(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)の両手順において、植物栽培環境の肥料として、二酸化炭素を付加した液体肥料を用い、赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度を、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度より高くし、赤色光を照射する手順(A)と、青色光を照射する手順(B)とを交互に、繰り返し行うことを特徴とする植物栽培方法。
赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度を1000ppm〜5000ppmの範囲内とし、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度を500ppm〜2000ppmの範囲内とする請求項1に記載の植物栽培方法。
赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度と、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度との差が300ppm以上である請求項1または2に記載の植物栽培方法。
赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度と、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度との差が500〜2000ppmの範囲内である請求項1または2に記載の植物栽培方法。
赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いられる液体肥料のうち、少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いられる液体肥料は、二酸化炭素をバブリングしてなる液体肥料、または、二酸化炭素をバブリングしてなる炭酸水を液体肥料に加えてなる液体肥料である請求項1〜4のいずれかに記載の植物栽培方法。
赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いられる液体肥料のうち、少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いられる液体肥料は、二酸化炭素をバブリングしてなる、二酸化炭素のナノバブルを含む液体肥料である請求項1〜4のいずれかに記載の植物栽培方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
植物栽培の生産性を向上させるために、簡便で、エネルギー効率がよく、成長促進効果に優れた人工光照射による植物栽培方法が望まれている。そのための方策として、執行(しぎょう)正義氏らと本発明者らは共同で、赤色光のみを植物に照射する手順と、青色光のみを植物に照射する手順とを一定期間内に別個独立に行うことによって植物の生長を飛躍的に促進する植物栽培方法(本明細書においては、この植物栽培方法を「執行法」と称することがある)を開発し、特許出願を行った(特願2011−172089)。
【0009】
執行法において、赤色光と青色光とを別個独立に照射することにより、赤色光と青色光を同時に照射する植物育成法と比較して、顕著な生長促進効果が得られる理由は明確ではないが、葉緑素の光吸収ピークが赤色光、青色光で別々に存在するため、赤色光による光合成プロセスと、青色光による光合成プロセスには差があり、この両プロセスを同時に進行させた場合は、両プロセスが相互に干渉し、各プロセスの進行が阻害されることが考えられる。
【0010】
本発明は、上記のような執行法による植物栽培方法を改良して、栄養価が高く付加値の高い植物を高い生長促進効果をもって栽培することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、人工光照射による植物の生長促進効果について鋭意検討を行った結果、執行法による植物栽培方法において、植物栽培環境の肥料として、二酸化炭素の溶存濃度の高い液体肥料を用いたところ、人工光の照射環境に応じて二酸化炭素濃度を変化させると植物の成長状態に差が生ずることを見出した。例えば、二酸化炭素のナノバブルを加えた液体肥料を用いることによって、生長促進効果が高まることを見出した。この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして、本発明によれば、以下の植物栽培方法が提供される。
(1)赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いる、植物栽培環境の肥料のうち、少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いる肥料として、二酸化炭素を付加した液体肥料を用いることを特徴とする植物栽培方法。
【0013】
(2)赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)の両手順において、植物栽培環境の肥料として液体肥料を用い、そして、赤色光の照射手順(A)において用いる肥料中の二酸化炭素濃度を、青色光を植物に照射する手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度より高くする上記(1)に記載の植物栽培方法。
【0014】
(3)赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度を1000ppm〜5000ppmの範囲内とし、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度を500ppm〜2000ppmの範囲内とする上記(2)に記載の植物栽培方法。
【0015】
(4)赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度と、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度との差が300ppm以上である上記(2)または(3)に記載の植物栽培方法。
【0016】
(5)赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度と、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度との差が500〜2000ppmの範囲内である上記(2)または(3)に記載の植物栽培方法。
【0017】
(6)赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いられる液体肥料のうち、少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いられる液体肥料は、二酸化炭素をバブリングしてなる液体肥料、または、二酸化炭素をバブリングしてなる炭酸水を液体肥料に加えてなる液体肥料である上記(2)〜(5)のいずれかに記載の植物栽培方法。
【0018】
(7)赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いられる液体肥料のうち、少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いられる液体肥料は、二酸化炭素をバブリングしてなる、二酸化炭素のナノバブルを含む液体肥料である上記(2)〜(5)のいずれかに記載の植物栽培方法。
【0019】
(8)藻類、植物プランクトン、ミドリムシの中から選ばれる植物を栽培する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の植物栽培方法。
【0020】
本発明において、「植物」には、葉菜類、果樹類、穀類、コケ類及び藻類が少なくとも含まれる。特に、本発明は、水中で生育される、緑藻類などの植物プランクトンに対して、効果が大きい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の植物栽培方法によれば、執行法による植物栽培における赤色光の光合成プロセスと、青色光の光合成プロセスの両プロセスのうち、少なくとも、赤色光の光合成プロセスにおいて、より植物栽培に適した条件として、二酸化炭素を付加した液体肥料を用いることによって、高い栄養価を有する植物を優れた生長促進効果をもって栽培できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0024】
本発明の植物栽培方法は、赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いる、植物栽培環境の肥料のうち、少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いる肥料として、二酸化炭素を付加した液体肥料を用いることを特徴とする。
【0025】
植物の生育は、葉細胞中の葉緑素において、光から吸収した光エネルギーを使い、葉の気孔から吸収した大気中の二酸化炭素と根から吸収した水を用いて酸素と糖類を作り出す、いわゆる光合成に支配されることが知られている。また、特許文献3に記載のように、栽培液に二酸化炭素のナノバブルを供給することで、植物の光合成の促進が図られることが知られている。
【0026】
葉緑素の光吸収ピークは赤色光、青色光とは別々に存在するため、赤色光による光合成プロセスと、青色光による光合成プロセスは相違すると考えられる。本発明者らは、この相違点について検討したところ、赤色光による植物の育成は、葉の面積を広くする成長に作用する傾向があり、青色光による植物の育成は、形態形成に作用する傾向があることを見出した。そのメカニズムは、明確ではないが、光合成反応に関連して、植物内の化学反応が異なるためと考えられる。
【0027】
植物の育成を水耕栽培(水栽培)とし、この植物栽培環境の肥料として、二酸化炭素を加えた液体肥料を用い、光照射条件と二酸化炭素の液中濃度と関連させることで植物の生育効果、栄養成分が一層高まることが判明した。特に、植物中のカルシウムの含有量が左右されることを見出した。
【0028】
少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いる肥料として、二酸化炭素を付加した液体肥料を用いるに際し、特に、赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)との両手順において、ともに液体肥料を用い、そして、赤色光の照射手順(A)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度を、青色光の照射手順(B)において用いる液体肥料中の二酸化炭素濃度より高くすることが好ましい。
【0029】
具体的には、赤色光の照射手順(A)における液体肥料中の二酸化炭素濃度を1000ppm〜5000ppmの範囲内とし、青色光の照射手順(B)における液体肥料中の二酸化炭素濃度を500ppm〜2000ppmの範囲内とすることが好ましい。使用する液体肥料中の最適な二酸化炭素濃度が、赤色光を植物に照射する手順(A)と青色光を植物に照射する手順(B)とで相違する理由は明確でないが、両手順における光合成のプロセスの相違および光合成以外の反応プロセスが密接に関連すると考えられる。
【0030】
また、赤色光を植物に照射する手順(A)における液体肥料中の二酸化炭素濃度と青色光を植物に照射する手順(B)における液体肥料中の二酸化炭素濃度の差を300ppm以上が望ましく、500ppm〜2000ppmの範囲内とすることが特に好ましい。
【0031】
赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いられる液体肥料のうち、少なくとも赤色光の照射手順(A)において用いられる液体肥料は、二酸化炭素をバブリングしてなる液体肥料、または、二酸化炭素をバブリングしてなる炭酸水を液体肥料に加えてなる液体肥料であることが好ましい。
【0032】
二酸化炭素濃度は、二酸化炭素のバブリング量など、公知の手法によって自由に制御できる。近年、開発されたナノバブル技術によれば、制御性、高濃度化などが容易にできるので、特に、好ましい。したがって、赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いられる液体肥料のうち、赤色光の照射手順(A)において用いられる液体肥料、または、赤色光の照射手順(A)と青色光の照射手順(B)において用いられる両方の液体肥料として、二酸化炭素をバブリングしてなる、二酸化炭素のナノバブルを含む液体肥料を用いることが好ましい。
【0033】
ナノバブルは、直径10nm〜300nmの微細な気泡である。通常の気泡は発生後すぐに水面へ浮上し外部に放出されるが、ナノバブルは浮力の影響を極めて受けにくく、水中に長期間溶存することが知られている。
溶存二酸化炭素量が増加した液体肥料を用いることにより、植物の根から二酸化炭素および肥料中に存在するイオン成分などを効率的に吸収させることが可能となり、特に、カルシウムの吸収効果が大きい。
【0034】
本発明では、植物栽培環境の肥料として、液体肥料を使用する。植物の生育には、肥料の三要素である窒素、リン、カリウムが必要である。窒素は、植物の細胞の分裂・増殖に関与するため植物の生長に必要であり、リンは植物中の核酸の構成成分であるため植物の生長を促進し、カリウムは植物の根の発育を促進することが知られている。また、カルシウム、マグネシウム、鉄などミネラル分も液体肥料中に含まれることが好ましい。
【0035】
本発明に用いる窒素肥料としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、石灰窒素、硝酸カリウム、硝酸石灰、硝酸ソーダなどが挙げられ、リン肥料としては過リン酸石灰、熔成リン肥などが挙げられ、カリウム肥料としては塩化カリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。また、カルシウム、マグネシウム、鉄などミネラル分も含まれている。
【0036】
液体肥料中の三要素(窒素、リン、カリウム)の含有量は、格別限定されないが、赤色光の照射手順(A)と、青色光の照射手順(B)とを対比すると、青色光の照射手順(B)における肥料中の窒素、リン、カリウム量を、赤色光の照射手順(A)における肥料中の窒素、リン、カリウム量より低くすることが好ましい。特に、青色光の照射手順(B)における肥料に含まれる窒素を10〜15me/Lの範囲内、リンを1〜4me/Lの範囲内、カリウムを2〜6me/Lの範囲内とし、赤色光の照射手順(A)における肥料に含まれる窒素を15〜20me/Lの範囲内、リンを3〜6me/Lの範囲内、カリウムを6〜9me/Lの範囲内とすることが好ましい。
【0037】
〔植物栽培用ランプ〕
本発明の植物栽培方法において、赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行うには、独立して駆動可能な、赤色光を出射する赤色発光素子と青色光を出射する青色発光素子とを有する植物栽培用ランプを用いることが好ましい。
【0038】
図1は、好適に用いられる植物栽培用ランプの一例を説明するための模式図である。
図1に示す植物栽培用ランプ1は、平面視長方形の長尺な光照射部11と、光照射部を制御する制御部(図示せず)とを備えている。
【0039】
光照射部11は、
図1に示すように、赤色光を出射する複数の赤色発光素子2と、青色光を出射する複数の青色発光素子3とを有している。
図1に示す植物栽培用ランプ1では、赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数の比率は、2:1である。
【0040】
複数の赤色発光素子2および複数の青色発光素子3は、それぞれ光照射部11の長さ方向に沿って等間隔に1列に線状に並べられている。線状に並べられた複数の赤色発光素子2と複数の青色発光素子3とは、略平行に配置されている。
【0041】
図1に示す植物栽培用ランプ1では、赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数は異なっているが、同じでもよい。栽培する植物の種類によっては、青色光の発光強度よりも赤色光の発光強度を高くすることにより、生長が促進されるものがある。このような植物を栽培する場合、光照射部11の有する赤色発光素子2の個数を青色発光素子3の個数よりも多くした植物栽培用ランプ1を用いることが好ましい。赤色発光素子2の個数を青色発光素子3の個数よりも多くすることで、光照射部11からの出射光における赤色光の発光強度を、容易に青色光の発光強度よりも高くできる。
【0042】
赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数が異なっている場合、赤色発光素子2と青色発光素子3との発光強度比(赤色光の合計の強度:青色光の合計の強度)が、2:1〜9:1の範囲内であることが好ましく、2:1〜5:1の範囲内であることがより好ましい。このような植物栽培用ランプ1とした場合、全ての赤色発光素子2および全ての青色発光素子3に各色の発光素子に適した電流を供給したときに得られる光照射部11からの出射光が、青色光の発光強度よりも赤色光の発光強度が十分に高くなる。したがって、光照射部11からの出射光における赤色光の発光強度を、容易に青色光の発光強度よりも十分に高くできすることができる。また、電流値を微調整することが可能であり、その微調整によって、青色光と赤色光との強度比を植物栽培に適した値に容易にすることができる。
【0043】
赤色発光素子2と青色発光素子3との強度比が、上記範囲未満である場合(青色光の発光強度が高すぎる場合)、青色光の発光強度よりも赤色光の発光強度を高くすることによる植物の生長を促進させる効果が十分に得られない恐れがある。赤色発光素子2と青色発光素子3との強度比が、上記範囲を超える場合、赤色光の発光強度が高すぎて、やはり植物の生長を促進させる効果が十分に得られず、徒長などの生育不良の恐れがある。
【0044】
本発明で用いるランプの光照射部では、1つの発光素子(パッケージ)内に赤色の発光部と、青色の発光部を有する混色発光素子を用いるのが好ましい。そしてこのような混色発光素子は、赤色の発光強度と青色の発光強度とを独立制御できる機能を有するのが好ましい。
【0045】
前述のように、混色発光素子内に含まれる赤色発光素子と青色発光素子との発光強度比(赤色光の合計の強度:青色光の合計の強度)は、2:1〜9:1の範囲内であることが好ましく、2:1〜5:1の範囲内であることがより好ましい。このような混色発光素子を用いることで、光照射部内の発光部の密度を高めることができる。
【0046】
赤色発光素子2及び青色発光素子3としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、波長選択が容易で、有効波長域の光エネルギーの占める割合が大きい光を放射する発光ダイオード(LED)や、レーザーダイオード(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)素子などを用いることができる。赤色発光素子2及び青色発光素子3としてEL素子を用いる場合、有機EL素子であってもよいし無機EL素子であってもよい。
【0047】
赤色発光素子2が出射する赤色光としては、波長570〜730nmの光が挙げられる。特に、645〜680nmの波長域に中心波長を有し、中心波長±50nmのものが好ましく、中心波長±30nmのものがより好ましく、中心波長±10nmのものがさらに一層好ましい。青色発光素子3が出射する青色光としては、波長400〜515nmの光が挙げられる。420〜490nmの波長域に中心波長を有し、中心波長450±30nmのものが好ましく、中心波長450±20nmのものがより好ましく、中心波長450±10nmのものがさらに一層好ましい。
【0048】
本発明において、赤色光を植物に照射する手順(A)における照射光は、赤色光を含むものであって、照射光に含まれる赤色光の強度が60%以上であれば、照射光に赤色光以外の光、例えば、青色光を含んでもよい。本発明者の検討によると、執行法における赤色光の照射プロセスでは、好ましくは、強度比で30%程度までは青色光の混入が許容され、この許容範囲までは植物の生育を高める効果が見られる。なお、十分な執行法の効果を得るためには、青色光の混入量は、より好ましくは20%以下、最も好ましくは0とする。例えば、赤色光を植物に照射する手順(A)における照射光の強度比としては、赤色光60%、遠赤外光20%、青色光20%が例示できるが、最も好ましい強度比は、赤色光100%である。
【0049】
本発明において、青色光を植物に照射する手順(B)における照射光は、青色光を含むものであって、照射光に含まれる青色光の強度が60%以上であれば、照射光に青色光以外の光、例えば、赤色光を含んでもよい。本発明者の検討によると、執行法における青色光の照射プロセスでは、好ましくは、強度比で30%程度までは赤色光の混入が許容され、この許容範囲までは植物の生育を高める効果が見られる。なお、十分な執行法の効果を得るためには、赤色光の混入量は、より好ましくは20%以下、最も好ましくは0とする。例えば、青色光を植物に照射する手順(B)における照射光強度比としては、青色光60%、遠赤外光20%、赤色光20%が例示できるが、最も好ましい強度比は、青色光100%である。
【0050】
なお、本発明における照射光の強度比は、光合成光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density:PPFD、単位:μmol/m
2s)に基づく。
光照射部11からの赤色光及び青色光の発光強度は、特に限定されないが、例えば、光合成光量子束密度で、それぞれ、好ましくは1〜1000μmol/m
2s、好ましくは10〜500μmol/m
2s、特に好ましくは50〜250μmol/m
2s程度の範囲内である。また、それぞれ個々の発光素子の発光強度は、格別限定されることはなく、栽培に用いる複数の赤色発光素子の合計強度と複数の青色発光素子の合計強度との比が、前述の強度比範囲となるようにするのが好ましい。
【0051】
本実施形態においては、光照射部11からの赤色光及び青色光の発光強度は、植物栽培用ランプ1に備えられている制御部によって、赤色発光素子2または青色発光素子3に供給する電流の大きさを調節することにより、制御できるようになっている。
【0052】
図1に示す植物栽培用ランプ1は、赤色発光素子2用の一対の電極41、42と、青色発光素子3用の一対の電極43、44とを備えている。
複数の赤色発光素子2は、配線(図示せず)によって赤色発光素子2用の電極41、42と電気的に接続されている。また、複数の青色発光素子3は、配線(不図示)によって青色発光素子3用の電極43、44と電気的に接続されている。
【0053】
本実施形態の植物栽培用ランプ1に備えられている制御部は、赤色発光素子2用の電極41、42または青色発光素子3用の電極43、44を介して、赤色発光素子2または青色発光素子3に所定の電流を供給することにより、赤色発光素子2と青色発光素子3とを別個独立に点灯・消灯できる。
【0054】
本実施形態においては、制御部は、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するランプコントローラ(発光強度制御手段)を備えている。
【0055】
ランプコントローラとしては、例えば、赤色発光素子2または青色発光素子3に供給する電流の大きさを調節して、一部または全部の赤色発光素子2および/または一部または全部の青色発光素子3の発光強度を変化させることにより、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するものや、赤色発光素子2および/または青色発光素子3のうち、一部に所定の電流を供給することにより、点灯させる赤色発光素子2および/または青色発光素子3の数を制御して、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するものが挙げられる。
【0056】
具体的には、例えば、
図1に示す植物栽培用ランプ1は、ランプコントローラによって、全ての赤色発光素子2および全ての青色発光素子3に同一の電流を供給させることにより、青色光の発光強度と赤色光の発光強度とが同じである出射光を光照射部11から出射するものであってもよい。なお、全ての赤色発光素子2および全ての青色発光素子3に同一の電流を供給する場合、植物栽培用ランプ1はランプコントローラを備えなくてもよい。
【0057】
図1に示す植物栽培用ランプ1は、例えば、ランプコントローラによって、青色発光素子3の発光強度を赤色発光素子2の半分とすることにより、赤色光と青色光との発光強度比が2:1(赤色光:青色光)である出射光を光照射部11から出射するものであってもよい。
【0058】
〔植物栽培方法〕
次に、本発明の植物栽培方法として、
図1に示す植物栽培用ランプ1を用いて植物を栽培する方法を例に挙げて説明する。
本発明の植物栽培方法は、赤色光を植物に照射する手順(以下「赤色光照射ステップ」とも称する)と、青色光を植物に照射する手順(以下「青色光照射ステップ」とも称する)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む。
【0059】
ここで、「一定期間」とは、植物栽培中の任意時間長の期間を意味する。この期間は最長で栽培全期間である。また、最短の期間は、本発明の効果が奏される限りにおいて任意に設定できる。この期間は、例えば時間(hr)を時間長の単位とするものであってよく、さらにより長い時間長単位(例えば日(day))あるいはより短い時間長単位(例えば分(minutes))であってもよい。好ましくは、赤色光を植物に照射する手順(A)と青色光を植物に照射する手順(B)は、それぞれ、好ましくは1時間以上である。とくに、3時間以上が好ましく、より好ましくは3時間から48時間の範囲内、最も好ましくは、3時間から24時間の範囲内である。
そして、本願発明の「一定期間」における照射方法としては、1Hz以上の高い周波数での点滅照射のような照射方法は含まれない。
【0060】
「別個独立」とは、上記期間内に、赤色光照射ステップと青色光照射ステップとが別々に存することを意味する。
【0061】
1Hz以上の高い周波数での点滅照射のような極めて短い時間での赤色光照射ステップと青色光照射ステップとの交互照射は、本発明のメカニズムと異なると推測される。高速の点滅は、個々の反応時間に関わるような現象と考えられる。本発明では、時間的には、反応時間に比べて十分長い時間であり、植物が環境変化に対応しながら、光合成反応の周辺反応や、別の反応など生育全体に関わる反応の干渉、相互作用に関連する。そのため、比較的長い時間が必要なメカニズムと考えられる。高速点滅の植物の生長を促進させる効果は、赤色光と青色光の同時照射による促進効果とほぼ同程度であって、十分なものではない。
【0062】
赤色光照射ステップと青色光照射ステップは、上記期間内に少なくとも一工程ずつ含まれていればよい。赤色光照射ステップと青色光照射ステップは交互に連続して行ってもよいし、両ステップの間に、赤色光及び青色光を植物に同時照射する手順又は植物への光照射を休止する手順を挟んで不連続に繰り返して行ってもよい。
【0063】
また、ステップの切り替えは、前記メカニズムの違いから明らかなように、瞬時に切り替える必要はなく、時間をかけて徐々に変えてもよい。段階的にステップ状に切り替えてもよい、切り替え時に重複時間、両方とも点灯しない時間が含まれてもよい。
【0064】
本発明の植物栽培方法は、種子が発芽した直後あるいは苗を植えた直後から収穫までの植物の栽培全期間において、任意のタイミングで開始あるいは終了され、任意時間長で適用され得るものとする。
【0065】
本発明の植物栽培方法において栽培される植物は、特に限定されるものではなく、例えば、葉菜類、水草類、いも類、果菜類、豆類、穀物類、種実類、藻類、観賞用植物類、コケ類、植物性プランクトン類などが挙げられる。
【0066】
本発明の植物栽培方法では、上記の植物栽培用ランプ1を用いて、執行法を行うので、容易に生長させる植物に最適な人工光を照射でき、優れた生長促進効果が得られる。
また、本実施形態の植物栽培方法において、植物栽培用ランプ1をとして、制御部が、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するランプコントローラ(発光強度制御手段)を備えるものを用いることで、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を、栽培する植物の種類等に応じて、より植物の育成に適したものとすることができる。
【0067】
本実施形態の植物栽培用ランプ1は、赤色発光素子2と青色発光素子3とを別個独立に点灯・消灯させる制御部を備えているので、執行法を行うことにより十分な生長促進効果が得られるように、生長させる植物に応じて、赤色光と青色光とを同時に照射したり交互に照射したり赤色光と青色光との照射時間を変化させたりすることができ、優れた生長促進効果が得られる。
【0068】
また、植物栽培用ランプ1は、赤色発光素子2と青色発光素子3とを有する光照射部を備えているので、赤色光の照射手段と青色光の照射手段の2種類の照射手段を配置する場合と比較して、照射手段を配置する領域の確保が容易であるとともに、赤色光の照射方向と青色光の照射方向とのずれを小さくできる。
【0069】
植物栽培用ランプ1の制御部が、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するランプコントローラを備えている場合、青色光と赤色光の強度比を容易に異ならせることができ、容易に生長させる植物に最適な強度比とすることができる。
植物栽培用ランプ1は、平面視長方形の長尺な光照射部11を備えているため、従来の直管形蛍光灯などの照明器具が設置されている位置に容易に設置できる。
【0070】
また、従来の蛍光灯と同様に交流電源を端子に入力できるように、電源(交流電力をLED駆動の直流電力に変換する)を内蔵することが、設置の容易性、スペースの有効利用ができて望ましい。更に、片側の端子を青色用、もう一方を赤色用に分けることが、内蔵電源の配置の点、発熱源が分散され放熱面で望ましい。また、栽培には複数本の灯具を用いる為、発光強度のコントロールは、多数本を同時に制御ができる点から、交流電力を制御する調光システムを備えLEDの電流を制御することが望ましい。
【0071】
本発明の植物栽培方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態においては、本発明の植物栽培用ランプとして、制御部が発光強度制御手段を備えるものを例に挙げて説明したが、ランプコントローラを備えていなくてもよい。この場合、ランプコントローラを備える植物栽培用ランプと比較して、植物栽培用ランプに用いる部材を節減ができる点で好ましい。
【実施例】
【0072】
(試験用植物の準備)
以下に示す実施例および比較例においては、生育状態を観察する対象の植物として、リーフレタス(品種:サマーサージ)を用いた。まず、リーフレタスの種子を6粒、育成ピートバンに等間隔に播種し、蛍光灯下(12時間日長)において発芽させた。播種から発芽までの3日間は、何れの試験群においても、同一の光環境下に置いた。このようにして得たリーフレタスを試験用植物として用いた。
【0073】
(実施例1)
温度、湿度および二酸化炭素濃度を制御する手段を設けた人工気象器内に試験用の発芽、育苗したリーフレタスを置き、二酸化炭素濃度1000ppm(大気中〔液体肥料中を除く〕)、気温22〜25℃、湿度60%の条件下に、次のようにして光照射しながらリーフレタスを20日間栽培した。
【0074】
植物栽培用ランプとして、赤色LED(中心波長:660nm、波長域640〜680nm)180個からなる赤色発光素子と、青色LED(中心波長:450nm、波長域430〜470nm)60個からなる青色発光素子とを有する光照射部と、光照射部を制御して、赤色発光素子と青色発光素子とを別個独立に点灯・消灯させる制御部とを備えるものを用いた。
【0075】
光照射部からの赤色光の発光強度である光合成光量子束密度(PPFD)は合計で150μmol/m
2sとし、青色光の光合成光量子束密度(PPFD)も合計で50μmol/m
2sとした(赤色光と青色光の発光強度比は3:1)。
【0076】
そして、赤色光を植物に照射する赤色光照射ステップと、青色光を植物に照射する青色光照射ステップとを、1日につき各色12時間ずつ別々に連続して行った。なお、何れの光も照射しない時間は設けなかった。20日後に光照射を停止し、成長したリーフレタスを収穫した。
【0077】
液体肥料の濃度調整には、二酸化炭素を故意に加えていない水道水を使用した。二酸化炭素濃度は、約10ppmであった。 これに、窒素肥料として尿素、リン肥料として過リン酸石灰、カリウム肥料として塩化カリウムを用いて、窒素17me/L、リン4me/L、カリウム8me/L、カルシウム4me/L、及び微量のマグネシウム、鉄を含む栄養水溶液を調整し、pHは6に調整した。
この液体肥料に、市販のナノバブル発生装置を用いて二酸化炭素を溶存させた。そして、青色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を2000ppmとし、赤色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を2000ppmとした。
【0078】
(実施例2)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、使用した液体肥料には、ナノバブル発生装置を用いて二酸化炭素を溶存させた。そして、青色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を1000ppmとし、赤色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を2000ppmとした他は同様な条件とした。
【0079】
(実施例3)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、使用した液体肥料には、ナノバブル発生装置を用いて二酸化炭素を溶存させた。そして、青色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を2000ppmとし、赤色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を4000ppmとした他は同様な条件とした。
【0080】
(実施例4)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、使用したこの液体肥料には、ナノバブル発生装置を用いて二酸化炭素を溶存させた。そして、青色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を500ppmとし、赤色光を植物に照射する手順における液体肥料中の二酸化炭素濃度を1000ppmとした他は同様な条件とした。
【0081】
(比較例1)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、ナノバブル装置を使用しないで、液体肥料中の二酸化炭素濃度は、赤色光を植物に照射する手順と青色光を植物に照射する手順のいずれにおいても10ppmで一定とした他は同様な条件とした。
【0082】
(比較例2)
実施例1と条件で、赤色と青色の光を同時に12時間照射し、その後12時間消灯した以外は、同様に植物育成を行った。液体肥料中の二酸化炭素濃度は、2000ppmで一定とした他は同様な条件とした。
【0083】
各実施例および比較例において、20日後に光照射を停止し、成長したリーフレタスを収穫した。リーフレタスについて、外側から10枚の葉の平均面積(cm
2)、新鮮重100g当たりに含まれるカルシウム量(mg)、地上部新鮮重(g)を測定した。測定結果は、比較例1の結果を基準(100)とする相対指数で表1に示す。
【0084】
【表1】