(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、例えば拡管引抜加工により製造した円筒型スパッタリングターゲット材においては、内周面側が外周面側に比べて硬くなり、それにより内周面側のスパッタ速度は外周面側に比べて遅くなるという課題がある。
【0021】
本発明者等は、上記課題を解決するため、銅(Cu)の最密面である(111)面が、スパッタリングにより銅原子が飛び出し易い結晶方位である点を利用することに想い到った。すなわち、円筒型スパッタリングターゲット材の外周面側から内周面側へ向けて、(111)面の配向率を略一定の増加量で分布させることを試みた。これにより、(111)面の配向率が高く硬度の高い内周面側と、(111)面の配向率が低く硬度の低い外周面側とでスパッタ速度が同程度になることを見いだした。
【0022】
本発明は、発明者が見いだした上記知見に基づくものである。
【0023】
<本発明の一実施形態>
(1)円筒型スパッタリングターゲット材
以下に、本発明の一実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット材について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット材20を示す図であって、(a)は円筒型スパッタリングターゲット材20の斜視図であり、(b)は円筒型スパッタリングターゲット材20の横断面図である。
【0024】
図1に示すように、円筒型スパッタリングターゲット材20は、両端が開放された円筒形状を有する金属製のスパッタリングターゲット材である。円筒型スパッタリングターゲット材20の寸法は、一例として外径が100mm以上200mm以下、肉厚が5mm以上40mm以下、長軸方向の長さが200mm以上5000mm以下である。円筒型スパッタリングターゲット材20を構成する金属は、純度3N(99.9%)以上の無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)である。
【0025】
また、円筒型スパッタリングターゲット材20は、外周面21側から内周面22側へ向けて硬さが次第に増加する構成となっている。これをビッカース硬さで表わすと、外周面21側が例えば75HV以上80HV以下であり、内周面22側が例えば95HV以上100HV以下である。なお、ビッカース硬さとは、対面角が約136°の四角錐のダイヤモンド圧子を試料面に押し込んだときの圧子の荷重と試料面に生じた窪みの表面積との比から定義される値である。
【0026】
ここで、外周面21側から内周面22側へ向けて硬さが次第に増加するとは、外周面21側から内周面22側へ向けて、硬さが一定の増加量で分布する場合を含むほか、増加量が一定でなくとも概ね一定に増加していく場合や、概ね緩やかに増加していく場合を含む。
【0027】
また、円筒型スパッタリングターゲット材20は、外周面21側から内周面22側へ向
けて(111)面の配向率が次第に増加するよう構成されている。(111)面の配向率は、外周面21側が例えば10%以上15%以下であり、内周面22側が例えば20%以上25%以下である。なお、(111)面の配向率は、X線回折により得られる種々の結晶面を示す各ピークの測定強度比から求められる値である。各ピークの測定強度は、例えば各ピークに対応する結晶面のピークの標準強度で補正して用いられる。標準強度には、例えばJCPDSカード番号40836に記載の値が用いられる。
【0028】
具体的には、次式(1)に示すように、X線回折による各ピークの測定強度を、JCPDSカード番号40836に記載の各ピークに対応する結晶面のピークの標準強度でそれぞれ除した値の合計を分母とし、X線回折による(111)面のピークの測定強度を、JCPDSカード番号40836に記載の(111)面のピークの標準強度で除した値を分子とする式から求められる値を、(111)面の配向率とする。
【0030】
ここで、外周面21側から内周面22側へ向けて(111)面の配向率が次第に増加するとは、外周面21側から内周面22側へ向けて、(111)面の配向率が一定の増加量で分布する場合を含むほか、増加量が一定でなくとも概ね一定に増加していく場合や、概ね緩やかに増加していく場合を含む。
【0031】
また、円筒型スパッタリングターゲット材20は、外周面21側から内周面22側までの結晶粒径が、例えば100μm以下、より好ましくは50μm以上100μm以下の範囲内となるよう構成される。なお、上記結晶粒径は、JIS H0501に規定の「伸銅品結晶粒度試験法」の「比較法」により求められる値である。
【0032】
このように構成される円筒型スパッタリングターゲット材20は、生産コスト低減のため、例えば上述のように拡管引抜加工により製造されることが望ましい。しかし、拡管引抜加工では、外周面21側から内周面22側へ向けて硬さが次第に増加してしまう。硬さが増加すると、スパッタリング時に銅原子へのイオンの衝突により起きる衝突カスケード、つまり、銅原子の衝突連鎖が起こり難くなる。すなわち、硬度の増した内周面22側では、イオンに弾かれた銅原子の動きが結晶粒界や転位等の欠陥で阻まれ、銅原子同士が互いに密集し難くなって衝突連鎖が阻害されてしまう。
【0033】
これにより、従来の円筒型スパッタリングターゲット材では、外周面側に比べて内周面側のスパッタ速度が遅くなるという課題が生じていた。ここで、スパッタ速度とは、イオンのスパッタ等により、単位時間当たりにターゲット材から放出される原子の量をいう。単位時間当たりの原子の放出量、つまり、スパッタ速度は、後述するように、例えば単位時間当たりに成膜されるスパッタリング膜の膜厚で表すことができる。
【0034】
そこで、本実施形態では、円筒型スパッタリングターゲット材20の(111)面の配向率を上記のように変化させている。(111)面は銅の最密面であり、スパッタリング時に、イオンの衝突により銅原子が円筒型スパッタリングターゲット材20外へと飛び出し易い結晶方位である。したがって、外周面21側より硬度の高い内周面22側で(11
1)面の配向率を高めることにより、銅原子の衝突連鎖の阻害によるスパッタ速度の低下分を、外部への銅原子の飛び出し量増加によるスパッタ速度の増加分で相殺することができる。すなわち、外周面21から内周面22に至るまでのスパッタ速度の差を低減することができる。或いはスパッタ速度の差を略完全に打ち消し合って例えば外周面21から内周面22に至るまで略一定のスパッタ速度を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、上記のように、円筒型スパッタリングターゲット材20の結晶粒径を所定範囲内とし、結晶粒が粗大化しないようにしている。経験上、結晶粒径が100μmを上回ると、スパッタリング時に異常放電が生じ易くなることがわかっている。本実施形態では、結晶粒径を50μm以上100μm以下としているので、異常放電を抑制することができる。
【0036】
(2)円筒型スパッタリングターゲット材の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット材20の製造方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット材20を製造する拡管引抜加工の様子を示す断面図である。
【0037】
円筒型スパッタリングターゲット材20は、例えば
図2に示す銅製の押出素管9から製造することができる。押出素管9は、例えば純度3N以上の無酸素銅からなるビレット(図示せず)を鋳造し、このビレットを熱間押出法により成形して得る。このとき、例えば押出素管9の外径を140mm以上160mm以下、肉厚を25mm以上35mm以下の円筒形状に成形する。
【0038】
続いて、
図2に示すように、例えばテーパ付き円柱形状をした拡管プラグ15pを端部に備えるロッド15rを、押出素管9の管内に挿入する。次に、拡管プラグ15pを固定した状態で、拡管プラグ15pの小径側から大径側へ向かって押出素管9を引き抜くことにより、例えば5%以上15%以下の拡管率で外径が拡張された拡管10を得る。なお、拡管率R(%)は、拡管前の押出素管9の外径をD1(mm)とし、拡管引抜加工後の拡管10の外径をD2(mm)とすると、次式(2)、
R=((D2−D1)/D1)×100・・・(2)
により求められる値である。
【0039】
次に、拡管引抜加工後の拡管10に対し、例えば450℃以上600℃以下の温度で、全体が略均一な温度になるまでの間、熱処理を施し、拡管引抜加工により加工ひずみ等を受けた拡管10の組織の再結晶化を図る。よって、拡管10のサイズが大きくなれば、再結晶化に必要な熱処理の時間は長くなる。その後、拡管10を所定長さで切り出し、外周面11及び内周面12に鏡面研磨等の機械加工を施す。
【0040】
以上により、円筒型スパッタリングターゲット材20が製造される。
【0041】
上述したように、拡管引抜加工後の拡管10では、外周面11側に比べ内周面12側の硬度が高い状態となっている。内周面12側には、軸方向の引っ張り応力や半径方向の圧縮応力に加え、拡管プラグ15pと押出素管9の内周面12との間に発生する摩擦により剪断応力が働くためである。
【0042】
一方、拡管率を大きくとると、拡管10内での(111)面の配向率や結晶粒径の調整等の組織制御がし易くなって、所定の(111)面の配向率や結晶粒径が得られ易い。
【0043】
そこで、本実施形態では、拡管率を例えば5%以上とし、(111)面の配向率や結晶粒径の制御性を向上させている。これにより、所定の(111)面の配向率や結晶粒径を
得ることができる。また、上述のように、拡管率を例えば15%以下とし、拡管10の過度の拡管による割れの発生を抑制している。このような拡管割れは、特に内周面12にて発生し易く、スパッタリング時に円筒型スパッタリングターゲット材20の円筒内に供給する冷却水等の漏れや、スパッタリング時の異常放電の原因となってしまう。
【0044】
また、拡管10の再結晶化を促す上記熱処理では、熱処理の温度が低すぎると充分な再結晶化が起こらず、温度があまりにも高いと結晶粒の粗大化が進行してしまう。本実施形態では、熱処理の温度を例えば450℃以上としたので、再結晶化を充分に促進させることができる。また、温度を例えば600℃以下としたので、結晶粒の過度の粗大化を抑制することができる。これにより、結晶粒径を所定範囲内にとどめることができる。
【0045】
このように、本実施形態においては、生産コストの低い拡管引抜加工を適用しつつ、スパッタ速度の差を抑えた高品質で安価な円筒型スパッタリングターゲット材20を製造することができる。
【0046】
(3)円筒型スパッタリングターゲット材を用いた成膜方法
次に、本発明の一実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット材20を用いたスパッタリングにより、スパッタリング膜を成膜する方法について、
図3を用いて説明する。
【0047】
図3は、本実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット材20を用いたスパッタリングの様子を示す概略説明図であって、(a)は円筒型スパッタリングターゲット材20が装着されたスパッタリング装置25の斜透視図あり、
図3(b)は円筒型スパッタリングターゲット材20の横断面図である。なお、
図3に示すスパッタリング装置25はあくまでも一例であって、円筒型スパッタリングターゲット材20は、この他、種々のタイプのスパッタリング装置に装着して用いることができる。
【0048】
図3に示すように、上記スパッタリングは、スパッタリング装置25内にて、例えばアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガス雰囲気下で行われる。スパッタリング装置25内の底部近傍には、成膜対象となる基板Sが、成膜される面を上面として配置される。なお、スパッタリング装置25内に複数の基板Sを配置して、これら基板Sを一括処理、或いは連続処理してもよい。
【0049】
基板Sの上方には、円筒型スパッタリングターゲット材20が、その長軸が基板Sの上面と水平になるように配置される。つまり、円筒型スパッタリングターゲット材20の下方に向いた外周面21は、基板Sの上面と対向するよう配置される。円筒型スパッタリングターゲット材20は、図示しない回転機構により、その中心軸の周りに回転可能に支持されている。
【0050】
図3(b)に示すように、円筒型スパッタリングターゲット材20の円筒内には、内周面22と接するように円筒形状の磁石23が挿入されている。円筒形状の磁石23内は、例えば冷却水や有機溶剤、ドライエア等の冷媒が流れる流路24となっている。流路24内に冷媒を供給することにより、スパッタリング時に円筒型スパッタリングターゲット材20の温度上昇を抑制することができる。
【0051】
このような状態で、
図3(a)に示すように、円筒型スパッタリングターゲット材20を周方向に回転させながら、円筒型スパッタリングターゲット材20に負の高電圧、基板Sに正の高電圧が印加されるよう、放電電力を投入する。これにより、主に円筒型スパッタリングターゲット材20と基板Sとの間でプラズマ放電が起こり、プラスイオンとなったアルゴン(Ar
+)が、円筒型スパッタリングターゲット材20の外周面21、特に基板Sと対向する下方側の面に衝突する。円筒型スパッタリングターゲット材20の内部に
挿入された磁石23は、アルゴンイオンを引きつけ、アルゴンイオンの衝突をいっそう促進させる。
【0052】
アルゴンイオンの衝突により、円筒型スパッタリングターゲット材20を構成する銅原子は所定位置から弾き出され、円筒型スパッタリングターゲット材20外へと飛び出して(スパッタされて)、一部が基板Sの上面へと付着する。所定時間、スパッタリングを継続することで、基板Sの上面には所定のスパッタ速度で銅が堆積されていく。
【0053】
このとき、
図3(a)に示すように、基板Sを水平方向に所定速度で移動させ、銅がより堆積され易い円筒型スパッタリングターゲット材20の直下の位置を通過させていくことで、所定厚さの銅膜を基板Sの上面に成膜する。基板Sの移動速度を一定としたり種々に変化させたりすることで、均一な膜厚の銅膜や所定の膜厚分布を有する銅膜等のスパッタリング膜を成膜することができる。
【0054】
一方、上記のように、円筒型スパッタリングターゲット材20は周方向に回転しながら、表面全体が外周面21側から内周面22側へ向かって略均等にスパッタされ、表面のエロージョンが進行していく。このとき、上述のように、内周面22側へとエロージョンが進むほど、つまり、使用により円筒型スパッタリングターゲット材20の肉厚が次第に減少するほど、円筒型スパッタリングターゲット材20の硬さが増して銅原子の衝突連鎖が阻害される。その一方で、(111)面の配向率も増して銅原子の飛び出し量が増加する。これにより、双方の効果が相殺されて、外周面21から内周面22に至るまでのスパッタ速度の差が低減され、或いは略一定のスパッタ速度を得ることができる。
【0055】
なお、このとき、エロージョンの進行に伴って円筒型スパッタリングターゲット材20の表面積が減少していくが、これによるスパッタ速度への影響はほとんど考慮する必要がない。上記プラズマ放電は、円筒型スパッタリングターゲット材20の基板Sとの対向面近傍のごく狭い領域内で発生する。エロージョンにより円筒型スパッタリングターゲット材20の全体の表面積が多少減少しても、プラズマ放電に曝される表面積はほとんど変動しない。銅原子は、主に、このプラズマ放電に曝された狭い領域からのみ放出されるため、エロージョンによるスパッタ速度への影響は微々たるものである。
【0056】
このため、スパッタ速度を略一定に保つには、上述のように、主に、円筒型スパッタリングターゲット材20の硬さの増加量のみを考慮して、(111)面の配向率の増加量を決定すればよい。
【0057】
なお、円筒型スパッタリングターゲット材20の元のサイズ自体が大小さまざまに異なる場合にも、上記と同様、スパッタ速度への影響はほとんどないものと考えられる。したがって、上述したように、例えば外径が100mm以上200mm以下、肉厚が5mm以上40mm以下、長軸方向の長さが200mm以上5000mm以下の円筒型スパッタリングターゲット材20において、略一定のスパッタ速度が得られる。
【0058】
以上のように、円筒型スパッタリングターゲット材20においては、新品の状態から寿命がくるまでのスパッタ速度の差が低減されており、経時変化の少ないスパッタリング特性を得ることができる。よって、一定のスパッタリング時間でスパッタリング膜の膜厚も略一定となり、個々の基板S間で、特性差の少ないスパッタリング膜を形成することができる。
【0059】
また、円筒型スパッタリングターゲット材20全体において、スパッタ速度の差が低減されているので、ターゲット材の交換時期を遅らせて利用率を高めることも可能である。また、個々の基板Sに対する処理時間等を略一定に揃えることができ、スパッタリング装
置25のスループット等を向上させることができる。よって、生産工程のコストダウンを図ることが可能となる。
【0060】
以上によりスパッタリング膜が形成された基板Sは、例えば所望の配線パターンにスパッタリング膜をパターニングして配線構造が形成された後、種々の配線基板として利用される。
【0061】
(4)薄膜トランジスタの構造
上述のように、円筒型スパッタリングターゲット材20を用いて形成したスパッタリング膜は、液晶表示装置等に使用する薄膜トランジスタをはじめとする各種の配線基板における配線材等に用いられる。
【0062】
ここでは、基板と、基板上に形成された配線構造と、を有し、配線構造の少なくとも一部が、上記の円筒型スパッタリングターゲット材20を用いて形成されたスパッタリング膜からなる配線基板の一例として、
図4に示す薄膜トランジスタ40の構造について説明する。
図4は、本実施形態に係る薄膜トランジスタ40の概略断面図である。
【0063】
図4に示すように、薄膜トランジスタ40は、例えばガラス基板48と、ガラス基板48上に形成されたゲート電極47と、ゲート電極47上に形成されたソース電極41s及びドレイン電極41d(以下、ソース−ドレイン電極41s,41dともいう)とを有する。これらの電極47,41s,41dは、例えばウェットエッチング又はドライエッチングを用いたパターニングにより、薄膜トランジスタ40ごとにガラス基板48上に形成され、例えば窒化シリコン(SiN)からなる保護膜49で覆われている。或いは、ガラス基板48には、複数の薄膜トランジスタ40がアレイ状に連なるよう形成されていてもよい。
【0064】
ガラス基板48上に形成されたゲート電極47は、例えば銅(Cu)等からなる。また、ゲート電極47には、例えば銅等からなる図示しないゲートバスラインが接続されている。
【0065】
ゲート電極47上には、例えば窒化シリコンからなるゲート絶縁膜46と、アモルファスシリコン(α−Si)からなる半導体膜44とを介して、ソース−ドレイン電極41s,41dを含む所定パターンに成形された積層構造が形成されている。すなわち、半導体膜44の上には、例えばリン(P)等がドープされたアモルファスシリコン(n
+−α−Si)からなるコンタクト膜43s,43dと、モリブデン(Mo)やチタン(Ti)等からなるバリア膜42s,42dと、純銅(Cu)等からなるソース−ドレイン電極41s,41dと、がこの順に積層された積層構造をそれぞれ有する。ソース−ドレイン電極41s,41d間のチャネル長は例えば10μm程度である。
【0066】
ソース電極41sには、例えば主に純銅等からなる図示しないソースバスラインが接続されている。ドレイン電極41dには、液晶表示装置等を駆動させる透明電極45が接続されている。
【0067】
主に、ソース−ドレイン電極41s,41d、ソースバスライン、透明電極45、ゲート電極47、及びゲートバスライン等により、本実施形態に係る配線構造が構成される。係る配線構造の少なくとも一部、例えば純銅(Cu)からなるソースバスライン、ゲートバスライン等は、円筒型スパッタリングターゲット材20を用いて形成されたスパッタリング膜からなる。
【0068】
上記のように、配線構造の少なくとも一部を構成するスパッタリング膜を、スパッタ速
度の差が低減された円筒型スパッタリングターゲット材20を用いて形成することで、略同質のスパッタリング膜を個々に備えた、素子間の特性差の少ない薄膜トランジスタ40を得ることができる。
【0069】
また、スパッタリング特性の経時変化等が少ないため、ターゲット材の利用率を高めて生産工程のコストダウンを図り、より安価な薄膜トランジスタ40を得ることができる。
【0070】
なお、円筒型スパッタリングターゲット材20を用いたスパッタリング膜を導入可能な薄膜トランジスタの構成は、上記に記載のものに限られない。例えば、ソース−ドレイン電極は、上記の純銅のみならず、銅合金等からなる積層構造等を有していてもよい。また、ゲート電極についても、例えば銅のみならず、銅合金等からなることとしてもよい。係る構成では、銅−マンガン(Cu−Mn)等の銅合金をバリア膜としてもよい。
【0071】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例】
【0072】
次に、以下の表1を参照しながら、本発明に係る実施例1〜5について比較例1〜4と共に説明する。
【0073】
【表1】
【0074】
(1)評価サンプルの製作
まずは、純度4N(99.99%)の無酸素銅からなるビレットを鋳造し、上述の実施形態と同様、熱間押出法により外径が150mm、肉厚が30mmの押出素管を形成した。次に、上述の実施形態と同様、拡管引抜加工を行って拡管を形成した。このとき、表1
に示すように、実施例1〜5及び比較例1〜4において、それぞれ異なる拡管率とした。例えば、実施例1においては、拡管率を10%とし、外径が165mm、肉厚が25mmの拡管を形成した。
【0075】
続いて、上述の実施形態と同様、各々の拡管に熱処理を施した。このとき、表1に示すように、実施例1〜5及び比較例1〜4において、それぞれ異なる温度を用い、熱処理の時間は180分間とした。このように製作した各々の拡管から長軸方向に所定の4箇所を切り出し、実施例1〜5及び比較例1〜4の全てについて、4セットの評価サンプルを製作した。それぞれの評価サンプルは、両端を除く長軸方向の略中央付近から切り出した。
【0076】
(2)評価サンプルの測定
次に、実施例1〜5及び比較例1〜4の各評価サンプルを1セットずつ用いて、以下に示す拡管割れ調査及び結晶粒径評価と、ビッカース硬さ試験と、結晶方位測定と、スパッタ速度測定と、を行った。このとき、
図5に示すように、各評価サンプル30の外周面31から内周面32に至る領域を半径方向にe〜aまでの領域に5分割し、各領域内にて上記各測定を行った。つまり、肉厚25mmの実施例1であれば、半径方向に5mm間隔で区切った領域e〜a内にて各測定値を得た。
【0077】
(拡管割れ調査及び結晶粒径評価)
以下に、拡管割れ調査及び結晶粒径評価の結果について説明する。まず、実施例1〜5及び比較例1〜4の評価サンプル1セットに対し、鏡面研磨を施しエッチングを行った。次に、領域e〜aについてそれぞれ光学顕微鏡による組織観察を行って、拡管割れの有無及び結晶粒径の測定結果を得た。拡管割れについては、周方向の20mm幅の範囲内に1つでも割れが有れば「有り」と判定し、1つも割れがないもののみ「無し」と判定した。また、結晶粒径(μm)は、JIS H0501に規定の「伸銅品結晶粒度試験法」の「比較法」に基づき測定した。
【0078】
表1に示すように、実施例1〜5においては、拡管割れの発生したものはなかった。これに対し、比較例1〜4においては、比較例1及び拡管率の大きい比較例4にて拡管割れが発生した。したがって、比較例1及び比較例4は、円筒型スパッタリングターゲット材としての品質を満足しない。
【0079】
また、表1に示すように、実施例1〜5においては、結晶粒径は全て100μm以下であった。したがって、実施例1〜5においては、スパッタリング時の異常放電の発生頻度が低いことが期待される。これに対し、拡管割れのなかった比較例2及び3について測定した結晶粒径は、特に熱処理温度の高い比較例2にて100μmを超えていた。
【0080】
(ビッカース硬さ試験)
以下に、ビッカース硬さ試験の結果について説明する。実施例1〜5及び比較例1〜4の評価サンプル1セットに対し、ビッカース硬さ試験、より具体的には、圧子により加える荷重を小さくし、微小な結晶等の測定が可能なマイクロビッカース硬さ試験を行った。このとき、各評価サンプルの各領域e〜aにおいてそれぞれ5回ずつ測定を行い、その平均値をその領域におけるビッカース硬さ(HV)とした。
【0081】
表1に示すように、実施例1〜5のいずれの評価サンプルにおいても、外周面側から内周面側へ向けてビッカース硬さが次第に増加する結果となった。特に、実施例1〜3については、上記に規定した値の範囲内、すなわち、外周面側が75HV以上80HV以下、内周面側が95HV以上100HV以下となっていた。また、比較例2及び比較例3についても、上記規定値からは外れるものの、外周面側から内周面側へ向けて硬さが増すという傾向は一緒であった。
【0082】
(結晶方位測定)
以下に、結晶方位測定の結果について説明する。実施例1〜5及び比較例1〜4の評価サンプル1セットについて、X線回折装置を用いて種々の結晶面を示すピーク強度を測定した。続いて、各ピークの測定強度及びJCPDSカード番号40836に記載の各ピークの標準強度を上述の式(1)にあてはめ、(111)面の配向率(%)を求めた。
【0083】
表1に示すように、実施例1〜5においては、外周面側から内周面側へ向けて(111)面の配向率が次第に増加する結果となった。より具体的には、実施例1〜5のいずれの評価サンプルにおいても、外周面側を10%以上15%以下の範囲内、内周面側を20%以上25%以下の範囲内とすることができた。これに対し、比較例2においては、外周面側から内周面側へ向けて(111)面の配向率が略一定となってしまい、また、拡管率の小さい比較例3においては、外周面側で(111)面の配向率が非常に小さくなってしまった。
【0084】
(スパッタ速度測定)
以下に、スパッタ速度測定の結果について説明する。実施例1〜5及び比較例1〜4の評価サンプル1セットのそれぞれを、上述の実施形態と同様のスパッタリング装置に装着し、各評価サンプルのスパッタ速度を測定した。具体的には、アルゴンガスを用い、放電電力を33kWとして3分間スパッタリングを行い、ガラス基板上にスパッタリング膜を成膜した。その後、このスパッタリング膜の膜厚をレーザ顕微鏡にて測定し、1分間あたりに成膜される膜厚に換算してこれをスパッタ速度(nm/min)とした。
【0085】
表1に示すように、実施例1〜5においては、外周面から内周面に至るまで略一定のスパッタ速度が得られた。また、表1には示していないが、拡管率が5%以上の比較例1及び比較例4においても、スパッタ速度については略一定の値が得られていた。これに対し、(111)面の配向率が略一定であった比較例2、及び外周面側で(111)面の配向率の小さかった比較例3においては、外周面側から内周面側へ向かうにつれてスパッタ速度の低下がみられた。
【0086】
以上のように、実施例1〜5においては、拡管割れ、結晶粒径、スパッタ速度のいずれについても良好な結果が得られた。このとき、外周面側と内周面側とのビッカース硬さの差が、少なくとも外周面側で75HV以上80HV以下、内周面側で95HV以上100HV以下となっている場合や、外周面側と内周面側との(111)面の配向率の差が、少なくとも外周面側で10%以上15%以下、内周面側で20%以上25%以下となっている場合であれば、外周面から内周面に至るまで略一定のスパッタ速度が得られることがわかった。
【0087】
また、上記のビッカース硬さや(111)面の配向率は、拡管率を5%以上とすることで得られることがわかった。一方で、拡管率を15%以下とすることで拡管割れが抑制され、また、拡管引抜加工後の熱処理温度を450℃以上600℃以下とすることで、結晶粒径を異常放電の起こり難い100μm以下に制御可能であることがわかった。