(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の希土類系多層薄膜超電導線材のそれぞれが、前記基材と前記取付面との距離が、前記第1の安定化層と前記取付面との距離よりも大きくなるように、前記取付面に沿って配置される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の超電導電流リード。
減圧可能な外部容器と、前記外部容器の内部に設けられた低温側シールド容器と、前記低温側シールド容器の内部に収容された高温超電導コイルと、前記外部容器に取り付けられた冷凍機と、前記外部容器の内部に設けられて外部電源からの電流を前記高温超電導コイルに供給するための、請求項9に記載の超電導電流リード装置とを備える、超電導マグネット装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Bi系高温超電導体に比べ、臨界電流−磁場特性の良好なY系高温超電導線材を用いた電流リードの構造において、超電導マグネットに適用される場合は必ず電流リードに磁場が印加される。超電導線材では、印加磁場の強さ、角度によって臨界電流が低下する。但し、Y系高温超電導線材の磁場の角度依存性については各々の製法によって異なる可能性があり、更に、データ等も十分詳細には公表されていない。また、電流リードに必要な特徴として、特定方向の磁場のみに対して臨界電流が低下することは好ましくない。この対策として、Y系高温超電導線材を細かい角度で多数並べる方法が考えられる。しかし、多くの超電導線材を設けると、個々の超電導線材の安定化層の面積の和が大きくなり、安定化層を介する外部からの熱侵入を無視できなくなることが予想される。
【0008】
本発明は、以上のような従来の背景に鑑みなされたものである。即ち、希土類系の高温超電導線材を用いた電流リードに対して磁場角度依存性を考慮して、極力少ない本数で特定方向の磁場に対して臨界電流が低下することを避ける構造とした超電導電流リードと、それを備える超電導電流リード装置および超電導マグネット装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、超電導機器に電流を供給するための超電導電流リードであって、複数の電極部材と、複数の電極部材を互いに接続するように、複数の電極部材間に配置された支持体と、主面と、複数の各電極部材に接続される両端部とを有し、支持体の外面に配置され、支持体の外面において支持体の周方向に隣接する主面どうしのなす角度θが40゜〜60゜であり、それぞれがテープ形状を有する、複数の希土類系多層薄膜超電導線材と、を備え
、前記支持体の横断面が、前記支持体の外周に3つ以上の取付面を有するような多角形状であり、前記3つ以上の取付面のうち少なくとも2つのそれぞれに、前記希土類系多層薄膜超電導線材が配置され、前記複数の希土類系多層薄膜超電導線材のそれぞれが、基材上に、中間層、酸化物超電導層、第1の安定化層および第2の安定化層を積層した積層構造を有し、前記第2の安定化層は銅からなり、前記第2の安定化層の厚さは20μm以上80μm未満である。
支持体の周方向に隣接する希土類系多層薄膜超電導線材の主面どうしのなす角度θを40゜〜60゜の範囲とすると、作用磁場の角度に応じて臨界電流に依存する希土類系多層薄膜超電導線材であっても、支持体の周方向に隣接する少なくとも1つの希土類系多層薄膜超電導線材が高い臨界電流を確実に示す。従って、超電導電流リードの臨界電流を大きくすることができる。
【0010】
横断面が多角形状である支持体の取付面に沿って希土類系多層薄膜超電導線材を配置すれば、支持体の周方向に隣接する希土類系多層薄膜超電導線材どうしを確実に40゜〜60゜の範囲に配置できる。従って、磁場の向きに応じて少なくとも1つの希土類系多層薄膜超電導線材の臨界電流が低下しても、支持体の周方向に隣接する他の少なくとも1つの希土類系多層薄膜超電導線材が高い臨界電流を示す。従って、超電導電流リードの臨界電流を大きくすることができる。
【0011】
本発明の第
2の態様は、
超電導機器に電流を供給するための超電導電流リードであって、複数の電極部材と、複数の電極部材を互いに接続するように、複数の電極部材間に配置された支持体と、主面と、複数の各電極部材に接続される両端部とを有し、支持体の外面に配置され、支持体の外面において支持体の周方向に隣接する前記主面どうしのなす角度θが40゜〜60゜であり、それぞれがテープ形状を有する、複数の希土類系多層薄膜超電導線材と、を備え、前記支持体の横断面が、前記支持体の外周に3つ以上の取付面を有するような多角形状であり、前記3つ以上の取付面のうち少なくとも2つのそれぞれに、前記希土類系多層薄膜超電導線材が配置され、複数の希土類系多層薄膜超電導線材のそれぞれが、基材上に、中間層、酸化物超電導層、および、第1の安定化層を積層した積層体と、積層体の全周を覆う第2の安定化層とを有する構造を有
し、前記第2の安定化層は銅からなり、前記第2の安定化層の厚さは20μm以上80μm未満である。
希土類系多層薄膜超電導線材として上記構造を用いると、支持体に安定化層を半田付けする等の方法で、希土類系多層薄膜超電導線材を支持体に強固に取り付けできる。また、希土類系多層薄膜超電導線材に安定化層を備えているため、超電導特性が安定する。
【0012】
本発明の第
3の態様は、上記第
2の態様の超電導電流リードにおいて、第2の安定化層の2つの端縁の間の凹部を埋めるように充填された半田層をさらに有する。
これにより、第2の安定化層を良好に接合できる。
本発明の第
4の態様は、上記第
1の態様の超電導電流リードにおいて、複数の希土類系多層薄膜超電導線材のそれぞれが、多層構造の上にCuの圧延テープ材を有する積層構造を有し、積層構造の全周を覆う金属層をさらに有する。
希土類系多層薄膜超電導線材として上記構造を用いると、水分の浸入を防ぎ、局所的な発熱の発散を促進するなど超電導層の保護できるため、希土類系多層薄膜超電導線材の超電導特性の低下を防ぐことができる。従って、超電導電流リードの信頼性を向上させることができる。
本発明の第
5の態様は、上記第
2の態様の超電導電流リードにおいて、
第2の安定化層の上にCuの圧延テープ材を有する積層構造を有し、積層構造の全周を覆う金属層をさらに有する。
希土類系多層薄膜超電導線材として上記構造を用いると、さらに、水分の浸入を防ぎ、局所的な発熱の発散を促進するなど超電導層の保護できるため、希土類系多層薄膜超電導線材の超電導特性の特性低下を防ぐことができる。従って、超電導電流リードの信頼性をより向上させることができる。
本発明の第
6の態様は、上記第
1〜
5のいずれか一つの態様の超電導電流リードにおいて、複数の希土類系多層薄膜超電導線材のそれぞれが、基材と取付面との距離が、第1の安定化層と取付面との距離よりも大きくなるように、取付面に沿って配置される。
上記のように配置すると、超電導電流リードの臨界電流を大きく、より安定させることができる。
本発明の第
7の態様は、上記第
1または2の態様の超電導電流リードにおいて、
希土類系多層薄膜超電導線
材を2つ積層した構造を有し、さらに構造の全周を覆う金属層を有する。
希土類系多層薄膜超電導線材として上記構造を用いると、超電導特性の特性低下を防ぐことができる積層構造を2つ使用するため、超電導特性がさらに安定する。従って、超電導電流リードの信頼性をより向上させることができる。
本発明の第
8の態様は、上記第
1〜
7のいずれか一つの態様の超電導電流リードにおいて、金属層または前記第2の安定化層の少なくとも外側表面に、導電性接合層が形成されている。
これにより、別個に他の半田層を形成することなく、電極端子に直接接続できるため、容易に取り付けすることができる。
本発明の第
9の態様は、超電導電流リード装置であって、上記第1〜
8の態様のいずれかに記載の超電導電流リードの第1電極部材に第1電極端子が、第2電極部材に第2電極端子がそれぞれ接続され、第1電極端子と第2電極端子に装着されて超電導電流リードを取り囲む外郭体を備える。
超電導電流リードを取り囲む外郭体を備えていることにより、希土類系多層薄膜超電導線材を覆うことができるため、希土類系多層薄膜超電導線材を外力から保護できる。また、両電極端子を外郭体で接合できるため、機械強度の高い超電導電流リード装置を提供できる。
【0013】
本発明の第
10の態様は、超電導マグネット装置であって、減圧可能な外部容器と、外部容器の内部側に設けられた低温側シールド容器と、低温側シールド容器の内部に収容された高温超電導コイルと、外部容器に取り付けられた冷凍機と、外部容器の内部に設けられて外部電源からの電流を高温超電導コイル側に供給するための、上記第
9の態様の超電導電流リード装置と、を備える。
上記超電導電流リード装置によれば、冷凍機により高温超電導コイルを伝導冷却して超電導状態にできる。また、高温超電導コイルを外部容器と低温側シールド容器で2重に囲むため、外部からの熱の侵入を少なくでき、高温超電導コイルの超電導状態を維持できる温度を保持できる。更に、超電導電流リード装置として希土類系多層薄膜超電導線材を含む構造であるため、電源から高温超電導コイルまでの電流供給経路において、損失の少ない状態で電流を供給できる。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の態様によれば、支持体の周囲に、主面どうしのなす角度θを40゜〜60゜の範囲とした複数の希土類系多層薄膜超電導線材を備えているため、作用磁場の角度に応じて臨界電流に依存性を有する希土類系多層薄膜超電導線材であっても、支持体の周方向に隣接する少なくとも1つの希土類系多層薄膜超電導線材が高い臨界電流を確実に示す。従って、臨界電流を大きく取ることができる超電導電流リードが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る超電導電流リードについて、図面に基づき説明する。
図1〜
図3は、本発明に係る超電導電流リードの第1実施形態を示す。第1実施形態の超電導電流リード1は、一端と他端に板状の電極端子7、8を備える。電極端子7、8間には、電極端子7、8を一体に接続するために、横断面が正八角形であるロッド形状の支持体5が形成される。支持体5の周面に沿って、支持体5の長さ方向に8本の希土類系多層薄膜超電導線材6が並列に取り付けられている。
電極端子7、8は、CuあるいはCu合金等の良伝導性金属材料からなる板状の端子部材であり、電極端子7、8それぞれの端部における中央付近には接続用の透孔7a、8aが形成されている。電極端子7、8を接続している支持体5は、支持体5を介する熱侵入量をできるだけ少なくするために、熱侵入量の少ない、強度の高い金属材料、例えば、ステンレス鋼、ガラスエポキシ樹脂等からなることが好ましい。支持体5の両端部は、溶接一体化、銀ろう付け、あるいは嵌め込み構造等の接合方法により電極端子7、8に接合されている。
支持体5の横断面は正八角形であり、支持体5の周面には平面形状の細長い取付面5aが8つ形成される。個々の取付面5aには、テープ形状の希土類系多層薄膜超電導線材6が、一端6a(第1電極部材)が一方の電極端子(第1電極端子)7に、かつ他端6b(第2電極部材)が他方の電極端子(第2電極端子)8に接合するように半田付けされている。
【0017】
図1に示す超電導電流リード1に対し
図3に示す円筒型の外郭体9が外挿され、ロッド形状の超電導電流リード装置10が形成されている。なお、
図3は、超電導電流リード1から外郭体9を取り外した状態を示す分解図である。
板状の電極端子7の一端には、一端から膨出する、横断面が正八角形である接続部7Aが形成されている。接続部7Aの先端の正八角形の部分に横断面が正八角形である支持体5の一端が接合されている。
電極端子7は、支持体5に接続される板状の接続部7Aと、接続部7Aの他端に形成された鍔部7Bと、鍔部7Bから延出する端子部7Cとを有する。電極端子8も電極端子7と同様に、接続部8Aと鍔部8Bと端子部8Cとを有する。
鍔部7Bと鍔部8Bとの間の部分は筒型の外郭体9に覆われ、全体としてロッド形状の超電導電流リード装置10が形成される。
【0018】
希土類系多層薄膜超電導線材6は、一例として、
図2に断面構造を示すように、テープ形状の酸化物超電導積層体11の全周をCuまたはCu合金等の良導電材料製の金属層(第2の安定化層)12で覆って形成されている。本実施形態の酸化物超電導積層体11は、詳細には、
図4に示すようにテープ形状の基材13上に、中間層14と酸化物超電導層15と保護層(第1の安定化層)16とをこの順に積層して形成される。なお、
図4では、酸化物超電導積層体11の全周を取り囲む金属層12を簡略に記載し、保護層15の上に積層されている金属層12の部分のみ示している。
基材13は、可撓性を有する線材とするためにテープ形状であることが好ましく、耐熱性の金属からなることが好ましい。各種耐熱性金属の中でも、ニッケル合金からなることが好ましい。市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適である。基材13の厚さは、通常は、10〜500μmである。また、基材13として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材等を適用することもできる。
【0019】
中間層14としては、以下に説明する下地層17と配向層18とキャップ層19とからなる構造を一例として適用できる。
下地層17を設ける場合、下地層17は、以下に説明する拡散防止層とベッド層との複層構造あるいは、これらのうちどちらか1層からなる構造を有することができる。
下地層17として拡散防止層を設ける場合、拡散防止層は、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される単層構造あるいは複層構造の層が望ましい。拡散防止層の厚さは、例えば10〜400nmである。
下地層17としてベッド層を設ける場合、ベッド層は、耐熱性を高め、界面反応性を低減し、ベッド層上に配置される膜の配向性を得るために用いられる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y
2O
3)等の希土類酸化物である。より具体的には、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等を例示することができ、これらの材料からなる単層構造あるいは複層構造をベッド層として使用できる。ベッド層の厚さは、例えば10〜100nmである。また、拡散防止層およびベッド層の結晶性は特に問われないため、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
【0020】
配向層18は、配向層18の上方に形成する酸化物超電導層15の結晶配向性を制御するバッファ層として機能し、酸化物超電導層15と格子整合性の良い金属酸化物からなることが好ましい。配向層18の好ましい材質として、具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示できる。配向層18は、単層でも良いし、複層構造でも良い。
配向層18は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、もしくは、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する。)等の物理的蒸着法、化学気相成長法(CVD法)、有機金属塗布熱分解法(MOD法)、または、溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。上記方法の中でも特に、IBAD法で形成された金属酸化物層は、結晶配向性が高く、配向層18上のキャップ層19および酸化物超電導層15の結晶配向性を制御する効果が高いため、好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。
通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO、または、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)からなる配向層は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0021】
キャップ層19は、配向層18の表面においてエピタキシャル成長させた後、結晶粒が面内方向に選択成長する過程を経て形成されていることが好ましい。このようなキャップ19層は、配向層18よりも高い面内配向度を得られる可能性がある。
キャップ層19の材質は、上記機能を有していれば特に限定されない。具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が好適である。キャップ層19の材質がCeO
2である場合、キャップ層19は、Ceの一部が他の金属原子もしくは金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層19は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができる。PLD法によるCeO
2層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で成膜することができる。CeO
2のキャップ層19の厚さは、50nm以上であれば良いが、より十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。結晶配向性を考慮すると、50〜5000nmの範囲であることが好ましい。
【0022】
酸化物超電導層15は通常知られている組成の希土類系高温酸化物超電導体からなる薄膜を広く適用することができる。例えば、REBa
2Cu
3O
y(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)からなる材質、具体的には、Y123(YBa
2Cu
3O
y)またはGd123(GdBa
2Cu
3O
y)がある。酸化物超電導層15の厚さは、0.5〜5μm程度であって、酸化物超電導層15全体が均一な厚さを有することが好ましい。
酸化物超電導層15の作製方法としては、真空蒸着法、レーザ蒸着法、化学気相成長法(CVD法)、有機金属熱塗布分解法(MOD法)等を用いることができる。なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
【0023】
酸化物超電導層15の上面を覆うように形成されている保護層16は、AgまたはAg合金からなる。保護層16は、DCスパッタ装置またはRFスパッタ装置等の成膜装置により成膜され、厚さは1〜30μm程度である。なお、本実施形態の保護層16は、成膜装置により酸化物超電導層15の上部に主に形成されている。しかし、成膜装置のチャンバの内部でテープ形状の基材13を走行させながら成膜が行われるため、基材13の両側面と裏面とに対して保護層16の成膜粒子が回り込む。これにより、両側面と裏面にも、保護層16の構成元素粒子が若干堆積される。
Ag粒子が回り込んで、堆積されている場合、ニッケル合金からなるハステロイ製の基材13の裏面と側面に金属のめっき層が密着する。なお、Ag粒子の回り込みによる堆積が無い場合は、ニッケル合金からなるハステロイ製の基材13にめっき層が十分に密着されなくなるおそれがある。
【0024】
酸化物超電導積層体11の外周に被覆されている金属層12は、一例として良導電性の金属材料からなる。酸化物超電導層15が超電導状態から常電導状態に転移した時に、保護層16とともに、金属層12は電流を転流するバイパスとして機能する。金属層12を構成する材料としては、良導電性を有していればよく、限定はされない。特に、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、Al等の比較的安価な材質を用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがらCuを用いることが好ましい。金属層12の厚さは限定されず、適宜調整可能であるが、20〜300μmであることが好ましい。
【0025】
以上のように形成された希土類系多層薄膜超電導線材6は、希土類系多層薄膜超電導線材6の外面の金属層12が取付面5aに沿うように支持体5に固定されている。ここで、保護層16と支持体5の取付面5aとの距離が短くなるように、希土類系多層薄膜超電導線材6を配置する。換言すると、基材13と支持体5の取付面5aとの距離が、保護層16と支持体5の取付面5aとの距離よりも大きくなるように、希土類系多層薄膜超電導線材6は、支持体5の取付面5aに沿って配置されている。また、テープ形状の希土類系多層薄膜超電導線材6において、長さ方向における両端が、正八角形状の支持体5の長さ方向における両端部から電極端子7あるいは電極端子8に向けて所定の長さ分突出している。突出部分において、安定化層が電極端子7あるいは電極端子8に半田付けにより固定される。
上記構造によれば、電極端子7,8に安定化層が半田付けされるため、基材に接続される場合よりも接続抵抗が少なくなり、発熱量を抑えることができる。
支持体5は、線膨張係数がステンレスのような超電導線材(線膨張係数は基材に近い)に近い材料を用いることによってヒートサイクルに強い構造となり、信頼性が向上する。
更に説明すると、電極端子7の接続部7Aにおける正八角形状に形成された部分にまで希土類系多層薄膜超電導線材6の端部6aが延出されて半田付けされる。同様に、電極端子8の接続部8Aにおける正八角形状に形成された部分にまで希土類系多層薄膜超電導線材6の端部6bが延出されて半田付けされる。
【0026】
本実施形態において希土類系多層薄膜超電導線材6を電極端子7、8に固定する材料としては半田を用いることができるが、低融点金属層として、融点100〜300℃の金属、例えば、Sn、Sn合金、インジウム等を適用しても良い。半田を用いる場合、Sn−Pb系、Pb−Sn−Sb系、Sn−Pb−Bi系、Bi−Sn系、Sn−Cu系、Sn−Pb−Cu系、Sn−Ag系等のいずれの半田を用いても良い。
【0027】
テープ形状の希土類系多層薄膜超電導線材6は、正八角形状の支持体5の各側面に沿うように配置されているため、支持体5の周方向に隣接する各希土類系多層薄膜超電導線材6の表面(主面)どうしのなす角度θは、
図2に例示するように45゜である。なお、希土類系多層薄膜超電導線材6はテープ形状であるため、主面と酸化物超電導層15とは平行な位置関係を有する。
【0028】
以上説明した構造の超電導電流リード装置10は、例えば、
図5に示す超電導マグネット装置(超電導機器)20に適用される。
図5に示す超電導マグネット装置20は、真空容器等の減圧可能な外部容器21と、外部容器21の内側に設置された内部容器(低温側シールド容器)22と、内部容器22に収容された高温超電導コイル23と、外部容器21の上部を閉じるフランジ部25および内部容器22の上部を閉じるフランジ部26を貫通して設けられた冷凍機27と、を主体として構成されている。冷凍機27は第1ステージ27Aと第2ステージ27Bと有する2段構造であり、第2ステージ27Bが内部容器22の内部に向かって延出されている。第2ステージ27Bの先端部27bには伝熱部材28を介し高温超電導コイル23が接続されていて、冷凍機27からの伝導冷却により高温超電導コイル23を臨界温度以下に冷却できる。高温超電導コイル23としては、図示略のボビンに酸化物超電導線材を樹脂等の含浸材で固めた構造が一般的である。
【0029】
フランジ部25の表面には、電流供給用の外部接続端子29、30が形成される。外部接続端子29、30がフランジ部25を貫通するように延出されて外部容器21の内部に引き込まれ、引込部分には、フランジ部25とフランジ部26とに接続するように超電導電流リード装置10、10が組み込まれている。外部接続端子29、30に超電導電流リード装置10、10の上端が接続され、超電導電流リード装置10、10の下端はそれぞれ高温超電導コイル23を構成する図示略の酸化物超電導線材に接続されている。
外部容器21は、図示略の真空ポンプに接続されていて、内部を所望の真空度に減圧できるように形成されている。また、外部接続端子29、30は外部の図示略の電源に超電導電流リード線を介し接続されており、電源から高温超電導コイル23に通電し、所望の磁場を発生できる。
【0030】
図5に示す超電導マグネット装置20は、図示略の真空ポンプにより外部容器21の内部を減圧して真空状態とし、冷凍機27を作動させて伝導冷却により高温超電導コイル23を臨界温度以下に冷却する。その後、外部電源から接続端子29、30を介し高温超電導コイル23に通電することで使用される。なお、冷凍機27の能力にもよるが、冷凍機27は高温超電導コイル23を4.2K、20Kあるいは40K等のように希土類系酸化物超電導体が超電導状態となる液体窒素温度(77K)よりも低温に冷却する能力を有する。そのため、外部容器21の内側に設けられている超電導電流リード1も臨界温度以下(77K以下が望ましい。)に冷却される。
【0031】
印加した電流は、接続端子29、30から超電導電流リード装置10の超電導電流リード1を介して高温超電導コイル23の酸化物超電導線材に流れる。超電導電流リード1において、電極端子7を仮に接続端子に近い高温になる端子として設置すると、電流は電極端子7から希土類系多層薄膜超電導線材6に流れ、電極端子8に流れて高温超電導コイル23の酸化物超電導線材に達する。ここで、超電導電流リード1も臨界温度以下に冷却されているため、希土類系多層薄膜超電導線材6に設けられている8本の酸化物超電導層15の抵抗が0となる。そのため、電極部材2から半田層、金属層12、および、保護層16を介し各酸化物超電導層15に電流が流れ、電極部材3に通電し、高温超電導コイル23に通電できる。高温超電導コイル23に通電されると高温超電導コイル23が磁場を発生させるため、超電導マグネット装置20は所望の磁場を発生できる。
【0032】
次に、横断面が正八角形状である支持体5の周面に希土類系多層薄膜超電導線材6を配置した超電導電流リード装置10の作用効果について説明する。
上記構造を有する超電導電流リード装置10を超電導マグネット装置20に適用すると、希土類系多層薄膜超電導線材6はテープ形状であり、酸化物超電導層15も平面形状であるため、希土類系の酸化物超電導層15において、酸化物超電導層15の表面(主面)に対し磁場が作用する際の印加角度に応じて、臨界電流値が異なるという特性がある。
一例として、磁場が印加される角度が酸化物超電導層15の表面(主面)に対し40〜60゜であると、酸化物超電導層15の臨界電流値は1/2程度に小さくなる。しかし、
図2に示すように支持体5の周囲に配置されている8本のテープ形状の酸化物超電導層15は、それぞれ支持体5の周方向に隣接する各主面どうしのなす角度θが40〜60゜になるように配置されている。
【0033】
従って、支持体5の周面に取り付けられている特定の2つの希土類系多層薄膜超電導線材6を例に挙げると、2つの希土類系多層薄膜超電導線材6の酸化物超電導層15のうち、磁場の作用する方向により、仮に、臨界電流値が低下した一方の希土類系多層薄膜超電導線材6に対し、隣接する他方の希土類系多層薄膜超電導線材6は2倍程度高い臨界電流を示す。
【0034】
また、支持体5に対しいずれの方向から磁場が作用するかは、超電導電流リード装置10を超電導マグネット装置20へ取り付ける方向によって異なる。支持体5の周面に8つの希土類系多層薄膜超電導線材6が半田付けされている場合は、超電導電流リード装置10に対しいずれか任意の方向から磁場が作用し、いずれか1つの希土類系多層薄膜超電導線材6の臨界電流値が低下したとしても、隣接する他の希土類系多層薄膜超電導線材6は、臨界電流値が低下した希土類系多層薄膜超電導線材6よりも優れた臨界電流を示す。従って、超電導電流リード1は、優れた臨界電流特性を発揮できる。
【0035】
また、超電導電流リード1は外周が外郭体9、9により覆われているため、超電導マグネット装置20に超電導電流リード装置10を取り付ける際、周方向の位置を把握することが難しい。仮に、1本のみの希土類系多層薄膜超電導線材6を支持体5のいずれかの側面に備える構造の場合、酸化物超電導層15に対し40〜60゜の方向に高温超電導コイル23の磁場が作用するように設置すると、1本の希土類系多層薄膜超電導線材6の臨界電流値は大幅に低下する。例えば、1/2程度に低下する。
これに対し、2本以上、例えば8本の希土類系多層薄膜超電導線材6を周回りに備えた超電導電流リード1であれば、いずれか任意の方向から高温超電導コイル23の磁場が作用し、特定の1本の希土類系多層薄膜超電導線材6の臨界電流値が低下しても、他の希土類系多層薄膜超電導線材6の超電導特性の低下する割合が小さくなる。そのため、超電導電流リード装置10として大きな臨界電流を得ることができ、良好な臨界電流特性を得ることができる。
【0036】
なお、
図1〜
図3に示す第1実施形態では、支持体5について横断面が正八角形状である例について説明した。しかし、支持体5の横断面の形状は多角形状あるいは円形状であって、周方向に隣接する希土類系多層薄膜超電導線材6のなす角度を40゜〜60゜の範囲にできる形状であれば、いずれの横断面形状であっても良い。また、希土類系多層薄膜超電導線材6の本数も、2本以上であれば任意の数で良い。例えば、2本〜12本の間で任意の数を選択できる。更に、支持体5の全周に希土類系多層薄膜超電導線材6を配置する必要はない。一例として、横断面が八角形状の支持体5に、2本、3本、4本、5本等、任意数の希土類系多層薄膜超電導線材6を取り付けて利用できる。なお、支持体5の横断面を円形状とする場合、支持体5の周面は曲面になる。そのため、支持体5の周面に沿ってテープ形状の希土類系多層薄膜超電導線材6を支持体5の長さ方向に沿って配置した場合、希土類系多層薄膜超電導線材6は周面に沿って湾曲状態に配置される。この状態において、周方向に隣接する希土類系多層薄膜超電導線材6のなす角度を40゜〜60゜にするとは、以下の場合を意味する。即ち、支持体5の周方向に隣接する希土類系多層薄膜超電導線材6の上面における幅方向中央部を通過する接線どうしがなす角度を40〜60゜にすることを意味する。
支持体5に取り付ける希土類系多層薄膜超電導線材6の本数は、超電導電流リード装置10に流そうとする電流の大小に応じて適宜必要な本数を選択すれば良い。
支持体5を多角形状にすることにより、希土類系多層薄膜超電導線材6を湾曲させずに平らな支持体表面に取り付けられるので、線材6に生じる歪みを低減できる。従って、線材6が劣化する可能性を低減して支持体に取り付けることができる。
【0037】
また、支持体5の周面に取り付けた希土類系多層薄膜超電導線材6を、エポキシ樹脂等の固定材により覆っても良く、希土類系多層薄膜超電導線材6の1つ1つの外面を絶縁テープ等で絶縁処理しても良い。更に、気密性を向上させるために、希土類系多層薄膜超電導線材6の周面を覆う金属層12に代えて、圧延銅テープまたは銅合金を、半田またはスズにより希土類系多層薄膜超電導線材6の周面に貼り合わせた構造とすることもできる。
【0038】
例えば、希土類系多層薄膜超電導線材の第2の構造例として、
図6Aに示すように、基材33の上に中間層34、酸化物超電導層35、および、保護層36を積層して形成される超電導積層体37の上に、Cuの圧延テープ材38を貼り付け、更に全周を金属層39で覆った構造の希土類系多層薄膜超電導線材40を用いることができる。金属層39は、めっきあるいは金属テープの貼り合わせ等により形成できるが、これらに限定されるものではない。
また、希土類系多層薄膜超電導線材の第3の構造例として、
図6Bに示すように、基材43の上に中間層44、酸化物超電導層45、および、保護層46を積層して形成される超電導積層体47の全周を金属層48で覆い、その上に、Cuの圧延テープ材49を貼り付け、更に全周を金属層50で覆った構造の希土類系多層薄膜超電導線材51を用いることもできる。
更に、希土類系多層薄膜超電導線材の第4の構造例として、
図6Cに示すように、全周が金属層48で覆われた超電導積層体47を2枚向き合わせて積層し、全周を金属層52で覆った構造の希土類系多層薄膜超電導線材53を用いることもできる。
更に、希土類系多層薄膜超電導線材の第5の構造例として、
図6Dに希土類系多層薄膜超電導線材100の幅方向に沿う断面模式図を示す。
図6Dに示す超電導線材100において、積層基体S2は、基材101の一方の面上に中間層102、酸化物超電導層103、および、第1の安定化層108がこの順に積層されることで形成され、矩形断面を有する。また、超電導積層体105は、積層基体S2を中央に備え、第2の安定化層112(金属層)が積層基体S2の外周面のほぼ全体を覆うことで形成され、横断面が略矩形状である。さらに、超電導線材100は、絶縁被覆層107が超電導積層体105の外周面全体を覆うことで形成される。金属安定化層104は、酸化物超電導層103上に形成された第1の安定化層108と、積層基体S2の外周面のほぼ全周を覆う第2の安定化層112とで構成されている。
第2の安定化層112は、良導電性の金属材料で形成され、酸化物超電導層103が超電導状態から常電導状態に遷移する時、第1の安定化層108とともに、酸化物超電導層103の電流を転流させるバイパスとして機能する。なお、金属テープ状の第2の安定化層112は、積層基体S2の周面に沿って横断面略C字型に配置され、積層基体S2のほぼ全周面を覆うように設けられている。詳述すると、第2の安定化層112は基材101の他方の面(中間層102が形成されていない面)側の中央部を除いて積層基体S2のほぼ全周を覆うように配置されている。基材101の他方の面側の中央部において第2の安定化層112により覆われていない部分は、第2の安定化層112の2つの端縁の間の凹部を埋めるように充填された半田層113により覆われている。
第2の安定化層112を構成する金属材料は、上述した希土類系多層薄膜超電導線材の第2の安定化層を構成する金属材料を適用でき、その厚さについても同等の範囲を選択できる。
なお、
図6Dでは略されているが、金属テープ状の第2の安定化層112を積層基体S2の外周に半田を介して一体化する場合は、積層基体S2と第2の安定化層112との間には半田層が存在する。
さらに、
図6Eに示すように、第2の安定化層112の片面もしくは両面には、Snなどの半田層(導電性接合層)114が形成(めっき)されていてもよい。第2の安定化層112の外側表面(外周面上)にも半田層114が形成されていることにより、別個に他の半田層を形成することなく、電極端子に直接接続できるため、容易に取り付けすることができる。
以上のように、本発明の実施形態の超電導電流リード1に適用する希土類系多層薄膜超電導線材の構造については種々変更が可能であり、
図1、
図6A〜Eに示す構造の他、一般に知られている公知の希土類系酸化物超電導線材の種々の構造を用いることが可能である。
【実施例】
【0039】
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅5mm、厚さ0.1mmのテープ形状の基材の表面に、Al
2O
3からなる厚さ100nmの拡散防止層と、Y
2O
3からなる厚さ30nmのベッド層と、イオンビームアシスト蒸着法により形成された厚さ10nmのMgOの配向層と、CeO
2の厚さ500nmのキャップ層と、GdBa
2Cu
3O
7−xの厚さ約2μmの酸化物超電導層と、厚さ10μmのAgの保護層と、を形成した酸化物超電導積層体を用いた。酸化物超電導積層体に対し、酸素アニールを500℃で行った。酸素アニールを施して希土類系多層薄膜超電導線材を得た。
得られた希土類系多層薄膜超電導線材について、主面(表面)に0.5Tの磁場を、磁場印加角度を種々変更して印加した場合の臨界電流の磁場角度依存性(77T自己磁場0の場合の臨界電流Ic
0とした場合の比率)を測定した。また、同様に、1T磁場の場合の臨界電流の磁場角度依存性、3T磁場の場合の臨界電流の磁場角度依存性を測定し。これらの結果を併せて
図7に示す。
【0040】
図7に示すように、いずれの強さの磁場中であっても相対する磁場角度依存性がある。
図7に示す特性から、磁場角度θを希土類系多層薄膜超電導線材の表面に対し40゜〜60゜とした場合に、最も臨界電流値が低下することが分かった。
図7に示された結果を踏まえ、現状の高温超電導コイルに適用される超電導電流リードとして最も使用される確率の高い例として、温度77K、磁場0.5Tの場合の希土類系多層薄膜超電導線材を配置する角度、本数、および、(臨界電流の最悪値)/(臨界電流の標準値)の比率を求めた。
上記構造の希土類系多層薄膜超電導線材においては、10mm幅線材で標準電流値は300A/本(自己磁場状態)とし、最悪値では77Kにおいて1本(支持体周囲の対角として2本)が最も臨界電流が低下する磁場角度に配置される。残りの希土類系多層薄膜超電導線材の電流値を磁場特性から算出し、合計の臨界電流(=許容電流)を算出し、以下の表1に数値を示す。
算出の基としたのは、
図8に示すように0.5Tの磁場が作用した場合に求められた希土類系多層薄膜超電導線材の磁場角度依存性である。また、表1に示す数値を
図9のグラフに示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1と
図8の結果から、角度θが40゜以上、60゜以下の範囲で(最悪値)/(標準値)が高くなる。従って、角度θを40〜60゜の範囲とすると、希土類系多層薄膜超電導線材を超電導電流リードとして有効利用できていることが判明した。
【0043】
次に、本発明に係る希土類系多層薄膜超電導線材を超電導電流リードに用いた構造と、一般に知られているAgシースタイプのBi系酸化物超電導線材を超電導電流リードに用いた構造とにおける、簡略化した相対比較である熱伝導解析試算モデルについて説明する。以下では、基本的な構造を設定した後、1次元熱伝達モデルにおける試算結果について比較する。この試算結果は、仮定の上での単純化モデルにおける試算である。しかし、希土類系多層薄膜超電導線材に極めて類似しているBi系酸化物超電導線材を用いた超電導電流リードとの相対比較を行う上で、有効な手段と考えられる。
【0044】
<試算条件>
熱伝導解析を行うために、
図10に示すような微少体積モデルを採用する。定常状態(時間積分項=0)、熱伝達率k、および、電気抵抗は温度に無関係で一定とする。伝導冷却のみを想定し、冷媒冷却は無いこととした。各部品間の熱接触比は0と設定し、外部容器側の超電導電流リードの高温端を77K、内部容器の内側の超電導電流リードの低温端は4.2Kと設定した。上記試算モデルの部品として、銅製の端子およびステンレス鋼の支持体を用いた。また、希土類系多層薄膜超電導線材について、基材をハステロイ製、安定化層をCu製とし、外郭体をGFRP製のカバーとした。ステンレス鋼の支持体、希土類系多層薄膜超電導線材、および、GFRP製の外郭体は、等価回路を構成すると仮定した。
【0045】
超電導電流リードに通電すると、超電導電流リードの支持体、ハステロイ製の基材、および、安定化層は、抵抗を有するために若干発熱する。
上記状態の導体熱伝導の微少体積モデルを
図10に示す。ここで、熱侵入量Q
c=k・S・θ/L+Qj/2の関係式が成立し、ジュール熱Q
j=ρ・I
2・L/Sの関係が成立する(k:熱伝導率[W/(m・K)]、S:断面積[m
2]、ρ:電気抵抗率[Ωm]、I:電流[A]、L:長さ[m])。
図10に示す微少体積モデルを等価回路として示すと、
図11に示す等価回路となる。
図11の等価回路を、
図1に示す2本の希土類系多層薄膜超電導線材を取り付けた構造に適用すると、
図12に示す等価回路となる。
ここで、熱抵抗:R=L/kS[K/W]、電気抵抗:r=ρL/S[Ω]、とし、各種パラメータは、以下に示すように文献(Y.Iwasa, Case Studies in Superconducting Magnets, P.632-642, 2nd ed. Springer, 2009)から引用した。
【0046】
<Y系電流リードパラメータ>
・銅(無酸素銅)の電気抵抗率ρ
高温側 2.0E-09 [Ω・m] (77K)
低温側 5.0E-10 [Ω・m] (RRR=30、5K)(RRR:残留抵抗比)
・熱伝導率k
銅(高温側) 500 [W/(m/K)] (77K)
ハステロイ 5 [W/(m/K)] (40K)(超電導線材の基材)
ステンレス鋼 5 [W/(m/K)] (40K)(支持体)
GFRP 0.25 [W/(m/K)] (40K)
銅(低温側) 200 [W/(m/K)] (RRR=30、5K)
・GFRPカバーは線材(10mm幅×2本)、ステンレス鋼製の支持体と並列
線材銅断面積 4.00 E-07 [m
2]、長さL=0.145 [m]
線材ハステロイ部分断面積 2.00 E-06 [m
2]、長さL=0.145 [m]
ステンレス鋼支持体断面積 3.00 E-05 [m
2]、長さL=0.145 [m]
GFRP断面積 1.07 E-04 [m
2]、長さL=0.245 [m]
・熱抵抗R
線材 銅部分 熱抵抗 R 725 [K/W]
線材 ハステロイ部分 熱抵抗 R 14500 [K/W]
ステンレス鋼製支持体 熱抵抗 R 967 [K/W]
GFRP製外郭体 熱抵抗 R 9175 [K/W]
・はんだ接続抵抗 線材−銅端子間
高温側 1.00E-07 [Ω・m] (77K)
低温側 1.00E-08 [Ω・m] (4K)
【0047】
<Bi系電流リード設定パラメータ>
・Ag熱伝導率 k 1500 [W(m・K)] (40K)
・Ag断面積 5.76E-0.6 [m
2]、 長さ L=0.228 [m]
(4mm幅 2枚並列×6本=12本、銀比1.5)
・GFRP断面積 2.84E-0.4 [m
2]、 長さ L=0.245 [m]
(充実構造(ただし、線材内部面積を除く))
・銀熱抵抗 R 79 [K/W]
GFRP 熱抵抗 3456 [K/W]
【0048】
以上のパラメータに基づき、希土類系多層薄膜超電導線材を備えた超電導電流リード、および、Bi系酸化物超電導線材を備えた超電導電流リードの低温端における熱侵入量の対比計算を行った。
希土類系多層薄膜超電導線材において、ハステロイ製の基材を0.1mm厚、銅メッキによる安定化銅層、および、線材幅10mmの超電導線材を用いて
図10〜
図12に示すモデル構造を作製した。ここで、高温端を77K、低温端を4.2Kとした。Bi系超電導線材(銀比1.5、0.23mm、4.4mm幅、77K、自己磁場における臨界電流1000Aを満たす条件として12本使用)を超電導電流リードに用いた構造の場合の熱侵入量試算値を1.0として、モデル構造の値との対比を行った。希土類系多層薄膜超電導線材を用いた超電導電流リードにおいて、銅めっき厚および熱侵入量相対値の計算結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示す結果から、Bi系酸化物超電導線材を用いる超電導電流リードの構造と対比すると、低温端での熱侵入量を少なくするためには、安定化銅の厚さを80μm未満とすることが有利である。安定化銅の厚さが少ないほど、超電導電流リードの低温端での熱侵入量を小さくできることが分かる。
なお、支持体をステンレス鋼製とし、外郭体をGFRP製の2mm厚としたが、外郭体をステンレス鋼製としても、表2に示す結果は変わらない。
また、安定化銅は、ある程度の厚さがないと、ピンホールの問題を生じ、水分の侵入により超電導特性の劣化が生じるおそれがある。これより、安定化銅の厚さは1μm以上であれば加工可能ではあるが、20μm程度であればより好ましい。