(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CMYKの各インクどうしの光散乱特性の強弱は、インクの原料に多少の差があっても大幅に変わることはない。したがって、インクの重ね印刷の順序を入れ替えることによる色再現範囲の拡張には自ずと限界があり、また、拡張できる色再現範囲の色相にも制約がある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、カラー画像データに基づいてカラー画像を印刷する際の色再現範囲を、任意の色相について拡張させることができる印刷方法と、この印刷方法を実施する際に用いて好適な印刷処理装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する
本発明は、以下の事項をベースとしている。即ち、
カラー画像データ(例えば、
図1のRGBドットイメージ入力部110に入力されるRGB形式のドットイメージデータ)に基づいて、色空間上における所定の色再現範囲(例えば、
図10(a)の下半部に示す色再現範囲)でカラー画像を印刷する際に、前記色再現範囲を拡張する特定色域(例えば、
図10(a)の上半部に示す扇形の色域)が設定されている場合は、前記カラー画像のうち前記特定色域の印刷に用いるインクの単位面積当たりの最大吐出量(例えば、
図7(b),(c)のテーブルにおける最大ドロップ数)を、前記カラー画像のうち前記特定色域以外の色域の印刷に用いるインクの単位面積当たりの最大吐出量(例えば、
図7(a)のテーブルにおける最大ドロップ数)よりも多くす
る。
【0008】
そして、本発明は、
カラー画像データに基づいて、色空間上における所定の色再現範囲で、多色インクを用いてカラー画像を印刷するための処理を行う印刷処理装置において、
色再現範囲を拡張する特定色域を設定する設定手段(例えば、
図13のモード選択領域241a〜241c及び
図3の画像処理部223)と、
前記設定手段により設定した前記特定色域以外の色域の前記カラー画像データを、所定の基準値(例えば、
図7(a)のデフォルトパターンテーブルにおける最大ドロップ数=「5」)を単位面積当たりの最大吐出量とする多色インクのインク量のデータに変換すると共に、前記設定手段により設定した前記特定色域の前記カラー画像データを、前記基準値よりも高い上限値(例えば、
図7(b)、(c)の拡張パターンテーブルにおける最大ドロップ数=「6」,「7」)を単位面積当たりの最大吐出量とする多色インクのインク量のデータに変換する変換手段(例えば、
図3の画像処理部223、
図16のステップS207)と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
上記発明によれば、色空間上における色再現範囲を拡張する特定色域が設定されている場合、カラー画像の印刷に用いるインクの単位面積当たりの最大吐出量が、特定色域ではそれ以外の色域よりも多くなる。したがって、特定色域においてはそれ以外の色域よりも、印刷したカラー画像における色再現範囲が拡張する。よって、特定色域を適切に設定することで、カラー画像を印刷する際の色再現範囲を任意の色相について拡張させることができる。
【0010】
なお、上記発明において、前記変換手段が、肌色領域を含む所定の色域の前記カラー画像データを除いて、前記特定色域の前記カラー画像データを、前記基準値よりも高い上限値を単位面積当たりの最大吐出量とする多色インクのインク量のデータに変換することを特徴とする構成としてもよい。
【0011】
上記発明によれば、肌色領域を含む所定の色域が特定色域に含まれる場合に、特定色域中の所定の色域のカラー画像データは、基準値を単位面積当たりの最大吐出量とする多色インクのインク量のデータに変換される。また、所定の色域を除く色域のカラー画像データについては、基準値よりも高い上限値を単位面積当たりの最大吐出量とする多色インクのインク量のデータに変換される。
【0012】
したがって、特定色域の色再現範囲を拡張するためのインクの最大吐出量の増加に連動して、特定色域に含まれる、色再現範囲を拡張する必要のない肌色領域を含む色域のインクの最大吐出量まで増加されてしまうのを、防ぐことができる。よって、例えば赤の色域の色再現範囲を拡張したい場合に、自然色に再現されていた肌色の色味が連動して自然色とは異なる色にシフトしてしまうのを防ぐことができる。
【0013】
また、上記発明において、前記上限値を、前記カラー画像の印刷時における印刷走査数、解像度、及び、ドットゲインのうち少なくとも1つに基づいて補正する上限値補正手段(例えば、
図3の画像処理部223、
図16のステップS205)をさらに備えていることを特徴とする。
【0014】
上記発明によれば、カラー画像の印刷時における印刷走査数や解像度、ドットゲインは、印刷に使用するインクの単位面積当たりの量に影響する。印刷に使用するインク量は、用紙におけるインクの滲み量や用紙の変形量、印刷面から裏面までインクが染みこむ裏抜けの度合い(例えば、
図8の用紙変形量、裏抜け濃度)に影響を及ぼす。したがって、印刷走査数、解像度、及び、ドットゲインのうち少なくとも1つに基づいてインク量の上限値を適切に補正することで、用紙におけるインクの滲み量や用紙の変形量、インクの裏抜けの度合いを適切な範囲に収めつつ、特定色域の色再現範囲を拡張させることができる。
【0015】
そして、本発明は、必須の要素として、前記カラー画像の画質と印刷速度とのいずれを優先するかを指定する指定手段(例えば、
図13の特定色域の指定領域241d及び
図3の画像処理部223)をさらに備えており、該指定手段により前記画質の優先が指定されているときにのみ前記変換手段は、色空間上における前記特定色域のカラー画像データを、前記上限値を単位面積当たりの最大吐出量とする多色インクのインク量のデータに変換することを特徴とする。
【0016】
したがって、本発明によれば、カラー画像の印刷に用いるインクの最大吐出量を増やすと、特に、同一の画素(ドット)に吐出する液滴数を増減することで階調印刷を行うマルチドロップ方式のインクジェットプリンタ(例えば、
図1の印刷装置20の印刷機構220)では、カラー画像の印刷に要する時間が増加する。したがって、印刷速度を優先する場合は、指定手段により印刷速度の優先を指定することで、インクの最大吐出量の増加による印刷速度の低下を避けることができる。
【0017】
また、上記発明において、色空間上における前記特定色域の色相に基づいて、該特定色域に属する色の多色インクの前記上限値を各色のインク別にそれぞれ決定する上限値決定手段(例えば、
図3の画像処理部223、
図16のステップS203)をさらに備えていることを特徴とする。
【0018】
上記発明によれば、特定色域が、吐出量を増やしてもその色(一次色)の色再現範囲があまり拡張しない色のインクに大きく依存する色相である場合は、その色のインクの最大吐出量の上限値を、通常よりも低い値に決定することができる。例えば、特定色域に属する色のインクにY(イエロー)のインクが含まれる場合、特定色域の色相がY(イエロー)かそれに近い色であれば、Y(イエロー)のインクの最大吐出量を増やしても、特定色域の色再現範囲はそれほど大きく変わらない。それに比べて、特定色域の色相がR(レッド)やそれに近い色であると、Y(イエロー)のインクの最大吐出量を増やすことで、特定色域の色再現範囲が大きく拡張する。したがって、特定色域の色相がY(イエロー)かそれに近い色の場合は、Y(イエロー)のインクの最大吐出量の上限値を増やすものの、その値を通常よりも低い値とすることができる。このように、特定色域に属する色のインクの最大吐出量の上限値を、その色のインクの吐出量を増やすことで色再現範囲を拡張するのに適した個別の値に決定することができる。
【0019】
また、上記発明において、
前記変換手段は、
入力プロファイル(例えば、
図6(a)のルックアップテーブル122)に基づいて前記カラー画像データを色空間(例えば、L
* a
* b
* 表色系)のデータに変換する入力側変換手段(例えば、
図1の色変換装置10の色変換処理部120、
図15のステップS101)と、
出力プロファイル(例えば、
図6(b)のルックアップテーブル122)に基づいて色空間の前記データをCMYKデータ(例えば、
図1のCMYKドットイメージ出力部140が出力するCMYK形式のドットイメージデータ)に変換する出力側変換手段(例えば、
図1の色変換装置10の色変換処理部120、
図15のステップS103)と、
ルックアップテーブル(例えば、
図3のルックアップテーブル223a、
図7(a)〜(c)のデフォルトパターンテーブル及び拡張パターンテーブル)に基づいて前記CMYKデータを対応する各色の前記多色インクのインク量にそれぞれ変換するインク量変換手段(例えば、
図3の画像処理部223、
図16のステップS203〜S207)と、
を有しており、
前記インク量変換手段は、
単位面積当たりのインクの最大吐出量別に種類が異なる複数の前記ルックアップテーブルから、前記出力側変換手段が前記CMYKデータに変換した色空間のデータが前記特定色域の色相のデータであるか否かに応じて選択した種類のルックアップテーブルを選択し、選択したルックアップテーブルを用いて前記CMYKデータを対応する各色の前記多色インクのインク量にそれぞれ変換する、
ことを特徴とする。
【0020】
上記発明によれば、CMYKの各色毎に、色再現範囲を拡張する対象の特定色域の色相であるか否かによって、互いに異なる種類のルックアップテーブルを選択して、CMYKデータから各色のインクのインク量への変換を行うことになる。したがって、選択するルックアップテーブルの種類を異ならせることで、プロファイルを単一としつつ複数パターンのデータ変換を行えるようにすることができる。
【0021】
なお、上記各発明において、前記インクに油性インクを用いることもできる。油性インクは水性インクに比べてドットゲインが少なく、高解像度のカラー画像を印刷する際に有利である。また、水性インクに比べて用紙への染み込みが少ないので、インク量を増やしてカラー画像を印刷する場合の、用紙におけるインクの滲み量や用紙の変形量、印刷面から裏面までインクが染みこむ裏抜けの度合いの増大を、抑制することができる。
【0022】
また、上記各発明による印刷処理装置(例えば、
図4(b)の色変換部820)と、該印刷処理装置の変換手段によりカラー画像データから変換した多色インクのインク量のデータに基づいて前記カラー画像の印刷用紙への印刷を行う画像形成装置(例えば、
図4(b)のインクジェット印刷機構830)とを備えており、該画像形成装置は、前記印刷用紙の搬送方向(例えば、
図2の記録紙搬送(副走査)方向)と直交する主走査方向における1回の走査で、前記搬送方向における前記カラー画像の1行分のドット列を印刷することを特徴とするプリンタ(例えば、
図4(b)のインクジェットプリンタ80)を、1つの発明として構成してもよい。
【0023】
上記発明によれば、色再現範囲を拡張するためにインクの最大吐出量を増やしても、1行分のドット列の印刷が1回の主走査方向への走査で終わることに変わりはない。そのため、印刷速度の低下を極力抑制しつつ、色再現範囲の拡張を実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カラー画像データに基づいてカラー画像を印刷する際の色再現範囲を、任意の色相について拡張させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明によるカラー画像の印刷方法を適用した本発明の印刷処理装置の一実施形態に係る色変換装置10と、色変換装置10に接続された印刷装置20の機能構成を示すブロック図である。なお、本実施形態では、印刷装置20が、記録紙の搬送方向と直交する主走査方向においてカラー画像のドット列を1回の走査で印刷するライン型インクジェットプリンタであるものとする。また、本実施形態の印刷装置20は、1つのドット(画素)に対するインク液滴の吐出数を増減して階調印刷を行うマルチドロップ方式のインクジェットプリンタであるものとする。
【0027】
図1に示すように、色変換装置10は、RGB形式のドットイメージデータを入力するRGBドットイメージ入力部110と、RGB形式のイメージデータをCMYK形式のイメージデータに変換する色変換処理部120と、印刷装置20における印刷条件を取得する印刷条件取得部130と、CMYK形式のドットイメージデータを出力するCMYKドットイメージ出力部140とを備えている。
【0028】
RGBドットイメージ入力部110は、例えば、各色8ビットで表されたRGBドットイメージデータ、即ち、カラー画像データを、外部装置あるいは装置内の他機能部から入力する。色変換処理部120は、カラー画像データのRGB値を、印刷装置20の色再現範囲に依存したCMYKのドットイメージデータに変換する。この変換を行うために、色変換処理部120はルックアップテーブル(LUT)122と、それを記憶するためのメモリとを備えている。ルックアップテーブル122は、RGBの代表値とCMYK値との対応関係が記録されたテーブルである。
【0029】
印刷条件取得部130は、ユーザから設定された印刷条件を取得する。印刷条件には、例えば、カラー画像における色再現範囲の拡張の有無、色再現範囲を拡張する色域、印刷に用いる記録紙の種類等が含まれる。ただし、これらの中の一部であってもよい。印刷条件は、印刷条件取得部130がユーザから受け付けるようにしてもよいし、他の機能部がユーザから受け付けた印刷条件を印刷条件取得部130が取得するようにしてもよい。
【0030】
CMYKドットイメージ出力部140は、CMYK形式に変換されたドットイメージデータに対して中間調処理等を施して印刷装置20に出力する。ここで、中間調処理は、例えば、各色8ビットで表されたCMYKドットイメージを、印刷装置20で印刷可能な階調で表現するための処理である。また、CMYKドットイメージ出力部140は、印刷条件取得部130が取得した印刷条件をCMYKドットイメージと共に印刷装置20に出力する。
【0031】
図1に示すように、印刷装置20は、CMYK形式のドットイメージデータを入力するCMYKドットイメージ入力部210と、印刷機構220と、記録紙の給排紙動作を行う給排紙機構230と、各種表示及び設定入力を行うタッチパネルディスプレイ240とを備えている。
【0032】
本実施形態において、印刷機構220は、用紙搬送方向(副走査方向)に直交する主走査方向に伸び、多数のノズルが形成されたインクジェットヘッドを複数本備え、それぞれのインクジェットヘッドから黒またはカラーインクを吐出して印刷を行うインクジェット方式を採用している。ただし、他の方式を採用するようにしてもよい。
【0033】
図2は、
図1の印刷装置20の記録紙に対する印字(印刷)を行う部分の概略構成を示す平面図である。
図1の給排紙機構230は、
図2に示すように、記録紙400をレジストローラ370と協働してヘッドユニット310に搬送する搬送ベルト352を有している。なお、
図2中引用符号380は、記録紙400の搬送方向(副走査方向)における位置を検出する用紙位置センサ、390は搬送ベルト352上の記録紙400の位置を印字走査方向(主走査方向)において規制するガイドである。
【0034】
本実施形態の印刷装置20は、それぞれのインクジェットヘッドから黒またはカラーインクを吐出してライン単位で印刷を行うインクジェット方式のラインカラープリンタである。したがって、印刷装置20は、印刷機構220として、用紙搬送方向に直交する方向に伸び、多数のノズルが形成された色別のインクジェットヘッド312を含むヘッドユニット310を備えている。このヘッドユニット310は、レジストローラ370よりもさらに搬送方向の下流側に設けられている。記録紙400は、ヘッドユニット310の対向面に設けられた環状の搬送ベルト352によって印刷条件により定められる速度で搬送されながら、ヘッドユニット310の各インクジェットヘッド312に備えられたノズルから吐出されたインクによりライン単位で画像形成される。
【0035】
インクジェットヘッド312は、CMYKの色ごとに構成され、それぞれには、下面側に多数のノズルを配置したブロックが設けられている。
図2では、6個のブロックで1つのインクジェットヘッド312を構成している。ノズルは、解像度を高めるために、所定数単位で斜めに配置され、1または複数の列が各ブロックに形成される。本実施形態では、記録紙400の搬送方向における上流側から、C(シアン)、K(ブラック)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の順に各色インクのインクジェットヘッド312が配置されている。
【0036】
図3は、
図1の印刷装置の電気的な詳細構成を示すブロック図である。
図1に示す印刷装置20の給排紙機構230は、
図3に示すように、上述の用紙位置センサ380に加え、搬送路中の駆動ローラ等を含む搬送駆動部231を備えている。また、
図1に示す印刷機構220は、搬送駆動部231を制御する搬送駆動制御部221、後述するマルチパス処理を制御するマルチパス制御部222、画像処理を行う画像処理部223、印刷実行部224を備えている。画像処理部223は、各印刷におけるインク吐出量にしたがった画像データを前記印刷機構220に供給する画像処理を行う。印刷実行部224は、上述のインクジェットヘッド312に加え、インクジェットヘッド312が備えるノズルからのインク吐出を制御するヘッドドライバ225を備えている。
【0037】
本実施形態において、マルチパス制御部222は、再給紙の際に、用紙位置センサ380により検出される記録紙400の搬送方向の位置に基づいて、搬送駆動部231による記録紙400の搬送動作の制御を搬送駆動制御部221に実行させる処理を行う。
【0038】
図1の色変換装置10からのCMYKドットイメージデータをCMYKドットイメージ入力部210が受け取ると、画像処理部223が画像データに変換し、ヘッドドライバ225が画像データに基づいてインク吐出信号を生成し、インクジェットヘッド312でインク吐出が行われる。
【0039】
そのために、本実施形態の画像処理部223は、CMYK形式のドットイメージデータ(階調データ)を、インク量のデータ、即ち、インクジェットヘッド312のノズルから吐出するインクのドロップ数を示す印刷用多値データに変換する。この変換を行うために画像処理部223は、ルックアップテーブル(LUT)223aと、それを記憶するためのメモリとを備えている。ルックアップテーブル223aは、CMYK値と印刷用多値データの値(ドロップ数)との対応関係が記録されたテーブルである。
【0040】
図1に示したような色変換装置10と印刷装置20とは、例えば、
図4に示すようなシステム構成として具体的に実現することができる。
図4(a)は、プリンタドライバ410を備えたPC(パーソナルコンピュータ)40と、インクジェット印刷機構510を備えたインクジェットプリンタ50とでシステムを構成した例を示している。本システムではプリンタドライバ410が色変換部412を備えており、PC40のアプリケーションが作成したRGB形式の画像データや、デジタルカメラ等から読み込んだ画像データ等をPC40側でドットイメージに展開し、さらにCMYK形式に色変換処理を行ってインクジェットプリンタ50に出力する。この場合、PC40が色変換装置10として機能し、インクジェットプリンタ50が印刷装置20として機能する。
【0041】
図4(b)は、画像読取装置60と、プリンタドライバ710を備えたPC70と、ドットイメージ展開部810と色変換部820とインクジェット印刷機構830を備えたインクジェットプリンタ80とでシステムを構成した例を示している。本システムでは、画像読取装置60で読み取ったRGB形式の画像データを、インクジェットプリンタ80の色変換部820が色変換を行ってインクジェット印刷機構830で印刷を行う。あるいは、PC70のプリンタドライバ710が出力したページ記述言語を、インクジェットプリンタ80のドットイメージ展開部810がドットイメージに展開し、色変換部820がCMYK形式に色変換を行ってインクジェット印刷機構830で印刷を行う。この場合、インクジェットプリンタ80が色変換装置10および印刷装置20として機能する。
【0042】
なお、図示していないが、印刷装置20に画像読取部を備えさせ、画像読取部で読み取ったカラー画像のデータに基づく印刷を行う構成でも、本発明は適用可能である。この場合には、印刷装置20に色変換装置10が内蔵され、画像読取部で読み取ったカラー画像のデータを印刷装置20内の色変換装置10で画像処理することになる。
【0043】
ここで、本実施形態で扱う色空間の概要について
図5を参照して説明する。本実施形態では、国際照明委員会(ICE)で規格化されたL
* a
* b
* 表色系を扱うものとする。L
* a
* b
* 表色系では、明度をL
* 、色相と彩度を示す色度をa
* b
* で表す。
【0044】
図5(a)に示すように、a
* 、b
* は、色の方向を示すものであり、+a
* は赤方向、−a
* は緑方向、+b
* は黄方向、−b
* は青方向を示す。即ち、a
* b
* 平面における角度が色相を表すことになる。また、中心から離れるに従って色鮮やかになり、中心になるに従ってくすんだ色になる。即ち、中心からの距離が彩度を示すことになり、中心部分は無彩色となる。
【0045】
図5(b)は、L
* a
* b
* 表色系の色空間をL
* 軸方向も表示して、立体的に表したものである。この空間はカラー画像が表現可能な空間を示すものであり、一般に、印刷装置が実際に表現可能な色再現範囲はカラー画像データの色再現範囲よりも狭い。このため、カラー画像データを用いて印刷を行う場合には、印刷装置の色再現範囲に適応するように色空間を圧縮する色変換が行われる。
【0046】
次に、
図4(a),(b)に示すPC40の色変換部412やインクジェットプリンタ80の色変換部820で構成される、
図1の色変換装置10における色変換処理の概要について説明する。上述のように色変換装置10では、色変換処理部120に設けたルックアップテーブル122を用いて、RGB形式のドットイメージデータをCMYK形式のドットイメージデータに変換する。
【0047】
ここで、色変換処理部120のルックアップテーブル122はRGB色空間とCMYK色空間との対応表であるが、その対応表を作成するにあたっては、まず、RGB形式からL
* a
* b
* 表色系への対応関係を設定する。一般に、印刷装置の色再現範囲はデジタルカメラやディスプレイ装置の色再現範囲より狭いため、L
* a
* b
* 表色系において、色域を圧縮するための色変換の設定が行われる。次に、色変換後のL
* a
* b
* 表色系からCMYK形式への対応関係を設定することで、RGB形式からCMYK形式へのルックアップテーブルが作成される。
【0048】
図6は、
図1の色変換処理部120に設けたルックアップテーブル122の内容を示す説明図である。本実施形態のルックアップテーブル122は、
図1のRGBドットイメージ入力部110に入力されるカラー画像データをRGB表色系からL
* a
* b
* 表色系に変換する際の対応関係を示すテーブル(
図6(a)参照)と、L
* a
* b
* 表色系から印刷装置20に依存したCMYK形式への対応関係を設定するテーブル(
図6(b)参照)とを含んでいる。
【0049】
色変換処理部120は、RGBドットイメージ入力部110から入力されたRGBドットイメージデータ(カラー画像データ)を、
図6(a)に示すテーブルを用いて、RGB表色系からL
* a
* b
* 表色系に変換する。そして、変換後のカラー画像データについて、L
* a
* b
* の各値を、
図6(b)に示すテーブルを用いてCMYK表色系の各値に変換する。変換したCMYK表色系の各値は、CMYKドットイメージデータとして
図1のCMYKドットイメージ出力部140から印刷装置20に出力する。
【0050】
続いて、
図4(a),(b)に示すインクジェットプリンタ50,80のインクジェット印刷機構510,830で構成される、
図1の印刷装置20におけるデータ変換処理の概要について説明する。上述のように印刷装置20では、
図3の画像処理部223に設けたルックアップテーブル223aを用いて、CMYKドットイメージデータを印刷用多値データに変換する。
【0051】
ここで、画像処理部223のルックアップテーブル223aは、CMYK表色系によるカラー画像データ(CMYKドットイメージデータ)と印刷用多値データとの対応表である。具体的には、CMYK表色系によるカラー画像データにおけるCMYKの各値と、これに対応する
図2の各インクジェットヘッド312のノズルから吐出するCMYKの各インクのドロップ数との対応表である。
【0052】
図7は、
図3の画像処理部223に設けたルックアップテーブル223aの内容を示す説明図である。本実施形態のルックアップテーブル223aは、
図3のCMYKドットイメージ入力部210に入力されるCMYKドットイメージデータをCMYKの各色別に印刷用多値データに変換する際の対応関係を示すテーブルである。各色のルックアップテーブル223aは、色再現範囲を通常の範囲とする際に使用するデフォルトパターンテーブル(
図7(a)参照)と、色再現範囲を拡張する際に使用する2種類の拡張パターンテーブル(
図7(b),(c)参照)とを含んでいる。
図7(a)〜(c)のテーブルは、C(シアン)用、M(マゼンタ)用、Y(イエロー)用、K(ブラック)用にそれぞれ用意されている。
【0053】
図7(a)に示す通常の色再現範囲に対応するデフォルトパターンテーブルは、CMYKドットイメージデータの値に対応付けるインクのドロップ数の最大値(最大吐出量)を5ドロップ(請求項中の基準値)としている。ドロップ数の最大値(=5ドロップ)は、記録紙400におけるインクの滲み量や用紙の変形量、印刷面から裏面までインクが染みこむ裏抜けの度合いを考慮して決定される。
【0054】
図7(b),(c)に示す拡張パターンテーブルは、最大ドロップ数を5ドロップとする
図7(a)のデフォルトパターンテーブルよりも最大ドロップ数を増やし、それぞれ6ドロップ(請求項中の上限値)、7ドロップ(請求項中の上限値)にしたテーブルである。したがって、拡張パターンテーブルを用いてCMYKドットイメージデータをドロップ数に変換すると、デフォルトパターンテーブルを用いて変換した場合のドロップ数以上のドロップ数が割り当てられる。これにより、拡張パターンテーブルを用いてドロップ数に変換した色が属する色域において画像の濃度が増し、その色域の色再現範囲が増える。
【0055】
色再現範囲を拡張する特定色域として指定可能な範囲は、CMYK=(x1,y1,z1,α1)〜(x100,y100,z100,α100)の値で表される範囲である。この範囲の各値は、各色(黄色、山吹色、・・・、赤、緑、深緑、・・・)に対応している。この範囲で、CMYKの各最大値に対して、特定色域以外の色域では、
図7(a)のデフォルトパターンテーブルに定義された5ドロップ(100%)を割りあてる。また、特定色域では、
図7(b)の拡張パターンテーブルに定義された6ドロップ(120%)、又は、
図7(c)の拡張パターンテーブルに定義された7ドロップ(140%)を割りあてる。
【0056】
また、例えば赤色(C,M,Y,K)=(0,50,100,0)を特定色域に指定した場合は、M=50とY=100のドロップ数への変換に、
図7(b)及び
図7(c)の拡張パターンテーブルのうちどちらか一方(M,Y共に同じテーブル)を用いる。
【0057】
図8は、記録紙400への画像の印刷に用いる単位面積当たりのインク量に対する、印刷面上での画像の濃度(表濃度)、裏面上での裏抜けしたインクの濃度(裏抜け濃度)、用紙変形量(水性インク使用時、油性インク使用時)をそれぞれ示したグラフである。ここでは、記録紙400が普通紙であり、インクが一次色のインク(プロセスカラーインク)であり、印刷時の解像度が300dpiである場合について示している。
【0058】
なお、
図8のグラフの横軸は、各ドット(画素)を最大ドロップ数のインクで印刷した場合の単位面積当たりに使用したインク量のパーセンテージ値であり、最大ドロップ数=5とした場合のインク量を100%としている。また、
図8のグラフの縦軸は、表濃度及び裏抜け濃度を表すOD値と、用紙変形量を示すカール量である。
【0059】
図9(a)〜(c)は、
図8のカール量で表される用紙変形の概念と油性水性のインク別の用紙変形の様子とを示す説明図である。インクを用いて印刷すると、
図9(a)に示すように、インクの染み込みにより記録紙400に用紙変形(反り=カール)が生じる。記録紙400のカール量は、油性インクでは
図9(b)に示すようにそれほどではないが、水性インクでは
図9(c)に示すように結構大きな量となる。
【0060】
そこで、水性インクを用いた場合の記録紙400の用紙変形量について見ると、
図8に示すように、インク量にほぼ比例してカール量が増えることが分かる。一方、裏抜け濃度について見ると、インク量が100%を超えるとインク量の増加に対する裏抜け濃度の増加の度合いが増すことが分かる。また、表濃度について見ると、インク量が100%を超えると表濃度はほとんど増加しないことが分かる。このため、デフォルトパターンテーブルの最大ドロップ数は、上述した表濃度、裏抜け濃度、用紙変形量、カール量等が適切な範囲に収まるように決定する。
【0061】
図7(a)に示す本実施形態のデフォルトパターンテーブルの最大ドロップ数である「5」は、
図8のグラフに示した各値の前提とした、記録紙400が普通紙で印刷時の解像度が300dpiである場合の、インク量=100%に対応するドロップ数として決定している。したがって、記録紙400の種類や印刷時の解像度が変われば、それに応じてデフォルトパターンテーブルの最大ドロップ数も変わる。
【0062】
なお、通常の色再現範囲に対応する
図7(a)のデフォルトパターンテーブルを用いてCMYKドットイメージデータの値から変換したドロップ数で画像を印刷すると、記録紙400上での画像の表濃度(OD値)は、大体「1」となる。
【0063】
一方、最大ドロップ数を「6」以上にすると、最大ドロップ数を「5」に増やすまでのようには表濃度が顕著に増加しないが、それでも、最大ドロップ数が「5」である場合に比べれば、表濃度が多少なりとも増加する。表濃度が増加すれば、そのインク色が属する色域において色再現範囲が拡張する。
【0064】
例えば、
図7(a)のデフォルトパターンテーブルを用いて変換したドロップ数で印刷した画像のある明度L
* における色再現範囲が、
図10(a)の下半部に示すようなものであるとする。ここで、
図7(b),(c)の拡張パターンテーブルを使用して、
図10(a)の上半部に示すa
* b
* 平面上の扇形の色域(特定色域)に属する色(ここではM(マゼンタ)とする)のインクの濃度を増やすと、
図10(b)の下半部に示すように、R(レッド)を含む色域の色再現範囲が拡張する。
【0065】
図11は、
図10(a),(b)の上半部に示すa
* b
* 平面上の扇形の色域(特定色域)の中央の色相に関する明度別(濃度別)の色再現範囲を、特定色域に対応する色のインクの最大ドロップ数の増加前後について示す説明図である。
図11に示すように、例えば明度L
* =40における目標色(RGBドットイメージデータの色)が、
図11中実線で示す、特定色域に属する色のインクの最大ドロップ数を増加する前の色再現範囲には含まれない色であるものとする。
【0066】
ここで、特定色域に属する色のインクの最大ドロップ数を増やすと、特定色域における画像の表濃度が増加し、これにより、明度L
* =40における特定色域の色再現範囲が拡張して、
図11中破線で示すように、色再現範囲が目標色を含むようになる。
【0067】
なお、特定色域の色再現範囲を拡張させるために、最大ドロップ数がデフォルトパターンテーブルよりも多い拡張パターンテーブルを用いてCMYKドットイメージデータの値から変換したドロップ数で画像を印刷すると、
図8のグラフの横軸に示すインク量(%)の値が100%よりも高くなる。すると、表濃度だけでなく裏抜け濃度や水性インクを用いた場合の用紙変形量も、相対的に増加する。
【0068】
図8のグラフに示す例では、インク量が150%を超えると裏抜け濃度の増加率が高くなっている。そこで、拡張パターンテーブルの最大ドロップ数は、拡張パターンテーブルを用いて変換したドロップ数で画像を印刷した場合のインク量が150%以下となるようにするのが望ましい。
【0069】
図7(c)に示す本実施形態の拡張パターンテーブルの最大ドロップ数である「7」は、
図8のグラフに示した各値の前提とした、記録紙400が普通紙で印刷時の解像度が300dpiである場合の、インク量=150%に対応するドロップ数として決定している。また、
図7(b)に示す拡張パターンテーブルの最大ドロップ数である「6」は、
図7(c)の拡張パターンテーブルの最大ドロップ数よりも1つ少ないドロップ数としている。
【0070】
上述したデフォルトパターンテーブルと拡張パターンテーブルとの使い分けにより、特定色域に属する色のインクの最大吐出量を増やして特定色域の色再現範囲を拡張する場合の考え方としては、次の2つがある。
【0071】
1つ目は、特定色域に属する色のインクに限ってインクの最大吐出量を増やし、特定色域以外の色域に属する色のインクについては、最大吐出量を増やさないと言う考え方である。
【0072】
この考え方を実行する際には、通常はデフォルトパターンテーブルを用いて行うCMYKドットイメージデータからドロップ数への変換を、拡張パターンテーブルを用いて行うように変更することで、インクの最大吐出量の増加を実現する。
【0073】
この考え方は、
図10(b)の下半部に示すように、特定色域だけ限定的に色再現範囲を拡張するイメージとなる。
【0074】
2つ目は、色再現範囲を拡張する色域がある場合に、形式上は全ての色のインクについてインクの最大吐出量を増やすものの、CMYKドットイメージデータからドロップ数への変換の際に、運用上では、色再現範囲を拡張したい特定色域を除くそれ以外の色域に属する色のインクに、5ドロップ以下のドロップ数しか割り当てないと言う考え方である。
【0075】
この考え方を実行する際には、まず、全ての色のインクの最大吐出量を5ドロップから6又は7ドロップに増やす。そして、特定色域に属する色のインクについては、インクの最大吐出量を5ドロップ以下に限定しないので、最大7ドロップ(又は最大6ドロップ)までのドロップ数を割り当てるために、拡張パターンテーブルを用いてCMYKドットイメージデータからドロップ数に変換する。一方、特定色域以外の色域に属する色のインクについては、実際に割り当てるインクの最大吐出量を5ドロップ以下に制限するために、デフォルトパターンテーブルを用いてCMYKドットイメージデータからドロップ数に変換する。
【0076】
この考え方は、形式上は全ての色のインクについてインクの最大吐出量を増やすので、見かけ上は、
図12の説明図に示すように、全ての色域について色再現範囲を一旦拡張するイメージとなる。但し、運用上は特定色域以外の色域に属する色のインクの最大吐出量を5ドロップ以下に制限するので、結果的には、
図10(b)の下半部に示すように、特定色域だけ限定的に色再現範囲が拡張されることになる。
【0077】
画像処理部223は、CMYKドットイメージ入力部210から入力されたCMYK表色系によるカラー画像データ(CMYKドットイメージデータ)を、
図7(a)〜(c)のテーブルのうちいずれかをルックアップテーブル223aとして用いて、CMYKの各色別に、ヘッドユニット310の対応する色のインクジェットヘッド312のノズルから吐出するインクのドロップ数(印刷用多値データ)に変換する。
【0078】
図7(a)〜(c)のいずれのテーブルをルックアップテーブル223aとして用いるかは、CMYKの各色が、色再現範囲を拡張する特定色域に属する色であるか否かによって変わる。そこで、次に、色再現範囲を拡張する特定色域をタッチパネルディスプレイ240からの入力操作によって指定する場合について説明する。
【0079】
図13は、印刷装置20のタッチパネルディスプレイ240に表示される色再現範囲の拡張の有無や色再現範囲を拡張する色域の入力指定画面を示す説明図である。本実施形態の入力指定画面241は、色再現範囲を拡張するか否かを、印刷モードの選択によって行うようにしている。そのために、タッチパネルディスプレイ240の入力指定画面241は、スピード優先モード、中間モード、彩度優先モードの3つのモード選択領域241a〜241cを有している。いずれかの領域241a〜241cをタッチ操作すると、対応するモードが選択される。
【0080】
中間モードや彩度優先モードを選択すると、色再現範囲を拡張する特定色域の指定操作がさらに要求される。特定色域の指定操作は、入力指定画面241中の特定色域の指定領域241dのタッチ操作によって行う。特定色域の指定領域241dは、本実施形態では、L
* 平面上の濃度を指定する領域と、a
* b
* 平面上の色相を指定する領域とを有している。これらの領域を適宜タッチ操作することで、CMYK=(x1,y1,z1,α1)〜(x100,y100,z100,α100)の範囲から特定色域が指定される。なお、特定色域の指定範囲なお、色再現範囲を拡張する特定色域を2つ以上指定できるようにしてもよい。
【0081】
なお、特定色域を入力指定画面241のタッチ操作で指定するのではなく、中間モードや彩度優先モードにそれぞれ対応して予め定められた色域が、色再現範囲を拡張する特定色域とされるように構成してもよい。この場合は、特定色域の指定領域241dは不要となる。
【0082】
上述した
図13の入力指定画面241のタッチ操作で、印刷モードとして中間モードか彩度優先モードを選択し、CMYK=(x90,y90,z90,α90)〜(x100,y100,z100,α100)の範囲を特定色域として指定した場合は、画像処理部223は、変換の際に用いるルックアップテーブル223aを、色域別に次のように使い分ける。
【0083】
まず、CMYK=(x1,y1,z1,α1)〜(x90,y90,z90,α90)の範囲(特定色域以外)では、
図7(a)のデフォルトパターンテーブルをルックアップテーブル223aとして用いる。一方、CMYK=(x90,y90,z90,α90)〜(x100,y100,z100,α100)の範囲(特定色域)では、
図7(b)の拡張パターンテーブル(印刷モードが中間モードである場合)、又は、
図7(c)の拡張パターンテーブル(印刷モードが彩度優先モードである場合)を、ルックアップテーブル223aとして用いる。
【0084】
したがって、スピード優先モードを選択すると、
図7(a)のデフォルトパターンテーブルを用いて、CMYKの各ドットパターンデータがそれぞれの色のインクに関するドロップ数に変換される。一方、中間モードや彩度優先モードを選択すると、併せて指定した特定色域に属する色のドットパターンデータが、
図7(b)に示す拡張パターンテーブル(中間モード)や
図7(c)に示す拡張パターンテーブル(彩度優先モード)を用いて、対応する色のインクに関するドロップ数に変換される。また、指定した特定色域以外の色域に属する色のドットパターンデータが、
図7(a)のデフォルトパターンテーブルを用いて、対応する色のインクに関するドロップ数に変換される。
【0085】
なお、特定色域が、吐出量を増やしてもその色(一次色)の色再現範囲があまり拡張しない色のインクに大きく依存する色相である場合は、特定色域に属する色のインクのCMYKドットパターンデータをインクのドロップ数に変換する際に、特定色域に指定した色相に応じて最大ドロップ数を異ならせてもよい。
【0086】
例えば、特定色域に属する色のインクにY(イエロー)のインクが含まれる場合、特定色域の色相がY(イエロー)かそれに近い色であれば、Y(イエロー)のインクの最大吐出量を増やしても、特定色域の色再現範囲はそれほど大きく変わらない。それに比べて、特定色域の色相がR(レッド)やそれに近い色であると、Y(イエロー)のインクの最大吐出量を増やすことで、特定色域の色再現範囲が大きく拡張する。そこで、特定色域の色相がR(レッド)かそれに近ければ、Y(イエロー)の最大ドロップ数を7ドロップとし、Y(イエロー)かそれに近ければ、Y(イエロー)の最大ドロップ数を6ドロップとするようにしてもよい。
【0087】
以上に説明したように、
図3の印刷装置20の画像処理部223は、
図13のタッチパネルディスプレイ240の入力指定画面241で選択されたモード(スピード優先モード、中間モード、彩度優先モード)と、中間モードや彩度優先モードに関する特定色域とを確認する。そして、そのモードや特定色域に基づいて、CMYKドットイメージデータから印刷用多値データへの変換に用いるルックアップテーブル223a(
図3参照)を、CMYKの各色毎にそれぞれ決定する。
【0088】
したがって、
図3の画像処理部223が印刷実行部224のヘッドドライバ225に出力するカラー画像のプロファイルは、CMYKの色毎に、ルックアップテーブル223aとして
図7(a)〜(c)のいずれかのパターンテーブルをそれぞれ用いて変換した印刷用多値データの情報を含むものとなる。
【0089】
このため、本実施形態の印刷装置20で色再現範囲を拡張する特定色域は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の三原色である一次色に限らず、一次色どうしを減法混色した二次色や、二次色にさらに一次色を減法混色した三次色についても設定することができる。
【0090】
なお、
図3の画像処理部223は、
図13のタッチパネルディスプレイ240の入力指定画面241で中間モードや彩度優先モードを選択し、色再現範囲を拡張する特定色域の指定した場合に、印刷条件取得部130(
図1参照)が取得する印刷条件を考慮に入れて、ルックアップテーブル223aとして
図7(a)〜(c)のどのパターンテーブルを用いるかを決定するようにしてもよい。
【0091】
例えば、印刷条件取得部130(
図1参照)が取得する印刷条件中の、記録紙400の種類に応じて、CMYKドットパターンデータからインクのドロップ数に変換する際の最大ドロップ数を異ならせてもよい。
【0092】
つまり、普通紙とマット紙とでは普通紙の方がドットゲインが大きく、マット紙とインクジェット用ハガキ(IJハガキ)とではマット紙の方がドットゲインが大きい。ドットゲインが大きいと、ドットゲインが小さい場合に比べて、最大ドロップ数を増やしてもドット径の増加が少ないので色再現範囲の拡張効果が少ない。そこで、例えば、
図14の説明図に示すように、インクジェット用ハガキ(IJハガキ)、マット紙、普通紙とドットゲインが大きい種類の記録紙400になるほど、最大ドロップ数を低くすることもできる。
【0093】
また、
図3の画像処理部223は、印刷条件取得部130(
図1参照)が取得する印刷条件中の、カラー画像の印刷時の解像度に応じて、CMYKドットパターンデータからインクのドロップ数に変換する際の最大ドロップ数を異ならせてもよい。
【0094】
つまり、カラー画像を印刷する際の解像度が高いと、解像度が低い場合に比べて、ドット間隔が短いので最大ドロップ数を増やしても濃度変化が少なく、色再現範囲の拡張効果が少ない。そこで、例えば、
図14の説明図に示すように、解像度が低い場合よりも高い場合に最大ドロップ数を低めにすることもできる。
【0095】
なお、
図14の説明図のパターンでは、記録紙400が普通紙で印刷時の解像度が600dpiである場合は、最大ドロップ数を4ドロップとしている。そこで、
図7(a)〜(c)のパターンテーブルとは異なる、最大ドロップ数を4ドロップとするパターンテーブルを別途用意してもよく、例えば、
図7(a)のデフォルトパターンテーブルを用いて変換したドロップ数が5ドロップとなった場合に、一律に4ドロップに下げる等して対応してもよい。
【0096】
また、本実施形態の印刷装置20とは異なり、記録紙400の搬送方向(副走査方向)における1行分のドット列の印刷を複数回の主走査方向への走査で行うマルチパス方式のインクジェットプリンタを、カラー画像の印刷に用いる場合は、1行分のドット列を印刷する際の印刷走査回数も、印刷条件として考慮することができる。
【0097】
例えば、印刷走査回数が多いと、少ない場合よりも1つのドットに対してインクを吐出する回数が増える。その吐出のたびに、最大ドロップ数の増加により吐出するインクのドロップ数が相対的に増えると、それに伴う印刷時間の増加を印刷走査回数分積算した累積増加時間が大きくなり、印刷の所要時間の長時間化を招く。
【0098】
そこで、印刷走査回数が多い場合は、少ない場合に比べて相対的に、特定色域以外の色域に属する色のインクの最大ドロップ数の増加幅を小さく抑えるようにしてもよい。
【0099】
ちなみに、特定色域に属する色の色再現範囲を一律に拡張したい場合もあれば、一部の色相については色再現範囲を拡張したくない場合もあり得る。具体的には、R(レッド)の色相について色再現範囲を拡張したいものの、そうすると、肌色についても連鎖的に色再現範囲が拡張されて、肌色の色味が意図せず変わってしまうケース等が考えられる。
【0100】
一般に記憶色である肌色は、わずかな色味の変化でも見た目の印象が大きく変わってしまう。そこで、色再現範囲を拡張する特定色域に肌色が含まれている場合には、例外的に、肌色を色再現範囲の拡張対象から除外することが望ましい。
【0101】
そこで、
図3の画像処理部223は、例えば、肌色のような色域を所定の色域として予め定義しておき、所定の色域が特定色域中に含まれる場合は、特定色域のうち所定の色域を除いた色域のCMYKドットイメージに限り、
図7(b),(c)の拡張パターンテーブルをルックアップテーブル223aとして用いてドロップ数に変換するようにしてもよい。
【0102】
次に、
図1に示す本実施形態の色変換装置10の色変換処理部120が
図6のルックアップテーブル122を用いて行うカラー画像データのカラーマッチング処理(画像処理)について、
図15のフローチャートを参照して説明する。
【0103】
まず、色変換処理部120は、RGBドットイメージ入力部110から入力されたRGBドットイメージデータ(カラー画像データ)を、
図6(a)に示すテーブルを用いて、RGB表色系における各値からL
* a
* b
* 表色系における各値に変換する(ステップS101)。
【0104】
そして、色変換処理部120は、変換したRGBドットイメージデータ(カラー画像データ)を、
図6(b)に示すように、L
* a
* b
* 表色系における各値からCMYK表色系における各値に変換する(ステップS103)。
【0105】
続いて、色変換処理部120は、変換したCMYK表色系によるカラー画像データ(CMYKドットイメージデータ)を、印刷条件取得部130が取得した印刷条件と共に、CMYKドットイメージ出力部140から印刷装置20のCMYKドットイメージ入力部210に出力する(ステップS105)。その後、色変換処理部120は、一連の処理を終了する。
【0106】
次に、
図3に示す本実施形態の印刷装置20の画像処理部223がルックアップテーブル223aを用いて行う処理(印刷処理)について、
図16のフローチャートを参照して説明する。
【0107】
まず、画像処理部223は、CMYKドットイメージ入力部210から入力されたCMYKドットイメージデータ(カラー画像データ)が入力されたか否かを確認する(ステップS201)。入力された場合は(ステップS201でYES)、
図13のタッチパネルディスプレイ240の入力指定画面241で選択されたモードや指定された特定色域に基づいて、CMYKドットイメージデータから印刷用多値データ(ドロップ数)に変換する際にルックアップテーブル223aとして用いるテーブルを、インク色別に決定する(ステップS203)。
【0108】
ここで、指定された特定色域が肌色の色域(所定の色域)を含む場合は、画像処理部223は、肌色の色域の変換には
図7(c)の拡張パターンテーブル(最大ドロップ数=7)でなく、
図7(a)のデフォルトパターンテーブル(最大ドロップ数=5)を用いると決定する。
【0109】
なお、指定された特定色域に属する色のインクに、吐出量を増やしてもその色(一次色)の色再現範囲があまり拡張しない色のインクが含まれる場合に、画像処理部223は、特定色域の色相に基づいて、その色のCMYKドットイメージデータをドロップ数に変換するのに、
図7(b)の拡張パターンテーブル(最大ドロップ数=6)と
図7(c)の拡張パターンテーブル(最大ドロップ数=7)のどちらを用いるかを決定するようにしてもよい。
【0110】
例えば、特定色域に属する色のインクにY(イエロー)のインクが含まれる場合に、画像処理部223は、特定色域の色相がR(レッド)かそれに近ければ、
図7(c)の拡張パターンテーブル(最大ドロップ数=7)を変換に用い、特定色域の色相がY(イエロー)かそれに近ければ、
図7(b)の拡張パターンテーブル(最大ドロップ数=6)を用いると決定するようにしてもよい。
【0111】
次に、画像処理部223は、ステップS203でインク色別に決定した、ルックアップテーブル223aとして用いるテーブルを、CMYKドットイメージデータと共にCMYKドットイメージ入力部210から入力された印刷条件(記録紙400の種類、解像度)に基づいて、必要な場合は変更する(ステップS205)。
【0112】
例えば、印刷条件中に、印刷時の解像度が300dpiで記録紙400が普通紙であるとの条件が含まれている場合は、特定色域に属する色の変換に使用するテーブルとしてステップS203で決定した
図7(b),(c)の拡張パターンテーブル(最大ドロップ数=6,7)を、
図7(a)のデフォルトパターンテーブル(最大ドロップ数=5)に変更する。
【0113】
続いて、画像処理部223は、ステップS203で決定し、必要に応じてステップS205で変更したテーブルをルックアップテーブル223aとして用いて、CMYKドットイメージ入力部210から入力されたCMYKドットイメージデータ(カラー画像データ)を、各インク色毎にドロップ数に変換する(ステップS207)。
【0114】
さらに、画像処理部223は、変換したドロップ数を印刷実行部224のヘッドドライバ225に出力する(ステップS209)。その後、画像処理部223は、一連の処理を終了する。
【0115】
このように、本実施形態によれば、タッチパネルディスプレイ240の入力指定画面241から色再現範囲を拡張する特定色域の指定操作が行われると、原則的に、指定された特定色域に属する色のインクのCMYKドットパターンデータからインクのドロップ数に変換する際の最大ドロップ数が、通常のドロップ数(5ドロップ)よりも増加される(7ドロップ)。つまり、カラー画像を構成する各ドットに吐出されるインクの最大ドロップ数(カラー画像の印刷に用いるインクの単位面積当たりの最大吐出量)が、特定色域ではそれ以外の色域よりも多くなる。
【0116】
すると、特定色域においてはそれ以外の色域よりも、印刷したカラー画像における色の濃さが(明度は同じまま)増して色再現範囲が拡張する。よって、特定色域を適切に設定することで、カラー画像を印刷する際の色再現範囲を任意の色相について拡張させることができる。
【0117】
また、本実施形態によれば、特定色域に肌色等の所定の色域が含まれていると、画像処理部223は、特定色域中の所定の色域を除く色域についてのみ、その色域に属する色について、
図7(b),(c)の拡張パターンテーブル(最大ドロップ数=6,7)を用いてドロップ数に変換する。
【0118】
したがって、特定色域の色再現範囲を拡張するためのインクの最大吐出量の増加に連動して、特定色域に含まれる一部の色再現範囲を拡張する必要のない色域のインクの最大吐出量まで増加されてしまうのを、防ぐことができる。よって、例えば赤の色域の色再現範囲を拡張したい場合に、自然色に再現されていた肌色の色味が連動して自然色とは異なる色にシフトしてしまうのを防ぐことができる。
【0119】
さらに、本実施形態によれば、カラー画像の印刷時における解像度や記録紙400の種類に基づいて、あるいは、特定色域に属するインクの色に応じて、特定色域やそれ以外の色域のCMYKドットパターンデータからインクのドロップ数に変換する際にルックアップテーブル223aとして用いるテーブルを変更(補正)するようにした。
【0120】
このため、印刷時における解像度や記録紙400の種類(ドットゲイン)、あるいは、特定色域に属するインクの色によって、最大ドロップ数を増加させた場合の色再現範囲の拡張効果に違いがある場合に、それぞれの特性に応じた適切な最大ドロップ数を割り当てて、用紙におけるインクの滲み量や用紙の変形量、インクの裏抜けの度合いを適切な範囲に収めつつ、特定色域の色再現範囲を拡張させることができる。
【0121】
また、本実施形態によれば、カラー画像の印刷時における画質と印刷速度との優先度を、タッチパネルディスプレイ240の入力指定画面241において印刷モードとして指定して、指定した印刷モードに応じたテーブルをルックアップテーブル223aとして用いて、CMYKドットパターンデータからインクのドロップ数に変換するようにした。
【0122】
このため、同一の画素(ドット)に吐出するインクのドロップ数の最大値(最大ドロップ数)を増やして色再現範囲の拡張を図るのに当たり、最大ドロップ数の増加による色再現範囲の拡張と、それに相反して低下する印刷速度とのどちらを優先するかを、適切に選択、設定することができる。
【0123】
なお、本実施形態では、色変換装置10において、RGB表色系からL
* a
* b
* 表色系に色空間を変換する場合について説明したが、L
* a
* b
* 表色系に代えて、印刷装置20に依存しない他の色空間からCMYK表色系に色空間を変換するようにしてもよい。