【実施例】
【0026】
実証実験の概要を以下に示す。
既設の中空コンクリート信号柱を取替え時に地際部で切断したもの(以下、試験柱と云う)を実験に用いた。蓋部と柱本体との接合状態によって蓋部での波動の伝播状態が異なる現象(回り込み現象)を検証するため、高周波衝撃弾性波法を用いて実験を行った。実験方法は、柱本体に打撃による衝撃弾性波を発生させ、その反射波形を受信し、この受信波形に基づいて柱頂部の蓋部と柱本体との接合状態を診断した。
【0027】
試験柱の長さは約7.6mである。柱本体の下部(柱頂部から約7.4mの位置)に打撃治具と波形受信センサーとを取り付けた。ハンマーにより打撃治具を介して柱本体に衝撃弾性波のパルス波を発生させた。波形受信センサーはエヌエフ回路ブロック社製の小型圧電センサーであり、打撃による波動およびその反射波を電圧の変化によって感知し、その高周波成分を抽出してチャートに波形が記録される。
なお、試験柱には打撃治具と波形受信センサーの取付位置の近傍に切断時の亀裂があり、反射波の測定において、この亀裂部分が事実上の柱下端部に相当する。
【0028】
(i) 蓋部と柱本体の接合が健全な状態の試験柱について、打撃による波動および反射波の波形を記録した。これを
図2に示す。
(ii) 蓋部の接合部にハンマーと楔で亀裂を発生させた試験柱について、打撃による波動および反射波の波形を記録した。これを
図3に示す。
(iii)蓋部のない試験柱について、打撃による波動および反射波の波形を記録した。これを
図4に示す。
【0029】
図2に示すように、蓋部の接合が健全な状態では、蓋部で反射波は発生せず、受信波形チャートにおいて、柱頂部に相当する波動伝播距離の位置に反射波による受信波形は観察されない。
【0030】
図3に示すように、蓋部の接合部に亀裂が存在する場合には、亀裂を発生させた箇所に明確な反射波が見られ、受信波形チャートにおいて、柱頂部に相当する波動伝播距離の位置に反射波による受信波形が記録されており、その反射波が同じ側の柱下端部(下部亀裂部分)で再度反射している様子が見られる。
【0031】
図4に示すように、蓋部のない試験柱においても、受信波形チャートにおいて、柱頂部に相当する波動伝播距離の位置に反射波による受信波形が記録されている。
【0032】
図5に示すように、蓋部が扁平な試験柱においても、蓋部の接合が健全な状態では、受信波形チャートにおいて、柱頂部に相当する波動伝播距離の位置に反射波による受信波形は観察されない。また、蓋部の接合部に亀裂が存在する場合には、亀裂を発生させた箇所に明確な反射波が見られ、受信波形チャートにおいて、柱頂部に相当する波動伝播距離の位置に反射波による受信波形が記録されている。
【0033】
図2〜
図5に示す結果から、蓋部の健全性は、柱本体に打撃による衝撃弾性波を発生させ、その反射波形を受信し、この受信波形に基づいて診断できることが分かる。また、この測定結果に基づき、波の伝播時間と伝播速度および伝播距離の関係から、回り込みの現象を検証することができる。
【0034】
(A) 打撃・受信位置から蓋部の接合不良部までの長さが7.3mであり、接合不良部分までの伝播時間が3.64msであるとき、伝播速度は4.01km/sである(
図3の(I)の経路、式[1]参照)。
【0035】
(B)
図3の(II)に対応する伝播経路は、柱本体と蓋部の接合不良部で反射した波動が打撃・受信位置近傍の亀裂面で反射して蓋部の接合不良部に戻り、再度、接合不良面で反射したものが測定されたものと考えられる(式[2]参照)。
ここで、tlとt2は式[4]および式[5]で表されるので、tl=0.27ms、t2=1.55msとなる。
【0036】
(C)
図2に対応する伝播経路は、蓋部上面の湾曲に沿って反射した波動が回り込んで反対側に伝播し、受信位置近傍の亀裂面で反射して蓋部に戻り、再度、蓋部上面の湾曲に沿って反射して元の打撃・受信位置側に戻ってきたものが測定されたと考えられる(式[3]参照)。受信位置近傍の亀裂面は、中空コンクリート信号柱にほぼ水平に入っており、t2=t4と見なせることから、式[6]より、t3=0.08msとなる。この時間が回り込みに要した伝播時間に相当する。
【0037】
△t(I)=tl+t2+t2+tl=2(tl+t2) …[1]
△t(II)=tl+t2+t2+t2+t2+tl=2(tl+2t2) …[2]
△t =tl+t2+t3+t4+t4+t3+t2+tl=2(tl+t2+t3+t4) …[3]
=2(tl+2t2+t3) 〔t2=t4の場合〕 …[3]'
【0038】
tl=〔2△t(I)−△t(II)〕/2 …[4]
t2=〔△t(II)−△t(I)〕/2 …[5]
t3=〔△t−△t(II)〕/2 〔t2=t4の場合〕 …[6]
【0039】
図2および
図3において、t1は打撃受信位置からその近傍の亀裂面までの伝播時間、t2は該亀裂面から柱頂部の蓋部との接合部分までの伝播時間、t3は蓋部での回り込みに要した伝播時間、t4は柱頂部から亀裂面までの伝播時間である。
図3において、(I)は1回の打撃により最初に受信された反射波の伝播経路、(II)は2番目に受信された反射波の伝播経路である。
【0040】
以上のように、
図2と
図3の測定結果によれば、柱頂部の蓋部において反射波の回り込みの現象が生じていることが分かる。