酸溶液の代わりに晶析装置へ供給し、晶析精製を2回以上繰り返してもよい。
【0028】
接触気相酸化反応を経て得られる粗(メタ)アクリル酸溶液は高温であり、また、本発明では連続式ではなく回分式で(メタ)アクリル酸を晶析精製する。よって、粗(メタ)アクリル酸溶液はいったんタンク10に貯蔵することが好ましい。
【0029】
晶析を行うに当たり、粗(メタ)アクリル酸溶液の温度が高い場合は、熱交換器11で熱を回収して利用することが好ましい。粗(メタ)アクリル酸溶液を晶析装置1へ供給する前に熱を回収するか否かは、バルブ12およびバルブ14により容易に決定することができる。
【0030】
粗(メタ)アクリル酸溶液の晶析装置1への供給量は、晶析装置1の規模などに応じて決定すればよい。粗(メタ)アクリル酸溶液は、通常、晶析装置1の粗(メタ)アクリル酸溶液供給部15から貯留部16へ供給する。
【0031】
次に、バルブ5を閉め且つバルブ7を開けた状態でポンプ6を用い、供給された粗(メタ)アクリル酸溶液を循環供給管8により晶析装置1の(メタ)アクリル酸溶液循環供給部17へ循環供給し、晶析を開始する。
【0032】
結晶化においては、冷熱媒を循環させることにより、循環供給管8を経て晶析装置1へ循環供給される粗(メタ)アクリル酸溶液を冷却し、晶析管2の内表面に(メタ)アクリル酸を結晶化させる。この際、循環供給管8上に設けた圧力計9により管内圧力を常に監視し、測定圧力値に応じて粗(メタ)アクリル酸溶液の循環量を調整し、循環供給管8内の圧力を所定範囲に保つ。
【0033】
粗(メタ)アクリル酸溶液の循環流量に関しては、適切な循環流量は晶析装置の規模などにより異なるので、適宜調整すればよい。通常は、循環供給管に設置した圧力計9による測定圧力値が0.01MPa以上となるように循環流量を調整する。当該圧力値が0.01MPa以上であれば、晶析効率が過度に低下することもなく良好な晶析が可能となる。一方、上限は特に制限されないが、通常、循環供給管における圧力値が0.5MPa以下となるように循環流量を調整することが好ましい。なお、本発明における循環供給管の圧力とは、大気圧を除いた圧力、即ちゲージ圧をいう。
【0034】
上述したとおり、晶析管の伝熱面で結晶を均一に成長させることは容易ではなく、特に晶析管2の下部で結晶の偏析が起こりがちである。結晶が偏析して粗(メタ)アクリル酸溶液が通過し難くなると、循環供給管8に設けた圧力計9で測定される圧力値が高くなる。本発明では、当該測定圧力値が基準値を超えた場合、粗(メタ)アクリル酸溶液の循環流量を低減し、晶析管2の上部における結晶化を進めると共に下部における結晶化を抑制し、晶析管の完全閉塞を抑制する。結果として、晶析管における結晶化が均一に進行し易くなり、また、晶析管における粗(メタ)アクリル酸溶液の残留も無くなるので、より高純度の結晶が得られることとなる。
【0035】
より具体的には、本発明の晶析方法では、測定圧力値の最大値と最小値の差が当該最小値の100%以内、より好ましくは50%以内となるように粗(メタ)アクリル酸溶液の循環流量を調整する。循環供給管における圧力の変化が当該範囲内であれば、より確実に(メタ)アクリル酸の晶析精製を安定的に行うことが可能になり、得られる(メタ)アクリル酸の純度をより一層向上させることができる。なお、本発明方法における測定圧力値の最小値とは、粗(メタ)アクリル酸溶液の循環供給開始後、当該循環供給量が設定値に最初に達した時点の測定圧力値をいう。粗(メタ)アクリル酸溶液の循環供給量が設定値に達した後、循環供給を継続すると、晶析管における(メタ)アクリル酸の結晶化が進むにつれ徐々に上昇する。よって、この態様においては、測定圧力値が最小値、即ち初期値の100%、より好ましくは50%を超えそうになった場合に粗(メタ)アクリル酸の循環流量を低減し、測定圧力値が上記範囲内となるように調整する。
【0036】
循環供給管における圧力を調節する手段は、適宜選択することができる。例えば、循環供給管のバルブ7として、単なる開閉、即ち溶液の循環供給を止めるか或いはポンプの吐出量に応じた量を通過させることしかできないものではなく、開閉程度を段階的または連続的に調整でき、通過溶液量を制御できるものを用いることが考えられる。また、循環供給のためのポンプ6として、吐出量を制御できるポンプを用いてもよい。本発明方法では、これら調節手段などにより、循環供給管における測定圧力値が規定範囲を超えた場合には、例えばバルブの開度を絞ったり、ポンプの吐出量を低減するなどして、圧力を規定範囲内に調節する。逆に、測定圧力値が規定範囲未満となった場合には、例えば、バルブの開度やポンプの吐出量を上げればよい。
【0037】
次に、(メタ)アクリル酸結晶の純度を高めるため、晶析装置1に供給する熱媒を冷熱媒から温熱媒に切り替え、晶析管2内の(メタ)アクリル酸結晶の表面を部分融解する発汗工程を行うことが好ましい。
【0038】
結晶化工程においては、(メタ)アクリル酸の結晶化が進行するにつれて溶液中に存在する不純物の量が相対的に増えるため、(メタ)アクリル酸結晶の表面には不純物が付着する場合がある。そこで、(メタ)アクリル酸結晶の表面を部分的に融解し、融解部分を排出することにより、結晶の純度を高めることが可能になる。かかる部分的な融解処理を発汗工程という。
【0039】
上記結晶化工程の母液は、晶析装置1の下部の貯留部16に貯留されている。また、発汗工程で得られた部分融解液も、貯留部16にたまることになる。これら母液と部分融解液は、バルブ5を通じて移送される。
【0040】
次に、結晶の融解工程を行う。具体的には、熱媒を比較的温度の高いものに切り替えて晶析管内の結晶を融解し、晶析管2から得られた融解液を循環供給管8により晶析装置1の(メタ)アクリル酸溶液循環供給部17へ循環供給し、晶析管2内の(メタ)アクリル酸結晶上を流下させることにより、融解を促進する。
【0041】
融解工程においては、晶析装置1の貯留部16に重合防止剤またはその濃厚溶液を投入しておいてもよい。得られる(メタ)アクリル酸の融解液は高濃度である上に、融解工程では加熱されるため二量体などの不純物が生成するおそれがあるが、重合防止剤の使用によりかかる不純物を抑制することができる。
【0042】
重合防止剤の種類は特に制限されないが、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−1−オキシルなどのN−オキシル化合物;p−メトキシフェノールなどのフェノール化合物;酢酸マンガンなどのマンガン塩化合物;ジブチルジチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸塩化合物;ニトロソ化合物;アミン化合物;フェノチアジン化合物などを挙げることができる。上記のうち、N−オキシル化合物、フェノール化合物およびマンガン塩化合物よりなる群から選択される一種以上の重合開始剤を用いた場合には、色調がより優れた十分に高品質の(メタ)アクリル酸を得ることができる。なお、重合開始剤は、一種のみ用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0043】
重合防止剤の濃厚溶液を用いる場合における溶媒としては、(メタ)アクリル酸、水、酢酸などを用いることができ、好適には(メタ)アクリル酸を用いる。
【0044】
得られた(メタ)アクリル酸融解液は、純度をさらに高めるため、さらに結晶化工程、発汗工程および融解工程を繰り返してもよい。高純度の(メタ)アクリル酸を得るには、かかる晶析精製を3回以上、5回以下程度繰り返すのが一般的である。
【0045】
得られた高純度の(メタ)アクリル酸融解液は、バルブ5を通じて移送される。
【0046】
従来、(メタ)アクリル酸を回分式で晶析精製する場合には、予め定められた量の粗(メタ)アクリル酸溶液を晶析装置へ導入し、当該溶液を特別な制御をすることなく循環供給するのみであり、晶析管の上部から下部にかけての結晶の偏在や晶析管の閉塞などを把握したり、或いはこれらを予防するための手段は講じられていなかった。そのため、長期にわたる晶析精製では、得られる(メタ)アクリル酸の純度が低下するなど、安定した品質の製品を得ることができなかった。また、閉塞による系内の圧力上昇が顕著である場合には、粗溶液の漏れが発生し、晶析操作をいったん停止しなければならないなど、生産性に悪影響が及ぼされることもあった。
【0047】
それに対して、本発明の晶析装置を用い、また、本発明に係る晶析方法に従えば、従来技術に比して、粗溶液の漏れを伴うことなく、粗(メタ)アクリル酸溶液の混入が抑制されている高純度な(メタ)アクリル酸を製造することができる。また、所定の純度の(メタ)アクリル酸を得るための晶析回数を低減できるなど、効率的な製造が可能になる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
実施例1
(1) 粗アクリル酸溶液の製造
反応器内でプロピレンを接触気相酸化反応に付し、得られた反応ガスを捕集塔に導入し、捕集液と接触させ、捕集塔の塔底より粗アクリル酸溶液を得た。得られた粗アクリル酸溶液を分析したところ、アクリル酸90.0質量%、水3.2質量%、酢酸1.9質量%、マレイン酸0.6質量%、アクリル酸二量体1.5質量%、フルフラール0.07質量%、ベンズアルデヒド0.27質量%、ホルムアルデヒド0.06質量%、ハイドロキノン0.1質量%、その他の不純物2.3質量%を含んでいた。なお、このときの捕集塔塔底液の温度、即ち捕集塔より取り出される粗アクリル酸溶液の温度は91℃であった。得られた粗アクリル酸溶液を、
図1に模式的に示す晶析システムを用いて晶析精製した。但し、使用した晶析システムの規模は実験室レベルのものであり、晶析装置内における晶析管の本数は3本である。
【0050】
粗アクリル酸溶液の温度を熱交換器11により結晶化開始温度の±5℃以内に調節した後、晶析装置1の貯留部16へ供給した。晶析装置1は、より具体的には、粗アクリル酸溶液を循環ポンプ6により循環供給管8を通じて貯留部16から循環供給部17へ循環供給できるようになっている。晶析管2は、長さ6m、内径70mmの金属管である。上部に供給された粗アクリル酸溶液は、晶析管2の内壁を被膜状に流下する。晶析管2の表面は二重ジャケットから構成され、熱媒供給部3から供給され熱媒排出部4から排出される熱媒により温度制御される。晶析管2を経た粗アクリル酸は、貯留部16でいったん貯留されてから連続的に循環供給部17へ循環供給される。
【0051】
(2) 結晶化工程
上記晶析装置1への冷熱媒の供給を開始した後、粗アクリル酸溶液の循環供給を開始した。貯留部16における粗アクリル酸溶液量から晶析管2の内壁に晶析した結晶の量を推定し、原料粗アクリル酸溶液に含まれる粗アクリル酸の約60〜90質量%が結晶化するまで循環を継続した。
【0052】
この際、循環供給管8のうち最も高い位置に設けた圧力計9により管内圧力を常に監視し、通過溶液量を制御できるバルブ7の開度を30〜40%の間で変化させることにより粗アクリル酸溶液の循環供給量を調整し、循環供給管8の圧力を0.10MPa以上、0.14MPa以下の範囲に維持した。この場合、測定圧力値の最大値と最小値の差は、当該最小値の50%以内の0.04MPaである。
【0053】
(3) 発汗工程
次いで、循環ポンプ6を停止させ、熱媒温度を粗アクリル酸溶液の凝固点付近まで上昇させることにより、結晶の約2〜5質量%を発汗させた。発汗量は、貯留部16における粗アクリル酸溶液の増分から推定した。その後、バルブ5を開け、結晶化工程の母液と部分融解液を母液タンクへ移送した。
【0054】
(4) 融解工程
熱媒の温度を37℃に上げ、晶析管内壁表面の結晶を融解した。融解液は晶析装置1の循環供給部17に循環供給し、晶析管2内のアクリル酸結晶上を流下させた。結晶が完全に融解した後、ポンプ6を停止させ且つバルブ7を閉め、アクリル酸融解液を晶析装置1の貯留部16にためた。
【0055】
(5) 結晶化工程から融解工程の反復
上記(2)〜(4)の結晶化工程から融解工程を繰り返し、晶析精製を計4回行った。
【0056】
但し、第3回目および第4回目の融解工程においては、重合防止剤であるp−メトキシフェノールの5質量%アクリル酸溶液を晶析装置1の貯留部16に投入した。
【0057】
得られた精製アクリル酸を分析したところ、アクリル酸の純度は99.94質量%であり、その他に、水92質量ppm、酢酸440質量ppm、マレイン酸2質量ppm、アクリル酸二量体45質量ppm、フルフラール0.2質量ppm、ベンズアルデヒド0.1質量ppmを含み、ホルムアルデヒドは検出されなかった。また、以上を通じての製造効率は10.02kg/時であった。
【0058】
実施例2
結晶化工程において、循環供給管8の圧力を0.10MPa以上、0.16MPa以下の範囲に維持した以外は上記実施例1と同様にして、アクリル酸を製造した。この場合、測定圧力値の最大値と最小値の差は、当該最小値の100%以内の0.06MPaである。
【0059】
得られた精製アクリル酸を分析したところ、アクリル酸の純度は99.89質量%であり、その他に、水153質量ppm、酢酸710質量ppm、マレイン酸4質量ppm、アクリル酸二量体100質量ppm、フルフラール0.5質量ppm、ベンズアルデヒド0.4質量ppmを含み、ホルムアルデヒドは検出されなかった。また、以上を通じての製造効率は9.98kg/時であった。
【0060】
比較例1
結晶化工程において、バルブ7の開度を40%に固定し、循環供給管8上に設けた圧力計9の測定圧力値に応じた圧力調整を行わなかった以外は上記実施例1と同様にして、アクリル酸を製造した。この際における測定圧力値は、0.21MPaまで上昇した。この場合、測定圧力値の最大値と最小値の差は0.11MPaであり、当該最小値の100%である0.10MPaを超えている。
【0061】
得られた精製アクリル酸を分析したところ、アクリル酸の純度は99.86質量%であり、その他に、水171質量ppm、酢酸860質量ppm、マレイン酸5質量ppm、アクリル酸二量体120質量ppm、フルフラール0.7質量ppm、ベンズアルデヒド0.6質量ppmを含み、ホルムアルデヒドは検出されなかった。また、以上を通じての製造効率は9.98kg/時であった。さらに、上記の条件では、晶析精製途中に晶析装置から粗アクリル酸溶液の漏れが認められるという問題が生じた。
【0062】
以上のとおり、結晶化工程において、晶析装置の循環供給管の圧力に応じて(メタ)アクリル酸溶液の循環供給量の調整を行わなかった場合には、得られる(メタ)アクリル酸の純度が低下し、また、晶析装置から粗(メタ)アクリル酸溶液の漏れが発生することが明らかとなった。
【0063】
それに対して、当該圧力に応じて循環供給量を調整し、当該圧力を所定範囲に維持した場合には、得られる(メタ)アクリル酸の純度は高いものとなった。また、当該圧力をより好ましい範囲に維持した場合(実施例1)には、得られる(メタ)アクリル酸の純度はより高いものとなった。
【0064】
従って、本発明によれば、より高純度の(メタ)アクリル酸が得られることが実証された。