特許第5722806号(P5722806)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5722806カチオン重合性樹脂、カチオン重合性樹脂組成物、及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722806
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】カチオン重合性樹脂、カチオン重合性樹脂組成物、及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/28 20060101AFI20150507BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20150507BHJP
   C08G 65/18 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C08F20/28
   C08L33/14
   C08G65/18
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-553786(P2011-553786)
(86)(22)【出願日】2011年1月24日
(86)【国際出願番号】JP2011051174
(87)【国際公開番号】WO2011099352
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2013年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-29321(P2010-29321)
(32)【優先日】2010年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】新木 直子
(72)【発明者】
【氏名】舩木 克典
(72)【発明者】
【氏名】堤 聖晴
(72)【発明者】
【氏名】間彦 智明
【審査官】 米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−224970(JP,A)
【文献】 特開2009−256552(JP,A)
【文献】 特開2009−256553(JP,A)
【文献】 Abdelkrim El-Ghayoury,Ultraviolet-ultraviolet dual-cureprocess based on acrylate oxetane monomers,Journal of PolymerScience, Part A: Polymer Chemistry,2003年,41(4),469-475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す)
で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を、ラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂であって、
前記のラジカル重合性を有する他の化合物が、1分子内に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルアリール基、ビニルエーテル基、ビニルオキシカルボニル基から選ばれる官能基を1個有する化合物であるカチオン重合性樹脂、又は、
下記式(1’)
【化2】
(式中、R1’は水素原子又はメチル基、R2’は水素原子又はアルキル基を示し、A’は下記式(a1)で表される直鎖状アルキレン基、又は下記式(a2)で表される分岐鎖状アルキレン基を示す)
【化3】
[式(a1)中、n1は4〜20の整数を示す。式(a2)中、R3、R4、R7、R8は同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R5、R6は同一又は異なってアルキル基を示す。n2は0以上の整数を示し、n2が2以上の整数の場合、2以上のR7、R8はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい]
で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独でラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂。
【請求項2】
カチオン重合性化合物として請求項1に記載のカチオン重合性樹脂を含むカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項3】
カチオン重合性樹脂組成物中に占める、請求項1に記載のカチオン重合性樹脂の割合が、5重量%以上である請求項2に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、請求項1に記載のカチオン重合性樹脂以外のカチオン重合性化合物を含む請求項3に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のカチオン重合性樹脂以外のカチオン重合性化合物が、1分子内にオキセタン環、エポキシ環、ビニルエーテル基、ビニルアリール基から選ばれる官能基を1個以上有する化合物である請求項4に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項6】
カチオン重合開始剤を含有する請求項2〜5の何れかの項に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項2〜6の何れかの項に記載のカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物。
【請求項8】
フィルム状であることを特徴とする請求項7に記載の硬化物。
【請求項9】
ファイバー状であることを特徴とする請求項7に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路(光導波路、混載基板など)、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板などの分野、特にフレキシブル光導波路、柔軟接着剤、アンダーフィルなどの分野で有用なカチオン重合性樹脂、カチオン重合性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットを介した動画配信の普及により、サーバやルータに用いるボード内の通信容量が増加し、一部の高速信号線を電気配線から光配線に置き換える検討が進んでいる。ポリマー光導波路は、石英系光導波路と比較して低コストであることなどから、光電気混載基板用の光配線として期待されている。ポリマー光導波路の要求特性の1つとして、ハンダリフロー工程における高温処理により光損失の増加やクラックなどの熱劣化が発生することを防止するハンダリフロー耐熱性が挙げられる。そして、近年、溶解に約260℃の高温加熱を要する鉛フリーハンダの使用に対応するため、リフロー温度がより高くなっていることから、より高い耐熱性が求められている。
【0003】
また、素子や基板との結合の容易さ、レイアウトの自由度、応力緩和、取り扱いやすさの観点から、柔軟性も求められている。すなわち、ポリマー光導波路として使用するポリマーとしては、優れた柔軟性及び260℃を超える高い耐熱性を兼ね備えることが要求される。
【0004】
特許文献1、2には1分子内にオキセタン環と(メタ)アクリロイル基を有する3−エチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン等が開示されている。しかしながら、これらの化合物の硬化物は耐熱性の点では優れているが、柔軟性が乏しい点が問題であった。
【0005】
さらに、特許文献3、4には、グリシジル(メタ)アクリレートや、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の1分子内にエポキシ基と(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ系化合物が開示されているが、これらの化合物は硬化性が低く皮膚刺激性や毒性を有するため、加工性の点で問題があった。さらに、これらの化合物の硬化物は柔軟性の点で、十分満足できるものではなかった。従って、柔軟性及び耐熱性に優れる硬化物を形成することができる樹脂が未だ見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−315181号公報
【特許文献2】特開2001−40205号公報
【特許文献3】特開2005−97515号公報
【特許文献4】特開2009−242242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、光を照射することにより速やかに硬化し、柔軟性及び耐熱性に優れる硬化物を形成するカチオン重合性樹脂、カチオン重合性樹脂組成物、及びその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、1分子内にラジカル重合性を有する(メタ)アクリロイル基と、カチオン重合性を有し柔軟性を付与するオキセタン環を有し、これら2つの官能基を特定の構造を有するアルキレン基で連結して得られるモノマーを単独で、又は(メタ)アクリロイル基と反応し得る官能基を有する他のモノマーと共に、ラジカル重合して得られる樹脂は、カチオン重合させることによって耐熱性及び柔軟性に優れた硬化物を形成することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す)
で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を、ラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂であって、
前記のラジカル重合性を有する他の化合物が、1分子内に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルアリール基、ビニルエーテル基、ビニルオキシカルボニル基から選ばれる官能基を1個有する化合物であるカチオン重合性樹脂、又は、
下記式(1’)
【化2】
(式中、R1’は水素原子又はメチル基、R2’は水素原子又はアルキル基を示し、A’は下記式(a1)で表される直鎖状アルキレン基、又は下記式(a2)で表される分岐鎖状アルキレン基を示す)
【化3】
[式(a1)中、n1は4〜20の整数を示す。式(a2)中、R3、R4、R7、R8は同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R5、R6は同一又は異なってアルキル基を示す。n2は0以上の整数を示し、n2が2以上の整数の場合、2以上のR7、R8はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい]
で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独でラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂を提供する。
【0011】
本発明は、また、カチオン重合性化合物として上記カチオン重合性樹脂を含むカチオン重合性樹脂組成物を提供する。なお、カチオン重合性樹脂組成物中に占める、上記カチオン重合性樹脂の割合は、5重量%以上であることが好ましい。
【0012】
カチオン重合性樹脂組成物には、さらに、前記カチオン重合性樹脂以外のカチオン重合性化合物を含むことが好ましく、前記カチオン重合性樹脂以外のカチオン重合性化合物としては、1分子内にオキセタン環、エポキシ環、ビニルエーテル基、ビニルアリール基から選ばれる官能基を1個以上有する化合物が好ましい。
【0013】
カチオン重合性樹脂組成物には、さらにまた、カチオン重合開始剤を含有することが好ましい。
【0014】
本発明は、さらに、前記カチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物を提供する。
【0015】
前記硬化物は、フィルム状又はファイバー状であることが好ましい。なお、本明細書では、上記発明のほか、下記式(1)
【化4】
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す)
で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂についても説明する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るカチオン重合性樹脂は、特定の構造を有するオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られる樹脂であるため、光を照射してカチオン重合させることにより速やかに硬化物を形成することができる。そのようにして得られた硬化物は優れた柔軟性を有し、自由に曲げて使用することができ、応力緩和作用を発揮することができる。その上、ハンダリフロー実装(特に、鉛フリーハンダ実装)に対応する耐熱性を有し、ハンダリフローによる熱劣化を防止することができる。従って、本発明に係るカチオン重合性樹脂は、導波路(光導波路、混載基板など)、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板などの分野、特にフレキシブル光導波路、柔軟接着剤、アンダーフィルなどの分野において好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】硬化物の耐熱性の評価方法を示す説明図(熱重量分析結果の模式図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[オキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物]
本発明のオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物は、式(1)で表される。式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す。
【0019】
式(1)中、R2におけるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル基などの直鎖状C1-6(好ましくはC1-3)アルキル基;イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、s−ペンチル、t−ペンチル、イソヘキシル、s−ヘキシル、t−ヘキシル基などの分岐鎖状のC1-6(好ましくはC1-3)アルキル基などが挙げられる。本発明におけるR2としてはメチル基又はエチル基が好ましい。
【0020】
式(1)中、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す。本発明においては、なかでも、優れた耐熱性と柔軟性とを兼ね備えた硬化物を形成することができる点で、下記式(a1)で表される直鎖状アルキレン基、又は下記式(a2)で表される分岐鎖状アルキレン基が好ましい。尚、式(a2)の右端はエステル結合を構成する酸素原子と結合する。
【0021】
【化2】
[式(a1)中、n1は2以上の整数を示す。式(a2)中、R3、R4、R7、R8は同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R5、R6は同一又は異なってアルキル基を示す。n2は0以上の整数を示し、n2が2以上の整数の場合、2以上のR7、R8はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい]
【0022】
式(a1)中のn1は2以上の整数を示し、好ましくは2〜20の整数であり、特に好ましくは2〜10の整数である。n1が1の場合、重合して得られる硬化物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0023】
式(a2)中のR3、R4、R5、R6、R7、R8におけるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル基などの直鎖状C1-4(好ましくはC1-3)アルキル基;イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル基などの分岐鎖状のC1-4(好ましくはC1-3)アルキル基などが挙げられる。本発明におけるR3、R4としては水素原子が好ましく、R5、R6としてはメチル基、エチル基が好ましい。
【0024】
式(a2)中のn2は0以上の整数を示し、好ましくは1〜20の整数であり、特に好ましくは1〜10の整数である。
【0025】
式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物の代表的な例としては、以下の化合物を挙げることができる。
【化3】
【0026】
式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物は、例えば、下記式(2)
【化4】
(式中、R2は前記に同じ。Xは脱離性基を示す)
で表される化合物と、下記式(3)
HO−A−OH (3)
(式中、Aは前記に同じ)
で表される化合物を、塩基性物質存在下、液相一相系で反応させて下記式(4)
【化5】
(式中、R2、Aは前記に同じ)
で表されるオキセタン環含有アルコールを得、得られたオキセタン環含有アルコールを(メタ)アクリル化することにより合成することができる。
【0027】
式(2)中、Xは脱離性基を示し、例えば、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子(なかでも、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい);p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基;アセチルオキシ基等のカルボニルオキシ基などの脱離性の高い基を挙げることができる。
【0028】
前記塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化マグネシウム、水素化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩;有機リチウム試薬(例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、ter−ブチルリチウム等)、有機マグネシウム試薬(グリニャール試薬:例えば、CH3MgBr、C25MgBr等)等の有機金属化合物等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
前記「液相一相系」とは、液相が1相のみであること(すなわち、液相が2相以上の場合を除くこと)を意味し、液相が1相であれば固体を含んでいてもよい。前記溶媒としては、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物の両方を溶解することができればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;THF(テトラヒドロフラン)、IPE(イソプロピルエーテル)などのエーテル;DMSO(ジメチルスルホキシド)等の含硫黄系溶媒;DMF(ジメチルホルムアミド)等の含窒素系溶媒等を挙げることができる。
【0030】
[カチオン重合性樹脂]
本発明に係るカチオン重合性樹脂は、上記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物[ラジカル重合性を有し、上記式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物とは異なる化合物である。以後、「他のラジカル重合性化合物」と称する場合がある]と共にラジカル重合して得られる。
【0031】
上記式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物は、1分子内にカチオン重合部位であるオキセタン環と、ラジカル重合部位である(メタ)アクリロイル基を有するため、単独でラジカル重合、又は他のラジカル重合性化合物と共にラジカル共重合することにより、下記式で表されるカチオン重合性樹脂を合成することができる。尚、ラジカル共重合には、ブロック共重合、ランダム共重合等が含まれる。
【化6】
(式中、R1、R2、Aは上記に同じ)
【0032】
本発明に係るカチオン重合性樹脂としては、なかでも、より柔軟性に優れた硬化物を形成することができる点で、上記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物と他のラジカル重合性化合物をラジカル共重合することにより得られる樹脂が好ましく、カチオン重合性樹脂を構成する全モノマーのうち、前記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物由来のモノマーの占める割合が0.1重量%以上100重量%未満(好ましくは1〜99重量%、特に好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは10〜50重量%)となる割合で、ラジカル共重合して得られる樹脂が好ましい。
【0033】
他のラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルエーテル基、ビニルアリール基、ビニルオキシカルボニル基等のラジカル重合性基を1分子内に1つ以上有する化合物等を挙げることができる。
【0034】
(メタ)アクリロイル基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、1−ブテン−3−オン、1−ペンテン−3−オン、1−ヘキセン−3−オン、4−フェニル−1−ブテン−3−オン、5−フェニル−1−ペンテン−3−オン等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0035】
(メタ)アクリロイルオキシ基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、n−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2―ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシ)エチルイソシアネート、2−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0036】
(メタ)アクリロイルアミノ基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、アクリル酸モルホリン−4−イル、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−n−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ヘキシルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0037】
ビニルエーテル基を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1−メチル−3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−メチル−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、p−キシレングリコールモノビニルエーテル、m−キシレングリコールモノビニルエーテル、o−キシレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0038】
ビニルアリール基を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、酢酸4−ビニルフェニル、(4−ビニルフェニル)ジヒドロキシボラン、(4−ビニルフェニル)ボラン酸、(4−ビニルフェニル)ボロン酸、4−エテニルフェニルボロン酸、4−ビニルフェニルボラン酸、4−ビニルフェニルボロン酸、p−ビニルフェニルホウ酸、p−ビニルフェニルボロン酸、N−(4−ビニルフェニル)マレインイミド、N−(p−ビニルフェニル)マレイミド、N−(p−ビニルフェニル)マレインイミド等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0039】
ビニルオキシカルボニル基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、ギ酸イソプロペニル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル、酪酸イソプロペニル、イソ酪酸イソプロペニル、カプロン酸イソプロペニル、吉草酸イソプロペニル、イソ吉草酸イソプロペニル、乳酸イソプロペニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0040】
本発明における他のラジカル重合性化合物としては、なかでも、柔軟性及び耐熱性に優れた硬化物を形成することができる点で、1分子内に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルアリール基、ビニルエーテル基、ビニルオキシカルボニル基から選ばれる官能基を1個有する化合物が好ましく、特に、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基を1分子内に1個有する化合物が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
ラジカル重合反応は、加熱処理及び/又は光照射を行うことにより促進することができる。加熱処理を行う場合、その温度としては、反応に供する成分や触媒の種類などに応じて適宜調整することができ、例えば20〜200℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは70〜120℃程度である。光照射を行う場合、その光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線、レーザー光等を使用することができる。また、光照射後、例えば50〜180℃程度の温度で加熱処理を施してラジカル重合反応を進行させてもよい。
【0042】
ラジカル重合反応は溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、例えば、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン(PGMEA)、ベンゼン、トルエン等を挙げることができる。
【0043】
また、ラジカル重合反応には重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤としては、公知慣用の熱重合開始剤、光ラジカル重合開始剤などのラジカル重合を起こし得るものを特に限定されることなく使用することができ、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等を挙げることができる。
【0044】
ラジカル重合反応における重合開始剤の使用量としては、例えば、ラジカル重合性化合物(式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物と他のラジカル重合性化合物の総重量)に対して、例えば0.01〜50重量%程度、好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0045】
カチオン重合性樹脂の重量平均分子量は、例えば500以上(例えば、500〜100万程度)であり、好ましくは3000〜50万である。カチオン重合性樹脂の重量平均分子量が上記範囲を外れると、カチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の柔軟性が得られにくくなる傾向がある。
【0046】
カチオン重合性樹脂の数平均分子量は、例えば100以上(例えば、100〜50万程度)であり、好ましくは300〜25万である。カチオン重合性樹脂の数平均分子量が上記範囲を外れると、カチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の柔軟性が得られにくくなる傾向がある。
【0047】
[カチオン重合性樹脂組成物]
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、カチオン重合性化合物として上記カチオン重合性樹脂を含むことを特徴とする。
【0048】
カチオン重合性樹脂組成物中に占める上記カチオン重合性樹脂の割合としては、例えば、5重量%以上であり、実質的にカチオン重合性樹脂組成物が上記カチオン重合性樹脂のみで構成されていてもよい。本発明においては、なかでも、より柔軟性に優れる硬化物を形成することができる点で、カチオン重合性樹脂組成物中に占める上記カチオン重合性樹脂の割合が、10〜95重量%が好ましく、特に40〜95重量%が好ましい。カチオン重合性樹脂組成物中に占める上記カチオン重合性樹脂の割合が5重量%を下回ると、カチオン重合により硬化して得られる硬化物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0049】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物には、上記カチオン重合性樹脂の他に、カチオン重合性を有する化合物であって、上記式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物とは異なる化合物(以後、「他のカチオン重合性化合物」と称する場合がある)を含有していてもよい。
【0050】
他のカチオン重合性化合物としては、例えば、オキセタン環、エポキシ環、ビニルエーテル基、ビニルアリール基等のカチオン重合性基を1分子内に1個以上有する化合物等を挙げることができる。
【0051】
オキセタン環を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(クロロメチル)オキセタン、3,3‐ビス(クロルメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1−エチル(3−オキセタニル)]メチル}エーテル、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、3−エチル−3[[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル]オキセタン等を挙げることができる。
【0052】
エポキシ環を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシルレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシルレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシルレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル類;脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類;フェノール、クレゾール、ブチルフェノールまたはこれらにアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類等を挙げることができる。
【0053】
ビニルエーテル基を1分子内に1つ以上有する化合物、ビニルアリール基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、上記他の他のラジカル重合性化合物において挙げられた例と同様の例を挙げることができる。
【0054】
本発明における他のカチオン重合性化合物としては、なかでも、光を照射することにより速やかに硬化する点で、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3[[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル]オキセタン等のオキセタン環を1分子内に1つ以上有する化合物が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物としては、より柔軟性に優れる硬化物を形成することができる点で、カチオン重合性樹脂と共に他のカチオン重合性化合物を含むことが好ましい。カチオン重合性樹脂と他のカチオン重合性化合物の配合比(前者/後者:重量比)としては、例えば95/5〜10/90、好ましくは95/5〜20/80、特に好ましくは95/5〜45/55である。カチオン重合性樹脂の配合割合が上記範囲を下回ると、得られる硬化物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0056】
また、カチオン重合性樹脂組成物は、必要に応じて重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤としては、公知慣用の光カチオン重合開始剤、光酸発生剤等のカチオン重合を起こし得るものを特に限定されることがなく使用することができる。重合開始剤としては、例えば、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等のスルホニウム塩;ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヨードニウム[4−(4−メチルフェニル−2−メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロホスフェート等のヨードニウム塩;テトラフルオロホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等のホスホニウム塩;ピリジウム塩等を挙げることができる。
【0057】
本発明においては、光酸発生剤として、商品名「CPI−100P」(サンアプロ(株)製)などの市販品を使用してもよい。
【0058】
カチオン重合反応における重合開始剤の使用量としては、カチオン重合性化合物(カチオン重合性樹脂と他のカチオン重合性化合物の総重量)に対して0.01〜50重量%程度、好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0059】
さらに、本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて他の添加物を添加してもよい。他の添加物としては、例えば、硬化膨張性モノマー、光増感剤(アントラセン系増感剤等)、樹脂、密着性向上剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤、溶剤、無機又は有機粒子(ナノスケール粒子等)、フルオロシラン等の公知慣用の各種添加剤を挙げることができる。
【0060】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、光を照射することによりカチオン重合反応を促進し、硬化物を形成することができる。光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線、レーザー光等を使用することができる。また、光照射後、例えば50〜180℃程度の温度で熱処理を施して硬化を進行させてもよい。
【0061】
カチオン重合反応は常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。
【0062】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合することによって得られる硬化物の形状としては特に制限されることがなく、例えばフィルム状、ファイバー状等を挙げることができる。フィルム状硬化物は、例えば、アプリケーター等を使用して上記カチオン重合性樹脂組成物を均一の厚みとなるように基材等の上に塗布し、光照射を行うことによりカチオン重合反応を促進して製造することができる。ファイバー状硬化物は、例えば、シリンジ等を使用して上記カチオン重合性樹脂組成物を定量的に押出し、押出されたカチオン重合性樹脂組成物に光照射を行うことによりカチオン重合反応を促進して製造することができる。
【0063】
こうして得られる硬化物は、柔軟性及び耐熱性に優れる。そのため、本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、導波路(光導波路、混載基板など)、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板などの分野、特にフレキシブル光導波路、柔軟接着剤、アンダーフィルなどの分野で特に有用である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
実施例1(カチオン重合性樹脂の製造)
シュレンク管に1−メトキシ−2−アセトキシプロパン(PGMEA)12.05g、下記式で表される3−エチル−3−(2−アクリロイルオキシエチルオキシメチル)オキセタン(EOXTM−EAL)2.24g(9.25mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.14gの混合液を仕込み、撹拌均一化した後、75±1℃で5時間加熱撹拌した。これを冷却した後、5倍量のヘプタンで再沈精製を行い、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で15時間保持することにより、室温(25℃)で無色透明の液状樹脂(1)を得た。
該液状樹脂(1)のポリスチレン換算重量平均分子量は18000、数平均分子量は6000であった。
【化7】
【0066】
実施例2(カチオン重合性樹脂の製造)
シュレンク管にPGMEA 11.63g、下記式で表される3−エチル−3−(4−アクリロイルオキシブチルオキシメチル)オキセタン(EOXTM−BAL)2.26g(8.25mmol)、AIBN 0.14gの混合液を仕込み、撹拌均一化した後、75±1℃で5時間加熱撹拌した。これを冷却した後、5倍量のヘプタンで再沈精製を行い、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で15時間保持することにより、室温(25℃)で無色透明の液状樹脂(2)を得た。
該液状樹脂(2)のポリスチレン換算重量平均分子量は21500、数平均分子量は8300であった。
【化8】
【0067】
実施例3(カチオン重合性樹脂の製造)
シュレンク管にPGMEA 4.80g、下記式で表される3−エチル−3−(3−アクリロイルオキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタン(EOXTM−NPAL)2.07g(7.80mmol)、AIBN 0.0605gの混合液を仕込み、撹拌均一化した後、75±1℃で5時間加熱撹拌した。これを40℃以下に冷却した後、5倍量のヘプタンで再沈精製を行い、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で15時間保持することにより、室温(25℃)で無色透明の液状樹脂(3)を得た。
該液状樹脂(3)のポリスチレン換算重量平均分子量は37600、数平均分子量は14200であった。
【化9】
【0068】
実施例4(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 42.68g、EOXTM−EAL 6.07g(0.028mol)とn−ブチルアクリレート(BA)17.91g(0.139mol)の混合液(モノマー混合液)のうち25%を仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、t−ブチルパーオキシピバレート(商品名「パーブチルPV」、日本油脂(株)製)0.05gとPGMEA 0.77gの混合液を投入し、撹拌均一化した後、撹拌しながら、モノマー混合液の残り75%、AIBN 0.43g、PGMEA 4.47gの混合液を送液ポンプで3時間かけて滴下した。滴下終了後、ただちにAIBN 0.15gとPGMEA 1.69gの混合液を投入し、1時間後、AIBN 0.13gとPGMEA 1.75gの混合液を投入した。さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(4)を得た。
該液状樹脂(4)のポリスチレン換算重量平均分子量は67700、数平均分子量は12400であった。
【0069】
実施例5(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 44.91g、EOXTM−BAL 7.01g(0.029mol)とBA 18.62g(0.144mol)の混合液(モノマー混合液)のうち25%を仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、パーブチルPV 0.05gとPGMEA 0.60gの混合液を投入し、撹拌均一化した後、撹拌しながら、モノマー混合液の残り75%、AIBN 0.46g、PGMEA 5.25gの混合液を送液ポンプで3時間かけて滴下した。滴下終了後、ただちにAIBN 0.15gとPGMEA 1.63gの混合液を投入し、1時間後、AIBN 0.15gとPGMEA 1.68gの混合液を投入した。さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(5)を得た。
該液状樹脂(5)のポリスチレン換算重量平均分子量は78100、数平均分子量は12100であった。
【0070】
実施例6(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 62.07g、EOXTM−NPAL 10.13g(0.039mol)とBA 27.06g(0.195mol)の混合液(モノマー混合液)のうち25%を仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、パーブチルPV 0.07gとPGMEA 1.08gの混合液を投入し、撹拌均一化した後、撹拌しながら、モノマー混合液の残り75%、AIBN 0.63g、PGMEA 6.47gの混合液を送液ポンプで3時間かけて滴下した。滴下終了後、ただちにAIBN 0.21gとPGMEA 2.16gの混合液を投入し、1時間後、AIBN 0.21gとPGMEA 2.21gの混合液を投入した。さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(6)を得た。
該液状樹脂(6)のポリスチレン換算重量平均分子量は67600、数平均分子量は11800であった。
【0071】
実施例7(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 29.64gを仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、撹拌しながら、PGMEA 45.45g、EOXTM−NPAL 10.00g(0.039mol)とBA 15.06g(0.117mol)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(商品名「V−601」、和光純薬工業(株)製)2.88gの混合液を送液ポンプで5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(7)を得た。
該液状樹脂(7)のポリスチレン換算重量平均分子量は3700、数平均分子量は1900であった。
【0072】
実施例8(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 42.10gを仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、撹拌しながら、PGMEA 64.07g、EOXTM−NPAL 20.16g(0.078mol)とBA 15.06g(0.117mol)、「V−601」 3.60gの混合液を送液ポンプで5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(8)を得た。
該液状樹脂(8)のポリスチレン換算重量平均分子量は3900、数平均分子量は2400であった。
【0073】
実施例9(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 24.93gを仕込み、窒素気流下、75±1℃に加熱した。次いで、撹拌しながら、PGMEA 43.64g、EOXTM−NPAL20.08g(0.078mol)とBA 50.59g(0.39mol)、「V−601」 0.043gの混合液を送液ポンプで5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これをPGMEA 140.04gで希釈した後、5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(9)を得た。
該液状樹脂(9)のポリスチレン換算重量平均分子量は288000、数平均分子量は61200であった。
【0074】
比較例1(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 84.07g、3−エチル−3−アクリロイルオキシメチル−オキセタン(EOXTM−AL、大阪有機化学工業(株)製)10.25g(0.059mol)とBA 38.55g(0.294mol)の混合液(モノマー混合液)のうち25%を仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、パーブチルPV 0.12gとPGMEA 1.14gの混合液を投入し、撹拌均一化した後、撹拌しながら、モノマー混合液の残り75%、AIBN 0.87g、PGMEA 9.04gの混合液を送液ポンプで3時間かけて滴下した。滴下終了後、ただちにAIBN 0.29gとPGMEA 3.01gの混合液を投入し、1時間後、AIBN 0.29gとPGMEA 2.91gの混合液を投入した。さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(10)を得た。
該液状樹脂(10)のポリスチレン換算重量平均分子量は62800、数平均分子量は20000であった。
【0075】
比較例2(カチオン重合性樹脂の製造)
シュレンク管にPGMEA 12.23g、EOXTM−AL 3.21g(0.012mmol)、AIBN 0.14gの混合液を仕込み、撹拌均一化した後、75±1℃で5時間加熱撹拌した。これを冷却した後、5倍量のヘプタンで再沈精製を行い、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で15時間保持することにより、室温(25℃)で無色透明の液状樹脂(11)を得た。
該液状樹脂(11)のポリスチレン換算重量平均分子量は36700、数平均分子量は17000であった。
【0076】
実施例10〜49、比較例3〜6
下記表1、2に示す組成及び配合割合に従って配合し、カチオン重合性樹脂組成物を得た。尚、表中の数値は重量部を示す。
【0077】
評価
実施例10〜49、比較例3〜6で得られたカチオン重合性樹脂組成物について、下記方法により重合して硬化物を得、得られた硬化物について柔軟性及び耐熱性を評価した。
【0078】
[フィルム状硬化物の形成]
実施例10〜49、比較例3〜6で得られたカチオン重合性樹脂組成物を、非シリコーン系離型フィルム基材(商品名「T789」、ダイセルバリューコーティング(株)製)上に、アプリケーターにより約100μmの厚みになるよう塗布し、ベルトコンベアー式紫外線照射装置(商品名「UVC−02516S1AA02」、ウシオ電機(株)製)を用いて紫外線(照射エネルギー:約2J、波長:320−390nm)を照射することによりフィルム状硬化物を得た。
【0079】
[ファイバー状硬化物の形成]
実施例10〜49、比較例3〜6で得られたカチオン重合性樹脂組成物をシリンジに注入して定量的(3mL/秒)に押出し、押出されたカチオン重合性樹脂組成物に紫外線(照射エネルギー:1方向あたり1.5W/cm2、波長:365nm)を照射することにより、直径が50〜2000μmであるファイバー状硬化物を得た。
【0080】
[柔軟性評価]
実施例10〜49、比較例3〜6で得られたカチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られた、厚さ約100μmのフィルム状硬化物を棒に巻きつけて、クラック(ひび割れ)発生の有無を目視で観察し、下記基準で評価した。
評価基準
半径1mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が見られなかったとき:◎
半径2mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が見られなかったとき:○
半径2mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が見られたとき:×
【0081】
[耐熱性評価]
実施例10〜49、比較例3〜6で得られたカチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られた、厚さ約100μmのフィルム状硬化物を熱分析装置(商品名「TG−DTA6300」、セイコー電子工業(株)製)を用いて熱重量分析した。図1に示すように、初期の重量減少のない、或いは漸減しているところの接線と、急激に重量減少が起こっているところの変曲点の接線が交叉するところの温度を熱分解温度T(℃)とし、下記基準に従って評価した。
評価基準
熱分解温度T(℃)が260℃以上:○
熱分解温度T(℃)が260℃未満:×
【0082】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
B1:3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン
B2:3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン(商品名「OXT−212」、東亞合成(株)製)
B3:3−エチル−3[[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル]オキセタン(商品名「OXT−221」、東亞合成(株)製)
B4:下記式で表される3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名「セロキサイド 2021P」、ダイセル化学工業(株)製)
【化10】
無機微粒子:表面処理シリカ(商品名「SC4500−SEJ」、(株)アドマテックス製)
PS:ポリスチレン
PMMA:ポリメチルメタクリレート
CPI−100P:ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート、チオジ−p−フェニレンビス(ゾフェニルスルホニウム)、ビス(ヘキサフルオロホスファート)、プロピレンカーボネート、ゾフェニルサルファイドの混合物(商品名「CPI−100P」、サンアプロ(株)製)
※比較例3、4における評価欄の「−」は、硬化不十分のため上記評価を行わなかったことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るカチオン重合性樹脂は、カチオン重合させることにより速やかに硬化して、柔軟性、応力緩和作用、及び、ハンダリフロー実装(特に、鉛フリーハンダ実装)に対応する耐熱性を有する硬化物を形成することができる。従って、本発明に係るカチオン重合性樹脂は、導波路(光導波路、混載基板など)、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板などの分野、特にフレキシブル光導波路、柔軟接着剤、アンダーフィルなどの分野において好適に使用することができる。
図1