【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
[実施例1]
下記表1に示す化学成分組成(鋼種A〜N)のスラブを1200℃で熱間圧延、900℃で仕上げ圧延を行い、500〜700℃で巻き取りを行った後、得られた熱延鋼板を酸洗し、圧下率が30〜60%になるように冷間圧延して、板厚:0.8mmの薄鋼板とした。尚、各成分の分析については、Cについては燃焼−赤外線吸収法、Nについては不活性ガス融解−熱伝導度法、その他の成分については発光分光分析法によった。
【0042】
【表1】
【0043】
得られた各鋼板について、レーザーフラッシュ法によって熱伝導率を測定した。この方法の概要は次の通りである。尚、上記表1には、熱伝導率の測定結果も併記した。
【0044】
[レーザーフラッシュ法]
測定装置:レーザーフラッシュ法熱定数測定装置 「TC−7000アルバック 理工株式会社製」
まず下記の方法によって各鋼板の熱拡散率を測定する。
(熱拡散率の測定)
(1)直径:10mmφに切断した試料(鋼板)の表面をカーボンスプレーによって黒化する。
(2)試料の黒化した面にレーザー光を瞬間的に照射し、裏面の温度変化を熱電対または赤外線検出器を用いて測定する。
(3)得られた時間−温度上昇曲線から熱拡散率を求める。
(4)レーザー光照射点と温度検出点との距離(即ち、各鋼板の厚さに相当)をL(mm)、試料裏面での最高到達温度の1/2の温度に到達するまでの時間をt
1/2(sec)とすると、熱拡散率α(m
2/sec)は下記の式で示される(このような測定方法をハーフタイム法と呼ぶ)。
熱拡散率α=1.37(L/π)
2・1/t
1/2 [m
2/sec]
【0045】
次に、下記の方法によって各鋼板の比熱を測定する。
(比熱の測定)
試料にレーザー光を瞬間的に照射したときに、試料に吸収された熱量をQ(J/cm
2)、試料の質量をM(g)、温度上昇量をΔT(K)とすると、比熱C
p(J/(g・K))は以下の式で示される。
比熱C
p=Q/(M・ΔT) [J/(g・K)]
【0046】
上記によって得られた熱拡散率α(m
2/sec)および比熱C
p(J/(g・K))に基づいて、下記の方法によって各鋼板の熱伝導率を測定した。
(熱伝導率の測定)
熱拡散率をα(m
2/sec)、比熱をC
p(J/(g・K))、密度をρ(g/cm
3)とすると、熱伝導率η(W/(m・K))は以下の式で示される。密度ρはアルキメデス法によって測定した値を採用した。
熱伝導率η=C
p・α・ρ [W/(m・K)]
【0047】
上記表1の結果から、C,Mn,Al等の成分によって、熱伝導率が変化するとの知見が得られ、更に各元素について検討した結果、上記した様な適切な範囲が設定できたのである。
【0048】
[実施例2]
上記表1に示した鋼種C,D,G,J,K,L,M,Nを素地鋼板として用い、下記の方法によって、各鋼板の両面に亜鉛めっき(電気亜鉛めっき、または溶融亜鉛めっき)を施して亜鉛めっき鋼板とした。作製した亜鉛めっき鋼板をシャーにて切断した。このとき、各鋼板の大きさは150mm×250mm(厚さ:0.8mm)とした。
【0049】
[電気亜鉛めっき鋼板の作製]
(1)アルカリ水溶液浸漬脱脂:3質量%苛性ソーダ水溶液、60℃、2秒
(2)アルカリ水溶液電解脱脂:3質量%苛性ソーダ水溶液、60℃、2秒、
10〜30A/dm
2
(3)水洗
(4)酸洗:3〜7質量%硫酸水溶液、40℃、2秒
(5)水洗
(6)電気亜鉛めっき(下記の条件のとおり)
(7)水洗
(8)乾燥
【0050】
(電気亜鉛めっき条件)
めっきセル:横型めっきセル
めっき浴組成:ZnSO
4・7H
2O300〜400gL
Na
2SO
450〜100g/L
H
2SO
425〜35g/L
電流密度:50〜200A/dm
2
めっき浴温度:60℃
めっき浴流速:1〜2m/秒
電極(陽極):IrO
2合金電極
めっき付着量:17〜20g/m
2(片面当たり)
【0051】
[溶融亜鉛めっき鋼板の作製]
上記冷延鋼板を、酸洗工程を通すことなく、溶融亜鉛めっきを施した。溶融亜鉛めっきは、還元性ガス雰囲気中での加熱による還元、めっき浴浸漬、ガスワイピングする装置を使用し、溶融亜鉛めっきを施した。めっき浴組成は、Zn−0.2%Alとした。
【0052】
上記還元温度は560〜900℃とし(好ましくは650〜800℃)、熱延鋼板の酸化スケール層の加熱、還元は、連続式溶融めっきラインにおいて、素地鋼板を酸洗工程に通すことなく、還元性ガス雰囲気下を連続的に通板させることにより行うことができる。還元時間については特に規定しないが、通常の連続式溶融めっきラインで実現可能な時間としては10〜80秒程度である。還元後、溶融亜鉛めっきを施したが、その前にめっき浴温近傍まで板温を低下させた。
【0053】
(溶融めっき条件)
還元温度:780℃〜860℃
めっき組成:Zn−0.2%Al
めっき浴温度:455〜465℃
亜鉛付着量:68〜133g/m
2
【0054】
上記のようにして得られた各亜鉛めっき鋼板を用い、下記の方法によって樹脂皮膜を被覆した。尚、樹脂皮膜は熱源と反対側に相当する面(「裏面」と呼ぶ)に被覆した。
【0055】
[樹脂皮膜の被覆]
(下地処理)
まず、各亜鉛めっき鋼板に、下地処理としてノンクロメ−ト皮膜(「CTE−203」 日本パーカライジング社製)を用い、その付着量100mg/m
2となるように下地処理を行った。
【0056】
(樹脂皮膜)
樹脂は、有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂(「バイロン(登録商標)650」 東洋紡績社製)を用いた。カタログ値のTg(ガラス転移温度)は10℃、数平均分子量は23×10
4である。
【0057】
(架橋剤)
メラミン樹脂(「スミマール(登録商標)M−40ST」:住友化学社製:固形分80%)を用いた。
【0058】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、「三菱カーボンブラック(平均粒径:25nm)」(三菱化成社製)を用いた。
【0059】
上記ポリエステル樹脂と、上記架橋剤(固形分80%)を質量比(ドライ)100:20で混合してマトリックス樹脂とし、上記カーボンブラックを含有量10%となるように添加した。この原料組成物の粘度が30〜100秒(フォードカップNo.4)程度となるように、キシレン/シクロヘキサノン混合溶剤(キシレン:シクロヘキサノン=1:1)で希釈して、ハンドホモジナイザによって回転数:10000rpmで10分撹拌し、原料組成物(樹脂皮膜用原料組成物)を調製した。
【0060】
上記樹脂皮膜用原料組成物を、皮膜厚さ10μmとなるように、各亜鉛めっき鋼板の裏面側にバーコートで塗工し、熱風乾燥炉内にて到達板温:230℃で約60秒間焼き付けし、樹脂被覆亜鉛めっき鋼板を作製した。このときの皮膜厚さは、皮膜の質量を測定し、比重換算で算出した値である。焼付け、乾燥することによりサンプルを作製した。これら各サンプルについて、前述した方法によって樹脂皮膜表面の放射率を測定すると共に、下記の方法によって、鋼板の放熱性について評価した。
【0061】
[鋼板の放熱性の評価方法]
このとき用いたサンプル板(樹脂被覆亜鉛めっき鋼板)の大きさは、150mm×250mm、ヒーターの大きさは56mm×96mmである。
図1に示すように[
図1(a)は平面図、
図1(b)は正面図、
図1(c)は
図1(b)のA−A断面図]、サンプル板1を地面に対して垂直方向に固定し、サンプル板1の背面中央にヒーター2を固定し、周囲を断熱材3で覆った。そして、サンプル板裏面(
図1(b)の右側)に熱電対4を配置した。サンプルの中心に配置した熱電対で最高温度を評価した。
【0062】
図1に示した部材5(構成要素)を複数個(
図2では8個)重ね、
図2に示すような実験装置を構成し、各サンプルの放熱性を評価した。熱源は電気ヒーターとし、電源(
図2中「100V電源」で示す)からの電圧を、電源安定装置と出力調整装置で調整し、ヒーターの熱出力を調整した。
【0063】
こうした実験装置によって、加熱開始から熱電対の測定値が安定するまで5時間程度待った後、温度計測データを温度計測定データロガーで取り込み、表示装置6で表示した。このときの実験条件は、室温、ヒーター出力は20Wとした。
【0064】
上記実験によって測定された温度(以下、「最高温度」と呼ぶ)の結果を、サンプルの仕様(亜鉛めっき方法、各面における亜鉛めっき付着量、素地鋼板の熱伝導率、裏面の放射率)と共に、下記表2に示す。尚、実験No.1〜3、7〜11のものは樹脂皮膜を形成していないものである。
【0065】
【表2】
【0066】
この結果から、次のように考察できる。まず実験No.1のものでは、素地鋼板(鋼種G)の化学成分組成が本発明で規定する範囲外のものであり、また亜鉛めっきの付着量も少なくなって、素地鋼板の高熱伝導率が達成されていない。しかも、裏面(樹脂皮膜を被覆していない)の放射率が低くなっているため、最高温度が高くなっており、鋼板の放熱性が良好でないことが分かる。
【0067】
実験No.2、3のものでは、素地鋼板(鋼種C,D)の化学成分組成が本発明で規定する鋼を用いて素地鋼板の熱伝導率を向上させ、亜鉛めっき付着量を増加したものである。この場合には、最高温度は素地鋼板の高熱伝導化によって低下するものの、裏面(樹脂皮膜を被覆してない)の放射率が低いため、最高温度は高いままである。
【0068】
実験No.4のものでは、実験No.1の素地鋼板の裏面に放射率:0.81の樹脂皮膜を被覆したものである。放射率の高い樹脂皮膜の被覆効果によって、最高温度は低下している。しかしながら、鋼板の高熱伝導化は完全には達成されているとはいえない。
【0069】
実験No.5、6では、実験No.2、3のものに、放射率が0.81、0.82の樹脂皮膜を被覆した鋼板である。実験No.4のものよりも素地鋼板が高熱伝導化されているため、さらに最高温度が低下しており、良好な放熱性が発揮されていることが分かる。
【0070】
実験No.7のものでは、素地鋼板の化学成分組成が本発明で規定する範囲外の鋼種Jを用いており、また亜鉛めっきの付着量も少なくなって、素地鋼板の高熱伝導率が達成されていない。しかも、裏面(樹脂皮膜を被覆していない)の放射率が低くなっているため、最高温度が高くなっており、鋼板の放熱性が良好でないことが分かる。
【0071】
実験No.8のものでは、素地鋼板の化学成分組成が本発明で規定する鋼種Kを用いているが、亜鉛めっきの付着量が少なくなって、素地鋼板の高熱伝導率が達成されていない。しかも、裏面(樹脂皮膜を被覆していない)の放射率が低くなっているため、最高温度が高くなっており、鋼板の放熱性が良好でないことが分かる。
【0072】
実験No.9〜11のものでは、素地鋼板の化学成分組成が本発明で規定する鋼種L,M,Nを用いて素地鋼板の熱伝導率を変化させ、亜鉛めっき付着量を変化させたものである。裏面(樹脂皮膜を被覆していない)の放射率が低くなっているため、最高温度が高くなっており、鋼板の放熱性が良好でないことが分かる。
【0073】
実験No.12〜16では、実験No.7〜11のものに、様々な放射率の樹脂皮膜を裏面に被覆した鋼板である。実験No.12は、素地鋼板の化学成分組成が本発明で規定する範囲外の鋼種Jを用いており、鋼板の放熱性が良好でないことが分かる。実験No.13は、亜鉛めっきの付着量が少なく、鋼板の放熱性が良好でないことが分かる。実験No.14〜16は、実験No.9〜11のものよりも素地鋼板が高熱伝導化されているため、さらに最高温度が低下しており、良好な放熱性が発揮されていることが分かる。