(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5723263
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】内燃機関のボルト締付方法
(51)【国際特許分類】
F02F 1/00 20060101AFI20150507BHJP
B23P 19/06 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
F02F1/00 J
B23P19/06 T
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-266975(P2011-266975)
(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-119783(P2013-119783A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033042
【氏名又は名称】ダイハツディーゼル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和利
(72)【発明者】
【氏名】堀川 政人
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−120984(JP,A)
【文献】
実開平3−120380(JP,U)
【文献】
実開昭62−88568(JP,U)
【文献】
特開平4−185971(JP,A)
【文献】
米国特許第3877326(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00
B23P 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボルトを有する内燃機関の上記各ボルトに、油の給排出を行う接続口を二つ有する油圧ジャッキを設置する工程と、
複数の上記油圧ジャッキを油圧ホースで直列に接続する一方、直列に接続された上記複数の油圧ジャッキのうちの一端の油圧ジャッキと、油圧ポンプとを油圧ホースで接続する工程と、
規定値で上記油圧ジャッキの油圧をかける工程と、
上記一端の油圧ジャッキの上記油圧ポンプ側の油の油圧と、上記複数の油圧ジャッキのうちの他端の油圧ジャッキの上記一端の油圧ジャッキ側とは反対側の油の油圧とを測定する工程と
両端の油圧が同一であることを確認して上記複数のボルトおよびナットを締結する工程と
を備えることを特徴とする内燃機関のボルト締付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のボルト締付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のボルト締付方法としては、実開平3−120380号公報(特許文献1)に記載された油圧を用いた締付がある。この内燃機関のボルト締付方法は、油圧ジャッキでボルトを引っ張り、ボルトに引張荷重をかけた状態で、ナットを座面側に締め込んで、ボルトの締め付けを行っている。この内燃機関のボルト締付方法は、トルクで締め付ける一般的な締付方法に対して、座面およびねじ部の摩擦の影響がなく、ボルトの軸力管理が確実にできて、かつ、ボルトに曲げやねじり応力が発生しない締付を実現できる。
【0003】
図3は、従来の油圧を用いた複数のボルトの締付方法を説明する図である。
【0004】
この方法は、油圧ポンプ100と、継手101とを油圧ホース103で接続すると共に、各ボルトに油圧ジャッキ105を据え付けた上で、継手101と、各油圧ジャッキ105とを油圧ホース106で接続する。そして、油圧ポンプ100からの油を、継手101を介して各油圧ジャッキ105に分配し、各油圧ジャッキ105に分配された油の油圧を用いて、各ボルトの締付を行うようになっている。このボルトの締付方法によれば、ナットと座面およびねじ部の摩擦の影響がなくて、ボルトに曲げやねじり応力が発生しなくて、複数のボルトを同時かつ均一に締付ができる。
【0005】
しかしながら、上記従来のボルトの締付方法によれば、複数の油圧ジャッキのうちの幾つかに油圧の不具合があっても分からないという問題がある。そして、複数の油圧ジャッキのうちの幾つかに油圧の不具合がある場合、ボルトの締付トルク不足が発生して、事故につながる危険性がある。また、事故につながったとき、各油圧ジャッキの異常を特定するのが不可欠になるが、異常な油圧ジャッキの場所や原因の特定に多大な時間や労力を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−120380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、複数のボルトを同時かつ均一に締付でき、かつ、油圧が全ての油圧ジャッキに正常に働いているかを容易に確認できて、ボルトの締結トルク不足に基づく事故を防止できる内燃機関のボルト締付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の内燃機関のボルト締付方法は、
複数のボルトを有する内燃機関の上記各ボルトに、油の給排出を行う接続口を二つ有する油圧ジャッキを設置する工程と、
複数の上記油圧ジャッキを油圧ホースで直列に接続する一方、直列に接続された上記複数の油圧ジャッキのうちの一端の油圧ジャッキと、油圧ポンプとを油圧ホースで接続する工程と、
規定値で上記油圧ジャッキの油圧をかける工程と、
上記一端の油圧ジャッキの上記油圧ポンプ側の油の油圧と、上記複数の油圧ジャッキのうちの他端の油圧ジャッキの上記一端の油圧ジャッキ側とは反対側の油の油圧とを測定する工程と
両端の油圧が同一であることを確認して上記複数のボルトおよびナットを締結する工程と
を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、油圧ポンプおよび複数の油圧ジャッキを、油圧ポンプを一端に配置した状態で、油圧ホースで直列に接続した上で、上記複数の油圧ジャッキを挟んだ両側の二箇所の油圧の測定を行うようになっているから、両側の二箇所の油圧の差異を測定するだけで、上記複数の油圧ジャッキのうちのいずれかの油圧ジャッキに異常があることを確認できる。つまり、両側の二箇所の油圧が同一であった場合に、全ての油圧ジャッキの正常とそのボルトへの据え付けの正常とを判断できる一方、両側の油圧が異なる場合に、いずれかの油圧ジャッキの異常またはいずれかの油圧ジャッキのシリンダヘッドボルトへの据え付けの異常を判断できる。したがって、油圧ジャッキが異常な状態で、ボルトの締め付けが行われることを防止できて、ボルトの締結トルク不足が存在することがなく、ボルトの締結トルク不足に基づく事故が発生することがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の内燃機関のボルト締付方法によれば、油圧ジャッキが異常な状態で、ボルトの締め付けが行われることを防止できて、ボルトの締結トルク不足が存在することがなく、ボルトの締結トルク不足に基づく事故が発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の内燃機関のボルト締付方法の一実施形態である内燃機関のシリンダヘッドボルトの締付方法を行っている最中のシリンダヘッドを上方から見たときの図である。
【
図2】シリンダヘッドボルトに据え付けられた油圧ジャッキを詳細に示す図である。
【
図3】従来の油圧を用いた複数のボルトの締付方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の内燃機関のボルト締付方法の一実施形態である内燃機関のシリンダヘッドボルトおよびナットの締付を行っている最中のシリンダヘッドを上方から見たときの図である。以下、
図1を用いて、四つのシリンダヘッドボルトおよびナットの締付方法を説明する。
【0014】
先ず、各シリンダヘッドボルトに、油の給排出を行う接続口としての油圧カプラ10を二つ有する油圧ジャッキ1を据え付ける(この工程については、後に詳述する)。
【0015】
その後、
図1に示すように、四つの油圧ジャッキ1を三つの油圧ホース6で直列に接続すると共に、直列に接続された四つの油圧ジャッキ1のうちの一端の油圧ジャッキ7と、油圧ポンプ5とを油圧ホース8で接続する。
【0016】
次に、四つ目の油圧ジャッキ1の他方の油圧カプラ10に高圧ホース9と空気抜きプラグ22が接合された圧力計21を接続する。
【0017】
尚、油圧ポンプ5は、圧力計11を有し、油圧ポンプ5から油圧ホース8に供給される油の油圧は、圧力計11によって測定されるようになっている。
【0018】
図2は、シリンダヘッドボルト31に据え付けられた油圧ジャッキ1を詳細に示す図である。
【0019】
図2に示すように、この油圧ジャッキ1は、内燃機関のシリンダヘッド30に締め付けられるシリンダヘッドボルト31の締め付けを行うのに用いられる。この油圧ジャッキ1は、油圧ピストン58と、油圧シリンダ59と、二つの油圧カプラ10,10と、ジャッキスタンド88と、ジャッキハンドル56とを有する。
【0020】
油圧ピストン58は、内周にシリンダヘッドボルト31の雄ねじに適応する雌ねじが切られている。油圧シリンダ59は、油圧ピストン58の外側を囲うように配置されており、油圧ピストン58は油圧シリンダ59に対して軸方向に可動となっている。
【0021】
さらに油圧ピストン58と油圧シリンダ59とのそれぞれには、軸方向に対向する面を有していて、油圧ピストン58の外周、油圧シリンダ59の内周と、これらの上下の対向面とで、油圧室86を形成している。
【0022】
油圧ピストン58は、その上面に油圧カプラ10接続用の穴85を有しており、油圧室86と連通している。
【0023】
ジャッキスタンド88は、油圧シリンダ59の下面に当接しており、丸ナット55の外側を(接触しない程度に)囲っている。なお、ジャッキスタンド88は、ハンドル56を通す長穴89(周方向に長い)を有する。
【0024】
シリンダヘッドボルト31及びナット55とを締め付ける手順について説明する。まずは、丸ナット55をシリンダヘッドボルト31に手でねじ込む。(
図2の右側のボルトナットの状態。)
【0025】
次に、ジャッキスタンド88を丸ナット55の外側を囲うように置く。そして、油圧ピストン58と油圧シリンダ59と油圧カプラ10とが合体した状態で、油圧ピストン58をシリンダヘッドボトル31にねじ込んでいく。シリンダヘッド30とジャッキスタンド88と油圧シリンダ59とが密着したら、油圧ホースを接続する。
【0026】
空気抜きプラグ22を開いて、油圧ポンプ5のレバーを操作して、油圧室86を含む、油圧ポンプ5から他端の圧力計21まで油を満たす。そして、空気抜きプラグ22を閉めて、油圧ポンプ5のレバーを操作して、油圧を規定値まで上げる。
【0027】
このとき油圧室86において、油圧ピストン58と油圧シリンダ59とのそれぞれに対向する面に油圧が作用するから、油圧ピストン58が油圧シリンダ59に対して押し上げられる。つまり、油圧ピストン58によって、シリンダヘッドボルト31がシリンダヘッド30に対して規定値の油圧の力で引っ張り上げられることになる。
【0028】
そして、シリンダヘッドボルト31が引っ張り上げられた状態で、ジャッキハンドル56を用いて丸ナット55を進角しないでまで締め付ける。その後、油圧ポンプ5からの油圧を抜いていくと、シリンダヘッドボルト31と丸ナット55とは、規定値の油圧の力で締め付けられることとなる。
【0029】
シリンダヘッド30にある4箇所のシリンダヘッドボルト31および丸ナット55は、同じトルクで均一に締め付けられなければならないから、上記の操作を4箇所同時に行う必要があるため、
図1のような構成となる。
【0030】
この時、油圧ジャッキ1が正常であれば、左右の油圧カプラ10内の油の油圧と、油圧室86内の油の油圧とが、同一の油圧になるから、四つの油圧ジャッキ1の全てが正常であれば、圧力計11の測定値と、圧力計21の測定値とが、同一になる。
【0031】
図1に示すように、圧力計11を有する油圧ポンプ5、四つの油圧ジャッキ1および圧力計21を直列に接続した上で、圧力計11の測定値と、圧力計21の測定値とが同一で合った場合に、全ての接続の正常と全ての油圧ジャッキ1の正常とそのシリンダヘッドボルト31への据え付けの正常とを判断する一方、圧力計11の測定値と、圧力計21の測定値とが異なる場合に、いずれかの接続の異常またはいずれかの油圧ジャッキ1の異常またはいずれかの油圧ジャッキ1のシリンダヘッドボルト31への据え付けの異常を判断するようになっている。
【0032】
具体的には、各油圧ジャッキ1が直列に接続されているから、一の油圧ジャッキ1に異物が噛み込む等して油圧が伝わらなくなった場合、その油圧ジャッキ1の両側の油の油圧が異なることになり、圧力計11と、圧力計21との油圧の値が異なることになる。したがって、直列に接続された四つの油圧ジャッキ1の一方側の圧力計11,と、他方側の圧力計21による油圧の相違を測定することによって、少なくとも一つの油圧ジャッキ1の異常を判断できる一方、上記一方側の圧力計11と、他方側の圧力計21との油圧の測定値が同一である場合に、全ての油圧ジャッキ1の正常を判断することができるのである。
【0033】
したがって、油圧ジャッキ1が異常な状態で、シリンダヘッドボルト31の締め付けが行われることを防止できて、シリンダヘッドボルト31の締結トルク不足が存在することがなく、シリンダヘッドボルト31の締結トルク不足に基づく事故が発生することがない。
【0034】
尚、上記実施形態の内燃機関のボルト締付方法では、同じ油圧をかけて引っ張り上げるボルトの数が4であったが、この発明では、同じ油圧をかけて引っ張り上げるボルトの数は、2、3または5以上であっても良い。
【0035】
また、上記実施形態では、本発明の方法を、複数のシリンダヘッドボルト31を締め付けるのに使用したが、本発明の方法は、たとえば、複数の主軸受ボルト、複数のクランクピンボルト、または、複数のサイドボルトを締め付けるのに使用しても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 油圧ジャッキ
5 油圧ポンプ
6,8,9 油圧ホース
7 一端の油圧ジャッキ
11,21 圧力計
31 シリンダヘッドボルト