【実施例1】
【0023】
まず、実施例1に係るエンジン制御手法の概要について、
図1を用いて説明する。なお、実施例1では、吸気系機構の異常検出を、EGR機構の異常検出に適用させた場合について説明する。
【0024】
なお、以下では、自動車のエンジンを制御するエンジン制御装置に適用する場合について説明するが、必ずしもこれに限られるものではなく、種々の異なる内燃機関におけるエンジン制御装置およびエンジン制御方法にて実施されてよいものである。
【0025】
図1は、実施例1に係るエンジン制御手法の概要を示す図である。なお、
図1の(A)には、吸排気弁停止機構およびEGR機構を説明するための図を、
図1の(B)には、従来技術に係るエンジン制御手法を、
図1の(C)には、実施例1に係るエンジン制御手法を、それぞれ示している。
【0026】
エンジンには、自動車の触媒保護を目的に、燃料供給停止(以降、フューエルカットと記載する)時に吸排気弁を閉じた状態で停止させる吸排気弁停止機構が設けられている。
【0027】
エンジンの制御にてフューエルカットが行われている状況にある時には、燃料噴射やシリンダでの燃焼が行われないため、触媒に酸素を多く含む空気であるリーンなガスが供給される状況が続くが、触媒は高温環境下でこのリーンなガスの供給を受けると劣化する。
【0028】
吸排気弁停止機構は、このような触媒が劣化しやすい状況の発生を抑える目的で設けられており、フューエルカットの要求があると吸気弁または排気弁を強制的に閉じた状態で停止させ、新しい空気が触媒へ流入することを防止する。
【0029】
なお、触媒保護の目的で吸排気弁を停止させる場合には、吸気弁と排気弁とを、吸気弁と排気弁との少なくとも一方が閉じた状態で停止させるものとする。なお、吸排気弁停止機構では、吸気弁および排気弁の両方を停止させるのではなく、いずれか一方を停止させることとしてもよい。
【0030】
また、エンジンには、エンジンでの燃焼によって排出される排気ガス中の窒素酸化物(以下、「NOx」と記載する)を低減させるため、EGR(Exhaust Gas Recirculation)機構が設けられている。
【0031】
ここで、EGR機構の詳細について、
図1の(A)を用いて説明する。
図1の(A)は、エンジン内におけるシリンダ50周辺の概略図である。なお、シリンダ50とは、混合気を内部に納める筒状の部品である。
【0032】
シリンダ50には、吸気管60と排気管70とがそれぞれ吸気弁16と排気弁17とを介して連結されている。また、吸気管60と排気管70とはEGR弁18を介して連結されている。
【0033】
EGR弁18が閉じられている場合には、車両外部(矢印1)から図示しないエアフィルタ等を介して吸気した空気とガソリンとの混合気は、吸気弁16が開けられた際に、吸気管60経由(矢印3)でシリンダ50内へ送り込まれる。
【0034】
そして、EGR弁18が開けられている場合には、排気管70経由(矢印4)で排出される排気ガスの一部が排気還流管72を介して吸気管60へ送り込まれる(矢印5、矢印2)。
【0035】
これにより、吸気管60内で、排気ガスの一部と車両外部(矢印1)から吸気された空気とは混合される。したがって、EGR機構を備えるエンジンは、排気ガスの一部と空気とガソリンとの混合気によって燃焼を行うこととなる。
【0036】
また、エンジンは、シリンダ50内へ送り込まれた混合気へ点火することによって爆発燃焼する。そして、燃焼した際に発生した排気ガスは、排気弁17が開けられた際に、排気管70経由(矢印4)で外部(矢印6)へ排出される。
【0037】
ここで、燃焼時に発生した排気ガスは、酸素が含まれていない、もしくは、酸素が希薄な状態である。したがって、排気ガスと外部からの空気とが混合された気体中の酸素濃度は大気中と比較して低い。
【0038】
このため、EGR機構を備えるエンジンは、大気中より低い酸素濃度の気体を燃焼させることによって燃焼温度を低下させ、これによってNOxの排出を抑制する事ができる。また、上記したEGR機構を備えたエンジンは、EGR機構が故障すると排気ガスに悪影響を与えるため、EGR機構の異常検出を行うことが義務付けられている。
【0039】
エンジン制御装置は、
図1の(B)に示すように、所定の条件が成立するとフューエルカット要求を行う。なお、以下、フューエルカットとしてトルクが不要な際、たとえばアイドルON状態、減速時および下り坂走行中に実施するフューエルカットを例として説明するが、実施例1はフューエルカットの種類に限定されるものではない。
【0040】
エンジン制御装置は、フューエルカット条件が成立すると、フューエルカット要求を行って、吸排気弁を閉じた状態で停止させた後、フューエルカットを行う。その後、従来のエンジン制御装置は、EGR弁18の開閉による吸気管60内の圧力変化を検知することによってEGR機構の異常検出を行う。
【0041】
しかし、吸排気弁の少なくとも一方が閉じた状態で停止している場合、シリンダ50内のピストンがエンジンの回転にともない上下動することによって吸気管60内のガスがシリンダ50に吸い込まれ、シリンダ50内のガスが排気管70へ排出され、また、排気管70へ排出された一部のガスが排気還流管72に流れ込むガスの流れがなくなるため、EGR弁18を開閉しても、排気管70から排気還流管72を介して吸気管60内にガスが流れ込むことがなく、吸気管60内の圧力変化は生じない。したがって、従来のエンジン制御装置は、吸排気弁停止機構によって吸排気弁の動作が停止されてしまうと、EGR機構の異常検出が不可となってしまう。
【0042】
そこで、実施例1に係るエンジン制御手法は、EGR機構の異常検出処理の実施頻度に基づいて、異常検出処理を行う必要があると判断した場合には、フューエルカット時に吸排気弁を停止させないこととした。
【0043】
具体的には、実施例1に係るエンジン制御手法は、
図1の(C−1)に示すように、フューエルカットを実施する際に、EGR機構の異常検出処理が、1トリップ中に行われていない場合には、吸排気弁を停止させないこととした。
【0044】
なお、ここでの1トリップとは、イグニッションがONになってからOFFになるまでの間、または、イグニッションONからOFFして再度ONするまでの間、もしくは、イグニッションOFFからONして再度OFFするまでの間を指す。
【0045】
実施例1に係るEGR機構の異常検出処理の具体例としては、吸排気弁を停止していないフューエルカット状態にあるときに、EGR弁を開閉させ、開閉前後の吸気管60内の圧力変化に基づいてEGR機構(EGRの制御に関係する部品であり、EGR弁や排気還流管、EGR弁を駆動するソレノイドや駆動回路等)の異常検出を行っている。
【0046】
なお、EGR機構の異常検出処理を行う際のEGR弁開閉操作は、EGR弁18の開度を大きく変化させる動作を行い、EGR弁18の開閉動作を複数回繰り返すことが望ましい。
【0047】
なお、このような異常検出のためのEGR弁18の動作を通常の運転状態に行うと、シリンダ50内へ吸入される空気に含まれる燃料の割合を正確に制御できなくなり、結果として、シリンダ50内へ吸入される排気に含まれる有害物質が増えることとなる。このため、EGR機構の異常検出処理を行うのは、シリンダ50内の燃焼状態に影響が生じないフューエルカット状態にあるときに行うことが望ましい。
【0048】
したがって、実施例1に係るエンジン制御手法は、フューエルカット状態にあるときにEGR機構の異常検出処理を行うことによって、精度の高いEGR機構の異常検出結果を、排気ガスの状態に悪影響を与えることなく得ることができる。
【0049】
一方、実施例1に係るエンジン制御手法は、
図1の(C−2)に示すように、フューエルカット条件が成立してフューエルカットを実施する際に、EGR機構の異常検出処理の実施頻度に基づいて、異常検出処理を行う必要がないと判断した場合には、吸排気弁を停止させた後に、フューエルカットを行う。そして、この場合には、EGR機構異常検出処理を実施しない。
【0050】
具体的には、EGR機構の異常検出処理が、1トリップ中に既に行われていた場合(EGR機構の異常検出処理が完了している場合が望ましい)には、吸排気弁を停止させた後に、フューエルカットを行う。
【0051】
このようにすることによって、実施例1に係るエンジン制御手法は、1トリップに少なくとも1回はEGR機構の異常検出処理を行うこととしたので、法規上の規定回数を満たすことができる。
【0052】
なお、上記した実施例1に係るエンジン制御手法では、EGR機構の異常検出処理を1トリップに1回行うこととしたが、EGR機構の異常検出処理を行う頻度はこれに限定されるものではなく、1トリップに複数回、または、複数トリップに1回行うこととしてもよい。
【0053】
具体的には、前回のEGR機構の異常検出処理を行ってからの時間が、所定時間以上経過した場合に、同一トリップ内であってもEGR機構の異常検出処理を行うようにしてもよい。
【0054】
また、イグニッションスイッチがOFFされてから直ちにイグニッションスイッチが再度ONされた場合など、前回のEGR機構の異常検出処理を行ってからの時間が、所定時間以下である場合には、現トリップでEGR機構異常検出処理を行っていなくても、EGR機構の異常検出処理を行わないようにしてもよい。
【0055】
また、実施例1に係るエンジン制御手法は、フューエルカット条件が成立してフューエルカットを実施する際に、EGR機構の異常検出処理が、1トリップ中に行われていない場合には、弁停止を行わずにEGR機構の異常検出処理を行うこととした。
【0056】
しかし、フューエルカット条件が成立してフューエルカットを実施する際、EGR機構の異常検出処理が1トリップ中に行われていない場合であっても、エンジン内に備える触媒が高温状態である場合は、弁停止を行うこととしてもよい。この場合、EGR機構の異常検出処理よりも弁停止を優先して行うことによって、触媒温度の上昇を抑えるとともに触媒の劣化を防止することができる。
【実施例】
【0057】
以下では、
図1を用いて説明した実施例1に係るエンジン制御装置(エンジンECU(Electronic Control Unit))およびエンジンについての実施例を詳細に説明する。まず、実施例1に係るエンジン制御装置20およびエンジンの構成について
図2を用いて説明する。
【0058】
図2は、実施例1に係るエンジン制御装置20およびエンジンの構成を示すブロック図である。なお、
図2では、エンジン制御装置20およびエンジンの特徴を説明するために必要な構成要素についてのみ記載している。
【0059】
図2に示すように、エンジン制御装置20は、記憶部21と、制御部22とを備えており、制御部22は、電源状態判定部22aと、FC(フューエルカット)実施判定部22bと、弁停止判定部22cと、弁停止部22dと、EGR異常検出部22eと、触媒温度推定部22fと、FC処理部22gとをさらに備えており、記憶部21は、異常検出処理履歴フラグ21aを記憶する。
【0060】
また、エンジンは、イグニッションスイッチ11と、アクセル開度センサ12と、クランク角度センサ13と、吸気管圧力センサ15と、吸気弁16と、排気弁17と、EGR弁18とを備えている。
【0061】
イグニッションスイッチ11は、イグニッションキーが操作されることによって切り替えられるスイッチであり、このスイッチのON/OFFによってエンジンEUC等の車載機器の電源(車両の電源)がON/OFFされる。
【0062】
アクセル開度センサ12は、アクセルの開度を計測する計測機器であり、FC実施判定部22bへアクセル開度を通知する。クランク角度センサ13は、エンジンの回転数を計測する計測機器であり、FC実施判定部22bへエンジン回転数を通知する。
【0063】
吸気管圧力センサ15は、吸気管60内の圧力を計測する計測機器であり、EGR異常検出部22eへ吸気管60内の圧力を通知する。
【0064】
吸気弁16は、シリンダ50と吸気管60との連結部に設けられる弁であり、シリンダ50内のピストン51の上下動とともに吸気弁16を開けることによって吸気管60内の混合気はシリンダ50内へ吸気され、さらに、排気管70内に排気される。これにより、吸気管60内の圧力は大気圧より低い状態、すなわち負圧となる。
【0065】
排気弁17は、シリンダ50と排気管70との連結部に設けられる弁であり、排気弁17を開けることによって燃焼時に発生したシリンダ50内の排気ガスは排気管70へ排気される。
【0066】
EGR弁18は、排気弁17から排気された排気ガスを吸気管60側へ供給する経路に設けられる弁であり、EGR弁18を開けることによって排気ガスの一部は吸気管60へ送り込まれ、外気から吸気された空気と混合される。
【0067】
記憶部21は、イグニッションスイッチ11がOFFの間もバッテリから電源供給が行われることで記憶内容が保持されるスタンバイRAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリおよびハードディスクドライブといった記憶デバイスで構成される記憶部である。この記憶部21は、1トリップ中にEGR機構の異常検出処理を行ったか否かを示す異常検出処理履歴フラグ21aを記憶する。
【0068】
ここでは、異常検出処理履歴フラグ21aには、EGR機構の異常検出処理が行われていない(異常検出処理を行う必要がある)場合に「OFF」がセットされ、EGR機構の異常検出処理が行われた(異常検出処理を行う必要がない)場合には「ON」がセットされることとする。また、記憶部21は、図示しないEGR異常検出処理の結果、たとえば、正常/異常フラグや故障番号であるダイアグコード等のEGR異常検出処理の結果も記憶する。
【0069】
電源状態判定部22aは、イグニッションスイッチ11の状態がONからOFFへ変化したと判断した場合や、OFFからONへ変化したと判断した場合に、異常検出処理履歴フラグ21aを「OFF」へ初期化する処理を行う処理部である。
【0070】
FC実施判定部22bは、各種センサから受け付けた車両の情報に基づいて燃費向上の目的で減速時フューエルカット(アイドルONフューエルカット)を行うか否かを判定し、フューエルカットを行うと判定した場合に、弁停止判定部22cとFC処理部22gへフューエルカット要求を渡す処理を行う処理部である。
【0071】
たとえば、FC実施判定部22bは、アクセル開度センサ12から受け付けたアクセル開度に基づいてアイドルON状態(運転者がトルクを要求していないと判断される状態)であると判定した場合に、フューエルカットを行うと判定する。
【0072】
なお、FC実施判定部22bは、アクセル開度センサ12から受け付けたアクセル開度に基づいてフューエルカット条件が成立するか否かを判定するが、これに限定されるものではない。たとえば、スロットル弁の全閉状態、すなわち、アクセルが踏みこまれていない状態であるか否かを検出するアイドルスイッチを用いることとしてもよい。
【0073】
また、エンジン回転数が所定値以下になった場合にフューエルカットを行うと、エンストしてしまう可能性がある。したがって、FC実施判定部22bは、クランク角度センサ13から受け付けたエンジン回転数が所定の回転数以上である場合に、フューエルカットを行うと判定する。また、図示しない車速センサから受け付けた車速が所定速度以下である場合にも、フューエルカットを行わないように構成してもよい。
【0074】
なお、ここでは、FC実施判定部22bは、減速時フューエルカット(アイドルONフューエルカット)についてフューエルカット条件が成立するか否かを判定したが、これに限定されるものではない。たとえば、FC実施判定部22bは、エンジン回転数が所定回数以上である場合に実施する高回転フューエルカットや、車速が所定速度以上である場合に実施する高速度フューエルカットといった、エンジン制御にて行われる種々のフューエルカット制御に対してフューエルカット条件が成立するか否かを判定することとする。
【0075】
触媒温度推定部22fは、エンジンの運転状態、たとえば、エンジン回転数や吸入空気量等に基づいてエンジン内に備える触媒の温度を推定し、弁停止判定部22cへ触媒温度を通知する。
【0076】
弁停止判定部22cは、FC実施判定部22bからフューエルカット要求を受け付けてフューエルカットを実施する際に、異常検出処理履歴フラグ21aおよび触媒温度に基づいて弁停止処理を行うか否かを判定する処理を行う処理部である。
【0077】
具体的には、弁停止判定部22cは、触媒温度推定部22fによって推定された触媒温度が所定の温度より高い場合には、弁停止処理要求を弁停止部22dへ渡す。また、弁停止判定部22cは、異常検出処理履歴フラグ21aが「ON」の場合、EGR機構の異常検出処理が既に行われたと判定し、弁停止処理要求を弁停止部22dへ渡す。また、弁停止を行うことをFC処理部22gに通知する。
【0078】
一方、弁停止判定部22cは、異常検出処理履歴フラグ21aが「OFF」の場合、EGR機構の異常検出処理が行われていないと判定し、弁停止処理を禁止し、弁停止処理要求を弁停止部22dへ渡さない。また、弁停止を行わないことをFC処理部22gに通知する。
【0079】
弁停止部22dは、弁停止判定部22cから弁停止処理要求を受け付けたならば、吸気弁16と排気弁17との少なくとも一方が閉じた状態で吸気弁16および排気弁17の作動を停止させることによって、作動を停止する処理を行う処理部である。これによって、エンジンは、燃費の向上を図ることができる。
【0080】
なお、弁停止部22dは、吸気弁16および排気弁17の作動を停止させることとしたが、吸気弁16および排気弁17の両方を停止させるのではなく、いずれか一方を停止させることとしてもよい。
【0081】
また、弁停止部22dは、吸気弁16および排気弁17が閉じた状態で作動を停止することとしたが、完全に閉じた状態でなくても、触媒の劣化を防止するという目的を達成できる程度の開度まで閉じた状態で、吸気弁16および排気弁17の作動を停止するようにしてもよい。また、複数のシリンダ50(気筒)を備えるエンジンの場合、全部の気筒について吸気弁16および排気弁17の作動を停止するのではなく、一部の気筒についてのみ作動を停止する処理を行うこととしてもよい。
【0082】
弁停止部22dは、吸気弁16および排気弁17の作動が完全に停止されたと判定したならば、弁停止通知をFC処理部22gへ渡す処理を併せて行う。なお、弁停止部22dは、吸気弁16および排気弁17が完全に停止したことを、図示しないセンサから通知を受けてもよいし、所定時間経過したら完全に停止したと判定することとしてもよい。
【0083】
EGR異常検出部22eは、EGR機構が異常であるか否かの検出処理(EGR機構の異常検出処理)を行う処理部である。具体的には、EGR異常検出部22eは、EGR弁18を開閉し、吸気管圧力センサ15によって吸気管60内の圧力変化を算出する。
【0084】
そして、EGR異常検出部22eは、算出された吸気管60内の圧力変化に基づいてEGR機構が異常であるか否かを検出する。なお、EGR異常検出部22eが行う詳細なEGR機構の異常検出処理については後述することとする。また、EGR異常検出部22eは、EGR機構の異常検出処理が終了したならば、異常検出処理履歴フラグ21aへ「ON」をセットする処理を併せて行う。
【0085】
なお、EGR異常検出部22eは、吸気管圧力センサ15によって算出された圧力変化に基づいてEGR機構の異常検出を行うこととしたが、これに限定されるものではない。
EGR異常検出部22eでは、吸気管圧力センサ15とは別に設けられた圧力センサを用いることとしてもよい。
【0086】
この場合、かかる圧力センサの設置場所は吸気管60内に限る必要はなく、排気還流管72,73内(EGR弁18より吸気管60側または排気管70側のいずれでもよい)や排気管70内に設けてもよい。
【0087】
FC処理部22gは、フューエルカット実施要求を受け付けたならば、燃料の供給を停止してフューエルカットの実施を行う処理部である。なお、弁停止判定部22cから弁停止を行う連絡を受けている場合には、弁停止とフューエルカットの開始タイミングを同期させるために、弁停止部22dから弁が停止したことを通知する弁停止通知を待ってからフューエルカットの実施を行い、弁停止判定部22cから弁停止を行う連絡を受けていない場合には、すぐにフューエルカットの実施を行う。
【0088】
つぎに、吸排気弁停止機構100およびEGR機構を備えたエンジンの構成の詳細について
図3を用いて説明する。
図3は、エンジンの具体的構成を示す図である。なお、
図3では、吸排気弁停止機構100を備えたエンジンの特徴を説明するために必要な構成要素についてのみ記載しており、以下では同図右上に示すような座標軸を適宜用いて説明を行うこととする。
【0089】
図3に示すように、エンジンに備えるシリンダ50には、吸気管60と排気管70とが、吸気弁16と排気弁17とを介して連結されている。さらに、吸気管60と排気還流管72とはEGR弁18を介して連結されており、吸気管60には、スロットル弁92や燃料を吸気管60内に噴射するインジェクタ93を備える。また、吸気管60におけるサージタンク内に吸気管圧力センサ15を設けている。また、吸排気弁停止機構100は、
図3の波線で示したように、吸気弁16および排気弁17の近辺に備えているものとする。
【0090】
このエンジンにおける空気(ガス)の流れとしては、エアクリーナが設けられた吸気口107から吸気管61を介して吸気された空気は、吸気管60へ流れ込む。また、排気管70から排出される排気ガスの一部は排気還流管72へ流れ込み、さらに、EGR弁18を開けた際に、排気還流管73経由で吸気管60側へ流れ込む。
【0091】
ここで、4ストロークエンジンの場合の、エンジンの動作について説明しておく。4ストロークエンジンの場合、「吸気」、「圧縮」、「燃焼・膨張」、および、「排気」の4つの工程を1つの動作段階とする。
【0092】
まず、シリンダ50内に備えるピストン51が、Y軸の負方向へ移動する際、空気とガソリン(燃料)とが混合された混合気(EGR弁18が開けられているときには排気ガスも含まれる)は、吸気弁16が開くことによってシリンダ50内へ吸気される(工程1)。
【0093】
その後、ピストン51がY軸の正方向へ移動することによって、シリンダ50内の混合気が圧縮される(工程2)。つづいて、点火プラグ54に着火されると、ピストン51は、シリンダ50内の混合気の燃焼によるガスの膨張圧を受けて、Y軸の負方向へ移動する(工程3)。
【0094】
ここで、エンジンは、工程3におけるY軸の負方向へ移動するピストン51の運動を、コネクティングロッド53と呼ばれる棒状の部品を介して回転運動が可能な図示しないクランクシャフトへ接続し、車輪を駆動させる。
【0095】
そして、排気弁17を開けるとともに、慣性によりピストン51がY軸の正方向へ移動することによって排気ガスをシリンダ50の外へ押し出し、排気管70、71経由で排気口91へ排出することとなる(工程4)。
【0096】
なお、吸気弁16および排気弁17は、エンジンの回転軸に連結され、エンジンの回転状態に応じて機械的に開閉が行われる構成のものや、エンジンの回転軸とは機械的に連結されておらず、モータの駆動力によって開閉が行われる構成のものがある。
【0097】
弁停止部22dが、吸排気弁の停止を行う際、機械的に連結されている構成の場合は、エンジン制御装置20は、エンジンの回転軸との機械的な連結状態を切り離す機構を動作させる。また、エンジン制御装置20は、モータによって駆動する場合には、吸排気弁を開閉するためのモータの駆動制御を停止させる制御を行う。また、
図3では、エンジンの構成を4ストロークエンジンに備えるエンジン制御装置20について説明したが、他の内燃機関に適用されるエンジン制御装置20であってもよい。
【0098】
エンジンの構成の説明に戻り、排気管70および排気管71の間には、三元触媒装置80を備えており、排気管71および排気口91の間には、NOx吸蔵還元型三元触媒装置81を備えている。
【0099】
三元触媒装置80およびNOx吸蔵還元型三元触媒装置81とは、触媒を利用することによって排気ガス中の有害成分が浄化される装置のことである。具体的には、自動車の排気ガス中に含まれる有害成分は、主に炭化水素、一酸化炭素、および、窒素酸化物(NOx)である。
【0100】
三元触媒装置80やNOx吸蔵還元型三元触媒装置81では、かかる有害成分を、たとえば、プラチナ、パラジウム、および、ロジウム等の触媒によって酸化もしくは還元させることで同時に除去することができる。
【0101】
つぎに、エンジン制御装置20が実行するEGR機構の異常検出処理について
図4を用いて説明する。
図4は、エンジン制御装置20が実行する処理を説明するための図である。以下では同図右上に示すような座標軸を適宜用いて説明を行うこととする。
【0102】
図4では、X軸は時間軸を表し、X軸の負方向から正方向へ時間が経過するものとする。また、前提条件として、エンジン制御装置20では1トリップ中に未だEGR機構の異常検出処理が行われていない状態で、かつ、吸排気弁は作動中であるとする。
【0103】
図4の(1)および(2)に示すように、アイドルOFFからONへ切り替わり、トルクが不要な状態、すなわち、フューエルカットの実施条件を満たす条件を検出したならば、FC実施判定部22bでは、フューエルカット実施条件が成立したと判定する。そして、1トリップ中に未だEGR機構の異常検出処理が行われていないことから、弁停止判定部22cは、弁停止処理を禁止すると判定する。そして、EGR機構の異常を検出する処理へ移行する。
【0104】
EGR異常検出部22eは、フューエルカットを行い(
図4の時刻b)、フューエルカットが行われてから所定時間経過(時刻bから時刻c)したならば、EGR弁18を開ける(
図4の時刻c)。なお、フューエルカット後に状態が安定するまでの時間を所定時間とし、シリンダ50内にガソリンが残っていることによる燃焼を防止する。
【0105】
そして、EGR異常検出部22eは、吸気管圧力センサ15によって計測された吸気管60内の圧力変化に基づいてEGR機構の異常を検出する。なお、
図4の(6)に示すように、Y軸は吸気管60内の圧力を表し、EGR弁18を開ける前には、吸気管60内の混合気はシリンダ50内へ吸気され、排気管70内へ排気されるので吸気管60内の圧力は負圧(圧力f)となっている。
【0106】
また、時刻cにEGR弁18を開けたならば、吸気管60内に排気ガスの一部が送り込まれ、吸気管60内の圧力は上昇することとなる。このEGR弁18を開ける制御を行っている間(EGR弁18を開けてからしばらくの時間が経過し、圧力が安定した状態にあるとき)の圧力を圧力gとする。
【0107】
さらに、EGR異常検出部22eは、時刻dにEGR弁18を閉じ、時刻eに再びEGR弁18を開ける。このEGR弁18を閉じる制御を行っている間(EGR弁18を閉じてからしばらくの時間が経過し、圧力が安定した状態にあるとき)の圧力を圧力fとする。このように、EGR異常検出部22eは、EGR弁18の開閉を所定回繰り返し、吸気管60内の圧力変化(圧力g−圧力f)を算出する。
【0108】
そして、EGR異常検出部22eは、算出された吸気管60内の圧力変化が所定の閾値未満であった場合に、排気ガスが十分に吸気管60側へ送り込まれていないとして、EGR機構が異常であると判定する。その後、EGR異常検出部22eは、ダイアグコード等を含む判定結果を記憶部21へ記憶させることとなる。
【0109】
ここで、複数のシリンダ50を備えるエンジンでは、一部のシリンダ50について作動を停止させている場合がある。このような状態でEGR機構の異常検出処理を行う場合、EGR異常検出部22eは、作動しているシリンダ50の数によって、閾値を変えて、EGR機構が異常であるか否かの判定を行うこととしてもよい。なお、エンジン制御装置20は、EGR機構が異常であると判定された場合には、警報を表示する等を行い、運転者に報知することとする。
【0110】
このように、エンジン制御装置20は、吸排気弁の停止は行わずに、EGR弁18を開閉することによって算出される吸気管60内の圧力変化により、EGR機構の異常検出処理を行う。
【0111】
また、アイドルOFFからONへ切り替わった際に、既にEGR機構の異常検出処理が行われている場合や、触媒が高温である等の理由により吸排気弁停止処理の条件を満たしていたならば、弁停止判定部22cによって弁停止を行うと判定され、弁停止処理へ移行する。
【0112】
この場合、弁停止部22dは、
図4の(3)の波線で示したように、吸排気弁を停止する。これにより、
図4の(6)の波線で示したように、吸気管60内の圧力は変化せず、仮にEGR弁18の開閉が行われたとしても一定の値(圧力h)となる。
【0113】
つぎに、制御部22が実行するエンジン制御の詳細について
図5〜
図9を用いて説明する。
図5は、制御部22が実行する異常検出処理履歴フラグ操作処理手順の概要を示すフローチャートであり、
図6は、メイン処理(定期処理)手順の概要を示すフローチャートであり、
図7は、メイン処理手順の変形例を示すフローチャートである。
【0114】
また、
図8は、制御部22が実行するEGR機構異常検出処理手順の概要を示すフローチャートであり、
図9は、弁停止処理手順の概要を示すフローチャートである。
【0115】
図5に示すように、制御部22の電源状態判定部22aは、イグニッションスイッチ11がOFFからONされた、または、ONからOFFされたか否かを判定する(ステップS11)。
【0116】
そして、電源状態判定部22aは、イグニッションスイッチ11がOFFからONされた、または、ONからOFFされた場合(ステップS11,Yes)、異常検出処理履歴フラグ21aをOFFへ更新し(ステップS12)、エンジン制御部22が実行する一連の異常検出処理履歴フラグ操作処理を終了する。
【0117】
また、電源状態判定部22aは、イグニッションスイッチ11がOFFからON、または、ONからOFFされていない場合(ステップS11,No)、エンジン制御部22が実行する電源状態監視処理を終了する。なお、かかる異常検出処理履歴フラグ操作処理は、エンジン制御装置20の電源がONである間、所定間隔で常に行われるものとする。
【0118】
なお、イグニッションスイッチがOFFされてから所定時間の間は、メインリレーの接続を保持することでエンジン制御装置20に電源供給が行われる。また、イグニッションスイッチがOFFの間に、ソークタイマによってエンジン制御装置20が起動されるように構成しても良い。
【0119】
なお、ここでは、EGR機構の異常検出処理を1トリップに1回行う場合について示したが、EGR機構の異常検出を行う頻度はこれに限定されるものではない。たとえば、所定距離を走行するごとにEGR機構の異常検出を行う場合は、走行距離が所定距離を超えた場合に、異常検出処理履歴フラグ21aをOFFへ更新する。
【0120】
つづいて、車両エンジン制御装置20の電源がON中に定期的に実行されるメイン処理について説明する。
図6に示すように、FC実施判定部22bは、フューエルカット実施条件が成立しているか否かを判定する(ステップS101)。
【0121】
ステップS101で、フューエルカット実施条件が成立していると判定されたならば(ステップS101,Yes)、弁停止判定部22cは、触媒の温度が閾値より低いか否かを判定する(ステップS102)。
【0122】
一方、ステップS101で、フューエルカット実施条件が成立していないと判定されたならば(ステップS101,No)、制御部22は、一連の弁停止判定処理を終了する。
【0123】
つぎに、ステップS102で、触媒の温度が閾値より低いと判定されたならば(ステップS102,Yes)、弁停止判定部22cは、異常検出処理履歴フラグ21aが「OFF」であるか否かを判定する(ステップS103)。
【0124】
ステップS103で、異常検出処理履歴フラグ21aが「OFF」であった場合(ステップS103,Yes)、弁停止判定部22cは、弁停止処理を禁止すると判定し、FC処理部22gによってフューエルカットを実施する(ステップS104)。
【0125】
そして、EGR異常検出部22eは、EGR機構の異常検出処理を行い(ステップS105)、EGR機構の異常検出処理が完了した時点で、フューエルカット復帰条件が成立していない(不成立)か否かを判定する(ステップS106)。
【0126】
ステップS106で、フューエルカット復帰条件が成立していない(不成立)と判定されたならば(ステップS106,Yes)、弁停止部22dは、弁停止処理(ステップS107)を行い、制御部22が実行する一連のメイン処理を終了する。
【0127】
一方、ステップS106で、フューエルカット復帰条件が成立していたと判定されたならば(ステップS106,No)、制御部22が実行する一連のメイン処理を終了する。
【0128】
なお、フューエルカット復帰条件とは、アイドルONフューエルカットの場合は、エンジン回転数が所定回転数(フューエルカット実施条件における所定回転数よりも低い回転数)以下となる、または、アイドルOFFとなることを指す。また、ステップS107で行う弁停止処理は省略してもよい。
【0129】
つづいて、ステップS102で、触媒の温度が閾値を超えていたならば(ステップS102,No)、弁停止判定部22cは、弁停止処理を行うと判定し、弁停止部22dは、弁停止処理(ステップS108)へ移行する。
【0130】
また、ステップS103で、異常検出処理履歴フラグ21aが「ON」であった場合(ステップS103,No)、弁停止判定部22cは、弁停止処理を行うと判定し、弁停止部22dは、弁停止処理(ステップS108)へ移行する。
【0131】
そして、弁停止部22dは、吸排気弁の弁停止処理を行い(ステップS108)、かかる弁が完全に停止したか否かを判定し(ステップS109)、停止したと判定した場合(ステップS109,Yes)、フューエルカットを実施して(ステップS110)、制御部22が実行する一連のメイン処理を終了する。
【0132】
一方、弁停止部22dは、かかる弁が完全に停止していないと判定した場合(ステップS109,No)、かかる弁が完全に停止するまでステップS109の判定処理を繰り返す。
【0133】
なお、弁停止部22dが行う弁が停止したか否かの判定は、弁停止の完了(弁停止機構の動作完了)を検出可能なセンサやスイッチを設けている場合には、かかるセンサやスイッチの状態に基づいて判定を行う。また、検出可能なセンサやスイッチを設けていない場合には、弁停止部22dは、弁停止開始(弁停止機構の動作開始)から所定時間経過したかや、所定クランク角になったかを判定することで、弁が停止したことを判定する。
【0134】
また、弁停止判定部22cは、ステップS103で、異常検出処理履歴フラグ21aが「ON」であった場合(ステップS103,No)、弁停止処理を行うと判定し、弁停止部22dは、弁停止処理(ステップS108)へ移行することとした。
【0135】
しかし、同一トリップ内でEGR機構の異常検出処理が完了している場合でも、触媒の温度が高温でない場合は、吸排気弁を停止させるのではなく、EGR機構の異常検出処理を再度実施するようにしてもよい。
【0136】
具体的には、
図6のステップS102およびステップS103の処理について
図7に示したように、ステップS102’およびステップS103’の処理を行うこととしてもよい。なお、ここでは、変更のある処理についてのみを記載する。
【0137】
図7に示すように、ステップS101で、フューエルカット実施条件が成立していると判定されたならば(ステップS101,Yes)、弁停止判定部22cは、異常検出処理履歴フラグ21aが「OFF」であるか否かを判定する(ステップS102’)。
【0138】
ステップS102’で、異常検出処理履歴フラグ21aが「OFF」であった場合(ステップS102’,Yes)、弁停止判定部22cは、弁停止処理を禁止すると判定し、FC処理部22gによってフューエルカットを実施する(ステップS104)。
【0139】
一方、ステップS102’で、異常検出処理履歴フラグ21aが「ON」であった場合(ステップS102’,No)、弁停止判定部22cは、触媒の温度が閾値より低いか否かを判定する(ステップS103’)。
【0140】
ここで、触媒の温度が閾値より低いと判定されたならば(ステップS103’,Yes)、弁停止判定部22cは、吸排気弁を停止させるのではなく、FC処理部22gによってフューエルカットを実施する(ステップS104)。
【0141】
また、ステップS103’で、触媒の温度が閾値を超えていたならば(ステップS103’,No)、弁停止判定部22cは、弁停止処理を行うと判定し、弁停止部22dは、弁停止処理(ステップS108)へ移行する。
【0142】
この場合、EGR機構が正常であると判定した後に、同一トリップ内でEGR機構が故障する恐れがあるが、このようなケースであってもEGR機構の異常を早期に検出することができるになる。一方、この場合、吸排気弁を停止しないこととなるが、低温時は高温時と比較して触媒劣化度合いは極めて少なく、触媒劣化への影響も小さくてすむ。
【0143】
つぎに、弁停止判定部22cによって弁停止処理を禁止し、EGR機構の異常検出処理をすると判定されたならば、
図8に示すように、EGR異常検出部22eは、まず、EGR弁18を開け(ステップS201)、吸気管60内の圧力変化を算出し(ステップS202)、EGR弁18を閉じる(ステップS203)。
【0144】
つづいて、EGR異常検出部22eは、所定回数圧力変化の算出を行ったか否かを判定し(ステップS204)、EGR異常検出部22eは、所定回数算出を行ったと判定した場合(ステップS204,Yes)、算出した吸気管60内の圧力変化に基づいてEGR機構が正常であるか、または異常であるかの判定を行う(ステップS205)。
【0145】
そして、EGR異常検出部22eは、異常検出処理履歴フラグ21aをONへ更新し(ステップS206)、制御部22が実行する一連のEGR機構の異常検出処理を終了する。
【0146】
一方、EGR異常検出部22eは、ステップS204で、所定回数算出を行っていないと判定した場合(ステップS204,No)、ステップS201からステップS203までの処理を繰り返す。
【0147】
つぎに、弁停止判定部22cによって弁停止処理を行うと判定されたならば、
図9に示すように、弁停止部22dは、まず、弁停止の実行条件を満たすか否かを判定する(ステップS301)。
【0148】
そして、弁停止部22dは、弁停止の実行条件を満たすと判定した場合(ステップS301,Yes)、吸気弁16および排気弁17に対して弁停止の指示を行い(ステップS302)、制御部22が実行する一連の弁停止処理を終了する。
【0149】
一方、ステップS301で、弁停止の実行条件を満たさないと判定した場合(ステップS301,No)、弁停止部22dは、弁停止の実行条件を満たすまで、ステップS301の判定を繰り返す。
【0150】
ここで、弁停止の実行条件とは、吸排気弁の停止を、エンジンの回転軸との機械的な連結状態を切り離す機構を動作させることで実現するエンジンの場合に必要になるもので、正常に機構を動作させることが可能なエンジンの回転状態(クランク角度の範囲)に制限がある場合に、正常に動作させることが可能な所定の条件を満たすか(現在のクランク角度が所定のクランク角度範囲内にあるか)を判断するためのものである。
【0151】
上述してきたように、吸排気弁停止機構とEGR機構とを備えたエンジンに備えるエンジン制御装置20は、フューエルカット条件が成立してフューエルカットを実施する場合に、1トリップ中に、EGR機構の異常検出処理が行われたか否かを判定する。そして、エンジン制御装置20は、EGR機構の異常検出処理が、1トリップ中に行われていない場合に、弁停止処理を行わずにEGR機構の異常検出処理を行うこととした。これにより、エンジン制御装置20は、EGR弁の開閉による吸気管60内の圧力変化によって確度の高いEGR機構の異常検出処理を行うことができる。
【0152】
ところで、上述した実施例1では、本発明に係るエンジン制御手法をEGR機構の異常を検出する場合について説明したが、ベーパを吸気させて燃焼させるパージ機構の異常を検出する場合に適用させてもよい。そこで、以下に示す実施例2では、パージ機構の異常を検出する場合について説明する。
【実施例2】
【0153】
図10は、実施例2に係るエンジンの具体的構成を示す図である。なお、
図10では、実施例1に係る吸排気弁停止機構100およびEGR機構を備えたエンジン(
図3参照)の構成要素に対応する構成要素には同一の符合を付している。また、以下では、実施例1と重複する説明については省略することとする。
【0154】
図10に示すように、実施例2に係るエンジンは、ベーパを吸気させて燃焼させるパージ機構と、空気を圧縮して強制的にエンジンに押し込む過給機とを備える。
【0155】
具体的には、パージ機構とは、燃料タンク104内の燃料が蒸発して気化した燃料、すなわち、ベーパをキャニスタ105内の活性炭(チャコール)に吸着させて溜めておき、吸気側へ送ることによって燃焼させる技術である。
【0156】
また、過給機は、たとえば、排出ガスの運動エネルギーで排気タービンを回転駆動させることでコンプレッサ106を回転駆動し、吸気管60、61の空気をシリンダ側へ過給させる排気タービン式過給機(ターボチャージャ)のことである。
【0157】
図10に示すように、燃料タンク104には、キャニスタ105が接続されており、キャニスタ105内には、ベーパを吸着させる活性炭等の吸着体が格納されている。また、燃料タンク104の燃料は、インジェクタ93によって吸気管60内へ噴射される。
【0158】
キャニスタ105と吸気管60、61との間には、キャニスタ105内のベーパを吸気側へ送るための、パージ通路108が設けられている。また、パージ通路108には、パージ通路108を開閉するパージ制御弁101が設けられている。
【0159】
なお、過給機付きのエンジンのパージ機構では、パージ通路108は、パージ制御弁101より吸気管61側で、パージ通路109と、パージ通路110とに分岐される。
【0160】
また、パージ通路109は、コンプレッサ106の上流側へ接続され、パージ通路109を開閉するパージ通路開閉弁102が設けられている。一方、パージ通路110は、スロットル弁92の下流側へ接続され、吸気管61側への吸入空気が逆流しないための逆止弁103が設けられている。
【0161】
また、吸気管61の最上流側には、エアクリーナが設けられた吸気口107が設けられ、吸気口107の下流側にコンプレッサ106が設けられ、コンプレッサ106の下流側には、スロットル弁92が設けられている。さらに、スロットル弁92の下流側には、吸気管60、61の圧力を検出する吸気管圧力センサ15が設けられる。
【0162】
ここで、パージ機構は、スロットル弁92の下流側の吸気管60、61内の圧力が負圧状態にあるときは、パージ制御弁101を開け、パージ通路開閉弁102を閉めてパージ通路109を閉鎖する。これにより、キャニスタ105内のベーパは、パージ通路110経由でスロットル弁92の下流側の吸気管60、61へ送られる。
【0163】
一方、パージ機構は、スロットル弁92の下流側の吸気管60、61内の圧力が正圧状態にあるときには、パージ制御弁101を開け、パージ通路開閉弁102も開けてパージ通路109を開放する。
【0164】
これにより、コンプレッサ106の上流側には、エアクリーナ等の圧損によってわずかな吸気負圧が生じる。このため、キャニスタ105内のベーパは、パージ通路109経由で吸気管61へ送られる。
【0165】
上記したパージ機構の異常を検出する場合、エンジン制御装置20は、吸排気弁を停止していないフューエルカット状態にあるときに、パージ制御弁101を閉めて、パージ通路開閉弁102を開閉させる。
【0166】
そして、エンジン制御装置20は、開閉前後の吸気管60、61内の圧力変化に基づいてパージ機構の異常検出を行う。ところが、従来のエンジン制御装置に備える吸排気弁停止機構は、フューエルカット時に触媒へリーンガスが流入しないようにするために吸排気弁を閉じた状態で停止する。
【0167】
このため、吸気菅60、61へベーパが流入しなくなるため、パージ通路開閉弁102を動作させても吸気菅60、61内の空気やベーパの流れがほとんどなくなる。すなわち、吸気管60、61内にはパージ通路開閉弁102の開閉による圧力変化が生じないこととなる。
【0168】
したがって、従来のパージ機構異常検出手法では、吸排気弁停止機構によって吸排気弁が閉じた状態で停止された場合に、正確なパージ機構の異常検出ができなくなる。
【0169】
そこで、実施例2に係るエンジン制御装置20では、実施例1と同様に、フューエルカット条件が成立してフューエルカットを実施する際に、パージ機構の異常検出処理の実施頻度に基づいてパージ機構の異常検出処理を行うか否かを判定する。
【0170】
そして、エンジン制御装置20は、パージ機構の異常検出処理を行うと判定した場合、フューエルカットを行ってから、かかるパージ機構の異常検出処理を行う。一方、エンジン制御装置20は、パージ機構の異常検出処理を行わないと判定した場合には、吸排気弁を停止させた後に、フューエルカットを行う。
【0171】
なお、実施例2では、パージ機構を備える過給機付きのエンジンの構成について説明したが、これに限定されるものではなく、他の構成にて実施されてもよい。そこで、以下では、エンジンの他の構成例である変形例について、
図11を用いて説明する。
【0172】
図11は、変形例に係るエンジンの具体的構成を示す図である。なお、
図11では、実施例2に係るエンジン(
図10参照)の構成要素に対応する構成要素には同一の符合を付している。また、以下では、実施例2と重複する説明については省略することとする。
【0173】
図11に示すように、変形例に係るエンジンは、過給機なしのエンジンである点で、実施例2に係るエンジンとは異なる。
【0174】
過給機なしのパージ機構は、実施例2に係るエンジンと比較して、コンプレッサを備えない。さらに、パージ通路108は、下流側で分岐されず、パージ通路開閉弁および逆止弁も備えない。
【0175】
したがって、変形例に係るエンジンにおいて、パージ機構の異常を検出する場合、エンジン制御装置20は、吸排気弁を停止していないフューエルカット状態にあるときに、パージ制御弁101を開閉させることとなる。そして、エンジン制御装置20は、パージ制御弁101開閉前後の吸気管60、61内の圧力変化に基づいてパージ機構の異常検出を行う。
【0176】
なお、フューエルカット条件が成立してフューエルカットを実施する際に、パージ機構の異常検出処理の実施頻度に基づいてパージ機構の異常検出処理を行うか否かを判定する点については、実施例2と同様の処理である。
【0177】
なお、実施例2および変形例に開示した内容は、EGR機構およびパージ機構といった複数の吸気系機構を備えるエンジンに適用可能であり、また、吸気系機構を一つのみ備えるエンジン、たとえば、EGR機構またはパージ機構のいずれか一方のみを備えるエンジンにも適用可能である。
【0178】
また、EGR機構およびパージ機構といった複数の吸気系機構を備えるエンジンに適用する場合に、フューエルカット時に複数の機構の異常検出を同時に行った場合、双方の機構の影響を受けることとなり、正確に異常検出の判定を行うことが困難である。したがって、この場合、一つの機構ごとに順次、異常検出を行うように構成することとする。
【0179】
また、所定の吸気系機構の異常検出を行っている際には、他の吸気系機構は、異常検出処置に影響を及ぼさないように、吸気管60、61と接続する弁、たとえば、EGR弁18またはパージ通路開閉弁102を閉じた状態にしておく。
【0180】
上述してきたように、吸排気弁停止機構と吸気系機構とを備えたエンジンに備えるエンジン制御装置20は、フューエルカット条件が成立してフューエルカットを実施する場合に、吸気系機構の異常検出処理の実施頻度に基づいて吸気系機構の異常検出処理を行うか否かを判定する。そして、エンジン制御装置20は、吸気系機構の異常検出処理を行うと判定した場合に、弁停止処理を行わずに吸気系機構の異常検出処理を行うこととした。これにより、エンジン制御装置20は、吸気系機構に備える弁の開閉による吸気管60、61内の圧力変化によって確度の高い吸気系機構の異常検出処理を行うことができる。
【0181】
このように、各実施例に開示した内容は、種々の吸気系機構の異常検出を行うエンジン制御装置およびエンジン制御方法に広く適用することができる。さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。
【0182】
このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施例に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。