特許第5724002号(P5724002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5724002-植物栽培方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724002
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20150507BHJP
   A01G 31/00 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   A01G7/00 601C
   A01G31/00 601A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-18642(P2014-18642)
(22)【出願日】2014年2月3日
(65)【公開番号】特開2014-166180(P2014-166180A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2014年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-19722(P2013-19722)
(32)【優先日】2013年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 廣志
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−067948(JP,A)
【文献】 特開2008−142005(JP,A)
【文献】 特開2012−179009(JP,A)
【文献】 特開2005−052105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G7/00
A01G31/00−31/06
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、青色光を植物に照射する手順(B)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量を、赤色光を植物に照射する手順(A)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量より低くし、赤色光を照射する手順(A)と、青色光を照射する手順(B)とを交互に、繰り返し行うことを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
青色光を植物に照射する手順(B)における培地に含まれる窒素が5〜20me/Lの範囲内、リンが1〜6me/Lの範囲内、カリウムが4〜12me/Lの範囲内であり、赤色光を植物に照射する手順(A)における培地に含まれる窒素が10〜40me/Lの範囲内、リンが3〜12me/Lの範囲内、カリウムが8〜20me/Lの範囲内である請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項3】
植物栽培環境において培養液が用いられ、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液のpHが、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液のpHより小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
植物栽培環境において培養液が用いられ、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液のpHが4〜5の範囲内であり、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液のpHが5〜6.5の範囲内である請求項3に記載の植物栽培方法。
【請求項5】
植物栽培環境において培養液が用いられ、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液の温度が、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液の温度より低い請求項1〜4のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項6】
青色光を植物に照射する手順(B)における培養液の温度10〜18℃の範囲内であり、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液の温度が15〜25℃の範囲内である請求項5に記載の植物栽培方法。
【請求項7】
赤色光を照射する手順(A)と青色光を照射する手順(B)各回における照射時間が1時間〜48時間内の範囲である請求項1〜6のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項8】
独立して駆動可能な、赤色光を出射する複数の赤色発光素子と青色光を出射する複数の青色発光素子とを有し、赤色光の合計の発光強度と青色光の合計の発光強度との比が2:1〜9:1の範囲内である植物栽培用ランプを用いて、赤色光を照射する手順(A)と青色光を照射する手順(B)とを行う請求項1〜7のいずれかに記載の植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培方法に関する。より詳しくは、植物に人工光を照射して生長を促進させる植物栽培用ランプを用いた植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物栽培において、植物苗に人工光を照射して育苗を促す技術が取り入れられている。植物の生長を促進することで、栽培期間を短縮して、同一場所での収穫回数を増やすことができる。また、同じ栽培期間であっても、植物をより大きく生長させることができれば、収穫量を増やすことができる。
【0003】
人工光の照射を利用した植物栽培技術として、例えば特許文献1には、植物を緑色光と白色光で交互に照射するように構成した植物の照射装置が開示されている。この照射装置は、波長500〜570nmの緑色光と300〜800nmの白色光とを交互に照射することにより昼夜の変化を構成し、植物の転流作用を円滑にして植物の育成を図るものである。
【0004】
また、例えば特許文献2には、青色光(400〜480nm)を放射する発光ダイオードと赤色光(620〜700nm)を放射する発光ダイオードを同時もしくは交互に点灯することにより、植物の培養、生育、栽培及び組織培養のための光エネルギーを照射する植物栽培用光源が開示されている。この植物栽培用光源は、葉緑素の光吸収ピーク(450nm付近及び660nm付近)に一致する波長の光を照射することによって、エネルギー効率良く植物を栽培しようとするものである。
【0005】
特許文献2には、青色光と赤色光を同時に照射しても交互に照射してもよいことが規定されている(当該文献「請求項1」参照)。しかし、特許文献2は、青色光単独照射、赤色光単独照射、青色光及び赤色光の同時照射の比較において、同時照射下では日光下での栽培と同様の健全な生長(単独照射における徒長などの不健全な生長と比較して)が確認されたというものであり(当該文献段落「0011」参照)、また、青色光と赤色光の交互照射としては、数メガヘルツ(MHz)以上という高い周波数での点滅照射することが記載されている(当該文献段落「0006」参照)。特許文献2には、青色光の照射手順と赤色光の照射手順とを交互に行うことは記載されておらず、そのように照射した場合の生長促進効果は確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−276858号公報
【特許文献2】特開平8−103167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物栽培の生産性を向上させるために、簡便で、エネルギー効率がよく、成長促進効果に優れた人工光照射による植物栽培方法が望まれている。そのための方策として、執行(しぎょう)正義氏らと本発明者らは共同で、赤色光のみを植物に照射する手順と、青色光のみを植物に照射する手順とを一定期間内に別個独立に行うことによって植物の生長を飛躍的に促進する植物栽培方法(本明細書においては、この植物栽培方法を「執行法」と称することがある)を開発し、特許出願を行った(特願2011−172089)。
【0008】
執行法において、赤色光と青色光とを別個独立に照射することにより、赤色光と青色光を同時に照射する植物育成法と比較して、顕著な生長促進効果が得られる理由は明確ではないが、葉緑素の光吸収ピークが赤色光、青色光で別々に存在するため、赤色光による光合成プロセスと、青色光による光合成プロセスには差があり、この両プロセスを同時に進行させた場合は、両プロセスが相互に干渉し、各プロセスの進行が阻害されることが考えられる。
【0009】
本発明は、上記のような執行法による植物栽培方法を改良して、植物の生長促進効果、付加価値をより一層高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、人工光照射による植物の生長促進効果について鋭意検討を行った結果、赤色光照射時と青色光照射時の施肥態様を変えることによって、植物の成長促進、栄養価に差が生ずることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、以下の植物栽培方法が提供される。
(1)赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、青色光を植物に照射する手順(B)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量を、赤色光を植物に照射する手順(A)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量より低くすることを特徴とする植物栽培方法。
【0012】
(2)青色光を植物に照射する手順(B)における培地に含まれる窒素が5〜20me/Lの範囲内、リンが1〜6me/Lの範囲内、カリウムが4〜12me/Lの範囲内であり、赤色光を植物に照射する手順(A)における培地に含まれる窒素が10〜40me/Lの範囲内、リンが3〜12me/Lの範囲内、カリウムが8〜20me/Lの範囲内である上記(1)に記載の植物栽培方法。
【0013】
(3)植物栽培環境において培養液が用いられ、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液のpHが、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液のpHより小さいことを特徴とする(1)または(2)に記載の植物栽培方法。
【0014】
(4)植物栽培環境において培養液が用いられ、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液のpHが4〜5の範囲内であり、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液のpHが5〜6.5の範囲内である上記(3)に記載の植物栽培方法。
【0015】
(5)植物栽培環境において培養液が用いられ、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液の温度が、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液の温度より低い上記(1)〜(4)のいずれかに記載の植物栽培方法。
【0016】
(6)青色光を植物に照射する手順(B)における培養液の温度10〜18℃の範囲内であり、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液の温度が15〜25℃の範囲内である上記(5)に記載の植物栽培方法。
【0017】
(7)赤色光を照射する手順(A)と、青色光を照射する手順(B)とを交互に、繰り返し行い、各回における照射時間が1時間〜48時間内の範囲である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の植物栽培方法。
【0018】
(8)独立して駆動可能な、赤色光を出射する複数の赤色発光素子と青色光を出射する複数の青色発光素子とを有し、赤色光の合計の発光強度と青色光の合計の発光強度との比が2:1〜9:1の範囲内である植物栽培用ランプを用いて、赤色光を照射する手順(A)と青色光を照射する手順(B)とを行う上記(1)〜(7)のいずれかに記載の植物栽培方法。
【0019】
本発明において、「植物」には、葉菜類、果菜類、穀類及び藻類が少なくとも含まれる。さらに、本発明にいう「植物」には、緑藻類などの植物プランクトンや、コケ類なども広く包含されるものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の植物栽培方法によれば、執行法による植物栽培における赤色光の光合成プロセスと、青色光の光合成プロセスを、より植物栽培に適した条件として、それぞれ特定の施肥条件下に実施することによって、より優れた生長促進効果が得られる。また、メカニズムは、不明であるが、植物は光照射条件と肥料の条件が連動して変わることで、光合成反応以外の反応プロセス等に影響を及ぼしあいミネラル分、栄養素の含量が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本願発明の植物栽培法において好適に用いられるランプの一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0023】
本発明の植物栽培方法は、赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む植物栽培方法であって、青色光を植物に照射する手順(B)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量を、赤色光を植物に照射する手順(A)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量より低くすることを特徴とする。
【0024】
葉緑素の光吸収ピークは赤色光、青色光とは別々に存在するため、赤色光による光合成プロセスと、青色光による光合成プロセスは相違すると考えられる。本発明者らは、この相違点について検討したところ、赤色光による植物の育成は、葉の面積を広くする成長に作用する傾向があり、また、青色光による植物の育成は、形態形成に作用する傾向があることを見出した。さらに、この生育効果について検討したところ、青色光を植物に照射する手順(B)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量を、赤色光を植物に照射する手順(A)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量より低くすることで、前記の生育効果、栄養素、ミネラルの含量が一層高まることを見出した。
【0025】
植物の生育には、肥料の三要素である窒素、リン、カリウムが必要である。窒素は、植物の細胞の分裂・増殖に関与するため植物の生長に必要であり、リンは植物中の核酸の構成成分であるため植物の生長を促進し、カリウムは植物の根の発育を促進することが知られている。
【0026】
本発明者らは、赤色光による光合成プロセスと、青色光による光合成プロセスにおける施肥条件、特に、肥料を施した培地、特に培養液の好ましい濃度を調べたところ、青色光を植物に照射する手順(B)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量を、赤色光を植物に照射する手順(A)における植物栽培環境の肥料成分としての窒素、リン、カリウムの量より低くすることが有効なことを見出した。
【0027】
青色光を植物に照射する手順(B)における肥料成分としての窒素、リン、カリウムのうち、少なくとも一つが、赤色光を植物に照射する手順(A)における対応する肥料成分の量より低ければ、植物生育効果は認められるが、窒素、リン、カリウムの全ての量が赤色光を植物に照射する手順(A)における対応する肥料成分の量より低い場合に優れた植物生育効果が達成される。
【0028】
特に、青色光を植物に照射する手順(B)における培地に含まれる窒素を5〜20me/Lの範囲内、リンを1〜6me/Lの範囲内、カリウムを4〜12me/Lの範囲内とし、赤色光を植物に照射する手順(A)における培地に含まれる窒素を10〜40me/Lの範囲内、リンを3〜12me/Lの範囲内、カリウムを8〜12me/Lの範囲内とすることで植物の生育効果が高まることを見出した。
【0029】
本発明に用いる窒素肥料としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、石灰窒素、硝酸カリウム、硝酸石灰、硝酸ソーダが挙げられ、リン肥料としては過リン酸石灰、熔成リン肥が挙げられ、カリウム肥料としては塩化カリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。
【0030】
本発明では、植物栽培環境の培地として培養液を用いる場合は、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液のpHを4〜5の範囲内とし、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液のpHを5〜6.5の範囲内とすることで植物の生育効果をより高めることができる。
手順(B)のpHは、手順(A)より、小さく、その差は、1〜2の範囲が好ましい。
【0031】
本発明では、植物栽培環境の培地として培養液を用いる場合は、青色光を植物に照射する手順(B)における培養液の温度を10〜18℃の範囲内とし、赤色光を植物に照射する手順(A)における培養液の温度を15〜25℃の範囲内とすることで植物の生育効果をより高めることができる。手順(B)における培養液の温度は、手順(A)における培養液の温度より低く、その差は、5〜10℃の範囲が好ましい。
【0032】
〔植物栽培用ランプ」
本発明の植物栽培方法において、赤色光を植物に照射する手順(A)と、青色光を植物に照射する手順(B)とを一定期間内に別個独立に行うには、独立して駆動可能な、赤色光を出射する複数の赤色発光素子と青色光を出射する複数の青色発光素子とを有する植物栽培用ランプを用いることが好ましい。
【0033】
図1は、好適に用いられる植物栽培用ランプの一例を説明するための模式図である。図1に示す植物栽培用ランプ1は、平面視長方形の長尺な光照射部11と、光照射部を制御する制御部(図示せず)とを備えている。
【0034】
光照射部11は、図1に示すように、赤色光を出射する複数の赤色発光素子2と、青色光を出射する複数の青色発光素子3とを有している。図1に示す植物栽培用ランプ1では、赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数は同じである。複数の赤色発光素子2および複数の青色発光素子3は、それぞれ光照射部11の長さ方向に沿って等間隔に1列に線状に並べられている。線状に並べられた複数の赤色発光素子2と複数の青色発光素子3とは、略平行に配置されている。
【0035】
図1に示す植物栽培用ランプ1では、赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数は同じとされているが、異なっていてもよい。栽培する植物の種類によっては、青色光の発光強度よりも赤色光の発光強度を高くすることにより、生長が促進されるものがある。このような植物を栽培する場合、光照射部11の有する赤色発光素子2の個数を青色発光素子3の個数よりも多くした植物栽培用ランプ1を用いることが好ましい。赤色発光素子2の個数を青色発光素子3の個数よりも多くすることで、光照射部11からの出射光における赤色光の発光強度を、容易に青色光の発光強度よりも高くできる。
【0036】
赤色発光素子2からの赤色光の発光強度と青色発光素子3からの赤色光の発光強度との比(赤色光の合計の強度:青色光の合計の強度)は、少なくとも1:1であることが好ましい。赤色発光素子2の個数と青色発光素子3の個数が異なっている場合、赤色発光素子2と青色発光素子3との発光強度比は2:1〜9:1の範囲内であることが好ましく、2:1〜5:1の範囲内であることがより好ましい。このような植物栽培用ランプ1とした場合、全ての赤色発光素子2および全ての青色発光素子3に各色の発光素子に適した電流を供給したときに得られる光照射部11からの出射光が、青色光の発光強度よりも赤色光の発光強度が十分に高いものとなる。したがって、光照射部11からの出射光における赤色光の発光強度を、容易に青色光の発光強度よりも十分に高くできすることができる。また、電流値を微調整することが可能であり、その調整によって、青色光と赤色光との強度比を植物栽培に適した値に容易にすることができる。
【0037】
赤色発光素子2と青色発光素子3との強度比が、上記範囲未満である場合(青色光の発光強度が高すぎる場合)、青色光の発光強度よりも赤色光の発光強度を高くすることによる植物の生長を促進させる効果が十分に得られない恐れがある。赤色発光素子2と青色発光素子3との強度比が、上記範囲を超える場合、赤色光の発光強度が高すぎて、やはり植物の生長を促進させる効果が十分に得られない恐れがある。
【0038】
本発明で用いるランプの光照射部では、1つの発光素子(パッケージ)内に赤色の発光部と、青色の発光部を有する混色発光素子を用いるのが好ましい。そしてこのような混色発光素子は、赤色の発光強度と青色の発光強度とを独立制御できる機能を有するのが好ましい。
また、前述のように、混色発光素子内に含まれる赤色発光素子と青色発光素子との発光強度比(赤色光の合計の強度:青色光の合計の強度)は、2:1〜9:1の範囲内であることが好ましく、2:1〜5:1の範囲内であることがより好ましい。このような混色発光素子を用いることで、光照射部内の発光部の密度を高めることができる。
【0039】
赤色発光素子2及び青色発光素子3としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、波長選択が容易で、有効波長域の光エネルギーの占める割合が大きい光を放射する発光ダイオード(LED)や、レーザーダイオード(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)素子などを用いることができる。赤色発光素子2及び青色発光素子3としてEL素子を用いる場合、有機EL素子であってもよいし無機EL素子であってもよい。
【0040】
赤色発光素子2が出射する赤色光としては、波長570〜730nmの光が挙げられる。特に、645〜680nmの波長域に中心波長を有する赤色光が好適に用いられる。青色発光素子3が出射する青色光としては、波長400〜515nmの光が挙げられる。特に、中心波長450nmを有する青色光が好適に用いられる。赤色光及び青色光は、上記波長を中心波長として所定の波長域を有するものとすることができる。波長域としては、例えば、青色光であれば、450±30nm、好ましくは450±20nm、さらに好ましくは450±10nmとである。
【0041】
光照射部11からの赤色光及び青色光の発光強度は、特に限定されないが、例えば、光合成光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density:PPFD)が、それぞれ1〜1000μmol/ms、好ましくは10〜500μmol/ms、特に好ましくは50〜250μmol/msの範囲内である。また、それぞれ個々の発光素子の発光強度は、格別限定されることはなく、栽培に用いる複数の赤色発光素子の合計強度と複数の青色発光素子の合計強度との比が、前述の強度比範囲となるように設定するのが好ましい。
【0042】
本実施形態においては、光照射部11からの赤色光及び青色光の発光強度は、植物栽培用ランプ1に備えられている制御部によって、赤色発光素子2または青色発光素子3に供給する電流の大きさを調節することにより、制御できるようになっている。
【0043】
図1に示す植物栽培用ランプ1は、赤色発光素子2用の一対の電極41、42と、青色発光素子3用の一対の電極43、44とを備えている。
複数の赤色発光素子2は、配線(図示せず)によって赤色発光素子2用の電極41、42と電気的に接続されている。
また、複数の青色発光素子3は、配線(図示せず)によって青色発光素子3用の電極43、44と電気的に接続されている。
【0044】
本実施形態の植物栽培用ランプ1に備えられている制御部は、赤色発光素子2用の電極41、42または青色発光素子3用の電極43、44を介して、赤色発光素子2または青色発光素子3に所定の電流を供給することにより、赤色発光素子2と青色発光素子3とを別個独立に点灯・消灯させるものである。
【0045】
本実施形態においては、制御部は、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するランプコントローラ(発光強度制御手段)を備えている。
【0046】
ランプコントローラとしては、例えば、赤色発光素子2または青色発光素子3に供給する電流の大きさを調節して、一部または全部の赤色発光素子2および/または一部または全部の青色発光素子3の発光強度を変化させることにより、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するものや、赤色発光素子2および/または青色発光素子3のうち、一部に所定の電流を供給することにより、点灯させる赤色発光素子2および/または青色発光素子3の数を制御して、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するものが挙げられる。
【0047】
具体的には、例えば、図1に示す植物栽培用ランプ1は、ランプコントローラによって、全ての赤色発光素子2および全ての青色発光素子3に同一の電流を供給させることにより、青色光の発光強度と赤色光の発光強度とが同じである出射光を光照射部11から出射するものであってもよい。なお、全ての赤色発光素子2および全ての青色発光素子3に同一の電流を供給する場合、植物栽培用ランプ1はランプコントローラを備えるものでなくてもよい。
【0048】
図1に示す植物栽培用ランプ1は、例えば、ランプコントローラによって、青色発光素子3の発光強度を赤色発光素子2の半分とすることにより、赤色光と青色光との発光強度比が2:1(赤色光:青色光)である出射光を光照射部11から出射するものであってもよい。
【0049】
〔植物栽培方法〕
次に、本発明の植物栽培方法として、図1に示す植物栽培用ランプ1を用いて植物を栽培する方法を例に挙げて説明する。
本発明の植物栽培方法は、赤色光を植物に照射する手順(以下「赤色光照射ステップ」とも称する)と、青色光を植物に照射する手順(以下「青色光照射ステップ」とも称する)とを一定期間内に別個独立に行う工程を含む。
【0050】
ここで、「一定期間」とは、植物栽培中の任意時間長の期間を意味する。この期間は最長で栽培全期間である。また、最短の期間は、本発明の効果が奏される限りにおいて任意に設定できる。この期間は、例えば時間(hr)を時間長の単位とするものであってよく、さらにより長い時間長単位(例えば日(day))あるいはより短い時間長単位(例えば分(minutes))とするものであってもよい。
「別個独立」とは、上記期間内に、赤色光照射ステップと青色光照射ステップとが別々に存することを意味する。
【0051】
本願発明の「一定期間」における照射方法としては、1Hz以上の高い周波数での点滅照射のような照射方法は含まれない。
1Hz以上の高い周波数での点滅照射のような極めて短い時間での赤色光照射ステップと青色光照射ステップとの交互照射では、植物の生長を促進させる効果は、赤色光と青色光の同時照射による促進効果とほぼ同程度であって、十分なものではない。
【0052】
赤色光照射ステップと青色光照射ステップは、上記期間内に少なくとも一工程ずつ含まれていればよい。赤色光照射ステップと青色光照射ステップは交互に連続して行ってもよいし、両ステップの間に、赤色光及び青色光を植物に同時照射する手順又は植物への光照射を休止する手順を挟んで不連続に繰り返して行ってもよい。
【0053】
赤色光の照射と青色光の照射は、比較的短時間の照射を交互に繰り返して行うことが好ましい。この場合、各回の照射時間は、好ましくは、1時間から48時間の範囲内、より好ましくは、3時間から24時間の範囲内である。
【0054】
本発明の植物栽培方法は、種子が発芽した直後あるいは苗を植えた直後から収穫までの植物の栽培全期間において、任意のタイミングで開始あるいは終了され、任意時間長で適用され得るものとする。
【0055】
本発明の植物栽培方法において栽培される植物は、特に限定されるものではなく、例えば、葉菜類、いも類、果菜類、豆類、穀物類、種実類、藻類、観賞用植物類、コケ類などが挙げられる。
【0056】
本発明の植物栽培方法では、上記の植物栽培用ランプ1を用いて、執行法を行うので、容易に生長させる植物に最適な人工光を照射でき、優れた生長促進効果が得られる。
【0057】
また、植物栽培用ランプ1として、制御部が、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するランプコントローラ(発光強度制御手段)を備えるものを用いることで、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を、栽培する植物の種類等に応じて、より植物の育成に適したものとすることができる。
【0058】
本実施形態の植物栽培用ランプ1は、赤色発光素子2と青色発光素子3とを別個独立に点灯・消灯させる制御部を備えているので、執行法を行うことにより十分な生長促進効果が得られるように、生長させる植物に応じて、赤色光と青色光とを同時に照射したり交互に照射したり赤色光と青色光との照射時間を変化させたりすることができ、優れた生長促進効果が得られる。
【0059】
また、植物栽培用ランプ1は、赤色発光素子2と青色発光素子3とを有する光照射部を備えているので、赤色光の照射手段と青色光の照射手段の2種類の照射手段を配置する場合と比較して、照射手段を配置する領域の確保が容易であるとともに、赤色光の照射方向と青色光の照射方向とのずれを小さくできる。
【0060】
植物栽培用ランプ1の制御部が、光照射部11から出射される青色光と赤色光との発光強度比を制御するランプコントローラを備えている場合、青色光と赤色光の強度比を容易に異ならせることができ、容易に生長させる植物に最適な強度比とすることができる。
【0061】
植物栽培用ランプ1は、平面視長方形の長尺な光照射部11を備えているため、従来の直管形蛍光灯などの照明器具が設置されている位置に容易に設置できる。
【0062】
また、従来の蛍光灯と同様に交流電源を端子に入力できるように、電源(交流電力をLED駆動の直流電力に変換する)を内蔵することが、設置の容易性、スペースの有効利用ができて望ましい。更に、片側の端子を青色用、もう一方を赤色用に分けることが、内蔵電源の配置の点、発熱源が分散され放熱面で望ましい。また、栽培には複数本の灯具を用いる為、発光強度のコントロールは、多数本を同時に制御ができる点から、交流電力を制御する調光システムを備えLEDの電流を制御することが望ましい。
【0063】
本発明の植物栽培方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態においては、本発明の植物栽培用ランプとして、制御部が発光強度制御手段を備えるものを例に挙げて説明したが、ランプコントローラを備えていなくてもよい。この場合、ランプコントローラを備える植物栽培用ランプと比較して、植物栽培用ランプに用いる部材を節減ができる点で好ましい。
【実施例】
【0064】
(試験用植物の準備)
以下に示す実施例および比較例においては、生育状態を観察する対象の植物として、リーフレタス(品種:サマーサージ)を用いた。まず、リーフレタスの種子を6粒、育成ピートバンに等間隔に播種し、蛍光灯下(12時間日長)において発芽させた。播種から発芽までの3日間は、何れの試験群においても、同一の光環境下に置いた。このようにして得たリーフレタスを試験用植物として用いた。
【0065】
(実施例1)
温度、湿度および二酸化炭素濃度を制御する手段を設けた人工気象器内に試験用の発芽したリーフレタスを置き、気温22〜25℃、湿度60%の条件下に、次のようにして光照射しながらリーフレタスを栽培した。
【0066】
植物栽培用ランプとして、赤色LED(中心波長:660nm、波長域640〜680nm)180個からなる赤色発光素子と、青色LED(中心波長:450nm、波長域430〜470nm)60個からなる青色発光素子とを有する光照射部と、光照射部を制御して、赤色発光素子と青色発光素子とを別個独立に点灯・消灯させる制御部とを備えるものを用いた。
【0067】
光照射部からの赤色光の発光強度である光合成光量子束密度(PPFD)は合計で150μmol/msとし、青色光の光合成光量子束密度(PPFD)も合計で50μmol/msとした(赤色光と青色光の発光強度比は3:1)。
【0068】
そして、赤色光を植物に照射する赤色光照射ステップと、青色光を植物に照射する青色光照射ステップとを、1日につき各色12時間ずつ別々に連続して行った。なお、何れの光も照射しない時間は設けなかった。
【0069】
実施例1の植物育成では、培養液(栄養水溶液)を用いた。具体的には、青色光を植物に照射する手順における肥料としては、窒素12me/L、リン4me/L、カリウム8me/L、カルシウム4me/L、マグネシウム2me/L、及び微量の鉄を含む栄養水溶液を用い、pHは4.5に調整した。液の温度を15℃にした。
【0070】
同様に、赤色光を植物に照射する手順における肥料としては、窒素25me/L、リン7me/L、カリウム14me/L、カルシウム4me/Lマグネシウム2me/L、及び微量の鉄を含む栄養水溶液を用い、pHは6に調整した。液の温度を20℃にした。この条件下で、24日栽培した。
【0071】
(実施例2)
赤色光照射手順、青色光照射手順とも、培養液(栄養水溶液)のpHを6とした他は、実施例1と同じ条件で生育した。
【0072】
(実施例3)
液温を20℃で、一定にした他は、実施例1と同じ条件とした。
【0073】
(実施例4)
赤色光照射手順、青色光照射手順とも、培養液(栄養水溶液)の組成を下記のように替えた他は実施例1と同じ条件・手法で生育した。
青色光を植物に照射する手順における培養液としては、窒素12me/L、リン2me/L、カリウム4me/L、カルシウム4me/L、マグネシウム2me/L、及び微量の鉄を含む栄養水溶液を用いた。
赤色光を植物に照射する手順における培養液としては、窒素18me/L、リン4me/L、カリウム8me/L、カルシウム4me/Lマグネシウム2me/L、及び微量の鉄を含む栄養水溶液を用いた。
【0074】
(参考例1)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、青色光を植物に照射する手順における肥料を、赤色光を植物に照射する手順における肥料と同じにした。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同様に植物育成を行った。ただし、青色光と赤色光を同時に12時間照射し、次いで12時間消灯する操作を繰り返した。そして、同時照射時に赤色光を植物に照射する手順における培養液と同じものを用い、消灯時に青色光を植物に照射する手順における培養液と同じものを用いた他は、実施例1と同じ条件で生育した。
【0076】
各実施例、各比較例で成長させたリーフレタスについて、無機イオン成分を分析し、新鮮重100g当たりの硝酸イオン、カリウム、マグネシウム含量を求めた。さらに、地上部新鮮重を測定した。測定結果は、比較例1の結果を基準(100)とする相対指数で表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例では、苦み成分である硝酸分が低下し、味が良くなり、一方、カリウム、マグネシウムのミネラル分が増加し、栄養価が高く、味の良い高付加価値のレタスが作製できた。
【符号の説明】
【0079】
1…植物栽培用ランプ、2…赤色発光素子、3…青色発光素子、11…光照射部
図1