(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724159
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】攪拌装置
(51)【国際特許分類】
C08J 3/02 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
C08J3/02 ZCER
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-172101(P2009-172101)
(22)【出願日】2009年7月23日
(65)【公開番号】特開2011-26406(P2011-26406A)
(43)【公開日】2011年2月10日
【審査請求日】2012年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 愛
(72)【発明者】
【氏名】池田 和人
(72)【発明者】
【氏名】瀧谷 篤司
【審査官】
村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−326145(JP,A)
【文献】
特開2006−043648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 7/00−7/32
C08J 3/00−3/28;99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、
前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、
前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、
前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受と、
を備える攪拌装置。
【請求項2】
前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持する請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されている請求項2に記載の攪拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌槽内に攪拌翼を備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌装置、及びそれを用いて得られた樹脂組成物溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路素子の製造に代表される微細加工の分野では、より高い集積度を得るために、より微細な加工が可能なリソグラフィー技術が必要とされている。例えば、0.10μm以下のレベルでの微細加工を可能とするために、より波長の短い放射線の利用及び液浸露光が検討されている。この用途に適した樹脂組成物が数多く提案され、使用されている。例えば、レジスト形成用の感放射線性樹脂組成物を含むレジスト組成物及び多層レジストにおける上層膜を形成するための樹脂組成物を含む液浸用上層膜形成用組成物が使用されている。
【0003】
また、これらの組成物を使用する微細化方法においては、更なる高解像度のパターンニングが要求されるようになっており、これらの組成物を用いて得られるパターン表面に生じるディフェクト(現像後のレジストパターンを上部から観察した際に検知される不具合全般のこと。)を無視することができなくなってきている。そのため、その改善が試みられている。
【0004】
このディフェクト要因の1つには、レジスト樹脂を含有する溶液中に、粉体原料の未溶解成分、樹脂の重合の際に副生するオリゴマーや低分子量のポリマー、また生産設備の配管及びバルブ等から混入するゴミ、微粒子等といった固形状の異物が存在することが挙げられる。
【0005】
これらディフェクト要因になり得る異物のうち、樹脂の重合の際に副生するオリゴマーや低分子量のポリマー、および未反応のモノマーにおいては、樹脂溶液に対する貧溶媒を用いた沈殿精製法(特許文献1参照)や、沈殿工程及び/又は洗浄ろ過工程による精製方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【0006】
攪拌槽内に存在する異物は、外部から持ち込まれるものと内部で発生するものに分けられる。外部からの異物持込みに対しては、クリーンルーム環境下で生産を行うことによる対策の他、持ち込んでしまった異物を製品の充填前にフィルターで濾過を行う等の対策が取られる。その他にも、原料自体のクリーン化、高純度化が徹底して行われており、特にプロセス内で除去の困難な異物については、徹底した除去が行われている。
【0007】
内部で発生する異物は、発生プロセスは様々なものがあるが、主な要因として原料及び製品の変質によるもの、並びに生産設備の磨耗、損傷による磨耗片や破片などが挙げられる。内部で発生してしまった異物については、固形物についてはフィルターによる除去、非固形物については、沈殿工程及び/又は洗浄ろ過工程による精製などが行われている。プロセス内で発生した異物を取り除くにはコストがかかる他、除去工程自体が異物の発生要因になりえるため、基本的には異物の発生量を抑えることが望ましい。
【0008】
異物の発生原因としては、生産設備内の滞留部、いわゆるデッドスペースが挙げられる。これは、タンク内部の流れが悪い部分のほか、配管の行き止まり部など液の流れの悪い部分全てが該当する。これらのデッドスペースは、洗浄不足による前バッチのコンタミネーションや、長く原料/製品をホールドしているための劣化、温度むらや攪拌むらの原因となり、異物発生の原因では最大のものである。そのため、対策として攪拌槽形状の単純化や、タンク内壁の面形状に完全にフィットするバルブなど様々な対策が取られ、異物対策のレベルは向上してきた。
【0009】
ところで、攪拌装置には、動力部の回転を回転軸を介して攪拌翼に伝達するため、カップリングが設けられている(特許文献3,4の図を参照)。カップリングは有る程度大型の攪拌翼を使用する場合必須の構造である。これまで、例えば、傾斜パドル翼を供える攪拌装置は、
図7に示すように、アジテーターの分解を容易に行えるようにするため、カップリング9は、攪拌槽内部の軸部8の上側、軸受11と攪拌翼7の間に設けられてきた。主な理由として、軸受11のメンテナンス時に攪拌翼7を攪拌槽2から引き出す必要が無いため、作業スペースが少なくて済むことが挙げられる。他にも、軸受11の組み立ては、攪拌槽組み立てにおいて特に精度と慎重さを要求する作業の一つであるが、攪拌翼7が付いた状態で組み立てを行うと軸受11に大きな荷重のかかった状態での作業となるため作業性が悪く、そのためカップリング9を攪拌翼7と軸受11の中間に置くことで、攪拌翼7を取り外した状態で軸受11の取り付けを行えるようにするためである。
【0010】
動力部と攪拌翼を接続するカップリングは、見落とされやすいデッドスペースである。サイズが小さく、満液で生産を行うプロセスで無い限り基本的に攪拌槽の気相部にあるため、攪拌には直接的な影響が無いことから異物の発生源として特に注目されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−161052号公報
【特許文献2】特開2005−132974号公報
【特許文献3】特開平5−212261号公報
【特許文献4】特開平8−252444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、近年の異物に対する要求の高度化から、カップリング上部に溜まる僅かな液が品質トラブルの原因となるケースが確認された。これは、過去のケースでは、その他の異物発生要因に紛れて表に現れなかったものであり、異物対策の全体的なレベルが上がったことにより、ようやく判明したものである。また、カップリング上部に溜まった異物が何らかの拍子に一気に落下した場合に、大きく異物のレベルが上昇するため、通常時はあまり目立たず再現性が低いことも解明が困難であった理由の一つである。
【0013】
過去にも、異物対策として、カップリングにカバーを当てるなどの対策が取られたことあるが、カバーとカップリングの隙間は新たなデッドスペースとなり異物発生の原因となり得た。
【0014】
本発明は、このような僅かな異物の発生も問題となる状況下で、カップリングに起因する異物の発生を無くす攪拌装置、及びそれを用いて得られた樹脂組成物溶液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、カップリングを攪拌槽の槽外に設けることによって、カップリング起因の異物発生の可能性を完全に無くすことができる。すなわち、本発明によれば、以下の攪拌装置、及びそれを用いて得られた樹脂組成物溶液が提供される。
【0016】
[1] 回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、
前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受と、を備える攪拌装置。
【0017】
[2]
前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持する前記[1]に記載の攪拌装置。
[3] 前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されている前記[2]に記載の攪拌装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明のように、カップリングを攪拌槽の槽外に設けることにより、液がカップリング上部に溜まり異物を蓄積する、もしくは長時間留まり続けることで異物を発生することを防ぐことが可能となる。具体的には、前バッチ終了後に投入された洗浄溶剤がカップリング上部に留まり、これが次バッチの製品に落下することで洗浄溶剤と異物が混入するようなケースを防ぐことが出来る。他にも、上方から投入された粉体原料がカップリングの上面に堆積することなく、意図した仕込み量および投入のタイミング通りに反応系に加わる。これにより、設計した高機能性を有する樹脂組成物溶液を、生産バッチ毎での物性のばらつきを生じることなく安定して生産することができる。更には、粉体原料の未溶解分を低減することが可能になるために、得られる樹脂組成物中のディフェクト要因になりうる異物の含有量を低減することが可能になる。
【0020】
つまり、本発明のように、カップリングを槽外に出すことにより、カップリング上部に原料/製品が溜まることを防止し、カップリング起因の異物を完全に無くすことができる。従って、本発明の攪拌装置は、フォトレジスト材料等の電子材料分野に用いられる組成物や、ディスプレイ材料に用いられる配向膜組成物や着色レジスト組成物等の、異物混入に対する管理が厳しく且つ高価な樹脂組成物溶液の製造分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態の攪拌装置を示す模式図である。
【
図2】傾斜パドルを上方から見た平面模式図である。
【
図3】カップリングの一実施形態を示す斜視図である。
【
図6B】パドル翼を上方から見た平面模式図である。
【
図7】従来の攪拌装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図9】スリーブを備えない攪拌装置の組み付け作業手順を示す模式図である。
【
図10A】本発明の攪拌装置の軸受の断面図である。
【
図10B】本発明の攪拌装置の軸受の一部断面斜視図である。
【
図11】スリーブを備える本発明の攪拌装置の組み付け作業手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態の攪拌装置1を示す。攪拌装置1は、回転可能な回転軸5を有し回転軸5を回転させる動力部4と、動力部4を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽2と、攪拌槽2の槽外にて回転軸5とカップリング9により接続され、動力部4により槽内にて回転運動する攪拌翼7と、を備える。
【0024】
本実施形態では、攪拌翼7として傾斜パドル7pを備える。
図2に傾斜パドルの平面図を示す。傾斜パドル7pは、30〜60°傾斜させた平板を複数枚組み合わせたものであり、翼部自体が傾斜し、軸部8に支持されている。
【0025】
本発明の攪拌翼7の材質は、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂によるライニング品などを挙げることができる。これらの中でも、通液時にディフェクト発生の要因になる異物の混入量が少ないため、ステンレス鋼、フッ素系合成樹脂によるライニング品が好ましい。
【0026】
攪拌槽2の槽外には、モーター4a、減速部4b等の動力部4を備える。動力部4は、回転可能な回転軸5を有する。モーター4aと減速部4bによって、回転軸5を所望の回転速度にて回転させることができる。回転軸5にはカップリング9が設けられており、カップリング9により、モーター4a、減速部4b等の動力部4と攪拌翼7を接合し、動力部4の回転力を攪拌翼7に伝達している。
図3にカップリング9の一実施形態を示す。カップリング9は、回転軸5の端部に設けられたフランジ部5fと、攪拌翼7の軸部8の端部に設けられたフランジ部8fとが、ボルトによって固定されたものである。ボルトにて固定されているため、攪拌翼7を容易に取り外してメンテナンスを行うことができるし、傾斜パドル以外のものに変更することも容易である。カップリング9は、
図1に示すように、槽外に設けられている。
【0027】
攪拌槽2は、略半球形状の底部と、その底部の周縁部から上に立設される円筒状の側壁部によって形成され、所定の容積を有する竪型円筒状のタンクであり、ステンレス、鉄等の金属によって形成されている。そして、上部には、略半球形状の蓋部3、中心部には、槽内に垂下するように、槽外のモーター4aによって回転可能とされた回転軸5にカップリング9にて接続された軸部8を有する攪拌翼7が備えられている。カップリング9より下方は、攪拌翼7の軸部8が軸受11に挿入されて蓋部3から槽内に垂下している。
【0028】
従来、
図7、
図8A及び
図8Bに示すように、攪拌槽2の蓋部3には、軸受11が設けられ、軸受11にて、回転軸5を支持するように構成されていた。より詳しく言うと、軸受11はユニット化されており、軸受部及び内容物の漏洩を防止するシール機構より構成されている。軸受部の内輪11a及びシール機構の回転環11cは通常は動力部4に接続された回転軸5に直接取り付けられており、回転軸5と一体となって回転するようになっている。そのため、カップリング9を槽外に設ける場合、攪拌翼7の軸部8に対し軸受部の内輪11a及びシール機構の回転環11cを直接組み付ける必要が出てくるため、軸受の組み立て作業に広いスペースが必要となる他、細かな調整などの作業が行いにくくなり作業性が低下する。
【0029】
具体的には、軸受部は狭い面積で荷重を支える必要が有ることからバランス良く取り付ける必要が有り、また、シール機構は回転環11cと固定環11dを精密に位置あわせを行い摺動させることで攪拌槽内容物の漏洩を防いでいるため、どちらも回転軸5に対し精度よく組み付ける必要が有る。そのため、実際に組みつけて回転軸5を回転させ、バランスを確認する作業が必要となるが、カップリング9が槽外に出ている場合、動力部4に接続された回転軸5でなく攪拌翼7の軸部8に取り付ける必要があり、軸部8は異物対策として分解できる箇所をほとんど持たないことから、大きな状態で回転させる必要が有り確認作業が困難となる。また、軸受11の蓋部3への組み付けに際し、軸部8が付いていた状態での取り付け作業は、長い軸部8の慣性力で位置あわせが難しくなるうえ、衝突などによる破損の可能性が高まる。その他にも、
図9の左図に示すように、軸受11を軸部8に組みつけてから、
図9の右図のように攪拌翼7を取り付ける必要が有り、攪拌翼7の取り付けは現場で大きく蓋を引き上げて作業が必要となる上、その後に蓋部3と攪拌槽2を接続する必要が有ることから、大きく作業性が低下してしまう。
【0030】
そのため、本願発明の攪拌装置1は、回転側の内輪11a及び回転環11cを直接軸部8に取り付けるのではなく、
図10A及び
図10Bに示すように、内輪11a及び回転環11cと軸部8との間にスリーブ(さや管)12を設け、それを介してそれぞれを固定することで分解を用意にし、作業性の低下を回避する。スリーブ12は、管状のスリーブ本体12aと、軸部8を固定するための固定ボルト12b、シールガスケット12cから構成されており、軸受11は、攪拌翼7の軸部8をスリーブ12を介して支持する。スリーブ12の材質は特に制限は無いが、品質上の観点より強度上問題が無ければ軸部と同じ材質が望ましい。このように構成することにより、
図11に示すような手順にて作業を行うことができる。まず、
図11左図に示すように、軸受部(内輪11a,内輪以外11b)とシール機構(回転輪11c、固定輪11d)をスリーブ12に取り付ける。スリーブ12は軸部8と比較して小さいため、取り付け作業は容易に行える。攪拌翼7は軸部8に組み付けた状態とし、その状態で軸部8は蓋部3に通した状態で待機する。その後、軸受を組み付けたスリーブ12を上から軸部8に差込み、軸受11と軸部8の組み付け準備を完了する。その後に行う、軸受11と蓋部3、軸受11と軸部8、蓋部3と攪拌槽2、この3箇所の組み付けは、状況により作業の行いやすい順番で組み付けてよい(
図11の中央図、右図)。スリーブ12と軸部8を固定することで軸受の軸部8に対する取り付けを行う。スリーブ12と軸部8の組み付け精度は、多少のずれであればスリーブ12に設けたシールガスケット12cで吸収することが可能であり、現場での作業性は向上している。
【0031】
なお、カップリング9は、
図3に示すような実施形態に限定されず、動力部4の回転軸5と、回転翼7の軸部8とを連結することができる構造であればよい。このような構造として、例えば、クランプや、その他の継手を採用することもできる。
【0032】
本発明の攪拌装置は、攪拌槽2内に、邪魔板(バッフル)10を備える。具体的には、攪拌槽2には、その内壁面に沿うように軸方向に延出した2枚、または4枚の邪魔板10が円周方向に配設されている。回転軸5の回転に伴って回転する攪拌翼7による旋回する液体の回転速度は邪魔板10によって抑制され、攪拌翼7と液体との間には速度差が生じ、攪拌作用が促進され、攪拌効率を増すことができる。
【0033】
本発明の邪魔板10の構造は、特に制限がなく、一般的な邪魔板を適宜選択、適用することができる。本発明の邪魔板10の材質は、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂によるライニング品などを挙げることができる。これらの中でも、通液時にディフェクト発生の要因になる異物の混入量が少ないため、ステンレス鋼、フッ素系合成樹脂によるライニング品が好ましい。
【0034】
本発明の攪拌翼7の構造は、上記半導体製造用のフォトレジスト組成物溶液、および液晶素子材料用の樹脂組成物溶液を攪拌することが出来れば、特に制限はないが、十分な攪拌効率を達成する観点から、
図1及び
図2に示した傾斜パドル翼の他、
図4に示すマックスブレンド翼(登録商標)、
図5に示すアンカーパドル、
図6A,6Bに示すパドル翼が特に好ましい。
【0035】
図4に示すマックスブレンド翼7mは、平板状の大きな攪拌面積を有した翼部の上部に、格子状にグリッド孔が形成されたグリッド部7nを有する。
図5に示すアンカーパドル7gは、軸部8の最下端に、攪拌槽2の底面の形状に沿って径方向から鉛直上方に湾曲して延びる錨翼7hによって構成される馬蹄形の翼部を有する。
図6A,6Bに示すパドル翼は、平板形状の攪拌翼であり、上下に2段配置されている。
【0036】
本発明における既存の攪拌装置(
図7参照)との違いは、気相部に位置するカップリングの配置であり、液相部にはほとんど影響を与えない。そのため、既存の攪拌装置に対し本対策を実施する場合でも、対策前と全く同等の攪拌が実施可能である。具体的には、回転数を変更することなく、攪拌状況を表す主要なパラメーターであるレイノルズ数も完全に同じ条件での運転が可能である。このことは、新規に本対策を織り込んだ攪拌装置を製作する場合でも、これまでの思想に基づく攪拌装置と同等の攪拌効果を持つ攪拌装置が作れることを意味する。
【0037】
次に樹脂組成物溶液の製造方法について説明する。まず、攪拌装置1のタンク下部バルブ15を閉にした後に、投入部6から、原料を投入し、攪拌装置1にて樹脂組成物溶液の濃度が均一になるまで攪拌する。その後、タンク下部バルブ15を開にして、送液ポンプによって、循環ラインによって循環させ、循環ろ過を行うことにより、樹脂組成物溶液を製造することができる。循環後、ノズルから樹脂組成物溶液を充填瓶に充填し、製品としての樹脂組成物溶液を得ることができる。
【0038】
なお、本明細書において、攪拌装置1を用いて樹脂組成物溶液を製造するとは、樹脂組成物溶液の重合、調製等を意味する。本発明の攪拌装置1は、循環ろ過を行う工程に限られず、攪拌によって反応させる工程にも使用することができる。本発明の攪拌装置1を用いて製造することができる樹脂組成物溶液としては、半導体製造用のフォトレジスト組成物溶液、および液晶素子材料用の樹脂含有組成物等が挙げられる。さらに、半導体材料のリソグラフィー材料、液晶ディスプレイ用材料の配向膜、顔料分散レジスト等に用いられる組成物溶液も挙げられる。
【0039】
不具合となる異物および生産バッチ毎の物性のばらつきの原因は、液がカップリング上部に溜まり異物を蓄積する、もしくは長時間留まり続けることで異物を発生すること及び、粉体原料が攪拌槽2上部から投入されたときに、カップリング9の上部等に堆積し、溶け残り異物となること、および投入量の一部が反応系に加わらないことにある。本発明の攪拌装置1は、カップリング9が槽外に設けられているので、原料が堆積することがなく、溶け残り異物および反応系に加わる原料量のばらつきの発生が十分に低減される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1:フォトレジスト用樹脂組成物(フォトレジスト組成物溶液)の調整)
図1の攪拌装置をクリーンルーム内に設置し、ポリエチレンフィルター(0.03μm ポール製)のろ過済みレジスト用樹脂含有溶液(2−メチル−2−アダマンチルメタクリレートとノルボルナンラクトンメタクリレートとの共重合体(重量平均分子量;13000)を8質量%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液)を、100kg投入し、常圧下、その後5時間撹拌した。投入前後の異物数を液中パーティクルカウンター(リオン製Ks−41)で計測したところ、投入前が0.3μm以上の異物が10,000個/10ml、投入後0.3μm以上の異物は12,000個/10mlであった。
【0042】
(比較例1:フォトレジスト用樹脂組成物(フォトレジスト組成物溶液)の調整)
図7の攪拌装置を使用した以外は実施例1同様に調整を実施した。投入前後の異物数を液中パーティクルカウンター(リオン製Ks−41)で計測したところ、投入前が0.3μm以上の異物が10,000個/10ml、投入後0.3μm以上の異物は30,000個/10mlであった。
【0043】
カップリングを槽外に設けることにより、槽内に設けた場合に比べ異物数を減少させることができた。これにより、樹脂組成物溶液に含まれる異物に起因するディフェクトを減少させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の攪拌装置は、金属異物等の異物や金属成分等の不純物の混入に対して厳格なサブクォーターミクロンレベルの微細加工等の用途に用いられるフォトレジスト組成物溶液、液浸用組成物溶液、上層膜形成組成物等の樹脂組成物溶液の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0045】
1:攪拌装置、2:攪拌槽、3:蓋部、4:動力部、4a:モーター、4b:減速部、5:回転軸、5f:(回転軸の)フランジ部、6:投入部、7:攪拌翼、7g:アンカーパドル、7m:マックスブレンド翼、7n:グリッド部、7p:傾斜パドル、7t:パドル翼、8:軸部、8f:(軸部の)フランジ部、9:カップリング、10:邪魔板、11:軸受、11a:軸受部(内輪)、11b:軸受部(内輪以外)、11c:シール機構(回転環)、11d:シール機構(固定環)、12:スリーブ、12a:スリーブ本体、12b:固定ボルト、12c:シールガスケット、15:タンク下部バルブ。