(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724156
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】インプリント方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20150507BHJP
B29C 43/02 20060101ALI20150507BHJP
B29C 43/58 20060101ALI20150507BHJP
B29C 43/54 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B29C43/02
B29C43/58
B29C43/54
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-109868(P2012-109868)
(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2013-237165(P2013-237165A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 智博
【審査官】
大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−264652(JP,A)
【文献】
特開2013−075499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の熱硬化性樹脂をロードセルが取付けられた下金型へ供給する第1の工程と、前記第1の工程後に上金型を降下させて、前記下金型内の前記液体の熱硬化性樹脂と前記上金型とを接触させて、前記上金型と前記下金型の隙間を規定値にしておき、ヒータを用いて前記上金型および前記下金型を加熱する第2の工程と、前記第2の工程後に前記下金型の膨張および前記熱硬化性樹脂のゲル化に伴い発生する前記下金型が受ける圧縮方向の荷重を前記ロードセルにより測定する第3の工程と、前記第3の工程後に前記圧縮方向の荷重が所定値に達した時に前記上金型を更に降下することによって前記隙間を狭める第4の工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂などの樹脂材料を圧縮成形するインプリント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォンに取り付けられているサブカメラのレンズの製造工程が従来の射出成形からインプリント方式の成形へ変わりつつある。これは、製造コストの低減とインプリント方式によるウェハレベルでの一括製造が可能になるという理由によるものである。
【0003】
熱方式のインプリントでは、ヒータによる加熱と冷却のサイクルによってモールド(金型)が熱膨張や熱収縮を繰り返すため、ヒータの温度により金型や成形する樹脂材料にかかる押し付け負荷(押付力)が異なってくる。そのため、樹脂材料に対して一定の押付力を維持するためには金型温度や樹脂材料の変形量に合わせて成形装置の加圧軸(プレス軸)を微調整する必要がある。
【0004】
樹脂材料の変形量に合わせたプレス軸の調整方法として、例えば樹脂材料として熱硬化性樹脂を成形する場合、熱硬化性樹脂が液体から徐々に硬化する際に体積が収縮するので、熱硬化性樹脂の変形量に合わせてプレス軸に取り付けた金型を加圧する。このとき、熱硬化性樹脂は加熱すると硬化する樹脂であり、初期状態は比較的粘性を有した液体であるため、金型の加圧を開始するには一定程度の硬化が進んだ状態で行う必要がある。
【0005】
具体的には、熱硬化性樹脂を成形するには、液体の熱硬化性樹脂を下金型内へ供給した後、ヒータにより金型を加熱して、熱硬化性樹脂が液体からゲル化したことを確認した後に金型の加圧を開始する。その場合、加圧開始の判断は金型等に取り付けられた温度センサにより、金型温度が熱硬化性樹脂のゲル化温度に達したことを以って判断される。
【0006】
また、特許文献1の熱硬化性樹脂の成形方法では熱硬化性樹脂の粉体を金型へ供給して、金型内のヒータにより熱硬化性樹脂を加熱しつつ、一定時間が経過した後に熱硬化性樹脂を加圧して成形する方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献2においては熱硬化性樹脂を圧縮成形する際に、熱硬化性樹脂の硬化収縮に伴う成形品の収縮量を変位センサにて測定し、その収縮量だけ金型を更に加圧、圧縮する成形方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−112447号公報
【特許文献2】特開平8−318540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、金型温度を以って成形開始(金型の加圧開始)の判断を行うと、熱硬化性樹脂と金型との温度差が考慮されていないので、本来の圧縮成形を開始すべきタイミングに先んじて成形を開始することになる。その結果、熱硬化性樹脂が金型周囲へとあふれ出し、成形品にバリ等が発生する。一方、本来の圧縮成形を開始すべきタイミングに遅れて成形を開始すると、金型と熱硬化性樹脂との間に隙間が発生して、成形品にヒケと呼ばれる微小の凹凸模様が発生しやすいという問題があった。
【0010】
また、特許文献1に示す成形方法は金型の加熱を開始してから一定時間経過後に加圧を開始する方法であるため、金型の材質、形状、大きさなどに応じて熱容量が異なると加圧を開始する時間も変化する。そのため、金型毎に最適な加圧開始条件を選定する必要があり、量産化までの作業工数が膨大になるという問題があった。
【0011】
さらに、特許文献2に示す成形方法は熱硬化性樹脂の収縮量にしたがって金型を加圧させる方法であるため、成形品のヒケを防止するためには厚肉部から薄肉部へと順に熱硬化性樹脂を圧送および充填する必要がある。そのため、成形品の厚肉部と薄肉部とのそれぞれの成形時の圧力を別個に検出する必要があり、複雑な形状の成形品になるほど成形時の作業工数が増加する。同時に、金型の加圧面積が大きくなるほど加圧に必要な押付力も大きくなるため、それに伴って成形装置が必要以上に大型化するという問題があった。
【0012】
そこで、本発明においては量産化までの(成形)作業工数を低減し、コンパクトな成形装置でも成形可能なインプリント方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した課題を解決するために、本発明においては、液体の
熱硬化性樹脂をロードセルが取付けられた下金型へ供給する第1の工程と、第1の工程後に
上金型を降下させて、下金型内の液体の熱硬化性樹脂と上金型とを接触させて、上金型と下金型の隙間を規定値にしておき、ヒータを用いて上金型および下金型を加熱する第2の工程と、第2の工程後に下金型の膨張および
熱硬化性樹脂のゲル化に伴い発生する
下金型が受ける圧縮方向の荷重をロードセルにより測定する第3の工程と、第3の工程後に
圧縮方向の荷重が所定値に達した時に
上金型を更に降下することによって前記隙間を狭める第4の工程と、を有するインプリント方法とした。本発明に係るインプリント方法により、金型の材質、寸法、形状など金型の諸特性に関わらず、樹脂材料が一定量の場合に常に同じ状態で成形を開始できる。以下、第1ないし第4の各工程について詳述する。
【0014】
本発明に係るインプリント方法を構成する第1の工程は
、熱硬化性樹脂をロードセルが取付けられた下金型へ供給(塗布)する工程である。すなわち、第1の工程は成形装置の下金型に液体の熱硬化性樹脂を供給する工程である。本発明に係るインプリント方法の各工程で使用する上金型および下金型には金型自体を加熱するヒータおよび金型温度を測定する温度センサ(温度計)が組み込まれている。ここで、金型とは成形装置に取り付けられた上下金型一式を指し、上金型と下金型とは別個の金型同士であるものとする。
【0015】
また、本発明に係るインプリント方法の各工程で使用する成形装置には、金型の他に、金型を冷却する冷却装置、成形時における押付力や反力などの荷重を測定するロードセルが取り付けられている。なお、第1の工程前にヒータにより金型に予熱を加えておくことで樹脂成形を速やかに開始できる。
【0016】
本発明に係るインプリント方法を構成する第2の工程は、第1の工程後に
上金型を降下させて、下金型内の液体の熱硬化性樹脂と上金型とを接触させて、上金型と下金型の隙間を規定値にしておき、ヒータを用いて上金型および下金型を加熱する工程である。すなわち、
上下金型の位置合わせ(両金型の隙間を規定値にしておく)を行うことで、上金型による下金型への加圧を速やかに開始できる。また、第2の工程は金型内に組み込まれたヒータを外部の制御装置からの指令によって通電を開始することで上金型および下金型を加熱する。加熱すべき温度(目標加熱温度)は樹脂材料毎に異なり、昇温過程(昇温パターン)は予め設定されたプログラムにより自由に設定できるものとする。
【0017】
本発明に係るインプリント方法を構成する第3の工程は、第2の工程後に下金型の(熱)膨張および
熱硬化性樹脂のゲル化に伴い発生する
下金型が受ける圧縮方向の荷 重をロードセルにより測定する工程である。第2の工程において、下金型がヒータにより加熱されると下金型および樹脂材料の温度が上昇し、それに伴って下金型は熱膨張する。その結果、上下金型の間隔は縮まり(狭くなり)樹脂材料を押しつぶして、広げようと作用する。
【0018】
一方、液体の樹脂材料は加熱されると収縮して、柔軟な弾性体の様にゲル化する。樹脂材料がフェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の場合、樹脂材料は液体からゲル化(凝固)することで弾性体の如く上金型に対して押し返そうとする力(反力)が働く。その反力の値(反力値)を成形装置に組み込まれたロードセルにより測定(検出)する。すなわち、第3の工程は下金型を加熱することで液体の樹脂材料がゲル化して、それに伴って発生する上金型に対するゲル化した樹脂材料の反力を成形装置に取り付けられたロードセルを用いて測定する工程である。ここで、ゲル化とは樹脂材料が液状からゼリー状へ凝固した状態をいう。
【0019】
また、樹脂材料はゲル化することで硬化するが、体積が大きく収縮するようなポリウレタンやメラミン樹脂などの熱硬化性樹脂の場合、液体の樹脂材料は一旦膨張した後にゲル化することで収縮する。そのため上金型に密着した樹脂材料が収縮することで上金型を下金型へ引き寄せる力が働く。この場合も成形装置のロードセルには、樹脂材料の収縮に伴い発生する上金型に対する反力を測定することになる。
【0020】
本発明に係るインプリント方法を構成する第4の工程は、第3の工程後に
圧縮方向の荷重が所定値に達した時に
上金型を更に降下することによって前記隙間を狭める工程である。第3の工程では、成形装置に組み込まれたロードセルを用いて上下金型間に発生する反力値を測定し、一旦反力値の測定を開始すると、成形工程中は反力値がロードセルにより継続して測定される。
【0021】
この反力値はヒータの加熱が進むにつれて上昇し、終に反力値が樹脂材料固有の所定値に達した時に、上金型を更に降下もしくは下金型を更に上昇することで下金型に供給された樹脂材料に対して加圧を開始する。加圧開始後はロードセルの荷重値が一定となるように加圧軸の位置を制御する。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように、本発明に係るインプリント方法により、寸法や形状など金型の諸特性に関わらず、樹脂材料が一定量の場合に樹脂材料に対して常に同じ状態で成形を開始できるので、ヒータとモールドとの温度差や金型の諸特性に伴う熱容量の違いによる成形条件の選定を必要とせず、量産化までの(成形)作業工数を低減できるという効果を奏する。また、加圧時の樹脂材料の状態が安定していることから、成形時に過大な押付力を必要とせず、コンパクトな成形装置でも成形できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係るインプリント方法に用いる成形機器システムの全体構成図である。
【
図2】本発明に係るインプリント方法を用いた熱硬化性樹脂の供給から押付け開始までの成形工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について、本発明に係るインプリント方法を用いた成形工程について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るインプリント方法に用いる成形機器システムの全体構成図である。本発明に係るインプリント方法に用いる成形機器システムは、
図1に示すように大きく分類すると金型を用いて樹脂成形を行う成形装置1と、金型の加熱および冷却制御を担う加熱冷却制御システムと、加圧時における下金型への負荷量と位置制御を担う圧力制御システムとから構成されている。以下、成形機器システムの各構成について詳述する。
【0026】
成形機器システムを構成する成形装置1には、上下金型一式が鉛直方向に向かい合うよう別個に取り付けられている。下金型3には加熱のためのヒータ5と、金型温度を測定する温度センサ4と、加熱された下金型3を冷却するために外部から冷却水を取り込む冷却配管6と、上金型2からの押付力を測定するロードセルとが備え付けられている。また、上金型2を鉛直方向の加圧軸(以下、Z軸という)に沿って移動することにより下金型3を加圧できる構造となっている。
【0027】
なお、
図1では下金型3にのみヒータ5、温度センサ4および冷却配管6が示されているが、上金型2についても下金型3と同様に図示しないヒータ、温度センサおよび冷却配管が備え付けられている。
【0028】
成形機器システムを構成する加熱冷却制御システムは、前述した成形装置1の上金型2および下金型3の加熱および冷却を制御するシステムである。所望の金型温度を温度調整器にて設定すると、温度調整器から加熱の指令を受けた電流調整器が下金型3に備え付けのヒータ5へ電流を送ることで下金型3が加熱される。また、加熱された下金型3の温度は備え付けの温度センサ4により測定されて、温度調整器へフィードバックされる。一方、下金型3を冷却する場合には温度調整器から外部のクーラント(冷却器)へ指令が伝わり、冷却器から下金型3に備え付けの冷却配管6へ冷却水が圧送されることで下金型3が冷却される。なお、
図1では下金型3にのみ加熱冷却制御システムが接続されているが、上金型2についても下金型3とは別個の図示しない加熱冷却制御システムが接続されている。
【0029】
成形機器システムを構成する圧力制御システムは、上金型2のZ軸における位置制御および圧力制御を行うシステムである。成形する樹脂の種類に応じた成形プログラムに従って成形する場合には、金型温度および上金型2のZ軸制御(位置制御)を自動で行う指令を成形装置1へ発する。下金型3への押付力は備え付けのロードセルによって測定され、その押付力の値が即時に成形機器システムへフィードバックされる。そのフィードバックされた押付力に応じて上金型2の位置制御を行い、その時点で最適な押付力を上金型2の位置制御により行う。
【0030】
次に、本発明の実施の形態について本発明に係るインプリント方法を用いた熱硬化性樹脂の供給から加圧開始までの工程について図面を参照して説明する。
図2は本発明に係るインプリント方法を用いた熱硬化性樹脂の供給から加圧開始までの成形工程図である。
【0031】
図2に示すように、成形品の原料となる液体の熱硬化性樹脂を下金型へ所定量供給(滴下)して、定められた位置まで上金型を降下することで上下金型の位置合わせを行う。この時、上金型の一部は液体の熱硬化性樹脂に接触している状態である。その後、上金型および下金型内部に組み込まれたヒータへ通電することで上金型および下金型の加熱を開始する。特に、上下金型の温度は内部に組み込まれた温度センサにより常に測定された状態であり、所定の温度に到達するまで上下金型の加熱は継続される。また、上下金型の加熱に伴って上下金型が膨張するので、下金型と上金型との間隔は縮まる。同時に当初液体であった熱硬化性樹脂はゲル化することで硬化する。すなわち、下金型の温度が上昇することで、下金型はゲル化した熱硬化性樹脂を介して間接的に上金型からの反力を受けることになり、その反力は下金型に取り付けられたロードセルで圧縮方向の荷重を検知する。
【0032】
下金型の温度が所定温度に到達すると、下金型に取り付けられたロードセルを用いて、下金型の膨張とゲル化した熱硬化性樹脂による上金型への反力の測定を開始する(センシング開始)。センシングが開始すると、ロードセルにより検知した反力が所定値に達するまでは下金型の加熱を継続していくが、この段階では未だ上金型を降下させることによる下金型への加圧は行わない。ロードセルにより測定した反力が所定値に達した時点で上金型を降下させて、下金型内の熱硬化性樹脂に対して加圧を開始する。
【0033】
加圧動作が開始(成形が開始)すると、ロードセルにより検知する荷重が一定値になるようにZ軸の制御を行う。その後、一定時間が経過すると温度調整器により下金型のヒータの電源が遮断されると同時に冷却水が送り込まれることで下金型は冷却される。下金型が常温まで冷却されたことが温度センサで確認できれば、上金型を上昇させた後に成形品を下金型から取り出すことで成形工程が完了する。
【0034】
なお、加圧を開始する反力の所定値は樹脂材料の種類によって異なり、樹脂材料の物性データや 事前の予備試験(成形試験)の結果などから成形材料である樹脂材料にとって最適な所定値を把握できる。
【符号の説明】
【0035】
2 上金型
3 下金型
5 ヒータ