【実施例】
【0014】
以下、本発明を適用した車両用前照灯の実施例について説明する。
実施例の車両用前照灯(以下単に「前照灯」と称する。)は、例えば乗用車等の自動車の車体前端部に設けられるものである。
図1は、実施例の前照灯を正面から見た図である。
図2は、
図1のII−II部矢視断面図である。
図3は、
図1のIII−III部矢視断面図である。
図4は、
図1のIV−IV部矢視断面図である。
図5は、
図1のV−V部矢視断面図である。
【0015】
前照灯1は、車体前端部に車幅方向に離間して一対設けられる。
前照灯1は、ハウジング10、アウタレンズ20、ベゼルエクステンション30、第1ユニット100、第2ユニット200、第3ユニット300等を有して構成されている。
【0016】
ハウジング10は、各ユニット100,200,300を収容する筐体である。
ハウジング10は、例えば樹脂系材料をインジェクション成形することによって、車両前方側に開口を有するボックス状に形成されている。
ハウジング10は、背面部11、上面部12、下面部13、側面部14,15等を有する。
背面部11は、ハウジング10の車両後方側の面部であって、車幅方向及び鉛直方向に略沿って延びた平面状に形成されている。
背面部11を車両前方から見た形状は、実質的に横長の矩形となっている。
上面部12、下面部13、側面部14,15は、背面部11の上端部、下端部、側端部からそれぞれ車両前方側に突き出した平板状の部分である。
【0017】
アウタレンズ20は、ハウジング10の車両前方側の開口を閉塞するように設けられ、各ユニット100,200,300の前面部をカバーするものである。
アウタレンズ20は、透明な樹脂系材料によって一体に形成されている。
アウタレンズ20は、前面部21、上面部22、下面部23、側面部24,25等を有する。
前面部21は、車両外側に露出して配置される意匠面であって、車両前方側に張り出した凸曲面状に形成され、上端部が下端部に対して後退するように傾斜して配置されている。
上面部22、下面部23、側面部24,25は、前面部21の上端部、下端部、側端部から車両後方側へそれぞれ突き出した平板状の部分である。
上面部22、下面部23、側面部24,25の後縁部は、ハウジング10の上面部12、下面部13、側面部14,15の前縁部に形成された係合溝部に挿入されている。
【0018】
ベゼルエクステンション30は、アウタレンズ20の内側(後方側)に設けられる意匠部品であって、各ユニット100,200,300のレンズ部等が配置される開口部が設けられている。
【0019】
第1ユニット100は、LED光源110が発する光を、リフレクタ120及び投影光学系130によって車両前方側の所定領域に投光する照射手段(プロジェクタ型ユニット)である。
LED光源110は、例えば、白色LEDであって、ヒートシンク111、光軸調整アクチュエータ112等を備えている。
ヒートシンク111は、LED光源110が発生する熱を、車両後方側に突き出した放熱フィンから放熱するとともに、LED光源110が設置される基部を兼ねている。
図2に示すように、ヒートシンク111の一部は、第3ユニット300の後方にも延伸して配置されている。
LED光源110は、ヒートシンク111の上面部に載置されている。
ヒートシンク111の上端部は、ハウジング10の背面部11に揺動可能に取り付けられている。
ヒートシンク111の下端部は、光軸調整アクチュエータ112を介して背面部11に取り付けられている。
光軸調整アクチュエータ112は、ヒートシンク111の下端部を車両前後方向に変位させることによって、第1ユニット100の光軸を上下方向にチルトさせるものである。
【0020】
リフレクタ120は、ヒートシンク111の上面部に設置されたLED光源110の上方を覆うように配置されたパラボラリフレクタである。
リフレクタ120は、LED光源110からの光を集光して車両前方側へ反射させ、投影光学系130に入射させる。
投影光学系130には、カットオフラインに対応した形状を有するシェードが設けられており、シェードの像を拡大して車両前方側に投影することによって、配光パターンP1(
図6参照)のカットオフラインを形成している。
図1に示すように、投影光学系130を正面から見た形状は実質的に円形となっている。
【0021】
第2ユニット200は、バルブ210が発する光を、リフレクタ220によって車両前方側かつ車幅方向外側の所定領域に照射する照射手段(リフレクタ型ユニット)である。
第2ユニット200は、第1ユニット100の車幅方向外側に隣接して配置されている。
バルブ210は、例えば、ハロゲンバルブ等の白熱電球や、HID等の高輝度放電バルブである。
バルブ210は、リフレクタ320の中央部に形成された開口に、発光部がリフレクタ320の焦点近傍となるように挿入されている。
リフレクタ220は、凹曲面である反射面が車両前方側に向くように配置されたパラボラリフレクタである。
リフレクタ220は、バルブ210からの光を反射させ、所定の配光パターンP2(
図6参照)で、車両前方に投光する。
図1に示すように、第2ユニット200のリフレクタ220を正面から見た形状は、実質的に矩形となっている。
【0022】
第3ユニット300は、LED光源310が発する光を、リフレクタ320によって車両前方側の所定領域に照射する照射手段(リフレクタ型ユニット)である。
第3ユニット300は、第1ユニット100の車幅方向内側に隣接して配置されている。
LED光源310は、例えば、白色LEDであって、ヒートシンク311を有している。
ヒートシンク311は、LED光源310が発生する熱を放熱フィンから放熱するとともに、LED光源310が設置される基部を兼ねている。
LED光源310は、ヒートシンク311の上面部に載置されている。
【0023】
リフレクタ320は、ヒートシンク311の上面部に設置されたLED光源310の上方を覆うように配置されたパラボラリフレクタである。
リフレクタ320は、LED光源310からの光を反射させ、所定の配光パターンP3(
図6参照)で、インナレンズ330を介して車両前方に投光する。
インナレンズ330は、リフレクタ320の前方側において、エクステンションベゼル30の開口部内に配置されている。
インナレンズ330は、実質的に平板状の透明板によって形成されている。
図1に示すように、インナレンズ330を正面から見た形状は、実質的に矩形から第1ユニット100に隣接する箇所を、第1ユニット100と同心の円弧状に切り欠いた形状となっている。
【0024】
次に、前照灯1が形成する配光パターンについて説明する。
図6は、前照灯1の配光パターンを示す図である。V軸は鉛直線、H軸は水平線をそれぞれ示している。
図6は、すれ違いビーム(ロービーム)時において、車両前方側に正対して配置され、鉛直方向及び車幅方向に沿って配置された平面に投光した状態を示している。
図6は、一例として左側通行の場合を示しており、右側通行の場合には左右反転される。
第1ユニット100、第2ユニット200、第3ユニット300は、それぞれ配光パターンP1、P2、P3を形成する。
【0025】
配光パターンP1は、実質的に車幅方向に沿った長辺を有する矩形状に形成されるとともに、上端部にはカットオフラインCが形成されている。
配光パターンP1は、自車両の走行車線における中央遠方の視認性確保を目的としたものであって、例えば、日本、欧州、中国、米国等の法規制に基づく配光規格を満足するメイン配光パターンである。
カットオフラインCは、左右方向における中央部(車両進行方向)に、水平から立ち上がる屈曲点であるエルボ点Eが設けられている。
カットオフラインCは、エルボ点Eよりも対向車線側(左側通行の場合には右側、右側通行の場合には左側)においては、水平方向に沿って配置されるとともに、前照灯1の中心を通る水平面よりも低い位置へ配置され、これよりも上方への配光は実質的に遮断されるようになっている。
【0026】
配光パターンP1の上端部は、エルボ点Eよりも反対向車線側(左側通行の場合には左側、右側通行の場合には右側)においては、対向車線側に対して、段状に高く配置されるとともに、エルボ点Eに隣接する領域においては、反対向車線側が高くなるように傾斜したカットオフラインが配置されている。
配光パターンP1の上端部は、エルボ点Eよりも反対向車線側の領域においては、前照灯1の中心を通る水平面よりも上方に配置されている。
【0027】
配光パターンP2は、実質的に車幅方向に沿った長辺を有する矩形状に形成されるとともに、配光パターンP1、P3に対して、車幅方向外側(左側前照灯においては左側、右側前照灯においては右側)かつ下方を照射するように配置され、配光パターンP1、P3に対して、車両近傍における左右を照射するようになっている。
配光パターンP2の上部かつ車幅方向内側の領域は、配光パターンP1、P3と重畳して配置されている。
【0028】
配光パターンP3は、実質的に車幅方向に沿った長辺を有する矩形状に形成された下部P31、下部P31の左右両端部からそれぞれ上方に張り出した上部P32を有して形成されている。
下部P31の上端部は、配光パターンP1のエルボ点Eよりも対向車線側におけるカットオフラインCよりも下方に配置されている。
下部P31の左右方向における中央部は、配光パターンP1と重畳して配置されている。
下部P31の側端部は、配光パターンP1の側端部から左右に張り出して配置されている。
下部P31の下端部は、配光パターンP1の下端部と実質的に同じ高さに配置され、水平方向に延在している。
上部P32は、下部P31の上端部から上方に張り出した実質的に矩形状の領域である。
上部P32は、例えば約30m前方における路肩に存在する歩行者等を照射可能となっている。
上部P32の上端部は、配光パターンP1の上端部よりも上方へ張り出している。
上部P32は、法規制等への適合のため、配光パターンP1のエルボ点Eに対して、車幅方向にそれぞれ所定の角度(例えば一例として8°)以内の範囲を避けて配置されている。
上部P32のエルボ点E側とは反対側の側端部は、下部P31の側端部と、上下方向に沿った同一直線上に配置されている。
【0029】
次に、前照灯1の制御システム及びその動作について説明する。
図7は、前照灯の制御システムの構成を示すブロック図である。
前照灯1の制御システムは、車両統合ユニット500、光源制御装置510、環境認識装置520、挙動制御ユニット530等を有して構成されている。
これらは例えばCAN通信システム等の車載LANを介して通信可能となっている。
【0030】
車両統合ユニット500は、車両に設けられる灯火類などの各種電装品を総括的に制御するものである。
車両統合ユニット500は、光源制御装置510に対して制御信号を与え、第1ユニット100、第2ユニット200、第3ユニット300の点灯、消灯を個別に制御する。
車両統合ユニット500には、ライトスイッチ501が接続されている。
ライトスイッチ501は、ドライバが前照灯1の点灯又は消灯を切替えるとともに、点灯時にハイビーム(走行用ビーム)又はロービーム(すれ違い用ビーム)を切替える操作部である。
【0031】
光源制御装置510は、前照灯1の各ユニット100,200,300のLED光源110,210、バルブ310への電力供給、遮断を行うリレーや、各光源の発光状態を制御するコントローラ等を備えている。
【0032】
環境認識装置520は、カメラLH521、カメラRH522からなるステレオカメラを用いて、公知のステレオ画像処理技術を用いて、自車両前方の車線形状や障害物の種類、位置等を検出するものである。
カメラLH521、カメラRH522は、例えば車両のフロントガラス上端部(ルームミラー近傍)に左右方向に離間して配置された撮像手段である。
環境認識装置520は、カメラLH521、カメラRH522が撮像した画像に基づいて障害物等を認識するとともに、各カメラの視差を利用して、三角測量の原理によって自車両からの距離を算出するステレオ画像処理を行う。
【0033】
カメラLH521、カメラRH522は、自車両前方を所定の間隔で時系列的に撮像することによって、一対の撮像画像をステレオ画像として随時出力する。
環境認識装置520は、ステレオ画像のそれぞれについてステレオ画像処理を行い、距離画像を生成する。
距離画像は、画像平面上の位置に対応付けされた距離値(視差)の集合として定義される。ここで、左右画像における相関する画素ブロックの水平方向のずれ量が視差となる。
環境認識装置520は、この視差に基づいて、当該画素ブロックの被写体の自車両からの距離を算出する。
【0034】
環境認識装置520は、実質的に同等の距離値を有する隣接した画素群を物体として検出するとともに、その高さ方向、幅方向のサイズや輪郭形状に基づいて、物体の種類を判別する。
ここで、物体の種類には、車両、歩行者、自転車等が含まれる。
このようにして、環境認識装置520は、カメラLH521、カメラRH522の撮像範囲内に含まれる歩行者の自車両に対する相対位置を検出可能となっている。
環境認識装置520は、検出された歩行者の自車両に対する相対位置を、逐次車両統合ユニット500に提供する。
【0035】
挙動制御ユニット530は、車両にアンダーステア、オーバーステア等の挙動が発生した場合に、左右輪のブレーキに制動力差を生じさせて挙動を抑制する方向のヨーモーメントを発生させる挙動制御や、アンチロックブレーキ制御を行うものである。
挙動制御ユニット530には、車速センサ531が接続されている。
車速センサ531は、車輪ハブ部に設けられ、車輪の回転速度に応じた車速パルス信号を生成するものである。
挙動制御ユニット530は、車速センサ531の車速パルス信号に基づいて算出した車両の走行速度(車速)を、車両統合ユニット500に提供する。
【0036】
図8は、上述した制御システムの動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:ロービームオン判断>
車両統合ユニット500は、ライトスイッチ501によって点灯かつロービームを選択する操作が行なわれているか否かを判別し、点灯かつロービームが選択されている場合にはステップS02に進む。
一方、他の場合には、一連の処理を終了(リターン)する。
【0037】
<ステップS02:第1、第3ユニット点灯>
車両統合ユニット500は、光源制御手段510に制御信号を与え、第1ユニット100及び第3ユニット300を点灯状態にするとともに、第2ユニット200を消灯状態とする。
その後、ステップS03に進む。
【0038】
<ステップS03:歩行者検出判断>
車両統合ユニット500は、環境認識装置520が自車両前方の走行車線に隣接する歩行者を検出したか否かを判別し、歩行者を検出した場合にはステップS04に進む。
一方、歩行者を検出しない場合には、一連の処理を終了(リターン)する。
【0039】
<ステップS04:歩行者接近判断>
車両統合ユニット500は、環境認識装置520が検出した歩行者の自車両からの距離と、車速センサ531によって検出された車速に基づいて、歩行者が第2ユニット200の配光パターンP2によって照射可能な範囲内となるまでの推定所用時間を算出する。
車両統合ユニット500は、推定所用時間が経過したか否かを判別し、経過済みである場合にはステップS05に進む。
一方、未経過である場合には、ステップS04以降の処理を繰り返す。
【0040】
<ステップS05:第2ユニット点灯>
車両統合ユニット500は、光源制御手段510に制御信号を与え、第2ユニット200を点灯状態とする。
これによって、前照灯の第1ユニット100、第2ユニット200、第3ユニット300は、全て点灯した状態となる。
その後、ステップS06に進む。
【0041】
<ステップS06:歩行者通過判断>
車両統合ユニット500は、ステップS03において環境認識装置520が検出した歩行者の自車両からの距離と、車速センサ531によって検出された車速に基づいて、自車両が歩行者の近傍を通過済みであるか否かを判別する。
自車両が歩行者の近傍を通過済みである場合には、ステップS07に進む。
一方、その他の場合にはステップS05以降の処理を繰り返す。
【0042】
<ステップS07:第3ユニット消灯>
車両統合ユニット500は、光源制御装置510に制御信号を与え、第2ユニット200を消灯し、一連の処理を終了する。
【0043】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)環境認識装置520が歩行者を検出した場合に、自車両近傍の側方をリフレクタ220の拡散配光によって照射する第2ユニット200を点灯することによって、歩行者の視認性を高め、飛び出し有無等の監視を容易に行うことができる。
(2)第1ユニット100の配光パターンP1のカットオフラインCのエルボ点Eに対して左右8°以上の範囲で配光パターンP1の上方をリフレクタ320による拡散配光で照射する第3ユニット300を設けたことによって、遠方の歩行者を広範囲で照射して歩行者を早期に検出することができる。
(3)検出された歩行者が第2ユニット200によって照射可能となるまでの時間を歩行者と自車両との距離、及び、車速に基づいて算出して第2ユニット200の点灯時期を設定することによって、適切なタイミングで第2ユニット200を点灯することができる。
【0044】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)前照灯を構成する各部材の形状、構造、材質、製法等は、上述した実施例の構成に限らず、適宜変更することができる。
(2)実施例では、各ユニットがそれぞれ独立した光源を有する構成であるが、単一の光源から出た光を複数のユニットで利用する構成としてもよい。例えば、同時に点灯、消灯される第1ユニット100、第3ユニット300で共通の光源を利用するようにしてもよい。
また、光源の種類も特に限定されない。
(3)実施例では歩行者の検出時に第2ユニットの点灯制御を行なうようにしているが、自転車に限らず、自転車や、自車両の走行車線に合流するために停車中の他車両等、他の目標物の検出に応じて同様の制御を行なうようにしてもよい。
また、検出手法も実施例のようなステレオカメラに限らず、他の手法によってもよい。