【文献】
佐藤根 大士 等,静水圧測定法を用いた濃厚スラリーの粒子径分布測定 : 初期濃度の影響,粉体工学会誌,2011年 7月10日,Vol.48,No.7,456-463
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ナノ粒子スラリーと、前記ナノ粒子スラリーの分散媒との間に、前記ナノ粒子スラリー中のナノ粒子を透過させない半透膜を配設して前記ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定する請求項1に記載のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法。
前記半透膜の孔径が、前記ナノ粒子の最小粒子径より小さく、且つ、前記分散媒に含まれる分散媒粒子の最大粒子径より大きい請求項2に記載のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法。
前記半透膜の孔径が、前記ナノ粒子の最小粒子径より小さく、且つ、前記分散媒に含まれる分散媒粒子の最大粒子径より大きい請求項5に記載のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0023】
本発明のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法においては、ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定することにより、ナノ粒子スラリーの分散凝集状態を、簡便に且つ直接的に評価することを可能としている。
【0024】
ここで、ナノ粒子の粒子径は極めて小さいため、ナノ粒子スラリーは、適当な半透膜、即ち、ナノ粒子のみを透過しない半透膜を用いた場合、溶液と同様に浸透圧が発生している。そして、溶液における溶質分子は、ナノ粒子スラリーにおけるナノ粒子と考えることができ、溶液における濃度は、ナノ粒子スラリーにおけるナノ粒子の見かけ個数濃度と考えることができる。
【0025】
そのため、ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定することにより、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の個数濃度を推測すること、即ち、ナノ粒子スラリーの分散凝集状態を評価することが可能となる。具体的には、ナノ粒子スラリーの浸透圧の測定結果が高いことは、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の見かけ個数濃度が高いことを示しており、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の分散が進んでいると評価することができる。一方、ナノ粒子スラリーの浸透圧の測定結果が低いことは、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の見かけ個数濃度が低いことを示しており、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の凝集が進んでいると評価することができる。
【0026】
なお、本明細書中、単に「ナノ粒子」というときは、個々のナノ粒子、即ち、ナノ粒子の分散凝集状態を問わず、単独のナノ粒子、及び凝集粒子を構成する個々のナノ粒子の両方を含み、「ナノ粒子の粒子径」とは、個々のナノ粒子の粒子径、即ち、ナノ粒子が凝集している場合、その凝集粒子を構成する個々のナノ粒子の粒子径を意味するものとする。本明細書中、「見かけ個数濃度」というときは、ナノ粒子の個数濃度ではなく、ナノ粒子が凝集した凝集粒子を1個の粒子と考えた場合の個数濃度を意味し、「見かけ粒子径」というときは、ナノ粒子の粒子径ではなく、ナノ粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を考えた場合の平均粒子径を意味するものとする。
【0027】
〔1〕ナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法
本発明のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法は、ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定することにより、ナノ粒子スラリーの分散凝集状態を評価することを含む方法である。以下、本発明のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法の一実施形態について、詳細に説明する。
【0028】
本実施形態のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法において、ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定する方法としては、特に制限なく、従来公知の浸透圧測定方法を用いることができる。
【0029】
ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定する方法としては、ナノ粒子スラリーと、ナノ粒子スラリーの分散媒との間に、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子を透過させない半透膜を配設してナノ粒子スラリーの浸透圧を測定する方法が好ましい。このようなナノ粒子を透過させない半透膜を用いることにより、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子以外の成分、即ち、水分子等の分散媒粒子のみを透過させ、ナノ粒子スラリーとナノ粒子スラリーの分散媒との間に生じる浸透圧を好適に測定することができる。
【0030】
半透膜は、評価するナノ粒子スラリー中のナノ粒子の粒子径に応じて、適宜選択すれば良い。即ち、ナノ粒子の粒子径分布の最小粒子径より小さく、且つ、ナノ粒子スラリー中の分散剤分子の粒子径及び水和したイオンの粒子径より大きい孔径を有する半透膜であれば特に制限はない。
【0031】
半透膜の孔径は一般的に分布を有するものである。そのため、半透膜の孔径は、ナノ粒子の最小粒子径の1/2以下であり、且つ、分散媒に含まれる分散媒粒子の最大粒子径の2倍以上であることが望ましい。孔径が分散媒粒子の最大粒子径の2倍未満であると、分散剤分子や水和したイオン等の分散媒粒子も半透膜を透過することが出来ず、分散媒粒子の浸透圧も測定されてしまうことがある。一方、孔径がナノ粒子の最小粒子径の1/2超であると、測定対象のナノ粒子が半透膜を透過してしまうことがある。例えば、最小粒子径が10nmであるシリカ粒子が、Na
2Oにより水中に分散したスラリーの分散凝集状態を評価する場合、半透膜の孔径は、シリカ粒子の最小粒子径10nmよりも小さく、且つ、分散媒中の最大粒子である水和したナトリウムイオンの粒子径0.28nmよりも大きいことが必要であり、孔径が0.56〜5nmの半透膜を用いることが好ましい。
【0032】
半透膜としては、例えば、平均粒子径が10〜100nmであるナノ粒子の場合、限外ろ過膜を用いることが好ましい。このような半透膜を用いることにより、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の見かけの個数によって生じる浸透圧をより正確に測定することができる。
【0033】
半透膜の形状は、ナノ粒子スラリーの分散媒に対する浸透圧の測定を正確に行うことができる限り、制限されない。例えば、単層膜であっても、多層膜(複合膜)であっても良い。中でも、単層であり且つ平膜(シート)状であることが好ましい。
【0034】
半透膜の厚さは、適切な強度を確保できる範囲で出来る限り薄いことが望ましい。例えば、厚さ0.23mmの限外ろ過膜を使用することができる。
【0035】
半透膜の材質としては、各種ポリマー、セラミックス等を用いることができる。
【0036】
浸透圧の測定に際して、半透膜が2枚以上の多孔板に挟まれた状態で測定することが好ましい。このように構成することにより、分散媒やスラリーを投入する際の液圧、浸透圧の発生等によって半透膜が変形、破損することを抑制することができる。多孔板の孔径は、分散媒やスラリーを投入する際の液圧、浸透圧の発生等によって、半透膜が変形、破損しない程度であれば良い。
【0037】
多孔板の材質としては、例えば、アクリル、金属等を用いることができる。また多孔板の代わりに金属焼結体や多孔質プラスチック成形体等の多孔質体を用いても良い。
【0038】
多孔板の形状は、半透膜の形状に合わせて設定すれば良く、孔を有する限り特に限定されない。例えば、直径52mm、厚さ2mmの円板状の多孔板を用いることができる。多孔板の孔の数、形状、配置も特に制限されない。例えば、
図2に示すように、直径4mmの円形の孔32が7個配置された多孔板31を用いることができる。
図2は、多孔板の一例を模式的に示す上面図である。
【0039】
半透膜は、浸透圧の測定に際して、分散媒中で沸騰しない程度に真空脱泡した後、減圧下、分散媒中で約1日静置しておいたものを用いることが好ましい。
【0040】
本実施形態のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法において評価されるナノ粒子スラリーとしては、例えば、平均粒子径が1〜100nmのナノ粒子を含むスラリーを評価することができる。ナノ粒子としては、材質や表面特性も、特に制限なく、各種ナノ粒子を含有するナノ粒子スラリーを評価することができる。
【0041】
ナノ粒子としては、具体的には、コロイダルシリカ、樹脂、タンパク質、デオキシリボ核酸(DNA)、チタニア、アルミナ等を挙げることができる。中でも、コロイダルシリカ、樹脂、タンパク質、デオキシリボ核酸(DNA)等のナノ粒子を含有するナノ粒子スラリーを好適に評価することができる。
【0042】
ナノ粒子スラリーの分散媒としては、水、塩化ナトリウム水溶液、Na
2O水溶液、エタノールやトルエンといった各種有機溶媒等を用いることができる。中でも、水、塩化ナトリウム水溶液等の分散媒を有するナノ粒子スラリーを好適に評価することができる。これら分散媒を構成する粒子の水和状態での粒子径は、半透膜を容易に透過するという観点から、半透膜の孔径の1/2以下であることが好ましい。なお、上述のような分散媒を構成する粒子とは、水分子、ナトリウムイオン、塩化物イオン等である。
【0043】
上述のナノ粒子スラリーの浸透圧は、例えば
図1に示すような、後述する本発明のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置1を用いて好適に測定することができる。
【0044】
〔2〕ナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置
以下、本発明のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置は、例えば
図1に示すような、ナノ粒子スラリーを収容するスラリー室10と、前記ナノ粒子スラリーの分散媒を、密閉した状態で収容する分散媒室20と、前記スラリー室10と前記分散媒室20とを隔離すると共に、前記ナノ粒子スラリー中のナノ粒子を透過させない半透膜30と、前記分散媒室20の内圧を測定する圧力センサ40と、を備える装置である。
図1は、本発明のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0045】
〔2−1〕スラリー室
スラリー室10は、ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定する際にナノ粒子スラリーを収容しておくための空間である。
【0046】
スラリー室10の形状は、隣接する分散媒室20と境界面を有している限り、特に制限されない。例えば、直方体状とすることができる。スラリー室10の上部に、分散媒を注入するための注入口11を設けても良い。
【0047】
スラリー室10を区画形成する壁の材質としては、例えば、ステンレス等の金属や、樹脂を好適に用いることができる。
【0048】
〔2−2〕分散媒室
分散媒室20は、スラリー室10に隣接し、ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定する際に分散媒を密閉した状態で収容しておくための空間である。そして、分散媒室20は、ナノ粒子スラリーの浸透圧を測定するために、内圧が圧力センサ40によって測定できるように構成されている。
【0049】
分散媒室20の形状は、隣接するスラリー室10と境界面を有している限り、特に制限されない。例えば、直方体状とすることができる。分散媒室20の上部に、分散媒を注入するための注入口21を設けても良い。
【0050】
分散媒室20を区画形成する壁の材質としては、例えば、ステンレス等の金属や、樹脂を好適に用いることができる。
【0051】
分散媒室20を密閉する方法としては、例えば、上記注入口21に活栓22を設けることができる。
【0052】
〔2−3〕半透膜
半透膜30は、スラリー室10と分散媒室20との境界面に配設され、ナノ粒子スラリーと分散媒とを隔離すると共に、前記ナノ粒子スラリー中のナノ粒子を透過させないものである。このようなナノ粒子を透過させない半透膜を用いることにより、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子以外の成分、即ち、水分子等の分散媒粒子のみを透過させ、ナノ粒子スラリーとナノ粒子スラリーの分散媒との間に生じる浸透圧を好適に測定することができる。このような半透膜としては、その孔径が、ナノ粒子の最小粒子径より小さく、且つ、分散媒に含まれる分散媒粒子の最大粒子径より大きい半透膜を用いることが好ましく、限外ろ過膜を用いることが更に好ましい。このような半透膜を用いることにより、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の見かけの個数によって生じる浸透圧をより正確に測定することができる。
【0053】
なお、半透膜としては、上述の本発明のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価方法において用いることができる半透膜と同様のものを用いることができる。
【0054】
半透膜は、評価するナノ粒子スラリー中のナノ粒子の粒子径に応じて、適宜選択すれば良い。即ち、ナノ粒子の粒子径分布の最小粒子径より小さく、且つ、分散媒に含まれる分散媒粒子の最大粒子径より大きい孔径を有する半透膜であれば特に制限はない。
【0055】
半透膜の孔径は一般的に分布を有するものである。そのため、半透膜の孔径は、ナノ粒子の最小粒子径の1/2以下であり、且つ、分散媒に含まれる分散媒粒子の最大粒子径の2倍以上であることが望ましい。孔径が分散媒粒子の最大粒子径の2倍未満であると、分散剤分子や水和したイオン等の分散媒粒子も半透膜を透過することが出来ず、分散媒粒子の浸透圧も測定されてしまうことがある。一方、孔径がナノ粒子の最小粒子径の1/2超であると、測定対象のナノ粒子が半透膜を透過してしまうことがある。例えば、最小粒子径が10nmであるシリカ粒子が、Na
2Oにより水中に分散したスラリーの分散凝集状態を評価する場合、半透膜の孔径は、シリカ粒子の最小粒子径10nmよりも小さく、且つ、分散媒中の最大粒子である水和したナトリウムイオンの粒子径0.28nmよりも大きいことが必要であり、孔径が0.56〜5nmの半透膜を用いることが好ましい。
【0056】
半透膜としては、例えば、平均粒子径が10〜100nmであるナノ粒子の場合、限外ろ過膜を用いることが好ましい。このような半透膜を用いることにより、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の見かけの個数によって生じる浸透圧をより正確に測定することができる。
【0057】
半透膜の形状は、ナノ粒子スラリーの分散媒に対する浸透圧の測定を正確に行うことができる限り、制限されない。例えば、単層膜であっても、多層膜(複合膜)であっても良い。中でも、単層であり且つ平膜(シート)状であることが好ましい。
【0058】
半透膜の厚さは、適切な強度を確保できる範囲で出来る限り薄いことが望ましい。例えば、厚さ0.23mmの限外ろ過膜を使用することができる。
【0059】
半透膜の材質としては、各種ポリマー、セラミックス等を用いることができる。
【0060】
半透膜は、ナノ粒子スラリーの浸透圧の測定の前に、分散媒中で沸騰しない程度に真空脱泡した後、分散媒中で約1日静置しておくことが好ましい。
【0061】
〔2−4〕圧力センサ
分散媒室20の内圧を測定するための圧力センサ40としては、特に制限なく、従来公知の圧力センサを用いることができる。例えば、GEセンシング社製のアンプ出力圧力トランスデューサ(型番「PMP4010−N70P70−G−N2P2−1−0−1」)を用いることができる。
【0062】
〔2−5〕多孔板
ナノ粒子スラリーの浸透圧の測定に際して、半透膜30は、2枚以上の多孔板31の間に挟まれた状態で配設されていることが好ましい。このように構成することによって、半透膜が浸透圧によって変形することを抑制することができる。
【0063】
多孔板の材質としては、例えば、アクリル、金属等を用いることができる。また多孔板の代わりに金属焼結体や多孔質プラスチック成形体等の多孔質体を用いても良い。
【0064】
多孔板の形状は、半透膜の形状に合わせて設定すれば良く、孔を有する限り特に限定されない。例えば、直径52mm、厚さ2mmの円板状の多孔板を用いることができる。多孔板の孔の数、形状、配置も特に制限されない。例えば、
図2に示すように、直径4mmの円形の孔32が7個配置された多孔板31を用いることができる。
図2は、多孔板の一例を模式的に示す上面図である。
【0065】
〔2−6〕使用方法
本実施形態のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置においては、まず、分散媒室20に分散媒を注入し、例えば、注入口21に設けられた活栓22を閉じて、分散媒室20を密閉状態にする。
【0066】
次いで、スラリー室10にナノ粒子スラリーを注入する。これと同時に、分散媒室20に設けられた圧力センサ40を用いて、分散媒室20の内圧を測定することにより浸透圧の測定を開始する。
【0067】
本実施形態のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置においては、分散媒室を密閉し、分散媒室の内圧の低下を浸透圧として測定する場合の装置について説明したが、スラリー室を密閉し、スラリー室の内圧の上昇を浸透圧として測定するよう構成しても良い。また、例えば、ナノ粒子スラリー又は分散媒の静水圧(液面の高さ)を測定することによって、浸透圧を測定するよう構成しても良い。
【0068】
本実施形態のナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置によって評価されるナノ粒子スラリーとしては、例えば、平均粒子径が1〜100nmのナノ粒子を含むスラリーを評価することができる。ナノ粒子としては、材質や表面特性も、特に制限なく、各種ナノ粒子を含有するナノ粒子スラリーを評価することができる。
【0069】
ナノ粒子としては、具体的には、コロイダルシリカ、樹脂、タンパク質、デオキシリボ核酸(DNA)、チタニア、アルミナ等を挙げることができる。中でも、コロイダルシリカ、樹脂、タンパク質、デオキシリボ核酸(DNA)等のナノ粒子を含有するナノ粒子スラリーを好適に評価することができる。
【0070】
ナノ粒子スラリーの分散媒としては、水、塩化ナトリウム水溶液、Na
2O水溶液、エタノールやトルエンといった各種有機溶媒等を用いることができる。中でも、水、塩化ナトリウム水溶液等のナノ粒子を含有するナノ粒子スラリーを好適に評価することができる。これら分散媒を構成する粒子の水和状態での粒子径は、半透膜を容易に透過するという観点から、半透膜の孔径の1/2以下であることが好ましい。なお、上述のような分散媒を構成する粒子とは、水分子、ナトリウムイオン、塩化物イオン等である。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0072】
(ナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置の作製)
半透膜(限外ろ過膜)として、ミリポア社製のウルトラセル−PL(PLTK04710)(分画分子量30,000、直径47mm)を用いて、
図1に示すようなナノ粒子スラリーの分散凝集状態の評価装置1(以下、本実施例中、単に「ナノ粒子スラリー評価装置」ともいう)を作製した。限外ろ過膜は、
図2に示すような4mmの孔32を7個有する直径52mm、厚さ2mmの多孔アクリル板31を2枚用いて、これら2枚の多孔アクリル板31の間に挟まれた状態で、ナノ粒子スラリーと分散媒とを隔離するように配設した。スラリー室10及び分散媒室20を区画形成する壁は、アクリル製とし、スラリー室10の内容積を40mLとし、分散媒室20の内容積を40mLとした。分散媒室20には、圧力センサ40を更に配設し、分散媒室20を密閉するために注入口21に活栓22を設けた。
【0073】
(評価用試料の調製)
評価用の試料(ナノ粒子スラリー)としては、日産化学社製のコロイダルシリカ(商品名「スノーテックス50」、平均粒子径20〜30nm、pH9)を用いた。スノーテックス50は、酸性領域でシリカ粒子が凝集することが知られている。そこで、ナノ粒子スラリー中のナノ粒子の凝集状態を呈する試料として、スノーテックス50を塩酸を用いてpH2に調製したもの(以下、「凝集試料」ともいう)を用い、分散状態を呈する試料として、スノーテックス50のpHを調製していないもの(以下、「分散試料」ともいう)を用いた。凝集試料と分散試料のそれぞれについて、粒子体積濃度が、5、10、15、20、25体積%の試料を調製した。
【0074】
スノーテックス50と同様に、日産化学社製の商品名「スノーテックス40」(平均粒子径10〜20nm、pH10)及び商品名「スノーテックスS」(平均粒子径8〜11nm、pH10)についても、各粒子体積濃度の試料を調製した。
【0075】
スノーテックス50の粒子体積濃度が25体積%である凝集試料及び分散試料について、堀場製作所社製の型番「LB−550NT」を用いて動的光散乱法(DLS)により粒子径を測定した。結果を
図3に示す。
図3は、コロイダルシリカ試料の動的光散乱法による粒子径の測定結果を示すグラフである。
図3より、pH2に調製された凝集試料が、分散試料と比較して平均粒子径が大きく、凝集状態を呈していることが確認できた。
【0076】
(実施例1)
上述のナノ粒子スラリー評価装置を用いて、粒子体積濃度が5、10、15、20、25体積%である凝集試料(pH2)及び、粒子体積濃度が5、10、15、20、25体積%である分散試料(pH9)のそれぞれについて、浸透圧を測定した。結果をそれぞれ
図4及び
図5に示す。
図4は、コロイダルシリカ試料の凝集状態における浸透圧の測定結果を示すグラフであり、
図5は、コロイダルシリカ試料の分散状態における浸透圧の測定結果を示すグラフである。
図4及び
図5中、縦軸は浸透圧(kPa)を示し、横軸は、浸透圧測定開始時点からの経過時間(時間)を示す。
【0077】
浸透圧の測定に際しては、分散媒として蒸留水を用い、ナノ粒子スラリーをスラリー室内へ注入する前に、蒸留水を分散媒室内へ注入した。なお、分散媒(蒸留水)は、脱気のため減圧下で1日静置しておいたものを用いた。また、限外ろ過膜は、蒸留水中で沸騰しない程度に真空脱泡した後、蒸留水中で約1日静置しておいたものを用いた。
【0078】
図4及び
図5より、同一粒子体積濃度である場合、凝集状態のナノ粒子スラリーより、分散状態のナノ粒子スラリーの方が、浸透圧が高いことが確認された。これは、分散状態のナノ粒子スラリーの方が見かけの粒子個数濃度が高いためである。
【0079】
(実施例2)
スノーテックス50について、それぞれ凝集状態及び分散状態の各粒子体積濃度における浸透圧を、実施例1と同様の方法により測定した。結果を
図6に示す。
図6は、コロイダルシリカ試料の粒子体積濃度に対する浸透圧の測定結果を示すグラフである。
図6中、縦軸は浸透圧(kPa)を対数で示し、横軸は粒子体積濃度(体積%)を示す。
【0080】
(実施例3)
スノーテックス40について、それぞれ凝集状態及び分散状態の各粒子体積濃度における浸透圧を、実施例1と同様の方法により測定した。結果を
図7に示す。
図7は、コロイダルシリカ試料の粒子体積濃度に対する浸透圧の測定結果を示すグラフである。
図7中、縦軸は浸透圧(kPa)を対数で示し、横軸は粒子体積濃度(体積%)を示す。
【0081】
図6及び
図7より、同一粒子体積濃度である場合、凝集状態のナノ粒子スラリーより分散状態のナノ粒子スラリーの方が浸透圧が高く、また、粒子体積濃度が上昇するに従って浸透圧も上昇する、即ち、ナノ粒子スラリーの浸透圧はその粒子個数濃度に強く依存することが確認された。
【0082】
(実施例4)
スノーテックス50、スノーテックス40、及びスノーテックスSについて、それぞれ凝集状態及び分散状態の各粒子個数濃度における浸透圧を、実施例1と同様の方法により測定した。結果を
図8に示す。
図8は、コロイダルシリカ試料の粒子個数濃度に対する浸透圧の測定結果を示すグラフである。
図8中、縦軸は浸透圧(kPa)を対数で示し、横軸は粒子個数濃度(m
−3)を対数で示す。また、
図8中、ファントホッフ(van’t Hoff)の式により得られる直線を点線で示した。
【0083】
なお、粒子個数濃度(m
−3)は、粒子体積濃度を、見かけ粒子径から求めた粒子1個当たりの体積で除することによって求めた。
【0084】
図8より、ナノ粒子スラリーの浸透圧は粒子個数濃度が大きくなるに従って上昇する、即ち、ナノ粒子スラリーの浸透圧は粒子個数濃度に依存することが確認された。
【0085】
(実施例5)
スノーテックス50の粒子体積濃度が25体積%である試料について、分散媒の塩化ナトリウム濃度を調節することにより、分散凝集状態を変化させた場合の、ナノ粒子の見かけ粒子径に対する浸透圧の測定結果を、実施例1と同様の方法により測定した。結果を
図9に示す。
図9は、コロイダルシリカ試料の見かけ粒子径に対する浸透圧の測定結果を示すグラフである。
図9中、縦軸は浸透圧(kPa)を示し、横軸は見かけ粒子径を示す。なお、見かけ粒子径としては、動的光散乱法(DLS)により測定されたメジアン径を用いた。
【0086】
スノーテックス50は、ナトリウム(Na)により安定化されているため、分散媒を塩化ナトリウム(NaCl)水溶液とし、その濃度を調節することにより、スノーテックス50の分散凝集状態を制御できることが知られている。そこで、スラリー及び分散媒の塩化ナトリウム濃度を0.005、0.01、0.1M(1リットル当たりのモル数)と調節することにより、スノーテックス50の分散凝集状態を制御した試料を用いて、浸透圧を測定した。なお、これらの試料は、pHは調節せず、pH9とした。
【0087】
図9より、粒子体積濃度は一定(25体積%)であるため、見かけの粒子径が大きくなるに従って、見かけの個数濃度は減少し、即ち、凝集状態が進行し、その結果、浸透圧が低下することが確認された。