特許第5722971号(P5722971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722971
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】鍛造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 5/06 20060101AFI20150507BHJP
   B21J 13/14 20060101ALI20150507BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20150507BHJP
   B21K 1/30 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   B21J5/06 B
   B21J13/14 Z
   B21J5/00 D
   B21K1/30 D
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-200735(P2013-200735)
(22)【出願日】2013年9月27日
(62)【分割の表示】特願2009-226320(P2009-226320)の分割
【原出願日】2009年9月30日
(65)【公開番号】特開2014-28403(P2014-28403A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2013年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】平野 邦雄
【審査官】 福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−022442(JP,A)
【文献】 特開平05−154576(JP,A)
【文献】 特開平07−009066(JP,A)
【文献】 特開昭62−063190(JP,A)
【文献】 特開昭62−028040(JP,A)
【文献】 米国特許第05408857(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/00−13/14
B21J 17/00−19/04
B21K 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじれのない形状の鍛造素材を加工して、外周面につる巻き線状ないし螺旋状に突条部が形成されるねじれ形状の鍛造成形品を得るとともに、鍛造素材として、外周面に軸心方向に平行に突条部が形成され、かつ断面形状が鍛造成形品の断面形状に対し相似形のものを用いるようにした鍛造方法であって、
両端が開放された貫通孔を有し、その貫通孔の一側部が、ワークが設置されるワーク設置孔として構成されるとともに、他側部が、ワークを成形するワーク成型孔として構成され、かつそのワーク成型孔の内周面に、つる巻き線状ないし螺旋状にワーク成型用溝部が形成されることにより、前記ワーク成型孔が鍛造成形品に対応してねじれた形状に形成されたダイスと、
前記ワーク設置孔にワークが設置された状態で、前記貫通孔にその一端側から打ち込まれることにより、ワークを前記ワーク成型孔内に塑性流動させつつ圧入するパンチと、
前記ワーク成型孔内のワークが他端側へ移動する際の抵抗となるワーク抜け出し抵抗力を付与して、前記ワーク成型孔内にワークを停留させるワーク抜け出し抵抗手段と、を準備しておいて、
先行のワークを前記ワーク成型孔内に停留させた状態で、後続のワークを前記ワーク設置孔に設置して、前記パンチを前記貫通孔に打ち込むことにより、後続のワークによって、先行のワークを、前記貫通孔の他端側から突き出すとともに、後続のワークを前記ワーク成型孔に圧入して成形するようにしたことを特徴とする鍛造方法。
【請求項2】
先行のワークの他端面を、後続のワークを成形する際の拘束面として利用するものとした請求項1に記載の鍛造方法。
【請求項3】
前記パンチを前記貫通孔に打ち込んだ際に、先行のワークが、前記ワーク抜け出し抵抗力に逆らいつつ突き出されることにより、先行のワークが、後続のワークに対して、前記ワーク抜け出し抵抗力を背圧とする背圧付与部材として機能するようにした請求項1または2に記載の鍛造方法。
【請求項4】
先行のワークと前記ワーク成型孔内周面との間の摩擦抵抗力を、前記ワーク抜け出し抵抗力として機能させるようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【請求項5】
前記ダイスとして、前記ワーク成型孔の少なくとも一部に、ワークを縮径変形させる絞り加工部が設けられたものを用いる請求項1〜のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【請求項6】
前記ダイスとして、前記ワーク成型孔の軸心方向の長さが、成形後のワークの軸心方向の長さよりも短く形成されたものを用いる請求項1〜のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【請求項7】
前記ダイスとして、前記ワーク成型孔の内周面に、面粗度の高い部分が設けられたものを用いる請求項1〜のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【請求項8】
ワークとして、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のものを用いる請求項1〜のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【請求項9】
自動車用過給器のロータ部品を製造するようにした請求項1〜のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【請求項10】
前記ワーク成型孔においてワークを縮径変形させ、その縮径変形させる際の変形力を、前記ワーク抜け出し抵抗力として機能させるようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【請求項11】
ねじれのない形状の鍛造素材を加工して、外周面につる巻き線状ないし螺旋状に突条部が形成されるねじれ形状の鍛造成形品を得るとともに、鍛造素材として、外周面に軸心方向に平行に突条部が形成され、かつ断面形状が鍛造成形品の断面形状に対し相似形のものを用いるようにした鍛造用金型であって、
両端が開放された貫通孔を有し、その貫通孔の一側部が、ワークが設置されるワーク設置孔として構成されるとともに、他側部が、ワークを成形するワーク成型孔として構成され、かつそのワーク成型孔の内周面に、つる巻き線状ないし螺旋状にワーク成型用溝部が形成されることにより、前記ワーク成型孔が鍛造成形品に対応してねじれた形状に形成されたダイスと、
前記ワーク設置孔にワークが設置された状態で、前記貫通孔にその一端側から打ち込まれることにより、ワークを前記ワーク成型孔内に塑性流動させつつ圧入するパンチと、
前記ワーク成型孔内のワークが他端側へ移動する際の抵抗となるワーク抜け出し抵抗力を付与して、前記ワーク成型孔内にワークを停留させるワーク抜け出し抵抗手段と、を備え、
先行のワークを前記ワーク成型孔内に停留させた状態で、後続のワークを前記ワーク設置孔に設置して、前記パンチを前記貫通孔に打ち込むことにより、後続のワークによって、先行のワークを、前記貫通孔の他端側から突き出すとともに、後続のワークを前記ワーク成型孔に圧入して成形するようにしたことを特徴とする鍛造用金型。
【請求項12】
請求項11に記載された鍛造用金型を備えたことを特徴とする鍛造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型を用いてワークを鍛造加工するようにした鍛造方法およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
型鍛造用の鍛造装置は例えば、下金型(ダイス)に設けられた成型孔内に、鍛造素材(ワーク)を設置しておいて、上金型(パンチ)を成型孔内のワークに打ち込むことにより、鍛造素材を加圧成形して鍛造成形品を得るように構成されている。
【0003】
このような鍛造装置においては、下金型における成型孔の底部に、上方に飛び出し可能にノックアウトピンが設けられており、型開き後に、ノックアウトピンを突出させて、そのノックアウトピンによって、下金型内の鍛造成形品を突き上げて排出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−66686号
【特許文献2】特開2003−326333号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の鍛造装置においては、下金型に、鍛造成形品を突き出すためのノックアウトピンを設けているため、ノックアウトピンや、そのピンを駆動させる駆動部等が必要となり、その分、金型の複雑化、大型化、重量化を来してしまう。
【0006】
また上記従来の鍛造装置では、鍛造成形品を取り出す処理(ワーク排出処理)を行っている際には、上金型の打ち込み処理(ワーク成型処理)を行うことはできない。つまり、ワーク成型処理と、ワーク排出処理とと別々に時間をずらせて行う必要があり、サイクルタイムが長くなり、生産性の低下を来す、という課題も抱えている。
【0007】
特に、はすば歯車のように外周面に螺旋状のギア歯が形成された鍛造成形品を製造する鍛造装置では、下金型内の鍛造加工品を突き上げるだけでは、鍛造成形品をスムーズに取り出すことはできない。このため例えば、上記特許文献1,2に示すように、鍛造成形品を下金型に対し垂直軸回りに相対的に回転させつつ、下金型内の鍛造成形品を突き上げるような複雑な機構が必要となり、より一層、金型の複雑化、大型化、重量化を来してしまうおそれがあった。
【0008】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、金型の簡素化、小型化、軽量化、並びに生産性の向上を図ることができる鍛造方法およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0010】
[1]両端が開放された貫通孔を有し、その貫通孔の一側部が、ワークが設置されるワーク設置孔として構成されるとともに、他側部が、ワークを成形するワーク成型孔として構成されたダイスと、
前記ワーク設置孔にワークが設置された状態で、前記貫通孔にその一端側から打ち込まれることにより、ワークを前記ワーク成型孔内に塑性流動させつつ圧入するパンチと、
前記ワーク成型孔内のワークが他端側へ移動する際の抵抗となるワーク抜け出し抵抗力を付与して、前記ワーク成型孔内にワークを停留させるワーク抜け出し抵抗手段と、を準備しておいて、
先行のワークを前記ワーク成型孔内に停留させた状態で、後続のワークを前記ワーク設置孔に設置して、前記パンチを前記貫通孔に打ち込むことにより、後続のワークによって、先行のワークを、前記貫通孔の他端側から突き出すとともに、後続のワークを前記ワーク成型孔に圧入して成形するようにしたことを特徴とする鍛造方法。
【0011】
[2]先行のワークの他端面を、後続のワークを成形する際の拘束面として利用するものとした前項1に記載の鍛造方法。
【0012】
[3]前記パンチを前記貫通孔に打ち込んだ際に、先行のワークが、前記ワーク抜け出し抵抗力に逆らいつつ突き出されることにより、先行のワークが、後続のワークに対して、前記ワーク抜け出し抵抗力を背圧とする背圧付与部材として機能するようにした前項1または2に記載の鍛造方法。
【0013】
[4]先行のワークと前記ワーク成型孔内周面との間の摩擦抵抗力を、前記ワーク抜け出し抵抗力として機能させるようにした前項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0014】
[5]前記ダイスとして、前記ワーク成型孔の内周面に、つる巻き線状ないし螺旋状にワーク成型用溝部が形成されたものを用いる前項1〜4のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0015】
[6]前記ダイスとして、前記ワーク成型孔の少なくとも一部に、ワークを縮径変形させる絞り加工部が設けられたものを用いる前項1〜5のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0016】
[7]前記ダイスとして、前記ワーク成型孔の軸心方向の長さが、成形後のワークの軸心方向の長さよりも短く形成されたものを用いる前項1〜6のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0017】
[8]前記ダイスとして、前記ワーク成型孔の内周面に、面粗度の高い部分が設けられたものを用いる前項1〜7のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0018】
[9]ワークとして、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のものを用いる前項1〜8のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0019】
[10]外周面につる巻き線状ないし螺旋状に突条部が形成される鍛造成形品を製造するようにした前項1〜9のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0020】
[11]自動車用過給器のロータ部品を製造するようにした前項1〜10のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0021】
[12]前記ワーク成型孔においてワークを縮径変形させ、その縮径変形させる際の変形力を、前記ワーク抜け出し抵抗力として機能させるようにした前項1〜3のいずれか1項に記載の鍛造方法。
【0022】
[13]両端が開放された貫通孔を有し、その貫通孔の一側部が、ワークが設置されるワーク設置孔として構成されるとともに、他側部が、ワークを成形するワーク成型孔として構成されたダイスと、
前記ワーク設置孔にワークが設置された状態で、前記貫通孔にその一端側から打ち込まれることにより、ワークを前記ワーク成型孔内に塑性流動させつつ圧入するパンチと、
前記ワーク成型孔内のワークが他端側へ移動する際の抵抗となるワーク抜け出し抵抗力を付与して、前記ワーク成型孔内にワークを停留させるワーク抜け出し抵抗手段と、を備え、
先行のワークを前記ワーク成型孔内に停留させた状態で、後続のワークを前記ワーク設置孔に設置して、前記パンチを前記貫通孔に打ち込むことにより、後続のワークによって、先行のワークを、前記貫通孔の他端側から突き出すとともに、後続のワークを前記ワーク成型孔に圧入して成形するようにしたことを特徴とする鍛造用金型。
【0023】
[14]前項13に記載された鍛造用金型を備えたことを特徴とする鍛造装置。
【発明の効果】
【0024】
発明[1]の鍛造方法によれば、ワーク成型孔内の鍛造成形品を排出するためのノックアウトピン等のワーク排出機構を省略できるため、その分、金型の簡素化、小型化、軽量化を図ることができる。さらにワークの成型とワークの排出とを同時並行に行うことができるため、サイクルタイムを短くでき、生産性を向上させることができる。
【0025】
発明[2]の鍛造方法によれば、密閉鍛造を行うことができる。
【0026】
発明[3]の鍛造方法によれば、欠肉等のない高い寸法精度の鍛造製品を製造することができる。
【0027】
発明[4]〜[8]の鍛造方法によれば、より一層高品質の鍛造製品を製造することができる。
【0028】
発明[9]の鍛造方法によれば、アルミニウム製の鍛造製品を製造することができる。
【0029】
発明[10][11]の鍛造方法によれば、所定の鍛造製品を製造することができる。
【0030】
発明[12]の鍛造方法によれば、欠肉等のない高い寸法精度の鍛造製品を製造することができる。
【0031】
発明[13]によれば、上記と同様の作用効果を有する鍛造用金型を提供することができる。
【0032】
発明[14]によれば、上記と同様の作用効果を有する鍛造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1はこの発明の第1実施形態である鍛造装置の金型をその半分を切り欠いて示す斜視図である。
図2A図2Aは第1実施形態の下金型を1枚目ワークを設置した状態で示す断面図である。
図2B図2Bは第1実施形態の下金型を1枚目ワークを成型した状態で示す断面図である。
図3A図3Aは第1実施形態の鍛造装置において2枚目以降のワークを成型する直前の状態で示す断面図である。
図3B図3Bは第1実施形態の鍛造装置において2枚目以降のワークを成型している途中の状態で示す断面図である。
図3C図3Cは第1実施形態の鍛造装置において2枚目以降のワークを成型した直後の状態で示す断面図である。
図4図4は第1実施形態の鍛造装置で加工された鍛造成形品を示す斜視図である。
図5図5は第1実施形態の鍛造装置で加工される鍛造素材を示す斜視図である。
図6図6はこの発明の第2実施形態である鍛造装置の金型をその半分を切り欠いて示す斜視図である。
図7A図7Aは第2実施形態の鍛造装置の下金型を1枚目ワークを設置した状態で示す断面図である。
図7B図7Bは第2実施形態の下金型を1枚目ワークを成型した状態で示す断面図である。
図8A図8Aは第2実施形態の鍛造装置において2枚目以降のワークを成型する直前の状態で示す断面図である。
図8B図8Bは第2実施形態の鍛造装置において2枚目以降のワークを成型している途中の状態で示す断面図である。
図8C図8Cは第2実施形態の鍛造装置において2枚目以降のワークを成型した直後の状態で示す断面図である。
図9図9はこの発明の第3実施形態である鍛造装置の金型部その半分を切り欠いて示す斜視図である。
図10図10は第3実施形態の鍛造装置によって加工される鍛造素材を示す斜視図である。
図11図11はこの発明の第4実施形態である鍛造装置の金型部をその半分を切り欠いて示す斜視図である。
図12図12は第4実施形態の鍛造装置によって加工された鍛造成形品を示す斜視図である。
図13図13は第4実施形態の鍛造装置によって加工される鍛造素材を示す斜視図である。
図14図14はこの発明の第5実施形態である鍛造装置の金型部をその半分を切り欠いて示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<第1実施形態>
まず始めにこの発明の第1実施形態に基づき製造される鍛造成形品W2ついて説明する。図4に示すように、鍛造成形品W2は、自動車等の過給器(スーパーチャージャー)におけるロータ部品によって構成されている。このロータ部品は、3葉式ツイストローブが採用されたものであって、外周に設けられた3本のローブW3が、軸心方向の一端側(上端側)から他端側(下端側)に向かって、つる巻き状にねじられた形状を有している。
【0035】
また上記の鍛造成形品W2を加工するための鍛造素材W1としては、鋳造部品、押出成形品、鍛造部品、据込部品、機械加工品等を用いることができるが、図5に示すように本実施形態では、押出成形品を用いている。この鍛造素材W1は、外周に鍛造成形品W2のローブW3に相当する突条部が軸心方向に平行に形成されたねじれのない形状であり、本実施形態による鍛造加工によって、つる巻き状にねじられた形状に成形されるものである。
【0036】
また鍛造素材W1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金によって構成されており、例えば、Al−Si−Mg合金(6000系合金)や、Al−Si合金(4000系合金)等を好適に用いられる。中でも6000系合金は、伸びやすく、流動性も良いため、本実施形態の鍛造加工に適している。
【0037】
ここで本実施形態のように、鍛造素材W1として押出成形品を用いる場合には、連続鋳造によって得られた鋳造棒材に対し、熱処理およびピーリング処理を行った後、押出成形を行って、押出棒材を作製し、その押出棒材を切断することによって、鍛造素材W1を得るものである。
【0038】
さらに鍛造素材W1として、鍛造部品、据込部品を用いる場合は、押出形成に代えて、鋳造棒材を切断した後、鍛造、据込成型することによって、鍛造素材W1を得ることができる。
【0039】
また後述する第3,5実施形態等のように、鍛造素材W1として、押出成形しない鋳造部品によって製作する場合には、連続鋳造によって得られた鋳造棒材に対し、熱処理、ピーリング処理、超音波検査を行った後、切断することによって、鍛造素材W1を得るものである。
【0040】
なお後述の第3,5実施形態で説明するように、鍛造素材W1の水平断面形状は、鍛造成形品W2の水平断面形状に対し相似形に形成する必要はなく、円形等の他の形状に形成するようにしても良い。
【0041】
また本実施形態において、ワークWという場合、そのワークWは、鍛造素材W1および鍛造成形品W2の双方を含むものである。
【0042】
図1はこの発明の第1実施形態である鍛造装置の金型を示す半分切欠斜視図である。同図に示すように、本実施形態の鍛造装置は、上方に配置される上金型1と、上金型1の下方に対応して配置される下金型2とを備えている。
【0043】
なお本実施形態においては、上方側が一端側に相当し、下方側が他端側に相当するものである(以下の第2〜5実施形態においても同じ)。
【0044】
下金型2は、ダイスを構成するものであり、上側に配置されるワーク設置用金型3と、下側に配置されるワーク成型用金型4とに分割される。
【0045】
ワーク設置用金型3には、上端(一端)から下端(他端)にかけて連続するワーク設置孔31が軸心方向(上下方向)に沿って形成されている。このワーク設置孔31は、上下両端が開放されて、かつ水平断面形状が、鍛造素材W1の水平断面形状に対応して形成されている。
【0046】
さらにワーク設置孔31は、その軸心方向の長さが、鍛造素材W1の軸心方向長さよりも長く設定されている。
【0047】
ワーク成型用金型4には、上記ワーク設置孔31に対応して、上端(一端)から下端(他端)にかけて連続するワーク成型孔41が軸心方向(上下方向)に沿って配置されている。このワーク成型孔41は、上下両端が開放され、上端開口部が上記ワーク設置孔31の下端開口部に連通している。
【0048】
さらにワーク成型孔41は、内周面形状が、鍛造成形品W2の外周面形状に対応して形成されている。つまり、ワーク成型孔41の内周面には、鍛造成形品W2における3本のローブW3に対応して、つる巻き線状に沿って3本のワーク成型用溝部42が形成されている。
【0049】
なおワーク成型溝部42間の間隔、換言すれば形状刃の厚さは、上金型1が打ち込まれた際の荷重に耐えられる厚さ、具体的には3mm以上に形成するのが良い。
【0050】
またワーク成型孔41は、その軸心方向の長さが、成形後の鍛造成形品W2の軸心方向の長さとほぼ同じ長さに設定されている。
【0051】
また鍛造素材W1の水平断面積は、ワーク成型孔41の水平断面積に対し、同等もしくは小さく形成されている。
【0052】
また下金型2におけるワーク設置孔31の上端開口部は、ワーク投入口35として構成されており、ワーク投入口35を介して、ワーク設置孔31内に鍛造素材W1が投入されるようになっている。
【0053】
ワーク設置孔31内には、鍛造素材W1が設置可能に構成されており、その状態で、後述するように、上金型1がワーク設置孔31内に打ち込まれると、鍛造素材W1が、塑性流動しつつワーク成型孔41内に圧入され、これにより鍛造素材W1が、ワーク成型孔41の内周面形状に対応する形状、つまり上記鍛造成形品W2に対応する形状に成形されるようになっている。
【0054】
また下金型2におけるワーク成型孔41の下端開口部は、ワーク排出口45として構成されており、後述するように、ワーク成型孔41内の鍛造成形品W2が、ワーク排出口45を介して下方に排出されるようになっている。
【0055】
ここで、本実施形態においては、ワーク設置孔31およびワーク成型孔41によって、下金型2を上下方向(軸心方向)に貫通し、上下両端が開放された貫通孔21として構成される。
【0056】
なお本実施形態においては、後に詳述するように、ワーク成型孔41内の鍛造成形品W2がワーク排出口45から排出される際に、鍛造成形品W2の外周面と、ワーク成型孔41の内周面との間に摩擦抵抗力が発生するものであるが、この摩擦抵抗力が、ワーク成型孔41内の鍛造成形品W2が下方へ移動する際の抵抗となるワーク抜け出し抵抗力として機能する。従って、ワーク成型孔41の内周面がワーク抜け出し抵抗手段として構成されるものである。
【0057】
さらに本実施形態においては、ワーク成型孔41の内周面には、つる巻き線状に複数のワーク成型用溝部42が形成されるため、ワーク成型孔41内の鍛造成形品W2が、下方に排出される際には、鍛造成形品W2が、ワーク成形用溝部42に沿って、ねじれ回転しながら下方に移動することになる。従って、ワーク成型孔41の内周面と、鍛造成形品W2との摩擦抵抗力(ワーク抜け出し抵抗力)を十分に確保できるようになっている。
【0058】
一方、上金型1は、パンチを構成するものであり、水平断面形状が、鍛造素材W1の水平断面形状に対応して形成されており、下金型2のワーク設置孔31にその上端開口部から挿入可能に構成されている。
【0059】
さらに上金型1は、図示しない駆動手段によって、上下方向に昇降自在に構成されており、上昇位置から降下させた際に、下金型2のワーク設置孔31内に打ち込まれるようになっている。
【0060】
以上の構成の金型を有する本第1実施形態の鍛造装置においては、1枚目の鍛造素材W1に対する鍛造加工は、予備的な加工(予備加工)となり、2枚目以降の鍛造素材W1に対する鍛造加工が、本鍛造装置による正規な加工(本加工)となる。
【0061】
まず、本実施形態の鍛造装置において、初期状態では、下金型2におけるワーク設置孔31およびワーク成型孔41のいずれにもワークWが配置されていない状態であり、上金型1は上昇した位置に配置されている。
【0062】
この初期状態から図2Aに示すように、1枚目の鍛造素材W1を、下金型2のワーク投入口35から投入して、ワーク設置孔31に配置する。この場合、ワーク設置孔31の下側に配置されるワーク成型孔41は、ワーク設置孔31に対しねじれた形状に形成されているため、鍛造素材W1は、その下端がワーク成型孔41の上端縁に係止することにより、ワーク設置孔31内にとどまった状態に配置される。
【0063】
鍛造素材W1を投入した後、上金型1を降下させて、上金型1をワーク設置孔31内の鍛造素材W1に打ち込む(型閉じ処理)。これにより図2Bに示すように、鍛造素材W1がワーク成型孔41内に塑性流動しつつねじ込まれるように圧入されていき、ワーク成型孔41の内周面形状に対応するように鍛造加工されて、上記のねじれ形状の鍛造成形品W2が形成される。
【0064】
この1枚目の鍛造素材W1が、ワーク成型孔41内に圧入される際には、ワーク成型孔41内の全域が未充填の成形空間部となり、その下方側はワーク排出口45として開放されている。従って1枚目の鍛造素材W1に対する鍛造加工は、一端側(下方側)が開放された半密閉式ないし開放式の鍛造加工となる。
【0065】
なお後に詳述するように、2枚目以降の鍛造素材W1に対する鍛造加工は、密閉式(全密閉式)の鍛造加工となる。
【0066】
一方、上金型1が上昇して、1回目の鍛造加工が完了した後においても、ワーク成型孔41内の鍛造成形品W2は、上記したようにワーク成型孔内周面との摩擦抵抗力(ワーク抜け出し抵抗力)によって、ワーク成型孔41内に停留した状態に保持されている。
【0067】
なお、このワーク抜け出し抵抗力は、後述するように、2枚目以降の鍛造加工時に、背圧として作用し、1枚目(先行)のワークWが、2枚目以降(後続)のワークWに対し背圧付与部材として機能することになる。
【0068】
1枚目の鍛造加工(予備加工)が完了すると、2枚目以降の鍛造素材W1に対し順次鍛造加工(本加工)が行われる。
【0069】
すなわち1枚目(先行)のワーク(鍛造成形品W2)がワーク成型孔41に停留したままの状態で、2枚目以降(後続)のワーク(鍛造素材W1)が下金型2のワーク設置孔(31)内に投入される。このとき、後続のワークWは、先行のワークWの上端面に載置される態様に配置される。
【0070】
この状態で図3Aに示すように、上金型1を降下させて、上金型1をワーク設置孔31内の後続ワークWに打ち込む。これにより図3Bに示すように、後続のワークWが先行のワークWを下方に突き出しながら、ワーク成型孔41内に塑性流動して圧入されていく。こうして図3Cに示すように、後続のワークWがワーク成型孔41内にねじ込まれるように充填されるとともに、先行のワークWがねじれ回転しながらワーク排出口45から排出されて、後続のワークWから切り離されて落下する。
【0071】
このように本実施形態の鍛造装置においては、後続のワークWを成形する際に、後続のワークWに対し、先行のワークWの上端面(他端面)が拘束面として機能するため、後続のワークWは、先行のワークWの上端面、貫通孔21の内周面および上金型1の下端面によって全周面が拘束される。つまり本実施形態においては、2枚目以降の鍛造素材W1を密閉式の鍛造加工によって成形することができる。
【0072】
ここで、後続のワークWがワーク成型孔41内に圧入される際、先行のワークWは、そのつる巻き線状の突条部(ローブ)W3が、ワーク成型孔41のつる巻き線状のワーク成型用溝部42に適合状態に収容されているため、先行のワークWが突き出し方向(下方向)に進行する際に、先行のワークWは、つる巻き線状の溝部42に沿ってねじれ回転しながら進行していく。このためその先行ワークWの外周面と、ワーク成型孔41の外周面との間に大きい摩擦抵抗力(ワーク抜け出し抵抗力)が発生する。従って後続のワークWは、そのワーク突き出し抵抗力に逆らいながら、先行のワークWを突き出しつつ、ワーク成型孔41内に圧入されていく。つまり、先行のワークWは、後続のワークWに対して、上記の突き出し抵抗力を背圧とする背圧付与部材として機能する。
【0073】
このように後続のワークWは、背圧を受けながら、成形用キャビティ(ワーク成型孔41)を押し広げつつ、そのキャビティ内に充填されていくため、後続のワークWが空間部に直接充填されることがない。このため、後続のワークWは、軸心方向(打込方向)に対し直交する方向へも満遍なくスムーズに拡がっていき、ワーク成型孔41内に隙間なく充填される。従って、欠肉等の不具合のない鍛造成形品W2を安定して製作することができ、寸法精度等に優れた高品質の鍛造製品を確実に製造することができる。
【0074】
一方、本実施形態の鍛造装置では、上記の動作が連続して行われるものである。すなわち先行のワークWをワーク成型孔41内に停留させた状態で、後続のワークWが順次、ワーク設置孔31内に投入されて、上金型1が打ち込まれることにより、先行のワークWが鍛造成形品W2として、後続のワークWに突き出されて、順次排出されていく。
【0075】
以上のように、本実施形態の鍛造装置によれば、下金型2における貫通孔21の上側にワーク設置孔31、下側にワーク成型孔41を設け、先行のワークWをワーク成型孔41に停留させた状態で、ワーク設置孔31内の後続のワークWに上金型1を打ち込んで、後続のワークWをワーク成型孔41に圧入して成形するとともに、その後続のワークWによって先行のワークW(鍛造成形品W2)を突き出して下方に排出するようにしているため、下金型内に配置された鍛造成形品を排出するためのノックアウトピン等のワーク排出機構が必要なく、その分、金型の簡素化および小型軽量化を図ることができるとともに、コストを削減することができる。
【0076】
しかも、後続のワークWをワーク成型孔41に圧入すると同時に、先行のワークWを突き出すようにしているため、上金型1の打ち込み処理(ワーク成型処理)とワーク排出処理とを同時に並行して行うことができる。このため、サイクルタイムを短縮できて、生産性を向上させることができ、一層コストを削減することができる。
【0077】
また本実施形態の鍛造装置は、先行ワークW、貫通孔21の内周面および上金型1によって、後続のワークWの全周面を拘束しつつ、後続のワークWを成形する密閉鍛造を行うものであるため、バリや余剰部等が少ない鍛造成形品W2を製造でき、材料歩留まりを向上できて、より一層コストを削減することができる。
【0078】
また本実施形態の鍛造装置は、既述したように、先行のワークWが背圧付与部材として機能するため、後続のワークWは、背圧を受けながら、ワーク成型孔41に充填される。従って、欠肉等の不具合のない鍛造成形品W2をスムーズに製作することができ、寸法精度等に優れた高品質の鍛造製品を、より一層確実に製造することができる。
【0079】
また本実施形態の鍛造装置では、ワークWを下金型2の下方から排出するものであるため、ワーク排出方向が上金型1の打込方向と一致する。このため、高荷重が必要なく、大型のプレス機構を用いずに、小型のプレス機構を用いて生産することができ、より一層装置の小型軽量化を図ることができるとともに、コストをさらに削減することができる。
【0080】
なお、本実施形態による鍛造加工は、熱間鍛造および冷間鍛造のいずれでも実施することができる。例えば、鍛造成形品W2のサイズが小さく、6061系合金を用いるような場合には、冷間鍛造で実施するようにすれば良い。
【0081】
また鍛造加工前には、素材潤滑処理および金型潤滑処理が行われるが、冷間鍛造で実施する場合には、素材潤滑処理として、ボンデ処理(リン酸化亜鉛処理)を採用するのが好ましい。
【0082】
熱間鍛造で実施する場合には、素材潤滑処理として、黒鉛系の水溶性潤滑材を用いるのが好ましい。
【0083】
また金型潤滑処理は、特に限定されるものではなく、上記したように、先行のワークWによる背圧作用が適切に発揮されるように、適宜調整するようにすれば良い。
【0084】
金型潤滑処理においては、油性潤滑材、水溶性潤滑材を用いることができるが、高温であるため、水溶性潤滑材を用いるのが好ましい。
【0085】
さらに鍛造素材W1の合金種類によっては、必ずしも、金型潤滑処理を行わずに、素材潤滑処理だけを行うようにしても良い。
【0086】
本実施形態において、鍛造加工時の温度条件等の各種条件は、ワークWの質量、断面積、合金種類に合わせて適宜調整すれば良い。
【0087】
例えば熱間鍛造で実施する場合、上金型1の温度は50〜200℃程度、下金型2の温度は150〜350℃程度、素材温度は350〜500℃程度に設定するのが良い。
【0088】
さらに冷間鍛造で実施する場合、金型1,2の温度は常温〜150℃程度、素材温度は常温程度に設定するのが良い。
【0089】
さらに成形時の上金型1の荷重は、例えば、ワーク径φ100mmのときに、250t以下(2.5×106 N以下)で行うことができる。
【0090】
本実施形態において、排出される先行のワークWが、後続のワークWに対しくっつかずにスムーズに離脱できるように、2枚目以降のワークWを鍛造加工する際には、潤滑材を多く塗布するのが良い。またワークWの各間に、アルミニウム箔等を挿入するなど工夫して、ワーク間の離脱性を良くするようにしても良い。
【0091】
さらに下金型2のワーク排出口45の下側に、軸心方向(上下方向)に対し傾斜するガイド板(図示省略)を配置しておいて、ワーク排出口45から排出されるワークWをガイド板に沿って斜め方向にガイドさせることにより、排出されるワークWを後続のワークWに対し折り曲げるようにして離脱させるようにしても良い。
【0092】
<第2実施形態>
図6はこの発明の第2実施形態である鍛造装置の金型を示す半分切欠斜視図である。同図に示すように、この第2実施形態の鍛造装置が、上記第1実施形態の鍛造装置に対し相違している点は、下金型2の軸心方向(上下方向)長さが異なるという点である。
【0093】
すなわち上記第1実施形態における下金型2は、そのワーク成型孔41の軸心方向長さが、成形される鍛造成形品W2の軸心方向長さに対しほぼ同じ長さに設定されているが、本第2実施形態における下金型2は、その成型孔41の軸心方向長さが、成型される鍛造成形品W2の軸心方向長さよりも短く、鍛造成形品W2の軸心方向長さの1/3程度に設定されている。
【0094】
本第2実施形態において、他の構成は、上記第1実施形態と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して、重複説明は省略する。
【0095】
この第2実施形態の鍛造装置においても、上記第1実施形態の鍛造装置とほぼ同じ動作が行われる。
【0096】
すなわち図7Aに示すように、1枚目の鍛造素材W1を下金型2におけるワーク設置孔31内に投入して、上金型1をワーク設置孔31内に打ち込む。これにより、1枚目のワークWが塑性流動しつつワーク成型孔41内にねじ込まれるように圧入されていく。そして図7Bに示すように、ワークWは、その下側部分がワーク成型孔41を通過してワーク排出口45から下方に突出した状態で、上端部がワーク成型孔41内に、上記第1実施形態と同様のワーク抜け出し抵抗力により、ワーク成型孔41内で停留する。
【0097】
続いて、1枚目(先行)のワークWをワーク成型孔41内に停留させたままの状態で、2枚目以降(後続)のワークWを、ワーク設置孔31内に投入して、上金型1を打ち込む。これにより図8A,8Bに示すように、後続のワークWが先行のワークWを下方に突き出しながら、ワーク成型孔41内に塑性流動してねじ込まれるように圧入されていく。そして図8Cに示すように、後続のワークWは、下側部分がワーク成型孔41を通過し、上端部のみがワーク成型孔41に圧入された状態で停留する一方、先行のワークWがワーク排出口45からねじれ回転しながら排出されて、後続のワークWから切り離されて落下する。
【0098】
この第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様、先行のワークWは、後続のワークWに対し、ワーク成型孔41から突き出される際のワーク突き出し抵抗力を背圧とする背圧付与部材として機能する。
【0099】
この第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、同様の作用効果を得ることができる上さらに、ワーク成型孔41の軸心方向(上下方向)長さが短いため、より一層下金型2の小型コンパクト化を図ることができる。
【0100】
もっとも、この第2実施形態において、先行のワークWは、上端部のみがワーク成型孔41に配置されているため、先行のワークWがワーク成型孔41を抜け出して離脱した時点からは、後続のワークWは、背圧を受けずに、ワーク成型孔41によって成形されることになる。
【0101】
なお本第2実施形態においては、ワーク成型孔41の軸心方向長さを、鍛造成形品W2の軸心方向長さよりも短くするようにしているが、それだけに限られず、本発明においては逆に、ワーク成型孔41の長さを、鍛造成形品W2の長さよりも長くするようにしても良い。この場合、ワーク成型孔41内に、複数のワークWを停留させておくことができ、上記ワーク突き出し抵抗力をさらに増大させることができる。
【0102】
<第3実施形態>
図9はこの発明の第3実施形態である鍛造装置の金型を示す半分切欠斜視図、図10はこの第3実施形態の鍛造装置によって加工される鍛造素材W1を示す斜視図である。両図に示すように、この第3実施形態においては、鍛造素材W1として、押出成形しない鋳造部品によって構成されたものが用いられている点が、上記第1実施形態のものとは大きく相違している。
【0103】
すなわちこの鍛造素材W1は、円柱ないし円盤形状に形成されたものであり、その製作方法については、上記第1実施形態で述べた通りである。
【0104】
また下金型2におけるワーク設置用金型3は、そのワーク設置孔31の水平断面形状が、上記円柱形状の鍛造素材W1の水平断面形状に対応して円形に形成されている。
【0105】
さらに上金型1は、その水平断面形状が、下金型2のワーク設置孔31の水平断面形状に対応して円形に形成されて、ワーク設置孔31内に挿入可能に構成されている。
【0106】
なおワーク設置孔31は、その水平断面形状において、鍛造素材W1が投入できるようにその外接円に対し、同等もしくは少し大きく設定されている。
【0107】
さらにワーク設置孔31の径と、連続鋳造棒の切断品との径とが大きく異なる場合は、切断品を予備成形(鍛造または据込)したものを、鍛造素材W1として用いることができる(後述の第5実施形態でも同様である)。
【0108】
本第3実施形態において、他の構成は、上記第1実施形態と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して、重複説明は省略する。
【0109】
この第3実施形態の鍛造装置においても、上記実施形態の鍛造装置とほぼ同じ動作が行われる。
【0110】
すなわち、1枚目の鍛造素材W1をワーク設置孔31内に投入して、上金型1を打ち込む。これにより鍛造素材W1がワーク成型孔41内に塑性流動してねじ込まれるように圧入充填される。
【0111】
続いて、1枚目(先行)のワークWをワーク成型孔41内に停留させたままの状態で、2枚目以降(後続)のワークWを、ワーク設置孔31内に投入して、上金型1を打ち込む。これにより後続のワークWが先行のワークWを下方に突き出しながら、ワーク成型孔41内に塑性流動してねじ込まれるように圧入される一方、先行のワークWがねじれ回転しながらワーク排出口45から排出されて落下する。
【0112】
言うまでもなく、この第3実施形態においても、上記実施形態と同様、先行のワークWは、後続のワークWに対し、背圧付与部材として機能する。なお、この背圧機能に関しては、以下の第4,5実施形態においても同じである。
【0113】
この第3実施形態においても、上記実施形態と同様に、同様の作用効果を得ることができる。
【0114】
<第4実施形態>
図11はこの発明の第4実施形態である鍛造装置の金型を示す半分切欠斜視図、図12は同鍛造装置によって加工された後の鍛造成形品W2を示す斜視図、図13は同鍛造装置によって加工される前の鍛造素材W1を示す斜視図である。これらの図に示すように、この第4実施形態においては、上記第1〜3実施形態とは異なる形状の鍛造成形品W2を製造するものである。
【0115】
すなわち上記第1実施形態では、外周に3本のローブW3が設けられた3葉式ツイストローブが採用されたロータ部品を構成する鍛造成形品W2を製作するのに対し(図4参照)、第4実施形態で製作される鍛造成形品W2は、外周に4本のローブW3が設けられた4葉式ツイストローブが採用されたロータ部品を構成する鍛造成形品Wを製作するものである。
【0116】
さらに上記の鍛造成形品W2を加工するための鍛造素材W1は、押出成形品からなるもので、4本のローブW3に対応する軸心方向に平行な4本のローブ対応部が設けられている。なお、押出成形品によって鍛造素材W1を製作する方法は、上記第1実施形態と実質的に同様である。
【0117】
また下金型2におけるワーク設置用金型3は、そのワーク設置孔31の水平断面形状が、上記鍛造素材W1の水平断面形状に対応して形成されるとともに、ワーク成型孔41は、鍛造成形品W2の外周形状に対応して形成されている。
【0118】
また上金型1は、水平断面形状がワーク設置孔31の水平断面形状に対応して形成されて、ワーク設置孔31内に挿入可能に構成されている。
【0119】
本第4実施形態において、他の構成は、上記第1実施形態と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して、重複説明は省略する。
【0120】
この第4実施形態の鍛造装置においても、上記実施形態と同様に、先行のワークWをワーク成型孔41内に停留させたままの状態で、後続のワークWを、ワーク設置孔31内に投入して、上金型1を打ち込むことにより、先行のワークWを下方に突き出して排出するとともに、後続のワークWをワーク成型孔41内に圧入して成形するものである。
【0121】
この第4実施形態においても、上記と同様に、同様の作用効果を奏するものである。
【0122】
<第5実施形態>
図14はこの発明の第5実施形態である鍛造装置の金型を示す半分切欠斜視図である。同図に示すように、この第5実施形態においては、鍛造素材W1として、押出成形しない鋳造部品によって構成されたものが用いられている。
【0123】
この鍛造素材W1は、上記第3実施形態と同様に、円柱ないし円盤形状に形成されている(図10参照)。
【0124】
さらに下金型2におけるワーク設置用金型3は、そのワーク設置孔31が上記円柱形状の鍛造素材W1に対応して、円柱形状に形成されるとともに、上金型1は、ワーク設置孔31に対応して、円柱形状に形成されている。
【0125】
本第5実施形態において、他の構成は、上記第4実施形態と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して、重複説明は省略する。
【0126】
この第5実施形態の鍛造装置においても、上記実施形態と同様に、先行のワークWをワーク成型孔41内に停留させたままの状態で、後続のワークWを、ワーク設置孔31内に投入して、上金型1を打ち込むことにより、先行のワークWを下方に突き出して排出するとともに、後続のワークをワーク成型孔41内に圧入して成形するものである。
【0127】
この第5実施形態においても、上記同様に、同様の作用効果を奏するものである。
【0128】
<変形例>
上記実施形態においては、ワーク成型孔41の内周面に、つる巻き線状溝部42を形成して、その溝部42に沿って先行のワークWをねじれ回転させながら排出するようにして、ワーク外周面とワーク成型孔内周面との間に十分な摩擦抵抗力(ワーク抜け出し抵抗力)を発生させるようにしているが、本発明において、ワーク抜け出し抵抗力(ワーク踏ん張り力)を発生させる手段(ワーク抜け出し抵抗手段)は、それだけに限られるものではない。
【0129】
例えば、ワーク成型孔の内周面に、螺旋状にV字状、U字状等の雌ねじ状溝部やギア歯状溝部を形成しておき、その螺旋状溝部に沿って先行のワークWをねじれ回転させながら排出させることにより、ワーク外周面とワーク成型孔内周面との間に十分なワーク抜け出し抵抗力を発生させるように構成しても良い。
【0130】
これらのワーク抜け出し抵抗手段は、ワーク成型孔の水平断面形状が下方に向かうに従って徐々に軸回り方向にずらせるように変化させることによって構成されるもの、換言すれば、垂直断面形状において、ワークの突条部(オーバーハング部)を、ワーク成型孔の溝部に係合させることによって構成されるものであるが、本発明は、それだけに限られず、突条部等のオーバーハング部を形成せずに、ワーク抜け出し抵抗手段を構成することも可能である。
【0131】
すなわちワーク成型孔内周面を、その面粗さ(面粗度)を高めて、ワーク設置孔内周面よりも粗面に仕上げて、ワークとの摩擦抵抗を大きくし、その摩擦抵抗力をワーク抜け出し抵抗力として機能させるようにしても良い。
【0132】
例えばワーク成型孔の内周面の面粗度を下方に行くほど荒したり、あるいはワーク成型孔内周面の下側半分の面粗度を、上側半分の面粗度の2倍以上に荒くしたりして、ワークに対し十分な摩擦抵抗力(ワーク抜け出し抵抗力)を作用させるようにすれば良い。
【0133】
また上記のワーク抜け出し抵抗力は、ワークとの摩擦抵抗に基づくものでるが、それだけに限られず、ワークの変形力に基づいて、ワーク抜け出し抵抗力を発生させるようにしても良い。
【0134】
例えばワーク成型孔の下側を絞ることにより、ワーク成型孔の内径を下側に向かうに従って次第に小さくなるように形成し、そのワーク成型孔を通過する際に、ワークを縮径変形(絞り加工)するとともに、その縮径変形力を、ワーク抜け出し抵抗力として機能させるようにしても良い。
【0135】
具体的には、例えばワーク成型孔の上側半分の内径を「A」としたときに、下側半分の内径を「0.999×A」としたり、あるいはワーク成型孔の内周面に、上端から下端にかけて1°以下のテーパーを付けて、下絞り形状に形成するようにしても良い。
【0136】
言うまでもなく、ワーク成型孔を下絞り形状に形成する場合、水平断面形状は、円形に限られることはなく、他の断面形状であっても良い。さらにワーク成型孔はその内径を連続的に絞ったテーパー形状のものだけに限られることはなく、内径を段階的に絞るようにすれば良い。
【0137】
またワーク成型用金型の下側部分の内周壁温度を、上側部分の内周壁温度よりも低くして、ワーク抜け出し抵抗力を発生させるようにしても良い。
【0138】
すなわちワーク成型用金型の内周壁温度が低くなると、熱膨張の関係で、ワーク成型孔の内径が小さくなる。このため例えば、ワーク成型用金型の下側半分の内周壁温度を、上側半分の内周壁温度に対し、50%程度低く設定することにより、ワーク成型孔の下側半分の内径を、上側半分に比べて小さくし、ワークを絞り加工することにより、上記同様に、ワーク抜け出し抵抗力を発生させるようにしても良い。
【0139】
ところで、上記したように、ワーク抜け出し抵抗力を発生させる方法としては、つる巻き線状ないし螺旋状の溝部を形成する方法、ワーク成型孔内周面の面粗度を高める方法、ワーク成型孔内に絞り加工部を設ける方法等が用いられているが、本発明においては、これらの方法のうち、いずれかを単独で用いて、ワーク抜け出し抵抗力を発生させるようにしても良いし、2つ以上の方法を併用して、ワーク抜け出し抵抗力を発生させるようにしても良い。
【0140】
また本発明においては、溝部、粗面部、絞り加工部等によって構成されるワーク抜け出し抵抗手段は、必ずしも、ワーク成型孔の内周面全域に設ける必要はなく、ワーク成型孔の一部に設けるようにしても良い。
【0141】
また上記実施形態においては、ワーク抜け出し抵抗手段を、ワーク成型孔に設けるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、ワーク抜け出し抵抗手段を、ワーク成型孔の下側に設けるようにしても良い。
【0142】
例えばワーク成型用金型の下側に、ワーク停留孔を有するワーク停留用金型を配置しておき、そのワーク停留孔の内周面に、上記したようなワーク抜け出し抵抗手段を設けておいて、ワーク成型孔から突き出されたワークをワーク停留孔に、ワーク抜け出し抵抗手段による抵抗力によって停留させるようにしても良い。
【0143】
また上記実施形態においては、鍛造成形品として、3葉式または4葉式ツイストローブ付きのロータ部品を作製する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明は、他の形状の部品を鍛造成形品として製作することも可能である。
【0144】
例えば、はすば歯車(ヘリカルギア)等の螺旋状のギア歯や、ねじ山が全域または一部に形成された雄ねじ状部品、全域または一部がねじれた形状のねじれ部品等の他、ねじれやねじ山がない部品、つまり軸心方向のいずれの位置でも断面形状が同じようなストレート部品を形成することもできる。
【0145】
もっとも雄ねじ状部品や、ねじれ部品は、鍛造加工する場合には、ワーク抜け出し抵抗力を適度に付与することができるため、本発明を実施するに際して、鍛造成形品(ワーク)として特に有益である。
【産業上の利用可能性】
【0146】
この発明の鍛造方法は、金型を用いてワークを鍛造加工するようにした型鍛造技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0147】
1:上金型(パンチ)
2:下金型(ダイス)
21:貫通孔
31:ワーク設置孔
41:ワーク成型孔
42:ワーク成型用溝部
W:ワーク
W1:鍛造素材
W2:鍛造成形品
W3:ローブ(突条部)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14