(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722915
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】電気接点材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01H 1/06 20060101AFI20150507BHJP
H01H 11/06 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
H01H1/06 G
H01H11/06 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-550911(P2012-550911)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2011079941
(87)【国際公開番号】WO2012090885
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-292010(P2010-292010)
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000152158
【氏名又は名称】株式会社徳力本店
(74)【代理人】
【識別番号】100069615
【弁理士】
【氏名又は名称】金倉 喬二
(72)【発明者】
【氏名】汲田 英生
(72)【発明者】
【氏名】眞々田 慎也
【審査官】
佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−138667(JP,A)
【文献】
特開平09−107647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/00− 1/66
H01H 11/00−11/06
H01H 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状を異ならせたことで溶融し始める時間が異なる2種類のリン銅ろうにより、一方のリン銅ろうを溶解させて他方のリン銅ろうを未溶解状態で接点材料に貼り合せてあることを特徴とする電気接点材料。
【請求項2】
形状を異ならせることによって、溶融し始める時間に差をもたせた2種類の板状のリン銅ろうを用意し、この2種類のリン銅ろうを重ね、溶融し始める時間の早い方のリン銅ろうを接点材料に着けた状態にして合わせ、溶融し始める時間が早い方のリン銅ろうを融点付近まで加熱することにより、溶融し始める時間が遅い方のリン銅ろうを未溶解状態で接点材料に貼り合わせることを特徴とする電気接点材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リレー、電磁接触器やブレーカ等の開閉器に使用される電気接点材料に係るもので、接点材料の裏面に予めリン銅ろうを張り合わせて一体にしておき、スポットろう付けする際に、リン銅ろうのセルフフラックス機能を損なうことなく、ろう付け部に欠陥を生じさせないようにして、電気的寿命試験において剥離消耗を防止することができるようにした電気接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リレー、電磁接触器やブレーカ等の開閉器に使用される電気接点材料は、台材との接合を簡易的かつ効率的に行うために、フープ状の接点材料を作製し、その裏面に同じくフープ状のリン銅ろうを張り合わせたものが開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−103847号公報
【特許文献2】特許第4279645号公報
【0004】
リン銅ろうを加熱及び溶融させて使用するときに、リン銅ろうに含まれるリン(P)が揮発して、脱酸作用を呈する。この脱酸作用を利用して、接点と台材をろう付けにより接合する際に、台材表面などに生じる酸化皮膜を除去することが、リン銅ろうの機能として周知である。
【0005】
これにより、リン銅ろうを使用する際は、フラックス等を必要とせずに良好なろう付けが可能となり、ろう付け作業が簡易となり、さらに、フラックスの残存による台材の腐食等の不具合の発生もないという利点がある。
【0006】
特に、リン銅ろうは台材が純銅や真鍮等の場合は、ろう付けするときにそのセルフフラックス機能が有効であり、フラックスを使用することなくろう付けが可能である。この機構は、例えば、台材を銅とした場合には次式のように説明される。
【0007】
5CuO(台材の酸化)2P(ろう中のリン)→5Cu+P
2O
5
ろう付け時、リン銅ろうが加熱されて溶融し始めると、遊離したリンが台材上の酸化皮膜を還元してろうのぬれ性を向上させ、ろうの表面を覆ってセルフフラックス機能を発揮する。この時、リンはろう中と台材中に拡散すると共にガスとなって揮発して大気に放出され、その役目を終える。
【0008】
つまり、リン銅ろうは、一度溶融してしまうと、そのセルフフラックス機能が低下してしまい、再び加熱したときに、そのセルフフラックス機能は従来持っている機能から低下したものとなってしまうことになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようなフープ状の接点材料の裏面にフープ状のリン銅ろうを張り合わせた従来技術においては、接点材料とリン銅ろうを接合する際に、リン銅ろうを一度加熱、溶融することによりリンが揮発してしまうことになり、セルフフラックス機能がそこで低下してしまうことになる。
【0010】
そのため、台材と接点材料との接合において、再び加熱したときに本来のセルフフラックス機能が低下しているために接合部において欠陥が発生してしまい、結果として、接点が電気的な開閉にさらされたときに、接点の剥離消耗の要因となってしまうことになる。そのために、完全なろう付けを望む場合にはフラックスを使用してろう付けをする必要がある。
【0011】
本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明は、接点材料の裏面にリン銅ろうを貼り合わせる工程において、形状(断面形状も含む。)もしくは組成に違いを持たせた2種類のリン銅ろうを重ねて用いることにより、それら2種類のリン銅ろうの溶融までの時間(タイミング)を異ならせ、一方のリン銅ろうのみを先に溶融させて、他方のリン銅ろうが溶融する前に、未溶融状態のリン銅ろうと接点材料とを貼り合わせるものである。
【0013】
このようにリン銅ろうを貼り合わせた接点材料を用いることにより、溶融前のリン銅ろうのセルフフラックス機能を保持したまま、接点材料と台材との接合工程に進むことができ、接点材料と台材の接合部分において欠陥のない接合を提供することが可能となる。
【0014】
組成に違いを持たせる場合は、2種類の組成の異なるリン銅ろうを用意する。使用するリン銅ろうの種類は、BCuP−1、BCuP−2、BCuP−3、BCuP−4、BCuP−5、BCuP−6の中から融点の差を適宜選んで組み合わせる。
【0015】
この場合は、2種類の組成の異なるリン銅ろうのそれぞれの融点の差を利用して、一方のリン銅ろうが他方のリン銅ろうよりも低い温度で溶解するように設定しておき、融点の低い方のリン銅ろうを接点材料に直接合わせるようにして、二つのリン銅ろうを重ねて加熱することにより、融点の低いリン銅ろうが溶解して融点の高いリン銅ろうを未溶融状態で接点材料に貼り合わせることができる。なお、この場合、融点の高いリン銅ろうのすべてが未溶解状態でなく、一部溶解した状態となってもよい。
【0016】
形状に違いを持たせる場合は、厚さの異なる2種類のリン銅ろうを用いて、せん熱の違いを利用して溶融する時間に差を設ける。この場合、2種類のリン銅ろうの成分は同じでもよいし、異なっていてもよいものであり、使用するリン銅ろうの種類は、BCuP−1、BCuP−2、BCuP−3、BCuP−4、BCuP−5、BCuP−6の中から適宜に選択することができる。
【0017】
この場合、溶融までの時間の短い薄い方のリン銅ろうを、接点材料に直接合わせるようにして、二つのリン銅ろうを重ねて加熱することにより、薄い方のリン銅ろうが先に溶解して、未溶解状態の厚い方のリン銅ろうを接点材料に貼り合わせることができる。この場合も、厚い方のリン銅ろうのすべてが未溶解状態でなく、一部溶解した状態となってもよい。
【0018】
また、厚さの相違だけでなく、二つのリン銅ろうの大きさや波型等の変形断面形状を異ならせることにより、溶融し始める時間を変えることにより、上述の場合と同様に一方のリン銅ろうを未溶解状態のまま接点材料に貼り合わせることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の方法によって製造した電気接点材料によると、台材との接合部における欠陥率(接合面積中に占める空孔面積の割合)を、5%以下に減少させることができた。
【0020】
また、この電気接点材料と台材の接合品を電磁接触器に組み込み、電気的寿命試験を行った結果、従来品に比べ、剥離消耗の発生率を3分の1以下の頻度に抑えることができると共に消耗量も2分の1以下に抑えることができ、その結果、電磁接触器の電気的寿命の大幅な向上を可能にした。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施例を説明図を用いて説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は説明図であり、図において、1は、板状のBCuP−5のリン銅ろう、2は、板状のBCuP−4のリン銅ろうである。なお、BCuP−5のリン銅ろう1の融点は約655°C、BCuP−4のリン銅ろう2の融点は約640°Cである。
【0024】
3は、接点材料であり、Ag−SnO
2−In
2O
3系の接点基材5の片面にAg層4が形成されている。接点材料3のAg層4面にBCuP−4のリン銅ろう2を合わせ、そのBCuP−4のリン銅ろう2上にBCuP−5のリン銅ろう1を重ねて、炉内で640°C付近まで加熱する。これにより、BCuP−4のリン銅ろう2が溶融し、未溶融状態のBCuP−5のリン銅ろう1を貼り合わせた裏ろう貼り電気接点材料6とすることができる。
【0025】
電気接点材料を台材に接合するろう付け工程においては、未溶融状態のBCuP−5のリン銅ろう1を貼り合わせた電気接点材料6を用いることにより、BCuP−5のリン銅ろう1を溶融させて台材に接合させることができるので、その際にBCuP−5のリン銅ろう1のセルフフラックス機能が発揮されることになる。
【0026】
上記と同様の方法により、2種類のリン銅ろうを様々に組み合わせた例を表1に示す。これらの例も、上述と同様に、用意した2種類のリン銅ろうのうち、融点の低い方のリン銅ろうで融点の高い方のリン銅ろうを接点材料に貼り付けることにより、セルフフラックス機能を保持し、ろう付け可能な電気接点材料を提供することができる。
【実施例2】
【0027】
図2に示すように、厚さの異なる2種類の板状のリン銅ろう7、8を用意する。この2つのリン銅ろうは、本実施例では材質は同じであり、この説明ではそれぞれBCuP−5のリン銅ろうを用いるものとする。なお、材質が異なるリン銅ろうを用いてもよい。
【0028】
この2種類のリン銅ろう7、8は、それぞれの板厚が異なり、リン銅ろう7は0.1mm、リン銅ろう8は0.05mmとする。本実施例は、同じ材質であっても厚さを変えることにより、せん熱の差を持たせ、それによって2種類のリン銅ろうが溶融し始める温度に差をもたせるものである。
【0029】
まず、実施例1と同様に、片面にAg層4を設けたAg−SnO
2−In
2O
3系の接点基材5からなる接点材料を用意する。
【0030】
次に、接点材料3のAg層4面に板厚の薄いリン銅ろう8を合わせ、そのリン銅ろう8上に板厚の厚いリン銅ろう7を重ねて、炉内で融点である655°Cに加熱することにより、板厚の薄いリン銅ろう8が先に溶融して、未溶融状態のリン銅ろう7を貼り合わせた裏ろう貼り電気接点材料6とすることができる。
【0031】
このようにして製作したBCuP−5のリン銅ろう7を貼り合わせた電気接点材料6を台材に接合するろう付け工程においては、このBCuP−5のリン銅ろう7を溶融させて接合させることができ、その際にBCuP−5のリン銅ろう7のセルフフラックス機能が発揮されることになる。
【0032】
上記と同様の方法により、2種類のリン銅ろうを様々に組み合わせた例を表1に示す。これらについても、上記と同様に、用意した厚さの異なる2種類のリン銅ろうの内、せん熱が低い方のリン銅ろうでせん熱の高い方のリン銅ろうを接点材料に貼り付け、セルフフラックス機能を保持させたろう付け可能な電気接点材料とすることができる。
【0033】
つぎに、本発明の有効性の確認として、従来方法で作製した電気接点材料と台材を接合したものとの比較評価の結果を述べる。
【0034】
従来方法では、予め片面にAg層を設けたAg−SnO
2−In
2O
3系の接点基材からなる接点材料を用意し、そのAg面にリン銅ろうを合わせ、加熱溶融させて接点材料に接合させる。
【0035】
このようにした接点材料と台材のろう付け工程では、このリン銅ろうを再び溶融させて接点材料と台材を接合させることになる。したがって、接点材料にリン銅ろうを接合させるに際しては、リン銅ろうを一度溶融させているために、その電気接点材料と台材を接合する工程ではリン銅ろうは二度目の溶融となり、リン銅ろうのセルフフラックス機能は低下している。
【0036】
本発明と従来技術によるそれぞれの製品の比較評価は、電気接点材料と台材の接合後のろう付け部の欠陥率、電磁接触器に搭載して電気的寿命試験による電気接点材料の剥離消耗の発生頻度および接点の消耗量について比較、評価した。
【0037】
その結果を表1に示す。その結果、本発明による製品は、従来技術による製品と比較して、欠陥率、剥離消耗の発生頻度および電気接点材料の消耗量のすべてにおいて優れた効果がみられる。
【0038】
【表1】
【符号の説明】
【0039】
1 リン銅ろう
2 リン銅ろう
3 接点材料
4 Ag層
5 接点基材
6 ろう貼り電気接点材料
7 リン銅ろう
8 リン銅ろう