【実施例】
【0060】
[実施例1]:
将来のサンプル定量で用いる較正曲線の作成
本明細書に記載するサンプル中の1つまたは複数の生体分子を定量する方法は、定量実験が装置上で実施される毎に、較正曲線を作成する必要性をなくす。これは、定量分析が実施される毎に、ユーザーが新しい較正曲線または標準曲線を作成するように一般的に求められる当技術分野における現行分析法に比べて改善されている。
【0061】
本明細書に記載する方法では、ユーザーは、較正曲線または標準曲線を一度作成し、そして将来の分析のために使用することができる。1つの実験では、較正曲線が下記のように作成された。様々な濃度の分析物(BSA)の溶液がバッファー中に調製され、本明細書に記載するFTIRに基づく検出法を用いて分析された。
図1のグラフは、分析物の濃度または量(X軸)に対するピーク面積またはピーク高さ(Y軸)を示している。ピーク面積が既知のとき、この較正の直線範囲が、未知のサンプルの濃度計算で用いられる。
【0062】
代表的な式はy=mx+c、式中c=Y軸の切片、m=直線の傾き;y=ピーク面積または高さ、およびx=分析物の濃度または量である。さらにユーザーは、定量の統計的妥当性を高めるために、当初の較正曲線にデータを付加することができる。
【0063】
図1は、ある日に、バッファー中の様々な既知濃度のBSAを用いて生成された較正曲線の例、および同一曲線と比較した数日後に定量された濃度が未知であるタンパク質の関連するサンプルである。
【0064】
[実施例2]:
サンプル中の生体分子を定量するための一般プロトコール
代表的な実験では、1つまたは複数の生体分子(例えば、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質等)を含有するサンプルが、脱イオン水または適するバッファー中で調製される。約0.2−10μlのブランク溶液(例えば、脱イオン水またはバッファー単独)が、例えばカードの形態のサンプルホルダー(本明細書ではサンプルホルダーカードと呼ぶ)内に収納された膜の親水性領域に適用される。同一体積の調製済みのサンプル溶液が、1つまたは複数のスポットに適用されるが、同スポットは、同一サンプルホルダーカード上に存在しても、また異なるが同形のサンプルホルダーカード上に存在してもよい。サンプルホルダーカードは、下記の方法のうち1つを用いてその後乾燥される:熱(40−60℃、0.5−2分);圧縮空気/窒素もしくは任意のその他の不活性気体(0.5−2分)、または電子レンジ。乾燥したサンプルホルダーカードは、IR測定装置のサンプルコンパートメント内にその後挿入される。ブランク溶液の透過/吸収スペクトルが、バックグランドに対応するスペクトルを得るために4000および400cm
−1の間で測定され、これに同一波長範囲でのサンプル測定が続く。様々な濃度の標準物質を用いて作成され、システムに組み込まれた較正曲線を用いて、濃度未知のサンプルがその後測定される。
【0065】
図2は、ブランクを適用するための1つのスポット(Bと呼ぶ)および3サンプル用のスポット(1、2および3と呼ぶ)を示す、代表的なサンプルホルダーカードの画像を表している。しかし、上記で議論したように、サンプルホルダーカードは、サンプルを適用するための任意の数のスポットを有するように設計可能である。
【0066】
[実施例3]:
IR分光法を用いたサンプル中のタンパク質および核酸の定量
代表的な実験では、サンプル中のタンパク質および核酸の両方が、本発明による方法を用いて、下記のように定量された。
【0067】
1つの実験では、ウシ血清アルブミン(BSA;SIGMA Cat#A−7030)およびデオキシリボ核酸(DNA;Ambion Cat#AM9680剪断されたサケ精子DNA)が、様々な割合(等比および逆比で10から1μg)で一緒に混合され、1×PBSバッファー内に溶解された。1μlのサンプルが、親水性PTFE膜サンプルホルダーカード上に、P10型Raininピペットを用いてピペット分取されたが、その場所は
図2に示すサンプルホルダーカードの1、2および3の位置であった。上記サンプルが調製されたバッファーの同一の体積が、
図2に示すように、サンプルホルダーカード上の位置Bにピペット分取された。
【0068】
バッファースポットおよびサンプルスポットの両方を備えるサンプルホルダーカードが、高圧空気を用いて乾燥された。サンプルホルダーカードがIR測定装置内に挿入され、バッファーの吸収/透過スペクトルが4000および400cm
−1の間で最初に測定された。その後、サンプルのスペクトルが、バックグランドスペクトルとしてバッファースペクトルを用いて測定された。タンパク質および核酸の量は、タンパク質の場合、1700−1400cm
−1、また核酸の場合、1740−1400および1120−940cm
−1のスペクトル範囲を用いて測定される。1700−1400cm
−1の波長範囲では、タンパク質および核酸の両方が吸収を有する点に留意する。したがって、核酸の濃度が求められたら、この濃度は、1700−1400cm
−1の間のピーク面積を用いて得られるタンパク質+核酸の濃度から減じることができ、こうしてタンパク質単独の濃度が得られる。したがって、タンパク質および核酸の濃度が、一回の実験で測定可能である。この実験では、較正曲線は、バッファーまたは脱イオン水中に溶解したタンパク質およびDNAの純粋なサンプルを用いて、タンパク質およびDNAについて独立に作成された。1つのそのような実験の結果を
図3に示す。
【0069】
[実施例4]:
IRを用いたサンプル中のペプチドの定量
別の代表的な実験では、本発明による方法は、ペプチドを定量するのに利用され得ることが実証されている。1つの実験では、ペプチドサンプルが1mg/mlの濃度まで水に溶解された。2μlの体積のサンプルが、P2型Raininピペットを用いて、
図2に示すように親水性PTFE膜を収納するサンプルホルダーカード上にピペット分取され、そして40℃のヒーター内で乾燥された。同一のサンプルホルダーカードは、ブランク(B)と呼ばれる位置も備え、ここには2μlの体積のサンプル溶解水がピペット分取された。カードはIR測定装置内に挿入され、水/バッファーブランクの吸収/透過スペクトルが測定され、これにバックグランドとして水/バッファースペクトルを用いたサンプル測定が続いた。ペプチドの量は、1700−1400cm
−1のスペクトル範囲を用いて測定された。較正曲線は、検量体としてBSAの純粋サンプルを用いて、バッファー/水中で作成された。1つのそのような実験の結果を
図4に示す。
【0070】
[実施例5]:
IRを用いたサンプル中のリポ多糖類の定量
代表的な実験では、本発明による方法が、サンプル中のリポ多糖類を定量するのに用いられた。具体的には、エンドトキシン等のリポ多糖類(リポ多糖類(LPS);SIGMA製L2630)が、20mg/mlのストック溶液を得るために1×PBSバッファー中に溶解された。2μlの体積のサンプルが、P2型Raininピペットを用いて、
図2の画像に示すように、親水性PTFE膜を収納するサンプルホルダーカード上にピペット分取され、そして40℃のヒーターを用いて乾燥された。同一のサンプルホルダーカードは、ブランク(B)と呼ばれる位置も備え、ここには2μ1の体積のサンプル溶解バッファーが適用される。サンプルホルダーカードはIR測定装置内に挿入され、サンプルのスペクトル測定を行う前にバッファーのスペクトルが最初に測定されたが、この場合ブランクバッファースペクトルをバックグランドスペクトルとみなす。LPS希釈物の滴定結果が、較正曲線を得るためにストック溶液の計算に基づき記録された。1つのそのような実験の結果を
図5に示す。
【0071】
[実施例6]:
IRを用いたサンプル中の水の存在のモニタリング
本明細書に記載する方法は、サンプル中の水の存在を検出するためにも利用可能である。水は、例えば特にタンパク質/ペプチドを定量する際には、生体分子の定量の正確性に影響を及ぼす可能性があるので、IRに基づく方法を用いて分析されるサンプル中に水を含むのは大部分は望ましくない。
【0072】
代表的な実験では、Milli Q水中に溶解された10mg/mlのBSA(Sigma Cat#A−7030)溶液、2μlが、例えばカードの形態のサンプルホルダー(本明細書ではサンプルホルダーカードと呼ばれる)に収納されている膜の親水性領域に適用された。
【0073】
濡れたサンプルが、次にIR分光計のIRビーム内に配置され、IR吸収スペクトルが測定された。吸収スペクトルは、シグナル強度、例えば水の蒸発に起因したシグナルプロファイル変化として記録される。
【0074】
吸収スペクトルに関するシグナル強度が、3回の連続した測定において一定に留まるとき、サンプルは乾燥しているとみなされ、ソフトウェア(例えば、Bruker製測定装置の場合Opusソフトウェア)は、4000−400cm
−1の間でBSAの吸収スペクトルを収集し、そして組み込み済みの較正曲線を用いて、当該溶液中のBSA濃度を決定する。1つのそのような実験の結果を
図6に示すが、この図は、サンプルが乾燥すると共に水と関連するシグナル強度が低下することを表している。
【0075】
[実施例7]:
界面活性剤がサンプルの分布に与える影響
水溶液は、IRビームに曝露される膜の領域上で均一に乾燥させ、また均一な分布を得る際に、問題を有する可能性がある。
【0076】
この実験は、界面活性剤をサンプル溶液に添加すると、サンプルは、IRビームに曝露される領域上で均一に分布し、その結果より正確な定量を実現することを実証する。代表的な実験では、10mg/mlのチトクロームCタンパク質サンプル溶液、5μlが用いられ、これはPBSに溶解され、そして5%SDSを含む、また含まないで乾燥された。サンプルはサンプルホルダーカード上にスポットされ、そして全直径が4.5mmのIRビーム内に配置された。
【0077】
SDSを含まない場合、ほとんどのサンプルは、サンプル領域の外側1mm内に含まれたので、サンプルの約10%しかIRビームを吸収しないことが観察された。しかし、SDSが存在するサンプルでは、サンプルはより均一に分布し、その結果、サンプルはビームの最大照度(1/e
2)内にあるので、より多くのIRを吸収した。積分して得られたアミド1および2のピーク面積(1725から1479cm
−1)は、SDSを含まないサンプルの場合よりも約3倍大きかった。1つのそのような実験の結果を
図7に示す。このIR吸収スペクトルでは、X軸は波数(cm
−1)を表し、一方、Y軸は吸収単位を表している。
【0078】
[実施例8]:
プラズマ処理を用いたサンプルを封じ込めるためのサンプルホルダーカードの製造
やはり本発明に含まれるものとして、本明細書に記載するように、サンプル中の1つまたは複数の生体分子を定量する方法で利用可能なサンプルホルダーが挙げられる。いくつかの実施形態では、サンプルホルダーはカードの形態であり、便宜上サンプルホルダーカードと呼ばれる。サンプルホルダーカードは、正確な吸収スペクトルを取得し、その結果、対象とする生体分子の1つまたは複数の定量を実現するために、IRビーム内にサンプルを収納可能であることが必須である。
【0079】
本発明による方法で使用されるサンプルホルダーカードを製造する1つの方法では、サンプルを封じ込める領域を作成するために真空プラズマ環境が用いられた。サンプルホルダーカードで用いられる出発膜は、親水性PTFE膜であったが、これはブランド名PoreflonでSumitomoから販売されている。この膜は、平均すると0.03μmのサイズの孔(HHPSW−005−30)を備え、水濡れ可能な表面を付与するように親水化処理剤でコーティングされている。Poreflon親水性膜を真空プラズマ環境に曝露すると、表面から処理剤が除去されて本来疎水性のPTFEが露出する。
【0080】
図8Aおよび8Bは、マスキング固定具の実験的に展開および閉鎖した図をそれぞれ表し、同固定具内には、プラズマに曝露させるように組み立て済みのサンプルホルダーカードが配置されている。膜は、各中央部に12.5mmの貫通孔を有する硬質接着剤がコーティングされた2枚のペーパーシートから構成されるカード内に組み込まれた。2枚のペーパーシートは、これらの間にサンドイッチされる住友の親水性膜と共に組み立てられ、こうすることで組み立て済みのペーパーカード内で貫通孔を覆う。組み立て済みカード(10)を、展開した構成の固定具(12)と共に
図8Aに示す。
図8Aおよび8Bに示すように、親水性膜(14)を収納する組み立て済みのカード(10)は、カードを中央部に配置するためのフレーム(16)を備えるマスキング固定具(12)内に配置された。エラストマーシール(18)が、中央部に配置され位置決定された膜カード(10)の反対側に存在した。エラストマーシール(18)を4つのホール(19)が取り巻き、同ホールは処理の対象とされる膜(14)にプラズマガスが接触するように流通を確保する。マスキング固定具(12)は、
図8Bの断面図に示すようにエラストマーシール(18)がカード(10)内の膜(14)の反対側に対して押し付けられて気密となるようにその後閉鎖された。親水性膜(14)を収納するサンプルホルダーカード(10)上に固定具(12)を密着させるのに、例えばクランプによる力が用いられた。
【0081】
固定具(12)内に位置するカード(10)は、その後真空プラズマ環境内に配置され、その閉鎖した断面図を
図8Bに示す。利用可能である代表的な真空プラズマシステムはHarrick真空プラズマシステムモデルPDC−001である。システム内部のチャンバー(20)は真空ポンプ(図示せず)を用いて脱気された。大気ガスがチャンバー(20)内に導入され、流速は約2−5cc/分に維持された。高周波発振器(図示せず)に電力が加えられ、10秒から7分の時間維持された。エラストマーシール(18)間にあるサンプルホルダーカード(10)の膜(15)の領域は、プラズマから保護されており、一方残りの外側はドットで示しているプラズマに曝露された。
【0082】
図8Aおよび8Bに記載する固定具を用いたプラズマ曝露実験は、処理時間が1分を超えれば、いずれの場合も親水性領域および疎水性領域が明確に規定され、エラストマーシール(18)の位置で鮮明な遷移端が生ずることを明らかにした。プラズマ処理時間が1分よりも短いと、移行端部が不鮮明となるか移行端部がまったく生ぜず、その結果、膜は親水性に留まり、サンプルは封じ込められなかった。
【0083】
図9は、この実施例に記載する方法を用いて作成された、疎水性領域(26)でとり囲まれた親水性領域(24)を有する膜を収納する代表的なサンプルホルダーカード(22)を示す。2つの領域の間の境界は遷移端または線(28)である。
【0084】
上記で議論したように、IRビーム内においてできる限り均一に分布したサンプルを有するのがさらに望ましい。均一な分布を実現する1つの方法は、上記で議論したように、界面活性剤をサンプルに添加することである。均一な分布を実現する別の方法は、本明細書で議論するように、膜上で親水性領域に散在する疎水性領域のパターン/形状を形成することである。
【0085】
乾燥する液滴は、コーヒーリング現象において一般的に認められるように、サンプルを乾燥する液滴の外端部に沿って優先的に配置するものと理解される。この乾燥パターンを最低限に抑えるために、親水性領域をとり囲む疎水性領域は、さらに改変され得る。これは、例えば、親水性領域内に疎水性のスポットまたは線からなる膜上のパターンが形成されるように、膜上にエラストマーシールを好適に配置することにより実現可能である。そのようなパターンは複数のより小さな液滴をもたらし、こうしてより小さな、またさらに小さな乾燥パターンを形成するものと期待される。これらのより小さな乾燥パターンは、サンプルをIRビーム内により均一な構成で配置する。膜上に構成することができる可能な形状/パターンは、線、ドット、星型の形態およびその他の一般的な形状であり得ると理解される。さらに、外側の疎水性領域も、例えば星型、四角形等の形状であり得る。固定具上にエラストマーシールを好適に配置することにより形成され得る代表的な疎水性/親水性パターンは、
図10A−10Dに示されている。親水性領域は数字参照30で示され、また疎水性領域は数字参照32で示されている。
【0086】
[実施例9]:
サンプルを封じ込めるための熱処理を用いたサンプルホルダーカードの製造
別の実験では、本発明によるIR法で用いられるサンプルホルダーカードは、カード内の膜上でサンプルの封じ込めを実現するための別の代替手段として熱処理を用いて下記のように製造された。
【0087】
代表的な実験では、親水性PTFE膜の表面の濡れ性は、サンプルを封じ込めるための領域を形成するために、加熱された圧板に曝露することにより変更される。用いられた親水性PTFE膜は、住友よりブランド名Poreflonで販売されており、平均すると0.05μm孔のポアサイズを有し(HHPSW−005−30)、また水濡れ可能な表面を付与するように親水化処理剤でコーティングされている。一般的に、この実施例に記載する方法を用いて、0.05μm−0.45μmの範囲のポアサイズ、および30μmから80μmの範囲の厚さを有する任意のPoreflon膜が、加熱された圧板を用いて改変可能である。
【0088】
実施例8の場合と同様に、親水性PTFE膜は、4つの10mm貫通孔を有する接着剤がコーティングされたペーパーシートから構成されるカード内に組み込まれる。2つのペーパーシートは、当該シート間にサンドイッチされる住友の親水性膜と共に組み立てられ、こうして、組み立てられたペーパーカード内で孔を覆う。親水性膜(36)を収納するこの組み立て済みのカード(34)は、
図11に表すようにcal−rods(図示せず)および加熱された圧板(42)に取り付けられた空気圧シリンダー(図示せず)を備えたエンボス型固定具(38)内に配置された。シリンダーは、加熱された圧板(42)をサンプルホルダーカード(34)内の膜(36)の直上または上方に配置し、またネスト(40)上のエラストマーパッド(44)は、膜(36)の下面を支持する。加熱された圧板(42)は、飛び出した突起部(46)を備え、またネスト(40)は、飛び出した突起部(46)と整合するエラストマーパッド(44)を備え、サンプルホルダーカード(34)がこれらの間に配置されると、加熱された圧板(42)と直接接触した領域は疎水性となる。
【0089】
エンボス型固定具/カード/加熱された圧板アセンブリの展開断面図および閉鎖断面図を
図12Aおよび12Bにそれぞれ示す。
【0090】
加熱された圧板(42)が、一定時間(例えば、5秒から5分)、膜(36)に曝露された後、シリンダー(図示せず)は、加熱された圧板(42)を膜カード(34)から遠ざけた。
【0091】
やはり実施例8の場合と同様に、封じ込まれる領域の形状は改変可能である。熱処理の場合、封じ込まれる領域の形状は、加熱された圧板の飛び出た突起部と接触する膜の部分が疎水的となり、一方、加熱された圧板と接触しない部分は親水性に留まるように、膜の直近にある飛び出た突起部およびエラストマーパッドの形状により制御可能である。
【0092】
実施例8記載するプラズマ処理法または本実施例に記載する熱処理法のいずれかを用いて生み出される疎水性領域が、サンプルの封じ込めに有効であることを確認するために、熱またはプラズマ処理された膜および未処理の膜の両方のサンプル封じ込め特性が、サンプルとして水を用いて調べられた。
図13A−13Bは、熱処理またはプラズマ処理の対象とされなかった膜のサンプル封じ込め特性を示し、また
図13Cおよび13Dは、熱処理またはプラズマ処理のいずれか一方の対象となった膜のサンプル封じ込め特性を示している。サンプルとして2μlの体積の水(50)が、サンプルホルダーカード(54)の親水性膜(52)上にスポットされた。
図13Aは、時刻0の時の水のサンプル(50)を示し、
図12Bは時刻30秒の時の水のサンプル(50)を示している。
図13Bに示す通り、水のサンプルは、膜領域全体に展開し、その結果濡れた領域の直径はIRビームの直径よりも大きくなる。一方、熱処理された膜またはプラズマ処理された膜の場合、
図13Cおよび13Dに示すように、時刻0(
図13C)ならびに30秒(
図13D)のいずれにおいても、水のサンプル(50)は、疎水性バリア領域(58)でとり囲まれた膜の親水性領域(56)内に封じ込められた。したがって、本明細書に記載するように、熱またはプラズマ処理は、外側の疎水性バリア領域(56)でとり囲まれた内側の親水性領域(56)を作成するのに利用可能である。
【0093】
[実施例10]:
化学的または物理的分解によるサンプルの均一な分布
FTIR分析用に水性生体サンプルを乾燥させると、その結果、しばしばサンプル分布パターンが不均一となり、サンプル濃度はサンプル領域の外端部で最高となって、これにより不正確な定量を引き起こし得る、いわゆる「コーヒーリング」または「ドーナッツリング」パターンを形成することが認められている。
【0094】
本明細書に記載する代表的な実験では、
図14Aに示すように、界面活性剤または洗剤を使用すると、その結果、サンプル封じ込め領域においてより均一なパターンでサンプルを乾燥せしめ、これによりサンプルはより均一に分布した。また、疎水性バリアパターン(例えば、「X」形の交差パターン)をサンプル領域に付加すると、
図14Bに示すように、それはサンプルがサンプル領域の中央部に向かってより多く乾燥するようにせしめることができ、その結果、サンプルは界面活性添加物を用いた効果に類似した分布を示す。サンプルの分布または「コーヒーリング」の破壊は、濃度を高め、変動係数(%CV)の割合(%)を低減した。
【0095】
利用可能な界面活性剤の例は、ツイーン20およびドデシル硫酸ナトリウム(SAS)を含むが、但し、これらに限定されない。1つの実験では、乾燥させたチトクロームCサンプルのリングパターンは、サンプルが溶解される溶液(例えば、PBSとH
2O)に応じて変化することが明らかにされた。IRビーム内でサンプル分布が変化すると、それはサンプルを通過するIRビームの透過量に影響を及ぼす可能性がある。リングパターンを破壊し、もってサンプルのより均一な分布を実現するために、洗剤または界面活性剤が、サンプルに添加可能であり、またはサンプルがスポットされ、乾燥される膜に直接添加可能である。
【0096】
下記の表1では、チトクロームCタンパク質のアミド1&2ピーク面積が、SDSが存在しない場合(H
2Oのみ)およびSDSが存在する場合(1および5%)において計算された。SDSを添加した場合、その結果、計算により求められるサンプル面積が増加し、ならびに変動係数(%CV)の割合(%)は低下した(例えば、9.1から2.3%)。
【0097】
図15は下記の表1および2に示す作表データを棒グラフにした図を表す。SDSを添加するとサンプルの数値が増加し、また%CVが低下するのは、サンプルがより均一に分布すること(より多くのサンプルが全IRビーム内にある)、およびサンプル間のばらつきがより少ない(リング形成の場合差異が生ずるのに対してサンプルが均一に分布する)ことに起因する。
【0098】
表1および2のカラムBのアミド1および2ピーク面積は、OPUS6.5ソフトウェア(Bruker)を用いて計算された。平均値ならびに%CVが計算された。SDS(1および5%)がサンプルに添加され、ならびにピーク面積および%CVが再分析された。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
本出願全体を通じて引用されたすべての参考資料、特許および公表された特許出願の内容を参照により本明細書に組み込む。
【0102】
本明細書は、参照により本明細書に組み込まれる本明細書内で引用された参考資料の教示を踏まえることで、最も完全に理解される。本明細書内の実施形態は、本発明の実施形態について説明を提供するものであり、その範囲を限定するものとみなしてはならない。当業者は、多くのその他の実施形態が本発明により含まれることを容易に認識する。すべての公表文献および発明は参照によりそのまま組み込まれる。参照により組み込まれる資料が本明細書と矛盾する、または整合しない範囲で、本明細書はあらゆるそのような資料に優先する。本明細書におけるあらゆる参照資料の引用は、そのような参照資料が本発明に対する先行技術であると認めるものではない。
【0103】
別途明記しない限り、特許請求の範囲を含め、本明細書で用いられる成分、細胞培養物、処理条件等の量を表すすべての数値は、すべての事例において用語「約」により修飾されるものと理解される。したがって、別途異なって明記しない限り、数値パラメーターは近似であり、本発明により実現しようとする所望の特性に応じて変化し得る。別途明記しない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、当該一連の要素すべてに係るものと理解される。当業者は、日常的な実験法を超える方法を用いなくても、本明細書に記載する本発明の具体的な実施形態と等価な物を多数認識する、または確認することができる。そのような等価物は、下記の特許請求の範囲に含まれるように意図されている。
【0104】
当業者にとって明白であるように、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、多くの本発明の修正形態および変形形態が作成可能である。本明細書に記載する具体的な実施形態は、例としてのみ提供されており、決して限定するように意図するものではない。明細書および実施例は、例示に限定されるものとみなされることが意図されており、本発明の真の範囲および精神は下記の特許請求の範囲に明示されている。