特許第5722951号(P5722951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722951
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】ポリイミド誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   C08G73/10
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-124896(P2013-124896)
(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公開番号】特開2015-889(P2015-889A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2014年8月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513150029
【氏名又は名称】堀田 寛史
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】堀田 寛史
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭46−041608(JP,B1)
【文献】 中国特許出願公開第103113583(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103102488(CN,A)
【文献】 特開2004−018279(JP,A)
【文献】 特開平09−268253(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00639612(EP,A1)
【文献】 特開昭63−162723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10−73/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラカルボン酸二無水物と、
(B)ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物の少なくとも一種
とを重付加反応させてポリアミドイミド(PAI)を製造することを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法。
【請求項2】
化合物(A)がテトラカルボン酸二無水物であり、
化合物(C)がビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサジン類よりなる群から選ばれたイミノエーテル化合物の少なくとも一種であって、
溶剤の存在下で上記化合物(A)と、上記化合物(C)とを予備重付加反応させて中間体ポリマーの液状組成物を得る第一工程と、少量の溶剤の存在下又は無溶剤下で上記中間体ポリマーをイミド化転位反応させて成膜体又は成形体を得る第二工程とからなることを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法。
【請求項3】
(A)テトラカルボン酸二無水物と、
(B)ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物の少なくとも一種と、
(C)ビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサジン類よりなる群から選ばれたイミノエーテル化合物の少なくとも一種
とを重付加反応させてポリエステルアミドイミド(PEAI)を製造することを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法。
【請求項4】
溶剤の存在下で化合物(A)と、
ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物(B)の少なくとも一種とを
重付加反応させて液状組成物を得ることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド誘導体の製造方法。
【請求項5】
溶剤の存在下で化合物(A)と、
ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物(B)の少なくとも一種とを
予備重付加反応させて中間体ポリマーの液状組成物を得る第一工程と、
少量の溶剤の存在下又は無溶剤下で上記中間体ポリマーをイミド化転位反応させて成膜体又は成形体を得る第二工程とからなることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド誘導体の製造方法。
【請求項6】
ビス型のイミダゾリン類(B)が、2,2′−ビ(2−イミダゾリン)、2,2′−(エチレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′−(テトラエチレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′−(1,3−フェニレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′−(1,4−フェニレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′(1,3−フェニレン)ビス(1−メチル−2−イミダゾリン)、2,2′(1,3−フェニレン)ビス(1−エチル−2−イミダゾリン)、2,2′(1,4−フェニレン)ビス(1−メチル−2−イミダゾリン)、2,2′(1,4−フェニレン)ビス(1−エチル−2−イミダゾリン)よりなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
トリス型のイミダゾリン類(B)が、1,3,5-トリス(2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-エチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼンよりなる群から選ばれた少なくとも一種であり、トリス型のテトラヒドロピリミジン類(B)が1,3,5-トリス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)ベンゼンであることを特徴とする請求項1、3、4又は5に記載のポリイミド誘導体の製造方法。
【請求項7】
ビス型のオキサゾリン類(C)が、2,2′−(1,3−フェニレン)ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−(1,4−フェニレン)ビス(2−オキサゾリン)よりなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
トリス型のオキサゾリン類(C)が1,3,5-トリス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼンであることを特徴とする請求項2又は3に記載のポリイミド誘導体の製造方法。
【請求項8】
テトラカルボン酸二無水物(A)が、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェニル)フェニル]フルオレン二無水物、末端に無水コハク酸基を有するポリイミドオリゴマー、末端に無水フタル酸基を有するポリイミドオリゴマー、末端に無水コハク酸基を有するポリアミドイミドオリゴマー、末端に無水フタル酸基を有するポリアミドイミドオリゴマーよりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEI)及びポリエステルアミドイミド(PEAI)よりなるポリイミド誘導体の製造方法に関して、反応生成物に水、低級アルコール、二酸化炭素などの揮発性低分子化合物の副生がないため、クレーターやボイドの発生を解消して機械的強度及び耐熱性に優れたフィルム成形体、熱圧縮成形体を製造することができるとともに、接着力に優れた熱圧着接着剤を製造できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(PI)は、耐熱性、力学強度、耐薬品性及び絶縁性等の特性に優れているため、航空宇宙材料、自動車部品材料、耐熱材料、電子材料などに多用されているが、耐薬品性や耐熱性に優れる点が逆にネックとなって、溶剤に不溶、熱的にも不融で成形加工性に劣るという欠点がある。
このため、実用上ポリイミドの成形体を製造するには、殆どの場合、先ず、芳香族又は脂肪族のテトラカルボン酸と芳香族又は脂肪族のジアミンを反応させてポリアミド酸前駆体を製造した後、この前駆体の溶液を支持体にキャストして成膜し、溶剤を蒸発させ、加熱による熱イミド化、又は無水酢酸の脱水作用に基づく化学イミド化反応によりポリイミドフィルムを製造している。しかしながら、これらはポリアミド酸を中間体としているため、水分子の脱離を伴い、フィルムにボイドなどの欠陥が生じることを回避できない。
また、ポリアミド酸を前駆体とし、溶剤を伴わないその他の成形法、例えば熱圧縮成形でも、ポリアミド酸を経由するイミド化反応自体が水分子の脱離を伴う縮合反応であるため、成形体内にボイドを生じるなどの弊害がある。
【0003】
一方、ポリイミドの高分子主鎖中にアミド結合やエステル結合を導入すると耐熱性はやや劣るが、ポリイミドの欠点である不溶、不融性が改良されることが知られており、例えば、ある種のポリアミドイミドは分解開始温度が362℃、10%重量減温度が410℃で、実用上充分な耐熱性と溶剤溶解性を具備している。
ポリアミドイミド(PAI)の製造方法は、「酸クロライド法」と「イソシアネート法」に大別され、「酸クロライド法」では、例えば、トリメリット酸クロライドとジアミノジフェニルメタンを反応させてポリアミド酸を得、これを加熱脱水し、環化イミド化してPAIを合成する(例えば、特開2000−063520号公報参照)。また、「イソシアネート法」では、例えば、無水トリメリット酸とジフェニルメタンジイソシアネートとを反応させてPAIを合成する。
これらはいずれも重縮合反応を特徴とし、イミド結合の生成に際して、「酸クロライド法」では水が、「イソシアネート法」では炭酸ガスが夫々脱離・副生する。
【0004】
そこで、公報の引用により、PAIやPEIなどのポリイミド誘導体を製造する従来技術を説明すると、次の通りである。
例えば、特許文献1では、芳香族テトラカルボン酸とビスオキサゾリンとを重合させてポリエステルアミド酸の溶媒溶液を得て(請求項1)、このポリエステルアミド酸溶液を加熱又は他の方法(溶液注型法など)でイミド化し、架橋することで、ポリエステルイミド(PEI)フィルムを製造している(請求項8、段落22、31、17)。
上記反応の特徴は、ポリエステルアミド酸を経由したイミド化反応によるPEIの生成にあり(段落22参照)、重縮合反応を基本原理とするものと思われる。尚、上記芳香族テトラカルボン酸の適切な例としてビフェニルテトラカルボン酸が挙げられ(段落26参照)、また、芳香族テトラカルボン酸成分の一部として用いられる他のテトラカルボン酸の例に二無水物が挙げられる(段落29参照)。
【0005】
特許文献2では、芳香族アミドと、芳香族カルボン酸無水物及びフェニルエチニル基で置換された芳香族カルボン酸無水物との反応により芳香族ポリアミドイミド前駆体を生成し、ポリアミド酸に属する当該前駆体を固体のまま加熱、又は溶液中で加熱、或いは脱水剤を用いて化学的に脱水閉環させて、芳香族ポリアミドイミド(PAI)を生成している(段落24〜25、段落29〜30)。
【0006】
また、特許文献3では、エステル結合とアミド結合を有するテトラカルボン酸二無水物と、芳香族又は脂肪族ジアミンとを反応させて前駆体としてのポリアミド酸を製造し、当該ポリアミド酸を加熱脱水イミド化し、或いは化学イミド化することで、ポリイミドの高分子主鎖中にアミド基とエステル基を同時に導入してポリエステルアミドイミド(PEAI)を製造している。
【0007】
以上のように、耐熱性や成形加工性に優れたPAIやPEIなどのポリイミド誘導体を開示又は提案している従来の製法は、ともに重縮合法に拠るものである。
重縮合法によりPAIやPEIを製造すると、加熱圧縮成形やトランスファー成形などで成形体を得る際に、脱離した低分子量化合物が成形体から排出されず、ボイドや表面荒れなどの成形不良や機械的強度の低下の原因になり、熱圧着型接着剤への応用に際しては、接着不良の原因になる。
また、PAIを与えるポリアミドアミド酸前駆体、PEIを与えるポリエステルアミド酸などを溶剤に溶解したワニスを調製し、これをキャストし、熱イミド化してフィルムを得る方法があるが、やはり、重縮合法ゆえに、急速熱イミド化の際、或いは膜厚フィルム作成の際に、脱離した低分子量化合物の揮散でピンホールやクレーター状の気泡痕跡を生じて外観不良となる。
PAIやPEIを製造する場合、イミド化反応並びに高分子量化が完結したポリマー自体を溶剤に溶解してワニスとして利用することも行われるが、高分子量化でワニス粘度が増大するため、高濃度にするには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-262367号公報
【特許文献2】特開2005−239838号公報
【特許文献3】特開2010-111783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、重縮合反応ではなく、揮発性の低分子量化合物の副生を伴わない別種の方法で、ボイドや表面荒れなどの成形不良がなく、機械的強度や耐熱性が改善されたポリアミドイミド、ポリエステルイミド、或いはポリエステルアミドイミドの各種ポリイミド誘導体を製造できる新たな方法の開発を技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、水分子などの脱離を属性とする重縮合反応によることなく、重付加反応に基づく新たな製法を着想して、従来の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、テトラカルボン酸二無水物と、環状アミジン化合物及び/或いは環状イミノエーテル化合物との間で重付加反応が円滑に進行するという知見を得た。
そして、上記重合反応では、高分子主鎖中に耐熱性や機械的強度の物性を維持するイミド結合を可及的高濃度に組み込んだポリアミドイミド、ポリエステルイミド、或いはポリエステルアミドイミドを製造できること、水などの低分子量化合物の脱離がない分、ボイドや表面荒れのない成形フィルム、或いは接着不良のない熱圧着接着剤を製造できることを見い出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明1は、(A)テトラカルボン酸二無水物と、
(B)ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物の少なくとも一種
とを重付加反応させてポリアミドイミド(PAI)を製造することを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法である。
【0012】
本発明2は、化合物(A)がテトラカルボン酸二無水物であり、
化合物(C)がビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサジン類よりなる群から選ばれたイミノエーテル化合物の少なくとも一種であって、
溶剤の存在下で上記化合物(A)と、上記化合物(C)とを予備重付加反応させて中間体ポリマーの液状組成物を得る第一工程と、少量の溶剤の存在下又は無溶剤下で上記中間体ポリマーをイミド化転位反応させて成膜体又は成形体を得る第二工程とからなることを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法である。
【0013】
本発明3は、(A)テトラカルボン酸二無水物と、
(B)ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物の少なくとも一種と、
(C)ビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−オキサジン類よりなる群から選ばれたイミノエーテル化合物の少なくとも一種
とを重付加反応させてポリエステルアミドイミド(PEAI)を製造することを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法である。
【0014】
本発明4は、上記本発明1において、溶剤の存在下で化合物(A)と、
ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物(B)の少なくとも一種とを
重付加反応させて液状組成物を得ることを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法である。
【0015】
本発明5は、上記本発明1において、溶剤の存在下で化合物(A)と、
ビス或いはトリス型の2−置換−2−イミダゾリン類、ビス或いはトリス型の2−置換−2−テトラヒドロピリミジン類よりなる群から選ばれたアミジン化合物(B)の少なくとも一種とを
予備重付加反応させて中間体ポリマーの液状組成物を得る第一工程と、
少量の溶剤の存在下又は無溶剤下で上記中間体ポリマーをイミド化転位反応させて成膜体又は成形体を得る第二工程とからなることを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法である。
【0016】
本発明6は、上記本発明1、3、4又は5において、ビス型のイミダゾリン類(B)が、2,2′−ビ(2−イミダゾリン)、2,2′−(エチレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′−(テトラエチレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′−(1,3−フェニレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′−(1,4−フェニレン)ビス(2−イミダゾリン)、2,2′(1,3−フェニレン)ビス(1−メチル−2−イミダゾリン)、2,2′(1,3−フェニレン)ビス(1−エチル−2−イミダゾリン)、2,2′(1,4−フェニレン)ビス(1−メチル−2−イミダゾリン)、2,2′(1,4−フェニレン)ビス(1−エチル−2−イミダゾリン)よりなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
トリス型のイミダゾリン類(B)が、1,3,5-トリス(2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-エチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼンよりなる群から選ばれた少なくとも一種であり、トリス型のテトラヒドロピリミジン類(B)が1,3,5-トリス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)ベンゼンであることを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法である。
【0017】
本発明7は、上記本発明2又は3において、ビス型のオキサゾリン類(C)が、2,2′−(1,3−フェニレン)ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−(1,4−フェニレン)ビス(2−オキサゾリン)よりなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
トリス型のオキサゾリン類(C)が1,3,5-トリス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼンであることを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法。
【0019】
本発明8は、上記本発明1〜5のいずれかにおいて、テトラカルボン酸二無水物(A)が、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェニル)フェニル]フルオレン二無水物、末端に無水コハク酸基を有するポリイミドオリゴマー、末端に無水フタル酸基を有するポリイミドオリゴマー、末端に無水コハク酸基を有するポリアミドイミドオリゴマー、末端に無水フタル酸基を有するポリアミドイミドオリゴマーよりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とするポリイミド誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
テトラカルボン酸二無水物と、特定の環状アミジン化合物又は環状イミノエーテル化合物とを反応物に選択して重付加させるため、水や低級アルコールなどの低分子量化合物の脱離を伴うことなく、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、或いはポリエステルアミドイミドよりなるポリイミド誘導体を円滑に製造できる。
本発明の重付加反応では、前記特許文献1などの従来の重縮合方式とは異なり、揮発性の低分子量化合物が副生しないため、キャスト法によるフィルム作成の際には、ピンホールやクレーター等の気泡痕跡の欠陥がなく、平滑な表面のフィルム成形体を容易に製造できる。加熱圧縮成形やトランスファー成形に際しては、ボイドや表面荒れがなく、機械的強度や耐熱性の低下がない成形体を製造できる。
また、気泡痕跡の欠陥がない分、接着不良のない熱圧着接着剤を製造できる。
【0026】
本発明の重付加反応では、一連の反応を溶液中で進行させて生成物を塗料用などの液状組成物(ワニス)としてそのまま利用することもでき、中間体ポリマーの液状組成物を得た後、キャスト法により、成膜後加熱処理を施してイミド化転位しフィルムを成形することもできる。
この場合、化合物(A)に末端酸無水物基を有するオリゴマーを使用すると、適正な粘度のワニスを効率良く製造できる利点があり、また、中間体ポリマーの液状組成物にトリス型の化合物(B)及び/又は(C)を添加してイミド化すると、架橋構造の導入によりポリイミド誘導体の機械的特性や耐薬品性を改善できる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、第一に、(A)テトラカルボン酸二無水物と、(B)ビス或いはトリス型の5員環又は6員環のアミジン化合物とを重付加反応させてポリアミドイミド(PAI)を製造する方法であり(本発明1参照)、第二に、上記(A)成分と、(C)ビス或いはトリス型の5員環又は6員環のイミノエーテル化合物とを重付加反応させ、その際に予備反応で得られた中間体ポリマーをイミド化転位させる2段階反応方式によりポリエステルイミド(PEI)を製造する方法であり(本発明2参照)、第三に、上記(A)成分と、(B)成分と、(C)成分とを重付加反応させてポリエステルアミドイミド(PEAI)を製造する方法である(本発明3参照)。
即ち、本発明2は上記2段階方式(後述する第二の実施形態に該当)による重付加反応であるが、本発明1又は3ではこのような制約はない。
本発明のポリイミド誘導体は、上記PAI、PEI及びPEAIを包含する上位概念である。PAIはポリマーの繰り返し単位の中にイミド結合単位を必須としてアミド結合単位が併存するものを、同じくPEIはエステル結合単位が併存するものを、同じくPEAIはエステル結合単位及びアミド結合単位が併存するものをいう。
【0028】
上記本発明1において、環状アミジン化合物(B)は、一つの炭素に二重結合で窒素原子が一つ、単結合で窒素原子が一つ付いている環状化合物であり、ビス或いはトリス型の5員環又は6員環アミジン化合物から選択される。5員環アミジン化合物(B)二つの窒素原子を含む5員環複素環式化合物に属するイミダゾリン類であり、6員環アミジン化合物(B)は二つの窒素原子を含む6員環複素環式化合物に属するテトラヒドロピリミジン類である
また、上記本発明2において、環状イミノエーテル化合物(C)は、一つの炭素に二重結合で窒素原子が一つ、単結合で酸素原子が一つ付いている環状化合物であり、ビス或いはトリス型の5員環又は6員環イミノエーテル化合物から選択される。5員環イミノエーテル化合物(C)一つの窒素原子と一つの酸素原子を含む5員環複素環式化合物に属するオキサゾリン類であり、6員環イミノエーテル化合物(C)一つの窒素原子と一つの酸素原子を含む6員環複素環式化合物に属するオキサジン類である
【0029】
本発明の環状アミジン化合物(B)又は環状イミノエーテル化合物(C)は、次の一般式(I)で表わすことができる。
【0030】
【化1】
【0031】
一般式(I)において、Rは存在しないか、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは脂環式のアルキル基、又は炭素数6〜25の芳香族炭化水素基、若しくはアルキル置換芳香族炭化水素基である。ここで、Rが存在しないというのは、一般式(I)の左右の環状構造がRなしで直接結合していることを意味する。
また、前記アルキル基と芳香族炭化水素基はそれぞれ独立に直接結合しているか、又はメチレン基(−CH2−)、ジメチルメチレン基(−C(CH3)2−)、ジ(トリフルオロ)メチレン基(−C(CF3)2−)、エーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、スルホン基(−SO2−)、アミド基(−NH(CO)−)、エステル基(−COO−)の一種以上及び1個以上を介して結合していても良い。
環状構造のXはNR1で表されるアミノ基残基、またはO(酸素原子)を示す。ここで、R1はH(水素原子)、又はR′で表される炭素数1〜8の直鎖状、分岐状若しくは脂環式のアルキル基、又は炭素数6〜9の芳香族炭化水素基、若しくはアルキル置換芳香族炭化水素基を示す。
環状構造に結合するR2、R3、R4、R5はそれぞれ独立にH(水素原子)、又は炭素数1〜8の直鎖状、分岐状若しくは脂環式のアルキル基、又は炭素数6〜9の芳香族炭化水素基、若しくはアルキル置換芳香族炭化水素基であって、R2、R3のうちの一つとR4,R5のうちの一つが互いに任意の位置で結合して、5〜7員環の飽和又は不飽和炭化水素の環状構造を形成しても良い。
また、m、nは夫々1又は2の整数であり、且つ、mとnは同じ数値をとり、m=nである。pは1又は2の整数である。上記一般式(I)で表される化合物は、p=1ではビス体、p=2ではトリス体である。m=n=1のときは環状構造は5員環、m=n=2では6員環である。
【0032】
本発明では、例えば、ビス型の5員環アミジン化合物(B)の場合、イミノ基の炭素原子の位置は5員環のうちの2位であり、且つ、ビス置換の位置も5員環のうちの2位であり、このビス型化合物(B)は2−置換−2−5員環アミジン化合物に限定される。
上記イミノ基の位置とビス置換の位置が限定される点は、ビス型6員環アミジン化合物(B)の場合についても同様であり、6員環のうちのイミノ基の炭素原子とビス置換の位置は夫々2位の位置の化合物に限定され、トリス型の5員環又は6員環アミジン化合物(B)についても同様に夫々2位の化合物に限定される。
また、イミノ基の炭素原子の位置とビス置換の位置については、ビス或いはトリス型の5員環又は6員環イミノエーテル化合物(C)の場合も、アミジン化合物(B)と同様に、イミノ基の炭素原子の位置及びビス置換の位置ともに、5員環又は6員環の夫々2位の位置の化合物に限定される。
【0033】
上記5員環のイミダゾリン類(上式(I)において、X=NR1、m=n=1)としては、2,2′-ビ(2-イミダゾリン)、2,2′-ビ(4-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′-ビ(5-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′-(エチレン)ビス-(2-イミダゾリン)、2,2′-(テトラメチレン)ビス-(2-イミダゾリン)、2,2′-(ヘキサメチレン)ビス-(2-イミダゾリン)、2,2′-(オクタメチレン)ビス-(2-イミダゾリン)、2,2′-(1,4-シクロへキシレン)ビス-(2-イミダゾリン)、2,2′(1,2-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(4-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(5-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(4-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(5-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-エチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-フェニル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(1-エチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(1-フェニル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-5-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-5-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-4、5-ジフェニル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-4、5-ジフェニル-2-イミダゾリン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(1H-ベンゾイミダゾール)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1H-ベンゾイミダゾール)、1,3,5-トリス(2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-エチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼンなどが挙げられる。
このうち、2,2′-ビ(2-イミダゾリン)、2,2′-(エチレン)ビス-(2-イミダゾリン)、2,2′-(テトラメチレン)ビス-(2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(5-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(5-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-エチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-2-イミダゾリン)、2,2′(1,4-フェニレン)ビス(1-エチル-2-イミダゾリン)1,3,5-トリス(2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-エチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼンが好ましい。
【0034】
上記6員環のテトラヒドロピリミジン類(上式(I)において、X=NR1、m=n=2)としては、2,2′-ビ[1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン]、2,2′-ビ[4-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン]、2,2′-ビ[5-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン]、2,2′-(エチレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン) 2,2′-(テトラメチレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(ヘキサメチレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(オクタメチレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-シクロへキシレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(4-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(5-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(6-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-フェニレンン)ビス(4-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(5-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(6-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、1,3,5-トリス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)ベンゼンなどが挙げられる。
このうち、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)、1,3,5-トリス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)ベンゼンが好ましい。
【0035】
上記5員環のオキサゾリン類(上式(I)において、X=O、m=n=1)としては、2,2′-ビ(2-オキサゾリン)、2,2′-ビ(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビ(5-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-(エチレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(テトラメチレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(ヘキサメチレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(オクタメチレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(1,4-シクロヘキシレン)ビス-(2-オキサゾリン)、2,2′-(1,2-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(5-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(5-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-(1,2-フェニレン)ビス(2-ベンゾオキサゾール)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-ベンゾオキサゾール)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(2-ベンゾオキサゾール)、1,3,5-トリス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼンなどが挙げられる。
このうち、2,2′-(エチレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(テトラメチレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン) 、1,3,5-トリス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼンが好ましい。
【0036】
上記6員環のオキサジン類(上式(I)において、X=O、m=n=2)としては、5,5′,6,6'-テトラヒドロ-2,2'-ビ[4H-1,3-オキサジン]、4-メチル-5,5′,6,6′-テトラヒドロ-2,2′-ビ[4H-1,3-オキサジン]、5-メチル-5,5′,6,6′-テトラヒドロ-2,2′-ビ[4H-1,3-オキサジン]、6-メチル-5,5′,6,6′-テトラヒドロ-2,2′-ビ[4H-1,3-オキサジン]、2,2′-(エチレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(テトラメチレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(ヘキサメチレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,4-シクロへキシレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(4-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(5-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(6-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(4-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(5-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(6-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジンなどが挙げられる。
このうち、2,2′-(テトラメチレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン) 2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)が好ましい。
【0037】
そこで、上述で列挙した具体的な化合物を前記一般式(I)で表される化合物に基づいて説明する。
(1)一般式(I)において、X=NH、Rはなし、m=n=1、p=1、R2、R3、R4、R5が水素の場合、上式(I)の化合物は5員環の2,2′-ビ(2-イミダゾリン)であり、次式で表される。
【0038】
【化2】
【0039】
(2)一般式(I)において、X=NCH3、R=1,3-フェニレン基、m=n=1、p=1、R2、R3、R4、R5が水素の場合、上式(I)の化合物は5員環の2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-2-イミダゾリン)であり、次式で表される(後述の実施例1参照)。
【0040】
【化3】
【0041】
(3)一般式(I)において、X=NH、R=1,4-フェニレン基、m=n=1、p=1、R2、R3、R4、R5が水素の場合、上式(I)の化合物は5員環の2,2′(1,4-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)であり、次式で表される(後述の実施例4参照)。
【0042】
【化4】
【0043】
(4)一般式(I)において、X=NCH3、R=1,3,5-トリ置換フェニル基、m=n=1、p=2、R2、R3、R4、R5が水素の場合、上式(I)の化合物は5員環の1,3,5-トリス(1-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼンであり、次式で表される(後述の実施例5参照)。
【0044】
【化5】
【0045】
(5)一般式(I)において、X=NCH3、R=1,4-フェニレン基、m=n=2、p=1、R2、R3、R4、R5が水素の場合、上式(I)の化合物は6員環の2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)であり、次式で表される(後述の実施例5参照)。
【0046】
【化6】
【0047】
(5)一般式(I)において、X=O、R=1,3-フェニレン基、m=n=1、p=1、R2、R3、R4、R5が水素の場合、上式(I)の化合物は5員環の2,2′(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)であり、次式で表される(後述の実施例6参照)。
【0048】
【化7】
【0049】
(6)一般式(I)において、X=O、R=1,3-フェニレン基、m=n=2、p=1、R2、R3、R4、R5が水素の場合、上式(I)の化合物は6員環の2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3オキサジン)であり、次式で表される。
【0050】
【化8】
【0051】
本発明に用いるテトラカルボン酸二無水物(A)は、脂肪族、脂環式、或いは芳香族のテトラカルボン酸二無水物から選択できる。但し、このテトラカルボン酸二無水物(A)は、ビシナル(vicinal)、つまり二つの隣接する炭素原子に結合したカルボキシル基同士の間の無水物をいう。
上記化合物(A)には、無水コハク酸基又は無水フタル酸基を末端に有する重合体、具体的には、無水コハク酸基又は無水フタル酸基を末端に有するポリイミドオリゴマー、無水コハク酸基又は無水フタル酸基を末端に有するポリアミドイミドオリゴマーを選択することもできる。
上記脂肪族、又は脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物などが挙げられ、耐熱性とワニスの溶剤溶解性の観点から、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ベンゾフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(1,2-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニルエタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェニル)フェニル]フルオレン二無水物、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンビス(アンヒドロトリメリテート)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4′-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)オクタフルオロビフェニル二無水物などが挙げられる。
このうち、耐熱性と機械的特性の観点からは、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が好ましく、ワニスの溶剤溶解性の観点からは、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェニル)フェニル]フルオレン二無水物が好ましい。
【0052】
例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)は次式で表される(後述の実施例1、3、6など参照)。
【化9】
【0053】
また、3,3′,4,4′-ベンゾフェニルテトラカルボン酸二無水物は次式で表される(後述の実施例5参照)。
【化10】
【0054】
上記化合物(A)のうち、前記末端に無水コハク酸基又は無水フタル酸基を有する重合体とは、高分子主鎖の結合がイミド結合、アミド結合、又はエステル結合から構成され、その少なくとも片末端に無水コハク酸基又は無水フタル酸基を有する比較的低分子量の重合体、即ちオリゴマーを意味するが、両末端に無水コハク酸基又は無水フタル酸基を有するオリゴマーが好ましい。
この末端酸無水物基オリゴマーの場合、片末端が無水コハク酸基であり、反対側の末端が(無水物構造でない)カルボキシル基であっても、ビスイミダゾリンやビスオキサゾリンはこの末端のカルボキシル基と反応してアミドアミドやアミドエステルを形成できるため、両末端型ではなく、片末端型の酸無水物基オリゴマーであってもビスイミダゾリンやビスオキサゾリンとの間で必ずイミド結合の生成を伴いながら高分子主鎖を延ばしてポリイミド誘導体を生成することができる。
本発明で好適に使用される末端に無水コハク酸基(又は無水フタル酸基)を有するオリゴマーは、高分子主鎖がイミド結合で構成される末端無水コハク酸(又は無水フタル酸基)ポリイミドオリゴマー、又は高分子主鎖がアミド結合及びイミド結合で構成される末端無水コハク酸(又は無水フタル酸基)ポリアミドイミドオリゴマーであり、分子量が500〜50,000、好ましくは1000〜30,000のものである。
上記末端無水コハク酸(又は無水フタル酸基)ポリイミドオリゴマーは公知の方法で製造することができ、例えば、テトラカルボン酸二無水物が過剰のモル比でジアミン化合物とのイミド化反応で得ることができる。また、末端無水コハク酸(又は無水フタル酸基)ポリアミドイミドオリゴマーは、例えば無水トリメリット酸過剰のモル比でジイソシアネート化合物との脱炭酸アミドイミド化反応で得ることができる。
前述の通り、上記オリゴマーは両末端に酸無水物基を有する重合体が好ましいが、この場合、例えば、両末端が酸無水物基であることを確実にするため、第一段反応では、ジイソシアネート過剰で無水トリメリット酸と反応させ、両末端がイソシアネート基のポリアミドイミドを得るとともに、第二段反応では、この両末端イソシアネート基をテトラカルボン酸二無水物と反応させて両末端に酸無水物基を導入することが望ましい。
【0055】
本発明の特徴は、テトラカルボン酸二無水物(A)と、特定の環状アミジン化合物(B)及び/又は環状イミノエーテル化合物(C)とを反応物として、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEI)、或いはポリエステルアミドイミド(PEAI)のポリイミド誘導体を重付加反応により生成する点にあり、ポリエステルアミド酸を経てPEIを得る冒述の特許文献1などとは重合方法が根本的に異なる。
そこで、テトラカルボン酸成分とビスオキサゾリンからPEIを重合する反応を代表例にとって、化学量論(stoichiometry)の観点から本発明と冒述の特許文献1とを対比・考察する。
先ず、特許文献1について、テトラカルボン酸成分が遊離酸型のピロメリット酸であり、ビスオキサゾリンが2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)である場合を具体例とした重合反応を示すと、次式の通りである。
【0056】
【化11】
【0057】
反応物の一方のピロメリット酸(遊離酸型)の分子式はnC10H6O8、反応物の他方の2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)はnC12H12N2O2であり、生成物のPEIは(C22H14N2O8)nである。
このため、反応物と生成物のstoichiometryを見ると、2n個のH2O分子を反応物に足さないと、生成物との間でstoichiometryは合致しないので、特許文献1の反応は、アミド酸からPEIへの転位に際して、H2O分子が脱離する重縮合反応であることが裏付けられる。
【0058】
一方、本発明について、テトラカルボン酸成分がピロメリット酸二無水物(PMDA)であり、ビスオキサゾリンが2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)である場合を具体例とした重合反応をstoichiometryの面から考察すると、反応物の一方のPMDAの分子式はnC10H2O6、他方の2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)はnC12H12N2O2であり、生成物のPEIは(C22H14N2O8)nであって、反応物と生成物のstoichiometryが合致するため、本発明の反応はH2O分子の脱離がない重付加反応であることが判断できる。
【0059】
そこで、上記stoichiometryの考察に加えて、本発明と特許文献1との重合反応の差異をさらに明確化するため、以下では、両者を反応メカニズムの観点から対比・考察する。
但し、本発明の反応メカニズムについては未だ不明な部分もあり、推定せざるを得ない点も多々あるが、ある種の中間体ポリマーを経由し、この中間体ポリマーがイミド化転位してポリイミド誘導体が生成するものと推定できる。
また、特許文献1にはポリエステルアミド酸の化学式が具体的に開示されていないため、その反応メカニズムについても推定せざるを得ない。
【0060】
先ず、推定される本発明の反応メカニズムは次式の通りである。
次式において、Pは化合物(A)と、化合物(B)又は(C)との重付加で得られる末端が無水コハク酸基である重合体の残基であり、P′は同様にして生成した末端が環状アミジン基又は環状イミノエーテル基の重合体の残基である。
【0061】
【化12】
【0062】
先ず、上記一般式(I)でX=Oである(即ち、一般式(I)がビス型オキサゾリン化合物である)場合を考えると、重付加反応においては、
(1)オキサゾリン化合物(C)の(電子供体としての)窒素原子のローンペアが、テトラカルボン酸二無水物(A)のカルボニル基の炭素原子を求核攻撃し、化合物(A)の無水物構造が開いてオキサゾリン化合物(C)の窒素原子と隣接の炭素原子の間で、7員環構造を有する1,3−オキサゼピン中間体ポリマー(II)が生成する。
(2)オキサゼピン中間体ポリマー(II)の窒素原子のローンペアが、7員環構造の対角側に位置する無水物構造由来のカルボニル基の炭素を攻撃し、中間体の一部を形成する7員環構造がイミド基構造に転位するとともに、このイミド化転位反応に伴ってオキサゾリン環由来のC2−N3結合が解裂してイミド基の反対側にエステル結合を生成し、ポリエステルイミド(IV)が生成するものと推定できる。
【0063】
次に、上記一般式(I)でX=NHの場合(例えば、一般式(I)がビス型イミダゾリン化合物の場合)を考えると、重付加反応においては、
(1)イミダゾリン化合物(B)の窒素原子のローンペアが、テトラカルボン酸二無水物(A)のカルボニル基の炭素原子を求核攻撃し、化合物(A)の無水物構造が開いて同構造の一方に位置するカルボニル炭素にイミダゾリン化合物(B)の窒素原子が結合してアミド基を形成するととともに、無水物構造の他方の炭素側はカルボキシル基となって環状アミジノアミド酸中間体ポリマー(III)が生成する。
(2)環状アミジノアミド酸中間体ポリマー(III)のイミダゾリン環由来の1位の窒素原子のローンペアが化合物(A)から生成したカルボキシル基のカルボニル炭素を攻撃してイミド基を形成する。これに伴って、イミダゾリン環のN1−C2結合の解裂と同時にカルボキシル基のOH基がイミダゾリン環のC2へ移動してイミノール基を形成し、次いでこれが異性化して最終的にイミド基の反対側にアミド結合を形成し、ポリアミドイミド(V)が生成するものと推定できる。
【0064】
重付加によりPEIを生成する際の具体的な反応メカニズムを示すと、例えば、化合物(A)がテトラカルボン酸二無水物であり、ビス型の5員環イミノエーテル化合物(C)が2,2′-(1,3-フェニレンン)ビス(2-オキサゾリン)(前記一般式(I)で、X=O、m=1、R2=R3=R4=R5=H)である場合、反応経路は次式に示す通りであり、(II-1)で示されるオキサゼピン中間体ポリマーを経て、この中間体が前述した分子内転位を起こしてポリエステルイミド(IV-1)を生成する。
このように、(化12)、或いは(化13)に示した反応過程では、反応物を構成する原子はすべて生成物に移行し、水などの低分子化合物が脱離することはない。
このため、本発明の反応形態は明らかに重縮合反応ではなく、重付加反応であることが分かる。
【0065】
【化13】
【0066】
これに対して、冒述の特許文献1は、芳香族テトラカルボン酸と芳香族ビスオキサゾリンを反応させて芳香族ポリエステルアミド酸を得(請求項1、段落22)、イミド化反応により芳香族ポリエステルイミドを製造する方法である(請求項8、段落22、段落31)。
同文献1には、芳香族ポリエステルアミド酸の化学式は具体的に開示されていないが、ポリエステルアミド酸からのイミド化転位という移行形態が明示されているため、冒述の特許文献3に開示されたポリアミド酸の構造(請求項3参照)を参照すると、ポリエステルアミド酸から最終生成物のポリエステルイミドへの反応経路は、次式に示すようなものと推定される。
【0067】
【化14】
【0068】
この反応経路によると、ポリエステルアミド酸(VI)のカルボキシル基のOHとアミド基の水素原子から水分子が脱離するとともに、2個のカルボニル炭素と1個の窒素原子からイミド環が生じ、ポリエステルイミド(IV-1)が生成する。つまり、特許文献1でのポリエステルイミドの製造では、ポリエステルアミド酸の一繰り返し単位毎に1分子の水の脱離が不可欠となり、反応形態は重縮合反応であることが分かる。
従って、本発明と特許文献1はポリイミド誘導体を製造する点では共通するが、特許文献1が重縮合反応であるのに対して、本発明は低分子化合物の脱離を伴わない重付加反応である点で反応形態は根本的に異なる。
【0069】
以上の通り、本発明の化合物(A)と、化合物(B)及び/又は(C)との重付加反応は、原理的に中間体ポリマーの生成過程とそのイミド化転位過程の二つから成る。
この場合、150℃以下の温度で、先ず、1,3-オキサゼピン中間体ポリマー(II)、又は環状アミジノアミド酸中間体ポリマー(III)が生成し、これらを更に高い温度、少なくとも160℃以上、好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200〜350℃の温度で加熱することにより、前記中間体ポリマーがイミド基への分子内の転位反応(イミド化転位反応)を起こし、イミド結合が生成するとともに、アミド結合及び/又はエステル結合を形成し、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEI)、或いはポリエステルアミドイミド(PEAI)の各種ポリマーが生成する。
尚、中間体ポリマーからPAI又はPEI等への転位反応は必ずしも定量的である必要はなく、得られるPAIやPEI等の耐熱性、機械的特性、耐薬品性などの必要とされる物性が保持されるかぎり、その主鎖中に未転位の1,3-オキサゼピン構造(II)や環状アミジノアミド酸構造(III)を残していても差し支えない。
【0070】
本発明3は、化合物(A)と化合物(B)と化合物(C)を重付加させてPEAIを生成するものであり、生成物はポリマーの繰り返し単位の中にイミド結合単位を必須とし、エステル結合単位とアミド結合単位が併存する。
但し、本発明1では、必須成分である化合物(A)と化合物(B)を重付加させてPAIを得ることを基本とするが、その際、化合物(B)にさらに化合物(C)を併用することを排除するものではなく、生成物はポリマーの繰り返し単位の中にイミド結合単位を必須とし、アミド結合単位が併存しながら、さらに少量のエステル結合単位が併存しても差し支えない。
この点は、化合物(A)と化合物(C)を重付加させてPEIを得ることを基本とする本発明2の場合も同様であり、その際に化合物(B)の併用を排除するものではなく、生成物はポリマーの繰り返し単位の中にイミド結合単位を必須とし、エステル結合単位が併存しながら、さらに少量のアミド結合単位が併存しても良い。
即ち、本発明3はPEAIの生成を基本とするのに対して、PAIの生成を基本とする本発明1では高分子主鎖中にエステル結合単位が共存し、また、PEIの生成を基本とする本発明2ではアミド結合単位が共存することを排除しない。
【0071】
本発明の重付加反応は、実施形態に応じて溶剤の存在下、又は不存在下で行う。
即ち、本発明の重付加反応で得られるポリイミド誘導体を液状組成物(ワニス)として利用する場合にはイミド化転位反応までを溶剤の存在下で行う(本発明4参照)。また、ポリイミド誘導体をキャストフィルムや成形体として利用する場合には、前段の中間体ポリマーの生成までは溶剤の存在下で行い、後段のイミド化転位反応は極少量の溶剤の存在下、又は無溶剤下で行う(本発明2及び5参照)。
上記溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、テトラメチル尿素、N-メチルカプロラクタム、ブチロラクタムなどのアミド系溶剤、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルホンなどの含硫黄系溶剤、ヘキサメチルホスホルアミドなどの含リンアミド系溶剤、ピリジン、ピコリンなどのアミン系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのエステル系溶剤、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、2,3-キシレノール、3,4-キシレノール、2,5-キシレノールなどのフェノール系溶剤が挙げられる。
このうち、溶解性と不活性性の観点から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノンが好ましい。
【0072】
この場合、上記オキサゼピン中間体ポリマー又は環状アミジノアミド酸中間体ポリマーの生成反応、イミド化転位反応は特別な触媒の不存在下でも円滑に進行するが、化合物(A)〜(C)を基準に0.03〜2モルの割合で触媒を使用しても差し支えない。
上記触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α-ピコリン、β-ピコリン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロウンデセンなどの塩基性触媒、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロトン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの酸性触媒が挙げられる。
【0073】
本発明では、溶剤の存在の有無に応じて、異なる実施形態でポリイミド誘導体を製造することを前述したが、以下、この点について、(a)〜(c)の三つの実施形態に大別して詳述する。
(a)第一の形態は、一連の反応を溶液中で進行させるものであり、生成混合物はそのままコーティング材料や塗料用の液状組成物(ワニス)として利用することができる(本発明4参照)。
重合反応は、テトラカルボン酸二無水物(A)と、環状アミジン(B)及び/又は環状イミノエーテル(C)とを共通の溶剤に溶解し、窒素雰囲気下で、(後段のイミド化転位工程では)少なくとも160℃以上の温度にて、7〜24時間反応させることにより達成できる。
この第一の実施形態では、テトラカルボン酸二無水物1モルに対し、環状アミジン又は環状イミノエーテルの合計のモル数の比率が0.95〜0.995ないしは1.005〜1.05、好ましくは0.96〜0.995ないしは1.005〜1.04の割合、すなわち等モルよりどちらかの反応基質がやや少ないモル数で行われる。
前記のモル数の比率が0.95未満ないしは1.05を超える場合は、得られるポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEI)又はポリエステルアミドイミド(PEAI)の分子量が小さく、機械的強度の物性が小さくなる傾向があり実用的でない。また、モル数の比率が0.995を超え1.005未満の範囲にある場合は分子量が大きくなりすぎて高粘度になって操作性が悪化したり不溶化する傾向がある。
重合反応で得られる溶剤可溶性のポリイミド誘導体の反応液はそのままの形態でワニスとして、絶縁コート材、耐熱コート材、塗料などの公知の用途に使用できる。
【0074】
(b)第二の実施形態は製造方法を第一工程と第二工程の二つに分けて実施するものであり(本発明5参照)、上記本発明2は当該第二の実施形態に属する。
第一工程では、テトラカルボン酸二無水物(A)と、環状アミジン(B)及び/又は環状イミノエーテル(C)とを共通の溶剤中で重付加させて中間体ポリマーの液状組成物を得る。
次いで、第二工程では、この液状組成物を金属、耐熱性プラスチック、セラミックスなどの耐熱性の支持体に塗布して、好ましくは窒素などの不活性雰囲気下でオーブン内やホットプレート上で徐々に昇温し、最終的に250℃以上の温度まで加熱することで、中間体ポリマーをイミド化転位するとともに、溶剤を蒸発させてフィルム状の成形体を得る。
この場合、上記第一工程は二つの役割を持ち、その一つは第二工程での支持体への均一な塗布に必要な適切な溶液粘度を得るためであり、他方は中間体ポリマーの生成までを予備的に実施することで第二工程の負担を軽減するためである。
この第二の形態では、前述したように、テトラカルボン酸二無水物(A)として末端に無水コハク酸基(又は無水フタル酸基)を有するポリイミドオリゴマー、又はポリアミドイミドオリゴマーを使用することができる。この特定の末端基を有するオリゴマーの使用時期については、特に制限はなく第一工程から使用できるが、この場合には、(A)成分としてオリゴマーを使用することで、第一工程の粘度付与と重合反応の負荷軽減の目的を既に達しているので、この面から重付加の操作を省略することができる。
【0075】
第二形態の第一工程においては、前記成分(A)と、(B)及び/又は(C)との溶剤溶液を、例えば80〜220℃の温度で5〜20時間予め反応させて、少なくともイミド化転位の前段階まで重付加させる。
しかしながら、必要に応じて、部分的なイミド化転位反応の段階まで予備反応させてから第二工程に供給しても良い。
本発明では、このようにイミド化転位まで達しない重付加させた液状組成物、或いは部分的にイミド化転位反応させた液状組成物を中間体ポリマー組成物と呼称する。
当該第二の実施形態では、化合物(A)と、化合物(B)及び/又は(C)との合計モル比は0.95〜1.05、好ましくは0.96〜1.04である。モル比が0.95より少ないか、或いは1.05を超えると、得られるポリイミド誘導体の分子量が小さくなりすぎ、機械的強度や耐薬品性などの物性が低下する恐れがある。
また、化合物(A)と、化合物(B)及び/又は(C)との合計含有量は、液状組成物中5〜35重量%、好ましくは8〜25重量%である。含有量が5重量%より少ないと溶剤コストなどの点で経済的でなく、35重量%を超えると液状組成物の粘度が上昇するため第二工程において均一塗布などの操作が困難になる恐れがある。
この第二の実施形態では、イミド化転位反応は主として第二工程で起こるが、その完結のためには、実質的に180℃以上、好ましくは200〜350℃、さらに好ましくは230〜310℃での加熱が必要である。180℃を下回る温度で加工を終えると、溶剤が完全に揮発せずに残存したり、イミド化転位反応が不完全なため、得られるポリイミド誘導体の機械的特性や耐薬品性が不十分なものになる。また、350℃を超える加工温度では経済的に不利である。
【0076】
一方、この第二の実施形態では、トリス型の環状アミジン化合物(B)及び/又はイミノエーテル化合物(C)を第一工程の途中、若しくは第二工程の前に添加することで、ポリイミド誘導体の機械的特性や耐薬品性を増すことができる
本発明において、化合物(A)と、ビス型の化合物(B)及び/又は(C)との重合反応では基本的にリニアポリマーが生成するため、溶剤溶解性の利点がある反面、耐薬品性などに問題があるが、上記トリス型の化合物(B)及び/又は(C)を第一工程の途中、或いはそれ以後に添加することで、架橋反応によりポリイミド誘導体を不溶、不融とし、耐薬品性などを改善することができる。但し、第一工程の初期から添加すると、架橋により重合途中でゲル化を起こして液状組成物の製造は困難になるので、添加は第一工程の途中、或いはそれ以後に限る。
上記トリス型(三官能)の化合物(B)又は(C)は、前述したように、上式(I)においてp=2で表され、化合物(B)及び/又は(C)の添加量は固形分に対し0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。
三官能環状アミジン化合物(B)としては、1,3,5-トリス(2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1-エチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)ベンゼンが好ましく、三官能環状イミノエーテル化合物(C)としては1,3,5-トリス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼンが好ましい。

【0077】
(c)第三の実施形態は熱可塑成形である。
これは、第一の実施形態の反応物溶液から再沈などの手段により分離精製して得た固形粉末、若しくは第二の実施形態の第一工程で得られる1,3-オキサゼピン中間体ポリマー溶液から再沈などにより分離精製して得た固形粉末を、例えば、熱プレスなどにより加熱及び圧縮成形を行いながら、同時にイミド化転位反応を完結させて、成形体を得る方式である。
その他の成形法として、同じ固形粉末を用いたトランスファー成形に適用することもできる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明のポリイミド誘導体の製造方法の実施例を順次説明する。尚、本発明は下記の実施例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0079】
《ポリイミド誘導体の製造実施例》
下記の実施例1〜9のうち、実施例1はピロメリット酸二無水物(PMDA)とビスイミダゾリン化合物とを重付加させたもので、一連の反応を溶液中で進行させた例(前記第一の実施形態例)、実施例2は実施例1の中間体ポリマーをホットプレート上でイミド化転位させた例である。
実施例3はPMDAと実施例1とは異なるビスイミダゾリン化合物を前記第二の実施形態で反応させた例、実施例4はPMDAとは異なるテトラカルボン酸二無水物と前記実施例とは異なるビスイミダゾリン化合物を前記第二の実施形態で反応させた例、実施例5は前記実施例とは異なるテトラカルボン酸二無水物とテトラヒドロピリミジン化合物とを前記第二の実施形態で反応させ、第二工程の前にトリス型のイミダゾリン化合物を添加した例である。
実施例6はPMDAとビスオキサゾリン化合物を前記第二の実施形態で反応させた例、実施例7はPMDAとは異なるテトラカルボン酸二無水物と実施例6とは異なるビスオキサゾリン化合物を前記第二の実施形態で反応させた例である。
実施例8は化合物(A)に両末端無水フタル酸基ポリアミドイミドオリゴーを使用し、ビスイミダゾリン化合物との間で前記第二の実施形態で反応させた例、実施例9は化合物(A)に両末端無水フタル酸基ポリイミドオリゴーを使用し、実施例8とは異なるビスイミダゾリン化合物との間で前記第二の実施形態で反応させた例である。
実施例10は上記実施例9の同オリゴマーと、ビスイミダゾリン化合物と、ビスオキサゾリン化合物とを前記第二の実施形態で反応させた例である。
尚、実施例1〜5と実施例8〜9はポリアミドイミドの製造例、実施例6〜7はポリエステルイミドの製造例、実施例10はポリエステルアミドイミドの製造例である。
【0080】
一方、比較例1は冒述の特許文献1に準拠した例で、遊離酸としてのピロメリット酸とビスオキサゾリン化合物との反応で得たポリエステルアミド酸を経由して、ポリエステルイミドを製造した例である。比較例2はテトラカルボン酸二無水物に代えて、ヘキサカルボン酸三無水物とビスイミダゾリン化合物を反応させた例である。比較例3はテトラカルボン酸二無水物に代えて、ヘキサカルボン酸二無水物とビスイミダゾリン化合物を反応させた例である。
【0081】
尚、下記の実施例及び比較例において、IRは島津製作所(株)製のフーリエ変換赤外分光光度計 FTIR-8400を用いて、KBr錠剤法により測定した。1H-NMRは日本電子(株)製NMR JEOL-JNM-EX400により測定した。液状組成物の粘度はE型粘度計((株)エー・アンド・デイ製 音叉型振動式粘度計 SV-1A)により測定した。また、液状組成物を加熱してフィルムに成形する際には、アズワン(株)製のディジタルホットプレートND-1 プログラムホットプレートを用いた。
【0082】
(1)実施例1
温度計、撹拌機、窒素導入管を備えた100mLの四つ口フラスコにモレキュラーシーブで脱水した1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン40.0g、ピロメリット酸二無水物5.456g(25.0ミリモル)、及び2,2′(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-2-イミダゾリン)6.002g(24.8ミリモル)を仕込み、系内を窒素ガスで置換し、撹拌しながら加温溶解した。
次いで、系内の温度を150℃に昇温し、この温度に5時間保った。この段階での反応液の一部を中間体ポリマー組成物(A)として採取した後、220℃に昇温して10時間反応させて、褐色透明な反応生成液を得た。
生成液の粘度(20℃)は231mPa・sであった。この反応液の一部をジエチルエーテル中に沈殿させ、減圧乾燥により得た粉末の収量より計算した生成物の収率は99.3%であった。
尚、上記生成液はそのままで、コーティング材料や塗料の成分として利用可能である。
【0083】
[ポリアミドイミドの同定]
図1は上記粉末の赤外吸収スペクトルである。
同吸収スペクトルによれば、波数=1772cm-1、1715cm-1、1395cm-1、737cm-1にイミド基の特性吸収が確認され、また、1622cm-1に三級アミドのアミドI吸収が観測された。
そこで、上記生成液の一部にポリアミドイミドの両末端の無水コハク酸基に対し過剰量のイソブチルアミンを反応させてアミド酸に変換した後、熱イミド化反応により両末端イソブチルイミドポリアミドイミドのDMSO-d6中20℃で1H-NMRを測定したところ、6.8〜8.4ppmに芳香核のプロトンが、2.7〜4.2ppmにアルキル基のプロトンが、0.86ppmにイソブチルのメチル基のプロトンのピークが夫々観測された。
アルキル基のプロトンとイソブチルのメチルプロトンの面積比から計算した生成物の数平均分子量Mnは40,600であった。
このため、上記反応で得られた生成物は、(化15)の式(VII)で表されるMn=40,600のポリアミドイミドであることが確認された。
【0084】
【化15】
【0085】
(2)実施例2
上記実施例1の反応の途中で採取した中間体ポリマー組成物(A)(濃度22.3%)0.881gを直径4.5cmのアルミ皿に流延し、ホットプレートに載せて空間容量600mlのガラスカバーをし、窒素を30ml/分の速度で流しながら昇温し、80℃×30分、140℃×30分、200℃×1時間、230℃×1時間、260℃×2時間のステップで加熱したところ、ピンホールやクレーター状の気泡痕跡などの欠陥のない表面平滑で厚さ86μmのフィルムが得られた。
このフィルムのFT-IRでは、上記実施例1と同じ吸収帯にイミド基と三級アミド基の特性吸収が観測され、中間体ポリマーがポリアミドイミドに転位したことが確認された。
【0086】
(3)実施例3
上記実施例1と同じ反応容器に、脱水N-メチル-2-ピロリドン36.0g、ピロメリット酸二無水物2.183g(10.0ミリモル)、2,2'-(1,3-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)2.161g(10.1ミリモル)、及び触媒として酢酸0.12g(2ミリモル)を仕込み、系内を窒素ガスで置換しながら加温溶解した。
次いで、系内の温度を150℃に昇温して7時間反応を続け、その後200℃に昇温し、さらに7時間反応させて中間体ポリマー組成物(B)を得た。中間体ポリマー組成物(B)の粘度(20℃)は15.3mPa・s、ジエチルエーテル再沈による中間体ポリマーの収率は99.9%であった。
中間体ポリマー組成物(B)の1.663gを直径4.5cmのアルミ皿に流延し、実施例2と同じホットプレート上で80℃×30分、140℃×30分、200℃×30分、230℃×1時間、260℃×1時間、300℃×1時間のステップで加熱したところ、ピンホールやクレーター状の気泡痕跡などの欠陥のない表面平滑で厚さ78μmのフィルムが得られた。
【0087】
[ポリアミドイミドの同定]
図2は得られた生成物のFT-IR吸収スペクトルである。
当該吸収スペクトルによれば、波数=1773cm-1、1712cm-1、1385cm-1、729cm-1にイミド基に基づく特性吸収、1643cm-1に二級アミドのアミドI、1538cm-1に二級アミドII、1298cm-1に二級アミドIIIの吸収が観測された。
このため、上記中間体ポリマー組成物(B)は(化16)の式(VIII)で表されるポリアミドイミドに転位していることが確認された。
このポリアミドイミドは、NMP、DMAc、DMF、DMI、DMSOに可溶、メタノール、酢酸エチル、ベンゼンには不溶であった。
【0088】
【化16】
【0089】
(4)実施例4
上記実施例3を基本としながら次の変更処理をし、他の条件は実施例3と同様に処理した。
即ち、当該実施例4では、テトラカルボン酸二無水物をピロメリット酸二無水物からビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物2.482g(10.0ミリモル)に変更し、また、ビスイミダゾリンを2,2'-(1,3-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)から2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)2.129g(9.9ミリモル)に変更して、中間体ポリマー組成物(C)を得た。
次いで、上記中間体ポリマー組成物(C)2.030gを実施例3と同様の条件でホットプレート上で加熱して、ピンホールやクレーター状の気泡根跡などの欠陥のない表面平滑な厚さ101μmのフィルムを得た。
【0090】
[ポリアミドイミドの同定]
上記生成物のFT-IR吸収スペクトルでは、波数=1768cm-1、1701cm-1、1406cm-1、727cm-1にイミド基の特性吸収が観測され、二級アミドのアミドIの吸収が1647cm-1に、アミドIIの吸収が1539cm-1に、アミドIIIの吸収が1290cm-1に夫々観測された。
このため、上記中間体ポリマー組成物(C)は(化17)の式(IX)で表されるポリアミドイミドに転位していることが確認された。
このポリアミドイミドは、NMP、DMAc、DMF、DMI、DMSOに可溶、メタノール、酢酸エチル、ベンゼンには不溶であった。
【0091】
【化17】
【0092】
(5)実施例5
上記実施例1と同じ反応容器に、N-メチル-2-ピロリドン30.0g、3,3′4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物2.942g(10.0ミリモル)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン)2.625g(9.7ミリモル)を仕込み、系内を窒素ガスで置換しながら加温溶解した。
次いで、系内の温度を150℃に昇温して7時間反応させて中間体ポリマー組成物(D)を得た。この中間体ポリマー組成物に、1,3,5-トリス(1-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)ベンゼン0.220g(0.7ミリモル;4.0重量%/固形分)を室温で添加し、均一に溶解した。
この均一溶液から0.851gを採取し、アルミ皿に流延しホットプレート上で、30ml/分の窒素気流下、80℃×30分、140℃×30分、200℃×30分、230℃×1時間、260℃×1時間、280℃×1時間のステップで加熱し、ピンホールやクレーター状の気泡根跡のない平滑な膜厚61μmのフィルムを得た。
【0093】
[ポリアミドイミドの同定]
上記生成物のFT-IR吸収スペクトルでは、波数=1769cm-1、1711cm-1、1377cm-1、737cm-1にイミド基の吸収が、また、1644cm-1に三級アミドのアミドIの特性吸収が夫々観測され、NMP、DMAc、DMF、DMI、DMSO、メタノール、酢酸エチル、ベンゼンの何れの溶剤にも不溶であったことから、主鎖の繰り返し単位が(化18)の式(X)で表わされるポリアミドイミドの架橋体であることが確認された。
【0094】
【化18】
【0095】
(6)実施例6
上記実施例1と同じ反応装置に、ピロメリット酸二無水物5.455g(25.0ミリモル)、2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン) 5.375g(24.9ミリモル)、及び脱水N-メチル-2-ピロリドン42.0g、及びピリジン0.40g(5.1ミリモル)を仕込み、系内を窒素置換した。その後、反応混合物を加熱溶解し、150℃で10時間反応させて、濃度が20.5%の中間体ポリマー組成物(E)を得た。
中間体ポリマー組成物(E)の粘度は98.2mPa・sであった。また、反応液の一部をジエチルエーテルに再沈して得られた収量を基に計算したところ、中間体ポリマー(E)の収率は97.2%であった。
次いで、中間体ポリマー組成物(E)の0.863gをアルミ皿に流延し、ホットプレート上、30ml/分の窒素気流下、80℃×30分、140℃×30分、200℃×1時間、230℃×1時間、260℃×2時間のステップで加熱して、ピンホールやクレーター状の気泡根跡のない平滑な膜厚78μmのフィルムを得た。
【0096】
[ポリエステルイミドの同定]
図3は上記生成物のFT-IR吸収スペクトルである。
上記吸収スペクトルでは、波数=1775cm-1、1387cm-1、729cm-1にイミド基の吸収が、1715cm-1にはイミド基とエステル基に基づく特性吸収が夫々観測されたことから、上記生成物は(化19)の式(XI)で表されるポリエステルイミドであることが確認された。
このポリエステルイミドは、NMP、DMAc、DMF、DMI、DMSO、メタノール、酢酸エチル、ベンゼンに不溶であった。
【0097】
【化19】
【0098】
(7)実施例7
上記実施例1と同じ反応容器に、脱水1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン40.0g、3,3′4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物7.358g(25.0ミリモル)、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)5.370g(24.8ミリモル)、及びピリジン0.40g(5.1ミリモル)を仕込み、系内を窒素置換した後撹拌しながら150℃に昇温した。この温度で5時間保った後、さらに220℃に昇温し、10時間反応を継続して濃褐色の透明な反応生成液を得た。
この生成液の粘度は20℃で249mPa・sであった。
【0099】
[ポリエステルイミドの同定]
上記生成物のジエチルエーテルへの再沈精製物のFT-IR吸収スペクトルでは、波数=1778cm-1、1392cm-1、735cm-1にイミド基の特性吸収が、1713cm-1にはイミド基とエステル基に基づく特性吸収が夫々観測された。
このため、上記生成物は(化20)の式(XII)で表されるポリエステルイミドであることが確認された。再沈精製物の収量から計算したポリエステルイミドの収率は99.8%であった。
尚、このポリエステルイミドを含む反応液はそのままでコーティング材料や塗料の成分として利用可能である。
【0100】
【化20】
【0101】
(8)実施例8
[酸無水物基を両末端に有するポリアミドイミドオリゴマーの合成]
温度計、還流冷却器、撹拌機、窒素導入管を備えた200mlの四つ口フラスコに、トリメリット酸無水物5.765g(30.0ミリモル)、ジフェニルメタンジイソシアネート15.013g(60.0ミリモル)、及び脱水N-メチル-2-ピロリドン95.0gを仕込み、室温で溶解した。窒素ガスを20ml/分の速度で導入し、流出ガスを塩化カルシウム乾燥管に通じた後、Ca(OH)2水溶液中にバブルさせた。
フラスコを加熱し温度を80℃に昇温すると、反応による炭酸ガスの発生がCa(OH)2水の白濁によって確認された。反応温度を80℃から120℃まで3時間かけて徐々に昇温させ、120℃で5時間保持した。この間、Ca(OH)2水の白濁度合いは徐々に減少し、120℃、5時間後には殆ど認められなくなった。
反応液を室温まで一旦冷却し、ピロメリット酸二無水物9.819g(45ミリモル)を添加、80℃に加温、溶解した。反応温度を80℃から140℃まで3時間かけて昇温した。この過程で再びCa(OH)2水の白濁が認められた。反応温度を140℃に保持、5時間後にCa(OH)2水の白濁が認められなくなるまで反応を続けた後、冷却して数平均分子量が1665の両末端無水コハク酸基ポリアミドイミドオリゴマーのN-メチル-2-ピロリドン溶液(G)を119.1g得た。
この溶液は、21.3重量%の当該オリゴマーを含み、無水フタル酸基を0.252ミリモル/gの割合で含有している。
【0102】
[ポリアミドイミドの合成]
前記実施例1と同じ反応容器に、上記両末端無水フタル酸基ポリアミドイミドオリゴマー溶液(G)25.0g、脱水N-メチル-2-ピロリドン25.0gを仕込み、撹拌下で50℃に加温し、この混合物に2,2′(1,3-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン)0.676g(無水フタル酸基に対し1/2モル)を加え、同温度で2.5時間撹拌を続けて均一な液状組成物(H)を得た。
アルミ皿にこの液状組成物(H)1.517gを入れ、ホットプレート上、30ml/分の窒素気流下に80℃×30分、140℃×30分、200℃×30分、260℃×2時間、300℃×1時間のステップで反応させて、強靭でピンホールやクレーター状の気泡根跡などの欠陥のない厚さ80μmのフィルムを得た。
【0103】
[ポリアミドイミドの同定]
上記生成物のFT-IR吸収スペクトルでは、第二級アミドのアミドIの吸収に相当する波数=1620〜1670cm-1の吸収強度が、元のポリアミドイミドオリゴマーより増加しており、アミドイミド基が組み込まれていることが観測された。
このため、上記生成物は(化21)の式(XIII)で表されるポリアミドイミドであることが確認された。上式(XIII)のP1はポリアミドイミドオリゴマー残基である。
【0104】
【化21】
【0105】
(9)実施例9
[酸無水物基を両末端に有するポリイミドオリゴマーの合成]
温度計、撹拌機、及び還流冷却器に連結したディーン・スタルク分水管を備えた200mlの三つ口フラスコに、N-メチル-2-ピロリドン80g、m-キシレン30g、及びピロメリット酸二無水物13.090g(60.0ミリモル)を仕込み溶解した。この溶液にp-ジアミノジフェニルエーテル3.604g(18.0ミリモル)及び9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン6.271g(18.0ミリモル)を室温で加えた。
系内を窒素ガスで置換した後、室温で2時間撹拌、次いで60℃に昇温してこの温度で2時間撹拌した。その後、170℃に昇温するとイミド化反応により遊離した水が分水器により分離され始めた。170℃で7時間反応させ、もはや新たな水の生成が認められなくなった時点で反応終了とし、m-キシレンを留去した後、冷却して数平均分子量が913の両末端無水フタル酸基ポリイミドオリゴマー溶液(I)100.70gを得た。
この溶液は21.1重量%の割合で当該オリゴマーを含み、無水フタル酸基を0.478ミリモル/gの割合で含有している。
【0106】
[ポリアミドイミドの合成]
上記両末端無水フタル酸基ポリイミドオリゴマー溶液(I)25.0gに、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(1-エチル-2-イミダゾリン)1.618g(無水フタル酸基に対し1/
2モル)を加え、室温で撹拌溶解して均一な液状組成物(J)を得た。
アルミ皿に液状組成物(J)の0.902gを流延し、ホットプレート上に載せ、30ml/分の窒素気流下に80℃×30分、140℃×30分、200℃×30分、260℃×2時間のステップで加熱して、強靭でピンホールやクレーター状の気泡根跡などの欠陥のない厚さ102μmのフィルムを得た。
【0107】
[ポリアミドイミドの同定]
図4は上記生成物のFT-IR吸収スペクトルである。
この吸収スペクトルでは、元のポリイミドオリゴマーにあった波数=1774cm-1、1718cm-1、1371cm-1、725cm-1のイミド基の吸収の他に、1630cm-1に三級アミドのアミドI吸収が明確に現れ、アミドイミド基が組み込まれていることが観測された。
このため、上記生成物は(化22)の式(XIV)で表されるポリアミドイミドであることが確認された。尚、上式(XIV)のP2はポリイミドオリゴマー残基である。
【0108】
【化22】
【0109】
(10)実施例10
[ポリエステルアミドイミドの合成]
上記実施例9において、両末端無水フタル酸基ポリイミドオリゴマー溶液(I)25.0gに対して、2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(1-エチル-2-イミダゾリン)の使用量を1/2量の0.809g(無水フタル酸基に対し1/4モル)に変更するとともに、新たに2,2'-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)0.645g(無水フタル酸に対し1/4モル)を使用した外は、実施例9と同様の条件で処理して、強靭でピンホールやクレーター状の欠陥のない厚さ97μmのフィルムを得た。
上記生成物のFT-IRスペクトルでは元のポリイミドオリゴマーにあった波数1774cm-1、1718cm-1、1371cm-1、725cm-1の吸収の他に、1630cm-1に三級アミドのアミドI吸収と1221cm-1にエステルのC−O伸縮振動の吸収が新たに出現しアミド結合とエステル結合が組み込まれていることが観測された。
このため、上記生成物は(化23)の式(XV)で表わされるポリエステルアミドイミド(PEAI)であることが確認された。尚、上式(XV)のP2はポリイミドオリゴマー残基である。また、「*」は高分子主鎖が連続していることを示す。
【0110】
【化23】
【0111】
(11)比較例1
冒述の特許文献1に準拠した例であり、遊離酸としてのピロメリット酸とビスオキサゾリンを反応させ、ポリエステルアミド酸を経由してポリエステルイミド(PEI)を合成した。
即ち、上記特許文献1と同様に、反応装置にピロメリット酸(遊離酸型)6.355g(25.0ミリモル)、2, 2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)5.379g(24.9ミリモル)、及び脱水N-メチル-2-ピロリドン45.5gを仕込み、70℃で7時間反応させて、濃度20.50%のポリエステルアミド酸溶液(F)を得た。
このポリエステルアミド酸溶液(F)の0.871gをアルミ皿に流延し、前記実施例6と同じ条件で加熱処理して膜厚69μmのPEIフィルムを得た。
このフィルムを目視観察したところ、直径0.5mm未満のピンホールが14個、直径1〜2mm大のクレーター状の気泡痕跡が5個見い出され、これらは水分子の脱離に起因するため、PEIの合成が重縮合反応によることが判断できる。
また、このポリエステルイミドは、NMP、DMAc、DMF、DMI、DMSO、メタノール、酢酸エチル、ベンゼンの各種溶剤に不溶であった。
【0112】
(12)比較例2
前記実施例1を基本として、テトラカルボン酸二無水物(PMDA)に代えて、ヘキサカルボン酸三無水物とビスイミダゾリン化合物を前記第一の実施形態により反応させたところ、溶液のゲル化が進行して重合反応をそれ以上遂行することができなくなり、反応を途中で中止した。
これは、3官能のヘキサカルボン酸三無水物と2官能のビスイミダゾリン化合物の反応により、架橋反応でゲル化が進行したため、中間体ポリマー溶液の製造が困難になったことが推定される。
【0113】
(13)比較例3
前記実施例1を基本として、テトラカルボン酸二無水物(PMDA)に代えて、ヘキサカルボン酸二無水物とビスイミダゾリン化合物を前記第一の実施形態により反応させたところ、やはりゲル化により重合反応をそれ以上遂行することができず、反応を中止した。
ヘキサカルボン酸二無水物では、遊離のカルボキシル基も官能基として作用するため、重付加の反応では4官能となり、架橋によるゲル化は避けられないことが推定される。また、遊離のカルボキシル基とイミダゾリン(又はオキサゾリン)とが付加反応すると、イミド基ではなくアミド基又はエステル基が生成するため、耐熱性が低下するという弊害もある。
【0114】
《実施例及び比較例に基づく総合評価》
冒述の特許文献1に準拠した比較例1では、ポリエステルアミド酸を経てポリエステルイミド(PEI)を合成したが、得られたPEIフィルムには多数のピンホールやクレーターが発生し、水分子の脱離・揮散に起因する気泡痕跡が顕著であることから、PEIの合成は重縮合反応によることが明らかである。このため、比較例1で得られたポリイミド誘導体については、ボイドや表面荒れなどの成形不良、機械的強度や耐熱性の低下、接着不良の問題がある。
これに対して、実施例1〜10では、IR吸収スペクトルからポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEI)、或いはポリエステルアミドイミド(PEAI)の生成が確認できるが、得られたフィルムにはピンホールやクレーターなどの気泡痕跡がないため、PAI、PEI、或いはPEAIの合成が水分子の脱離のない重付加反応に基づくことが裏付けられ、ボイドや表面荒れのない平滑なフィルムを成形でき、フィルムの機械的強度や耐熱性を向上できる。また、重付加による生成物を接着剤用途に適用すると、接着不良のない熱圧着型接着剤を製造できる。
【0115】
本発明の重付加反応でポリイミド誘導体を製造する場合、上記実施例1(前記第一の実施形態参照)のように一連の反応を溶液中で進行させると、得られた液状組成物(ワニス)をそのままコーティング剤や塗料の主成分として利用することができる。
その一方、前記第二の実施形態(例えば、実施例3など)のように、重付加反応で中間体ポリマーの液状組成物を得るとともに(第一工程)、この溶液を支持体に塗布・加熱してイミド化転位し溶剤を蒸発させる方法(キャスト法)で、フィルムに成形することもできる(第二工程)。
本発明のポリイミド誘導体の製造では、実施例8〜10に示すように、テトラカルボン酸二無水物(A)に末端酸無水物基オリゴマーを使用することで、重合操作の負荷低減や効率的な粘度付与、或いは耐熱性の改善ができ、また、実施例5に示すように、上記第二の実施形態の第二工程の前、或いは途中にトリス型の環状アミジン又はイミノエーテル化合物を添加することで、架橋構造の導入によりポリイミド誘導体の機械的特性や耐薬品性を増強することもできる。
【0116】
他方、上記比較例2〜3との対比で実施例を説明すると、比較例2〜3の合成結果に照らせば、アミジン化合物(B)(又はイミノエーテル化合物(C))との重付加反応において、ゲル化することなく適正なポリイミド誘導体を生成できるカルボン酸無水物成分は、テトラカルボン酸二無水物に限定されることが判断できる。
尚、テトラカルボン酸無水物成分(A)とジアミンとを反応させるとポリアミド酸を経由してポリイミドが製造できることは、例えば、冒述の特許文献3や特開2007−169392号公報などで公知であるが、この反応は重縮合反応でありH2Oなどの低分子量化合物が脱離する弊害があることから、重付加反応によりポリイミド誘導体を適正に生成するには、テトラカルボン酸二無水物(A)の相手方は特定のアミジン化合物(B)(又はイミノエーテル化合物(C))に限定される。
【図面の簡単な説明】
【0117】
図1】実施例1の生成物のIR吸収スペクトルである。
図2】実施例3の生成物のIR吸収スペクトルである。
図3】実施例6の生成物のIR吸収スペクトルである。
図4】実施例9の生成物のIR吸収スペクトルである。
図1
図2
図3
図4