(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1乃至6のいずれかに記載のモールドピンが設けられた前記トレッドモールドを用いてトレッド部を加硫成形する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【背景技術】
【0002】
氷上性能を向上させるため、トレッド部にスタッドが装着された空気入りタイヤ(スタッドタイヤ)が、例えば下記特許文献1により、提案されている。このような空気入りタイヤは、トレッド部にスタッドの一部が埋設されるスタッド装着用孔を具える。また、スタッド装着用孔は、加硫成形時、トレッド部を加硫成形するトレッドモールドに設けられたモールドピンによって成形される。
【0003】
【特許文献1】特開2010−149599号公報
【0004】
図7(a)及び(b)は、加硫成形中及び加硫成形後のトレッドモールドの部分断面図である。
図7(a)に示されるように、モールドピンaの一端側は、トレッドモールドbに固着されている。モールドピンaは、軸状にのびる本体部eと、該本体部eよりも外径の大きい膨らみ部fとを含む。このモールドピンaは、加硫成形時、トレッド部cに埋入される。
【0005】
図7(b)に示されるように、加硫成形が終わると、モールドピンaは、トレッドモールドbとともにタイヤから離される(以下、「離型」ということがある。)。タイヤのトレッド部cには、モールドピンaの反転形状をなすスタッド装着用孔dが成形される。スタッド装着用孔dは、本体部eで成形された等径部hと、そのタイヤ半径方向内側に形成されかつ内径が大きい拡径部gとを有する。
【0006】
図8(a)は、スタッドiの斜視図であり、
図8(b)は、該スタッドiがスタッド装着用孔dに装着された断面図である。
図8(a)に示されるように、スタッドiは、ほぼ一定の外径を有する本体kと、その一端側に形成されたフランジjとを有する。また、
図8(b)に示されるように、このフランジjは、拡径部gに差し込まれて抜け止めされ、スタッド装着用孔dに保持される。
【0007】
タイヤからのスタッドiの抜けを防ぐためには、スタッド装着用孔dの拡径部gの内径と本体部hの内径との差を大きくするのが望ましい。換言すれば、
図7(b)に示したように、モールドピンaについては、膨らみ部fの外径r1と、本体部eの外径r2との外径差を大きくすることが望まれる。しかし、この外径差が大きくなると、加硫成形後、モールドピンaをトレッド部cから引き抜くのが困難となる。また、離型時、スタッド装着用孔d周辺に亀裂が生じるおそれがあった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、加硫成形時の空気入りタイヤ2及びタイヤモールド4の断面図である。
図1に示されるように、本実施形態のモールドピン1は、空気入りタイヤ2のトレッド部3を加硫成形するトレッドモールド4に設けられて用いられる。また、本実施形態のモールドピン1は、加硫成形時、トレッド部3に埋入され、その反転形状のスタッド装着用孔5を成形する。
【0021】
図2は、本実施形態のモールドピン1の斜視図であり、
図3はその分解斜視図である。
図2及び
図3に示されるように、本実施形態のモールドピン1は、本体部6と、該本体部6の一端側Aに形成されかつトレッドモールド4(
図1に示す)に固着される固着部7と、本体部6の他端側Bに設けられた膨らみ部8とが形成される。
【0022】
本体部6は、モールドピン1がトレッドモールド4に固着されたとき、トレッドモールド4の成形面に対してほぼ垂直に軸状にのびる。また、本体部6は、軸方向と垂直な断面(以下、「径方向断面」ということがある。)において、例えば、円形の断面形状を有する。本体部6の断面の形状は、タイヤに装着されるスタッドの形状により種々選択され、例えば、楕円形状、正多角形状等も採用されうる。なお、本明細書中、「軸方向」とは、
図2に示されたY方向を意味し、モールドピン1の中心軸1aと平行な方向を意味する。また、「径方向」とは、例えば、
図2に示されたX方向を意味し、モールドピンの中心軸1aと直交する方向を意味する。
【0023】
本体部6は、略等しい外径でのびる主部6bを含む。これにより、スタッド装着用孔に等径部が成形される。また、本体部6は、主部6bの固着部7側には、外径が固着部7側に向かって漸増する拡径部9が設けられている。このような拡径部9は、本体部6と固着部7との接続部の強度を向上させ、モールドピン1の耐久性を向上させる。
【0024】
固着部7は、本体部6の拡径部9と連なり、かつ、本体部6及び拡径部9よりも外径の大きい円柱状である。固着部7は、本体部6と一体形成されるのが望ましい。固着部7は、たとえば、ネジ軸部(図示せず)として形成され、トレッドモールド4に設けられたネジ穴に固着される。
【0025】
膨らみ部8は、本体部6の他端側Bに設けられる。膨らみ部8の外径D2は、本体部6(主部6b)の外径D1よりも大きい。このような膨らみ部8は、スタッド装着用孔5の底部に、径のより大きい拡径部を形成する。
【0026】
図3に示されるように、膨らみ部8は、本体部6に一体形成された芯部10、該芯部10の外周面側に配された殻部11、及び、芯部10と殻部11とを接着する接着部12を含む。
【0027】
芯部10は、本体部6の他端側Bに一体形成されている。芯部10は、例えば、略球状に形成される。芯部10の中心軸1aと直交する径方向断面における最大外径部26は、本体部6の外径よりも大きいのが望ましい。
【0028】
芯部10の軸方向の他端側Bの外端部10oには、凹部14が設けられる。凹部14は、深さを有し、例えば、中心軸1aを中心とした円形状の凹部として形成されている。凹部14には、接着部12が配され、該接着部12によって、芯部10と殻部11とが固着される。
【0029】
図2及び
図3に示されるように、殻部11は、椀状に構成され、芯部10の他端側Bの外周面に接してこれを包むように配される。殻部11は、芯部10の略半分を覆い、膨らみ部8の最大外径部20を構成する。
図4に示されるように、軸方向の他端側Bから見た最大外径部20は、円形に形成される。
【0030】
図3に示されるように、殻部11は、複数個に分割された殻部片15からなるのが望ましい。本実施形態の殻部11は、同一形状の4個の殻部片15で構成される。殻部片15は、殻部11を、中心軸1aを含む平面で切断して形成される。
図4に示されるように、殻部片15の軸方向の他端側からみた見た形状は、中心軸1aを中心とした略扇形である。
【0031】
各殻部片15の径方向内側の端縁21は、接着部12により、芯部10の外端部10oに接着される。
【0032】
図2及び
図3に示されるように、接着部12は、モールドピン1の凹部14に固着される。また、接着部12は、芯部10の外端部10oと、殻部片15の径方向内側の端縁21とを固着している。これにより、殻部片15は、接着部12にて片持ち状に固着されている。
【0033】
本実施形態の接着部12は、特に限定されないが、柔軟性を有しかつ大きく変形可能な樹脂、例えば、シリコン樹脂からなる。
【0034】
このような殻部11を有するモールドピン1は、
図5(a)に示されるように、他端側Bから一端側Aに向かう力F1を受けるとき、即ち、加硫成形時、モールドピン1がトレッド部に埋入されていくとき、殻部11と芯部10とが密着した状態となる。このため、
図2及び
図6に示されるように、モールドピン1は、トレッド部のゴム中に、殻部11が膨らみ部8の最大外径部20を構成している状態(以下、「加硫成形状態」ということがある。)で配される。
【0035】
一方、
図5(b)に示されるように、加硫成形後、モールドピン1がトレッド部から引き抜かれるとき、殻部11は、一端側Aから他端側Bに向かう力F2を受ける。この力F2により、殻部11は、接着部12を支点として転回し、最大外径部20が縮径する向きに移動する。即ち、膨らみ部8の最大外径部20を構成していた殻部片15の端縁27は、加硫成形状態での位置よりも、径方向内側に移動する。従って、モールドピン1は、トレッド部から容易に引き抜かれ、離型性が向上する。このため、スタッド装着用孔5周辺の亀裂の発生も抑制される。
【0036】
上記離型時、殻部片15の端縁27は、より好ましくは、芯部10の最大外径部26をモールドピン1の軸方向に投影した仮想円筒29の半径方向内側まで移動するのが望ましい。即ち、殻部片15が移動した状態での端縁27、27間の径方向の距離L1が、芯部10の最大外径D3よりも小さいのが望ましい。これにより、大きな外径の拡径部を形成しつつ、さらに効果的に離型性が向上し、かつ亀裂の発生が抑制される。
【0037】
従って、
図1に示されるように、本実施形態のモールドピン1が設けられたトレッドモールド4を用いてトレッド部3を加硫成形することにより、スタッド装着用孔の拡径部の径をより大きくすることができる。このため、スタッドが脱落するおそれが小さくなる。これにより、トレッド部3に、ゴム硬度(JISデュロメータA硬さ)がより小さいゴムを採用することができ、氷路及び雪路でのグリップ性能を向上させた空気入りタイヤが製造されうる。
【0038】
上述の効果をより一層発揮させるため、
図6に示されるように、膨らみ部8の最大外径D2と、本体部6の外径D1との比D2/D1は、好ましくは1.2〜3.0であり、より好ましくは1.7〜2.5である。比D2/D1は、小さくなると、スタッド埋設用孔の等径部と拡径部との内径差が小さくなり、スタッドの抜けが抑制されないおそれがある。逆に、比D2/D1が大きくなると、離型性が悪化するおそれがある。また、膨らみ部8の最大外径部20と本体部6との半径差ΔR2は、例えば、0.35〜2.0mmに設定される。
【0039】
芯部10の最大外径D3と、本体部6の外径D1との比D3/D1は、小さくなると、スタッド埋設用孔の等径部と拡径部との内径差が小さくなり、スタッドが抜け易くなる。逆に、比D3/D1が大きくなると、モールドピン1が引き抜かれるとき、孔に亀裂が生じるおそれがある。このため、比D3/D1は、好ましくは1.0〜1.5であり、より好ましくは1.2〜1.3である。さらに、本体部6と芯部10との半径差ΔR1は、例えば、0.3〜1.5mmである。また、芯部10の最大外径D3は、特に限定されないが、例えば、3.0〜9.0mmに設定される。
【0040】
本体部6と芯部10の接合位置25において、本体部6の外周面と芯部10の外周面とがなす角度θ1は、好ましくは90〜150°、より好ましくは110〜130°である。角度θ1が小さい場合、離型性が悪化するおそれがある。逆に、角度θ1が大きい場合、スタッドが抜け易くなるおそれがある。
【0041】
殻部片15は、加硫成形状態において、トレッド部3のゴムと接する外側面16と、芯部10に接する内側面17とを含む。また、外側面16は、膨らみ部8の最大外径部20よりも軸方向の一端側Aに配された上部面18、及び、最大外径部20よりも軸方向の他端側Bに配された下部面19を含む。
【0042】
また、殻部片15の上部面18は、その断面形状が、加硫成形状態において、径方向内側から外側に向かってモールドピン1の軸方向の一端側Aから他端側Bに傾斜しているのが望ましい。即ち、上部面18の径方向内側の端縁18iが、径方向外側の端縁18oよりも、軸方向の一端側Aに位置するのが望ましい。このような上部面18は、加硫成形後、モールドピン1がトレッド部から引き抜かれる際、殻部片15を、効果的に最大外径部から縮径する向きに移動させる。
【0043】
上部面18の径方向内側の端縁18iは、芯部10の最大外径部26よりも、軸方向一端側Aに配されるのが望ましい。これにより、内側面17と芯部10との接触面積が増加し、加硫成形状態での膨らみ部8の形状が安定する。また、端縁18iと芯部10の最大外径部26とが離間し過ぎると、モールドピン引き抜き時、殻部片
15が移動し難くなるおそれがある。このため、端縁18iが接する位置での芯部10の外径D4は、芯部10の最大外径D3の0.95倍以上が望ましい。
【0044】
上部面18の径方向外側の端縁18oは、芯部10の最大外径部26よりも軸方向一端側Aに設けられるのが望ましい。これにより、殻部片15の耐久性を維持しつつ、殻部片15の径方向の寸法を大きくすることができる。
【0045】
殻部片15の下部面19は、その断面形状が、他端側Bに凸となって滑らかに湾曲する円弧状であるのが望ましい。これにより、スタッド装着用孔の底部の断面形状が円弧状となり、スタッド装着用孔周辺の亀裂の発生が抑制される。
【0046】
殻部片15の内側面17は、芯部10の外周面の反転形状であるのが望ましい。これにより、芯部10の外周面と殻部片15の内面が密着し、加硫成形状態での膨らみ部8の形状が安定する。
【0047】
膨らみ部8の最大外径部20から殻部片15の径方向内側の端縁21までの軸方向の長さh2(以下、「下部面高さ」ということがある。)と、本体部6と芯部10の接合位置25から、殻部片15の端縁21までの軸方向の長さh1(以下、「芯部高さ」ということがある。)との比h2/h1は、好ましくは0.3〜1.0、より好ましくは0.5〜0.8である。前記比h1/h2が小さくなると、加硫成形状態の膨らみ部8の形状が安定しないおそれがあり、大きくなると、殻部片15の移動が阻害され、離型性が悪化するおそれがある。
【0048】
膨らみ部8の最大外径部20から、殻部片15の上部面18の径方向内側の端縁18iまでの軸方向の長さh3(以下、「上部面高さ」ということがある。)と、下部面高さh2との比h3/h2は、大きくなると、殻部片15の移動が阻害されるおそれがある。このため、前記比h3/h2は、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である。
【0049】
殻部片15の分割数は、本実施形態では4個であるが、小さくなると、殻部片15の移動が阻害されるおそれがあり、大きくなると、殻部片15が接着部12から脱落し易くなるおそれがある。このため、殻部片15の分割数は、好ましくは4個以上、より好ましくは8個以上であり、また、好ましくは16個以下、より好ましくは12個以下である。
【0050】
加硫成形時、芯部10及び殻部11は、トレッド部のゴムから熱を受け、膨張しうる。このため、芯部10の熱膨張率P1は、殻部11の熱膨張率P2と同一、又は該熱膨張率P2よりも大きいのが望ましい。これにより、トレッド部のゴムから熱を受けた場合、芯部10は、殻部11よりも大きく膨張しうる。従って、芯部10が殻部11の動きを固定し、膨らみ部8の形状が安定する。なお、熱膨張率とは、温度の上昇によって体積が膨張する割合を、温度1℃当たりで示したものを意味する。
【0051】
芯部10の熱膨張率P1と、殻部11の熱膨張率P2との比P1/P2は、好ましくは、1.000〜1.015であり、より好ましくは1.005〜1.010である。このような芯部10及び殻部11を有する膨らみ部8は、トレッド部のゴムの温度変化に対しても、形状が変化し難く、スタッド装着用孔の拡径部を安定して成形しうる。
【0052】
殻部片15は、
図5(a)及び(b)に示されるように、接着部12を支点として転回する。このため、接着部12は、殻部片15の移動に追従して繰り返し変形しうる。
【0053】
このため、
図6に示されるように、接着部12は、殻部片15の径方向内側の端縁21を、外側面16及び内側面17を含んで固着するのが望ましい。このような接着部12は、殻部片15を確実に保持し、膨らみ部8の耐久性を向上させる。
【0054】
本実施形態の接着部12は、接着本体部22と、軸方向一端側Aに向かって先細にのびるコーン状の差し込み部24とを有する。このような差し込み部24は、凹部14に設けられた差し込み孔28(
図3に示す。)に配され、接着部12を効果的に固定し、膨らみ部8の耐久性を向上させる。
【0055】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0056】
図2に示す基本構造をなすモールドピンが、表1の仕様に基づいて試作された。また、これらのモールドピンが装着されたトレッドモールドを用いて、スタッド装着用孔を有する空気入りタイヤが試作された。同様に、比較例1乃至3として、
図7に示すモールドピンを用いて、空気入りタイヤが試作された。また、これらモールドピン及び空気入りタイヤの性能がテストされた。
各モールドピン及び空気入りタイヤの共通仕様は以下の通りである。
【0057】
タイヤサイズ:195/65R15
トレッドゴムのゴム硬度:53°(JISデュロメータA硬さ@25℃)
テスト方法は以下の通りである。
【0058】
<亀裂発生率>
各試作タイヤ20本について、スタッド装着用孔周辺に生じた亀裂の有無についての検査が実施された。亀裂の有無は、タイヤを切断し、スタッド装着用孔の中心軸を通る断面において肉眼により確認された。タイヤの切断箇所は、トレッド部の外周面に対してして90°異なる4箇所とされた。結果は、亀裂が発生したタイヤの割合であり、数値が小さい程良好である。
【0059】
<モールド離型性>
試作タイヤ生産時のモールド離型性が、以下の4段階で評価された。モールド離型性とは、加硫成形後における、トレッドモールドとトレッド部との離型のし易さを意味する。評価は、作業者の肉眼による評価である。
1:悪い
2:普通
3:良い
4:非常に良い
【0060】
<スタッド脱落率>
試作したタイヤにスタッドを装着し、下記条件にて実車走行させ、脱落したスタッドの本数が計測された。結果は、実車走行前のスタッド装着本数に対する、脱落したスタッドの本数の割合であり、数値が小さい程良好である。
使用車両:排気量1500c・FF車
試作タイヤ装着箇所:前2輪
タイヤ内圧:200kPa
実車走行距離:25000km
テストの結果が表1に示される。
【0061】
【表1】
【0062】
テストの結果、実施例のモールドピンは、亀裂発生率及びモールド離型性を維持しながら、スタッド脱落率を小さくしていることが確認できた。