特許第5724021号(P5724021)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5724021高耐アルカリ性アルミニウム部材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5724021
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】高耐アルカリ性アルミニウム部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20150507BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20150507BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C23C28/04
   C25D11/18 301C
   C25D11/06 C
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-130188(P2014-130188)
(22)【出願日】2014年6月25日
【審査請求日】2014年6月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】新村 仁
(72)【発明者】
【氏名】金谷 庸平
(72)【発明者】
【氏名】柿澤 亮太
【審査官】 深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−306333(JP,A)
【文献】 特開2006−111894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜層を有し、
前記陽極酸化皮膜層の上に、シロキサンガラス成分が90質量%以上のコーティング層を有し、
前記コーティング層は、厚み0.5〜5.0μm,付着量0.4〜5.0g/mであることを特徴とする高耐アルカリ性アルミニウム部材。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜は湯洗処理又は半封孔処理された硫酸電解皮膜又はシュウ酸電解皮膜であることを特徴とする請求項1記載の高耐アルカリ性アルミニウム部材。
【請求項3】
前記陽極酸化皮膜は着色皮膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の高耐アルカリ性アルミニウム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリ性に優れたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金は、そのままで外装部品として使用するには耐食性が不充分であることから、陽極酸化皮膜処理が行われている。
この種の陽極酸化皮膜は、酸性に対しての耐食性は相対的に優れるものの、アルカリ性に対しては表面が白化しやすく、例えば自動車等の外装部品に適用するには不充分であった。
建材の分野にあっては、陽極酸化皮膜を形成後に電着塗装を施すことで耐アルカリ性を向上させているが、この電着塗膜はキズ付きやすく、この種のアルミニウム材を自動車部品に用いると洗車時にキズが付き、剥がれやすい問題がある。
また、特許文献1,2には、陽極酸化皮膜の上にシランカップリング剤を塗布し、その上に塗装する技術を開示するが、ここでシランカップリング剤は、塗膜の密着性を向上させるのが目的であって、シランカップリング剤のみでは耐食性が不充分である。
特許文献3には、アルコキシシランとHClの混合アルコール溶液に陽極酸化皮膜を浸漬する技術を開示する。
しかし、同技術は陽極酸化皮膜の微細孔中にSiOを充填させるのが目的であり、陽極酸化皮膜の上にコーティング層を形成できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4248818号公報
【特許文献2】特許第4176581号公報
【特許文献3】特開平6−316787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、陽極酸化皮膜の耐アルカリ性を向上させたアルミニウム及びアルミニウム合金部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る高耐アルカリ性アルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜層を有し、前記陽極酸化皮膜層の上に、シロキサンガラス成分が90質量%以上のコーティング層を有し、前記コーティング層は、厚み0.5〜5.0μm,付着量0.4〜5.0g/mであることを特徴とする。
【0006】
ここで、シロキサンガラス成分が90質量%以上とは、Si−O−Siシロキサン結合を有するガラス状の成分が90質量%以上占めるコーティング層であることをいう。
このようなコーティング層は、アルコキシシロキサン化合物が50質量%以上の高濃度の塗料を陽極酸化皮膜の上に塗布し、乾燥させることで得られる。
アルコキシシロキサンは、塗布面にて加水分解し、常温硬化する。
シロキサンガラス成分が90質量%以上占めると、透明で硬い皮膜層となる。
シロキサンガラス成分がさらに95質量%以上となると、より透明度が増す。
【0007】
本発明において、陽極酸化皮膜は湯洗処理又は半封孔処理された硫酸電解皮膜又はシュウ酸電解皮膜であると、シロキサンガラスのコーティング層の密着性が向上する。
また、本発明においては、陽極酸化皮膜は着色皮膜であってよい。
【0008】
本発明に係る高耐アルカリ性アルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に厚み5〜20μmの陽極酸化皮膜を形成するステップと、次に70〜85℃の温水にて5〜30分間の湯洗処理又は半封孔処理するステップと、次に、アルコキシシロキサン塗料を塗布及び乾燥するステップとを有することを特徴とする。
ここで、硫酸電解皮膜とは、硫酸水溶液中で陽極酸化皮膜を形成することをいい、シュウ酸電解皮膜とは、シュウ酸水溶液を電解液に用いたものをいう。
また、陽極酸化皮膜を形成した後に着色処理し、次に前記湯洗処理又は半封孔処理するステップを有するようにしてもよい。
着色には、いわゆる二次電解着色や染色が含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金部材は、陽極酸化皮膜の上にシロキサンガラスからなるコーティング層を有するので、酸性環境下における耐食性のみならず、耐アルカリ性にも優れる。
また、透明で艶があり、従来の陽極酸化皮膜の質感やアルミニウム表面の金属光沢を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】表面処理条件とその評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金部材の製造例及びその評価結果を説明する。
アルミニウム合金の押出材を硫酸水溶液中にて電解処理し、常法に従い陽極酸化皮膜を形成した。
皮膜の膜厚は、10μmであった。
次に図1の表に示すように80℃〜95℃の温水に5〜20min浸漬処理した。
上記の温水処理した後に乾燥させた後、アルコキシシロキサン塗料を塗布し、常温乾燥させた。
ここで、評価に用いたアルコキシシロキサンが50質量%以上含有する塗料は、株式会社ジェイ・エス・ピー社製の商品名「トップノッチコートTN−7000」を用いた。
なお、塗布する量は厚みを変化させ、乾燥した後のガラス質コーティング層の厚みを図1の表に示した。
【0012】
品質目標としては、自動車の外装部品に適用できるように密着性及び耐アルカリ性の目標を下記のとおり設定した。
<密着性>
試験片を40℃の純水に360時間浸漬した後に、ガラス質コーティング層に1mmマス目の碁盤目を入れ、セロハンテープによる剥がれ試験を実施し、剥がれ0/100を評価「○」とした。
<耐アルカリ性>
試験片を1/10Nの水酸化ナトリウム水溶液(20℃)に20分間浸漬し、その後洗浄乾燥した。
これにより、変色が認められないものを評価「○」とした。
【0013】
図1の表に示した結果から、次のことが明らかになった。
(1)陽極酸化皮膜処理後の温水浸漬が80℃×5分の条件で実施例1,比較例2で示すように密着性が評価「○」となった。
これに対して温水浸漬90℃×20分では、比較例3に示すように密着性が不充分であった。
このことから、陽極酸化皮膜の封孔度が進行すると密着性が低下することから、陽極酸化皮膜中に残る酸の洗浄を目的とした湯洗レベル、又は封孔が完全に進行していない半封孔レベルが良いと言える。
よって、湯洗処理又は半封孔処理は、70〜85℃の温水に5〜30分間浸漬するのが好ましい。
なお、浸漬時間を5〜20分間程度にするには、75〜85℃の温水がよい。
【0014】
次に耐アルカリ性については、比較例2のガラス質コーティング層の厚み0.4μmでは目標をクリアーすることができなかったから、このガラス質コーティング層は0.5〜5.0μmの範囲がよい。
この範囲の付着量は、0.4〜5.0g/mであった。
【0015】
本実施例は、硫酸水溶液を用いた硫酸電解皮膜10μmであったが、自動車の外装部品として使用するには、皮膜厚さが5〜20μmの範囲が好ましく、同様の膜厚のシュウ酸電解皮膜であってもよい。
また、アルミニウム合金素材は、バフ研磨等の機械的仕上げや化学研磨,電解研磨等の化学的仕上げが施されていてもよい。
このようにアルミニウム素材を光輝仕上げしてあると、本発明に係る表面処理にて光輝性を維持しつつ、耐アルカリ性に優れる。
また、陽極酸化皮膜に二次電解着色や染色により、着色を施してあってもよい。
【要約】
【課題】陽極酸化皮膜の耐アルカリ性を向上させたアルミニウム及びアルミニウム合金部材の提供を目的とする。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜層を有し、前記陽極酸化皮膜層の上に、シロキサンガラス成分が90質量%以上のコーティング層を有し、前記コーティング層は、厚み0.5〜5.0μm,付着量0.4〜5.0g/mであることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1