特許第5722785号(P5722785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5722785チオール基改変酵素阻害剤及びピリオン化合物を含んでなる殺生物性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722785
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】チオール基改変酵素阻害剤及びピリオン化合物を含んでなる殺生物性組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 47/04 20060101AFI20150507BHJP
   A01N 55/02 20060101ALI20150507BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20150507BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20150507BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20150507BHJP
   A01P 15/00 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   A01N47/04
   A01N55/02 B
   A01N43/40 101Q
   A01N43/40 101L
   A01P1/00
   A01P3/00
   A01P15/00
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-537976(P2011-537976)
(86)(22)【出願日】2009年11月26日
(65)【公表番号】特表2012-509924(P2012-509924A)
(43)【公表日】2012年4月26日
(86)【国際出願番号】EP2009065874
(87)【国際公開番号】WO2010060948
(87)【国際公開日】20100603
【審査請求日】2012年9月14日
(31)【優先権主張番号】08170087.4
(32)【優先日】2008年11月27日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390033008
【氏名又は名称】ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボセラール,ジヤン・ピーター・ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】バイルマン,ダニ・レオポルト・ジヨゼフイアン
(72)【発明者】
【氏名】ケンペン,トニ・マチルド・ジヨゼフ
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−057304(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/037932(WO,A1)
【文献】 特開2007−099773(JP,A)
【文献】 特開平08−092012(JP,A)
【文献】 特開2005−154965(JP,A)
【文献】 特開昭53−115821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00−65/48
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(I)及び成分(II)の組み合わせ物を、それぞれの割合で含んでなる汚染生物に対する相乗的効果を与えるための組成物であって、
成分(I)はジクロフルアニド、トリルフルアニド及びジネブから選ばれるチオール基改変酵素阻害剤であり;そして
成分(II)は1−ヒドロキシ−2−ピリジノン、ピリオン ジスルフィド及びナトリウム ピリチオンから選ばれるピリオン化合物であり;
かつ、成分(I)対成分(II)の重量による比が10:1〜1:10の範囲であるが、
但し、成分(I)としてのジクロフルアニド又はトリルフルアニド及び成分(II)としての1−ヒドロキシ−2−ピリジノン又はナトリウム ピリチオンの組み合わせ物を除く、組成物。
【請求項2】
成分(I)がジクロフルアニド、トリルフルアニドから選ばれる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分(I)がネブである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
成分(I)対成分(II)の重量による比が4:1〜1:4の範囲である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
成分(I)対成分(II)の重量による比が2:1〜1:2の範囲である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
成分(I)の量が10mg/l〜50g/lの範囲内で存在し、そして成分(II)の量が10mg/l〜50g/lの範囲内で存在する請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の汚染生物の抑制のための使用。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の防汚有効量を投与又は適用することを含んでなる汚染生物に対する材料の保護方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の防汚有効量を加えることによる、バラスト水の殺菌方法。
【請求項10】
成分(I)及び成分(II)を互いに緊密に混合することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の相乗性組成物の調製方法。
【請求項11】
(a)成分(I)としてジクロフルアニド、トリルフルアニド及びジネブから選ばれるチオール基改変酵素阻害剤を含んでなる組成物ならびに
(b)成分(II)として1−ヒドロキシ−2−ピリジノン、ピリオン ジスルフィド及びナトリウム ピリチオンから選ばれるピリオン化合物を含んでなる組成物
を、同時もしくは逐次的使用のための組み合わせ物として含有する製品であって、ここで該組成物(a)及び(b)は汚染生物に対する相乗的効果を与えるためのそれぞれの割合で存在し、かつ、成分(I)対成分(II)の重量による比が10:1〜1:10の範囲であるが、
但し、成分(I)としてのジクロフルアニド又はトリルフルアニド及び成分(II)としての1−ヒドロキシ−2−ピリジノン又はナトリウム ピリチオンの組み合わせ物は除く、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオール基改変酵素阻害剤(thiol group modulating enzyme inhibitor)及びピリオン(pyrion)化合物の組み合わせに関し、それは汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対する向上した保護効果を与える。さらに特定的に、本発明は、1−ヒドロキシ−2−ピリジノン、シクロピロクス(ciclopirox)、シクロピロクス オラミン(ciclopirox olamine)、ピロクトン(piroctone)、ピロクトン オラミン(piroctone olamine)、リロピロクス(rilopirox)、ピリオン ジスルフィド、ナトリウム ピリチオン(sodium pyrithione)及び亜鉛 ピリチオンから選ばれるピリオン化合物と一緒に、ジクロフルアニド(dichlofluanid)、トリルフルアニド(tolylfluanid)、ジタン(dithane)、チラム(thiram)、ジラム(ziram)又はジネブ(zineb)から選ばれるチオール基改変酵素阻害剤を、汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対する相乗的効果を与えるそれぞれの割合で組み合わせて含んでなる組成物ならびに汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対して材料を保護するためのこれらの組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ニトリル、ピリジン、ハロアルキルチオ、有機ヨウ素及びチアゾール型抗微生物剤(antimicrobial agents)を含んでなる抗微生物性組成物を開示している。ピリジン型抗微生物剤は、ピリジンチオール−1−オキシド化合物、例えばナトリウム ピリチオンを含み、ハロアルキルチオ型抗微生物剤はハロアルキルチオスルファミド化合物、例えばジクロフルアニドを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本特許第08−092012号明細書
【発明の概要】
【0004】
今回、ジクロフルアニド、トリルフルアニド、ジタン、チラム、ジラム又はジネブから選ばれるチオール基改変酵素阻害剤(以下、成分Iと称する)ならびに1−ヒドロキシ−2−ピリジノン、シクロピロクス、シクロピロクス オラミン、ピロクトン、ピロクトン
オラミン、リロピロクス、ピリオン ジスルフィド、ナトリウム ピリチオン及び亜鉛
ピリチオンから選ばれるピリオン化合物(以下、成分IIと称する)の組み合わせが、汚染生物、菌・カビ又はバクテリアの抑制に相乗的効果を有することが見出され、但し、成分(I)としてのジクロフルアニド及び成分(II)としてのナトリウム ピリチオンの組み合わせは除く。本明細書で用いられる場合、「抑制」(“control”)は、物体の表面への汚染生物、菌・カビ又はバクテリアの付着又は沈着の防止、物体の表面に付着している該生物の除去ならびに該生物の成長の防止を含むと定義される。
【0005】
チオール基改変酵素阻害剤、成分(I)は以下である:
●ジクロフルアニド(成分I−a)は広範囲の抗微生物活性を有し、木材コーティング及びプライマー中の木材−汚損性菌・カビに対して用いられる。それは化合物、1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−フェニル−メタンスルフェンアミドの一般的名称であり、式
【0006】
【化1】
【0007】
により示すことができる。
●トリルフルアニド(成分I−b)はジクロフルアニドと類似の活性を有するが、有機溶剤中により溶解性であり、従ってコーティング調製物及び含浸剤中への導入がより容易である。それは化合物、1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)−メタンスルフェンアミドの一般的名称であり、式
【0008】
【化2】
【0009】
により示すことができる。
●ジタン(成分I−c)(CAS 142−59−6)は、化合物、N,N’−1,2−エタンジイルビス−カルバモジチオ酸、ナトリウム塩(1:2)の一般的名称であり、式
【0010】
【化3】
【0011】
により示すことができる。
●チラム(成分I−d)(CAS 137−26−8)は、化合物、N,N,N’,N’−テトラメチル−チオペルオキシジカルボニックジアミドの一般的名称であり、式
【0012】
【化4】
【0013】
により示すことができる。
●ジラム(成分I−e)(CAS 137−30−4)は、化合物、ビス(ジメチルカルバモジチオエート−S,S’)−亜鉛の一般的名称であり、式
【0014】
【化5】
【0015】
により示すことができる。
●ジネブ(成分I−f)(CAS 12122−67−7)は、化合物、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)の一般的名称であり、式
【0016】
【化6】
【0017】
により示すことができる。
【0018】
ヒドロキシピリドン(II)は以下の構造を有する:
【0019】
【表1】
【0020】
1−ヒドロキシ−2−ピリジノン、成分(II−a)及び亜鉛 ピリチオン(II−i)は抗真菌剤であり、ふけ防止シャンプー中で用いられ得る。
【0021】
湿った又は水性の環境に曝される表面又は物体には、藻類、菌・カビ、バクテリア、微生物のような水生生物ならびに例えば被膜類、ヒドロ虫、二枚貝、こけむし類、多毛虫、海綿動物、ふじつぼ及び軟体動物のような水生動物が容易に群体を形成する。これらの生物は該表面上に沈着するか又はそれに付着するので、曝される物体の価値は落ちる。該生物の付着又は沈着は、構造の「汚染」としても知られている。物体の外部、しかしおそら
く内部も、質が低下し得、表面は例えば平滑、清浄及び流線形からでこぼこ、不潔及び撹乱に変化し、物体の重量は生物及びそれらの残存物の沈積により増加し、物体の近傍は塞がるか又は邪魔され得る。物体及び含まれるシステムの機能は低下し、水性環境の質は低下する。汚染生物の付着を抑制する通常の方法は、保護されるべき構造に防汚剤を含んでなる組成物をコーティングすることによる。
【0022】
本発明において特許請求される組み合わせは、水と常に接触しているか、又は頻繁に接触する表面又は物体を、汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対する相乗的効果を与えるそれぞれの割合において成分(I)及び成分(II)を含んでなる組成物を該表面又は物体に適用することにより、汚染又は藻類の付着もしくは沈着から保護するのに特に適している。
【0023】
該表面又は物体の例は、例えば船体、港設備、桟橋及び杭、乾ドック、水門、泊渠、係留マスト、ブイ、沖合油田設備(offshore oil rigging equipment)、掘削プラットフォーム、橋、パイプライン、魚網、ケーブル、バラスト水タンク、襲った大量の水(infested bodies of water)から水を汲み上げる船の貯水槽、レクリエーション設備、例えばサーフボード、ジェットスキー及びウォータースキーならびに水と常に接触しているか又は頻繁に接触する他の物体である。
【0024】
本発明は、水と頻繁に接触するか又は常に接触している材料、特に表面又は物体を、成分(II)と一緒の成分(I)の組み合わせの有効防汚量を含んでなる組成物を該物体に適用することにより、汚染生物に対して保護する方法も提供し、ここで成分(I)及び成分(II)の量は、汚染生物に対する相乗的効果を与えるそれぞれの割合にある。「防汚有効量」は、有意な数の汚染生物を殺すか、又はその成長、生殖もしくは拡大を防止するであろう量である。
【0025】
本発明はさらに、表面の保護方法を提供し、それは成分(II)と一緒の成分(I)の組み合わせの有効防汚量を含んでなる組成物を表面に適用することを含んでなり、ここで成分(I)及び成分(II)の量は、汚染生物に対する相乗的効果を与えるそれぞれの割合にある。本発明の方法の特に重要な用途は、船体の汚染の防止方法を含んでなり、それは本発明に従う防汚組成物を船体に適用することを含んでなる。船体上の汚染は、例えば摩擦抵抗を増加させ、対応して速度及び機動性を低下させ、燃料消費を増加させ、汚染の除去と関連するメンテナンスコストを増す。
【0026】
成分(II)と一緒の成分(I)の組み合わせを含んでなり、ここで成分(I)及び成分(II)の量が汚染生物に対する相乗的効果を与えるそれぞれの割合にある組成物を、汚染生物の存在及び/又は増殖により機能が損なわれ得る建造物、例えば水泳プール、浴槽、冷却水循環回路及び種々の設備における、例えば製造プラント又は空調設備における工業用槽の保護のために用いることができる。さらなる例は、建築物及び建築物の一部、例えば床、外壁及び内壁又は天井あるいは湿気に苦しむ場所、例えば地下室、浴室、キッチン、洗濯場などであり、且つそれらは汚染のための温床である。汚染は衛生及び美感の観点から問題であるのみでなく、経済的損失も引き起こし、それは、該建築物及び/又は装飾材料が望ましい速度より急速に劣化するからである。
【0027】
本発明の組み合わせの他の用途は、植物プランクトン(双鞭毛藻類及びジアトマ(diatoms)、甲殻類(カニ、小エビ、ケンミジンコ(copepods)、トビムシ(amphipods))、クルマムシ、多毛虫、軟体動物、魚類、棘皮動物、クシクラゲ及び腔腸動物のような水生生物の存在を減少させるか又は取り除くためのバラスト水の処理又は殺菌である。
【0028】
本発明の相乗性防汚組成物を多様な用途において用いることもできる:
−工業用水性プロセス液(industrial aqueous process fluid)、例えば冷却水、パルプ及び製紙ミルプロセス水及びサスペンジョン(suspensions)、二次油回収システム、紡糸液、金属工作液など
−水性機能液のイン−タンク/イン−カン(in−tank/in−can)保護、例えばポリマーエマルジョン、水に基づく塗料及び接着剤、グルー(glues)、デンプンスラリ、増粘剤溶液、ゼラチン、ワックスエマルジョン、インキ、艶出剤、顔料及び鉱物性スラリ(mineral slurries)、ゴムラテックス、コンクリート添加剤、掘削泥(drilling mud’s)、洗面用品(toiletries)、水性化粧用調製物、製薬学的調製物など。
【0029】
「汚染生物」という用語は、特に湿った又は水性の環境、例えば海水、淡水、塩水、雨水及び又冷却水、排水、廃水及び下水中の種々の表面に付着するか、沈着するか、その上で成長するか、又はそれに接着する生物を含むものとする。汚染生物は、藻類、例えばミクロ藻類(Microalgae)、例えばアンフォラ(Amphora)、アクナンテス(Achnanthes)、ハネケイソウ(Navicula)、アンフィプロラ(Amphiprora)、メロシラ(Melosira)、コッコネイス(Cocconeis)、コナミドリムシ(chlamydomonas)、クロレラ(Chlorella)、ヒビミドロ(Ulothrix)、アナバエナ(Anabaena)、ファエオダクチルム(Phaeodactylum)、ポルフィリジウム(Porphyridium);マクロ藻類(Macroalgae)、例えばアオノリ(Enteromorpha)、シオグサ(Cladophora)、シオミドロ(Ectocarpus)、アクロカエチウム(Acrochaetium)、イギス(Ceramium)、イトグサ(Polysiphonia)及びホルミジウム(Hormidium)種;菌・カビ;微生物;シオナ・インテスチナリス(Ciona intestinalis)、ジプロソマ・リステリアニウム(Diplosoma listerianium)及びボツリルス・スクロセリ(Botryllus schlosseri)のような海鞘類(Ascidiacea)の綱のメンバーを含む尾索類(tunicates);クラバ・スクアマタ(Clava squamata)、ヒドラクチニア・エキナタ(Hydractinia echinata)、オベリア・ゲニクラタ(Obelia geniculata)及びツブラリア・ラリンクス(Tubularia larynx)を含むヒドロ虫類(Hydrozoa)の綱のメンバー;ミチルス・エズリス(Mytilus edulis)、クラッソストレア・ビルギニカ(Crassostrea virginica)、オストレア・エズリス(Ostrea edulis)、オストレア・チレンシア(Ostrea chilensia)、ドレイッセナ・ポリモルファ(Dreissena polymorpha)(ゼブラ二枚貝)及びラサエア・ルブラ(Lasaea
rubra)を含む二枚貝;エレクトラ・ピロサ(Electra pilosa)、ブグラ・ネリチナ(Bugula neritina)及びボウェルバンキア・グラシリス(Bowelbankia gracilis)を含む苔虫類(bryozoans);ヒドロイデス・ノルベジカ(Hydroides norvegica)を含む多毛虫;海綿動物;ならびにアルテミア(Artemia)及びツルアシ類(Cirripedia)(フジツボ(barnacles))を含む甲殻類の綱のメンバー、例えばバラヌス・アンフィツリテ(Balanus amphitrite)、レパス・アナチフェラ(Lepas anatifera)、バラヌス・バラヌス(Balanus balanus)、バラヌス・バラノイデス(Balanus balanoides)、バラヌス・ハメリ(Balanus hameri)、バラヌス・クレナツス(Balanus
crenatus)、バラヌス・インプロビスス(Balanus improvisus)、バラヌス・ガレアツス(Balanus galeatus)及びバラヌス・エブルネウス(Balanus eburneus);ならびにエルミニウス・モデスツス
(Elminius modestus)及びハナカゴ(Verruca)である。
【0030】
成分(I)及び成分(II)の組み合わせを含んでなる組成物中の成分(I)と成分(II)の相対的な割合は、活性成分として成分(I)を単独で、又は成分(II)を単独で含む組成物と比較する時に、汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対して相乗的効果を生ずる割合である。当該技術分野における熟練者が理解するであろう通り、効果が測定される汚染生物の種類及び処理されるべき基質に依存して、組成物中の成分(I)及び(II)の様々な割合内で該相乗的効果を得ることができる。本出願の記述に基づき、実験1に記載される毒プレートアッセイ(Poison Plate Assay)の方法に従って、そのような組み合わせの相乗的効果の決定を行うことができる。しかしながら一般に、ほとんどの汚染生物、菌・カビ又はバクテリアの場合に、組成物中の成分(I)の量対成分(II)の量の重量による適した割合は、10:1〜1:10の範囲内に含まれるべきであると言うことができる。特にこの範囲は8:2〜2:8であり、より特定的に3:1〜1:3又は2:1〜1:2である。本発明の組成物中の成分(I)対成分(II)の別の特定の比は、成分(I)及び成分(II)の1つの間の1:1の比である。
【0031】
成分(I)及び成分(II)の組み合わせを含んでなる組成物中のそれぞれの活性成分の量は、相乗的効果が得られるようなものであろう。特に、本発明の調製済み組成物は、組成物の合計重量に基づいて少なくとも1重量%の量で成分(I)を含むことが意図されている。特にそのような調製済み組成物は、組成物の合計重量に基づいて1重量%〜40重量%、又はさらに特定的に3重量%〜30重量%の量で成分(I)を含む。該調製済み組成物中の成分(II)の量は、相乗的防汚効果が得られるようなものであろう。特に成分(II)の量は、組成物の乾燥塊(dry mass)の合計重量に基づいて1重量%〜30重量%、さらに特定的に2重量%〜20重量%の範囲であることができる。多くの場合、例えば濃厚乳剤、濃厚懸濁剤又は可溶性濃厚液のような濃厚液から、水性もしくは有機媒体を用いて希釈すると、直接用いられるべき防汚組成物を得ることができ、そのような濃厚液は本発明の定義において用いられる組成物という用語により包含されることが意図されている。塗料組成物の形態で用いられる濃厚液を、使用の直前にスプレータンク中で調製済み混合物に希釈することができる。
【0032】
汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対して相乗的効果を与えるそれぞれの割合における成分(I)及び成分(II)の組み合わせを含んでなる組成物は、かくして防汚組成物の調製において熟練者が通常用いるもののような、湿潤剤、分散剤、粘着剤(stickers)、接着剤、乳化剤などを含む担体及び添加剤と一緒に適切に用いられる。本発明の防汚組成物は、調製の技術分野において既知の適した物質、例えば天然もしくは再生無機物質、溶剤、分散剤、界面活性剤、湿潤剤、接着剤、増粘剤、結合剤、凍結防止剤、忌避剤(repellents)、着色剤(colour additives)、腐食防止剤、撥水剤、ドライヤー(siccatives)、UV−安定剤及び他の活性成分をさらに含むことができる。適した界面活性剤は、優れた乳化、分散及び湿潤性を有する非−イオン性、カチオン性及び/又はアニオン性界面活性剤である。「界面活性剤」という用語は、界面活性剤の混合物も含んでなると理解されるであろう。
【0033】
汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対して相乗的効果を与えるそれぞれの割合における成分(I)及び成分(II)の組み合わせを含んでなる防汚組成物を既知の方法で、例えば活性成分(すなわち成分(I)及び成分(II)の1つ)の組み合わせを一−段階又は多−段階法で、選ばれる担体材料及び適宜他の添加剤、例えば界面活性剤、分散剤、増粘剤、結合剤、着色剤、腐食防止剤などと一緒に、均一に混合、コーティング及び/又は磨砕することにより調製することができる。
【0034】
微粉剤、分散性もしくは流動性粉剤のような固体調製物に適した担体は、活性成分に悪
影響を与えないいずれかの分散剤、例えばクレー(例えばカオリン、ベントナイト、酸性白土など)、タルク(例えばタルク粉末、蝋石粉末など)、シリカ(例えば珪藻土、無水ケイ酸、雲母粉末など)、アルミナ、硫黄粉末、活性炭などである。これらの固体担体を単独で、又は2種もしくはそれより多くの組み合わせにおいて用いることができる。
【0035】
液体調製物のための適した担体は、活性成分に悪影響を与えないいずれかの液体、例えば水、アルコール(例えばメチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなど)、ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトンなど)、エーテル(例えばジオキサン、テトラヒドロフラン、セロソルブ、ジエチレングリコールジメチルエーテルなど)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、ケロセンなど)、芳香族炭化水素(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルナフタレンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えばクロロホルム、四塩化炭素など)、酸アミド(例えばジメチルホルムアミドなど)、エステル(例えば酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル、酢酸ブチルエステル、脂肪酸グリセリンエステルなど)ならびにニトリル(例えばアセトニトリルなど)である。これらの溶剤を単独で、又は2種もしくはそれより多くの組み合わせにおいて用いることができる。
【0036】
少なくとも1種の適した有機溶剤(すなわち液体担体)を用いて成分(I)及び(II)の組み合わせを希釈し、続いて少なくとも1種の溶剤−可溶性乳化剤を添加すると、本発明に従う防汚組成物の濃厚乳剤を得ることもできる。この型の調製物に適した溶剤は通常、水−非混和性であり、炭化水素、塩素化炭化水素、ケトン、エステル、アルコール及びアミドの種類の溶剤に属し、それぞれ成分(I)及び(II)の溶解性に基づいて当該技術分野における熟練者がそれらを適切に選択することができる。濃厚乳剤は通常、有機溶剤に加えて約10〜50重量%の活性成分の組み合わせ、約2〜20%の乳化剤及び最高で20%の他の添加剤、例えば安定剤、腐食防止剤などを含有する。成分(I)及び(II)の組み合わせを濃厚懸濁剤として調製することもでき、それは使用前に水で希釈されることが意図された(好ましくは有機)液体中の活性成分の安定な懸濁液である。そのような非−沈降性流動性製品を得るために、通常、最高で約10重量%の既知の保護コロイド及びチキソトロープ剤から選ばれる少なくとも1種の懸濁化剤をその中に導入することが必要である。例えば水和性粉剤又は濃厚液(前に記載したような)を水で希釈することにより得られる水性分散液及び乳剤のような他の液体調製物も本発明の範囲内に含まれ、そしてそれらは油中水型又は水中油型のものであることができる。
【0037】
本発明は、該成分(I)及び(II)の組み合わせをそれらの調製に適した1種もしくはそれより多い添加剤と一緒に含んでなる、例えば塗料、コーティング又はワニスの形態における保護的防汚組成物も提供する。そのような保護的組成物中の成分(I)及び(II)の組み合わせの合計量は、2〜10%(w/v)の範囲であることができる。該保護的組成物中で用いるのに適した添加剤は、全く当該技術分野における通常通りであり、例えば少なくとも1種の有機結合剤(好ましくは水性形態における)、例えばアクリル性もしくはビニルに基づくエマルジョン又はロジン化合物;炭酸カルシウムのような無機担体;前に記載したような界面活性剤;粘度調整剤;腐食防止剤;二酸化チタンのような顔料;安息香酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及び亜硝酸ナトリウムのような安定剤;無機もしくは有機着色剤などが含まれる。本発明の成分(I)及び成分(II)と一緒にそのような添加剤を調製する方法も、十分に当該技術分野における熟練者の知識の範囲内である。そのような保護的組成物を、汚染生物の損傷的影響を回復させる、及び/又は制限するためのみでなく、有害な環境及び汚染生物の影響に曝され得る材料において劣化が起こるのを防ぐためにも用いることができる。
【0038】
本発明に従う防汚組成物を複数の通常の方法、例えば液圧スプレー、空気ブラストスプレー、空気スプレー(aerial spray)、噴霧、散粉(dusting)、散
布(scattering)又は注ぎ(pouring)により適用することができる。最も適した方法は、意図される目的及び支配している状況、すなわち抑制されるべき汚染生物の種類、利用できる装置の型及び保護されるべき材料の型に従って、当該技術分野における熟練者により選択されるであろう。
【0039】
前に示した通り、成分(I)及び(II)の組み合わせは、好ましくは保護される材料に同時に投与されるのを保証するために、該成分の両方が緊密に混合されている組成物の形態で適用される。成分(I)及び(II)の両方の投与又は適用は、「逐次−組み合わせ」投与又は適用であることもでき、すなわち成分(I)及び(II)は、処理されるべき場所でそれらが必然的に混合されることになるようなやり方で、同じ場所において交互に又は逐次的に投与又は適用される。これは、すなわち逐次的投与又は適用が短時間内に、例えば24時間より短時間内、好ましくは12時間より短時間内に行われると、達成されるであろう。この代替法を、例えば活性成分(I)を含んでなる調製物で満たされた少なくとも1つの容器及び活性成分(II)を含んでなる調製物で満たされた少なくとも1つの容器を含んでなる適した単一包装品を用いることにより、行うことができる。従って本発明は:
−(a)成分(I)としてジクロフルアニド、トリルフルアニド、ジタン、チラム、ジラム又はジネブから選ばれるチオール基改変酵素阻害剤を含んでなる組成物
ならびに
−(b)成分(II)として1−ヒドロキシ−2−ピリジノン、シクロピロクス、シクロピロクス オラミン、ピロクトン、ピロクトン オラミン、リロピロクス、ピリオン ジスルフィド、ナトリウム ピリチオン及び亜鉛 ピリチオンから選ばれるピリオン化合物を含んでなる組成物
を、同時もしくは逐次的使用のための組み合わせとして含有する製品も包含し、ここで該(a)及び(b)は汚染生物、菌・カビ又はバクテリアに対する相乗的効果を与えるそれぞれの割合にあり;
但し、成分(I)としてのジクロフルアニド及び成分(II)としてのナトリウム ピリチオンの組み合わせは除かれる。
【0040】
そのような製品は、別々の容器を含んでなる適した包装品から成ることができ、ここで各容器は、好ましくは調製された形態における成分(I)又は成分(II)を含んでなる。そのような調製された形態は一般に、両方の活性成分を含有する調製物に関して記載したと同じ組成を有する。
【実施例】
【0041】
実験部分
実験1:毒プレートアッセイ
成分(I)の名前:
−ジクロフルアニド(I−a) −チラム(I−d)
−トリルフルアニド(I−b) −ジラム(I−e)
−ジタン(I−c) −ジネブ(I−f)
成分(II)の名前:
−1−ヒドロキシ−2−ピリジノン(II−a)−リロピロクス(II−f)
−シクロピロクス(II−b) −ピリオン ジスルフィド(II−g)−シクロピロクス オラミン(II−c) −ナトリウム ピリチオン(II−h)−ピロクトン(II−d) −亜鉛 ピリチオン(II−i)
−ピロクトン オラミン(II−e)
試験モデル: 一般的方法:96−ウェルミクロタイタープレート(microti
ter plate)の各ウェルに、4/3用量系列の1つの濃度に
おける試験化合物を含有する300μlのBG11培地を加える。活
発に成長している3週令の藻類の液体BG11培養物のアリコートを
加えることにより、液体淡水無機培地(liquid freshw
atermineral medium)に接種し、21℃、65%
相対湿度、1000Lux16時間/日においてインキュベーション
する。2週間後に成長を評価する。
濃度: 亜鉛 ピリチオンの組み合わせ:5.00−3.75−2.81−2
.11−1.58−1.19−0.89−0.67−0.50−0.
38−0.28−0.21ppm
他の組み合わせ:20.00−15.00−11.25−8.44−
6.33−4.75−3.56−2.67−2.00−1.50−1
.13−0.84ppm
試験的組み合わせ:%生成物A + %生成物B
100 + 0
80 + 20
66 + 33
50 + 50
33 + 66
20 + 80
0 + 100
藻類の種: (1):クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgar
is) CCAP 211/12
(2):アナバエナ・シリンドリカ(Anabaena cylin
drica) CCAP 1403/2A
(3):クラミドモナス・スファグノフィラ(Chlamidomo
nas sphagnophila) CCAP 11/36E
評価基準: MIC値を報告する:生物の成長の完全な阻害が観察される最低の試
験濃度(mg/l=ppmにおける)。
【0042】
MIC値(ppm合計活性成分における最小阻止濃度)を記録し、Kull et al.により記載された相乗指数(Synergy Index)法を用いて相乗作用を計算した(Kull,F.C.,P.C.Eismann,H.D.Sylvestrowicz,and R.L.Mayer(1961)“Mixtures of quaternary ammonium compounds and long−chain
fatty acids as antifungal agents” Applied Microbiology 9:538−541;Zwart Voorspuji,A.J.,and C.A.G.Nass(1957)“Some aspects
of the notions additivity,synergism and
antagonism in the simultaneous activity
of two antibacterial agents in vitro” Arch.intern.Pharmacodynamie 109:211−228;Steinberg,D.C.(2000)“Measuring synergy” cosmetics & Toiletries 115(11):59−62;及びLada,A.,A.N.Petrocci,H.A.Green,and J.J.Merianos(1977)“Antimicrobial composition” 米国特許第4061750号明細書,3ppも参照されたい):
【0043】
【数1】
【0044】
式中:
・Qは、終点を生ずる単独で作用する化合物Aのppmにおける濃度(例えばMIC)であり、
・Qは、終点を生ずる混合物における化合物Aのppmにおける濃度(例えばMIC)であり、
・Qは、終点を生ずる単独で作用する化合物Bのppmにおける濃度(例えばMIC)であり、
・Qは、終点を生ずる混合物における化合物Bのppmにおける濃度(例えばMIC)である。
【0045】
相乗指数が1.0より大きい場合、拮抗作用が示される。SIが1.0に等しい場合、加算性が示される。SIが1.0より小さい場合、相乗作用が立証される。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】