【文献】
石渡正人 (不二製作所),微粒子噴射加工(WPC処理)による金属材料の表面改質 ,マリンエンジニアリング,日本,2011年 9月 1日,Vol.46 No.5,Page.684-687
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粉末状金属材料を前記噴射粉体と成すと共に,前記媒体物質を前記被衝突物として前記ブラスト処理を行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の粉末状金属材料の表面処理方法。
前記媒体物質を粉体として前記噴射粉体と成すと共に,前記粉末状金属材料を前記被衝突物として前記ブラスト処理を行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の粉末状金属材料の表面処理方法。
前記媒体物質を前記粉末状金属材料と同一材質,及び同一の平均粒径を有する粉末状金属材料とし,前記噴射粉体と前記被衝突物のいずれ共に,前記粉末状金属材料としたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の粉末状金属材料の表面処理方法。
前記媒体物質の材質が,前記粉末状金属材料と同等以上の硬度を有する金属,又は,前記表面処理後の粉末状金属材料の硬度と同等以上の硬度を有するセラミックスであることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の粉末状金属材料の表面処理方法。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金の一種として,粉末状金属材料の集合体を融点よりも低い温度で加熱して固めて焼結金属を得る「焼結」は,歯車等の各種機械部品の製造に広く利用されており,特に,近年においては,3Dプリンタにおける造形材料として粉末状金属材料を使用することも提案され,レーザビームや電子ビームを所定のパターンで粉末状金属材料に照射して焼結させることで,CAD等の形状データから所望の3次元立体モデルを直接,金属材料によって成形できるようにすることも提案されており(非特許文献1),このようにして粉末状金属材料の焼結によって製造された3次元立体モデルにあっては,従来の3Dプリンタで製造されていた樹脂製のモデルとは異なり,模型や見本としての用途のみならず,これを直接,機械等に組み込む部品として使用することも期待されている。
【0003】
しかし,粉末状金属材料を焼結して得られる焼結金属は,残留気孔が発生すること等に起因して溶融成形を行った場合に比較して低密度,低強度となり易く,そのままでは機械部品等として実用に耐え得ない場合も多い。
【0004】
そのため,このような低密度,低強度をもたらす残留気孔を除去する目的で,得られた焼結金属を鍛造する「焼結鍛造」と呼ばれる処理も行われているが,前述したように,3Dプリンタを使用した簡便な立体造形によって製造された部品に対し,更に焼結鍛造の処理が必要であれば,簡便性の利点が失われる。
【0005】
前述した焼結鍛造のような事後的な処理とは異なり,焼結に使用する原料である粉末状金属材料の組成や構造を工夫することで,焼結金属の高強度化を図る研究も進められており,その中の1つとして,焼結を行う前の粉末状金属材料に対し,ボールミルによる攪拌によるメカニカルミリング処理を施すことで,材料の内部構造を変化させることで高強度の焼結金属が得られることの報告もされている(非特許文献2,3)。
【0006】
この方法では,
図6(A)に示すように所定の結晶構造を有する粉末状金属材料に対しボールミルによるメカニカルミリング処理を行って粉末状金属材料に集中的に超強加工を施すことで,
図6(B)に示すように粉末状金属材料の表面付近には,結晶粒が微細化されて形成されたシェル(Shell)と呼ばれる領域(以下,この領域を「微細粒領域」という。)が生じることで,元々の結晶粒サイズを維持するコア(Core)と呼ばれる中心部の領域(以下,この領域を「粗大粒領域」という。)と,この粗大粒領域を覆う前述の微細粒領域とを備えた粉末状金属材料が得られる。
【0007】
そして,このようにして粗大粒領域と微細粒領域とが形成された粉末状金属材料を焼結することで,得られた焼結金属は,
図6(C)に示すように粉末状金属材料の微細粒領域同士が連結して形成されたネットワーク状の組織と,この微細粒領域中に粗大粒領域とが調和的に配置された,「調和組織」と呼ばれる構造を有する金属(本発明において,このような金属を「調和組織金属」という。)が得られ,このような調和組織金属では,メカニカルミリング処理を行っていない通常の粉末状金属材料を使用して得られた均一等軸粒組織の焼結金属と同等の延性を維持しつつ,強度の大幅な向上が得られることが報告されている(非特許文献2)。
【0008】
なお,以上の説明では,前掲の「調和組織金属」の製造方法を,「焼結」により行う場合を例に挙げて説明したが,前述した微細粒領域を備えた粉末状金属材料は,これを「溶射」によって基材の表面に金属被膜を形成する場合においても,形成された金属被膜を「調和組織金属」と成し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献2,3として紹介したように,事前にボールミルによる攪拌を行った粉末状金属材料を使用して焼結を行う場合,焼結によって得られた焼結金属が「調和組織」となることで,高延性と高強度との両立という,優れた特性を備えた金属が得られる。
【0011】
しかし,非特許文献2,3に記載されているように,ボールミルで粉末状金属材料の処理を行う場合,処理効率が極めて悪く,一例として非特許文献2における処理時間は100時間,非特許文献3における処理時間は32時間となっている。
【0012】
また,ボールミルによる粉末状金属材料の処理は,粉塵爆発のおそれがあり,極めて危険な作業である。
【0013】
すなわち,焼結等に使用する粉末状金属材料は,一般に粒径が100μm前後と微細なものであるため,これをボールミル内に投入して空気の存在下で攪拌して摩擦力や衝撃力を加え,また,攪拌の際の摩擦によって発生した静電気の放電が生じれば,粉塵爆発が起こる。
【0014】
ここで,粉塵爆発は,酸素の存在,爆発下限濃度以上の粉塵の発生,及び,着火源の存在という3要素が揃ったときに発生することから,粉塵爆発の発生を防止しようとした場合,これらの条件の1つ以上を取り除くことが必要となるが,粉末状金属材料に超強加工を施すために,内部で摩擦力,衝撃力を発生させるボールミルから,着火源となり得る摩擦や衝撃の発生を取り除くことは不可能である。
【0015】
そのため,粉塵爆発を防止しようとした場合,ボールミルの内部を不活性ガスで満たす等して酸素を排除した状態で作業を行うか,粉末状金属材料の投入量を爆発下限濃度未満となるように調整するか,あるいはその双方の実施が必要となる。
【0016】
しかし,ボールミル内部を不活性ガスで満たした状態で処理を行えば,製造コストが大幅に上昇することとなり,また,粉末状金属〔200メッシュ(目開74μm)全通〕の爆発下限濃度は,アルミニウムで35g/m
3,チタンで45g/m
3,鉄で120g/m
3〔「アーク溶接作業の安全性と衛生(第3回)」一般社団法人日本溶接協会 WE-COMマガジン第6号(2012年10月発行)より抜粋〕であることを考えれば,爆発下限濃度以下で攪拌を行おうとすれば,極めて少量ずつしか処理できず,研究室による実験レベルでの少量生産であれば処理可能であるとしても,商業ベースに乗るような大量の粉末状金属材料をボールミルで処理することは不可能である。
【0017】
また,前述したボールミルによる処理を,粉末状金属材料の処理に適用できたとしても,この方法で処理された粉末状金属材料中には,粉末状金属材料の表面より剥離した酸化スケール等の表面酸化物が混在し,この酸化物が,焼結時に粉末状金属材料同士の結合の妨げとなり,高強度化を阻害する。
【0018】
すなわち,焼結や溶射に使用する粉末状金属材料は,一般的にアトマイズ法によって製造されるが,このアトマイズ法では,溶融金属を噴霧・飛散して微粒化し,これを瞬時に急冷・凝固して粉末状金属材料を製造するものであるため,粉末状金属材料の表面には酸化スケールが付着する。
【0019】
また,アトマイズ法以外の方法で製造された粉末状金属材料についても,程度の差はあるが空気中の酸素との接触によって表面酸化物である酸化膜が形成される。
【0020】
このような酸化スケール等の表面酸化物は,ボールミルにおける攪拌時に受ける摩擦や衝撃によって粉末状金属材料の表面より剥離されたとしても,ボールミルの構造上,このようにして剥離した酸化物は,剥離後も取り除かれることなく粉末状金属材料中に混在する。
【0021】
しかも,剥離された酸化物は,粉末状金属材料と共にその後もボールミル内で攪拌されるため,剥離した酸化物の一部は,攪拌による摩擦や衝撃によって粉末状金属材料の表面に押し付けられて,埋め込まれる等して再付着する。
【0022】
そのため,ボールミルで処理した粉末状金属材料をそのまま取り出して焼結に使用する場合,粉末状金属材料中に混在する酸化物の存在により強度の向上が抑制される。
【0023】
一方,粉末状金属材料中に混在する酸化物を除去するために,ボールミルによる処理後の粉末状金属材料を例えば風力選別等にかけることも考えられるが,この方法では,ボールミルによる処理に加え,更に酸化物を除去するための一工程を別途設けることが必要となり,生産性はより一層低下する。
【0024】
しかも,この方法では,粉末状金属材料中に混在している酸化物についてはある程度除去できたとしても,粉末状金属材料の表面に再付着した酸化物を分離,除去することはできない。
【0025】
そのため,このような表面酸化膜についても除去できる方法で粉末状金属材料の表面処理を行うことができれば,得られる調和組織金属のより一層の高強度化が期待できる。
【0026】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたもので,焼結等の粉末冶金や溶射等の方法によって調和組織を備えた金属製品や金属被膜を得る際の材料として使用する粉末状金属材料の表面に,前述した微細粒領域を形成する処理を,粉塵爆発の心配がなく,表面からの酸化物の剥離や,剥離した後の酸化物の除去を容易かつ,確実に行うことができると共に,比較的短時間で効率的に行うことができる粉末状金属材料の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を達成するために,本発明の粉末状金属材料の表面処理方法は,
微細粒領域と粗大粒領域が調和的に配置された調和組織金属の製造
材料として使用する粉末状金属材料の表面処理方法において,
作業空間内で噴射粉体を圧縮気体と共に噴射して被衝突物に衝突させると共に,前記作業空間内を吸引して粉塵を除去,回収する集塵手段を備えたブラスト加工装置を使用し,
平均粒径10〜200μmの粉末状金属材料と,前記粉末状金属材料と同等以上の硬度を有する媒体物質を,噴射速度100〜300m/secで繰り返し衝突させるブラスト処理を行うことにより,前記粉末状金属材料より表面酸化物を剥離すると共に,該粉末状金属材料の表面付近に,中心部の結晶粒径に対し小さな結晶粒径を有する微細粒領域を形成することを特徴とする(請求項1)。
【0028】
前述のブラスト処理に使用する前記ブラスト加工装置としては,前記集塵手段が,前記粉塵と前記噴射粉体とを分級するサイクロンを備えたものを使用する(請求項2)。
【0029】
更に,前述のブラスト加工装置において,前記集塵手段において,回収した粉塵を例えば炭酸カルシウム等の不燃性粉末と共に貯留する(請求項3)。
【0030】
上記構成の粉末状金属材料の表面処理方法において,前述のブラスト処理は,
前記粉末状金属材料を前記噴射粉体と成すと共に,前記媒体物質を前記被衝突物として行っても良く(請求項4),
前記媒体物質を粉体として前記噴射粉体と成すと共に,前記粉末状金属材料を前記被衝突物として行うものとしても良く(請求項5),
更には,前記媒体物質を前記粉末状金属材料と同一材質,及び同一の平均粒径を有する粉末状金属材料とし,前記噴射粉体と前記被衝突物のいずれ共に,前記粉末状金属材料として行うものとしても良い(請求項6)。
【0031】
なお,前記媒体物質の材質は,前記粉末状金属材料と同等以上の硬度を有する金属,又は,前記表面処理後の粉末状金属材料の硬度と同等以上の硬度を有するセラミックスとしても良い(請求項7)。
【発明の効果】
【0032】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の粉体状金属材料の表面処理方法によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0033】
平均粒径10〜200μmの粉末状金属材料と,前記粉末状金属材料と同等以上の硬度を有する媒体物質を,噴射速度100〜300m/secで繰り返し衝突させるブラスト処理を行うことで,粉末状金属材料の表面酸化物が除去されると共に,衝突時時に表面付近で生じる急速な温度上昇と冷却が繰り返されることで,粉末状金属材料の表面付近の結晶粒が微細化されることで,中心部の結晶粒径に対し小さな結晶粒径を有する微細粒領域が表面付近に形成された粉体状金属材料を,ブラスト加工という比較的簡単な方法で容易に,且つ,短時間で大量に処理することができた。
【0034】
しかも,前述したブラスト加工を,集塵機能付きのブラスト加工装置によって行うことで,粉塵爆発の危険を回避しつつ,量産が可能になると共に,粉末状金属材料の表面より剥離した酸化スケール等の表面酸化物を,作業空間内の吸引によって粉塵として除去,回収されることで,後工程において別途,表面酸化物を除去する工程を設けることなく,表面酸化物の混入が無い粉末状金属材料を得ることかできた。
【0035】
特に,ブラスト処理に集塵手段として前記粉塵と前記噴射粉体とを分級するサイクロンを備えたものを使用する場合には,粉末状金属粉体と剥離した表面酸化物とが混在した状態で回収された場合にあっても,この中から表面酸化物を粉塵と共に噴射粉体から分級して回収することができ,より高精度に表面酸化物が除去された粉末状金属材料を得ることができた。
【0036】
更に,前述のブラスト加工装置の集塵手段において,除去した粉塵を炭酸カルシウム等の不燃性粉末と共に貯留する場合には,加工室のみならず,集塵機内における粉塵爆発の危険についても低減することができた。
【0037】
このブラスト加工は,粉末状金属材料を噴射粉体とし媒体物質に対し噴射,衝突させるものとしても良く,又は,媒体物質を噴射粉体として粉体状金属材料に対し噴射,衝突させるものとしても良いが,噴射粉体と被衝突物の双方を同一の平均粒径,同一の材質から成る粉末状金属材料として,粉末状金属材料に対し,粉末状金属材料を噴射,衝突させる構成とした場合には,噴射粉体とした粉末状金属粉体,及び,被衝突物とした粉末状金属粉体の双方に対し表面処理が同時に行われることとなるために,処理量を倍増させることができた。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する
【0040】
〔全体構成〕
本発明は,既知のブラスト加工装置を使用して,処理対象とする粉末状金属材料と,前記粉末状金属材料と衝突される媒体物質とを,所定の噴射速度で繰り返し衝突させるブラスト処理を行うことで,粉末状金属材料の表面より焼結や溶射に際し強度向上を阻害する酸化スケール等の表面酸化物を除去すると共に,該粉末状金属材料の表面付近に,中心部の結晶粒径に対し小さな結晶粒径を有する微細粒領域を形成しようというものである。
【0041】
このようにして,中心部に結晶粒径の比較的大きな粗大粒領域が,表面付近に粗大粒領域に対し結晶粒径の小さな微細粒領域が形成された粉末状金属材料を使用して焼結等の粉末冶金等の方法で得られた金属製品,あるいは溶射によって製造された金属被膜は,微細粒領域同士が結合してできた微細粒組織のネットワーク中に,粗大粒領域が調和的に配置された結晶構造〔
図6(C)参照〕を有し,高延性と高強度の両立という優れた特性を有する調和組織金属となる。
【0042】
〔粉末状金属材料〕
本発明で処理対象とする粉末状金属材料は,焼結等の粉末冶金や溶射の際の材料として使用される平均粒径は10〜200μmの粉体状金属であり,粉末冶金や溶射に適用可能な材質のものであれば各種材質のものを使用することができ,純金属,合金のいずれにより構成されるものであっても良い。
【0043】
一例として,粉末冶金に一般的に使用される金属としては,鉄系,銅系,ステンレス系,チタン系,タングステン系の金属を挙げることができ,また,溶射に使用されている金属としては,亜鉛,アルミ,銅等が一般的であるが,本発明では,これらのいずれも粉末状金属材料の材質に含めることができる。
【0044】
使用する粉末状金属材料は,各種方法で製造されたものを使用することができ,粉末冶金や溶射において一般的に使用される粉末状金属材料の製造方法であるアトマイズ法に代表される噴霧法の他,機械的な破砕,電解析出等の既知の各種の方法により製造されたものを使用することができる。
【0045】
粉体の形状は球状であって良いが,これに限定されず各種形状のものが使用できる。
【0046】
なお,処理前における粉末状金属材料の結晶粒径は,そのまま,前述した粗大粒領域の結晶粒径となるので,粗大粒領域の結晶粒径を所定の範囲内のものとする場合,対応する結晶粒径の粉末状金属材料を選択する。特に限定されるものではないが,粗大粒領域の平均結晶粒径は,一例として数μm〜数十μmである。
【0047】
〔媒体物質〕
前述した粉末状金属材料と衝突する媒体物質としては,粉末状金属材料と同等以上の硬度を有するものであれば各種のものを使用することができ,金属製のもののみならず,セラミック製のものを使用することもできる。
【0048】
なお,加工硬化しないセラミックス製の媒体物質を使用する場合,好ましくは,本発明の表面処理を行った後の粉末状金属材料の硬度と同等以上の硬度を有するセラミックスを使用して,粉末状金属材料が加工硬化した後においても同等以上の硬度が維持されるようにする。
【0049】
また媒体物質自体を前述の粉末状金属材料によって構成することで,粉末状金属材料同士の衝突によって,双方の粉末状金属材料に前述した超微細粒組織を形成するものとしても良い。
【0050】
媒体物質の形状は,媒体物質側を噴射粉体として使用する場合にはこれを粉体として構成する必要があるが,前述した粉末状金属材料を噴射粉体として処理を行う場合,媒体物質は粉体とする必要はなく,例えば板体等の形態として構成するものとしても良い。
【0051】
〔ブラスト加工方法及びブラスト加工装置〕
以上で説明した粉末状金属材料と媒体物質の衝突は,ブラスト加工装置を使用したブラスト加工によって行う。
【0052】
このブラスト加工としては,前述したように,粉末状金属材料を噴射粉体とし,これを,媒体物質に向けて噴射し,衝突させるものとしても良く,これとは逆に,粉体状の媒体物質を準備してこれを噴射粉体として粉末状金属材料に噴射,衝突させるものとしても良く,更には,噴射粉体,被衝突物の双方共に,同一の平均粒子径,同一の材質から成る粉末状金属材料によって構成し,粉末状金属材料同士を衝突させるものとしても良い。
【0053】
使用するブラスト加工装置1としては,加工室となるキャビネット21と,このキャビネット21内を吸引して集塵する集塵機能付きのブラスト加工装置であれば,既知の各種の構成のものを使用することができ,直圧式,重力式のいずれのブラスト加工装置を使用しても良い。
【0054】
本発明の表面処理に使用する重力式のブラスト加工装置1の構成例を
図1(A)に,直圧式の構成例を
図1(B)にそれぞれ示す。
【0055】
以下に,これらのブラスト加工装置1を使用して,噴射粉体,及び被衝突物の双方共に,同一材質,同一平均粒子径の粉末状金属材料を使用して本発明の表面処理を行う例について説明するが,本発明の表面処理方法に使用するブラスト加工装置1は,図示の構成のものに限定されない。
【0056】
図1(A),(B)に示すブラスト加工装置1は,噴射ノズル22及び被加工物を収容してブラスト加工が行われる加工室となるキャビネット21,このキャビネット21内を吸引する集塵機38を備えており,この集塵機38とキャビネット21間に,サイクロン型の回収タンク23を設けることで,キャビネット21内を吸引して回収された,粉塵と混在した状態にある粉末状金属材料を回収タンク23内に回収すると共に,サイクロン型の回収タンク23において粉末状金属材料から分離された粉塵を,集塵機38において回収することができるようになっている。
【0057】
そして,このようにして回収タンク23内に回収された粉末状金属材料は,再度,キャビネット21内の噴射ノズル22より噴射することができるように構成されている。
【0058】
前述のキャビネット21の内部であって,噴射ノズル22の先端が向けられた先には,噴射粉体の噴射中回転する,上向きに開口した収容容器であるバレルカゴ24が設けられており,この中に,被衝突物となる粉末状金属材料を投入することができるようになっている。
【0059】
図1(A)に示した例では,このバレルカゴ24を多数の小孔が形成された金網状のものとして示しているが,図示の例に限定されず,このような小孔を備えない構成のものとしても良い。
【0060】
以上のように構成されたブラスト加工装置1を使用した処理を行うに先立ち,回収タンク23内に粉末状金属材料を投入すると共に,加工室内に設けられたバレルカゴ24内にも粉末状金属材料を投入し,この状態でバレルカゴ24を回転させながら,噴射ノズル22より噴射速度100〜300m/secで粉末状金属材料の噴射を開始すると,噴射ノズル22から噴射された粉末状金属材料は回転するバレルカゴ24内の粉末状金属材料に衝突する。
【0061】
噴射圧力は,非鉄系の粉末状金属材料の処理にあっては100m/sec以上で良いが,鉄系の粉末状金属材料の処理にあっては150m/sec以上とすることが好ましい。
【0062】
このようにして,粉末状金属材料の噴射を行うことで,バレルカゴ24内の粉末状金属材料と噴射ノズル22から噴射された粉末状金属材料のそれぞれは,相互に衝突時のエネルギを受けて粉末状金属材料の表面に形成されていた酸化スケール等の表面酸化物が剥離され,また,衝突部分における表面が急激に温度上昇すると共に冷却されることで,衝突部分表面の結晶粒が微細化され,粉末状金属材料の表面付近に,中央部分の結晶粒に対し小径の結晶粒が形成された微細粒領域が形成される。
【0063】
粉末状金属材料の微細化は,処理対象とする粉末状金属材料が100μm未満である場合,粉末状金属材料の表面に粒径に対し最大で20%程度の深さで形成され,処理対象とする粉末状金属材料が100μm以上である場合には粒径に対し最大で10%程度の深さで形成されることが経験的に確認されていることから,平均粒径10〜200μmの粉末状金属材料を処理対象とする本発明の表面処理方法では,処理対象とする粉末状金属材料の粒径に応じて最大で表面から2〜20μmの範囲に前述した微細粒領域が形成される。
【0064】
噴射ノズル22から噴射された粉末状金属材料は,バレルカゴ24内の粉末状金属材料と衝突した後,バレルカゴ24外に弾き出されたものを除きバレルカゴ24内に溜まり,バレルカゴ24の回転に伴って元々バレルカゴ24内に存在していた粉末状金属材料と共に撹拌される。
【0065】
そのため,噴射ノズル22から粉末状金属材料の噴射を継続すると,バレルカゴ24内の粉末状金属材料が増えてバレルカゴ24から溢れて,キャビネット21の底部へ落下する。
【0066】
キャビネット21の底部は,逆台形状のホッパとして形成されていると共に,ホッパの下端は排風路33,回収タンク23を介して集塵機38に連通されているため,集塵機38に設けられた排風器39によってキャビネット21内を吸引すると,落下した粉末状金属材料や粉塵がキャビネット21内の空気と共に吸引されてサイクロン型の回収タンク23内へ送給され,この回収タンク23で粉塵と粉末状金属材料が分級され,粉末状金属材料は回収タンク23内の下方へ回収される。
【0067】
粉末状金属材料の表面に生じている酸化スケール等の表面酸化物は,粉末状金属材料に比較して高硬度で脆いため,粉末状金属材料同士の衝突による衝撃によって剥離される際に細かく破砕されるために,回収タンク23内には回収されず,粉塵として回収タンク23の上部に連結する管32を介して集塵機38へ送られ,集塵機38内の下方へ集積され,清浄な空気が排風器39より外気中へ排出される。
【0068】
このようにして,キャビネット21内に形成された加工室内は,常に吸引が行われ空気中を浮遊する粉塵や粉末状金属材料が除去されて爆発下限濃度以下に抑えられていることから,本実施形態では粉末状金属材料である噴射粉体の噴射,衝突,摩擦による発熱や静電気の発生によってもキャビネット内で粉塵爆発が発生する恐れはない。
【0069】
一方,サイクロン型の回収タンク23で分級されて集塵機38へ回収された粉塵は,集塵機38内における空気中の可燃性粉塵の濃度が爆発下限濃度以下となるように,不燃性の粉末,例えば炭酸カルシウムの粉末と共に集塵機38内に収容されることで,集塵機38内における粉塵爆発の危険性も回避されている。
【0070】
そして,前記回収タンク23内に回収された粉末状金属材料は,再び噴射ノズル22よりバレルカゴ24内の粉末状金属材料に向けて噴射され,前述の工程が繰り返されることにより,いずれの粉末状金属材料の表面からも酸化スケール等の表面酸化物が除去されると共に,表面付近の全体を覆うように微細粒領域が形成される。
【0071】
以上のようにして,表面付近に微細粒領域が形成された粉末状金属材料は,これを焼結等の粉末冶金の材料として使用し,あるいは,溶射等の金属膜の形成に使用すると,得られた焼結金属や金属被膜では,微細粒領域の部分が相互に連結して形成された微細粒組織のネットワーク中に,粗大粒領域が調和的に配置された調和組織金属が得られる。このような調和組織金属にあっては,高い延性と高強度の両立という,優れた特性が得られる。
【0072】
特に,本発明の方法で処理された粉末状金属材料にあっては,焼結や溶着時における強度低下の原因となる酸化スケール等の表面酸化物についても好適に除去することができることから,得られた焼結金属や金属被膜のより一層の高強度化を図ることができる。
【0073】
なお,以上の説明では,噴射粉体及び被衝突物のいずれ共に粉末状金属材料と成すと共に,キャビネット21内に設けられたバレルカゴ24内で噴射粉体と被衝突物の衝突を行わせる構成について説明したが,例えば,前述のバレルカゴ24に代えてキャビネット21内に噴射粉体と同等以上の硬度を有する材質で形成された板体を媒体物質として収容し,この板体に対し粉末状金属材料を噴射粉体として噴射,衝突させることにより本発明の表面処理を行うものとしても良い。
【0074】
また,前述したバレルカゴ24を備えたブラスト加工装置1を使用し,粉体状の媒体物質を噴射粉体とし,バレルカゴ24内に投入された粉末状金属材料に対し噴射粉体である媒体物質を噴射するものとしても良く,この場合には処理後に粉末状金属材料と媒体物質とを分級してそれぞれを回収する。
【実施例】
【0075】
以下に,本発明の表面処理方法を,各種材質の粉末状金属材料に対し適用した実施例について説明する。
【0076】
〔実施例1〕
粉末状金属材料として,ステンレスの粉末(SUS304相当品:♯80)に対し,本発明の表面処理方法を実施した。処理条件を下記の表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
ブラスト加工装置の加工室内に設けたバレルカゴに10kg,回収タンクに20kgのステンレス粉末を投入し,上記表1に示す条件で,回収タンク内のステンレス粉末を,噴射ノズルよりバレルカゴ内に向かって噴射する処理を3時間継続して行った。
【0079】
上記処理の結果,処理後のステンレス粉末は,酸化スケールが除去されて表面がきれいになっていたと共に,処理前において250〜350HVであったステンレス粉末の硬度が,処理後では450〜550HV迄上昇しており,このことから表面付近の結晶粒が微細化していることが予測される。
【0080】
また,シェラー(Scherrer, 1918)の式よりX線解析ピークの線幅の増大から,結晶粒径の微細化を評価することができるところ,未処理のステンレス粉末のX線解析結果(
図2参照)に対し,本願による処理後のX線解析結果(
図3)ではピークの線幅が大幅に増大しており,前述した粉末状金属材料の硬度が上昇していることと共に,X線回析結果からも表面における結晶粒径の微細化が確認された。
【0081】
〔実施例2〕
粉末状金属材料として,粉末高速度工具鋼(SKH相当品:♯150)に対し,本発明の表面処理方法を実施した。処理条件を下記の表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
ブラスト加工装置の加工室内に設けたバレルカゴに10kg,回収タンクに10kgの粉末高速度工具鋼を投入し,上記表2に示す条件で,回収タンク内の粉末高速度工具鋼を,噴射ノズルよりバレルカゴ内に向かって噴射する処理を5時間継続して行った。
【0084】
その結果,処理前において650〜750HVであった粉末高速度工具鋼の硬度が,処理後では900〜1000HV迄上昇した。
【0085】
また,処理後の粉末高速度工具鋼は,酸化スケールが除去されて表面がきれいになっていると共に,X線回析結果より,未処理のもの(
図4参照)に対し,X線解析ピークの線幅が増大しており(
図5参照),本発明の方法による処理により表面組織が微細化されていることが確認できた(
図4,5参照)。
【0086】
〔実施例3〕
粉末状金属材料として,機械構造用合金鋼の粉末(SCM相当品:♯150)に対し,本発明の表面処理方法を実施した。処理条件を下記の表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
ブラスト加工装置の加工室内に設けたバレルカゴに10kg,回収タンクに10kgの機械構造用合金鋼の粉末を投入し,上記表3に示す条件で,回収タンク内の機械構造用合金鋼の粉末を,噴射ノズルよりバレルカゴ内に向かって噴射する処理を5時間継続して行った。
【0089】
その結果,処理前において150〜200HVであった機械構造用合金鋼の粉末の硬度が,処理後では300〜350HV迄上昇した。
【0090】
また,処理後の機械構造用合金鋼の粉末は,酸化スケールが除去されて表面がきれいになっていると共に,前述した硬度の上昇より,表面に微細化した組織が形成されているものと考えられる。
【0091】
〔実施例4〕
粉末状金属材料として,銅合金の粉末(♯150)に対し,本発明の表面処理方法を実施した。処理条件を下記の表4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
回収タンクに20kgの銅合金粉末を投入し,加工室内に配置されたSKD11製の板(φ400mm,厚さ20mm)の中心から100mm芯をずらした位置に向けて,回収タンク内の銅合金粉末を,噴射ノズルより噴射する処理を7時間継続して行った。
【0094】
その結果,処理前において160〜200HVであった銅合金粉末の硬度が,処理後では220〜260HV迄上昇した。
【0095】
また,処理後の銅合金粉末では,酸化スケールが除去されて表面がきれいになっていると共に,前述した硬度の上昇より,表面に微細化した組織が形成されているものと考えられる。
【0096】
〔実施例5〕
粉末状金属材料として,アルミニウム合金の粉末(AC8A:♯80)に対し,本発明の表面処理方法を実施した。処理条件を下記の表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
直径1mmの孔が多数形成されたバレルカゴを加工室内に設け,このバレルカゴ内にアルミニウム合金(AC8A)の粉末を10kg投入すると共に,回収タンク内に投入したハイス鋼製のショットをバレルカゴ内に向けて噴射する処理を7時間継続して行った。
【0099】
上記処理の結果,処理前において120〜140HVであったアルミニウム合金の粉末の硬度が,処理後では200〜250HV迄上昇した。
【0100】
また,処理後のアルミニウム合金の粉末は,酸化スケールが除去されて表面がきれいになっていると共に,前述した硬度の上昇より,媒体物質であるハイス鋼の成分がアルミニウム合金の粉末の表面に拡散浸透すると共に表面に微細化した組織が形成されているものと考えられる。
【0101】
〔焼結試験結果〕
以上,実施例1〜5として説明した本発明の表面処理方法で処理を行った粉末状金属材料を使用して放電プラズマ焼結を行った。
【0102】
その結果,実施例1〜5のいずれの粉末状金属材料を焼結して得た焼結金属においても,微細粒領域が相互に連結して形成されたネットワーク中に,粗大粒組織が調和的に配置された「調和組織」を有しており,本発明の表面処理方法が,調和組織金属の製造に使用する粉末状金属材料を簡易且つ大量に,しかも安全に処理することができる表面処理方法であることが確認された。