特許第5723903号(P5723903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5723903-植物栽培方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5723903
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20150507BHJP
   F21S 2/00 20060101ALI20150507BHJP
   F21V 9/08 20060101ALI20150507BHJP
   F21Y 101/02 20060101ALN20150507BHJP
   F21Y 105/00 20060101ALN20150507BHJP
【FI】
   A01G7/00 601C
   F21S2/00 231
   F21V9/08
   F21Y101:02
   F21Y105:00 100
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-19719(P2013-19719)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-147374(P2014-147374A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2014年6月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】竹内 良一
(72)【発明者】
【氏名】荒 博則
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−179009(JP,A)
【文献】 特開2012−157331(JP,A)
【文献】 特開2012−165665(JP,A)
【文献】 特開2008−142005(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016521(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/033177(WO,A1)
【文献】 特開2006−067948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G7/00
A01G31/00−31/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に交互に繰り返し行う工程を含む植物栽培方法であって、赤色光を照射する手順(A)、または両方の手順において、遠赤光を植物に照射し、赤色光を照射する手順(A)において遠赤光を照射する場合、当該手順(A)における赤色光の照射強度を遠赤光の照射強度より大きくし、かつ当該手順(A)の照射光における赤色光の強度比を50%以上とすることを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に交互に繰り返し行う工程を含む植物栽培方法であって、赤色光を照射する手順(A)、または両方の手順において、遠赤光を植物に照射し、青色光を照射する手順(B)において遠赤光を照射する場合、当該手順(B)における青色光の照射強度を遠赤光の照射強度より大きくし、かつ当該手順(B)の照射光における青色光の強度比を50%以上とすることを特徴とする植物栽培方法。
【請求項3】
赤色光の中心波長が620nm〜700nmの範囲内であり、青色光の中心波長が400nm〜480nmの範囲内であり、遠赤光の中心波長が720nm〜780nmの範囲内である請求項1または2に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
赤色光は、AlGaInP発光層を有する半導体発光素子で照射し、青色光は、GaInN発光層を有する半導体発光素子で照射し、遠赤光は、AlGaAsを有する半導体発光素子で照射する請求項1〜のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項5】
赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)の各手順の照射時間を1〜48時間とする請求項1または2に記載の植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培方法に関する。より詳しくは、植物に人工光を照射して生長を促進させる植物栽培用ランプを用いた植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物栽培において、植物苗に人工光を照射して育苗を促す技術が取り入れられている。植物の生長を促進することで、栽培期間を短縮して、同一場所での収穫回数を増やすことができる。また、同じ栽培期間であっても、植物をより大きく生長させることができれば、収穫量を増やすことができる。
【0003】
人工光の照射を利用した植物栽培技術として、例えば特許文献1には、植物を緑色光と白色光で交互に照射するように構成した植物の照射装置が開示されている。この照射装置は、波長500〜570nmの緑色光と300〜800nmの白色光とを交互に照射することにより昼夜の変化を構成し、植物の転流作用を円滑にして植物の育成を図るものである。
【0004】
また、例えば特許文献2には、青色光(400〜480nm)を放射する発光ダイオードと赤色光(620〜700nm)を放射する発光ダイオードを同時もしくは交互に点灯することにより、植物の培養、生育、栽培及び組織培養のための光エネルギーを照射する植物栽培用光源が開示されている。この植物栽培用光源は、葉緑素の光吸収ピーク(450nm付近及び660nm付近)に一致する波長の光を照射することによって、エネルギー効率良く植物を栽培しようとするものである。
【0005】
特許文献2には、青色光と赤色光を同時に照射しても交互に照射してもよいことが規定されている(当該文献「請求項1」参照)。しかし、特許文献2は、青色光単独照射、赤色光単独照射、青色光及び赤色光の同時照射の比較において、同時照射下では日光下での栽培と同様の健全な生長(単独照射における徒長などの不健全な生長と比較して)が確認されたというものであり(当該文献段落「0011」参照)、また、青色光と赤色光の交互照射としては、数メガヘルツ(MHz)以上という高い周波数での点滅照射することが記載されている(当該文献段落「0006」参照)。特許文献2には、青色光の照射手順と赤色光の照射手順とを交互に行うことは記載されておらず、そのように照射した場合の生長促進効果は確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−276858号公報
【特許文献2】特開平8−103167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物栽培の生産性を向上させるために、簡便で、エネルギー効率がよく、成長促進効果に優れた人工光照射による植物栽培方法が望まれている。そのための方策として、執行(しぎょう)正義氏らと本発明者らは共同で、赤色光のみを植物に照射する手順と、青色光のみを植物に照射する手順とを一定期間内に別個独立に行うことによって植物の生長を飛躍的に促進する植物栽培方法(本明細書においては、この植物栽培方法を「執行法」と称することがある)を開発し、特許出願を行った(特願2011−172089)。
【0008】
執行法において、赤色光と青色光とを別個独立に照射することにより、赤色光と青色光を同時に照射する植物育成法と比較して、顕著な生長促進効果が得られる理由は明確ではないが、葉緑素の光吸収ピークが赤色光、青色光で別々に存在するため、赤色光による光合成プロセスと、青色光による光合成プロセスには差があり、この両プロセスを同時に進行させた場合は、両プロセスが相互に干渉し、各プロセスの進行が阻害されることが考えられる。
【0009】
本発明は、上記のような執行法による植物栽培方法を改良して、植物の生長促進効果をより一層高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、人工光照射による植物の生長促進効果について鋭意検討を行った結果、執行法による植物栽培方法において、青色光を植物に照射する手順、または、赤色光を植物に照射する手順の何れかに、遠赤光を照射することによって、植物の成長促進に差が生ずることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明によれば、以下の植物栽培方法が提供される。
(1)赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、赤色光を照射する手順(A)、および、青色光を照射する手順(B)の何れか一方の手順、または両方の手順において、遠赤光を植物に照射することを特徴とする植物栽培方法。
【0012】
(2)赤色光を照射する手順(A)において遠赤光を照射する場合、当該手順(A)における赤色光の照射強度が遠赤光の照射強度より大きく、かつ当該手順(A)の照射光における赤色光の強度比が50%以上である上記(1)に記載の植物栽培方法。
【0013】
(3)青色光を照射する手順(B)において遠赤光を照射する場合、当該手順(B)における青色光の照射強度が遠赤光の照射強度より大きく、かつ当該手順(B)の照射光における青色光の強度比が50%以上である上記(1)に記載の植物栽培方法。
【0014】
(4)赤色光の中心波長が620nm〜700nmの範囲内であり、青色光の中心波長が400nm〜480nmの範囲内であり、遠赤光の中心波長が720nm〜780nmの範囲内である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の植物栽培方法。
【0015】
(5)赤色光の発光素子として、AlGaInP発光層を有する半導体発光素子を、青色光の発光素子として、GaInN発光層を有する半導体発光素子を、遠赤光の発光素子として、AlGaAsを有する半導体発光素子を、それぞれ用いる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の植物栽培方法。
(6)赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)の各手順の照射時間を1〜48時間とする上記(1)に記載の植物栽培方法。
【0016】
本発明において、「植物」には、葉菜類、果菜類、穀類及び藻類が少なくとも含まれる。さらに、本発明にいう「植物」には、緑藻類などの植物プランクトンや、コケ類なども広く包含されるものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の植物栽培方法によれば、執行法による植物栽培における赤色光の光合成プロセスと青色光の光合成プロセスを、より植物栽培に適した条件として、赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とに加えて、遠赤光の照射を行うことによって、より優れた生長促進効果が得られる。
遠赤色照射によりフィトクロムAを活性化する効果により、赤色および青色光合成の最適化ができ、生育速度が上昇すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の植物栽培法において好適に用いられるランプの一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0020】
本発明は、赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、赤色光を照射する手順(A)、および、青色光を照射する手順(B)の何れか一方の手順、または両方の手順において、遠赤光を植物に照射することを特徴とする。
【0021】
植物に含まれる葉緑素には、450nm付近と660nm付近の2つの光吸収ピークがあることが知られている。そして、この遠赤光の照射を執行法に併用したところ、赤色光による光合成プロセスと、青色光による光合成プロセスに干渉することなく、植物の生育効果が一層高まることを見出した。
【0022】
本発明の植物栽培方法では、遠赤光の照射は、赤色光を照射する手順(A)、および、青色光を照射する手順(B)の何れか一方の手順、または両方の手順に適用することができる。
【0023】
赤色光を照射する手順(A)において遠赤光を照射する場合、当該手順(A)における赤色光の照射強度が遠赤光の照射強度より大きく、かつ当該手順(A)の照射光における赤色光の強度比が50%以上であることが好ましい。さらに、当該手順(A)においては、照射光に含まれる赤色光の強度が最も高ければ、照射光に遠赤光以外の光、例えば青色光、緑色光などが含まれてもよい。ただし、照射光に遠赤光以外の光(例えば青色光)が含まれる場合、その光の強度は、遠赤光の強度より低いことが好ましい。遠赤光以外の光(例えば青色光)の強度は、当該手順(A)の照射光全体の強度に対し、約20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。赤色光を照射する手順(A)において遠赤光を照射する場合、照射光の一例としては、強度比として、赤色光60%、遠赤光35%、青色光5%のものが例示できる。
【0024】
また、青色光を照射する手順(B)において遠赤光を照射する場合、当該手順(B)における青色光の照射強度が遠赤光の照射強度より大きく、かつ当該手順(B)の照射光における青色光の強度比が50%以上であることが好ましい。さらに、当該手順(B)においては、照射光に含まれる青色光の強度が最も高ければ、照射光に遠赤光以外の光、例えば赤色光、緑色光などが含まれてもよい。ただし、照射光に遠赤光以外の光(例えば青色光)が含まれる場合、遠赤光以外の光(例えば青色光)の強度は、遠赤光の強度より低いことが好ましく、かつ、当該手順(B)の照射光全体の強度に対し、約20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。青色光を照射する手順(B)において遠赤光を照射する場合、照射光の一例としては、強度比として、青色光60%、遠赤光35%、赤色光5%のものが例示できる。
【0025】
発光体としては、発光スペクトルの半値幅の小さい、レーザ、発光ダイオードを選択すれば、混色量が0である好ましい条件が得られる。発光効率とコストを考慮すると、青色は、GaInN発光層、赤色は、AlGaInP発光層、遠赤色は、AlGaAs発光層を用いた発光ダイオードの組み合わせが、最も好ましい。
【0026】
なお、本発明において、照射光の強度は、光合成光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density:PPFD、単位:μmol/m2s)に基づく。
本願発明では、青色光の中心波長を400nm〜480nmの範囲内とし、赤色光の中心波長を620nm〜700nmの範囲内とし、遠赤光の中心波長を720nm〜780nmの範囲内とすることが、植物の生育効果を高めるうえで好ましい。
【0027】
〔植物栽培用ランプ〕
本発明の植物栽培方法において、赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行うには、独立して駆動可能な、赤色光を出射する赤色発光素子と青色光を出射する青色発光素子とを有する植物栽培用ランプを用いることが好ましい。さらに、本発明で用いる植物栽培用ランプは、遠赤光を植物に照射する照射部を備えており、遠赤光の照射を赤色光の照射および青色光の照射とは別個独立して行えるよう、独立して駆動可能な遠赤光の発光素子を備えることが好ましい。
【0028】
図1は、好適に用いられる植物栽培用ランプの一例を説明するための模式図である。図1に示す植物栽培用ランプ1は、平面視長方形の長尺な光照射部11と、光照射部を制御する制御部(図示せず)とを備えている。光照射部11は、前述のように、独立して駆動可能な、赤色光を出射する赤色発光素子2と青色光を出射する青色発光素子3と遠赤光を出射する遠赤色発光素子4を有する。
赤色発光素子2と青色発光素子3と遠赤発光素子4を別個独立に点灯・消灯させる制御部を具備することによって、生長させる植物に応じて、赤色光と青色光と遠赤光を同時に照射したり交互に照射したり赤色光と青色光と遠赤光の照射時間を変化させたりすることができ、優れた生長促進効果が得られる。
【0029】
図1に示す植物栽培用ランプ1では、赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数と、遠赤色発光素子4の個数の比は、6:3:1となっている。複数の赤色発光素子2および複数の青色発光素子3および複数の遠赤発光素子4は、それぞれ光照射部11の長さ方向に沿って混在させて線状に並べられている。線状に並べられた複数の赤色発光素子2と複数の青色発光素子3と複数の遠赤発光素子4は、略平行に配置されている。
【0030】
植物栽培用ランプ1において、赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数と遠赤発光素子4の個数は、上記のように異なっていても。または、同じであってもよい。栽培する植物の種類によっては、赤色光の発光強度よりも青色光の発光強度を高くすることにより、生長が促進されるものがある。このような植物を栽培する場合、光照射部11の有する赤色発光素子2の個数を青色発光素子3の個数よりも少なくした植物栽培用ランプ1を用いることが好ましい。赤色発光素子2の個数を青色発光素子3の個数よりも多くすることで、光照射部11からの出射光における赤色光の発光強度を、容易に青色光の発光強度よりも高くできる。
【0031】
赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数と遠赤発光素子4の個数は、赤色発光素子2と青色発光素子3と遠赤発光素子4の発光強度の関係(赤色光の合計の強度:青色光の合計の強度:遠赤光の合計の強度)が、赤≧青≧遠赤であることが好ましく、赤:青の強度比の範囲は、1:1〜9:1、青:遠赤の強度比の範囲は1:1〜9:1内であることがより好ましい。このような植物栽培用ランプ1を用いた場合、全ての赤色発光素子2および全ての青色発光素子3および全ての遠赤発光素子4に、各色の発光素子に適した電流を供給したときに得られる光照射部11からの出射光が、遠赤光の発光強度よりも赤色光および青色光の発光強度が同等または高いものとなる。また、発光素子に流れる電流値は微調整することが可能であり、その調整によって、青色光、赤色光、赤外光の強度比を植物栽培に適した発光強度比に容易にすることができる。
【0032】
赤色発光素子2と青色発光素子3と遠赤発光素子4の強度比が、上記範囲未満である場合(遠赤色光の発光強度が高すぎる場合)、遠赤色光の発光強度よりも赤色光および青色光の発光強度を高くすることによる植物の生長を促進させる効果が十分に得られない恐れがある。赤色発光素子2と青色発光素子3と遠赤色発光素子4の強度比が、上記範囲を超える場合、青色光の発光強度が高すぎて、植物の生長を促進させる効果が十分に得られない恐れがある。
【0033】
本願発明で用いるランプの光照射部では、1つの発光素子(パッケージ)内に赤色の発光部と、青色の発光部と、遠赤発光部を有する混色発光素子を用いるのが好ましい。そしてこのような混色発光素子は、赤色の発光強度と青色の発光強度と遠赤発光強度を独立制御できる機能を有するのが好ましい。
【0034】
また前述のように、混色発光素子内に含まれる赤色発光素子と青色発光素子との発光強度比(赤色光の合計の強度:青色光の合計の強度)は、2:1〜9:1の範囲内であることが好ましく、2:1〜5:1の範囲内であることがより好ましい。また遠赤発光素子の発光強度は、赤色発光素子または青色発光素子の発光強度と同等とするのが好ましい。このような混色発光素子を用いることで、光照射部内の発光部の密度を高めることができる。
【0035】
本実施形態において、赤色発光素子2、青色発光素子3、遠赤色発光素子4としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、波長選択が容易で、有効波長域の光エネルギーの占める割合が大きい光を放射する発光ダイオード(LED)や、レーザーダイオード(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)素子などを用いることができる。赤色発光素子2、青色発光素子3、遠赤色発光素子4としてEL素子を用いる場合、有機EL素子であってもよいし無機EL素子であってもよい。発光効率が高く、安価な発光ダイオードが、最も好ましい。
【0036】
赤色発光素子2が出射する赤色光としては、赤色光の中心波長が、620nm〜700nmの範囲内が好ましく、645〜680nmの範囲がより好ましい。
青色発光素子3の出射する青色光としては、中心波長を400nm〜480nmの範囲内とする青色光が好適に用いられる。赤色光及び青色光は、上記波長を中心波長として所定の波長域を有するものとすることができる。波長域としては、例えば、青色光であれば、450±30nm、好ましくは450±20nm、さらに好ましくは450±10nmである。
【0037】
遠赤発光素子4の出射する遠赤光としては、波長710〜800nmの光が挙げられる。特に、中心波長を720nm〜780nmの範囲内とする遠赤光が好適に用いられる。
【0038】
光照射部11からの赤色光、青色光、遠赤光の発光強度は、特に限定されないが、例えば、光合成光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density:PPFD)で、それぞれ1〜1000μmol/ms、好ましくは10〜500μmol/ms、特に好ましくは30〜300μmol/msの範囲内で、前記の赤色発光素子と青色発光素子と遠赤発光素子の強度比となるように設定するのが好ましい。
【0039】
本実施形態においては、光照射部11からの赤色光、青色光、遠赤光のそれぞれの発光強度は、植物栽培用ランプ1に備えられている制御部によって、赤色発光素子2または青色発光素子3または遠赤発光素子4に供給する電流の大きさを調節することにより、制御できるようになっている。植物栽培用ランプ1に光照射部を備えた場合は、赤色光の照射手段と青色光の照射手段と遠赤光の照射手段からなる3種類の照射手段を配置する場合と比較して、照射手段を配置する領域の確保が容易であるとともに、赤色光の照射方向と青色光の照射方向と遠赤光の照射方向のずれを小さくできる。
【0040】
図1に示す植物栽培用ランプ1は、赤色発光素子2用の電極41、青色発光素子3用の電極42、遠赤発光素子4用の電極43、各素子共通のグランド電極44とを備えている。
複数の赤色発光素子2は、配線(図示せず)によって赤色発光素子2用の電極41と電気的に接続されている。また、複数の青色発光素子3は、配線(図示せず)によって青色発光素子3用の電極42と電気的に接続されている。さらに、複数の遠赤素子4は、配線(図示せず)によって遠赤素子4用の電極43と電気的に接続されている。
【0041】
本実施形態の植物栽培用ランプ1に備えられている制御部は、赤色発光素子2用の電極41と、または青色発光素子3用の電極42と、または遠赤素子4用の電極43と、グランド電極44とを介して、赤色発光素子2または青色発光素子3または遠赤素子4に所定の電流を供給することにより、赤色発光素子2と青色発光素子3と遠赤素子4とを別個独立に点灯・消灯させるものである。
本実施形態においては、制御部は、光照射部11から出射される青色光と赤色光と遠赤光の発光強度比を制御するランプコントローラ(発光強度制御手段)を備えている。制御部が、光照射部11から出射される青色光と赤色光と遠赤光の発光強度比を制御するランプコントローラを備えている場合は、青色光と赤色光と遠赤光の強度を容易に異ならせることができ、容易に生長させる植物に最適な強度比とすることができる。
【0042】
〔植物栽培方法〕
次に、本発明の植物栽培方法として、図1に示す植物栽培用ランプ1を用いて植物を栽培する方法を例に挙げて説明する。
本発明の植物栽培方法は、赤色光を植物に照射する手順(A)(以下「赤色光照射ステップ」とも称する)と、青色光を植物に照射する手順(B)(以下「青色光照射ステップ」とも称する)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含み、さらに、赤色光を照射する手順(A)、および、青色光を照射する手順(B)の何れか一方の手順、または両方の手順において、遠赤光の照射が、一定期間内に別個独立に適用される。
【0043】
そして、遠赤光の照射を、赤色光を照射する手順(A)に適用する場合は、赤色光を照射する手順(A)の全てに適用することが好ましいが、赤色光を照射する手順(A)の一部に適用してもよい。同様に、遠赤光の照射を、青色光を照射する手順(B)に適用する場合は、青色光を照射する手順(B)の全てに適用することが好ましいが、青色光を照射する手順(B)の一部に適用してもよい。
【0044】
ここで、「一定期間」とは、植物栽培中の任意時間長の期間を意味する。この期間は最長で栽培全期間である。また、最短の期間は、本発明の効果が奏される限りにおいて任意に設定できる。この期間は、例えば時間(hr)を時間長の単位とするものであってよく、さらにより長い時間長単位(例えば日(day))あるいはより短い時間長単位(例えば分(minutes))とするものであってもよい。好ましくは、1時間から48時間の範囲内、とくに好ましくは、3時間から24時間の範囲内である。そして、本願発明の「一定期間」における照射方法としては、1Hz以上の高い周波数での点滅照射のような照射方法は含まれない。
【0045】
また、「別個独立」とは、上記期間内に、赤色光照射ステップと青色光照射ステップとが別々に存することを意味する。1Hz以上の高い周波数での点滅照射のような極めて短い時間での赤色光照射ステップと青色光照射ステップとの交互照射では、植物の生長を促進させる効果は、赤色光と青色光の同時照射による促進効果とほぼ同程度であって、十分なものではない。
植物が環境の変化を感じ取れる十分な時間が必要で、光合成から始まり、複雑な反応などを経て成長していく、これらの過程が完了する時間と考えられる。少なくとも、秒の単位より長く、分、時間の単位と考えられる。
【0046】
赤色光照射ステップと青色光照射ステップは、上記期間内に少なくとも一工程ずつ含まれていればよい。赤色光照射ステップと青色光照射ステップは交互に連続して行ってもよいし、両ステップの間に、赤色光及び青色光を植物に同時照射する手順又は植物への光照射を休止する手順を挟んで不連続に繰り返して行ってもよい。
【0047】
本発明に係る植物栽培方法は、種子が発芽した直後あるいは苗を植えた直後から収穫までの植物の栽培全期間において、任意のタイミングで開始あるいは終了され、任意時間長で適用され得るものとする。
【0048】
本発明に係る植物栽培方法において栽培される植物は、特に限定されるものではなく、例えば、葉菜類、いも類、果菜類、豆類、穀物類、種実類、藻類、観賞用植物類、コケ類などが挙げられる。
特に、果菜類は、葉の成長、光合成の促進だけでなく、光合成で生成した物質を果実へ転流することも重要である。このような複雑なプロセスに対応して、遠赤色の効果が大きいと考えられる。
【実施例】
【0049】
以下に示す実施例においては、生育状態を観察する対象の植物として、イチゴを用いた。まず、水耕栽培に順化した苗を10株、水耕栽培の養液の上に育成用の栽培ベッドに等間隔にセットし、試験用植物として用いた。
【0050】
(実施例1)
温度、湿度および二酸化炭素濃度を制御する手段を設けた栽培室内に、蛍光灯型LEDの照明器具を取り付けた水耕栽培棚に、試験用のイチゴを置き、気温18〜22℃、湿度60%の条件下、二酸化炭素濃度を1000ppmに調整し、次のようにして光照射しながらイチゴを水耕栽培した。養液は、市販の液体肥料を標準条件で、用いた。
【0051】
植物栽培用ランプとして、赤色LED(中心波長:660nm、波長域640〜680 nm)240個からなる赤色発光素子と、青色LED(中心波長:450nm、波長域430〜470nm)120個からなる青色発光素子と、遠赤色LED(中心波長:735nm、波長域720〜750nm)40個からなる遠赤発光素子を有する光照射部と、光照射部を制御して、赤色発光素子と青色発光素子と遠赤発光素子を別個独立に点灯・消灯させる制御部とを備えるものを用いた。
発光素子1個当たりの発光強度は、各色、ほぼ同じになるように調整した。
【0052】
光照射部からの赤色光の発光強度である光合成光量子束密度(PPFD)は合計で240μmol/msし、青色光の光合成光量子束密度(PPFD)も合計で120μmol/msとし、遠赤光の光合成光量子束密度(PPFD)は合計で40μmol/msとした(赤色光、青色光、遠赤光の発光強度比は6:3:1)。
【0053】
そして、赤色光を植物に照射する赤色光照射ステップと、青色光を植物に照射する青色光照射ステップを、1日につき各色12時間ずつ別々に連続して行った。遠赤色光照射ステップを赤色と同時に12時間、なお、何れの光も照射しない時間は設けなかった。成長を観察し開花日を、開花までの日数(日)として記録した。
150日後に光照射を停止した。120日および150日時点で収穫したイチゴ果実の積算果実収量(g)/株(平均値)を測定した。測定結果は、下記表1に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、遠赤色光を24時間照射とした他は、同一条件とした。
【0055】
(実施例3)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、遠赤色光を青色光と同時とし、12時間とした他は、同一条件とした。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、遠赤光照射は行わず、赤色光照射ステップと、青色光を植物に照射する青色光照射ステップを、1日につき各色12時間ずつ別々に連続して行った他は、同一条件とした。
【0057】
(比較例2)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、赤色、青色の2色を同時に16時間点灯、8時間消灯して行った他は、同一条件とした。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示されるように、実施例1では、最も生育速度が速いため、開花までの日数が短く、果実収穫も120日でほぼ終了している状態である。実施例3では、生育は、実施例1よりやや遅いが、150日の収穫量が最も多かった。実施例2は、実施例1と3の中間の生育、収穫量であった。比較例に比べて、生育速度、収穫とも良好な結果であった。
一方、比較例1は、開花が遅く、収穫完了が150日程度必要であり、収穫量も実施例に比べ少なかった。比較例2は、生育が最も遅く、150日でも収穫量が最も少なかった。
【符号の説明】
【0060】
1…植物栽培用ランプ、2…赤色発光素子、3…青色発光素子、4…遠赤発光素子
図1