特許第5724138号(P5724138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5724138異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724138
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/24 20100101AFI20150507BHJP
   G01N 13/00 20060101ALI20150507BHJP
   G01Q 30/04 20100101ALI20150507BHJP
【FI】
   G01Q60/24
   G01N13/00
   G01Q30/04
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2009-110242(P2009-110242)
(22)【出願日】2009年4月30日
(65)【公開番号】特開2009-271070(P2009-271070A)
(43)【公開日】2009年11月19日
【審査請求日】2012年4月27日
(31)【優先権主張番号】0802439
(32)【優先日】2008年4月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510163846
【氏名又は名称】コミシリア ア レネルジ アトミック エ オ エナジーズ オルタネティヴズ
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ、ド クレシィ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−シャルル、バルブ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル、ジラルド−モント
【審査官】 遠藤 孝徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−233711(JP,A)
【文献】 特許第2606033(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0031848(US,A1)
【文献】 E. Dornel, J-C. Barbe, F. de Crecy, G. Lacolle, and J. Eymery,"Surface diffusion dewetting of thin solid films: Numerical method and application to Si/SiO2",PHYSICAL REVIEW B,米国,The American Physical Society,2006年,第73巻,p.115427−1〜115427−10
【文献】 Rahul Panat, K. Jimmy Hsia, and David G. Cahill,"Evolution of surface waviness in thin films via volume and surface diffusion",JOUNAL OF APPLIED PHYSICS ,米国,American Institute of Physics,2005年,第97巻,p.013521−1〜013521−7
【文献】 E. Dornel, J-C. Barbe, J. Eymery, and F. de Crecy,"Surface Evolution of Strained Thin Solid Films: Stability Analysis and Time Evolution of Local Surface Perturbations",Eurosime 2007: International Conference on Thermal, Mechanical and Multi-Physics Simulation Experiments in Microelectronics and Micro-Systems ,2007年
【文献】 Fang Wu and M. G. Lagally,"Ge-Induced Reversal of Surface Stress Anisotropy on Si(001)",PHYSICAL REVIEW LETTERS,米国,The American Physical Society,1995年 9月25日,第75巻、第13号,p.2534−2537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 60/00 − 60/60
G01N 13/00 − 13/04
G01Q 30/00 − 30/20
G01B 11/00 − 11/30
G02B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直角な2方向に沿う2つの座標(x,y)に依存する関数z(x,y)により定義される表面の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法であって、この表面をフーリエ変換すると、初期振幅(a)および波長(λ,λ)の適度な振幅の摂動の合計に分解され、振幅/波長比(a/λ、a/λ)は約0.3未満であり、前記方法は:
−表面トポロジを測定する第1の測定ステップであって、瞬間t=0においてこの第1のトポロジのフーリエ変換H(f,f,0)の決定を可能にし、fおよびfは空間周波数であるステップと、
−前記表面が表面拡散により発展するステップと、
−前記表面の発展後の表面トポロジを測定する第2の測定ステップであって、瞬間tにおけるこの第2のトポロジのフーリエ変換H(f,f,t)の決定を可能にし、fおよびfは空間周波数であるステップと、
−拡散テンソルの成分もしくは表面エネルギーの2次導関数、またはテンソルの成分と表面エネルギーの2次導関数との組み合わせを決定するステップであって、量H(f,f,t)と量H(f,f,0).a(t)との間のずれの測定値(G,G’)の最小化を可能にするステップと
を含み、
ここで、
【数1】

αはfおよびfに依存し、fおよびfは座標xおよびyに関連する直角な方向における空間周波数であり、
【数2】

およびdはxおよびy方向における拡散異方性に対する拡散テンソルの成分であり、γは表面エネルギーであり、γ”およびγ”は座標xおよびyに関連する方向における表面の向きに対する表面エネルギーの2次導関数であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記係数αが次式を満たし、
【数3】

およびbは定数であることを特徴とする、請求項1に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項3】
前記ずれ(G)の測定値が次式を満たし、
【数4】

式中、PSD(f,f,t)は時間tにおけるフーリエ変換のノルムの平方に対応するパワースペクトル密度であり、PSD(f,f,0)は時間=0におけるパワースペクトル密度であることを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項4】
前記ずれ(G’)の測定値が次式を満たし、
【数5】

式中、
【数6】

は周波数fおよびfならびに時間tにおけるフーリエ変換のノルムであり、
【数7】

は周波数fおよびfならびに初期時間t=0におけるフーリエ変換のノルムであることを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項5】
前記ずれ(G,G’)の測定値が、レーベンバーグ・マルカートタイプの方法、勾配およびヘッセ行列を用いる方法、シンプレックス法、またはパウエル法により得られることを特徴とする、請求項3および4のいずれかに記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項6】
前記トポロジ測定がAFMタイプであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項7】
前記トポロジ測定が光学プロフィロメトリタイプであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項8】
前記トポロジ測定が共焦点顕微鏡法タイプであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項9】
表面に粗さを設ける事前のステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項10】
前記粗さが化学エッチングにより設けられることを特徴とする、請求項9に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項11】
前記粗さがプラズマエッチングにより設けられることを特徴とする、請求項9に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項12】
前記粗さが電界エッチングにより設けられることを特徴とする、請求項9に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【請求項13】
前記粗さがインデンテーションまたはナノインデンテーションにより設けられることを特徴とする、請求項9に記載の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、表面拡散現象による作用の測定方法の分野である。特定の分野では、固形物質における等方性、および、特に異方性の表面拡散作用を定量化することが特に有用な場合がある。
【背景技術】
【0002】
表面拡散の異方性もしくは表面エネルギーの異方性、またはこれら2つの量を組み合わせた他のいずれかの物質パラメータの定量化には、多くの産業アプリケーションが関与している。例として、以下の産業分野では、下記のような課題に直面している。
−冶金分野では、特定の化学的腐食に対する感度を低減するため、初期亀裂が生じやすい機械的応力集中部位を削減するため、または粒子、塵埃もしくは汚染を吸収する能力を低減するため、如何にして表面を滑らかにするかが課題であり、
−マイクロ技術およびナノ技術の分野では、如何にして半導体の表面を滑らかにするか(例えば、MOSFETトランジスタにおいてチャネルを形成するプロセス中に重要)、如何にして様々な物質の層の表面を滑らかかつ均質なものにするか(これらの層の品質および厚さを制御することが重要な場合、例えば、BAW(バルク音波)共振器の場合)、如何にして破断により生まれた表面を滑らかにするか(例えば、絶縁体上にシリコンを形成するプロセスにおいて)、如何にして表面拡散によりウェルまたはトレンチから埋め込みチャネルまたはキャビティを形成するかなどが課題である。
【0003】
W.W.Mullinsによる記事「Flattening of a Nearly Plane Solid Surface due to Capillarity」(Journal of Applied Physics、30巻、1号、77〜83ページ、1959年)に記載されているように、表面拡散は、「自由」表面または界面の近傍における物質移動の4つの標準的モードのうちの1つである(その他の移動モードは、粘性拡散、蒸発凝縮、および体積拡散である)。
【0004】
表面拡散、特に、主にタイプAの表面上における同じくタイプAの原子または分子の拡散に相当する自己拡散が、実質的に物質の融点を下回る温度においては主流の現象である、と一般的には考えられている。
【0005】
「Physics of powder metallurgy」(W.E.Kingston編、McGraw−Hill、1951年)におけるC.Herringによる記事「Surface tension as a motivation for sintering」に記載されているように、表面拡散は、一般に、次式により定義される化学ポテンシャルμ(毛管ポテンシャルとも呼ばれる)により制御される。
【数1】
式中、Gは系のギブスの自由エネルギーであり、Nは系における原子数であり、導関数は一定の温度Tおよび一定の応力σにおけるものである。電磁場および化学反応が生じない場合、ギブスのエネルギーは2項を含み、一方は表面エネルギーから、他方は体積弾性エネルギーから導かれる。
【数2】
式中、γは表面エネルギー密度(通常、単に「表面エネルギー」と呼ばれる)であり、ωは体積弾性エネルギー密度である。さらに、物質の歪みがわずかな場合には妥当なことだが、体積弾性エネルギーから導かれる項が無視できる場合は、Gは次式の表面項に減少する。
【数3】
【0006】
一般に、表面エネルギーは表面の向きにのみ依存する、すなわち、必ずしも等方性ではない、と考えられている。この場合、小さな摂動については、「Physics of powder metallurgy」(W.E.Kingston編、McGraw−Hill、1951年)において発表された「Surface tension as a motivation for sintering」を著したC.Herringおよび「Evolution morphologique par diffusion de surface et application a l’etude du demouillage de films minces solides」[Morphological evolution by surface diffusion and application to the study of dewetting in thin solid films]」(Joseph Fourier University、Grenobleにおいて2007年11月9日に提出された論文)を著したE Dornelを含む多くの著者が、ポテンシャルを次式で表現可能であることを示している。
μ=Ω*((κ+κ)*γ+κγ"+κγ")
式中、Ωは原子容であり、kおよびkは表面の2つの主曲率(物質に向けられている場合は正である)であり、γは表面エネルギーであり、γ"およびγ"は、それぞれ主曲率kおよびkに関連する2方向における表面の向きに対する表面エネルギーの2次導関数である(等方性表面の場合、γ"およびγ"はゼロである)。
【0007】
ポテンシャルに勾配がある場合、次式により与えられる物質フラックスJが生じる。
【数4】
式中、Dは表面拡散テンソル、nは単位面積当たりの表面原子数、kTは熱エネルギー、∇は表面勾配演算子である。等方拡散の場合は、そしてこの場合に限り、Dは単位行列(すべての対角項が等しい対角テンソル)に比例し、従ってスカラに例えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
主たる実用上の困難は、この拡散テンソルの測定である。「Theory of cavity thermal Grooving」(Journal of Applied Physics、28巻3号、1957年3月)においてW.W.Mullinsが記載したように表面発展方程式を導く計算を拡張することにより、この拡散テンソルよりもむしろ、(等方拡散および等方エネルギーの場合)次式により定義される量B(m/s)を決定することが有用であることが示されている。
【数5】
【0009】
この拡散係数をシミュレーションにより推定する原子論的シミュレーション法が存在する。しかし、これらの計算は、非常に面倒な(アブイニシオ法)ものであるか、または(各特定ケースについて「強い結合」モデルまたは少なくとも原子間ポテンシャルの妥当性が確認されていることを必要とするモンテカルロ法または分子動力学法については)検証が困難な仮定もしくはそれ自体非常に面倒な事前のアブイニシオ計算を要求する。
【0010】
さらに、この係数Bを実験的に測定する様々な方法が提案されている。それらの方法は、多くの場合、等方拡散の場合にのみ適用される。これらのうち「Flattening of a Nearly Plane Solid Surface due to Capillarity」(Journal of Applied Physics、30巻1号、77〜83ページ、1959年)においてW.W.Mullinsにより暗黙的に提案された1つの方法は、表面上に線または溝をエッチングし、次いで溝の横断面プロファイルの時間的発展を測定するというものである。この著者は、この発展を予測するための一連の式を提案している。この系を逆転することにより係数Bが得られる。
【0011】
代替の方法として、ウェルまたはトレンチなどの極めて単純な構造を物質にエッチングし、解析式または科学的ソフトウェア(例えば、「Evolution morphologique par diffusion de surface et application a l’etude du demouillage de films minces solides」[Morphological evolution by surface diffusion and application to the study of dewetting in thin solid films]」(Joseph Fourier University、Grenobleにおいて2007年11月9日に提出された論文)においてE.Dornelが記載したMoveFilm;E.Dornel他、「Surface diffusion dewetting of thin solid films:Numerical methods and application to Si/SiO」(Physical Review B、73、115427、2006年))により表面拡散の作用によるトポロジの発展をシミュレーションし、測定時間の間、拡散により(一般には真空または好適な雰囲気においてある温度でアニーリングすることにより)真の表面発展を経た真の表面を測定する、というものがある。
【0012】
測定およびシミュレーションされた表面トポロジの発展を比較することにより、表面エネルギーγが既知であれば、一般に、係数Bひいては拡散係数Dを推定することが可能である。
【0013】
これらの方法は、特別な、多くの場合は微細な構造の形成を要求するため、困難または費用がかかる可能性がある。従って、本当に必要なのは、特定の構造の形成を要求しない拡散係数または係数Bを実験的に特徴付ける単純な方法を有することである。
【0014】
加えて、上記の方法は、拡散係数もしくは表面エネルギーが異方性である場合は適用されないか、または上手く適用できない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この文脈において、本発明は、特定の構造の形成を要求せずに拡散テンソルの異方性または表面エネルギーの異方性または係数Bの異方性を決定する方法であって、適度な振幅の摂動の場合にこのような決定を可能にする方法を提供する。
【0016】
本発明は、直角な2方向に沿う2つの波長を有する空間的に定義された摂動であって、摂動の振幅/波長比により典型的に特徴付けられる適度な振幅の摂動の場合に、自然または人工的な粗さの時間的発展の測定、および2次元パワースペクトル密度の形式における結果の解析に基づき、前記比は典型的に0.3未満である。
【0017】
より具体的には、本発明の主題は、物質の表面の異方性表面の拡散テンソルまたは表面エネルギーの異方性を測定する方法であって、この表面は、直角な2方向に沿う2つの座標(x,y)に依存する関数z(x,y)により定義されるとともに、振幅(a)および波長(λ,λ)の適度な振幅の摂動の組の合計として扱われ、振幅/波長比(a/λ、a/λ)は約0.3未満であり、本方法は:
−表面トポロジを測定する第1の測定ステップであって、時間基準とされる瞬間t=0においてこの第1のトポロジの空間的フーリエ変換H(f,f,0)の決定を可能にし、fおよびfは空間周波数、すなわち波長λおよびλの逆数であるステップと、
−前記表面が表面拡散により発展するステップと、
−前記表面の発展後の表面トポロジを測定する第2の測定ステップであって、瞬間tにおけるこの第2のトポロジの空間的フーリエ変換H(f,f,t)の決定を可能にし、fおよびfは空間周波数、すなわち波長λおよびλの逆数であるステップと、
−拡散テンソルの成分もしくは表面エネルギーの2次導関数、または両者の組み合わせを決定するステップであって、量H(f,f,t)と量H(f,f,0).a(t)との間のずれの測定値の最小化を可能にするステップと
を含み、
関数H(f,f,t)は実験的測定値の組の空間的フーリエ変換であり、H(f,f,0).a(t)は、出願人が示した事実、すなわち次式
F(x,y,0)=acos[2πxf]cos[2πyf
に対応する初期摂動は、表面拡散により、次式
FM(x,y,t)=a(t)cos[2πxf]cos[2πyf
の形式に発展するという事実に基づく数学的モデルにより定義され、式中、
【数6】
αはfおよびfに依存し、fおよびfは座標xおよびyに関連する直角な方向における空間周波数であり、
【数7】
およびdは座標xおよびyに関連する直角な2方向における表面拡散テンソルの成分であり、γは表面エネルギーであり、γ"およびγ"は座標xおよびyに関連する直角な方向における表面の向きに対する表面エネルギーの2次導関数であることを特徴とする、方法である。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、係数αが次式を満たし、
【数8】
式中、bおよびcは定数である。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、本方法は、表面の発展を生じさせるアニーリングステップを含む。
【0020】
アニーリング温度は、実質的に結晶物質の融点を下回るのが有益である。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、ずれGの測定値が次式を満たし、
【数9】
式中、PSD(f,f,t)は時間tにおけるフーリエ変換、すなわちH(f,f,t)のノルムの平方に対応するパワースペクトル密度であり、PSD(f,f,0)はt=0におけるフーリエ変換、すなわちH(f,f,0)のノルムの平方に等しい時間tにおけるパワースペクトル密度である。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、ずれG’の測定値が次式を満たし、
【数10】
式中、
【数11】
は周波数fおよびfならびに時間tにおけるフーリエ変換のノルムであり、
【数12】
は周波数fおよびfならびに初期時間t=0におけるフーリエ変換のノルムである。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、トポロジ測定がAFM(原子間力顕微鏡法)タイプである。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、トポロジ測定が光学プロフィロメトリタイプである。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、トポロジ測定が共焦点法タイプである。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、トポロジ測定がトンネル顕微鏡法により行われる。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、本方法は、表面に粗さを設ける事前のステップをさらに含む。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、粗さが化学エッチングにより設けられる。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、粗さがプラズマエッチングにより設けられる。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、粗さが電界エッチングにより設けられる。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、粗さがインデンテーションまたはナノインデンテーションにより設けられる。一般に、この手法では、物質の表面をインデンテーションすることによりトポロジが局所的に変更される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
限定的でない例とともに与えられる後続の説明を読むことにより、本発明はより深く理解され、他の利点が明らかになろう。
【0033】
本発明は、小さなまたは適度な摂動の場合に、表面の発展が線形であるという事実に基づく。これは、初期の表面(時間t=0における)が次式により表現可能で、
【数13】
かつ、個々のf(x,y)の時間的発展がF(x,y,t)で表現可能であるならば、任意の時間tにおける表面は、次式により表現可能であることを意味する。
【数14】
【0034】
この特性により、表面を2次元フーリエ級数として展開することが可能になる。次いで、初期の式(t=0における)の表面の発展を計算すればよい。
F(x,y,0)=acos[2πxf]cos[2πyf] [式1.3]
式中、aは波長λおよびλに関連する摂動の初期の振幅であり、λはxに沿う波長およびλはyに沿う波長である。
【0035】
および/またはfにおける位相シフト(ここではxおよび/またはyに沿うシフトにより表す)を除き、フーリエ級数展開のすべての成分をこの形式で表現可能である。
【0036】
摂動が小さなものであると仮定することにより、a<<λおよびa<<λとなり、また、拡散テンソルの固有方向はxおよびy軸に平行であると考えられる。
【0037】
本発明の文脈においては、および「適度な」摂動と呼ぶものについては、以下の条件のもとで、下記の式が有効であると考えられる。
max(a/λ,a/λ)<0.3
【0038】
これらの条件下において、拡散テンソルの固有方向がxおよびy軸に平行であるならば、表面の時間的発展を次式のように表現可能であることを出願人は立証した。
F(x,y,t)=a〔t〕cos[2πxf]cos[2πyf] [式1.4]
【0039】
すなわち、小さな摂動の場合、次式が有効である。
【数15】
式中、
はx方向における拡散係数であり、
はy方向における拡散係数であり、
γは(x,y)平面に対して垂直な方向における平均表面エネルギーであり、
γx"およびγy"は、それぞれ、x座標およびy座標に関連する方向における表面の向きに対する表面エネルギーの2次導関数であり、
Cは表面の原子特性と温度とにのみ依存する次式の物理係数である。
【数16】
式中、前述のように、nは単位面積当たりの表面原子数、kTは熱エネルギー、Ωは原子容である。物質の結晶構造および表面の平均結晶方位が既知であれば、係数Cの推定値を得ることができる。
【0040】
従って、
【数17】
で表される量が、
【数18】
で表される摂動を減少させるための理論的特性時間τtheoryの逆関数であると考えられることが立証され、式中、
【数19】
である。
【0041】
摂動が小さなものであると仮定したことによる制約を除去するため、出願人は、E.Dornelによる記事「Evolution morphologique par diffusion de surface et application a l’etude du demouillage de films minces solides」[Morphological evolution by surface diffusion and application to the study of dewetting in thin solid films](Joseph Fourier University、Grenobleにおいて2007年11月9日に提出された論文)およびE.Dornelらによる記事「Surface diffusion dewetting of thin solid films:Numerical methods and application to Si/SiO」(Physical Review B、73、115427、2006年)(ただし、3次元表面発展を扱っている)に記載のものと同じ基盤から構築された科学的数値的シミュレーションソフトウェアを使用して、x軸に沿う波長λおよびy軸に沿う波長λで除した摂動の初期振幅aの比が0.3未満(a/λ<0.3かつa/λ<0.3)である限り、振幅の時間導関数をこの振幅a(t)、理論的特性時間τtheory、ならびに比a(t)/λおよびa(t)/λの関数として次式により表現可能であることを実証した。
【数20】
式中、係数αは、後述の[式1.11]によりλおよびλのみに依存する。
【0042】
上記の微分方程式を積分することにより、小さな摂動および適度な摂動の両方について有効な次式が得られる。
【数21】
式中、aはt=0°およびa=a(0)についての振幅a(t)の値である。a/λおよびa/λが1よりも小さければ、小さな摂動についての式が得られることが明らかであろう。
【0043】
係数αは、λおよびλにのみ依存する、すなわち同等のことではあるが、f=1/λおよびf=1/λに依存する。出願人は、1/30<λ/λ<30ならびにa/λおよびa/λの値が0.0005と0.30との間になるようなλおよびλの値について数多くの計算を行い、この係数が、非常に近似した状態で次式を満たすことを見出した。
【数22】
式中、lnはネイピアの対数を表し、係数cおよびbは下記の表中の値に近い数値を有する。
【0044】
【表1】
【0045】
本提案による発明は、この結果を使用して、以下のことを行う。
−表面エネルギーγならびにxおよびyに対するその2次導関数γ"およびγ"(表面エネルギーが等方性であるならば、γのみ)が既知であれば、(xおよびy座標に関連する方向における表面の向きに対する)拡散テンソルの2つの成分dおよびdを推定する。
−または、拡散テンソルの2つの成分dおよびd(表面拡散が等方性であるとならば、スカラ拡散係数Dのみ)が既知であれば、合計γ+γ"およびγ+γ"(異方性表面エネルギー)を推定する。
−または、次の3つの量、すなわちd(γ+γ")、d(γ+γ")、d(γ+γ")+d(γ+γ")を、それら3つの組み合わせに関わらず同時に推定する。
【0046】
従って、本発明によれば、
−第1のステップにおいて、粗面(振幅/波長比が約0.3未満の粗さを有する面)の時間t=0における初期トポロジを測定し、測定された領域を正確に特定しておく。いくつかのプロフィロメトリ手法が存在し、当業者に知られている。面積および粗さが小さい場合に最も簡便な手法は、原子間力顕微鏡法(AFM)またはその数多くの変種の1つである。また、トンネル顕微鏡法または光学プロフィロメトリまたは共焦点顕微鏡法を使用することも可能である。一般に、当業者に既知の手法により生の測定値に修正を施す必要がある。
−第2のステップにおいて、表面拡散により表面を発展させる。このステップは、典型的には、極めて高温だが実質的に融点を下回る温度Tにおいて時間tの間アニーリング作業を行うことにより実行される。
−第3のステップにおいて、先に測定した領域と同じ領域の(従って、摂動中の)表面トポロジをさらに測定する。
【0047】
これにより、アニーリング前後の同じ表面の2つのトポロジが与えられる。
【0048】
これらの2つのトポロジの2次元フーリエ変換を計算する。この計算は、W.H.Pressらによる著書「Numerical recipes,the Art of Scientific Computing」(第3版、Cambridge University Press、2007)に記載の手法を使用して実行するのが典型的である。
【0049】
このフーリエ変換は、測定対象が点(x,y)の平方配列であり、各方向における測定値数が2の累乗である場合、大幅に容易なものとなる。その場合、標準的な高速フーリエ変換法を使用することができる。これは、AFM測定または他のプロフィロメトリ法を使用する場合によくあることである。
【0050】
これらのフーリエ変換、特にアニーリング前のものは、とりわけ、周波数fおよびfまたは波長λおよびλに関する各成分の、対象となる摂動の初期振幅aを定量化するために使用され、従ってa/λ<0.3およびa/λ<0.3の各条件が実際に満たされているかを確認するために使用される。
【0051】
本発明の第1の実施形態によれば、一般にパワースペクトル密度(PSD)と言われる2次元フーリエ変換のノルムの平方を対象としている。
【0052】
従って、次式の量Gが考慮される。
【数23】
【0053】
Gを定義している二重和を、2次元フーリエ変換における周波数f=1/λおよびf=1/λのセットについて計算する。PSD(f,f,t)は時間tにおけるPSDの値であり、PSD(f,f,0)は(基準時間t=0における)PSDの初期値であり、a(t)は[式1.10]を満たす。
【0054】
この実装モードのオプションには、RMSの粗さの定義にPSDを用いているかもしれないプロフィルメータのユーザが慣れているものに多少近くなるという利点がある。
【0055】
拡散テンソルの2つの成分を求める場合、表面エネルギーならびにxおよびyに対するそれらの2次導関数が既知(すなわち、量γ+γ"およびγ+γ"が既知)であれば、実装モードは、量Gを最小化するdおよびdの値を見出すことになる。
【0056】
2つの量γ+γ"およびγ+γ"を求める場合、拡散テンソルの2つの成分dおよびdが既知であれば、実装法は、量Gを最小化する2つの量γ+γ"およびγ+γ"の値を見出すことになる。
【0057】
3つの量d(γ+γ")、d(γ+γ")、d(γ+γ")+d(γ+γ")を求める場合、実装モードは、次式の量Gを最小化するこれらの3つの量の値を見出すことになる。
【数24】
【0058】
上記の3つの場合において、量Gを最小化する所望の量を決定するために実装される数値法が当業者に知られており、とりわけ、W.H.Pressらによる著書「Numerical Recipes,the Art of Scientific Computing」(第3版、Cambridge University Press、2007年)に記載されている。なかんずく、レーベンバーグ・マルカート(Levenberg−Marquardt)法(801ページ、セクション15.5.2)、勾配およびヘッセ行列を用いる方法(800ページ、セクション15.5.1)、シンプレックス法(502ページ、セクション10.5)、およびパウエル法(509ページ、セクション10.7)に言及しておく。
【0059】
本発明の第2の実施形態によれば、本方法は、2次元フーリエ変換のノルムの平方ではなく、このノルムそのものを直接使用する。従って、量G’は次式により定義される。
【数25】
【0060】
同様に、G’を定義している二重和を、2次元フーリエ変換におけるすべての周波数f=1/λおよびf=1/λについて計算する。
式中、
【数26】
は周波数fおよびfならびに時間tにおけるフーリエ変換のノルムであり、
【数27】
は周波数fおよびfならびに初期時間t=0におけるフーリエ変換のノルムである。
【0061】
拡散テンソルの2つの成分を求める場合、表面エネルギーならびにxおよびyに対するそれらの2次導関数が既知(すなわち、量γ+γ"およびγ+γ"が既知)であれば、実装モードは、量G’を最小化するdおよびdの値を見出すことになる。
【0062】
2つの量γ+γ"およびγ+γ"を求める場合、拡散テンソルの2つの成分dおよびdが既知であれば、実装法は、量G’を最小化する2つの量γ+γ"およびγ+γ"の値を見出すことになる。
【0063】
3つの量d(γ+γ")、d(γ+γ")、d(γ+γ")+d(γ+γ")を求める場合、実装モードは、次式の量G’を最小化するこれらの3つの量の値を見出すことになる。
【0064】
上記の場合、G’を最小化する所望の量を決定するために実装される数値法が当業者に知られており、それらは量Gに関して上記の実施形態において言及したものと同様のものでもよい。
【0065】
表面のトポロジ発展を予測する多くのアプリケーションにおいて、表面エネルギーまたは拡散テンソルの成分を直接知る必要はなく、量だけが分かればよい。
Cd(γ+γ");Cd(γ+γ");C(d(γ+γ")+d(γ+γ"))
【0066】
従って、本発明のこれらのアプリケーションにおいては、係数Cの数値を求める必要はない。(上記の2つのオプションの一方または他方を使用して)量GまたはG’を最小化し、係数Cを既に含む上記の3つの有用な量を推定することが可能である。
【0067】
これにより、単位面積当たりの表面原子数nおよび原子容Ωの各パラメータを求める必要がなくなる。
【0068】
本発明の方法は、また、拡散テンソルまたは表面エネルギーの非常に局所的な測定を可能にする。このためには、インデンテーションまたはナノインデンテーション法を使用して1つ以上の局所的なインデンテーションまたはナノインデンテーションを形成してもよい。
【0069】
このインデンテーションまたはナノインデンテーション後、本発明の方法により第1のトポロジ測定を行い、次いで、例えばアニーリング作業により表面拡散を生じさせることにより表面仕上げを行って発展させる。次いで、第2のトポロジ測定を行い、上記の方法を使用して拡散テンソルまたは表面エネルギーを決定する。
【0070】
本発明には、表面拡散テンソルの異方性または表面エネルギーの異方性を測定するための特別な装置を製造する必要がないという利点がある。自然な粗さの表面、例えば破断後の表面などを使用することができる。
【0071】
さらに、人工的に粗化された表面を使用することも可能である。これは、当初滑らかな表面を、制御された方法で意図的に粗化することが極めて容易なためである。この粗化は、化学エッチング、プラズマエッチング、または電界エッチングにより行うことができる。これらの方法は、当業者に既知であり、極めて容易に実装できる。
【0072】
本発明の測定方法の実装には、前記測定方法を実行するためのソフトウェアを組み込んだAFMタイプの器具を使用する、従来の表面トポロジ測定ツールおよび従来の数値法が要求される。
【0073】
この種の器具では、表面の局所的な拡散異方性またはエネルギー異方性が測定されるのが典型的である。測定エリアのサイズは、この異方性が既知であるスケールのサイズそのものである。例えばAFMの場合、このサイズは、各辺が1〜10μmの正方形であるのが典型的である