【実施例】
【0018】
以下、本発明を適用したシフトバイワイヤ制御システムの実施例について説明する。
実施例のシフトバイワイヤ制御システムは、例えば、ガソリンエンジン等のエンジンを走行用動力源とする乗用車等の自動車に設けられ、CVT、ステップAT等の自動変速機のレンジ切替を行うものである。
図1は、実施例のシフトバイワイヤ制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
シフトバイワイヤ制御システムは、レンジ切替装置10、アクチュエータ20、シフトバイワイヤ制御ユニット30等を有して構成されている。
【0019】
レンジ切替装置10は、自動変速機の前進(D)レンジ、後退(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、パーキング(P)レンジをアクチュエータ20によって切替えるものである。
レンジ切替装置10は、前進クラッチ及び後退クラッチをそれぞれ締結、解除する油圧制御機構、及び、出力軸を機械的にロックするパーキングロック機構等を有して構成されている。
Dレンジは、前進クラッチが締結され、後退クラッチは解除された状態となっている。
Rレンジは、前進クラッチが解除され、後退クラッチは締結された状態となっている。
Nレンジは、前進クラッチ、後退クラッチがともに解除された状態となっている。
Pレンジは、前進クラッチ、後退クラッチがともに解除されるとともに、パーキングロック機構が作動した状態となっている。
【0020】
アクチュエータ20は、レンジ切替装置10を駆動してレンジの切替動作を行なわせる例えばモータ、ソレノイド等の電動アクチュエータである。
アクチュエータ20は、内部の駆動部材の位置等に基いて、レンジ切替装置10がどのレンジ(シフト位置)にあるかを検出するシフト位置センサ21を備えている。
シフト位置センサ21が検出したシフト位置情報は、シフトバイワイヤ制御ユニット30に伝達される。
【0021】
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、アクチュエータ20を制御してレンジ切替装置10にレンジ切替動作を行なわせるものである。
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
【0022】
シフトバイワイヤ制御ユニット30には、セルフシャットリレー31、レンジスイッチ32、運転席ドアスイッチ33、シートベルトスイッチ34、アイドリングストップシステム(ISS)制御ユニット35、バッテリ電圧センサ36、前後Gセンサ37、車速センサ38等が、車載LANの一種であるCAN通信システム等を介して接続されている。
【0023】
セルフシャットリレー31は、シフトバイワイヤ制御ユニット30に電力を供給するとともに、ドライバが図示しないイグニッションスイッチをオフした場合には、シフトバイワイヤ制御ユニット30のシャットダウンが完了するまで電力を供給した後に、シフトバイワイヤ制御ユニット30からのセルフシャット制御信号に応じて電源供給を遮断するものである。
【0024】
レンジスイッチ32は、ドライバがレンジ切替操作(選択操作)を入力するシフトレバー等の操作部に設けられ、シフトレバーによって選択されたレンジに応じたレンジ要求信号をシフトバイワイヤ制御ユニット30に伝達する。
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、レンジスイッチ32からのレンジ要求信号に応じて、アクチュエータ20を駆動し、レンジ切替装置10を動作させる。
【0025】
運転席ドアスイッチ33は、運転席ドアのキャッチャ部に設けられ、運転席ドアの開閉状態を検出し、検出結果をシフトバイワイヤ制御ユニット30に伝達する。
【0026】
シートベルトスイッチ34は、運転席のシートベルトアンカ部に設けられ、シートベルトの着脱状態を検出し、検出結果をシフトバイワイヤ制御ユニット30に伝達する。
運転席ドアスイッチ33及びシートベルトスイッチ34は、ドライバがシートベルトを装着しかつ運転席ドアを閉めた発進準備状態を判別する、本発明にいう発進準備状態判別手段として機能する。
【0027】
ISS制御ユニット35は、車両の停車時に所定のアイドルストップ条件が成立した場合に、エンジンを自動的に停止させるとともに、例えばブレーキオフ等の所定の再始動条件が成立した場合に、エンジンを自動的に再始動させるアイドルストップ制御を行うものである。
また、ISS制御ユニット35は、所定の再始動禁止条件が充足した場合には、エンジンの自動停止後の自動再始動を禁止する機能を備えている。
【0028】
バッテリ電圧センサ36は、シフトバイワイヤ制御システムに電力を供給するバッテリの電圧を検出し、シフトバイワイヤ制御ユニット30に伝達する。
【0029】
前後Gセンサ37は、車体の前後方向に作用する加速度を検出することによって、自車両が停車している路面の前後方向の傾斜(勾配)を判別するものである。
前後Gセンサ37は、判別された勾配値をシフトバイワイヤ制御ユニット30に伝達する。
【0030】
車速センサ38は、例えば車輪ハブ部に設けられたトーンホイールの回転速度に応じた車速パルス信号を生成するとともに、車速パルス信号の間隔に応じて車速を検出するものである。
車速センサ38は、検出された車速をシフトバイワイヤ制御ユニット30に伝達する。
【0031】
また、シフトバイワイヤ制御ユニット30は、電動パーキングブレーキ制御ユニット40、ブレーキ制御ユニット50等に接続されている。
【0032】
電動パーキングブレーキ制御ユニット40は、機械式のパーキングブレーキ41と機械的なリンケージによって接続されたアクチュエータ42を制御し、パーキングブレーキ41の制動、解除を切替えるものである。
【0033】
ブレーキ制御ユニット50は、液圧式のサービスブレーキ51のフルード液圧を発生するハイドロリックコントロールユニット52を制御し、サービスブレーキ51の制動、解除を切替えるものである。
【0034】
上述した実施例のシフトバイワイヤ制御システムは、ドライバの発進準備が未了である場合に車両の走行を防止する制御、バッテリからの供給電圧が低下した場合に車両の走行を防止する制御、及び、アイドルストップ制御によってエンジンが自動停止した後、自動再始動が禁止された場合に非走行レンジへ切替えてインヒビタ回路をオンする制御等を実行している。
以下、これらの制御について詳細に説明する。
【0035】
図2は、
図1のシフトバイワイヤ制御システムにおける発進準備未完了時及び低電圧時の制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS11:イグニッションスイッチ・車速状態判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、図示しないイグニッションスイッチからの入力信号がオフ状態でありかつ車速センサが検出する車速が所定値以上であるか否かを判別し、これらがともに成立した場合にはステップS12に進む。
また、これらの一方又は両方が不成立である場合にはステップS13に進む。
【0036】
<ステップS12:セルフシャット禁止>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、セルフシャットリレー31によるシフトバイワイヤ制御ユニット30への電力供給遮断(リレー接点開動作)を禁止し、ステップS13に進む。
【0037】
<ステップS13:運転席ドア状態判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、運転席ドアスイッチ33からの入力に基いて、運転席ドアの開閉状態を判別し、運転席ドアが開放されている場合はステップS16に進む。
また、運転席ドアが閉塞されている場合はステップS14に進む。
【0038】
<ステップS14:運転席シートベルト状態判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、シートベルトスイッチ34からの入力に基いて、運転席乗員のシートベルト装着状態を判別し、シートベルトが装着されていない場合はステップS16に進む。
また、シートベルトが装着されている場合はステップS15に進む。
【0039】
<ステップS15:バッテリ低電圧判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、電圧センサ36からの入力に基いて、バッテリの電圧を判別し、電圧が所定の閾値以下である低電圧状態である場合はステップS16に進む。
また、低電圧状態でない場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0040】
<ステップS16:勾配値判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、前後Gセンサ37からの入力に基いて、現在自車両が停車している路面の前後方向の勾配値を判別し、勾配値が所定の閾値以上である場合はステップS17に進む。
また、勾配値が閾値未満である場合はステップS18に進む。
【0041】
<ステップS17:車速判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、車速センサ38からの入力に基いて、現在の自車両の車速を判別し、車速が所定の閾値以下である場合はステップS19に進む。
また、車速が閾値超である場合はステップS18に進む。
【0042】
<ステップS18:Nレンジシフト>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、自動変速機の前進クラッチ及び後退クラッチがともに解除され、パーキングロック機構は解除されたNレンジ状態とする。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0043】
<ステップS19:Pレンジシフト>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、自動変速機の前進クラッチ及び後退クラッチがともに解除され、パーキングロック機構がロックされたPレンジ状態とする。
ここで、パーキングロック機構をロックするとともに、あるいは、パーキングロック機構をロックすることに代えて、電動パーキングブレーキ制御ユニット40とブレーキ制御ユニット50の一方又は両方に作動要求信号を送信し、パーキングブレーキ41、サービスブレーキ51の一方又は両方を制動状態としてもよい。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0044】
図3は、
図1のシフトバイワイヤ制御システムにおけるアイドルストップ再始動禁止時の制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS21:イグニッションスイッチ・車速状態判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、図示しないイグニッションスイッチからの入力信号がオフ状態でありかつ車速センサが検出する車速が所定値以上であるか否かを判別し、これらがともに成立した場合にはステップS22に進む。
また、これらの一方又は両方が不成立である場合にはステップS23に進む。
【0045】
<ステップS22:セルフシャット禁止>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、セルフシャットリレー31によるシフトバイワイヤ制御ユニット30への電力供給遮断(リレー接点開動作)を禁止し、ステップS23に進む。
【0046】
<ステップS23:アイドルストップ制御判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、ISS制御ユニット35からの入力に基いて、現在アイドルストップ制御の実行中か否かを判別する。
アイドルストップ制御を実行中である場合は、ステップS24に進む。
また、アイドルストップ制御を実行中でない場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0047】
<ステップS24:再始動禁止判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、ISS制御ユニット35からの入力に基いて、再始動禁止状態であるか否かを判別する。
再始動禁止状態である場合は、ステップS25に進む。
また、再始動禁止状態でない場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0048】
<ステップS25:前進・後退クラッチ開放、インヒビタ回路オン>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、自動変速機の前進クラッチ、後退クラッチをともに解除状態にするとともに、通常時Dレンジにおいてスタータモータへの通電を禁止する図示しないインヒビタ回路を制御し、Dレンジである場合にも、ドライバによるイグニッションスイッチのエンジン始動操作に応じて、スタータモータへの通電が可能な状態とする。
その後、ステップS26に進む。
【0049】
<ステップS26:勾配値判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、前後Gセンサ37からの入力に基いて、現在自車両が停車している路面の前後方向の勾配値を判別し、勾配値が所定の閾値以上である場合はステップS27に進む。
また、勾配値が閾値未満である場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0050】
<ステップS27:車速判断>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、車速センサ38からの入力に基いて、現在の自車両の車速を判別し、車速が所定の閾値以下である場合はステップS28に進む。
また、車速が閾値超である場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0051】
<ステップS28:Pレンジシフト>
シフトバイワイヤ制御ユニット30は、自動変速機の前進クラッチ及び後退クラッチがともに解除され、パーキングロック機構がロックされたPレンジ状態とする。
ここで、パーキングロック機構をロックするとともに、あるいは、パーキングロック機構をロックすることに代えて、電動パーキングブレーキ制御ユニット40とブレーキ制御ユニット50の一方又は両方に作動要求信号を送信し、パーキングブレーキ41、サービスブレーキ51の一方又は両方を制動状態としてもよい。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0052】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)運転席ドアが開放され、あるいは運転席シートベルトが未装着であり、車両の発進準備が整わない場合に、Nレンジ又はPレンジにシフトすることによって、車両の動き出しを防止し、安全性を向上することができる。
このような制御に用いるドアスイッチ、シートベルトスイッチ等は、一般的な車両に通常設けられているものであり、新たなセンサ、スイッチ類を追加する必要がない。
(2)システムへの供給電圧が低下して制御用のCPUやアクチュエータ等の誤作動が懸念される場合に、Nレンジ又はPレンジにシフトすることにより、車両の走行を防止して信頼性、安全性を確保できる。
(3)アイドルストップ制御によるエンジンの自動再始動が何らかの理由により禁止された場合に、Nレンジ又はPレンジにシフトしかつインヒビタ回路をオンすることによって、ドライバが手動で非走行レンジに切り替えることなくスタータモータの駆動が可能となり、ドライバの操作負担が軽減され、パニック等に陥ることを防止できる。
(4)上述した各制御の実行時に、自車両が所定以上の勾配値の傾斜路上にある場合には、パーキングロック機構、パーキングブレーキ、サービスブレーキの一部又は全部を作動させることによって、車両の動き出しを防止することができる。
(5)イグニッションスイッチがオフかつ車速が所定値以上である場合に、セルフシャットを禁止することによって、イグニッションスイッチ及びその配線等に故障等が発生した場合であっても、セルフシャットが作動して制御不能となることを防止できる。
【0053】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
例えば、シフトバイワイヤ制御システムの構成は、上述した実施例の構成に限らず、適宜変更することができる。
例えば、実施例においては、運転席ドア及び運転席シートベルトの状態に応じて前進、後退クラッチを解除しているが、運転席以外のドアやシートベルトの状態も加味した制御としてもよい。