(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固体電解質体からなる検出素子を有し、内燃機関の排気ガス中の酸素濃度に感応し、空燃比に対するセンサ出力が、理論空燃比を境にして、リッチ状態とリーン状態との間で急峻に変化する特性を有する酸素センサについて、この酸素センサの出力を処理するセンサ出力処理装置であって、
上記検出素子の電極間の電圧または上記電極間を流れる電流について一時的な変化を生じさせると共に、この変化に応答して生じる電圧または電流の応答変化量に基づいて、上記検出素子の内部抵抗を繰り返し検知する内部抵抗検知手段と、
上記内部抵抗を検知したときの空燃比が、上記リッチ状態のうち上記検出素子の劣化検知に用いる評価リッチ範囲内にあるか否かを、上記センサ出力に基づいて判別するリッチ範囲判別手段と、
上記内部抵抗を検知したときの空燃比が、上記リーン状態のうち上記検出素子の上記劣化検知に用いる評価リーン範囲内にあるか否かを、上記センサ出力に基づいて判別するリーン範囲判別手段と、
検知された上記内部抵抗のうち、上記リッチ範囲判別手段で上記空燃比が上記評価リッチ範囲内であると判別したときに検知された評価リッチ抵抗と、上記リーン範囲判別手段で上記空燃比が上記評価リーン範囲内であると判別したときに検知された評価リーン抵抗との差分に基づいて、上記検出素子の劣化を検知する劣化検知手段と、を備える
センサ出力処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、空燃比(空気過剰率λ)がリッチ状態(λ<1.0)であるかリーン状態(λ>1.0)であるかを検出する酸素センサにおいては、検知される内部抵抗の値が、空燃比の違い(ガス雰囲気)の影響を受けることが判ってきた。具体的には、リッチ状態のときに検知される内部抵抗の値は、リーン状態のときに検知される内部抵抗の値に比べて大きい。しかも、検出素子が使用等により劣化した場合には、内部抵抗が劣化前に比べて相対的に高くなることに加えて、リッチ状態のときに検知される内部抵抗の値とリーン状態のときに検知される内部抵抗の値との差も、劣化前に比べて大きくなることが判ってきた。
【0007】
本発明は、かかる知見を利用して、酸素センサの検出素子の劣化を適切に検知することができるセンサ出力処理装置、及び、これら酸素センサとセンサ出力処理装置とを備えるセンサシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その一態様は、固体電解質体からなる検出素子を有し、内燃機関の排気ガス中の酸素濃度に感応し、空燃比に対するセンサ出力が、理論空燃比を境にして、リッチ状態とリーン状態との間で急峻に変化する特性を有する酸素センサについて、この酸素センサの出力を処理するセンサ出力処理装置であって、上記検出素子の電極間の電圧または上記電極間を流れる電流について一時的な変化を生じさせると共に、この変化に応答して生じる電圧または電流の応答変化量に基づいて、上記検出素子の内部抵抗を繰り返し検知する内部抵抗検知手段と、上記内部抵抗を検知したときの空燃比が、上記リッチ状態のうち上記検出素子の劣化検知に用いる評価リッチ範囲内にあるか否かを、上記センサ出力に基づいて判別するリッチ範囲判別手段と、上記内部抵抗を検知したときの空燃比が、上記リーン状態のうち上記検出素子の上記劣化検知に用いる評価リーン範囲内にあるか否かを、上記センサ出力に基づいて判別するリーン範囲判別手段と、検知された上記内部抵抗のうち、
上記リッチ範囲判別手段で上記空燃比が上記評価リッチ範囲内である
と判別したときに検知された評価リッチ抵抗と、
上記リーン範囲判別手段で上記空燃比が上記評価リーン範囲内である
と判別したときに検知された評価リーン抵抗との差分に基づいて、上記検出素子の劣化を検知する劣化検知手段と、を備えるセンサ出力処理装置である。
【0009】
前述したように、酸素センサでは、検知される内部抵抗の値は、ガス雰囲気の影響を受ける。即ち、リッチ状態のときに検知される内部抵抗の値は、リーン状態のときに検知される内部抵抗の値に比べて大きい。また、検出素子が劣化した場合には、リッチ状態及びリーン状態で検知された内部抵抗の値は、劣化前に比べて共に大きな値となる。しかも、劣化前後で比較すると、リーン状態で検知された内部抵抗の増加分に比べて、リッチ状態で検知された内部抵抗の増加分の方が大きくなる。つまり、リッチ状態で検知された内部抵抗とリーン状態で検知された内部抵抗との差分を取ると、劣化後の差分は、劣化前の差分に比べて大きくなる。従って、この関係を利用すれば、上述の差分から、検出素子における劣化の有無や程度(度合い)を検知できることになる。
そこで、このセンサ出力処理装置では、上述の評価リッチ抵抗と評価リーン抵抗との差分に基づいて、酸素センサの検出素子の劣化を検知する劣化検知手段を備えている。かくして、これら評価リッチ抵抗と評価リーン抵抗との差分から、酸素センサの検出素子の劣化を検知することができる。
【0010】
なお、評価リッチ抵抗及び評価リーン抵抗として、各状態(リッチあるいはリーン)の違いが十分反映された値となるようにすべく、評価リッチ抵抗を検知する評価リッチ範囲としては、リッチ状態のうち、理論空燃比(空気過剰率λで表してλ=1.0)から十分離れた範囲(例えば、λ≦0.9)を設定するのが好ましい。同じく、評価リーン抵抗を検知する評価リーン範囲として、リーン状態のうち、理論空燃比から十分離れた範囲(例えば、λ≧1.1)を設定するのが好ましい。
【0011】
また、劣化の検知としては、前述のように、劣化の有無の検知や、劣化の度合いの検知が挙げられる。センサの劣化時に警告信号を出すなどの場合には、劣化の有無を検知すれば良い。一方、センサの使用にあたって、劣化の度合いに応じて、検出素子の内部抵抗の補正を行う場合やセンサ出力の補正を行う場合などでは、劣化の度合いを検知すると良い。
【0012】
また、内部抵抗を検知するにあたり、検出素子の電極間に生じさせる一時的な変化としては、電圧の変化あるいは電流の変化のいずれも採用できる。また、この変化に応答する応答変化量として、電圧あるいは電流のいずれを利用しても良く、内部抵抗の検知の手法及びその回路構成は、適宜選択することができる。
具体的には、例えば、検出素子の一方の電極を基準電位に接続し、他方の電極を基準抵抗器及びスイッチング素子を介して電源電圧に接続して、検出素子と基準抵抗器で抵抗分圧回路を構成する。そして、スイッチング素子をオフからオンとして検出素子の電極間を流れる電流に一時的な変化を生じさせる。このとき、検出素子に電流が流れると、検出素子の内部抵抗に応じた電圧降下が生じるので、この変化に応答して生じる電圧の応答変化量(電圧変化量)は、内部抵抗を反映したものになる。つまり、この応答変化量から、検出素子の内部抵抗を検知できる。なお、この他、検出素子の電極間に一時的に定電流を流すことにより、内部抵抗に電圧降下を生じさせて、電圧の応答変化量を取得する手法も挙げられる。
【0013】
さらに、上述のセンサ出力処理装置であって、前記評価リッチ範囲は、前記空燃比の範囲のうち、前記理論空燃比を含む除外範囲よりもリッチ側の範囲であり、前記評価リーン範囲は、上記除外範囲よりもリーン側の範囲であるセンサ出力処理装置とすると良い。
【0014】
理論空燃比(空気過剰率λ=1.0)を挟んで、評価リッチ範囲と評価リーン範囲とを近くに位置するように定めた場合には、取得した評価リッチ抵抗と評価リーン抵抗との差分、及びこの差分の劣化による変化が小さくなり、劣化の検知精度が低くなるおそれがある。
これに対し、このセンサ出力処理装置では、理論空燃比を含む除外範囲を設け、評価リッチ範囲を、この除外範囲よりもリッチ側の範囲とし、評価リーン範囲を、この除外範囲よりもリーン側の範囲として、両者を離して設定している。これにより、評価リッチ抵抗と評価リーン抵抗との差分、及び劣化に伴うこの差分の変化を大きくとれるので、これに基づいて検出素子の劣化をより適切に検知することができる。
【0015】
なお、除外範囲の設定にあたっては、酸素センサの特性を考慮して定めれば良いが、センサ出力が急峻に変化する空燃比の範囲を除外範囲に含めるように定めると良い。例えば、0.9<λ<1.1の範囲を除外範囲として、これにより、評価リッチ範囲をλ≦0.9となる範囲とし、評価リーン範囲をλ≧1.1となる範囲とするなど、評価リッチ範囲と評価リーン範囲とが、互いに理論空燃比から十分離れた範囲となるように設定するのが好ましい。
【0016】
さらに、上述のいずれかのセンサ出力処理装置であって、前記劣化検知手段は、前記評価リッチ抵抗と前記評価リーン抵抗との前記差分から、前記検出素子の劣化の度合いを示す劣化度を得る劣化度取得手段を含むセンサ出力処理装置とすると良い。
【0017】
このセンサ出力処理装置では、評価リッチ抵抗と評価リーン抵抗との差分から、検出素子の劣化度を得る。検出素子は、劣化が進行するほど、評価リッチ抵抗と評価リーン抵抗の差が大きくなる。従って、これらの差分を用いることで、検出素子の劣化の度合いを適切に得ることができる。
【0018】
さらに、上述のいずれかのセンサ出力処理装置であって、前記酸素センサは、前記検出素子を加熱するヒータを有し、検知した前記内部抵抗から、被制御内部抵抗を得る被制御抵抗取得手段と、上記被制御内部抵抗が目標抵抗値となるように、上記ヒータへの通電をフィードバック制御するヒータ通電制御手段と、を備え、上記被制御抵抗取得手段は、前記評価リッチ抵抗とこれと共に前記劣化検知に用いる評価リーン抵抗とを検知する劣化評価期間中は、予め定めた値を上記被制御内部抵抗とするセンサ出力処理装置とすると良い。
【0019】
前述したように、内部抵抗を検知する際の空燃比がリッチ状態であるかリーン状態であるかによって、得られる内部抵抗が変動する。このため、この内部抵抗を被制御内部抵抗としてヒータの通電制御をすると、空燃比の状態(リッチ、リーン)変動の影響を受けて通電制御が変動するので、評価リッチ抵抗及び評価リーン抵抗を検知するのにあたり、好ましくない。これに対し、このセンサ出力処理装置では、劣化評価期間中は、予め定めた値を被制御内部抵抗として、酸素センサのヒータへの通電を制御する。つまり、劣化評価期間中は、空燃比の変動に影響されることなく、予め定めた一定の被制御内部抵抗を用いてヒータへの通電を制御することができる。従って、ヒータの通電状態を揃えて、評価リッチ抵抗及び評価リーン抵抗を検知することができ、検出素子の劣化をさらに適切に検知することができる。
【0020】
さらに、上述のセンサ出力処理装置であって、前記被制御抵抗取得手段は、前記劣化評価期間の開始直前に得られた前記内部抵抗の値を、上記劣化評価期間中の前記被制御内部抵抗の値とするセンサ出力処理装置とすると良い。
【0021】
このセンサ出力処理装置では、劣化評価期間の開始直前に得られた内部抵抗の値を、劣化評価期間中の被制御内部抵抗の値として、ヒータへの通電を制御する。これにより、劣化評価期間への移行にあたり、ヒータへの通電制御の状態が急変しないので、劣化評価期間中、検出素子の素子温度を安定させることができる。このため、評価リッチ抵抗及び評価リーン抵抗を安定して検知することができ、検出素子の劣化を適切に検知することができる。
【0022】
さらに、上述のセンサ出力処理装置であって、前記劣化検知手段は、前記評価リッチ抵抗と前記評価リーン抵抗との前記差分から、前記検出素子の劣化の度合いを示す劣化度を得る劣化度取得手段を含み、上記劣化度に基づき、前記ヒータ通電制御手段で用いる前記被制御内部抵抗または前記目標抵抗値のいずれかを補正する補正手段を備えるセンサ出力処理装置とすると良い。
【0023】
このセンサ出力処理装置では、検出素子の劣化度に基づいて、被制御内部抵抗または目標抵抗値のいずれかを適正な値に補正するので、検出素子の劣化の影響を抑えて、ヒータへの通電を適切にフィードバック制御することができる。これにより、素子温度を所望の活性化温度に適切に保つことができる。また、検出素子が劣化したために過加熱となり、劣化がさらに促進されるのを防止することもできる。
【0024】
また、他の態様は、前述のいずれかのセンサ出力処理装置と、前記酸素センサとを備えるセンサシステムである。
【0025】
このセンサシステムは、酸素センサの検出素子の劣化に応じて適切な処理を行うことができ、適切な出力を外部装置(例えば、ECU)に向けて送出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、酸素センサ2と、この酸素センサ2に接続されたセンサ出力処理装置である酸素センサ制御装置1とを備えるセンサシステム100の概略構成を示す図である。このセンサシステム100は、図示しない内燃機関を備える車両(図示しない)に搭載される。そして、酸素センサ制御装置1は、これに接続された酸素センサ2を制御すると共に、内燃機関の排気ガス中の酸素濃度に感応する酸素センサ2の出力を処理する。これにより、内燃機関における燃焼が、理論空燃比よりもリッチ側であったかリーン側であったかを検出する。そして、このセンサシステム100(酸素センサ制御装置1)では、検出した酸素センサ2の出力を外部接続バス101を介して、外部装置(例えば、ECU)に向けて送出する。
【0028】
このうち、酸素センサ2は、ジルコニアを主体とした酸素イオン伝導体である固体電解質体に一対の電極3P,3Nを形成した検出素子3と、この検出素子3を加熱するヒータ4を有している。より具体的には、有底筒状をなした固体電解質体からなる検出素子3の外周面に形成した一方の電極3Nは排気ガスに晒され、内周面に形成した他方の電極3Pは基準ガス(大気)に晒されている。そして、検出素子3の有底筒状の内部空間には、棒状のヒータ4を内挿して酸素センサ2が構成されている。この固体電解質体からなる検出素子3は、活性化状態となる600℃を越える活性化温度に、ヒータ4で加熱されることで、良好な酸素イオン伝導性を示し、電極3P,3N間に、酸素濃度に応じた起電力を生じて、センサ出力Voutを出力する。加えて、この酸素センサ2では、酸素センサ制御装置1により、検出素子3が活性化温度内の一定温度を維持するように、ヒータ4への通電が制御される。ヒータ4は、タングステンあるいは白金を主体とした発熱抵抗体5を有し、後述する酸素センサ制御装置1のヒータ制御回路14に接続されている。
なお、酸素センサ2は、検出素子3が活性化温度とされたときに、センサ出力Vout(起電力)が、理論空燃比(空気過剰率λ=1.0)を境にして、リッチ状態(λ<1.0)とリーン状態(λ>1.0)との間で二値的に急峻に変化する特性を有する。具体的には、
図2に示すように、センサ出力Voutは、十分リーンの状態(例えば、λ>1.1)では約0.05V、十分リッチの状態(例えば、λ<0.9)では約0.9Vを示し、理論空燃比付近(λ=1.0付近、例えば、0.98≦λ≦1.02)で急峻に変化する。
【0029】
検出素子3は、内部抵抗Riを有しており、その抵抗値は、検出素子3の温度が上昇すると低下する特性を有する。即ち、この内部抵抗Riと検出素子3の素子温度との間には、所定の負の相関関係があるので、内部抵抗Riが目標抵抗値となるように制御することにより、素子温度を所定の温度に維持することができる。
【0030】
また、検出素子3は、前述のように、活性化温度において酸素イオン伝導性を示して酸素濃淡電池となり、電極3Nと電極3Pとの間の酸素濃度差に応じた起電力EVを発生する。このため、検出素子3の等価回路は、
図1に示すように、電極3P,3N間に、起電力EVの電池(酸素濃淡電池)と内部抵抗Riとが直列接続された回路となる。
【0031】
次いで、酸素センサ制御装置1について説明する。酸素センサ制御装置1は、
図1に示すように、処理プログラムを実行するマイクロプロセッサ10を中心に構成され、この他に、パルス信号出力回路11、電圧シフト回路12、出力検出回路13、及びヒータ制御回路14を有する。
ヒータ制御回路14は、マイクロプロセッサ10のPWM出力ポート17に接続されており、酸素センサ2のヒータ4は、このヒータ制御回路14によって、PWM制御による通電が行われ、これにより、酸素センサ2の検出素子3が加熱される。検出素子3を活性化温度内の一定温度に維持するにあたり、マイクロプロセッサ10によるPID制御またはPI制御で、PWM制御に用いるパルスのデューティ比が決定される。
【0032】
検出素子3の電極3P,3Nは、出力検出回路13に接続しており、この出力検出回路13は、起電力EVをセンサ出力Voutとして検知して、マイクロプロセッサ10のA/D入力ポート16に入力する。なお、検出素子3の電極3P,3Nのうち、一方の電極3Nは、出力検出回路13の基準電位(GND)に接続されており、他方の電極3Pは、電極3Nよりも正の高電位となる。
【0033】
また、検出素子3の電極3Pには、出力検出回路13の他に、電極3Pを基準抵抗器R1及びスイッチング素子Trを介して電源電圧Vccに接続する電圧シフト回路12が接続している。この電圧シフト回路12のスイッチング素子Trには、パルス信号出力回路11が接続している。このパルス信号出力回路11は、マイクロプロセッサ10のI/Oポート15に接続されており、マイクロプロセッサ10からの指令により、電圧シフト回路12を駆動して、検出素子3の電極3P,3N間を流れる電流に一時的な変化を生じさせる。具体的には、電圧シフト回路12のスイッチング素子Trをオンすることにより、電源電圧Vccから、基準抵抗器R1及び検出素子3に電流を流し、検出素子3の電極3P,3N間のセンサ出力Voutを、検出素子3の内部抵抗Riに生じる電圧降下に応じて変化させる。
これにより、電圧シフト回路12のスイッチング素子Trをオンする前のセンサ出力Voutと、電圧シフト回路12のスイッチング素子Trをオンした後のセンサ出力Voutとの差分、即ち、電圧の応答変化量から、内部抵抗Riによる電圧降下を算出して、検出素子3の内部抵抗Riを検知することができる。
【0034】
ところで、このようにして検知した内部抵抗Riの値は、空燃比の違い(ガス雰囲気)の影響を受け、リッチ状態のときに検知される内部抵抗Riの値(以下、リッチ抵抗Rrという)は、リーン状態のときに検知される内部抵抗Riの値(以下、リーン抵抗Rlという)に比べて大きい。また、検出素子3が劣化した場合には、これに伴って、リッチ抵抗Rrもリーン抵抗Rlも共に大きな値となる。
図3は、素子温度を700℃一定とした場合に、酸素センサ2の使用時間とリッチ状態(λ=0.9の場合)及びリーン状態(λ=1.1の場合)における内部抵抗Riの関係を示すグラフである。この
図3に示すように、検出素子3の使用時間の経過、即ち、検出素子3の劣化に伴って、リッチ抵抗Rrもリーン抵抗Rlも大きくなるが、リーン抵抗Rlの増加分に比べて、リッチ抵抗Rrの増加分の方が大きい。このため、劣化前のセンサ(
図3中のNEW品)のリッチ抵抗Rrとリーン抵抗Rlとの差分値ΔR
1と、劣化後のセンサ(
図3中の劣化品)のリッチ抵抗Rrとリーン抵抗Rlとの差分値ΔR
2を比べると、劣化品の差分値ΔR
2の方が大きくなる。従って、この関係を利用すれば、リッチ抵抗Rrとリーン抵抗Rlとの差分に基づいて、検出素子3の劣化を検知できる。なお、
図3では、リッチ状態のうちλ=0.9の場合のリッチ抵抗Rrと、リーン状態のうちλ=1.1の場合のリーン抵抗Rlとを示した。
【0035】
但し、本実施形態では、リッチ状態のうち、検出素子3の劣化検知に用いる範囲を評価リッチ範囲とし、空燃比がこの評価リッチ範囲内である時点で検知された内部抵抗Ri(リッチ抵抗Rr)を評価リッチ抵抗Rreとしている。また、リーン状態のうち、検出素子3の劣化検知に用いる範囲を評価リーン範囲とし、空燃比がこの評価リーン範囲内である時点で検知された内部抵抗Ri(リーン抵抗Rl)を評価リーン抵抗Rleとしている。そして、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分値ΔR(=Rre−Rle)から、検出素子3の劣化を検知する。
【0036】
なお、評価リッチ範囲及び評価リーン範囲の範囲を定めるにあたり、理論空燃比を挟んで、両者を近くに位置するように定めた場合には、前述したように、差分値ΔR及び劣化に伴う差分値ΔRの変化が小さくなり、劣化の検知精度を高くできない。そこで、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、理論空燃比を含む0.9<λ<1.1の範囲を除外範囲とし、この除外範囲よりもリッチ側のλ≦0.9となる範囲(センサ出力Vout≧0.8の範囲)を評価リッチ範囲とし、この除外範囲よりもリーン側のλ≧1.1となる範囲(センサ出力Vout≦0.15Vの範囲)を評価リーン範囲として、両者を離して設定している。
【0037】
このようにして得られた評価リッチ抵抗Rre及び評価リーン抵抗Rleの時間的推移も、概略
図3と同様になる。即ち、評価リッチ抵抗Rreは、評価リーン抵抗Rleに比べて大きい。また、検出素子3の劣化と共に、評価リッチ抵抗Rre及び評価リーン抵抗Rleのいずれも大きくなり、しかも、評価リーン抵抗Rleの増加分に比べて、評価リッチ抵抗Rreの増加分が大きい。
そこで、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分値ΔR(=Rre−Rle)を用いて検出素子3の劣化を検知する。
また、検出素子3の劣化が進行するほど、差分値ΔRが大きくなるので、差分値ΔRから、劣化の度合いを示す劣化度IDを得ている(本実施形態では、ID=ΔR)。
【0038】
また、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、評価リッチ抵抗Rre及びこれと共に劣化検知に用いる評価リーン抵抗Rleを検知するにあたり、この評価リッチ抵抗Rre及び評価リーン抵抗Rleを検知する劣化評価期間TD中に、ヒータ制御回路14によってヒータ4への通電をフィードバック制御する際の被制御内部抵抗Rfを予め定めた一定の値としている。具体的には、劣化評価期間TDの開始直前に得た内部抵抗Riの値を、劣化評価期間TD中の被制御内部抵抗Rfとして用い、劣化評価期間TD中は、この被制御内部抵抗Rfの値を更新しない。前述したように、検知される内部抵抗Riの値は、同じ素子温度でも、リッチ状態とリーン状態とで異なる値に測定されるため、劣化評価期間TD中は、空燃比の変動に影響されることなく、一定の被制御内部抵抗Rfを用いてヒータ4への通電制御するためである。また、被制御内部抵抗Rfの値に、劣化評価期間TDの開始直前に得た値を用いているので、劣化評価期間TDへの移行にあたり、ヒータ4への通電制御の状態が急変しない。
また、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、ヒータ4への通電をフィードバック制御する際に、劣化度IDに基づいて目標抵抗値RTを補正している。これにより、ヒータ4への通電制御を劣化度IDに応じて、適切にフィードバック制御することができ、素子温度を所望の活性化温度に適切に保つことができる。また、劣化状態における過加熱により、劣化がさらに促進されるのを防止することもできる。
【0039】
次いで、本実施形態1に係る酸素センサ制御装置1のうち、マイクロプロセッサ10の動作について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
図4に示す制御プログラムは、マイクロプロセッサ10が実行するメインルーチンからの呼び出しで実行されるプログラムであり、劣化検知処理の他に、センサ出力Voutの取得、内部抵抗Riの検知、ヒータ4の通電制御等を含んでいる。
【0040】
先ず、ステップS1では、酸素センサ2のセンサ出力Voutを10msec毎に取得する。
図2に示すように、センサ出力Voutは、空気過剰率λと一定の関係を有しており、このセンサ出力Voutによって、空燃比の制御がなされる。
【0041】
次いで、ステップS2では、内部抵抗Riの検知タイミングであるか否かを判断する。内部抵抗Riの検知は、センサ出力Voutの取得周期(10msec)よりも長い周期(500msec)で行うため、ステップS2でこの検知タイミングの到来を判断する。そして、検知タイミングでない場合(No)は、ステップS16に進み、ヒータ4の通電制御を行う。なお、内部抵抗Riの検知が一度もなされずに、ステップS16に移行した場合には、マイクロプロセッサ10に記憶されているデフォルト値を被制御内部抵抗Rfとしてヒータ4の通電制御を行う。一方、検知タイミングが到来した場合(Yes)は、ステップS3に進む。
ステップS3では、パルス信号出力回路11、電圧シフト回路12及び出力検出回路13を用いて、検出素子3の内部抵抗Riを取得する。
【0042】
次いで、ステップS4では、カウント値Cとしきい回数Mとを比較し(C>M?)、劣化検知処理を行うか否かを判断する。ここで、しきい回数Mは1以上の自然数である。また、カウント値Cは初期値が0の変数であり、後述するステップS15で+1ずつカウントアップされる。
【0043】
ステップS4でNoのとき、即ち、C≦Mのときは、劣化検知処理を行わず、ステップS5に進む。ステップS5では、ステップS3で取得した内部抵抗Riにより、被制御内部抵抗Rfの値を更新する(Rf=Ri)。その後、ステップS15に進み、カウント値Cを+1した後、ステップS16で、更新された被制御内部抵抗Rfを用いてヒータ制御を行う。
【0044】
一方、C>Mとなって、ステップS4でYesと判定されると、劣化検知処理を行うため、ステップS6に進む。この場合、ステップS5での被制御内部抵抗Rfの更新が行われなくなる。つまり、劣化検知処理を行う場合には、被制御内部抵抗Rfの値は、この劣化検知処理を行う期間(劣化評価期間TD)の開始直前の値に保持される。
そして、ステップS6では、内部抵抗Riを検知したタイミング(ステップS3)における空燃比(空気過剰率λ)が、リーン状態のうち評価リーン範囲内にあるか否かを、センサ出力Voutの大きさにより判断する。具体的には、センサ出力Voutが0.15Vよりも小さい場合(Yes)には、空燃比が評価リーン範囲内であると判定し、ステップS8に進む。一方、それ以外の場合(No)は、ステップS7に進む。ステップS7では、さらに内部抵抗Riを検知したタイミングにおける空燃比が、リッチ状態のうち評価リッチ範囲内にあるか否かを、センサ出力Voutの大きさにより判断する。具体的には、センサ出力Voutが0.8Vよりも大きい場合(Yes)には、空燃比が評価リッチ範囲内であると判定し、ステップS9に進む。それ以外の場合(No)は、ステップS14に進む。
【0045】
ステップS8では、ステップS3で取得した内部抵抗Riを、検出素子3の劣化検知に用いる評価リーン抵抗Rleとして記憶する(Rle=Ri)。一方、ステップS9では、ステップS3で取得した内部抵抗Riを、検出素子3の劣化検知に用いる評価リッチ抵抗Rreとして記憶する(Rre=Ri)。そして、ステップS8またはステップS9の後は、ステップS10に進み、評価リーン抵抗Rle及び評価リッチ抵抗Rreの両者が取得済みであるか否かを判断する。評価リーン抵抗Rle及び評価リッチ抵抗Rreの両者が取得済みである場合(Yes)は、ステップS11に進む。一方、評価リーン抵抗Rle及び評価リッチ抵抗Rreの両者が取得されていない場合(No)は、ステップS14に進む。
【0046】
ステップS11では、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分値ΔR=Rre−Rleから劣化度IDを取得する。なお、本実施形態では差分値ΔRをそのまま劣化度IDとする(ID=ΔR)。続くステップS12では、マップを参照して、劣化度IDに対応する補正値を得、これを用いて目標抵抗値RTを補正する。次に、ステップS13に進み、カウント値Cをリセット(C=0)した後、ステップS15に進む。これにより、次回からステップS4でNoと判断され、劣化検知処理、及び、劣化評価期間TDが終了する。また、次回からステップS16では、補正された目標抵抗値RTを用いてヒータ制御が行われる。
【0047】
一方、ステップS7でNo、または、ステップS10でNoとなり、ステップS14に進むと、検知回数を表すカウント値Cとしきい回数Mとの差(C−M)と上限値Nとを比較する(C−M>N?)。ここで、上限値Nは2以上の自然数である。ステップS14でYes(C−M>N)、即ち、検知回数(C−M)が上限値Nに到達するまでに、評価リーン抵抗Rle及び評価リッチ抵抗Rreの両者が得られなければ、ステップS13に進み、カウント値Cをリセット(C=0)した後、ステップS15に進む。これにより、次回からステップS4でNoと判断され、劣化検知処理、及び、劣化評価期間TDを打ち切りにより終了する。一方、ステップS14でNo(C−M≦N)、即ち、検知回数(C−M)が上限値N以下であれば、そのままステップS15に進む。これにより、次回以降もステップS4でYesと判断され、評価リーン抵抗Rle及び評価リッチ抵抗Rreの両者が取得されるまで、劣化検知処理、及び、劣化評価期間TDが継続される。
【0048】
ステップS15では、カウント値Cを+1する。その後、ステップS16に進み、ヒータ制御を行って、メインルーチンに戻る。
【0049】
本実施形態において、パルス信号出力回路11、電圧シフト回路12、出力検出回路13及びステップS3を実行しているマイクロプロセッサ10が、内部抵抗検知手段に相当する。また、ヒータ制御回路14及びステップS16を実行しているマイクロプロセッサ10が、ヒータ通電制御手段に相当する。また、ステップS5を実行しているマイクロプロセッサ10が、被制御抵抗取得手段に相当し、ステップS12を実行しているマイクロプロセッサ10が、補正手段に相当する。
さらに、ステップS6を実行しているマイクロプロセッサ10が、リーン範囲判別手段に相当し、ステップS7を実行しているマイクロプロセッサ10が、リッチ範囲判別手段に相当する。また、ステップS11を実行しているマイクロプロセッサ10が、劣化検知手段及び劣化度取得手段に相当する。
【0050】
以上で説明したように、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分に基づいて、検出素子3の劣化を検知する劣化検知手段を備える。
検出素子3が劣化した場合には、評価リッチ抵抗Rre及び評価リーン抵抗Rleのいずれも大きくなり、しかも、劣化前後で比較すると、評価リーン抵抗Rleの増加分に比べて、評価リッチ抵抗Rreの増加分の方が大きくなる。このため、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分値ΔR=Rre−Rleは、劣化後の方が劣化前に比べて大きくなる。そこで、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、この関係を利用し、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分値ΔRを用いることで、検出素子3の劣化を検知することができる。
【0051】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、理論空燃比を含む0.9<λ<1.1の範囲を除外範囲とし、評価リッチ範囲を、この除外範囲よりもリッチ側のλ≦0.9となる範囲とし、評価リーン範囲を、この除外範囲よりもリーン側のλ≧1.1となる範囲として、両者を離して設定している。これにより、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分値ΔR、及び劣化に伴うこの差分値ΔRの変化を大きくとれるので、これに基づいて検出素子3の劣化を適切に検知することができる。
【0052】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分値ΔRから、検出素子3の劣化度ID(=ΔR)を得ている。検出素子3は、劣化が進行するほど、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleの差が大きくなる。従って、差分値ΔRを用いることで、検出素子3の劣化の度合いを適切に得ることができる。
【0053】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、劣化評価期間TDの開始直前に得られた内部抵抗Riの値を、劣化評価期間TD中の被制御内部抵抗Rfの値として、ヒータ4への通電を制御している。これにより、内部抵抗Riを検知する際の空燃比がリッチ状態とリーン状態とで異なっているために、得られる内部抵抗Riが変動しても、劣化評価期間TD中は、空燃比の変動に影響されることなく、予め定めた一定の被制御内部抵抗Rfを用いてヒータ4への通電を制御することができる。また、劣化評価期間TDへの移行にあたり、ヒータ4への通電制御の状態が急変しないので、劣化評価期間TD中、検出素子3の素子温度を安定させることができる。このため、評価リッチ抵抗Rre及び評価リーン抵抗Rleを安定して検知することができ、検出素子3の劣化をさらに適切に検知することができる。
【0054】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、検出素子3の劣化度IDに基づいて、目標抵抗値RTを適正な値に補正して、ヒータ4への通電制御を適切に制御することができる。これにより、素子温度を所望の活性化温度に適切に保つことができる。また、劣化状態における過加熱により、劣化がさらに促進されるのを防止することもできる。
【0055】
また、本実施形態では、酸素センサ制御装置1と酸素センサ2とでセンサシステム100を構成している。
このセンサシステム100は、酸素センサ2の検出素子3の劣化に応じて適切な処理を行うことができ、適切な出力をECUなどの外部装置に向けて送出することができる。
【0056】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【0057】
例えば、実施形態では、取得した劣化度ID(=ΔR)に基づいて目標抵抗値RTを補正する構成としたが、目標抵抗値RTを補正する代わりに、検知した内部抵抗Riから得た被制御内部抵抗Rfを補正する構成としても良い。
また、酸素センサ2の劣化時に警告信号を出す場合などでは、劣化度IDを得る代わりに、評価リッチ抵抗Rreと評価リーン抵抗Rleとの差分ΔRから、劣化を有無を検知する構成としても良い。
【0058】
また、実施形態では、内部抵抗Riを検知するにあたり、パルス信号出力回路11及び電圧シフト回路12(
図1参照)を用いて、検出素子3の電極3P,3N間を流れる電流を一時的に変化させて、この変化に応答する電圧の応答変化量ΔVを取得する構成とした。しかし、内部抵抗Riの検知の手法及びその回路構成を適宜変更することにより、検出素子3の電極間3P,3N間の電圧を一時的に変化させて、この変化に応答する電流の応答変化量を取得する構成とすることもできる。
【0059】
また、実施形態では、酸素センサ2と酸素センサ制御装置1とを備えるセンサシステム100として、酸素センサ制御装置1(センサ出力処理装置)が、ECUから独立している構成を例示した。しかし、ECUが実施形態の酸素センサ制御装置1(センサ出力処理装置)を兼ねる形態、即ち、酸素センサ制御装置1(センサ出力処理装置)がECUに含まれる構成としても良い。