(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本件発明の実施の形態について説明する。各実施形態と請求項の関係は以下の通りである。実施形態1にて、主に請求項
1、2、4について説明する。実施形態2にて、主に請求項
3、4について説明する。実施形態3にて、主に請求項
1、4について説明する。
【0012】
<概要>
本実施形態の揮発性化合物抽出装置は、揮発性化合物と溶け合わない蒸気を試料に対して通気することによって試料から揮発性化合物を気化させ、揮発性化合物と溶け合う溶媒に導入する構成を有する。当該構成とすることにより、試料中に含まれる揮発性化合物の成分構造を維持しながら高効率で抽出することが可能になる。また、構成がシンプルであるため、簡易に実施することが可能になる。
【0013】
<構成>
図1は、本実施形態の揮発性化合物抽出装置の構成を示す図である。この図に示すように、本実施形態の「揮発性化合物抽出装置」は、「蒸気発生部」0101と、「試料格納部」0102と、「揮発性化合物抽出部」0103と、から構成される。以下、各構成について説明する。
【0014】
「揮発性化合物抽出装置」は、揮発性化合物を含有する試料から揮発性化合物を抽出するための装置である。揮発性化合物を含有する試料としては、例えば揮発性有機化合物を含有する植物試料などが考えられる。より具体的には、3-メチル-5-(2-メチルプロピル)-2-フランカルバルデヒド(MMF) を含有する Tagetes glandlifera schank (T. G. S) や、β-オシメン、リモネン、タゲトン、カンフルなどを含有する Calendura Officinalis (マリーゴールド)などの植物が挙げられる。
【0015】
「蒸気発生部」は、前記試料に含まれる揮発性化合物と溶け合わない蒸気を発生するための機能を有する。蒸気発生部は、
図1に示すように、液体を格納するための「フラスコ」0111と、当該フラスコを加熱するための「マントルヒーター」0112とからなる構成が考えられる。当該構成において、フラスコ内に揮発性化合物と溶け合わない液体を入れておき、液体の沸点以上にマントルヒーターで加熱することで蒸気にする。なお、フラスコの代わりにビーカーを用いたり、マントルヒーターの代わりにアルコールランプやガスバーナーを用いたりすることも可能である。
【0016】
蒸気発生部にて発生させる蒸気としては種々のものが考えられ、試料に含まれる揮発性化合物及びその回収溶媒と溶け合わないものであれば足りる。例えば、揮発性化合物が有機性である場合、蒸気として水蒸気を発生させることが考えられる。
【0017】
なお、比較的高沸点の液体を用いることによって高温の蒸気を発生させ、比較的低沸点の液体を用いることによって低温の蒸気を発生させることが可能になる。例えば、試料中に含まれる揮発性化合物のうち気化する温度が低い成分のみを抽出したい場合は低温の蒸気を発生させ、気化する温度が高い成分も抽出したい場合は高温の蒸気を発生させる、といった態様が考えられる。
【0018】
また、蒸気発生部の蒸気排出口の面積を調整可能な排出口面積調整手段を設け、排出したい蒸気の温度に応じて蒸気排出口の面積を大きくしたり、小さくしたりする構成も可能である。例えば、蒸気の温度を高くしたい場合は蒸気排出口の面積を小さくすることが考えられる。また、蒸気発生部の加熱度を調整可能な加熱度調整手段を設け、排出したい蒸気の温度に応じて加熱手段の加熱度を高くしたり、低くしたりする構成も可能である。
【0019】
「試料格納部」は、前記試料を格納可能であるとともに、蒸気発生部にて発生した蒸気を前記試料に対して通気する。試料格納部としては、
図1に示すように、「フラスコ」0112と連結した「試料室」0113と、試料室内にて試料を配置するための「金網」0114と、からなる構成が考えられる。なお、試料を配置するための部材として、金網の代わりに、その他の反応性の低い通気性部材を用いることも可能である。例えば、穴が開けられたガラス板を用いることも考えられる。
【0020】
なお、試料格納部に格納する試料は、蒸気との接触面積を大きくするために粉砕しておくことが好ましい。また、試料配置部材は一段である必要は必ずしもなく、
図2に示すように、「試料格納部」0200が通気性の「試料配置部材」を複数段(0201〜0203)備える構成も可能である。当該構成とすることにより、多くの試料に対して効率的に蒸気を通気することが可能になる。なお、試料室自体のサイズを変更することで、多量の試料を格納可能にすることも考えられる。
【0021】
「揮発性化合物抽出部」は、前記試料格納部にて通気により気化した揮発性化合物と蒸気とからなる混合気体を導入可能であるとともに、前記導入された揮発性化合物と溶け合う溶媒を蓄える。揮発性化合物抽出部としては、
図1に示すように、「蒸気バイパス」0115と「分岐コック」0116を備えた「分離管」0117、からなる構成が考えられる。当該構成とすることにより、蒸気バイパスを介して混合気体を分離管の回収溶媒に導入し、揮発性化合物が溶媒に溶けた段階で分岐コックを開いて他の液体と分離することが可能である。なお、分岐コックに代えて溶媒を汲み上げることが可能なポンプなどを設けることも可能である。
【0022】
揮発性化合物抽出部に予め蓄えておく揮発性化合物の溶媒(回収溶媒)は、蒸気発生部にて発生する蒸気(移動媒体)と溶け合わないものであれば特に限定されるものではない。例えば、回収溶媒としてベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、 n- ヘキサンなどの有機溶媒を用いることが考えられる。なお、回収溶媒は移動媒体より沸点が低い方が好ましい。回収溶媒の沸点が移動媒体の沸点より低い場合、混合気体が揮発性化合物抽出部に導入された際に回収溶媒も気化する。これにより、揮発性化合物と回収溶媒の双方が気相の状態で接触するため、さらに高い接触効率が得られ、従来法では揮散損失してしまうような低沸点化合物についてもさらに効率的に回収することが可能になる。
【0023】
また、回収溶媒の量や処理時間を調整することによって、揮発性化合物溶液の濃縮率を調整することも可能である。例えば、高濃縮率の揮発性化合物溶液を生成したい場合は、回収溶媒の量を少なくしたり、処理時間を長くしたりすることが考えられる。
【0024】
また、分岐コックを用いて回収溶媒を排出する場合は、移動媒体よりも回収溶媒の比重が軽い方が好ましい。回収溶媒の比重を移動媒体の比重よりも軽くすることにより、分岐コックを開いた段階で移動媒体のみを排出することが可能になる。また、GC/MS(ガス・クロマトグラフを直結した質量分析計)により分析する場合は、分析使用できる程度の沸点(150℃未満)、及び粘性とすることが好ましい。
【0025】
<方法>
図3は、揮発性化合物抽出方法の一例を示すフローチャート図である。この図に示すように、揮発性化合物の抽出方法は、以下の工程からなる。まずステップS0301において、試料に含まれる揮発性化合物と溶け合わない蒸気を発生させる(蒸気発生工程)。次にステップS0302において、蒸気発生ステップにて発生した蒸気を試料に対して通気する(通気工程)。次にステップS0303において、通気ステップにおける通気により気化した揮発性化合物と蒸気とからなる混合気体を揮発性化合物と溶け合う溶媒に導入する(揮発性化合物抽出工程)。なお、上記の工程は、本実施形態で説明した揮発性化合物抽出装置を使う必要は必ずしもなく、その他の装置や器具を用いて行うことも可能である(以下の実施形態でも同様である)。
【0026】
<効果>
本実施形態の揮発性化合物抽出装置と揮発性化合物抽出方法により、試料中の揮発性化合物を気相の状態で効率的に回収するため、回収溶媒を最小限に抑えることが可能である。また、液中では試料を加熱しないため、副反応を最小限に抑えることが可能である。また、構成がシンプルであるため、簡易に実施することが可能である。
【0028】
<概要>
本実施形態の揮発性化合物抽出装置は、基本的に実施形態1の揮発性化合物抽出装置と同様であるが、試料格納部を加熱可能な加熱部をさらに有する。当該構成とすることにより、移動媒体の温度よりも沸点が高い揮発性化合物も抽出することが可能になる。
【0029】
<構成>
図4は、本実施形態の揮発性化合物抽出装置の構成を示す図である。この図に示すように、本実施形態の「揮発性化合物抽出装置」は、「蒸気発生部」0401と、「試料格納部」0402と、「揮発性化合物抽出部」0403と、「加熱部」0404と、から構成される。以下、実施形態1との相違点である「加熱部」について説明する。
【0030】
「加熱部」は、前記試料格納部を加熱可能である。加熱部としては、
図4に示すように、「試料室」0411を外部から加熱する「ヒーター」0412からなる構成が考えられる。なお、ヒーターに代えて、アルコールランプやガスバーナーを用いることも可能である。当該加熱部によって、蒸気の温度よりも高い沸点を有する揮発性化合物を沸点以上に加熱して、気化させることが可能になる。
【0031】
なお、試料格納部の温度を制御する温度制御部をさらに設ける構成も可能である。当該構成とすることにより、所定温度以下で気化する成分のみを選択的に抽出することが可能になる。
【0032】
<方法>
図5は、揮発性化合物抽出方法の一例を示すフローチャート図である。この図に示すように、揮発性化合物の抽出方法は、以下の工程からなる。まずステップS0501において、試料を所定温度まで加熱する(試料加熱工程)。次にステップS0502において、試料に含まれる揮発性化合物と溶け合わない蒸気を発生させる(蒸気発生工程)。次にステップS0503において、蒸気発生ステップにて発生した蒸気を試料に対して通気する(通気工程)。次にステップS0504において、通気ステップにおける通気により気化した揮発性化合物と蒸気とからなる混合気体を揮発性化合物と溶け合う溶媒に導入する(揮発性化合物抽出工程)。
【0033】
<効果>
本実施形態の揮発性化合物抽出装置などにより、実施形態1の効果に加えて、移動媒体の温度よりも沸点が高い揮発性化合物も抽出することが可能になる。
【0035】
<概要>
本実施形態の揮発性化合物抽出装置は、基本的に実施形態1の揮発性化合物抽出装置と同様であるが、揮発性化合物抽出部は、気化した混合気体を冷却するための冷却手段をさらに有する。当該構成とすることにより、比較的短時間で揮発性化合物の抽出を行うことが可能になる。
【0036】
<構成>
図6は、本実施形態の揮発性化合物抽出装置の構成を示す図である。この図に示すように、本実施形態の「揮発性化合物抽出装置」は、「蒸気発生部」0601と、「試料格納部」0602と、「揮発性化合物抽出部」0603と、から構成され、「揮発性化合物抽出部」は「冷却手段」0604を有する。以下、実施形態1、2との相違点である「冷却手段」について説明する。
【0037】
「冷却手段」は、気化した前記混合気体を冷却する機能を有する。冷却手段としては、
図6に示すように、蒸気と揮発性化合物を捕集した回収溶媒を冷却還流させるための「冷却器」0611からなる構成が考えられる。なお、冷却器に代えて、外部から冷却する冷却部材(水やドライアイスによる水冷手段など)を用いることも可能である。
【0038】
冷却手段により冷却された混合気体のうち、揮発性化合物は回収溶媒に溶け込み、移動媒体は回収溶媒と液相状態で分離することになる。液相状態で分離した移動媒体と回収溶媒は分離コックなどにより容易に分離することが可能になるため、比較的短時間で揮発性化合物の抽出を行うことが可能になる。
【0039】
<方法>
図7は、揮発性化合物抽出方法の一例を示すフローチャート図である。この図に示すように、揮発性化合物の抽出方法は、以下の工程からなる。まずステップS0701において、試料に含まれる揮発性化合物と溶け合わない蒸気を発生させる(蒸気発生工程)。次にステップS0702において、蒸気発生ステップにて発生した蒸気を試料に対して通気する(通気工程)。次にステップS0703において、通気ステップにおける通気により気化した揮発性化合物と蒸気とからなる混合気体を冷却しながら揮発性化合物と溶け合う溶媒に導入する(揮発性化合物抽出工程)。
【0040】
<効果>
本実施形態の揮発性化合物抽出装置などにより、実施形態1の効果に加えて、比較的短時間で揮発性化合物の抽出を行うことが可能になる。
【実施例】
【0041】
以下の実験においては、対象試料としてCalendula Officinalis (マリーゴールド)の粉砕した乾燥花部を用いている。また、各実験において抽出された成分をGC−MS(ガス・クロマトグラフを直結した質量分析計)で分析した。
【0042】
<実験1:従来技術である溶媒抽出法による抽出実験>
試料10gを直接的に100mlのn−ヘキサンで5回抽出し、エバポレーターで濃縮したものについてGC−MSで分析した(分析結果1)。当該実験は、従来技術である溶媒抽出法によって抽出される成分を検証するためのものである。
【0043】
<実験2:本発明に係る装置による抽出実験>
図8で示す揮発性化合物抽出装置を用いて抽出実験を行った。
図8の揮発性化合物抽出装置は、「フラスコ」0811と、「マントルヒーター」0812と、「試料室」0813と、「金網」0814と、「蒸気バイパス」0815及び「分岐コック」0816を備えた「分離管」0817と、「ヒーター」0818と、「冷却器」0819と、から構成される。当該装置において、試料室の金網に試料10gを配置し、分離管に20mlのn−ヘキサンを入れて、1000mlの水をフラスコにて蒸発させた。揮発性化合物抽出装置を冷却後、分離管内のn−ヘキサンの成分をGC−MSで分析した(分析結果2)。当該実験は、本発明に係る装置によって抽出される成分を検証するためのものである。
【0044】
<実験3:実験2の残存成分を抽出する実験>
また、実験2の抽出処理後の試料を乾燥させて、100mlのn−ヘキサンで5回抽出し、エバポレーターで濃縮したものについてGC−MSで分析した(分析結果3)。当該実験は、実験2の抽出処理後の試料の残存成分を検証するためのものである。
【0045】
<実験4:従来技術である水蒸気蒸留法による抽出実験>
図8で示す揮発性化合物中抽出装置において、金網に試料を配置する代わりにフラスコ内に試料10gを入れ、分離管に20mlのn−ヘキサンを入れ、試料を浸けた状態で1000mlの水をフラスコにて蒸発させた。揮発性化合物抽出装置を冷却後、分離管内のn−ヘキサンの成分をGC−MSで分析した(分析結果4)。当該実験は、従来技術である水蒸気蒸留法によって抽出される成分を検証するためのものである。
【0046】
<実験5:実験4の残存成分を抽出する実験>
また、実験4の抽出処理後の試料を乾燥させて、100mlのn−ヘキサンで5回抽出し、エバポレーターで濃縮したものについてGC−MSで分析した(分析結果5)。当該実験は、実験4の抽出処理後の試料の残存成分を検証するためのものである。
【0047】
<分析結果1>
図9は、実験1の分析結果を示すクロマトグラフである。実験1においては、試料に対して直接有機溶媒を加えて溶媒抽出しているので、元々試料中に含まれる成分は変化していないといえる。よって、実験1のクロマトグラフは元々試料中に含まれる成分のデータであると考えられる。また、直接的に溶媒抽出しているので、沸点の低い成分も検出されている。
【0048】
<分析結果2>
図10は、実験2の分析結果を示すクロマトグラフである。保持時間25分未満の低沸点化合物については、沸点が比較的高い水を移動媒体にしているので捕集しきれていない(注:移動媒体をより沸点が低い液体(CS
2など)にすれば捕集回収することは可能である)。保持時間40分以降の成分についてはピークの高さこそ違いがあるが、実験1の結果のクロマトグラムと保持時間の一致するピークが多く、もとの試料中の成分がその構造を維持した状態で分離・回収されていることが分かる。保持時間60分以降の高沸点成分については、実験1のクロマトグラムよりもピークの数が多く、ピークの高さも高いので、実験1よりもさらに効率よく抽出されていることがわかる。
【0049】
<分析結果3>
図11は、実験3の分析結果を示すクロマトグラフである。この図からわかるように、実験2における抽出処理により保持時間60分以下の大部分の成分が試料からほぼ完全に分離回収され、残存した試料中には残っていないことがわかる。
【0050】
<分析結果4>
図12は、実験4の分析結果を示すクロマトグラフである。当該クロマトグラムはピークの本数が少なく、実験1のクロマトグラムと一致するものも少なかった。これはフラスコの液中で試料が加熱されることによって化学反応が起こり、試料に含まれている成分が変化してしまっていることを示している。
【0051】
<分析結果5>
図13は、実験5の分析結果を示すクロマトグラフである。当該クロマトグラフも実験1のクロマトグラムと明らかに異なるピーク形状を示しており、試料中に残留する成分が元の試料と異なる組成に変化してしまっていることがわかる。
【0052】
<まとめ>
以上の結果から、従来技術の溶媒抽出法と比較して、本発明の揮発性化合物抽出装置では高沸点の揮発性化合物も効率的に抽出可能であることがわかる。また、従来技術の水蒸気蒸留法では抽出過程において成分が変化してしまうが、本発明の揮発性化合物抽出装置では試料中に含まれる揮発性化合物の成分を維持しながら高効率で抽出することが可能であることがわかる。