特許第5723533号(P5723533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5723533
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】管状体
(51)【国際特許分類】
   A01K 87/00 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   A01K87/00 630A
   A01K87/00 630N
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-19427(P2010-19427)
(22)【出願日】2010年1月29日
(65)【公開番号】特開2011-155885(P2011-155885A)
(43)【公開日】2011年8月18日
【審査請求日】2012年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100058479
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100091351
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084618
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 貞男
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100101812
【弁理士】
【氏名又は名称】勝村 紘
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(74)【代理人】
【識別番号】100127144
【弁理士】
【氏名又は名称】市原 卓三
(74)【代理人】
【識別番号】100141933
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 元
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 篤
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−327380(JP,A)
【文献】 特開2006−217921(JP,A)
【文献】 特開平08−238684(JP,A)
【文献】 特開平10−006407(JP,A)
【文献】 特開2000−157110(JP,A)
【文献】 特開2000−308437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K87/00−87/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維に合成樹脂を含浸させた繊維強化プリプレグが巻回されて、径方向に複数の強化繊維が積層されて形成される管状体であって、
前記管状体の最外層の表面上に、前記強化繊維が露出した繊維露出領域及び前記合成樹脂が露出した樹脂露出領域を含み、さらに、前記繊維露出領域及び前記樹脂露出領域にかかり、前記最外層の前記表面が径方向に高さが不揃いであり、近接する強化繊維同士との間で、側面に前記強化繊維が露出し、前記強化繊維の半径以上の深さで、内側に窪んだ窪み部が設けられ、
前記最外層の前記表面の表面積に対する前記繊維露出部及び前記窪み部の割合が70%以上であることを特徴とする管状体。
【請求項2】
前記繊維露出部では、前記強化繊維が周方向に引き揃えられていることを特徴とする請求項1に記載の管状体。
【請求項3】
前記最外層の前記表面が平滑研磨されていることを特徴とする請求項1及び請求項2のうちのいずれか1つに記載の管状体。
【請求項4】
前記窪み部は、前記繊維露出部の前記強化繊維同士の間に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれか1つに記載の管状体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体に関し、特に、強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを巻回して形成した管状体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、釣竿、玉網の柄等の釣り用品、ゴルフクラブシャフト等のゴルフ用品、テニスやバトミントンのラケット、スキーストック等のスキー用品等には、強化繊維に合成樹脂を含浸させた繊維強化プリプレグから形成される管状体が用いられている。このような管状体は、特許文献1に示すように、繊維強化プリプレグを、芯金に対して内側から積層状に巻回し、その上に緊締テープを巻回して安定させた後、加熱炉において焼成し、その後、冷却して、脱芯、緊締テープの除去等の工程を経て形成される。
【0003】
特許文献2には、最外層の表面に、強化繊維が表面に露出した繊維露出部と、合成樹脂が表面に露出した樹脂露出部とが設けられた管状体が開示されている。この管状体では、繊維露出部が樹脂露出部より外層側に突出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−214329号公報
【特許文献2】特開平6−327380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上述のような管状体を備える用品の使用者から、管状体を握持した際の滑りの防止、及び、適切な握持感を得ることが望まれている。しかし、上記特許文献1の管状体では、緊縛テープの押圧により形成される段部以外は表面が略平坦状に形成されるため、握持した際に適切な握持感を得ることができず、有効に滑りが防止されない。
【0006】
また、上記特許文献2の管状体では、管状体の表面に繊維露出部と樹脂露出部とが設けられている。しかし、管状体の表面の表面積に対する樹脂露出部の割合が高くなっている。合成樹脂は強化繊維に比べかさかさした手触り感が生じないため、樹脂露出部の割合が高いと、握持した際に適切な握持感を得ることができず、有効に滑りが防止されない。
【0007】
本発明は上記課題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、握持した際に滑りが防止され、適切な握持感が得られる管状体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に従う実施形態に係る管状体は、強化繊維に合成樹脂を含浸させた繊維強化プリプレグが巻回されて、径方向に複数の強化繊維が積層されて形成される管状体であって、前記管状体の最外層の表面上に、前記強化繊維が露出した繊維露出領域及び前記合成樹脂が露出した樹脂露出領域を含み、さらに、前記繊維露出領域及び前記樹脂露出領域にかかり、前記最外層の前記表面が径方向に高さが不揃いで、近接する強化繊維同士との間で前記強化繊維の半径以上の深さで、内側に窪んだ窪み部が設けられ、前記最外層の前記表面の表面積に対する前記繊維露出部及び前記窪み部の割合が70%以上であることを特徴とする。
【0009】
また、前記繊維露出部では、前記強化繊維が周方向に引き揃えられていることが好ましい。
また、前記最外層の前記表面が平滑研磨されていることが好ましい。
さらに、前記窪み部は、前記繊維露出部の前記強化繊維同士の間に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
最外層の表面の繊維露出部及び窪み部の割合を高くすることにより、管状体を握持した際に、掌が直接的に強化繊維と接触する部分が多くなる。強化繊維は合成樹脂に比べかさかさした手触り感が生じるため、繊維露出部の割合が高いと、掌と指腹に引っ掛かりを感じることができ、握持した管状体の滑りを防止することができる。
【0011】
また、繊維露出部では強化繊維が周方向に引き揃えられることにより、管状体を握持した際に、例えば強化繊維同士の間の凸凹状により管状体に対する長手方向の滑りが防止され、握持感を向上させることができる。
また、最外層の表面が平滑研磨されていることにより、繊維露出部の強化繊維の剥離等を防止することができる。また、持ち替え等を行う際に握持する部分の移動も違和感なくスムーズに行うことができる。
さらに、繊維露出部の強化繊維同士の間に窪み部を設けることにより、管状体を握持した際に、掌が部分的に窪み部に食い込むため、掌の引っ掛かりがよく、握持した手の滑りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る管状体を示す概略図。
図2図1の管状体を製造する工程の一部を示す説明図。
図3】第1の実施形態に係る管状体の構成を示す横断面図。
図4】第1の実施形態に係る管状体の構成を示す縦断面図。
図5図4のAの範囲を拡大して示す縦断面図。
図6】第1の実施形態の変形例に係る管状体の積層状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、管状体10として釣竿の竿杆を例に挙げて説明するが、この他にも、管状体10は、ゴルフクラブシャフト、テニスやバトミントンのラケット、スキーストック等のスポーツ用品であってもよい。
【0014】
図1に示すように、管状体10は、中空部12が長手方向に延設される中空薄肉構造を有する。管状体10は、強化繊維14に合成樹脂16を含浸した繊維強化プリプレグ(以下の説明では、単にプリプレグと称する)を図2に示す芯金2に巻回することで形成される。プリプレグは、内側から積層状に巻回される。プリプレグは、強化繊維14として例えば繊維直径が3〜20ミクロン程度の炭素繊維、アルミナ繊維あるいはアラミド繊維等が用いられ、強化繊維に含浸する合成樹脂16としては、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましく、ポリアミド等の熱可塑性樹脂を混在させてもよい。
【0015】
図3及び図4に示すように、管状体10は、最内層20と内側中間層22と外側中間層24と最外層26を有する四層構造に形成されている。図5に示すように、最内層20及び最外層26ではプリプレグの強化繊維14が周方向に引き揃えられ、内側中間層22及び外側中間層24ではプリプレグの強化繊維14が長手方向に引き揃えられている。最内層20、内側中間層22、外側中間層24及び最外層26では、強化繊維14の間に合成樹脂16が含浸あるいは混在している。最外層26の厚さは10〜50ミクロンであり、管状体10の厚さ(4つの層20,22,24,26の厚さの合計)は100〜500ミクロンに形成されている。また、最外層26を形成するプリプレグの合成樹脂16の含浸量は、管状体10の強度及び軽量化を考慮して10〜40wt%であり、合成樹脂16の含浸量を20〜30wt%にすることにより、さらに管状体10の強度と軽量化のバランスがとれた安定した管状体10となる。
【0016】
なお、管状体10は、このような四層構造に限らず、適宜の数だけ積層状にプリプレグを巻回して形成してもよく、最内層20、内側中間層22、外側中間層24及び最外層26のそれぞれの層を複数枚のプリプレグで形成してもよい。また、強化繊維14を引き揃える方向も長手方向に対して適宜角度に傾斜した斜向方向に引き揃えて形成した層を設けてもよい。ただし、最内層20と最外層26との間の中間層である内側中間層22及び外側中間層24で、長手方向に強化繊維14が引き揃えられることにより、管状体10の長手方向への曲げ剛性が向上する。また、最内層20及び最外層26で強化繊維14が周方向に引き揃えられることにより、最内層20及び最外層26が管状体10の潰れを防止するように作用する。また、最外層26の表面には、周方向に引き揃えられた強化繊維14が露出して、強化繊維14の間に微細な凸凹状が形成されて、管状体10の長手方向への手の滑りが防止される。
【0017】
また、好適に接着できるものであれば、互いに含浸する合成樹脂16の異なるプリプレグを積層させてもよい。さらに、中空部12を有する中空構造に限らず、大きく撓ませることが可能な中実構造に形成してもよい。
【0018】
プリプレグを積層状に巻回した後、図2に示すように、管状体10の外周面に緊縛テープ4を巻回し、緊縛テープ4の締付け力により管状体10を芯金2上に加圧する。管状体の外周面の全体を所要の圧力で均一に加圧するため、緊縛テープ4は例えば0.2〜10mm程度のピッチp(図4参照)で、所定の幅ずつ重ねて螺旋状に巻回されている。螺旋状に巻回される緊縛テープ4は、例えば、厚さが25ミクロン以下(好ましくは15ミクロン以下)で、幅寸法が5〜20mm程度の寸法を有し、例えばポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂あるいはこれらの樹脂の組合せで一層、二層あるいはサンドイッチ構造に形成され、管状体10の外周面を所要の締付け力で加圧するための十分な強さに形成されている。
【0019】
図4に示すように、緊縛テープ4を巻回した管状体10を、所要温度で所定時間にわたって焼成し、硬化した後、芯金2と共に緊縛テープ4を取外した状態では、管状体10の外周面に、緊縛テープ4の平坦な内面により形成される平坦面30と、緊縛テープ4の側縁部により形成される段部32とが設けられている。段部32は、先に巻回された緊縛テープ4の外面と、先に巻回された緊縛テープ4の側縁部に重ねて巻回された緊縛テープ4の内面と、が重なって巻回される重なり部での加圧により形成され、最外層26の表面上に螺旋状に延設されている。段部32を設けることにより、釣り人が管状体10を握持する際に、指先で段部32の位置を確認しながら確実に管状体10を握持した状態で握持位置を移動させることが可能となる。また、緊縛テープ4のピッチpを小さくすることにより小さいピッチpの段部32を形成することで、段部32で汗のべとつき感を防止され、指紋による細かい引っ掛かりが生じるため、握持した際の滑り感がなくなる。
【0020】
段部32のピッチは1mm以下にするとよく、また、段部32のピッチ0.7mm以下(例えば0.7mm〜0.2mm)以下にすることにより、指紋の幅に近くなり、より滑りが防止される。
【0021】
管状体10は緊縛テープ4により押圧された状態で焼成することにより形成されるため、焼成の際に合成樹脂16が軟化して、層同士の間及び最外層26と緊縛テープ4との間の隙間に流動する。このため、図5に示すように、焼成により軟化した合成樹脂16が硬化した後、芯金2と共に緊縛テープ4を取外した状態では、最外層26に、強化繊維14の間に合成樹脂16が流入して硬化したため、合成樹脂16が最外層26の表面(管状体10の外周面)に露出した樹脂露出部36と、強化繊維14の間の合成樹脂16が軟化して流出したため、強化繊維14が最外層26の表面に露出した繊維露出部38とが設けられている。管状体10の外周面は研磨されないため、繊維露出部38では、強化繊維14が隙間なく配列される状態でも、最外層26の表面に配列された強化繊維14同士の間は凸凹状に形成されている。なお、樹脂露出部36では、合成樹脂16が1ミクロン以上の厚みを有している。
【0022】
軟化した合成樹脂16が流出した繊維露出部38では、最外層26の表面に配列される強化繊維14が緊縛テープ4により接触した状態で押圧されるため、緊縛テープ4での押圧により強化繊維14の欠落、及び、内層側(外側中間層24側)への変位が起こる。また、繊維露出部38では強化繊維14が緊縛テープ4に接触しているため、緊縛テープ4を剥離する際に、強化繊維14のずれが生じる。これにより、繊維露出部38の強化繊維14同士の間に、最外層26の表面から内層側に窪んだ窪み部40が形成される。
【0023】
窪み部40として、様々な形状の窪み部40が存在する。例えば、最外層26の表面の周方向に配列される強化繊維14が内層側に変位などすることにより、周方向に延設される溝状の窪み部40に形成される。また、この周方向に延設される窪み部40の内部が合成樹脂16により複数に分断されることにより、周方向に連続していない(連続性の小さい)複数の窪み部40が形成される。このようにして、管状体10の表面には多数の窪み部40が形成される。
【0024】
最外層26の表面の樹脂露出部36、繊維露出部38、窪み部40の大きさ、数等の状態及び割合は、合成樹脂16の含浸量や緊縛テープ4による圧力等により適宜調整される。
【0025】
窪み部40は管状体10の外周面(最外層26の表面)に多数形成され、外周側に向けて開口している。また、管状体10の表面(最外層26の表面)は、管状体10のその他の部分に比べ合成樹脂16の量が少なく(強化繊維14の量が多く)、強化繊維14が表面に露出する繊維露出部38が多く設けられている。このため、窪み部40の多くが、内面及び底面が強化繊維14で形成されている。
【0026】
また、強化繊維14の間に形成される窪み部40は、深さが2〜20ミクロン、管状体10の周方向の寸法が2〜200ミクロン、管状体10の長手方向の寸法が2〜20ミクロンとなっている。ただし、単位面積(1mm)辺りに存在する窪み部40の過半数が、周方向に連続していない(連続性が小さい)窪み部40で、平面視で直径が100ミクロン以下となっていることが望ましい。これにより、管状体10の表面の強度が維持される。
【0027】
また、窪み部40は、少なくとも強化繊維14の半径以上の深さを有することが好ましい。窪み部40の深さを強化繊維14の半径以上に形成することにより、握持した掌が適度に窪み部40に食い込む。また、窪み部40の深さは、強化繊維14の直径より深いことがより好ましい。これにより、握持した掌の食い込みがより深くなるため、掌の引っ掛かりがより良くなり、握持した掌の滑りがより防止される。さらに、窪み部40の深さが、強化繊維14の直径の3倍以上であることがより好ましい。また、管状体10の表面に存在する窪み部40全体の10%以上が、強化繊維14の半径以上の深さを有する窪み部40であることが好ましい。
【0028】
管状体10では、繊維露出部38(窪み部40も含む)が最外層26の表面の表面積の70%以上の面積を占めている。すなわち、最外層26の表面を長手方向に対して直交する方向から見た場合、単位面積(1mm)あたりの繊維露出部38(窪み部40も含む)の割合が、樹脂露出部36の割合よりも高く70%以上となっている。最外層26の表面の繊維露出部38の割合を高くすることにより、釣り人が管状体10を握持した際に、掌が直接的に強化繊維14と接触する部分が多くなる。強化繊維14は合成樹脂16に比べかさかさした手触り感が生じるため、繊維露出部38の割合が高いと、釣り人は掌と指腹に引っ掛かりを感じることができ、握持した管状体10の滑りを防止することができる。
【0029】
実際に、最外層26の表面の表面積に対する繊維露出部38(窪み部40も含む)の割合が40%、50%、70%、80%、90%、95%とした管状体10のサンプルを用いて、釣り人10人を対象として調査を行った。この調査では、釣り人に右手と左手で略50cm離れた部分を握持してもらい、その後持ち替え等の操作を行ってもらい、それぞれのサンプルが滑るか滑らないか判定してもらった。
【0030】
その結果、繊維露出部38の割合が40%、50%のサンプルでは、滑ると判定した人は7人で、滑らないと判定した人は3人となり、滑ると判定した人は、掌の汗溜まりによるすべり感を訴えていた。繊維露出部38の割合が70%のサンプルでは、滑ると判定した人が3人で、滑らないと判定した人が7人となり、繊維露出部38の割合が80%のサンプルでは、滑ると判定した人が1人で、滑らないと判定した人が9人となり、繊維露出部が90%、95%のサンプルでは、滑ると判定した人が0人で、滑らないと判定した人が10人となった。この結果から、最外層26の表面の表面積に対する繊維露出部38の割合が70%以上になると、管状体10の表面が汗で手に吸い付く感触からかさかさとした滑りのよい感触に変わることから、明らかに滑らないと判定する釣り人が多くなり、最外層26の表面の表面積に対する繊維露出部38の割合が90%以上になると、滑らないと判定する釣り人が圧倒的に多くなることが分かる。以上より、最外層26の表面の表面積に対する繊維露出部38(窪み部40も含む)の割合を高くすることにより、管状体10を握持した手が滑り難くなる。ただし、管状体10の強度を保つために、最外層26の表面の表面積に対する繊維露出部38(窪み部40も含む)の割合は、95%以下であることが好ましい。
【0031】
また、管状体10では、最外層26では強化繊維14が周方向に引き揃えられているため、繊維露出部38では強化繊維14が周方向に引き揃えられている。このため、管状体10を握持した際に、例えば強化繊維14同士の間の凸凹状により管状体10に対する長手方向の滑りが防止され、握持感を向上させることができる。
【0032】
さらに、繊維露出部38の強化繊維14同士の間には、最外層26の表面から内側に窪んだ窪み部40が設けられている。窪み部40を設けることにより、釣り人が管状体10を握持した際に、掌が部分的に窪み部40に食い込む感触があるため、掌の引っ掛かりがよく、握持した手の滑りを防止することができる。したがって、この管状体10で釣竿を形成する場合は、管状体10が元竿に用いられることが好適である。
【0033】
なお、長手方向について窪み部40同士の間に配列される強化繊維14(窪み部40の近傍の強化繊維14)は、繊維露出部38を構成する強化繊維14以外の強化繊維14で、強化繊維14の直径の大部分(50%以上)が合成樹脂16に埋没した状態となっている。強化繊維14の直径の大部分が合成樹脂16に埋没した部分の長手方向への寸法は、窪み部40の長手方向への寸法の3倍以上、好ましくは5倍以上であり、この部分では強化繊維14が合成樹脂16によりしっかりと保持されている。このため、窪み部40を設けても、強化繊維14の剥離が防止される。
【0034】
また、管状体10の表面の面粗度(平均粗さ)Raは、表面に繊維露出部38及び窪み部40が多く存在するため、7ミクロン以上であり、面粗度を10ミクロン以上にすることが、より滑りを防止するために好ましい。
【0035】
また、管状体10の表面は、合成樹脂16の量が少なく、多くの窪み部40が形成されるため、管状体10の表面への水の接触角(管状体10の表面と水粒子の接線との間の角度)は60度以下であり、親水性の良い表面となっている。
【0036】
また、最外層26では、前述のように表面では合成樹脂16の量が少なくなっているが、内層側(外側中間層24側)に向かうにつれて合成樹脂16の量が多くなっている。最外層26の内層側では合成樹脂16の量が多いため、繊維露出部38の強化繊維14は、外周側は合成樹脂16で覆われていないが、内周側は合成樹脂16により保持さる状態となっている。このため、最外層26の表面積に対する繊維露出部38の割合を高くしても、最外層26の強度は保たれる。
【0037】
また、上述の実施形態では、緊縛テープ4が例えば管状体10の先端側から基端側に1回だけ巻回しているが、緊縛テープを巻回する回数はこれに限るものではない。例えば、緊縛テープ4を管状体10の先端側から基端側に巻回して繊維の移動を防止した後に、緊縛テープ4を今度は管状体10の基端側から先端側に巻回してもよい。この場合、最初に巻回した緊縛テープ4での押圧及び2回目に巻回した緊縛テープ4での押圧により、緊縛テープ4を1回だけ巻回した場合に比べ、管状体10が芯金により強く押圧される。これにより、最外層26の繊維露出部38で、強化繊維14の欠落、強化繊維14の内層側(外側中間層24側)への変位が起こり易くなり、最外層26の表面により多くの、そして、より深い窪み部40が形成される。
【0038】
また、上述の実施形態では、窪み部40の深さは、最外層26の厚み以下となっているが、最外層26の厚み以上の深さを有し、窪み部40の底面が例えば外側中間層24に位置してもよい。
【0039】
(第1の実施形態の変形例)
次に、本実施形態の変形例について、図6を参照して説明する。図6に示すようにこの変形例の管状体10では、最外層26の表面(管状体10の外周面)が平滑研磨されている。平滑研磨は、例えばバフ研磨、特にケミカルバフ研磨等の鏡面研磨により行われる。平滑研磨を行うことにより、管状体10の最外層26の繊維露出部38の隙間なく強化繊維14同士の間が、凸凹状ではなく平坦状となる。これにより、繊維露出部38の強化繊維14の剥離等を防止することができる。また、管状体10の外周面を平滑研磨することにより、持ち替え等を行う際に握持する部分の移動も違和感なくスムーズに行うことができる。
【0040】
なお、平滑研磨は、繊維露出部38が多く形成された表面を研磨する際には、繊維露出部38(窪み部40も含む)の最外層26の表面積に対する割合が70%以上を保つように、浅く研磨する。
【0041】
なお、管状体10の外周面を平滑研磨した場合でも、樹脂露出部36及び繊維露出部38のみが研磨され、窪み部40は研磨されないため、窪み部40は残された状態となっている。このため、握持した掌の滑りを防止する効果は維持される。
【0042】
また、平面研磨により最外層26の繊維露出部38の強化繊維14が削られ、最外層26の表面により微細な凸凹状が形成される。凸凹状の部分により、汗のべとつき感を防止され、指紋による細かい引っ掛かりが生じるため、握持した際の滑り感がなくなる。
【0043】
これまで、いくつかの実施形態について図面を参照しながら具体的に説明したが、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で行なわれるすべての実施を含む。
【符号の説明】
【0044】
10…管状体、 14…強化繊維、 16…合成樹脂、 20…最内層、 22…内側中間層、 24…外側中間層、 26…最外層、 36…樹脂露出部、 38…繊維露出部、 40…窪み部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6