特許第5724153号(P5724153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5724153
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】アウターチューブ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 1/26 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   F16C1/26 C
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-552432(P2014-552432)
(86)(22)【出願日】2014年5月6日
(86)【国際出願番号】JP2014062206
【審査請求日】2014年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-118772(P2013-118772)
(32)【優先日】2013年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】川原 真
(72)【発明者】
【氏名】鞍岡 隆志
(72)【発明者】
【氏名】永井 義之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】三井 智史
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−165113(JP,U)
【文献】 実開平3−84410(JP,U)
【文献】 特開2002−13517(JP,A)
【文献】 特公昭43−1921(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーワイヤーを摺動自在に案内するアウターチューブであって、
前記インナーワイヤーが挿入される筒状のチューブ本体を備えており、
前記チューブ本体は、長尺状の芯材の外表面を易滑性高分子繊維を含む線材により螺旋状に巻回して構成されるチューブ形成部材により筒状に形成されているアウターチューブ。
【請求項2】
前記チューブ本体は、前記チューブ形成部材を螺旋状に巻回して形成されるコイルチューブである請求項1に記載のアウターチューブ。
【請求項3】
前記チューブ本体は、前記チューブ形成部材を、その長手方向が略平行となるように複数並べて筒状に形成される請求項1に記載のアウターチューブ。
【請求項4】
前記線材は、疎水性の第1の線材と、親水性の第2の線材とを撚糸して形成されている請求項1から3のいずれかに記載のアウターチューブ。
【請求項5】
インナーワイヤーを摺動自在に案内するアウターチューブの製造方法であって、
易滑性高分子繊維を含む線材を長尺状の芯材の外表面に螺旋状に巻回してチューブ形成部材を作製するチューブ形成部材作製ステップと、
前記チューブ形成部材により前記インナーワイヤーが挿入される筒状のチューブ本体を形成するチューブ本体形成ステップと、を備えるアウターチューブの製造方法。
【請求項6】
前記チューブ本体形成ステップは、前記チューブ形成部材を螺旋状に巻回してコイルチューブを形成する請求項5に記載のアウターチューブの製造方法。
【請求項7】
前記チューブ本体形成ステップは、
前記チューブ形成部材を、剛性のある耐熱性棒状体の長手方向に沿って、その外表面に螺旋状に巻回する巻回ステップと、
前記耐熱性棒状体の外表面に螺旋状に巻回された前記チューブ形成部材を加熱して前記易滑性高分子繊維を溶融することにより、前記耐熱性棒状体の長手方向に沿って隣接配置される前記チューブ形成部材からなる環状部同士を融着する加熱ステップと、を備える請求項6に記載のアウターチューブの製造方法。
【請求項8】
前記加熱ステップは、電磁誘導により前記チューブ形成部材を加熱する請求項7に記載のアウターチューブの製造方法。
【請求項9】
前記チューブ本体形成ステップは、前記チューブ形成部材を、その長手方向が略平行となるように複数並べて筒状に形成する請求項5に記載のアウターチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターチューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手元の操作による運動(力や動作)を、そのまま確実に遠方の離れた場所へ伝達させるために、コントロールケーブルが用いられている。例えば、自動車産業においては、自動車用ステアリングやパワーウィンドウ、座席の駆動等に用いられており、バイクや自転車の分野においては、変速機等に用いられている。また、洗面台や浴槽の排水栓の遠隔操作用ケーブルや、カメラシャッター用のレリーズケーブル、内視鏡の操作ケーブルとしてもコントロールケーブルが用いられている。
【0003】
このようなコントロールケーブルの一例として、手元の操作による運動(力や動作)を伝達するインナーワイヤー、及び、当該インナーワイヤーが挿入されるアウターチューブから構成されるものが知られている(例えば、特許文献1等)。アウターチューブには、インナーワイヤーを保護するための強度や、インナーワイヤーの牽引動作や回転動作等を阻害しないようにその内面に優れた摺動性が要求される。かかる要望を満たすため、例えば、図10に示すように、摺動性の高い樹脂製内層管100の周りに金属ワイヤーや金属圧延線を巻きつけることにより形成した巻線101、更に、その外側に樹脂製のカバー体102を被覆したような構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−013937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のアウターチューブは、樹脂製内層管を作製し、この樹脂製内層管の周りに金属ワイヤー等を巻きつけ、更に、その外側にカバー体を被覆するという工程を経て製造されるものであり、製造工程が煩雑、製造コストが高いという問題があった。
【0006】
また、アウターチューブ内面における、より一層の摺動性向上を図るためには、例えば、フッ素コーティングを樹脂製内層管の内側(樹脂製内層管を設けない場合には、金属ワイヤー等を巻きつけて形成した巻線の内側)に施すことが好ましいが、樹脂製内層管の内側等にコーティング用のフッ素樹脂を塗布することは容易ではなく、また、高温焼成を施す必要があることから、樹脂製内層管の内側等にフッ素コーティングを施すことが困難であるという問題もあった。
【0007】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、簡便に製造することができ、かつ、高い摺動性を有するアウターチューブ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、インナーワイヤーを摺動自在に案内するアウターチューブであって、前記インナーワイヤーが挿入される筒状のチューブ本体を備えており、前記チューブ本体は、長尺状の芯材の外表面を易滑性高分子繊維を含む線材により螺旋状に巻回して構成されるチューブ形成部材により筒状に形成されているアウターチューブより達成される。
【0009】
このアウターチューブにおいて、前記チューブ本体は、前記チューブ形成部材を螺旋状に巻回して形成されるコイルチューブであることが好ましい。
【0010】
また、前記チューブ本体は、前記チューブ形成部材を、その長手方向が略平行となるように複数並べて筒状に形成されてもよい。
【0011】
また、前記線材は、疎水性の第1の線材と、親水性の第2の線材とを撚糸して形成されてもよい。
【0012】
また、本発明の上記目的は、インナーワイヤーを摺動自在に案内するアウターチューブの製造方法であって、易滑性高分子繊維を含む線材を長尺状の芯材の外表面に螺旋状に巻回してチューブ形成部材を作製するチューブ形成部材作製ステップと、前記チューブ形成部材により前記インナーワイヤーが挿入される筒状のチューブ本体を形成するチューブ本体形成ステップと、を備えるアウターチューブの製造方法により達成される。
【0013】
また、このアウターチューブの製造方法においては、前記チューブ本体形成ステップは、前記チューブ形成部材を螺旋状に巻回してコイルチューブを形成することが好ましい。
【0014】
また、前記チューブ本体形成ステップは、前記チューブ形成部材を、剛性のある耐熱性棒状体の長手方向に沿って、その外表面に螺旋状に巻回する巻回ステップと、前記耐熱性棒状体の外表面に螺旋状に巻回された前記チューブ形成部材を加熱して前記易滑性高分子繊維を溶融することにより、前記耐熱性棒状体の長手方向に沿って隣接配置される前記チューブ形成部材からなる環状部同士を融着する加熱ステップとを備えることが好ましい。また、前記加熱ステップは、電磁誘導により前記チューブ形成部材を加熱することが好ましい。
【0015】
また、前記チューブ本体形成ステップは、前記チューブ形成部材を、その長手方向が略平行となるように複数並べて筒状に形成してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便に製造することができ、かつ、高い摺動性を有するアウターチューブ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るアウターチューブにおける軸線方向に沿った概略構成断面図である。
図2図1に示すアウターチューブにおけるチューブ本体を形成する際に用いられるチューブ形成部材の要部拡大側面図である。
図3図1に示すアウターチューブの製造方法を説明するためのブロック図である。
図4図1に示すアウターチューブの製造過程を説明するための説明図である。
図5図1の矢視A方向から見た概略構成正面図である。
図6】アウターチューブの製造方法の変形例を説明するためのブロック図である。
図7】本発明に係るアウターチューブの変形例を示す概略構成断面図である。
図8】アウターチューブの製造方法の他の変形例を説明するためのブロック図である。
図9図8に示すアウターチューブの製造方法におけるチューブ形成部材配置ステップの工程を説明するための説明図である。
図10】従来のアウターチューブの構造を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態にかかるアウターチューブについて添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。図1は、本発明の一実施形態に係るアウターチューブ1における軸線方向に沿った概略構成断面図である。このアウターチューブ1は、長尺状でかつ可撓性を有するチューブであり、種々の装置や機器の操作系や動力伝達系に用いられるコントロールケーブルのアウターチューブとして用いられるものである。より具体的には、手元の操作による運動(力や動作)を伝達するインナーワイヤーが挿入され、当該インナーワイヤーを摺動自在に案内するチューブである。このアウターチューブ1は、図1に示すように、チューブ本体2と、当該チューブ本体2の外表面を被覆するカバー体3とを備えている。
【0019】
チューブ本体2は、インナーワイヤーが挿入される筒状の部材であり、チューブ形成部材21により形成されている。このチューブ形成部材21は、その要部拡大側面図を表す図2に示すように、長尺状の芯材25の外表面を易滑性高分子繊維を含む線材26により螺旋状に巻回して構成される長尺状部材である。本実施形態においては、このチューブ形成部材21を螺旋状に巻回して形成されるコイルチューブとしてチューブ本体2を構成している。
【0020】
長尺状の芯材25は、可撓性を有する部材であり、この芯材25としては、従来からアウターチューブを構成する巻線(図10において符号101で示される部材)として使用される種々の材料を用いて形成することができる。芯材25としては、例えば、ステンレス線、ニッケル線、ピアノ線等の鋼線、コバルト系合金線材、擬弾性を示す合金線材(超弾性合金を含む)などの各種金属線材や、ステンレスやニッケル等の金属材料から形成される金属薄板を使用することができる。
【0021】
また、芯材25の形態としては種々の形態を採用することができる。例えば、金属線材により芯材25を構成する場合、一本の金属線によって芯材25を形成してもよく、或いは、一本の金属線を折り合わせた後撚り合わせて芯材25を形成してもよい。また、複数の金属線を撚り合わせて芯材25を形成してもよく、金属線及び高分子製線状部材を撚り合わせて形成してもよい。更には、中心部分と表面部分とが異なる材料から形成されているもの等、種々の構成を採用することができる。
【0022】
また、金属線材により芯材25を構成する場合、この金属線材の外径がほぼ一定となるように構成してもよく、或いは、部分的に拡径或いは縮径するように構成してもよい。なお、金属線材の最大径が、例えば、0.01mm〜2mmの範囲のものを芯材25として好ましく使用することができる。
【0023】
また、金属薄板により芯材25を構成する場合、金属薄板の厚みや幅がそれぞれほぼ一定となるように構成してもよく、或いは、部分的に厚みや幅の寸法を変化させるように構成してもよい。なお、金属薄板としては、その厚みが、例えば、0.005mm〜0.5mmの範囲であり、その幅が、例えば、0.5mm〜10mmの範囲のものを好ましく使用することができる。
【0024】
また、芯材25の外表面に螺旋状に巻回されて配置される易滑性高分子繊維を含む線材26は、可撓性を有する線状部材である。芯材25の外表面に螺旋状に巻回されて配置される線材26は、芯材25の外表面に熱融着して固定されている。
【0025】
このような線材26としては種々の高分子材料から形成することができるが、例えば、潤滑性を有するフッ素系高分子から形成される線材26を挙げることができる。このようなフッ素系高分子としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点300〜310℃)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点330℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点250〜280℃)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、融点260〜270℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点160〜180℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点210℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE、融点290〜300℃)等、及び、これらのポリマーを含むコポリマー等のフッ素系高分子から形成した疎水性高分子を挙げることができる。なかでも、優れた摺動特性を有することから、PFA、PTFE、FEP、ETFE、PVDFが好ましい。また、線材26としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ウレタン、シリコーン、ポリエチレンやポリプロピレン等の疎水性高分子から形成される線材を使用することもできる。
【0026】
また、線材26としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質、アクリルアミド系高分子物質、水溶性ナイロン等の親水性高分子材料から形成される線材を使用することもできる。また、線材26を形成する親水性高分子材料としては、例えば、綿セルロース、レーヨン(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックレーヨンなど)、セルロースエステル類(セルロースアセテートやセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)に代表されるセルロース系高分子を採用してもよい。また、疎水性高分子材料から線材を形成し、この線材に対して公知の親水性化処理を施すことにより親水性の線材26を形成してもよい。例えば、疎水性を有するセルロースエステル類材料から線材を形成し、この線材に対して、セルロースの水酸基をカルボキシル基に酸化する等の公知の親水性化処理を施した後、当該親水性処理がなされた線材26を使用し、芯材25の外表面に配置するようにしてもよい。或いは、疎水性を有するセルロースエステル類材料から線材を形成し、この線材を芯材25の外表面に配置した後、当該線材に対して親水性化処理を施して、芯材25の表面に螺旋状に配置される親水性の線材26を形成するようにしてもよい。
【0027】
上述の各種高分子材料から線材26を製造する方法は特に限定されず、例えば、原料を押出成形により紡糸する方法等の従来公知の方法を用いることができる。なお、線材26としては、その最大径が、芯材25への熱融着前において、10μm以上500μm以下であるものを好ましく使用できる。
【0028】
芯材25に線材26を巻き付ける方法は特に限定されず、例えば、カバリング糸を製造するために使用されるカバリング装置を用いて巻き付ける方法等が挙げられる。
【0029】
線材26は、上述のように、芯材25の表面に対して螺旋状に巻回されて熱融着されているが、芯材25の長手方向に沿う方向に隣り合う線材26同士の間隔は、任意に設定することができる。例えば、芯材25の長手方向に沿う方向に隣り合う線材26同士が、互いに密接するように構成してもよく、或いは、芯材25の長手方向に沿う方向に所定の間隔を設けるように構成してもよい。また、隣り合う線材26同士の間隔を一部分において広く設定し、その他の部分において狭く設定するようにして構成してもよい。芯材25の長手方向に沿う方向に隣り合う線材26同士に所定の間隔を形成する場合には、例えば、芯材25の長手方向に沿う方向における線材26の線材ピッチが、線材26の最大径の1〜10倍の範囲となるように構成することが好ましい。なお、線材26の線材ピッチとは、図2の側面図に示すように、芯材25の長手方向に沿う方向に隣り合う線材26同士の中心間距離を表す概念である。
【0030】
また、線材26は、芯材25の表面に螺旋状に巻回されて熱融着されているが、線材26を芯材25の表面に熱融着させる方法としては、例えば、線材26を芯材25の表面に螺旋状に巻回した後、加熱することによって線材26を溶融させて、線材26を芯材25の表面に融着させる方法を挙げることができる。加熱処理の方法としては、例えば、チャンバー型熱処理装置を用い、芯材25に巻回された線材26の外側から熱を付与することにより行うことができる。また、芯材25を高抵抗な導電性材料(電気を通しやすい材料)により構成することで、芯材25の両端に電圧を印加して通電加熱することによっても行うことができる。
【0031】
また、特に、芯材25を、導電性材料により構成するとともに、線材26を、芯材25よりも磁性が低い材料により形成する場合には、芯材25上に配置された線材26の外側から芯材25を電磁誘導加熱装置により電磁誘導加熱し、加熱された芯材25の熱によって線材26と芯材25との対向領域の少なくともいずれか一方を溶融させて、線材26を芯材25に融着させるようにして、線材26を芯材25の外表面に合着させることが好ましい。なお、芯材25よりも磁性が低い材料とは、芯材25よりも磁性が弱い材料の他、磁性が無い材料を含む概念である。なお、電磁誘導加熱とは、電磁調理器(IHクッキングヒーター)や高周波溶接等にも利用されている加熱方式の一種であり、コイルに交流電流を流すことにより磁界(磁束密度)の変化を生じさせ、その磁界内に置いた導電性物質に誘導電流(渦電流)を発生させて、その抵抗により導電性物質自体を発熱させる原理を利用した加熱方式である。
【0032】
電磁誘導加熱された芯材25に生じる誘導電流の密度は、芯材25の中心からその表面に近いほど高くなることから、芯材25の内部に比べてその表面の方が早く加熱(集中して加熱)されることとなる。したがって、芯材25の融点が線材26の融点よりも低い場合には、集中して加熱される芯材25の表面(芯材25における線材26との対向領域(接触領域))が溶融することとなる。また、線材26の融点が芯材25の融点よりも低い場合には、芯材25が発した熱が線材26に伝わって、線材26における芯材25との対向領域(接触領域)が溶融することとなる。なお、電磁誘導加熱装置に流れる電流(コイルに流れる交流電流)の周波数を高く設定することにより、芯材25において発熱する部位をその表面に集めることができ、逆に、電流の周波数を低く設定することにより芯材25の内部も均一に発熱させることができるため、電磁誘導加熱装置に流れる電流の周波数を適宜変更できるように構成することが好ましい。
【0033】
このように電磁誘導加熱を行うことにより、線材26と芯材25との接触界面及びその近傍で速やかに軟化又は溶融するため、線材26の物性に寄与する分子配向を維持しやすく、上記線材26の機械的強度をより高く保つことができる。また、外部からの伝熱又は輻射、エネルギー線照射等による加熱と異なり、線材26と芯材25との接触界面及びその近傍のみで軟化又は溶融するため、芯材25の外表面となる側の表面凹凸形状が維持しやすくなる。ここでの表面凹凸形状は、線材26の直径や線材ピッチによって異なるだけでなく、芯材25の加熱条件を変えることでも、線材26の溶融状態が変わるため、さまざまな形状にすることができる。
【0034】
また、芯材25の外表面に線材26をより強固に接着させるためには、プライマーなどの接着剤を芯材25の外表面に塗布した後に、当該芯材25の外表面に線材26を巻回し、その後、加熱することによって接着剤及び線材26を溶融させて、芯材25上に線材26を融着させるのが好ましい。
【0035】
カバー体3は、上述のように筒状のチューブ本体2の外表面を被覆する部材であり、従来からアウターチューブの最外層を構成するカバー体として使用される種々の材料を用いて形成することができる。例えば、ゴムや熱可塑エラストマー、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂のような比較的弾性のある合成樹脂材料を用いて形成することができる。このカバー体3は、例えば、合成樹脂材料をプレス形成や押出形成などして構成されている。
【0036】
次に、上記構成のアウターチューブ1の製造方法について、図3のブロック図及び図4の製造過程を説明する説明図を用いて説明する。アウターチューブ1の製造方法は、図3のブロック図に示すように、チューブ形成部材作製ステップS1と、チューブ本体形成ステップS2と、カバー体形成ステップS3と、棒状体分離ステップS4とを備えている。チューブ形成部材作製ステップS1は、上述のように芯材25の外表面に易滑性高分子繊維を含む線材26を螺旋状に巻回し、線材26を芯材25に熱融着させることにより、チューブ形成部材21を作製する工程である(図4(a)の概略側面図参照)。
【0037】
チューブ本体形成ステップS2は、チューブ形成部材21によりインナーワイヤーが挿入される筒状のチューブ本体2を形成する工程であり、本実施形態においては、チューブ形成部材21を螺旋状に巻回してコイルチューブを形成する工程である。より具体的に説明すると、チューブ本体形成ステップS2は、巻回ステップS21と、加熱ステップS22とを備えている。巻回ステップS21は、図4(b)の概略側面図に示すように、チューブ形成部材21を、剛性のある耐熱性棒状体5の長手方向に沿って、その外表面に螺旋状に巻回する工程である。耐熱性棒状体5としては、例えば、棒状のガラス部材やセラミック部材、フッ素樹脂コーティングを表面に施した棒状の金属部材、フッ素樹脂製の棒状体等の滑り性に富む円筒状部材を好ましく使用することができる。なお、この耐熱性棒状体5の直径を種々変更することにより、内径の異なるアウターチューブ1を製造することができる。この巻回ステップS21においては、耐熱性棒状体5に巻回され、互いに隣接するチューブ形成部材21が互いに接する程度に密に巻きつける。
【0038】
加熱ステップS22は、耐熱性棒状体5に巻回され、円筒状に形成されたチューブ形成部材21を加熱処理する工程である。この工程においては、耐熱性棒状体5の外表面に螺旋状に巻回されたチューブ形成部材21を加熱して、線材26に含まれる易滑性高分子繊維を溶融することにより、図4(c)の概略断面図に示すように、耐熱性棒状体5の長手方向に沿って隣接配置されるチューブ形成部材21からなる環状部22同士を融着する。これにより、筒状のチューブ本体2(コイルチューブ)が形成される。加熱処理の方法としては、上述のチューブ形成部材21を作製する際に例示した加熱方法を用いることができる。具体的には、チャンバー型熱処理装置を用い、耐熱性棒状体5に巻回されたチューブ形成部材21の外側から熱を付与することにより行うことができる。また、芯材25を高抵抗な導電性材料(電気を通しやすい材料)により構成することで、芯材25の両端に電圧を印加して通電加熱することによっても行うことができる。また、芯材25を、導電性材料により構成するとともに、線材26を、芯材25よりも磁性が低い材料により構成してチューブ形成部材21を作製する場合には、耐熱性棒状体5の表面に巻回されたチューブ形成部材21の外側から芯材25を電磁誘導加熱装置により電磁誘導加熱し、加熱された芯材25の熱によって線材26に含まれる易滑性高分子繊維を溶融することにより、耐熱性棒状体5の長手方向に沿って隣接配置されるチューブ形成部材21からなる環状部22同士を融着してもよい。
【0039】
カバー体形成ステップS3は、図4(d)の概略断面図に示すように、ゴムや熱可塑エラストマー、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂のような比較的弾性のある合成樹脂材料を用いて形成された筒状体を、耐熱性棒状体5及びチューブ本体2からなる構造体10に被覆した後、加熱処理して、チューブ本体2の外表面と一体化するカバー体3を形成する工程である。加熱処理の方法としては、上述のチューブ形成部材21を作製する際に例示した加熱方法を用いることができる。具体的には、チャンバー型熱処理装置等による外部加熱や通電加熱、電磁誘導加熱装置による電磁誘導加熱等の手法を用いることができる。
【0040】
棒状体分離ステップS4は、図4(e)の概略断面図に示すように、耐熱性棒状体5、チューブ本体2及びカバー体3からなる構造体11から、当該構造体11の軸線方向に沿って耐熱性棒状体5を引き抜く工程である。耐熱性棒状体5は、すべり性に富む部材により構成されているため、耐熱性棒状体5を簡単に引き抜くことができる。このように耐熱性棒状体5、チューブ本体2及びカバー体3からなる構造体11から耐熱性棒状体5を取り外すことによりアウターチューブ1は完成する。
【0041】
本実施形態に係るアウターチューブ1は、上述のように、長尺状の芯材25の外表面を易滑性高分子繊維を含む線材26により螺旋状に巻回して構成されるチューブ形成部材21により、インナーワイヤーが挿入されるチューブ本体2を形成しているため、アウターチューブ1の内面に露出する易滑性高分子繊維を含む線材26は、図1の矢視A方向から見た図5の概略構成正面図に示すように、芯材25の表面から突出する凸部27を構成することとなる。したがって、アウターチューブ1内に挿入されるインナーワイヤーは、芯材25と直接的に接触することなく、易滑性高分子繊維を含む線材26により構成される凸部27と接触することとなり、インナーワイヤーの表面とアウターチューブ1の内面との接触面積を大幅に減少させることが可能となる。この結果、アウターチューブ1の内面と、インナーワイヤーの表面との接触抵抗を大幅に低減して、高い摺動性を得ることが可能となる。
【0042】
また、従来のように、アウターチューブ1が、その最内層を構成する樹脂製内層管(図10において符号100で示される部材)を備えることなく、長尺状の芯材25の外表面を易滑性高分子繊維を含む線材26により螺旋状に巻回して構成されるチューブ形成部材21によってアウターチューブ1が構成されているため、簡便に当該アウターチューブ1を製造することが可能となり、製造工程の簡便化により、アウターチューブ1製造に要する時間の短縮、製造コストの低廉化を図ることができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、チューブ本体2を、チューブ形成部材21を螺旋状に巻回して形成されるコイルチューブとして構成している。このように、長尺状の芯材25の外表面を易滑性高分子繊維を含む線材26により螺旋状に巻回して構成されるチューブ形成部材21を螺旋状に巻回して形成されるコイルチューブとしてチューブ本体2を構成する場合、芯材25に対する線材26の巻き角度や、チューブ形成部材21の巻き角度を適宜設定することにより、このチューブ本体2における芯材25に対する線材26の巻き方向(芯材25に対して襷掛けされる線材26の襷方向)を、チューブ本体2の長手方向(軸線方向)と略平行となるように構成することが容易に可能となる。この結果、チューブ本体2内にインナーワイヤーを挿入してチューブ本体2の長手方向に沿ってインナーワイヤーを摺接移動させた際に、インナーワイヤーが、チューブ本体2の軸線方向に対して斜め方向に移動することを効果的に防止して、チューブ本体2の軸線方向に沿った移動を確保することが可能となる。ここで、芯材25に対する線材26の巻き方に関しては、S巻きであってもZ巻きであってもよく、また、チューブ本体2におけるチューブ形成部材21の巻き方に関しても、S巻きであってもZ巻きであってもよいが、芯材25に対する線材26の巻き方とチューブ形成部材21の巻き方とを、例えば、S巻きとZ巻きというように、或いは、Z巻きとS巻きというように、異なる巻き方を採用した方が、チューブ本体2における芯材25に対する線材26の巻き方向(芯材25に対して襷掛けされる線材26の襷方向)を、チューブ本体2の長手方向(軸線方向)と略平行となるように構成することが容易となる。
【0044】
以上、本発明に係るアウターチューブ1及びその製造方法について説明したが、具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上述したアウターチューブ1の製造方法においては、チューブ形成部材作製ステップS1、チューブ本体形成ステップS2及びカバー体形成ステップS3のそれぞれにおいて、加熱処理を行う工程を備えるように構成しているが、例えば、チューブ形成部材作製ステップS1における加熱処理を省略し、チューブ本体形成ステップS2での加熱処理の工程(加熱ステップS22)において、芯材25の外表面と易滑性高分子繊維を含む線材26との熱融着、及び、耐熱性棒状体5の長手方向に沿って隣接配置されるチューブ形成部材21からなる環状部22同士の熱融着を同時に行うように構成してもよい。
【0045】
また、カバー体形成ステップS3における加熱処理を省略すると共に、図6のブロック図に示すように、チューブ本体形成ステップS2の工程内にカバー体形成ステップS3を含め、チューブ本体形成ステップS2における巻回ステップS21が完了した段階で、ゴムや塩化ビニル樹脂等から形成される筒状のカバー体3を、耐熱性棒状体5及びチューブ本体2からなる構造体に被覆するカバー体形成ステップS3を行い、その後、耐熱性棒状体5、チューブ本体2及びカバー体3からなる構造体11に対する加熱処理の工程(加熱ステップS22)を行い、耐熱性棒状体5の長手方向に沿って隣接配置されるチューブ形成部材21からなる環状部22同士の熱融着と、カバー体3とチューブ本体2との熱融着を同時に行うように構成してもよい。
【0046】
また、図6のブロック図に示すようにアウターチューブ1の製造方法を構成する場合、チューブ形成部材作製ステップS1における加熱処理を省略し、チューブ本体形成ステップS2における加熱ステップS22の工程により、芯材25の外表面と易滑性高分子繊維を含む線材26との熱融着、耐熱性棒状体5の長手方向に沿って隣接配置されるチューブ形成部材21からなる環状部22同士の熱融着、及び、カバー体3とチューブ本体2との熱融着の全てを同時に行うように構成してもよい。
【0047】
また、上記実施形態において、チューブ形成部材21を螺旋状に巻回して形成されるコイルチューブをチューブ本体2として構成しているが、このような構成に特に限定されず、例えば、図7の断面図に示すように、チューブ形成部材21を、その長手方向がそれぞれ略平行となるように複数並べて筒状に形成することによりチューブ本体2を構成してもよい。このような構造を採用しても、アウターチューブ1の内面に露出する易滑性高分子繊維を含む線材26は、芯材25の表面から突出する凸部27を構成することになるため、インナーワイヤーの表面とアウターチューブ1内面との接触面積を大幅に減少させることが可能となり、アウターチューブ1の内面と、インナーワイヤーの表面との接触抵抗を大幅に低減して、高い摺動性を得ることが可能となる。
【0048】
図7に示すようなアウターチューブ1は、アウターチューブ1の製造方法におけるチューブ本体形成ステップS2を、図8のブロック図に示すように、チューブ形成部材配置ステップS23と加熱ステップS22とを備えるように構成することにより製造することができる。チューブ形成部材配置ステップS23は、例えば、耐熱性棒状体5の長手方向に対して垂直な方向における断面を表す図9(a)や、部分斜視図である図9(b)に示すように、耐熱性棒状体5の長手方向(軸線方向;図9(a)においては紙面に垂直な方向)と、複数の各チューブ形成部材21の長手方向とが平行となるようにして、耐熱性棒状体5の周面上に複数のチューブ形成部材21を並べて筒状に形成する工程である。この工程においては、隣り合う各チューブ形成部材21が互いに接するように配置する。なお、チューブ形成部材21を耐熱性棒状体5の周面上に配置する際には、予め、チューブ形成部材21の表面に粘着剤を塗布しておき、当該粘着剤の作用により、耐熱性棒状体5の周面上から脱落しないようにしてもよい。このチューブ形成部材配置ステップS23が完了した後、加熱ステップS22により加熱処理することにより、線材26に含まれる易滑性高分子繊維を溶融させ、互いに隣り合うチューブ形成部材21同士を熱融着することにより、筒状のチューブ本体2を形成することができる。
【0049】
また、上記実施形態においては、図2の側面図に示すように、芯材25の表面に単一の線材26を螺旋状に巻回して熱融着させることによりチューブ形成部材21を作製しているが、このような構成に特に限定されず、例えば、太さが同一或いは異なる複数の線材26を芯材25の表面に螺旋状(二重螺旋状、三重螺旋状等)に巻回して熱融着することにより、チューブ形成部材21を形成してもよい。
【0050】
また、上記実施形態においては、図4(b)に示すように、耐熱性棒状体5の外表面に単一のチューブ形成部材21を螺旋状に巻回することによりチューブ本体2を作製しているが、例えば、複数のチューブ形成部材21を耐熱性棒状体5の表面に螺旋状(二重螺旋状、三重螺旋状等)に巻回してチューブ本体2を形成してもよい。
【0051】
また、上記実施形態においては、芯材25の表面に巻回される線材26の断面形状は特に限定されず、断面形状が円形或いは非円形であってもよい。非円形の断面形状としては、例えば、楕円形状や多角形の断面形状、扇型の断面形状等を例示できる。このように断面が非円形である線材26を用いてチューブ形成部材21を構成した場合、断面が円形である線材26を用いた場合よりも複雑な凹凸形状をチューブ本体2の内面に形成することができるため、例えば、チューブ本体2の内面に潤滑油を塗布してアウターチューブ1を使用する場合に、潤滑油がチューブ本体2の内面から流れ出ることを効果的に抑制することが可能となり、アウターチューブ1の摺動性を長期間維持することができる。なお、このように断面が非円形である線材26を用いてチューブ形成部材21を構成した場合であっても、アウターチューブ1の内部においてインナーワイヤーと接する部分は、線材26の最外部(頂部)となることから、アウターチューブ1に対するインナーワイヤーの摺動性は低下しない。
【0052】
また、上記実施形態においては、線材26として、上述した高分子材料単体により製造される線材の他、種類の異なる高分子材料を組み合わせて製造される線材や、高分子材料及び金属材料を組み合わせて製造される線材、高分子材料及び非金属材料を組み合わせて製造される線材等を用いることができる。線材26の形態としては、単線でもよく、或いは、同一種類の単線同士を撚り合わせて形成される撚線であってもよい。また、種類の異なる単線を撚り合わせて形成される撚線であってもよい。
【0053】
種類の異なる高分子材料を組み合わせて易滑性高分子繊維を含む線材26を構成する場合、易滑性を有する疎水性高分子材料から形成される第1の線材と、易滑性を有する親水性高分子材料から形成される第2の線材とを撚糸して形成した線材26を用いることが好ましい。撚糸に供される第1の線材(疎水性線材)及び第2の線材(親水性線材)のそれぞれの本数は特に限定されず、種々の本数を組み合わせて形成することができる。ここで、疎水性高分子材料から形成される第1の線材はその材料特性から熱可塑性の性質を持ちやすく、熱融着に好適である一方、親水性高分子材料から形成される第2の線材は、親水性高分子材料の種類によっては、分子間の水素結合に基づいて熱融着するのに十分な熱可塑性を有しない場合もあり、不十分な熱融着に基づき、剥離を生じてしまうことが懸念される。しかしながら、上述のように、第1の線材(疎水性線材)及び第2の線材(親水性線材)を撚糸することにより線材26を形成し、この線材26を芯材25表面に巻回して、融着させることで、第1の線材(疎水性線材)の高度な熱可塑性に基づいて芯材25との強固な融着構造が得られると共に、第2の線材(親水性線材)は、第1の線材(疎水性線材)に抱き込まれて芯材25の近傍に存在する構造を実現することができ、第2の線材(親水性線材)が芯材25から離脱することを確実に防止しつつ、乾燥環境(ドライ環境)或いは湿潤環境(ウェット環境)のいずれの状況であっても、良好な摺動性を持続するアウターチューブ1を得ることができる。
【0054】
また、上述のように、第1の線材(疎水性線材)及び第2の線材(親水性線材)を撚糸することにより線材26を形成し、この線材26を芯材25表面に巻回してチューブ形成部材21を構成する場合、第1の線材(疎水性線材)を、例えば、ポリエステル系高分子やポリアミド系高分子等から構成することが好ましい。第1の線材(疎水性線材)及び第2の線材(親水性線材)を撚糸して形成した線材26を芯材25の表面に配置して熱融着させる際、第1の線材(疎水性線材)をポリエステル系高分子やポリアミド系高分子等から形成することで、融着温度を比較的低く抑えることが可能となるため、第2の線材(親水性線材)の熱による劣化を生じにくくすることが可能となる。ここで、ポリエステル系高分子としては、融着温度が低温である点で脂肪族ポリエステル系高分子がより好ましい。脂肪族ポリエステル系高分子としては 例えば、グリコールと脂肪族ジカルボン酸との重縮合などにより得られるポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンオキザレート、ポリブチレンオキザレート、ポリネオペンチルオキザレート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケートなどが挙げられる。また、脂肪族ポリエステル系高分子としては、例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸などのようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはこれらの共重合体、ポリ(ε−カプロラクトン)やポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバリレート)、ポリ(3−ヒドロキシカプロレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシオクタノエート)のようなポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)及びポリ(4−ヒドロキシブチレート)などの脂肪族ポリエステルを挙げることができる。また、上述のポリアミド系高分子としては、融着温度が低温である点で脂肪族ポリアミド系高分子がより好ましい。脂肪族ポリアミド系高分子としては、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66等を例示できる。
【0055】
本発明の発明者らは、本発明に係るアウターチューブ1が優れた摺動性を有することを確認するために、実際にアウターチューブ1のサンプルを作製し、摺動性確認試験を行った。試験に用いたアウターチューブ1としては、3種類のサンプル(サンプル1〜サンプル3)を準備し、各サンプルについてインナーワイヤーを挿入して摺動させ、その時の操作感を確認した。
【0056】
各サンプルについて説明すると、まず、サンプル1は、直径が0.35mmのステンレス(SUS304)線を芯材25とし、この表面に、直径が120μmの高分子製線材26(接着性ETFE高分子製糸)を、線材ピッチが300μmとなるように螺旋状に巻回してチューブ形成部材21を形成した。なお、芯材25に高分子製線材26を熱融着させる手法としては、高分子製線材26が巻回された芯材25を速度0.5m/分で牽引しながら、ヒータ出力100Wで電磁誘導加熱を行い、その後、速やかに冷却することにより高分子製線材26を芯材25の表面に溶融固着させる手法を採用した。このようにして形成したチューブ形成部材21を直径が3mmのガラス製の耐熱性棒状体5にコイル巻し、チューブ形成部材21を送りながら耐熱性棒状体5を回転する方法でチューブ形成部材21を隙間なく耐熱性棒状体5に巻き付けて長さ30cmのコイルパイプ(チューブ本体2)を形作った。その後、耐熱性棒状体5及びチューブ本体2からなる構造体10を、引上げ速度0.5m/分で牽引しながら、ヒータ出力30Wで電磁誘導加熱を行った。この加熱処理の後、チューブ本体2にナイロン製のカバー体3(内径が3.4mm)をかぶせて、その後、耐熱性棒状体5を引き抜くことによりアウターチューブ1のサンプル1を作製した。
【0057】
サンプル2は、直径が0.1mmのニッケル線を芯材25とし、この表面に、直径が120μmの高分子製線材26(接着性ETFE高分子製糸)を、線材ピッチが300μmとなるように螺旋状に巻回してチューブ形成部材21を形成した。なお、芯材25に高分子製線材26を熱融着させる手法としては、高分子製線材26が巻回された芯材25を速度0.5m/分で牽引しながら、ヒータ出力150Wで電磁誘導加熱を行い、その後、速やかに冷却することにより高分子製線材26を芯材25の表面に溶融固着させる手法を採用した。このようにして形成したチューブ形成部材21を直径が6mmのフッ素系高分子製の耐熱性棒状体5にコイル巻し、チューブ形成部材21を送りながら耐熱性棒状体5を回転する方法でチューブ形成部材21を隙間なく耐熱性棒状体5に巻き付けて長さ30cmのコイルパイプ(チューブ本体2)を形作った。その後、耐熱性棒状体5及びチューブ本体2からなる構造体10をオーブン内に配置して220度で30分間の加熱処理を行った後、耐熱性棒状体5を引き抜くことによりチューブ本体2を分離し、これをアウターチューブ1のサンプル2とした。
【0058】
サンプル3は、直径が0.25mmのステンレス(SUS304)線を芯材25とし、この表面に、直径が100μmの高分子製線材26(接着性PFA高分子製糸)を、線材ピッチが500μmとなるように螺旋状に巻回してチューブ形成部材21を形成した。芯材25に高分子製線材26を熱融着させる手法としては、高分子製線材26が巻回された芯材25を速度1.5m/分で牽引しながら、ヒータ出力250Wで電磁誘導加熱を行い、その後、速やかに冷却することにより高分子製線材26を芯材25の表面に溶融固着させる手法を採用した。このようにして形成したチューブ形成部材21を、直径が6.5mmのフッ素樹脂コーティングを表面に施した金属棒(耐熱性棒状体5)にコイル巻し、チューブ形成部材21を送りながら金属棒(耐熱性棒状体5)を回転する方法でチューブ形成部材21を隙間なく金属棒(耐熱性棒状体5)に巻き付けて長さ30cmのコイルパイプ(チューブ本体2)を形作った。その後、金属棒(耐熱性棒状体5)及びチューブ本体2からなる構造体10をオーブン内に配置し、220度で30分間の加熱処理を行った後、金属棒(耐熱性棒状体5)を引き抜くことによりチューブ本体2を分離し、これをアウターチューブ1のサンプル3とした。
【0059】
各サンプルのいずれもが、インナーワイヤーの引っ掛かり感やこすれ感がなく、インナーワイヤーが滑らかに摺動するものであり、優れた摺動性を有することを確認できた。
【符号の説明】
【0060】
1 アウターチューブ
2 チューブ本体
21 チューブ形成部材
22 環状部
25 芯材
26 線材
3 カバー体
5 耐熱性棒状体
S1 チューブ形成部材作製ステップ
S2 チューブ本体形成ステップ
S21 巻回ステップ
S22 加熱ステップ
S23 チューブ形成部材配置ステップ
S3 カバー体形成ステップ
S4 棒状体分離ステップ
【要約】
簡便に製造することができ、かつ、高い摺動性を有するアウターチューブ及びその製造方法を提供する。
インナーワイヤーを摺動自在に案内するアウターチューブ(1)であって、前記インナーワイヤーが挿入される筒状のチューブ本体(2)を備えており、チューブ本体(2)は、長尺状の芯材(25)の外表面を易滑性高分子繊維を含む線材(26)により螺旋状に巻回して構成されるチューブ形成部材(21)により筒状に形成されているアウターチューブ(1)。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10