(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5723914
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】機密保護用紙を製造するための方法、該方法を実施するための凹版印刷機及び前記方法によって製造された機密保護用紙
(51)【国際特許分類】
B41M 1/10 20060101AFI20150507BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20150507BHJP
B41F 9/00 20060101ALI20150507BHJP
B41F 9/02 20060101ALI20150507BHJP
B41F 9/08 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
B41M1/10
B41M3/14
B41F9/00 A
B41F9/02
B41F9/08
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-84924(P2013-84924)
(22)【出願日】2013年4月15日
(62)【分割の表示】特願2009-503676(P2009-503676)の分割
【原出願日】2007年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-173369(P2013-173369A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年4月15日
(31)【優先権主張番号】06007154.5
(32)【優先日】2006年4月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591031371
【氏名又は名称】カーベーアー−ノタシ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−フランソワ・フォレスティ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・ゲオルグ・シェーデ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・モロー
【審査官】
藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−274077(JP,A)
【文献】
特開2000−127351(JP,A)
【文献】
特開2003−281596(JP,A)
【文献】
特開2001−347745(JP,A)
【文献】
特開2002−166689(JP,A)
【文献】
特開2002−113937(JP,A)
【文献】
特表2003−520707(JP,A)
【文献】
特表2003−519034(JP,A)
【文献】
英国特許出願公開第00803546(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B41F 9/00
B42D 25/30−25/391
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機密保護用紙を製造するための方法であって、該機密保護用紙の表面に保護パターンを加えることによって前記機密保護用紙の前記表面をシールするステップを含み、
前記機密保護用紙の前記表面をシールする前記ステップが、
個々の機密保護用紙の表面全体の少なくとも80%が、凹版印刷版のインクが塗布される彫刻領域によって生成される浮彫り陰刻パターン、及び前記凹版印刷版がワイピングされた後にインクが塗布される前記凹版印刷版の非彫刻領域によって生成される平らな陰刻パターンの組合せで覆われるような彫刻領域を備えた前記凹版印刷版を使用した凹版印刷によって前記機密保護用紙を印刷するステップを含み、
前記浮彫り陰刻パターン及び平らな陰刻パターンの少なくとも一部が、透明または半透明陰刻インクを使用して印刷される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
凹版印刷によって前記機密保護用紙を印刷する前記ステップが、
その表面全体の少なくとも80%に亘って延在している彫刻領域を有する凹版印刷版を提供するステップと、
前記機密保護用紙の対応する部分に透明または半透明の浮彫り陰刻パターンを生成するために、前記凹版印刷版の前記表面の少なくとも一部に前記透明または半透明陰刻インクを塗布するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凹版印刷版の前記表面の第1の部分に少なくとも1つの目に見える陰刻インクを塗布することにより、前記機密保護用紙の前記表面の対応する第1の部分に目に見える浮彫り陰刻パターンを生成し、
且つ、前記凹版印刷版の前記表面の残りの部分に前記透明または半透明陰刻インクを塗布することにより、前記機密保護用紙の前記表面の対応する残りの部分に透明または半透明の浮彫り陰刻パターンを生成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記機密保護用紙の各々の表面全体に透明または半透明の浮彫り陰刻パターンを生成するために、前記凹版印刷版の表面全体に前記透明または半透明陰刻インクが塗布される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記透明または半透明の浮彫り陰刻パターンのインクカバレージ比が25%から100%のオーダーの比率である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記透明または半透明の浮彫り陰刻パターンが、100%に近いインクカバレージ比を有する陰刻パターンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記透明または半透明の浮彫り陰刻パターンが、直線状及び/または曲線状の線の網からなる、請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
凹版印刷によって前記機密保護用紙を印刷する前記ステップが、
前記透明または半透明インクが前記機密保護用紙の前記表面の凹版印刷版の彫刻領域に対応する領域のみに転送されるよう、前記凹版印刷版の前記表面のワイピングに先だって前記透明または半透明陰刻インクを前記凹版印刷版の前記表面の少なくとも一部に塗布するステップを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
凹版印刷によって前記機密保護用紙を印刷する前記ステップが、
前記透明または半透明インクが前記機密保護用紙の前記表面の凹版印刷版の非彫刻領域に対応する領域に転送されるよう、前記凹版印刷版の前記表面のワイピング後に前記透明または半透明陰刻インクを前記凹版印刷版の前記表面の少なくとも一部に塗布するステップを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記凹版印刷版のすべての非彫刻領域に前記透明または半透明陰刻インクが塗布される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
凹版印刷によって前記機密保護用紙を印刷する前記ステップが、
その表面全体に亘って延在していない彫刻領域を有する凹版印刷版を提供するステップと、前記機密保護用紙の対応する部分に透明または半透明の平らな陰刻パターンを生成するために、その表面をワイピングした後に前記凹版印刷版の前記表面の少なくとも残りの非彫刻部分に前記透明または半透明陰刻インクを塗布するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記機密保護用紙の前記表面の対応する部分に目に見える浮彫り陰刻パターンを生成するために、前記凹版印刷版の前記彫刻領域に少なくとも1つの目に見える陰刻インクが塗布される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記凹版印刷版の前記彫刻領域の間の該凹版印刷版の非彫刻領域に前記透明または半透明陰刻インクが塗布される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記透明または半透明陰刻パターンの少なくとも一部が、UV放射またはIR放射の下で蛍光を発する陰刻インクで印刷される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
蛍光陰刻インクで印刷される前記透明または半透明陰刻パターンの前記少なくとも一部が、UV放射またはIR放射の下で認識することができる決定済みパターンを形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項2に記載の方法を実施するための凹版印刷機であって、
その表面全体の少なくとも80%に亘って延在している彫刻領域を有する少なくとも1つの凹版印刷版と、
前記凹版印刷版の彫刻領域に前記透明または半透明陰刻インクを塗布するための少なくとも1つのインク塗布デバイスと、
を備えた凹版印刷機。
【請求項17】
前記少なくとも1つのインク塗布デバイスが、
ワイピングユニットによるその表面のワイピングに先だって前記少なくとも1つの凹版印刷版にインクを塗布するための直接または間接インク塗布デバイスである、請求項16に記載の凹版印刷機。
【請求項18】
前記少なくとも1つのインク塗布デバイスが、
ワイピングユニットによってその表面がワイピングされた後に前記少なくとも1つの凹版印刷版にインクを塗布するためのインク塗布デバイスである、請求項16に記載の凹版印刷機。
【請求項19】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法を実施するための凹版印刷機であって、
その表面全体に亘って延在していない彫刻領域を有する少なくとも1つの凹版印刷版と、
前記凹版印刷版の非彫刻領域に前記透明または半透明陰刻インクを塗布するための少なくとも1つのインク塗布デバイスと、
を備え、
前記少なくとも1つのインク塗布デバイスが、
ワイピングユニットによってその表面がワイピングされた後に前記少なくとも1つの凹版印刷版にインクを塗布するためのインク塗布デバイスである凹版印刷機。
【請求項20】
請求項1に記載の方法によって製造された機密保護用紙であって、
該機密保護用紙の少なくとも一方の表面に該機密保護用紙の前記表面をシールするための保護パターンを備え、
該保護パターンが前記機密保護用紙の前記表面全体の少なくとも80%を覆っている陰刻パターンからなり、
該陰刻パターンが彫刻領域を備えた凹版印刷版を使用した凹版印刷によって生成され、
前記陰刻パターンが、前記凹版印刷版のインクが塗布される彫刻領域によって生成される浮彫り陰刻パターン、及び前記凹版印刷版がワイピングされた後にインクが塗布される前記凹版印刷版の非彫刻領域によって生成される平らな陰刻パターンの組合せからなり、
前記浮彫り陰刻パターン及び平らな陰刻パターンの少なくとも一部が、透明または半透明陰刻インクを使用して印刷される、
機密保護用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機密保護用紙(security papers)、特に銀行券を製造するための方法、このような方法を実施するための凹版印刷機、及びこのような方法によって製造された機密保護用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
機密保護印刷産業で広く実践されている方法は、同じ機密保護用紙に複数の印刷プロセスを関連させること、つまり、偽造をより困難にするために機密保護用紙に複数の異なる印刷/アプリケーションプロセスを施すことである。機密保護印刷産業で使用されている一般的な印刷/アプリケーションプロセス、とりわけ銀行券を製造するためのプロセスの例として、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、箔アプリケーション(security papers)、凹版印刷、番号付け、並びにフレキソ印刷を挙げることができる。機密保護印刷産業では、高度に示差的なレリーフ及び浮彫りフィーチャ(embossed features)を生成するために、とりわけ凹版印刷が使用されている。このような陰刻フィーチャ(intaglio features)は、それらを印刷するためには特殊な設備を製造する必要があり、また、偽造者が容易に利用することができる設備を使用して容易に複製することができないため、偽造に対する高度な耐性を有している。凹版印刷は、通常、凹版印刷に固有のレリーフ/触感効果を利用して、肖像、縄編み模様パターン(guilloche patterns)、ビネット(vignettes)、潜像、並びに他の特殊な陰刻機密保護フィーチャ等の示差的陰刻パターンを生成するために、銀行券(または一般的には機密保護用紙)の表面部分を印刷するためにのみ使用されている。銀行券の残りの領域は、通常、凹版印刷に先だって、多重カラーオフセット背景を使用して印刷される。銀行券は、任意選択で、シルクスクリーン印刷技術を使用して光可変インクパターン(OVIパターン(optically-variable ink patterns))を備えることができ、且つ/または、箔アプリケーション技術を使用して、ホログラム等の光可変デバイス(OVD(optically-variable devices))を備えることができる。銀行券には、更に、凸版印刷技術を使用して、通し番号及び/または署名が振られている。任意選択で、銀行券に番号を振る前または番号を振った後に、オフセット印刷技術または好ましくはフレキソ印刷技術を使用して銀行券にワニス仕上げを施すことも可能である。
【0003】
上で言及した凹版印刷プロセスは、通常、枚葉給紙凹版印刷機または巻取り紙凹版印刷機を使用して実施される。例えば特許文献1に、典型的な枚葉給紙凹版印刷機が開示されている。この枚葉給紙凹版印刷機は、複数の印刷版を備えたプレートシリンダ、圧胴、及びワイピングデバイスを備えており、また、印刷版と相互作用する弾性表面を有するインク収集シリンダ(Orlofシリンダとも呼ばれている)を備えたインク塗布システムを備えている。インク塗布システムは、更に、インク収集シリンダの周囲と接触している、所望する様々な色のインクを塗布すべき印刷版のゾーンに対応するレリーフ部分を有する複数の選択インク塗布シリンダを備えている。選択インク塗布シリンダには、それぞれ、適切なインク塗布デバイスによって、対応する色のインクが塗布されている。印刷版は、それぞれ、機密保護用紙の、陰刻刻印(肖像、縄編み模様パターン、等々)を備えることになる領域に対応する彫刻領域、並びに機密保護用紙に一切のインクをもたらさない非彫刻領域を示している。印刷版への彫刻は、所望の陰刻パターンを機密保護用紙上に生成するために、深い陰刻カット及び繊細な陰刻カットの適切な任意の組合せから構成することができる。
【0004】
印刷版には、それぞれ、インク塗布システムによって所望の色のインクが塗布され、過剰のインクは、プレートシリンダと同じ方向に回転するいわゆるワイピングローラを一般的に備えたワイピングデバイスの作用の下で、印刷版の非彫刻領域から拭い取られることは理解されよう。凹版印刷は、より大きい圧力の作用の下で、プレートシリンダと圧胴との間の印刷ニップで実際に生じ、それにより、着色されたインクが印刷版の彫刻から圧胴によって運ばれたシートに転送され、凹版印刷プロセスの特徴である浮彫り構造が生成される。
【0005】
他の構成の凹版印刷機も可能である。例えば、特許文献2〜特許文献10に、このような他の例を見出すことができる。
【0006】
銀行券及び同様の機密保護書類は、通常、それらの表面の一部にのみ陰刻刻印を備えており、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、OVD、(通し番号及び署名等の)タイポグラフィエレメント(typographic elements)等の他の印刷パターンまたは印加パターンが提供されるそれらの表面の残りの部分(すき入れが提供される領域等)は、単に空白として残される。上で言及したように、これらの書類の表面またはその一部のみに、ワニスまたはラッカーを塗布することも可能である。このような機密保護用紙は、満足すべき外観、汚損に対する良好な物理的耐性、及び偽造に対する実質的なレベルの耐性を示している。しかしながら、これらの特徴を改善する必要性、とりわけこれらの書類の物理的耐性を強化し、且つ、これらの書類の耐偽造性を強化する必要性は、常に存在している。
【0007】
特許文献11に、凹版印刷イメージが隆起した機密保護書類が開示されている。この機密保護書類の基板は、反射率が少なくとも60光沢単位(gloss units)の滑らかな高反射層を備えており、隆起した印刷イメージは、透明または半透明な陰刻インクを使用した凹版印刷によってこの反射層の上に加えられている。この反射層は、個々のパッチの形態で基板上に加えることができ、あるいは機密保護書類の表面全体に加えることができる。このアプリケーションは、隆起した印刷イメージを生成するために使用される凹版印刷プロセスとは異なる印刷プロセスであるグラビア印刷によって実行されている。実際問題として、グラビア印刷には、特許文献11の中で言及されている個々のセルの一定のパターン(すなわちスクリーン)を有するグラビアシリンダが使用されている。グラビア印刷は、凹版印刷とは対照的にかなり低い印刷圧力を使用して実行されるため、印刷材料の表面に浮彫りを生成することは全くない(例えば、非特許文献1を参照されたい)。つまり、特許文献11は、連続する2つの印刷プロセス、つまり反射層を加えるためのグラビア印刷プロセスと、隆起した印刷イメージを反射層の上に生成するための、グラビア印刷プロセスに引き続く凹版印刷プロセスを必要とする機密保護書類を教示している。また、反射層は、機密保護書類の表面全体を覆うことはできるが、隆起した印刷イメージが覆うことができるのは書類の表面のごく一部分にすぎず、従って書類の表面の注目すべきシール効果は何ら提供していない。
【0008】
特許文献12に、樹脂状基板シートを備え、樹脂状基板シートに証印が印刷され、且つ、樹脂状基板シートの両面に用紙シートが積層された機密保護用紙が開示されている。樹脂状基板シートに印刷される証印は、透明インクを使用して印刷されることが好ましい。より正確には、証印は、輪転グラビア印刷シリンダを使用したグラビア印刷によって印刷される。この場合も、グラビア印刷プロセスは、書類の上に浮彫りを生成することは全くなく、従って凹版印刷プロセスとは区別しなければならない。更に、特許文献12によれば、シール効果は、樹脂状基板シートの両面に積層されたシートによって保証されている。従って証印の目的は、書類の表面の何らかのシーリングを提供することではない。いずれにせよ、証印が覆っているのは樹脂状基板シートの表面のごく一部分にすぎない。
【0009】
特許文献13に、連続する2つの凹版印刷ステップの結果として生成される機密保護書類が開示されている。第1の凹版印刷ステップの間、実質的に白色または事実上目に見えない顔料を使用して、第1のセットの図案が印刷され、それにより用紙の表面の大部分が覆われる。この第1のセットの図案は、交差する線の網からなっている。後続する第2の凹版印刷ステップの間、今度は目に見えるインクを使用して、第1のセットの図案の上に第2のセットの図案が印刷される。その結果、第2のセットの図案が第1の図案の上に重なり、下側の第1のセットの図案によって変形する。従ってこの解決法の欠点は、機密保護書類を生成するのに2つの印刷ステップを必要とすることである。凹版印刷によって印刷された新しい印刷シートは、通常、一定の期間の間、乾燥させるかあるいは寝かせる必要があるため、この解決法の場合、製造時間が著しく長くなる。また、凹版ステップは、その都度、印刷材料の構造及び形状にかなりの影響を及ぼすため、機密保護書類の同じ面に2回続けて凹版印刷ステップを施すことは好ましくない。最後に、下側の第1のセットの図案によって第2のセットの図案の外観が著しく損なわれる。
【0010】
凹版印刷機と凸版印刷機を組み合わせた印刷機が特許文献14及び特許文献15の両方に記述されており、それによれば、追加インク塗布システムを使用して、ワイピングシステムによってインクが拭い取られた後に、凹版印刷版にインクが塗布される。
【0011】
より正確には、特許文献14によれば、追加インク塗布システムは、機密保護書類の背景の対応する部分を形成するための凸版印刷版を個々に担っている多数の凸版印刷プレートシリンダを備えている。凸版印刷プレートシリンダは、すべて、用紙が印刷される位置の前段の、ワイピングシステムの下流側の位置で凹版印刷版の非彫刻表面と接触する共通凸版印刷インク転送シリンダと協同している。この解決法のおかげで、陰刻パターン及び背景の両方が同時に印刷される。しかしながら、特許文献14は、結果として得られる陰刻パターンのカバレージの範囲については言及していない。しかしながら、特許文献14の場合、凹版印刷版の表面が彫刻されるのはごく一部分にすぎないようである。
【0012】
特許文献15によれば、ワイピングに先だって凹版印刷版の彫刻領域の一部にインクが塗布され、彫刻領域の残りの部分はインクが空の状態で放置される。ワイピングの後、且つ、印刷の前に、彫刻領域のインクが塗布されていない残りの部分を取り囲んでいる非彫刻領域に、追加インク塗布システムによってインクが塗布される。その結果、完全な見当の中に、1つは負の表現、もう1つは正の表現の2つの部分を有するインクパターンが得られる。この解決法が抱えている問題は、印刷動作に伴う必然の結果として、凹版印刷版のインクが塗布されていない彫刻領域へのインクの浸透が避けられないことであり、例え、凹版印刷版の非彫刻領域へのインクのこのような浸透を回避するように追加インク塗布システムが設計されている場合であっても、なおかつ避けられないことである。従って、このような解決法の場合、印刷品質が急速に劣化する。更に、この追加インク塗布システムは、基本的に、凹版印刷版の限られた面積の領域、例えば歪曲されてはならない表示を受け取ることが意図された空間等の領域にインクを塗布することが意図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0406157号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0091709号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0415881号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0563007号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0683123号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0873866号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1400353号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1602482号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1602483号明細書
【特許文献10】国際公開第05/077656号パンフレット
【特許文献11】国際公開第01/003951号パンフレット
【特許文献12】米国特許第5449200号明細書
【特許文献13】米国特許第1299484号明細書
【特許文献14】英国特許第0803546号明細書
【特許文献15】米国特許第3390631号明細書
【特許文献16】国際公開第03/103962号パンフレット
【特許文献17】欧州特許出願公開第0619192号明細書
【特許文献18】国際公開第01/054904号パンフレット
【特許文献19】欧州特許出願公開第1486328号明細書
【特許文献20】特表2003−520707号公報
【特許文献21】特開2000−127351号公報
【特許文献22】特開2003−281596号公報
【特許文献23】特開2001−347745号公報
【特許文献24】特開2002−166689号公報
【特許文献25】特開平3−274077号公報
【特許文献26】特開2002−113937号公報
【特許文献27】特表2003−519034号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】the Handbook of Print Media, H. Kipphan, Springer Verlag, 2001, ISBN 3-540-67326-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って本発明の目的は、機密保護用紙を製造するための方法であって、機密保護用紙の物理的な耐性を改善し、且つ、偽造に対するこれらの機密保護用紙の耐性を強化する方法を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、機密保護用紙を製造するための方法であって、依然として経済的な方法、つまり可能な限り多くの既存の技術を利用した方法を提供することである。
【0017】
本発明の更に他の目的は、既存の印刷設備及び処理設備であって、しかしながら依然として偽造者にはほとんど接近し難い設備を使用して容易に実施することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらの目的は、独立請求項1で定義されている、機密保護用紙の表面に保護パターンを加えることによってこれらの機密保護用紙の表面をシールするステップを含む方法によって達成される。機密保護用紙の表面をシールするこのステップには、個々の機密保護用紙の表面全体の少なくとも80%が、凹版印刷版のインクが塗布される彫刻領域によって生成される浮彫り陰刻パターンで覆われるか、あるいは浮彫り陰刻パターンと平らな陰刻パターンの組合せで覆われるような彫刻領域を備えた凹版印刷版を使用した凹版印刷によって機密保護用紙を印刷するステップが含まれている。平らな陰刻パターンは、凹版印刷版がワイピングされた後にインクが塗布される凹版印刷版の非彫刻領域によって生成され、前記浮彫り陰刻パターン及び/または平らな陰刻パターンの少なくとも一部が、透明または半透明陰刻インクを使用して印刷される。
【0019】
本発明には複数の利点がある。
− 第1に、機密保護用紙の実質的に表面全体(つまり少なくとも80%)が陰刻刻印で覆われるため、物理的な観点から機密保護用紙の耐性が改善される。実際、耐性陰刻インク層は、凹版印刷の固有カレンダーがけ効果と相俟って、機密保護用紙の表面全体の保護を強化している。
− 第2に、機密保護用紙の全面にわたる凹版印刷により、その機密保護が強化され、指で触れることによって浮彫り陰刻パターンの独特の浮彫り及び触感構造を容易に判別することができる。このようなフィーチャは、適切な設備なくしては複写が困難であり、従って偽造を著しく複雑にしている。
− 第3に、一般に、透明または半透明陰刻インクを使用して機密保護用紙の非凹版印刷領域をオーバプリントする場合のように機密保護用紙の外観が見苦しくなることはない。
− 第4に、機密保護用紙を製造するために、既に広く使用されているもの以外の設備を使用する必要はない。
【0020】
一般的な観点から、機密保護用紙のほぼ表面全体を凹版印刷することにより、その物理的な特性の観点及びその偽造に対する耐性の観点の両方から、機密保護用紙を「シールする」効果が得られる。
【0021】
本発明の有利な実施形態及び変形態様は、従属請求項の主題を形成している。
【0022】
詳細には、本発明の一実施形態によれば、その表面全体の少なくとも80%にわたって展開している彫刻領域を有する凹版印刷版を使用して凹版印刷が実行される。凹版印刷版には、機密保護用紙の対応する部分に透明または半透明の浮彫り陰刻パターンを生成するために、その表面の少なくとも一部に少なくとも1つの透明または半透明陰刻インクが塗布される。
【0023】
この実施形態の第1の変形態様によれば、機密保護用紙の表面の対応する第1の部分に目に見える浮彫り陰刻パターンを生成するために、凹版印刷版の表面の第1の部分に少なくとも1つの目に見える陰刻インクが塗布される。凹版印刷版の表面の残りの部分には、機密保護用紙の表面の対応する残りの部分に透明または半透明の浮彫り陰刻パターンを生成するために、少なくとも1つの透明または半透明陰刻インクが塗布される。この変形態様は、少なくともその一方の面に目に見える陰刻パターン(肖像、縄編み模様、ビネット、等々)を担っている機密保護用紙のコンテキストにおいてはとりわけ有利である。とりわけ銀行券は、通常、その一方の面または両面に目に見える陰刻パターンを備えている。このコンテキストにおいては、目に見える陰刻パターンによって既に提供されているシール効果を補って完全なものにするために、透明または半透明の陰刻パターンが印刷される。
【0024】
この実施形態の他の変形態様によれば、個々の機密保護用紙のほぼ表面全体に透明または半透明の浮彫り陰刻パターンを生成するために、凹版印刷版のほぼ表面全体に少なくとも1つの透明または半透明陰刻インクが塗布される。この第2の変形態様は、少なくともその一方の面に目に見える陰刻パターンを担っていない機密保護用紙のコンテキストにおいては有利である。上で言及したように、銀行券は、その一方の面にのみ目に見える陰刻パターンを備えることができる。従って、このような場合、銀行券のもう一方の面のほぼ表面全体に透明または半透明の陰刻パターンを印刷することができる。
【0025】
透明または半透明の浮彫り陰刻パターンは、100%に近いインクカバレージ比(つまり陰刻インクによって覆われる表面と陰刻インクによって覆われない表面の比率)を有するよう、有利に印刷することができる。これは、前記陰刻パターンが透明または半透明陰刻インクを使用して印刷され、従って印刷された書類の裸眼に対する外観に影響を及ぼさないため、とりわけ実行が可能である。この実施形態の好ましい変形態様によれば、透明または半透明の陰刻パターンは、詳細には、いわゆるマルチトーンパターン、連続背景または確率的背景つまり見掛け上の連続表面カバレージを有するパターンであってもよい。マルチトーンパターン及び連続背景は、通常、直線状及び/または曲線状の線の緊密な組合せによって生成され、それらの線の幅及び厚さを調整つまり変更することによって連続印刷表面の視覚効果を生成することができる。一方、確率的背景は、所望の表面全体に無作為に分布したパターンで形成される。凹版印刷技術のみを使用して広い面積を印刷するためには、通常、凹版印刷版上のインクの流れを制限し、且つ、印刷版をワイピングしている間、印刷版からインクが拭い取られるのを防止するためのインク保持領域の準備が必然的に伴うことを理解されたい。マルチトーンパターン、連続背景及び確率的背景には、通常、このようなインク保持領域が、彫刻されていない点領域または線領域等の彫刻と彫刻の間の適切な分離または彫刻内の隔壁の形態で組み込まれている。
【0026】
本発明の他の実施形態によれば、その表面全体にわたって展開していない(つまり表面の一部分にしか展開していない)彫刻領域を有する凹版印刷版を使用して凹版印刷が実行される。このような凹版印刷版は、機密保護用紙の対応する部分に透明または半透明の平らな陰刻パターンを生成するために、凹版印刷版の表面がワイピングされた後、凹版印刷版の表面の少なくとも残りの非彫刻部分に少なくとも1つの透明または半透明陰刻インクが塗布される。従って、この実施形態によれば、ワイピングの後に凹版印刷版の非彫刻表面に透明または半透明陰刻インクが付着され、それにより透明または半透明陰刻インクの途切れることのない連続層が生成され、この連続層が平らな陰刻パターンとして機密保護用紙の表面に転送される。有利には、ワイピングの後に、透明または半透明陰刻インクを使用してインク塗布が実行されるため、印刷版の彫刻領域と彫刻領域の間、例えば肖像の個々の彫刻線の間に透明または半透明陰刻インクを付着させることができる。その結果、陰刻インクで完全に覆われた機密保護用紙が得られる。
【0027】
本発明の更に他の実施形態によれば、UV放射またはIR放射の下で蛍光を発する陰刻インクを使用して、透明または半透明の陰刻パターンの少なくとも一部が印刷される。蛍光陰刻インクで印刷される透明または半透明の陰刻パターンの少なくとも前記部分は、UV放射またはIR放射の下で認識することができる決定済みパターンを形成することが好ましい。このコンテキストにおいては、凹版印刷版に決定済みパターンを彫刻することができ、ワイピングに先だって蛍光陰刻インクが塗布される。別法としては、ワイピングの後に、凹版印刷版の非彫刻部分に蛍光陰刻インクを選択的に付着させることによって決定済みパターンを生成することも可能である。組合せも可能であり、適切な彫刻パターンを使用して、ワイピングに先だってインクが塗布される凹版印刷版に蛍光パターンが形成され、また、透明または半透明陰刻インクの背景層がワイピング後に印刷版の非彫刻表面に付着される。
【0028】
有利には、透明または半透明陰刻インクは、1つまたは複数の凹版印刷版をワイピングした後に、陰刻インクを1つまたは複数の凹版印刷版に直接塗布するインク塗布デバイスを適切に使用して塗布することができる。蛍光顔料はワイピング操作の影響を受けないため(ワイピング操作は、顔料自体の構造に物理的に影響を及ぼすことがある)、この解決法は、蛍光顔料を含有した透明または半透明陰刻インクを塗布するコンテキストにおいてはとりわけ有利である。また、顔料を含有したインクが、個別のインク塗布デバイスを使用して、他のすべてのインクが既に印刷版に塗布された後に塗布されるため、インクの汚染問題が最小限に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の方法によって製造された一例示的機密保護用紙を示す略図である。
【
図2a】透明な陰刻パターンを実現するための例示的デザインを示す図である。
【
図2b】透明な陰刻パターンを実現するための例示的デザインを示す図である。
【
図2c】透明な陰刻パターンを実現するための例示的デザインを示す図である。
【
図3】凹版印刷版にインクを塗布するためのインク収集システム(すなわち間接インク塗布システム)を使用した、本発明の方法を実施するための凹版印刷機の第1の実施形態を示す図である。
【
図4】
図3のインク収集システム並びにワイピングシステムによってワイピングした後に凹版印刷版にインクを塗布するための追加直接インク塗布デバイスを使用した、本発明の方法を実施するための凹版印刷機の第2の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の他の特徴及び利点については、添付の図面に示されている、単に非制限の実施例として提供されたものにすぎない本発明の実施形態についての以下の詳細な説明を読むことによってより明確になるであろう。
【0031】
図1は、本発明によって製造された一例示的機密保護用紙1を略図で示したものである。機密保護用紙の表面の第1の部分は、従来通り、裸眼で見ることができる第1の陰刻パターン2、3、4、5を備えている。この実施例の場合、このような第1の陰刻パターンには、肖像2及び他の様々な陰刻パターン3、4、5が含まれており、陰刻パターン3、4、5には、英数字パターン3(例えば「1452」、「KBA-GIORI」、「NO VALUE」、「SPECIMEN」、「Leonardo DA VINCI」)並びに縄編み模様またはビネット4及び陰刻OVIパターンが含まれている。本発明によれば、機密保護用紙1は、更に、機密保護用紙1の残りの部分(この残りの部分には、通常、陰刻刻印は何も印刷されない)に提供された第2の陰刻パターン6のセットを備えている。これらの第2の陰刻パターン6は、排他的に透明または半透明陰刻インクを使用して印刷され、従って裸眼では実質的に見えない状態を維持している。陰刻パターン2ないし5及び6は、これらが相俟って機密保護用紙1のほぼ表面全体にわたって展開しており、機密保護用紙1の表面をシールする効果を有する保護パターンを形成している。
【0032】
説明用として、
図1には、様々な陰刻パターン2ないし6の上に重畳した長方形または多角形の領域が示されている。これらの長方形または多角形の領域は、凹版印刷版上の彫刻に所望の色のインクを塗布するために使用される対応するシャブロンシリンダ(chablon cylinders)(すなわち選択インク塗布シリンダ)によって生成される様々なインク塗布領域を概略的に示している。
図1に示されている個々の長方形または多角形の領域は、複数のシャブロンシリンダのうちの対応する1つのレリーフ領域に対応していることを理解されたい(シャブロンシリンダ上には、インクを塗布すべき印刷版上に存在している領域の数と同じ数のこのようなレリーフ領域が存在している)。従って凹版印刷版の表面は、目に見える透明または半透明陰刻インクによってほとんど完全に覆われている。そのインクは、ワイピング操作の後に初めて、例えば英数字パターン3の周囲、肖像2の線と線の間、等々の印刷版の非彫刻領域から拭い取られる。
【0033】
図1の実施例では、機密保護用紙は、約12000平方ミリメートル(12'000 square millimeters)の表面を有している。シャブロンシリンダによってインクが塗布される表面を考察すると、この実施例の場合、約7000平方ミリメートル(7'000 square millimeters)(つまりパターン2ないし5に対応する領域)に目に見える陰刻インクが塗布され、また、約5000平方ミリメートル(5'000 square millimeters)(つまりパターン6に対応する領域)に透明または半透明陰刻インクが塗布される。目に見えるインク領域と透明または半透明インク領域の間の上記分割は、当然、機密保護用紙の特定のデザインによって様々である。
【0034】
機密保護用紙1の有効インクカバレージ比、つまり陰刻インクで覆われる機密保護用紙1の表面と陰刻インクによって全く覆われない機密保護用紙1の表面との間の比率は、彫刻のデザイン及び空間密度すなわち周波数によって決まる。全体としての陰刻パターン2ないし5を考察すると、有効インクカバレージ比(つまり平均インクカバレージ比)は30%程度である。しかしながら、陰刻パターン2ないし5は、25%(英数字パターン3の場合等)から85%(陰刻OVIパターン5の場合等)まで変化させることができる個別インクカバレージ比を有している。一般に、目に見える陰刻パターンの総合インクカバレージ比は、25%と85%の間に存在していると推定することができ、これは、機密保護用紙に提供される個々のデザインで決まる。一方、透明または半透明陰刻パターン6のインクカバレージ比は、厳密に言えばこれらのパターンのデザインに対する「視覚上(visual)」の制限が存在しないため、それよりはるかに大きくすることができ、100%近くにすることさえ可能である。従って、透明陰刻パターンの総合インクカバレージ比は、最良の可能シール効果を提供するために、25%から100%の範囲内にすることができ、100%に近いことが有利である。
【0035】
透明または半透明陰刻パターンは、オフセット背景、シルクスクリーンパターン(OVI印刷等)、スタンプパッチまたは箔(OVD、ホログラム、等々)等々と同様、既に印刷済みまたは適用済みのパターンの上に明らかにオーバプリントすることができる。このような場合、背景パターンは、透明または半透明陰刻パターン6を通して見える状態を維持し、また、機密保護用紙の総合的な視覚的側面は、ほぼ不変の状態を維持する。
【0036】
陰刻刻印が機密保護用紙の表面全体の少なくとも80%にわたって印刷される場合、本発明の範囲内で、本発明によって得られる有利なシール効果を達成することができることは理解されよう。機密保護用紙の特定の領域に陰刻オーバプリントを全く提供しないことが望ましい状況が存在する可能性も考えられる。詳細には、その特定の領域は、例えば陰刻オーバプリントによって損なわれる可能性のある特性(例えばOVDまたはホログラムの光特性等)を有するパターンを備えた領域がそうである。何らかの陰刻オーバプリントを備えたこのような領域が提供されないからといって、必ずしも所望のシール効果を達成するために不利になるわけではない。
【0037】
更に、目に見える陰刻パターン(肖像、縄編み模様、ビネット、等々)が印刷されるのが機密保護用紙の一方の面のみである場合、機密保護用紙のもう一方の面を透明または半透明陰刻パターンで完全に覆うことができる。
【0038】
透明陰刻パターン6のインクカバレージ比が最大化されると、つまりインクカバレージ比が100%に近い場合、前記パターン6の最も有効なシール効果が得られることは理解されよう。この目的を達成するために様々なデザインを想定することができる。とりわけ有利な変形態様によれば、透明陰刻パターン6は、詳細には、いわゆるマルチトーンパターン、連続背景または確率的背景つまり見掛け上の連続表面カバレージを有するパターンとして実現することができる。このようなマルチトーンパターン及び背景は、通常、直線状及び/または曲線状の線の緊密な組合せによって生成され、それらの線の幅及び厚さを調整つまり変更することによって連続印刷表面の視覚効果を生成することができる。一方、確率的背景は、点、曲線状パターン、等々の無作為分布パターンからなっている。
【0039】
図2aは、一連の平行線からなるマルチトーンパターンの一例示的実例を示したもので、その幅(すなわち強度)を調整することにより、所望する任意の表現、ここでは三次元様幾何学形状が生成される。
図2aに示されているパターンのインクカバレージ比は100%に近く、隣接する個々の線が交番する幅/強度が、凹版印刷に必要なインク保持機能の遂行を可能にしている。当然、
図2aの実例は、透明または半透明陰刻インクで一度印刷されると、裸眼では容易に見ることができない可変トーンを示していることは理解されよう。しかしながら、特定の照明条件の下では、視覚効果を検出することが可能である。更に、UV放射またはIR放射の下で蛍光を発する顔料を含有した陰刻インクを使用して、より際立った視覚効果を生成することも可能であり、透明顔料を含有したインクの可変密度によって可変蛍光強度が生成される。
図2aの実例は、当然、非制限の一実施例として示したものであり、もっと単純な解決法も可能である。
【0040】
図2b及び
図2cは、透明または半透明陰刻パターン6を実現するための2つの他の可能デザインを示したものである。これらの2つの実施例では、パターンは、印刷表面全体に展開している曲線状の線の網からなっている。これらの2つの実施例の有効インクカバレージ比は、
図2aに示されているパターンの有効インクカバレージ比より小さいが、それにもかかわらずこのような解決法によって所望のシール効果を達成することができる。線の空間密度が大きいほど、より良好なシール効果が得られることは理解されよう。いずれの場合においても、陰刻インクを担っていない領域が依然として存在している場合であっても、凹版印刷プロセスの結果として浮彫りにされる、インクを担っている隣接領域によってこれらの領域が保護またはシールされることになることを更に理解されたい。また、単純に、直線状の線の網または直線状の線と曲線状の線を組み合わせた網からなる他の解決法も可能であることを理解されたい。
【0041】
既に上で言及したように、UV放射またはIR放射の下で蛍光を発する透明または半透明陰刻インクを使用して、透明または半透明陰刻パターンの少なくとも一部を印刷することができる。このようなインクを使用して透明または半透明陰刻パターン全体を印刷する場合であっても、あるいはその一部分のみを印刷する場合であっても、そのためには少なくとも2つの個別の透明または半透明陰刻インクを使用する必要がある。そのコンテキストにおいては、透明陰刻パターンのうちの蛍光陰刻インクを使用して印刷される部分は、UV放射またはIR放射の下で認識することができる決定済みパターンを有利に形成することができる。
【0042】
凹版印刷版への透明または半透明陰刻インクの塗布は、従来通り、印刷版のワイピングに先だって実行することができ、あるいは別法として、凹版印刷版のワイピング後に、機密保護用紙の印刷に先だって実行することができる。この後者の場合、有利には、直接インク塗布デバイスによって凹版印刷版に透明または半透明陰刻インクを直接塗布することができる。蛍光顔料はワイピング操作の影響を受けないため(ワイピング操作は、顔料自体の構造に物理的に影響を及ぼすことがある)、この後者の解決法は、蛍光顔料を含有した陰刻インクを塗布するコンテキストにおいてはとりわけ有利である。また、顔料を含有したインクが、個別のインク塗布デバイスを使用して、他のすべてのインクが既に印刷版に塗布された後に塗布されるため、インクの汚染問題が最小限に抑制される。
【0043】
また、ワイピング後における凹版印刷版のインク塗布には、凹版印刷版の非彫刻領域にインクを塗布することができる利点がある。従って、本発明の範囲内で、印刷版の非彫刻表面に透明または半透明陰刻インクを塗布することができ、従って透明または半透明陰刻インクの一様な層を機密保護用紙の実質的に表面全体に転送することができる。従って、その結果、浮彫り陰刻パターンと平らな陰刻パターンの組合せ、つまり、印刷版の対応する彫刻領域及び非彫刻領域によってそれぞれ生成されたパターンを備えた機密保護用紙が得られる。
【0044】
本発明による方法は、既存の凹版印刷機またはその若干の修正バージョンを使用して、異なる方法で実施することができる。
図3及び
図4は、このような印刷機の2つの可能実施例を示したもので、同じ参照番号は同じ構成要素を表している。
【0045】
いずれの実施例も、印刷機は、グリッパ12がそのピット内に配置された、印刷すべきシートを給送するための転送シリンダ11と、対応するシリンダピット16、17に配置された2つのセットのグリッパ14、15によってシートがその上に保持される圧胴13と(圧胴13は、2セグメントシリンダである)、グリッパ19を備えた、圧胴13から印刷済みシートを運び去るためのデリバリチェーンシリンダ18とを備えている。シートは、給送ステーション(図示せず)から転送シリンダ11を経て圧胴の上に給送され、印刷された後、デリバリチェーンシリンダ18によってシートデリバリシステム(図示せず)に引き渡される。
【0046】
圧胴13は、プレートシリンダ20と協同している。圧胴13によって運ばれたシートが、圧胴13とプレートシリンダ20の間に形成された印刷ニップ21の部分で印刷される。
【0047】
プレートシリンダ20は、参照番号22、23及び24によって概略的に識別されている複数の凹版印刷版(図に示されている実施例では3つの凹版印刷版)を担っている。凹版印刷版は、当分野で知られているように、シリンダピット25、26及び27に配置されている適切なプレートクランピングデバイスによってプレートシリンダ20に取り付けられている。
【0048】
凹版印刷版22、23及び24には、この実施例ではインク収集シリンダ(すなわちOrlofシリンダ)28及び複数の選択インク塗布シリンダ(すなわちシャブロンシリンダ)29を備えたインク塗布システムによってインクが塗布される。選択インク塗布シリンダ29の各々には、関連するインク塗布デバイス(図示せず)によって少なくとも1つの対応する色のインクが塗布される。凹版印刷の分野で知られているように、選択インク塗布シリンダ29は、所望の色のインクが塗布される凹版印刷版22、23、24上の領域に対応するレリーフパターンを備えたシャブロンを担っている。インク収集シリンダ28は、対応するシリンダピット30、31、32に配置された適切な保持手段によってシリンダの表面に保持されているゴムブランケット33、34及び35を担っている。
【0049】
更に、凹版印刷版22、23、24の表面から過剰のインクを拭い取るためのワイピングユニット36が、インク塗布システムの下流側に提供されている。このようなワイピングユニット36は、通常、プレートシリンダ20の表面に対して回転するワイピングローラを備えている。
【0050】
図3及び
図4に示されている機械構成は、少なくともシリンダ構成に関する限り、基本的に特許文献1に開示されているシリンダ構成に対応していることは理解されよう。本発明の範囲内で他の機械構成を想定することも可能である。例えば、特許文献2〜特許文献10に、他の構成を見出すことができる。
【0051】
本発明の範囲内で、凹版印刷版の表面に透明または半透明陰刻インクを塗布することができる。そのために、
図3の機械構成では、複数の選択インク塗布シリンダ29のうちの少なくとも1つ(例えば
図3の一番下のシリンダ、つまりシリンダ28の回転方向に対して最初にシリンダ28と接触するシリンダ等)に透明または半透明陰刻インクが塗布され、また、その表面は、印刷すべき透明陰刻パターンに対応する領域の凹版印刷版に陰刻インクが転送されるように構造化されている。この実施例では、凹版印刷版22、23、24は、それぞれ、通常の凹版印刷版とは対照的に、凹版印刷版のほぼ表面全体を覆っている彫刻領域を有している。
【0052】
別法としては、凹版印刷版の表面に透明または半透明陰刻インクを直接塗布するために、選択インク塗布シリンダがインク収集シリンダ28とワイピングユニット36の間のプレートシリンダ20の表面と直接接触する直接インク塗布システムを提供することも可能である。例えば特許文献2に、間接インク塗布と直接インク塗布を組み合わせた凹版印刷機が開示されている。更に、インク塗布システムは、直接インク塗布デバイスのみを備え、インク収集シリンダを省略することも可能である。
【0053】
図4は、更に他の変形態様を示したもので、特許文献9で知られているように、凹版印刷版22、23、24の表面にインクを直接塗布するためのインク塗布デバイス40がワイピングユニット36の後段に配置されている。蛍光顔料はワイピング操作の影響を受けないため(ワイピング操作は、顔料自体の構造に物理的に影響を及ぼすことがある)、
図4のインク塗布デバイス40を使用した透明または半透明陰刻インクの塗布は、蛍光顔料を含有したインクを塗布するコンテキストにおいてはとりわけ有利である。また、顔料を含有した陰刻インクが、他のインク塗布システム28、29とは別のインク塗布デバイスを使用して、他のすべてのインクが既に印刷版22、23、24に塗布された後に塗布されるため、インクの汚染問題が最小限に抑制される。
【0054】
また、
図4の実施例のコンテキストにおいては、凹版印刷版22、23、24の非彫刻領域は、インク塗布デバイス40によってインクが塗布される。従って、印刷版22、23、24は、透明または半透明陰刻インクが塗布されることになる領域に必ずしも彫刻領域を備える必要はない。
【0055】
また、そのシャブロンシリンダ29を備えたインク塗布システム28、29とは対照的に、インク塗布デバイス40には、インクを塗布するためのパターン化されたシリンダは不要である。実際、インク塗布デバイス40は、彫刻領域と連続している非彫刻領域(
図1の肖像2の彫刻線と彫刻線の間の非彫刻領域、
図1の英数字パターン3を直接取り囲んでいる非彫刻領域、等々)にも同じくインクが塗布されるよう、凹版印刷版22、23、24の実質的に表面全体にインクを塗布するように適合させることができる。
図4の機械構成によれば、個々の機密保護用紙の総合インクカバレージ比を100%近くにすることができる。しかしながら、インク塗布デバイス40は、パターン化されたインク塗布シリンダを使用することができ、それにより、必要に応じて、透明または半透明陰刻インクの塗布を凹版印刷版の選択された領域に限定することも可能である。
【0056】
また、透明または半透明陰刻インクの組合せ、例えば蛍光顔料を含有した第1のインクと、UV放射またはIR放射の下で中性効果を有する第2のインクの組合せ等を使用して、より複雑な陰刻パターンを生成するために、
図4のインク塗布システム28、29及びインク塗布デバイス40の両方を使用して、少なくとも2つの透明または半透明陰刻インクを塗布することができることは理解されよう。
【0057】
本発明を実施するために必要な凹版印刷版は、参照によりその内容が本出願に組み込まれている特許文献16に記載されている彫刻原理を使用して有利に製造することができる。この出願には、凹版印刷のための彫刻版を製造する方法が開示されており、プログラムされた彫刻プロセスが、非彫刻版に、印刷すべきシート全体を表すマスタデプスマップの三次元案内ピクセルデータに基づくコンピュータ制御彫刻ツールによって施される。このマスタデプスマップは、コンピュータに記憶されている少なくとも1つのオリジナルデプスマップによって作成され、オリジナルデプスマップは、機密保護用紙の少なくとも一部の三次元ラスターイメージからなっている。従って凹版印刷版は、三次元ピクセルデータと結合した複数の初歩的な彫刻ステップの結果として彫刻される。そのピクセル毎の手法により、この彫刻プロセスは、従来のベクトルベースの彫刻プロセスより比較的短い時間で凹版印刷版の実質的に表面全体を彫刻することができ、個々の彫刻領域が逐次彫刻されるため、本発明のコンテキストにおいてはとりわけ有利である。マルチトーンパターン、連続背景及び確率的背景は、詳細には、特許文献16の原理のおかげで極めて容易に、且つ、迅速に彫刻することができる。
【0058】
本発明の概念は、凹版印刷の変形態様を使用して実施することも可能である。例えば、同じ印刷版上に凹版印刷の特性と凸版印刷の特性を組み合わせた特許文献17に、このような変形態様が記載されている。
【0059】
以上、本発明の方法について、
図3及び
図4の印刷機構成に関連して説明したが、同じく、他の様々な凹版印刷機を使用して、特許請求の範囲を逸脱することなく本発明を実施することができることを理解されたい。
【0060】
また、適切な任意のインク塗布デバイスを使用して、必要な透明または半透明インクを塗布することができる。例えば、特許文献18及び特許文献19に開示されているシルクスクリーンインク塗布ユニットを使用してこれらのインクを塗布することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 機密保護用紙
2 第1の陰刻パターン(肖像)
3 第1の陰刻パターン(英数字パターン)
4 第1の陰刻パターン(縄編み模様またはビネット)
5 第1の陰刻パターン(陰刻OVIパターン)
6 第2の陰刻パターン(透明または半透明陰刻パターン)
11 転送シリンダ
12、14、15、19 グリッパ
13 圧胴
16、17、25、26、27、30、31、32 シリンダピット
18 デリバリチェーンシリンダ
20 プレートシリンダ
21 印刷ニップ
22、23、24 凹版印刷版
28 インク収集シリンダ(Orlofシリンダ)
29 選択インク塗布シリンダ(シャブロンシリンダ)
33、34、35 ゴムブランケット
36 ワイピングユニット
40 インク塗布デバイス