特許第5723977号(P5723977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5723977炭化水素生成能を有する変異微生物及びこれを利用した炭化水素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5723977
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】炭化水素生成能を有する変異微生物及びこれを利用した炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150507BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20150507BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20150507BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20150507BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12N1/21ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12P5/02
【請求項の数】24
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-514122(P2013-514122)
(86)(22)【出願日】2011年6月10日
(65)【公表番号】特表2013-528057(P2013-528057A)
(43)【公表日】2013年7月8日
(86)【国際出願番号】KR2011004289
(87)【国際公開番号】WO2011155799
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2013年2月8日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0054994
(32)【優先日】2010年6月10日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502318478
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】イ サンヨプ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ ヨンジュン
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/140695(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/078973(WO,A1)
【文献】 J. Biol. Chem. (2004) vol.279, no.48, p.49563-49566
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子及びDNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーターをコードするfadR遺伝子が欠失または弱化されており、アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードする遺伝子アセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼをコードするatoDA遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼをコードする遺伝子が導入または増幅されており、短鎖脂肪酸外膜トランスポーターをコードするatoE遺伝子が導入されており、アシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子のネイティブなプロモーター及び脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子のアテニュエーターを含むネイティブなプロモーターが、trcプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター及びtrpプロモーターからなる群から選択される強力プロモーターに置換されていることを特徴とする、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項2】
fabDHGオペロンのネイティブなプロモーター及びfabAオペロンのネイティブなプロモーターは、強力プロモーターに追加的に置換されている請求項1に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項3】
アセテートキナーゼA酵素をコードする遺伝子(ackA)が追加的に欠失されている請求項1に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項4】
前記微生物は、バクテリア、酵母及びカビからなる群から選択される請求項1に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項5】
前記バクテリアは、脂肪酸代謝経路を有するバクテリアである請求項に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項6】
前記脂肪酸代謝経路を有するバクテリアは、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属及び大腸菌からなる群から選択される請求項に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項7】
前記アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、fadE遺伝子である請求項1に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項8】
前記アシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子は、fadDである請求項に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項9】
前記脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子は、fadLである請求項に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項10】
前記脂肪酸アシルACPを遊離脂肪酸に転化させる酵素をコードする遺伝子は、tesA(アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードする遺伝子)である請求項1に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項11】
前記脂肪酸アシルコエンザイムAを脂肪酸アルデヒドに転化させる酵素をコードする遺伝子は、luxC(脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードする遺伝子)である請求項1に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項12】
前記脂肪酸アルデヒドをアルカンに転化させる酵素をコードする遺伝子は、cer1(脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼ1をコードする遺伝子)である請求項1に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項13】
前記強力プロモーターは、trcプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター及びtrpプロモーターからなる群から選択される請求項2に記載のアルカン生成能を有する変異微生物。
【請求項14】
アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(fadE)及びDNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーターをコードする遺伝子(fadR)が欠失または弱化されており、アシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子(fadD)のネイティブなプロモーター及び脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子(fadL)のアテニュエーターを含むネイティブなプロモーターは、trcプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター及びtrpプロモーターからなる群から選択される強力プロモーターに置換されており、アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードする遺伝子アセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼをコードするatoDA遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼをコードする遺伝子が導入または増幅されており、短鎖脂肪酸外膜トランスポーターをコードするatoE遺伝子が導入されていることを特徴とする、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカン生成能を有する変異大腸菌。
【請求項15】
アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(fadE)及びDNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーターをコードする遺伝子(fadR)が欠失または弱化されており、fabDHGオペロンのネイティブなプロモーター及びfabAオペロンのネイティブなプロモーターがtrcプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター及びtrpプロモーターからなる群から選択される強力プロモーターに追加的に置換さており、アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードする遺伝子アセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼをコードするatoDA遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼをコードする遺伝子が導入または増幅されており、短鎖脂肪酸外膜トランスポーターをコードするatoE遺伝子が導入されていることを特徴とする、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカン生成能を有する変異大腸菌。
【請求項16】
アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子及びfadR遺伝子を欠失または弱化させて、アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードする遺伝子、アセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼをコードするatoDA遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼをコードする遺伝子が導入または増幅されており、短鎖脂肪酸外膜トランスポーターをコードするatoE遺伝子が導入されておりアシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子のネイティブなプロモーター及び脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子のアテニュエーターを含むネイティブなプロモーターが、trcプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター及びtrpプロモーターからなる群から選択される強力プロモーターに置換されていることを特徴とする、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカン生成能を有する変異微生物の製造方法。
【請求項17】
アシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子のネイティブなプロモーター及び脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子のアテニュエーターを含むネイティブなプロモーターを強力プロモーターに追加的に置換させて、短鎖脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子を追加的に導入する請求項16に記載のアルカン生成能を有する生成能を有する変異微生物の製造方法。
【請求項18】
fabDHGオペロンのネイティブなプロモーター及びfabAオペロンのネイティブなプロモーターを強力プロモーターに追加的に置換する請求項16に記載のアルカン生成能を有する変異微生物の製造方法。
【請求項19】
アセテートキナーゼA酵素をコードする遺伝子(ackA)を追加的に欠失させる請求項16に記載のアルカン生成能を有する変異微生物の製造方法。
【請求項20】
前記微生物は、バクテリア、酵母及びカビからなる群から選択されることを特徴とする請求項16に記載のアルカン生成能を有する変異微生物の製造方法。
【請求項21】
前記バクテリアは、脂肪酸代謝経路を有するバクテリアである請求項20に記載のアルカン生成能を有する変異微生物の製造方法。
【請求項22】
前記脂肪酸代謝経路を有するバクテリアは、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属及び大腸菌からなる群から選択される請求項21に記載のアルカン生成能を有する変異微生物の製造方法。
【請求項23】
請求項に記載のペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカン生成能を有する変異微生物を培養して、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカンを生成させ、培養液からペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカンを回収することを特徴とする、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカンの製造方法。
【請求項24】
請求項14または請求項15に記載のペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカン生成能を有する変異大腸菌を培養して、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカンを生成させ、培養液からペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカンを回収することを特徴とする、ペンタデカン、ヘプタデカン、オクタン、ノナン及びノネンからなる群から選択されるアルカンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカンを含む炭化水素生成能を有する変異微生物及びこれを利用したアルカンを含む炭化水素の製造方法に関し、より詳細にはアルカンを含む炭化水素生産に適するように改良された微生物に脂肪酸アシルACP(脂肪酸アシルアシルキャリアタンパク質:fatty acyl-acp)を遊離脂肪酸(free fatty acid)に転化させる酵素をコードする遺伝子、遊離脂肪酸を脂肪酸アシルコエンザイムA(fatty acyl-CoA)に転化させる酵素をコードする遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAを脂肪酸アルデヒド(fatty aldehyde)に転化させる酵素をコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドをアルカン(alkane)に転化させる酵素をコードする遺伝子が導入された変異微生物及びこれを利用することを特徴とするアルカンを含む炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近原油高と環境問題によって微生物を利用したバイオ燃料生産に関心が寄せられている。最近、バイオ燃料が化石燃料の代替燃料として浮上しており、市場規模が非常に速い速度で増加している。特に、アルカンは、エネルギー密度、揮発性制御、十分なオクタン価、低い不純物等、燃料として適した特性を持ち、エタノールよりエネルギー効率が高く、ガソリンとよく混ざり、既存の送油管や自動車エンジン等をそのまま使用できるとの長所を持っている。従って、代替燃料として最も適したアルカンを、微生物を利用して大量生産できれば、原油輸入代替効果及び温室ガス排出減少による環境的効果等をもたらすことができる。
【0003】
現在商用化されているガソリンは、1分子内に6個〜10個の炭素を持っており、炭素と炭素が直接連結されている線形構造の炭化水素化合物であり、直線型と分岐がある形態が共存する。また、kg当り約40MJのエネルギーを含有していて、常温、常圧で蒸発しやすく顕著な引火性を持つ。ガソリンにおいて最もキーとなる要素はオクタン価(octane number)である。多分岐構造を持ついくつかの炭化水素は、自動車エンジンでやや滑らかに燃焼する反面、分岐がない炭素鎖を持った炭化水素は、シリンダーで爆発してピストンを激しく動かす傾向があり、このような好ましくない爆発は、自動車でノッキング現象を招くが、このノッキング性を定量化する尺度として、多分岐構造を持つ上質の燃料であるイソオクタン(isooctane: 2,2,4-trimethylpentane)をオクタン価100と仮定し、低質な自動車燃料であるヘプタン(heptane)をオクタン価0にした場合、通常のガソリンは、オクタン価が87程度である。そのため、イソオクタン(isooctane)のようなガソリンにおいて重要な物質である多分岐炭化水素の大量生産が重要であると見込まれている。
【0004】
通常原油(crude oil)においてガソリンが占める比は25%に過ぎないが、これが燃料として最も多く用いられて重要である。従って、石油化学工場では、ガソリンの生産量を高めるために、沸点が高い部分であるC12からC18をクラッキング(Cracking)という工程を介して、炭素数が少なく沸点が低い部分として生成される。こういう観点から、直接的な方法でガソリン、即ち、CからC12に該当する物質を生産する方法の他にも間接的にケロシンや軽油に該当する比較的炭素がさらに多い物質を生産できれば、これを既存の精油工場における熱的、触媒的クラッキング(cracking)を利用して改質(reforming)する可能性があることを意味する。微生物を利用した炭化水素(hydrocarbons)の生産研究は、海洋細菌(marine bacteria)と藻類(algae)の細胞から炭化水素様物質(hydrocarbon-like substances)を分離(isolation)させる研究を始めとし、ガス−液体クロマトグラフィー(gas-liquid chromatography)の発展によって順次増え始めた。微生物を利用した炭化水素生産研究は、大きく二種類に分類することができる。一つは、細胞内炭化水素(Intracellular hydrocarbons of microorganism)に関する方法で、他の一つは、細胞外炭化水素(Extracellular hydrocarbons of microorganism)に関する方法である。細胞内生産に関わる微生物の系統的なグループ(systematic groups)は非常に多様であるが、通常は乾燥質量(dry mass)基準0.005から2.69%程度の数値を示す。この方法を介して、炭化水素を生産できる菌株としては、シアノバクテリア(cyanobacteria)、嫌気性光合成細菌(anaerobic phototrophic bacteria)、グラム陰性嫌気性硫酸還元性細菌(gram-negative anaerobic sulfate-reducing bacteria)、グラム陰性通性嫌気性細菌(gram-negative facultatively anaerobic bacteria)、酵母(yeasts)、菌類(fungi)等が挙げられるが、各々の菌株毎に多様なプロファイル(profiles)の炭化水素を作り出し、画分(fraction)及び優勢(predominance)が独特の特徴を示す。細胞外生産に関わる研究中、炭化水素の生産能を有する菌株として、テスルホビブリオ(Desulfovibrio)とルクロストリシウム(Clostridium)があり、揮発性非メタン炭化水素(Volatile non-methane hydrocarbons)であるイソプレン(isoprene)の生産能を有する菌株として、放線菌(actinomycetes)、エチレン(ethylene)の生産能を有する菌株として、アスペルギルスクラバタス(Aspergillus clavatus)等が知られている。
【0005】
従って、微生物を利用した炭化水素の産業的な応用が可能な菌株の中で、培養条件最適化研究と炭化水素に関わる遺伝子及び酵素等のキーとなる物質研究、これに係る代謝フラックスに関する研究が進められている。しかし、現状は、遺伝子及び酵素等を深く分析して、代謝工学の適用に関する研究は十分に行われていない。従って、産業的応用が可能な菌株を選別し、目的の炭化水素(target hydrocarbons)生産関連遺伝子を分析し、これら菌株から代謝フラックス関連酵素を分離して、炭化水素生産工程の最適化によって生産性を高めようとするより根本的なアプローチが必要である。
【0006】
そこで、本発明者等は、微生物を利用して、アルカンを含む炭化水素を生産する新しい方法を開発しようと鋭意努力した結果、脂肪酸(fatty acid)を基質(substrate)として、アルカンに転化させる代謝回路を新たに構成して、アルカンを含む炭化水素生産に適するように改良された変異微生物を作製して、前記変異微生物がペンタデカン(pentadecane)、ヘプタデカン(heptadecane)を含んだガソリンの範囲のアルカンであるオクタン(octane)、ノナン(nonane)及びノネン(nonene)の生産等、アルカン生成に有用であることを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルカンを含む炭化水素生成能を有する変異微生物及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記変異微生物を利用したアルカンを含む炭化水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼ(acyl-Coenzyme A dehydrogenase)をコードする遺伝子及びDNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーターをコードする遺伝子が欠失または弱化されており、脂肪酸アシルACPを遊離脂肪酸に転化させる酵素をコードする遺伝子、遊離脂肪酸を脂肪酸アシルコエンザイムAに転化させる酵素をコードする遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAを脂肪酸アルデヒドに転化させる酵素をコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドをアルカンに転化させる酵素をコードする遺伝子が導入または増幅されていることを特徴とする、アルカン、アルケン、アルキン及び芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素を生成する能力を有する変異微生物及びその製造方法を提供する。
【0009】
さらに本発明は、本発明に係る炭化水素生成能を有する変異微生物を培養して、アルカン、アルケン、アルキン及び芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素を生成させ、培養液から炭化水素を回収することを特徴とする、アルカン、アルケン、アルキン及び芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、アルカンを含む炭化水素生産に適するように変異させた微生物に、アルカンを製造するのに関与する酵素をコードする遺伝子を導入した変異微生物を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アルカンを含む炭化水素生産に適するように脂肪酸代謝経路(fatty acid metabolism)が改良された微生物からアルカンを生合成する代謝回路を示す。
図2】pTrc99a_luxC_tac_tesAプラスミドを示す。
図3】pTac15k_atoDAE_tac_CER1プラスミドを示す。
図4】改良された菌株から生産されたガソリン範疇内の炭化水素を示す。
図5】pTac15kの切断地図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
他の方式で定義されない限り、本明細書において使用されたあらゆる技術的・科学的用語は、本発明が属する技術分野に熟練した専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。通常、本明細書において使用された命名法は、本技術分野において周知であり、しかも汎用されるものである。
【0013】
一観点において、本発明は、アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子及びDNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーターをコードする遺伝子が欠失または弱化されており、脂肪酸アシルACPを遊離脂肪酸に転化させる酵素をコードする遺伝子、遊離脂肪酸を脂肪酸アシルコエンザイムAに転化させる酵素をコードする遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAを脂肪酸アルデヒドに転化させる酵素をコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドをアルカンに転化させる酵素をコードする遺伝子が導入または増幅されていることを特徴とする、アルカン、アルケン、アルキン及び芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素を生成する能力を有する変異微生物に関する。
【0014】
前記変異微生物において、アルカンを含む炭化水素の生成能を増加させるために、アシルコエンザイムAシンセターゼ(acyl-CoA synthetase)をコードする遺伝子のネイティブなプロモーター(native promoter)及び脂肪酸外膜トランスポーター(fatty acid outer membrane transporter)をコードする遺伝子のアテニュエーター(attenuator)を含むネイティブなプロモーターを強力プロモーター(strong promoter)に追加的に置換することを特徴としており、短鎖脂肪酸外膜トランスポーター(short-chain fatty acid outer membrane transporter)をコードする遺伝子が追加的に導入されてもよい。
【0015】
本発明の変異微生物において、アルカンを含む炭化水素の生成能を増加させるために、fabDHG(fabD: malonyl-CoA-[acyl-Carrier-protein]transacylase; fabG: 3-oxoacyl-[acyl-Carrier-protein]reductase; fabH: 3-oxoacyl-[acyl-Carrier-protein]synthase III)オペロンのネイティブなプロモーター及びfabA(beta-hydroxydecanoyl thioester dehydrase)オペロンのネイティブなプロモーターを強力プロモーターに追加的に置換されてもよい。
【0016】
また、前記変異微生物は、アセテートキナーゼA酵素をコードする遺伝子(ackA)が追加的に欠失されてもよい。
【0017】
本発明において、前記微生物は、バクテリア、酵母及びカビからなる群から選択されることを特徴としており、ここで、バクテリアは、脂肪酸代謝経路を有するバクテリアであってもよく、好ましくはコリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属及び大腸菌からなる群から選択され、さらに好ましくは、大腸菌であるが、グルコースを炭素源として使用できる微生物であれば、これに限定されない。
【0018】
本発明において、前記アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、fadE遺伝子であってもよく、前記DNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーターをコードする遺伝子は、fadRであってもよい。前記アシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子は、fadDであってもよく、追加的に導入されてもよい短鎖脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子は、atoEであってもよい。一方、前記脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子は、fadLであってもよい。
【0019】
本発明において、前記脂肪酸アシルACPを遊離脂肪酸に転化させる酵素は、アシルコエンザイムAチオエステラーゼであってもよく、前記遊離脂肪酸を脂肪酸アシルコエンザイムAに転化させる酵素は、大腸菌由来のアセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼまたはアシルコエンザイムAシンセターゼであってもよい。
【0020】
前記脂肪酸アシルコエンザイムAを脂肪酸アルデヒドに転化させる酵素は、クロストリジウムクルイベリ(Clostridium kluyveri)由来の脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼであってもよく、前記脂肪酸アルデヒドをアルカンに転化させる酵素はシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana col.)由来の脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼであってもよいが、導入される宿主細胞から発現して同じ酵素活性を示す限りこれに限定されるのではない。
【0021】
本発明において、前記脂肪酸アシルACPを遊離脂肪酸に転化させる酵素をコードする遺伝子は、tesA(アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードする遺伝子)であってもよく、前記遊離脂肪酸を脂肪酸アシルコエンザイムAに転化させる酵素をコードする遺伝子は、atoDA(アセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子)またはfadD(アシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子)であってもよい。ここで、atoDAはatoD(アセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼαサブユニット(acetyl-CoA: acetoacetyl-CoA transferase alpha subunit))とatoA(アセチルCoA:アセトアセチルCoAトランスフェラーゼβサブユニット(acetyl-CoA: acetoacetyl-CoA transferase beta subunit))からなる。
【0022】
前記脂肪酸アシルコエンザイムAを脂肪酸アルデヒドに転化させる酵素をコードする遺伝子は、luxC(脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードする遺伝子)であってもよく、前記脂肪酸アルデヒドをアルカンに転化させる酵素をコードする遺伝子は、cer1(脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼ1をコードする遺伝子)であってもよい。
【0023】
本発明において、変異微生物に導入される組み換えベクターは、強力プロモーターを含むものであり、luxC、cer1、tesA、atoDAE遺伝子を含有するベクターであってもよく、前記組み換えベクターは、pTrc99a_luxC_tac_tesA、pTac15k_atoDAE_tac_CER1ベクターであってもよく、前記強力プロモーターは、trcプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター及びtrpプロモーターからなる群から選択されてもよいが、これに制限されることなく当業界において通常用いられるいずれの強力プロモーターを含んでもよい。
【0024】
他の観点において、本発明は、アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子及びDNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーターをコードする遺伝子を欠失または弱化させて、脂肪酸アシルACPを遊離脂肪酸に転化させる酵素をコードする遺伝子、遊離脂肪酸を脂肪酸アシルコエンザイムAに転化させる酵素をコードする遺伝子、脂肪酸アシルコエンザイムAを脂肪酸アルデヒドに転化させる酵素をコードする遺伝子及び脂肪酸アルデヒドをアルカンに転化させる酵素をコードする遺伝子が導入または増幅させていることを特徴とする、アルカン、アルケン、アルキン及び芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素を生成する能力を有する変異微生物の製造方法に関する。
【0025】
前記変異微生物の製造方法において、アルカンを含む炭化水素の生成能を増加させるために、アシルコエンザイムAシンセターゼをコードする遺伝子のネイティブなプロモーター及び脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子のアテニュエーターを含むネイティブなプロモーターを強力プロモーターに追加的に置換してもよく、短鎖脂肪酸外膜トランスポーターをコードする遺伝子を追加的に導入してもよい。
【0026】
また、前記変異微生物の製造方法において、アルカンを含む炭化水素の生成能を増加させるために、fabDHG(fabD: malonyl-CoA-[acyl-Carrier-protein]transacylase; fabG: 3-oxoacyl-[acyl-Carrier-protein]reductase; fabH: 3-oxoacyl-[acyl-Carrier-protein]synthase III)オペロンのネイティブなプロモーター及びfabA(beta-hydroxydecanoyl thioester dehydrase)オペロンのネイティブなプロモーターを強力プロモーターに追加的に置換してもよい。
【0027】
また、前記変異微生物の製造方法において、アセテートキナーゼA酵素をコードする遺伝子(ackA)を追加的に欠失させてもよい。
【0028】
また他の観点において、本発明は、本発明に係る炭化水素生成能を有する変異微生物を培養して、アルカン、アルケン、アルキン及び芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素を生成させ、培養液から炭化水素を回収することを特徴とする、アルカン、アルケン、アルキン及び芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素の製造方法に関する。
【0029】
本発明では、脂肪酸をアルカンに転化させる代謝回路を新たに構成して、アルカンを含む炭化水素生成能を有する変異微生物を製造し、製造された変異微生物がアルカンを含む炭化水素を生産できるか否かを確認した。
【0030】
本発明に係るアルカンを含む炭化水素生産に適する変異微生物は、脂肪酸アシルコエンザイムAを短鎖脂肪酸アシルコエンザイムA(small-Chain fatty acyl-CoA)に転化させる酵素であるfadE(アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼ)遺伝子及び脂肪酸代謝経路(fatty acid metabolism)に関与する酵素の遺伝子らを調節するfadR(DNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーター)遺伝子を弱化または欠失させることによって得られる。また、脂肪酸にCoAを付けるfadD(アシルコエンザイムAシンセターゼ)遺伝子及び外部の脂肪酸をe摂取するのに関与するfadL(脂肪酸外膜トランスポーター)遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターで置換させることによって得られる。
【0031】
本発明に係る変異微生物を利用してアルカンを生産するのは、グルコースから転化された脂肪酸アシルACPがチオエステラーゼ(thioesterase)により脂肪酸(free fatty acid)に転化され、脂肪酸はアシル−CoAシンテターゼ(acyl-CoA synthetase)により脂肪アシル−CoA(fatty acy-CoA)に転化されてから、脂肪アシル−CoAレダクターゼ(fatty acyl-CoA reductase)により脂肪アルデヒド(fatty aldehyde)に転化され、脂肪アルデヒドデカルボニラーゼ(fatty aldehyde decarbonylase)によりアルカン(alkane)に転化されると推定することができる(図1)。
【0032】
本発明の一実施例では、アルカンを含む炭化水素の生産に適する変異微生物を製造するために、大腸菌W3110においてfadE(アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼ)遺伝子及びfadR(DNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーター)遺伝子を欠失させた。
【0033】
global regulatorであるfadR(DNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーター)遺伝子は、脂肪酸代謝経路(fatty acid metabolism)に関与する大部分の遺伝子を調節する機能をする。グルコースのような炭素源がある場合には、fadR遺伝子が脂肪酸代謝経路(fatty acid metabolism)に関与する大部分の遺伝子らを強く抑制(repression)しているのに対して、グルコースのような炭素源がない場合には、fadRが抑制していた全ての遺伝子をリリース(release)させて脂肪酸を分解できることになる。従って、グルコースのような炭素源がある条件では、fadR遺伝子が脂肪酸代謝経路(fatty acid metabolism)に関与する遺伝子を強く抑制(repression)することで、脂肪酸が分解されないため、本発明ではfadR遺伝子を欠失させることによって、グルコースが存在する条件でも脂肪酸が分解できるように改良した。
【0034】
fadE(アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼ)遺伝子は、脂肪酸アシルコエンザイムAを短鎖脂肪酸アシルコエンザイムA形態のアセチルCoAに転化させるため、fadE遺伝子を欠失させることによって脂肪酸アシルコエンザイムAがアセチルCoAに転化されず脂肪酸アシルアルデヒド(fatty acyl-aldehyde)に転化されるように改良した。
【0035】
本発明のまた他の実施例では、脂肪酸アシルコエンザイムAから脂肪酸アルデヒドに転化させる酵素をコードする遺伝子luxC(脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードする遺伝子)、及び脂肪酸アシルACPを遊離脂肪酸に転化させる酵素をコードする遺伝子tesA(アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードする遺伝子)がクローニングされたptrc99a_luxC_tac_tesAベクターと脂肪酸アルデヒドをアルカンに転化させる酵素をコードする遺伝子cer1(脂肪酸アルデヒドデカルボニラーゼ1をコードする遺伝子)がクローニングされたpTac15k_atoDAE_tac_cer1を作製した後、これを前記変異微生物に導入させることによって、アルカン生成能を有する変異微生物(WERPLD3110+ptrc99a_luxC_tac_tesA +pTac15k_atoDAE_tac_CER1)を作製した。
【0036】
また、本発明の実施例では、本発明により製造された変異微生物を培養して、ペンタデカン、ヘプタデカンを含んだガソリン範囲のアルカン(alkane)であるオクタン、ノナン及びノネンを生産することだけを確認したが、ペンタデカン及びヘプタデカンの他にも微生物で生合成可能な種々の炭素を持った脂肪酸から飽和、不飽和炭化水素を生産でき、微生物で生合成可能な多様な炭素を持った脂肪酸から生産可能な飽和、不飽和炭化水素としては、デカン(decane)、オンデカン(undecane)、トリデカン(tridecane)等が挙げられる。
【0037】
本発明において、変異微生物の培養及び回収過程は、通常知られた培養方法を用いて行われ、本発明の実施例で用いられた特定培地及び特定培養方法の他にもホエー(whey)、CSL(corn steep-liquor)等のハイドロライセート(hydrolysates)を用いてもよく、流加培養(fed-batch culture)、連続培養等の多様な方法を用いてもよい(Lee et al., Bioprocess Biosyst. Eng., 26: 63, 2003; Lee et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 58: 663, 2002; Lee et al., Biotechnol. Lett., 25: 111, 2003; Lee et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 54: 23, 2000; Lee et al., Biotechnol. Bioeng., 72: 41, 2001)。
【0038】
本発明において「炭化水素」は、炭素と水素だけからなる有機化合物を総称する概念で、分子構造により環状の炭化水素と鎖状の炭化水素で大きく分けて、単一結合だけからなる飽和炭化水素と、二重結合または三重結合を含有している不飽和炭化水素に区別される。
【0039】
本発明において「弱化」とは、該当遺伝子の一部塩基を変異、置換、または、削除させたり、一部塩基を導入させて該当遺伝子によって発現する酵素の活性を減少させたりすることを包括する概念で、該当遺伝子の酵素が関与する生合成経路の一部または相当部分を遮断するいずれのものを含む。
【0040】
本発明において「欠失」とは、該当遺伝子の一部または全塩基を変異、置換または削除させたり、一部塩基を導入させて該当遺伝子が発現しないようにしたり、発現しても酵素活性を示すことができないようにすることを包括する概念で、該当遺伝子の酵素が関与する生合成経路を遮断するいずれのものを含む。
【0041】
特に、下記実施例では、大腸菌W3110を宿主微生物として利用したが、他の大腸菌や、バクテリア、酵母及びカビを用いてもグルコースを炭素源として使用できる限り、これに限定されないことは、当業者には自明であろう。また、下記実施例では導入対象遺伝子として特定菌株由来の遺伝子だけを例示したが、導入される宿主細胞で発現して同様の活性を示す限りその制限がないことは、当業者には自明であろう。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を、実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業者において通常の知識を有する者にとって自明である。
【0043】
実施例1
1−1:fadE遺伝子の欠失(WE3110の作製)
大腸菌W3110(ATTC 39936)で配列番号1及び2のプライマーを利用したワンステップ不活化(one step inactivation)方法(Warner et al., PNAS, 6, 97(12): 6640-6645, 2000)を利用して、fadE(アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼ)遺伝子を欠失させて、抗生剤耐性を取り除いた。
[配列番号1] WfadE k/o F:
5'−atgatgattttgagtattctcgctacggttgtcctgctcggcgcgttgttgtgtaggctggagctgcttc−3’]
[配列番号2] WfadE k/o R:
5’−actgggcataagccgagaactccagcccgccgtactcttttttgatgatccatatgaatatcctccttag−3’
【0044】
1−2:fadR遺伝子の欠失(WER3110の作製)
前記1−1で作製された大腸菌WE3110において、配列番号3及び4のプライマーを利用したワンステップ不活化方法(Warner et al., PNAS, 6, 97(12): 6640-6645, 2000)を利用して、fadR(DNA結合トランスクリプショナル・デュアル・レギュレーター)遺伝子を欠失させて、抗生剤耐性を取り除いた。
[配列番号3] WfadR k/o F:
5'−atggtcattaaggcgcaaagcccggcgggtttcgcggaagagtacattatgtgtaggctggagctgcttc−3'
[配列番号4] WfadR k/o R:
5'−ccggattggcgaaatagtgacgaccaatacgcgtatacagccctttcatcCATATGAATATCCTCCTTAG−3'
【0045】
1−3:fadDのネイティブなプロモーターをtacプロモーターで置換(WERPD3110の作製)
前記1−2で作製された大腸菌WER3110において、fadD遺伝子の発現を強化するために強力なプロモーターであるtacプロモーターに置換えた。
これのために、配列番号5及び6のプライマーを利用して、前記遺伝子除去と同様の方法で、ネイティブなプロモーターをtacプロモーターに置換えた。
[配列番号5] WfadDpch F:
5'−gtataatcccggccccgcgagagtacaaacagttgtaactgaataattgcCGCGTCATACACATACGATT−3'
[配列番号6] WfadDpch R:
5'−ttgatctccgtcggaacgtccgcgggataacggttaagccaaaccttcttCATGGTCTGTTTCCTGTGTG−3'
【0046】
1−4:fadLのネイティブなプロモーターにあるアテニュエーター配列のtacプロモーターに置換(WERPDL3110の作製)
1−3で作製された大腸菌WERPD3110において、fadD promoter上に位置する転写調節機序に関与するアテニュエーター配列を強力なプロモーターであるtacプロモーターに置換えた。
アテニュエーター配列の置換のために、配列番号7及び8のプライマーを利用して、前記遺伝子除去と同様の方法で、アテニュエーターを含むネイティブなプロモーターをtacプロモーターに置換えた。
[配列番号7] WfadLpch F:
5'−gaaagtgctgctccagttgttaattctgcaaaatcggataagtgaccgaaCGCGTCATACACATACGATT−3'
[配列番号8] WfadDLpch R:
5'−actgcgactgcgagagcagactttgtaaacagggttttctggctcatgacCATGGTCTGTTTCCTGTGTG−3'
【0047】
1−5:ackA遺伝子の欠失(WERAPDL3110の作製)
前記1−4で作製された大腸菌WE3110において、配列番号9及び10のプライマーを利用したワンステップ不活化方法(Warner et al., PNAS, 6, 97(12): 6640-6645, 2000)を利用して、ackA(アセテートキナーゼA:acetate kinase A)遺伝子を欠失させて、抗生剤耐性を取り除いた。
[配列番号9] WackA k/o F:
5'−atgtcgagtaagttagtactggttctgaactgcggtagttcttcactgaaTAGGTGACACTATAGAACGCG−3'
[配列番号10] WackA k/o R:
5'−tgccgtgcgcgccgtaacgacggatgccgtgctctttgtacaggttgtaaTAGTGGATCTGATGGGTACC
【0048】
1−6:fabHDGオペロンのネイティブなプロモーターをtrcプロモーターに置換(WERAPDLB3110の作製)
前記1−5で作製された大腸菌WERAPLD3110において、fabHDGオペロンからなる遺伝子の発現を強化するために強力なプロモーターであるtrcプロモーターに置換えた。
このために、配列番号11及び12のプライマーを利用して、前記遺伝子除去と同様の方法で、ネイティブなプロモーターをtrcプロモーターに置換えた。
[配列番号11] WfabHDGpch F:
5'−gtggtggctactgttattaaagcgttggctacaaaagagcctgacgaggcCGCGTCATACACATACGATT−3'
[配列番号12] WfabHDGpch R:
5'−gtccgcacttgttcgggcagatagctgccagtaccaataatcttcgtataCATGGTCTGTTTCCTGTGTG−3’
【0049】
1−7:fabAオペロンのネイティブなプロモーターをtrcプロモーターに置換(WERAPDLBA3110の作製)
前記1−6で作製された大腸菌WERAPLDB3110において、fabAオペロンからなる遺伝子の発現を強化するために強力なプロモーターであるtrcプロモーターに置換えた。
このために、配列番号13及び14のプライマーを利用して、前記遺伝子除去と同様の方法で、ネイティブなプロモーターをtrcプロモーターに置換えた。
[配列番号13] WfabApch F:
5'−accgttttccatggccattacgttggctgaactggtttattccgaactgaCGCGTCATACACATACGATT−3'
[配列番号14] WfabApch R:
5'−gcgaccagaggcaagaaggtcttcttttgtataggattcgcgtttatctacCATGGTCTGTTTCCTGTGTG−3'
【0050】
実施例2
2−1:pTrc99a_luxCベクターの作製
クロストリジウムクルイベリ(Clostridium kluyveri)菌株(DSMZ,no.552,German)の染色体DNAを鋳型として、配列番号15と16のプライマーでPCRを行って、脂肪酸アシルコエンザイムAリダクターゼをコードするluxC遺伝子切片を作製した。
[配列番号15] cklluxC F:
5'−TATAGGTACCATGATAGATTGTTATTCATTGGATG−3'
[配列番号16] cklluxC R:
5'−TATTGGATCCTTAAATATTTAGACTACACCACGTT−3'
次に、前記製造されたluxC切片をtrcプロモーターの強い遺伝子発現を進行するpTrc99aプラスミド(PhamaciA−biotech,Uppsala,Sweden)に制限酵素(KpnI及びBamHI)を処理した後、T4 DNAライゲーズを処理して、制限酵素で切断されたluxC切片及びpTrc99aプラスミドを接合させることによって、複製率が高い(high copy number)組み換えプラスミドであるpTrc99a_luxCを作製した。
【0051】
2−2:pTrc99a_luxC_tac_tesAベクターの作製
野生型E.coli(大腸菌W3110)菌株の染色体DNAを鋳型として、配列番号17と18のプライマーでPCRを行って、アシルコエンザイムAチオエステラーゼをコードするtesA遺伝子切片を作製した。
[配列番号17] tesA F:
5'−TATAGAATTCATGATGAACTTCAACAATGT−3'
[配列番号18] tesA R:
5'−TATTGAGCTCTTATGAGTCATGATTTACTA−3'
次に、前記製造されたtesA切片をtrcプロモーターの強い遺伝子発現を進行するpTrc99aプラスミド(PhamaciA−biotech,Uppsala,Sweden)に制限酵素(EcoRI及びSacI)を処理した後、T4 DNAライゲーズを処理して、制限酵素で切断されたtesA切片及びpTrc99a_luxCプラスミドを接合させることによって、複製率が高い(high copy number)組み換えプラスミドであるpTrc99a_luxC_tac_tesAを作製した。
【0052】
2−3:pTac15k_atoDAE_tac_CER1ベクターの作製
pKK223−3(PharmaciA−biotech.,Uppsala,Sweden)のtrcプロモーターとtrascription terminator部分をpACYC177(NEB,Beverly,MA,USA)に挿入して、pTac15Kを作製した。pTac15Kは、構成的(constitutive)発現のための発現ベクターであり、図5の切断地図に示された構成を持っている。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana col.)染色体のDNAを鋳型として、配列番号19と配列番号20のプライマーを用いてPCR反応を行った。これから確保されたCER1切片を前記pTac15k(p15A origin, low copies, KmR; KAISTMBEL stock, tac promoter, 4.0-kb, lap stock)(Zhi-Gang Qian et al., Biotechnology and Bioengineering, 104: 651-654, 2009 and Hiszczyn' ska-Sawickaand Kur, 1997)プラスミドに制限酵素(SacI及びkpnI)を処理した後、T4 DNAライゲーズを処理して、制限酵素で切断されたCER1切片及びpTac15kプラスミドを接合させることによって、pTac15k_CER1を作製した。
次に、大腸菌染色体のDNAを鋳型として、配列番号21と配列番号22のプライマーを用いてPCR反応を行った。これから確保されたfatB切片をpTac15k_CER1プラスミドに制限酵素(XbaIとSphI)を処理した後、T4 DNAライゲーズを処理して、制限酵素で切断されたatoDAE切片及びpTac15k_CER1プラスミドを接合させることによって、pTac15k_atoDAE_tac_CER1を作製した。これに用いられたプライマー対の塩基配列は下記のとおりである。
[配列番号19]CER1F:5'−TATAGAGCTCATGGCCACAAAACCAGGAGTCCTCACC−3'
[配列番号20]CER1R:5'−TATTGGTACCTTAATGATGTGGAAGGAGGAGAGGC−3'
[配列番号21]atoDAEF:5'−GCCATCTAGAATGAAAACAAAATTGATGAC−3'
[配列番号22]atoDAER:5'−TATTGCATGCTCAGAACAGCGTTAAACCAA−3'
【0053】
実施例3:変異微生物のアルカン生成能の測定
実施例2−2及び2−3で作製されたpTrc99a_luxC_tac_tesA及びpTac15k_atoDAE_tac_CER1プラスミドを実施例1−7でアルカン生成に適するように作製したWERAPDLBA3110に導入して、変異微生物を製造し、大腸菌W3110(ATTC 39936)を対照群菌株として用いた。アルカン生成能を有する変異微生物をアンピシリン(ampicillin)及びカナマイシン(kanamycin)が各々50μg/mL及び30μg/mL添加されたLB平板培地で選別した。前記形質転化菌株を10mL LB培地に接種して、37℃で12時間前培養を行った。その後、滅菌後80℃以上で取り出した100mL LBを含有した250mLフラスコにグルコース(5g/L)を添加して、前記前培養額1mLを接種して、31℃で10時間培養した。その後、蒸溜水1リットル当り20gグルコース、13.5g KHPO、4.0g (NHHPO、1.7g citric acid、1.4g MgSO・7HO、3g酵母エクストラクト、10mL微量金属溶液(蒸溜水1リットル当り10g FeSO・7HO、1.35g CaCl、2.25g ZnSO・7HO、0.5g MnSO・4HO、1g CuSO・5HO、0.106g (NHMo24・4HO、0.23g Na・10HO、35% HCl 10mL含有)の成分で構成された培地2.0リットルを含有した5.0リットル醗酵機(LiFlus GX,Biotron Inc.,Korea)を121℃で15分間滅菌した後、室温まで降温した。1mMのIPTGを用いて導入あるいはエンジニアリング(engineering)した遺伝子の発現を誘導し、培養液のpHは、50%(v/v)NHOHの自動供給によって6.8に維持した。
【0054】
前記培地中のグルコースをグルコース分析器(STAT,Yellow Springs Instrument,Yellow Springs,Ohio,USA)で測定して、グルコースが全部消耗した時細胞を回収して蒸溜水で一回洗浄した後、100℃の乾燥器で24時間乾燥した。その後、乾燥された菌株にクロロホルム(chloroform)2mLを添加し、3%(v/v)HSOを含むメタノール1mLを添加した後、この混合物を100℃で12時間反応させた。反応終了後、混合物を常温まで冷やして、混合物に蒸溜水1mLを添加して5分間激しく混ぜて、有機溶媒(chloroform)層と水(水溶液)層を分離させて、10,000rpmで10分間遠心分離して、有機溶媒層だけ採取して、ガスクロマトグラフィー(gas chromatography)分析を行うことによって、生成されたアルカン及び脂肪酸を測定した。
【0055】
その結果、表1に示された通り、野生型大腸菌W3110では、アルカンが生成されなかったが、本発明に係る変異微生物では、ペンタデカン及びヘプタデカンが、各々25mg/L及び40mg/L、及びガソリン範囲のアルカンのオクタン、ノナン及びノネンが、各々0.11564g/L、0.475g/L及び0.12276g/Lが生産された。
【0056】
この結果から、本発明に係る変異微生物がガソリン範囲のアルカンを成功的に生成することが確認された。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、アルカンを含む炭化水素生産に適するように変異させた微生物に、アルカンを製造するのに関与する酵素をコードする遺伝子を導入した変異微生物を提供する効果がある。本発明に係る変異微生物は、追加的な代謝フラックス操作による菌株改良に活用される可能性が大きいため、アルカンを含む炭化水素の産業的生産に有用である。
【0058】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を持った者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定義されると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]