(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シード光を発するシード光源と、励起光を発する励起光源と、前記シード光および前記励起光が入射されることによって前記シード光を増幅するように構成された光増幅ファイバと、前記光増幅ファイバからの出射光を走査するための走査機構とを備えたレーザ加工装置によるレーザ加工方法であって、
前記シード光源から、前記シード光として、複数の光パルスを含むパルス列を所定の周期で発生させる工程と、
前記走査機構を用いて、前記光増幅ファイバからの前記出射光を加工対象物に照射することにより、前記加工対象物の表面に所望のパターンを形成する工程とを備え、
前記複数の光パルスの間の時間間隔は、前記パルス列同士の間隔よりも短く、
前記光パルスの数、パルス幅、振幅および間隔のうちの少なくとも1つが可変であり、
前記シード光源は、半導体レーザを含み、
前記シード光を発生させる工程は、前記パルス列の波形を定義するデジタルデータを用いて、前記半導体レーザを駆動する工程を含み、
前記半導体レーザを駆動する工程は、
前記デジタルデータを記憶部に記憶する工程と、
前記記憶部から前記デジタルデータを読み出して出力する工程と、
出力された前記デジタルデータと、前記パルス列に含まれる前記光パルスの間隔を規定するクロック信号とを受信し、前記クロック信号に同期して前記デジタルデータをアナログ信号に変換する工程と、
前記アナログ信号を増幅する工程と、
増幅された前記アナログ信号に応答して、前記半導体レーザに供給される駆動電流を制御する工程とを含む、レーザ加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
本明細書では「パルス列」あるいは「マルチパルス」との用語は、ある時間間隔で時間軸上に並べられた複数の光パルスを意味する。
【0023】
また本明細書では、「LD」との用語は、半導体レーザを表す。
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の構成例を示した図である。
図1を参照して、レーザ加工装置100は2段増幅タイプのレーザ増幅器を備える。詳細には、レーザ加工装置100は、光ファイバ1,8と、シードLD2と、励起LD3,9A,9Bと、アイソレータ4,6,11と、バンドパスフィルタ(BPF)7と、結合器5,10と、エンドキャップ12と、ドライバ21,22,23A,23Bとを備える。これらの要素によりレーザ増幅器が構成される。レーザ加工装置100は、さらに、レーザビーム走査機構14と、制御装置20と、入力部25とを備える。
【0024】
光ファイバ1,8は光増幅ファイバである。本実施の形態では光ファイバ1,8は石英を主成分とする石英系ファイバであるが、プラスチック光増幅ファイバであってもよい。
【0025】
光ファイバ1,8は光増幅成分である希土類元素が添加されたコア、およびそのコアの周囲に設けられるクラッドを有する。コアに添加される希土類元素の種類は特に限定されず、たとえばEr(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)、Nd(ネオジム)などがある。以下では希土類元素はYbであるとして説明する。
【0026】
光ファイバ1,8の各々は、たとえばコアの周囲に1層のクラッドが設けられたシングルクラッドファイバでもよいし、コアの周囲に2層のクラッドが設けられたダブルクラッドファイバでもよい。また、光ファイバ1,8は、同一構造(たとえばシングルクラッドファイバ)の光ファイバでもよいし、異なる構造を有する光ファイバ(たとえばシングルクラッドファイバとダブルクラッドファイバ)の組み合わせでもよい。
【0027】
図2は、本実施の形態に係る光ファイバ1,8の構造の一例を示した図である。
図2(A)および
図2(B)は、シングルクラッドファイバの一例の断面図であり、ファイバの延在方向に対して垂直方向および平行方向の断面をそれぞれ示している。
【0028】
図2(A)および
図2(B)を参照して、シングルクラッドファイバは、希土類元素が添加されたコア31と、コア31の周囲に設けられ、かつコア31よりも屈折率が低いクラッド32とを含む。クラッド32の外表面は外皮34に覆われる。
【0029】
図2(C)および
図2(D)は、ダブルクラッドファイバの一例の断面図であり、ファイバの延在方向に対して垂直方向および平行方向の断面をそれぞれ示している。
【0030】
図2(C)および
図2(D)を参照して、ダブルクラッドファイバは、希土類元素が添加されたコア35と、コア35の周囲に設けられ、かつコア35よりも屈折率が低い第1クラッド36と、第1クラッド36の周囲に設けられ、かつ第1クラッド36よりも屈折率が低い第2クラッド37とを含む。第2クラッド37の外表面は外皮38に覆われる。
【0031】
図1に戻り、シードLD2はシード光を発するレーザ光源である。シード光の波長は、たとえば1000〜1100nmの範囲から選択された波長である。ドライバ21はシードLD2にパルス状の電流を繰返して印加することにより、シードLD2をパルス駆動する。すなわちシードLD2からはパルス状のシード光が発せられる。
【0032】
シードLD2から出射されるシード光はアイソレータ4を通過する。アイソレータ4は一方向の光のみを透過し、その光と逆方向に入射する光を遮断する機能を実現する。本発明の実施の形態では、アイソレータ4はシードLD2からのシード光を透過させるとともに光ファイバ1からの戻り光を遮断する。これによって光ファイバ1からの戻り光がシードLD2に入射するのを防ぐことができる。シードLD2に光ファイバ1からの戻り光が入射した場合にはシードLD2が損傷するおそれがあるが、アイソレータ4を設けることでこのような問題を防ぐことができる。
【0033】
励起LD3は、光ファイバ1のコアに添加された希土類元素の原子を励起するための励起光を発する励起光源である。希土類元素がYbの場合、励起光の波長はたとえば940±10nmとなる。ドライバ22は励起LD3をCW駆動(連続動作)する。
【0034】
結合器5はシードLD2からのシード光と励起LD3からの励起光とを結合して光ファイバ1に入射させる。
【0035】
光ファイバ1に入射した励起光はコアに含まれる希土類元素の原子に吸収され、原子が励起される。シードLD2からのシード光が光ファイバ1のコアを伝搬すると、励起された原子がシード光により誘導放出を起こすためシード光が増幅される。
【0036】
光ファイバ1がシングルクラッドファイバである場合、シード光および励起光はともにコアに入射する。これに対し、光ファイバ1がダブルクラッドファイバである場合、シード光はコアに入射し、励起光は第1クラッドに入射する。ダブルクラッドファイバの第1クラッドは励起光の導波路として機能する。第1クラッドに入射した励起光が第1クラッドを伝搬する過程で、コアを通過するモードによりコア中の希土類元素が励起される。
【0037】
アイソレータ6は、光ファイバ1によって増幅され、かつ光ファイバ1から出射されたシード光(光パルス)を通過させるとともに光ファイバ1に戻る光を遮断する。
【0038】
バンドパスフィルタ7は、光ファイバ1から出力される光パルスのピーク波長を含む波長帯の光を通過させるとともに、その波長帯と異なる波長帯の光を除去する。
【0039】
励起LD9A,9Bは、光ファイバ8のコアに含まれる希土類元素の原子を励起するための励起光を発する。ドライバ23A,23Bは励起LD9A,9BのそれぞれをCW駆動する。
【0040】
図1に示した構成では、1段目の励起LDの個数は1であり、2段目の励起LDの個数は2であるが、励起LDの個数はこれらの値に限定されるものではない。
【0041】
結合器10は、バンドパスフィルタ7を通過した光パルスと、励起LD9A,9Bからの励起光とを結合して光ファイバ8に入射させる。光ファイバ1における光増幅作用と同じ作用によって、光ファイバ8に入射した光パルスが増幅される。
【0042】
アイソレータ11は光ファイバ8から出射された光パルスを通過させるとともに、光ファイバ8に戻る光を遮断する。アイソレータ11を通過した光パルスは、アイソレータ11に付随する光ファイバの端面から大気中に出射される。エンドキャップ12は、ピークパワーの高い光パルスが光ファイバから大気中に出射される際に光ファイバの端面と大気との境界面で生じるダメージを防止するために設けられる。
【0043】
レーザビーム走査機構14は、レーザ増幅器からの出射光を二次元方向に走査するためのものである。図示しないが、レーザビーム走査機構14は、たとえばエンドキャップ12からの出射光であるレーザビームの径を所定の大きさに調整するためのコリメータレンズ、および、コリメータレンズを通過後のレーザビームを加工対象物50の表面上で二次元方向に走査するためのガルバノスキャナ、レーザビームを集光するためのfθレンズ等を含んでもよい。加工対象物50の表面上でレーザ光Lが二次元方向に走査されることにより、金属等を素材とする加工対象物50の表面が加工される。たとえば加工対象物50の表面に文字や図形等からなる情報が印字(マーキング)される。
【0044】
制御装置20は、ドライバ21,22,23A,23Bおよびレーザビーム走査機構14を制御することによりレーザ加工装置100の動作を統括的に制御する。入力部25は、たとえばユーザからの情報(たとえば加工対象物50の表面に印字される文字、記号等の情報)を受付けて、その受付けた情報を制御装置20に送信する。制御装置20は、たとえば入力部25からの情報に基づいて、ドライバ21,22,23A,23Bの動作開始および動作終了を制御するとともに、ドライバ21,22,23A,23Bを動作させている間(言い換えればレーザ増幅器から光が出射されている間)、レーザビーム走査機構14の動作を制御する。
【0045】
制御装置20は、たとえば所定のプログラムを実行するパーソナルコンピュータにより実現される。入力部25はユーザが情報を入力することができる装置であれば特に限定されず、たとえばマウス、キーボード、タッチパネル等を用いることができる。
【0046】
上述のように、シードLDはパルス駆動され、励起LDはCW駆動される。ただしシードLDの非発光期間が長い場合には、その非発光期間の間に励起LDの出力が中断されるよう、制御装置20がドライバ21,22,23A,23Bを制御することが好ましい。
【0047】
シードLD、励起LD、アイソレータ、バンドパスフィルタ等の特性は温度により変化し得る。したがって、これらの素子の温度を一定に保つための温度コントローラをレーザ加工装置に備えることがより好ましい。
【0048】
図3は、本発明の実施の形態に係るシード光の波形を説明する図である。
図3を参照して、繰返し期間tprdごとに、複数の光パルスを含むパルス列すなわちマルチパルスがシードLD2から出力される。複数の光パルスの時間間隔(パルス間隔)はtpである。
【0049】
繰返し期間tprdおよびパルス間隔tpは、加工対象物の加工条件、たとえば加工対象物の素材(金属、樹脂など)、加工時間、加工品質等に基づいて設定される。たとえば繰返し期間tprdは1μs〜1msの範囲から選択される。一方、パルス間隔tpは繰返し期間tprdに比較して短く、たとえば1ns〜100nsの間から選択される。
【0050】
パルス間隔tpが短いため、1つのマルチパルスを構成するパルス列においては、1つのパルスとその次のパルスとの間の走査距離が非常に短い。よって、前のパルスによる加工対象物表面の加工痕の範囲内に次のパルスが照射され、結果として、加工対象物表面において、1つのマルチパルスを構成するパルス列による加工痕は連続的に繋がる。すなわち、1つのマルチパルスは加工対象物のほぼ同一箇所に照射される1つの加工単位を構成する。
【0051】
図3に示した波形では、パルス列に含まれる光パルスの個数は3である。しかしながらパルス列に含まれる光パルスの個数は、複数であれば特に限定されるものではなく、任意に設定可能である。また、繰返し期間tprdは固定値に限定されず、可変値であってもよい。
【0052】
本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置は、光増幅ファイバを利用したMOPA(Master Oscillator and Power Amplifier)方式を採用し、シード光として半導体レーザからの光を利用する。シードLD2から発生されるシード光は光ファイバ1,8によって増幅され、レーザ加工装置100から出力される。シードLD2は複数の光パルスを含むパルス列をシード光として出力するので、レーザ加工装置100からは複数の光パルスを含むパルス列、言い換えればマルチパルス化されたレーザ光が出力される。
【0053】
ドライバ21がシードLD2を駆動することによって、シードLD2はシード光(パルス列)を発生させる。シードLD2に供給される電流をドライバ21が制御することにより、シードLD2から発生されるシード光(パルス列)の繰返し周期tprd、パルス列に含まれるパルスの個数、パルス間隔tp、各光パルスのピークパワー(パルスの振幅)、各光パルスのパルス幅等の複数のパラメータを互いに独立に制御できる。レーザ加工装置100から出力されるレーザ光は、光ファイバ1、8によって増幅されたシード光である。シード光に関するパラメータを制御することによってレーザ加工装置100から出力されるレーザ光(パルス列)に関する複数のパラメータ(パルス列に含まれるパルスの個数、繰返し周期、パルス間隔、各光パルスのピークパワー(パルスの振幅)、各光パルスのパルス幅等)を互いに独立に制御することができる。
【0054】
以上のように本発明の実施の形態によれば、レーザ加工装置100からレーザ光としてパルス列(マルチパルス)を出力することができる。さらに、レーザ加工装置100から出力されるレーザ光(パルス列)に関する複数のパラメータを互いに独立に制御できる。したがって本発明の実施の形態によれば、所望の加工を行なうためのレーザ光(パルス列)をレーザ加工装置100から出力することができる。
【0055】
ここで、各光パルスのパルス幅(半値全幅)twの望ましい値を実験により求めた結果を
図21に示す。
【0056】
図21(A)は、シード光のパルス幅と、誘導ブリルアン散乱(SBS)が発生しない範囲でシード光をできるだけ増幅したときの増幅光のピークパワー(すなわちSBS閾値)との関係をグラフ形式で示した図である。
図21(B)は、増幅光のパルス幅およびピークパワーと、励起LDの駆動電流との関係を表形式で示した図である。
図19に示すように、パルス幅が20ns以下ではSBS閾値(ピークパワー)が急激に大きくなる。よって、各パルス光のパルス幅は20ns以下とするのが望ましい。
【0057】
図22は、SBSの発生時に、レーザ増幅器から出射された光パルスにより金属表面に印字を行なった結果を示す図である。
図23は、本実施の形態において、SBSが発生しない条件でレーザ加工装置から出射されたレーザ光(パルス列)により金属表面に印字を行なった結果を示す図である。
図22および
図23を参照して、SBSが生じた場合、金属表面に形成されたスポットの大きさは不均一であり、かつ、スポットのピッチも不均一である。これはSBSによりレーザ増幅器から出射される光パルスのエネルギーが安定しなかったり、入射光がほとんど反射されて媒質中に入らなくなったりするためと考えられる。一方、本実施の形態においては、パルス幅を、SBSが発生しない条件に容易に設定することができるので、金属表面に均一の大きさのスポットを均一のピッチで形成できる。したがって、金属表面の加工(たとえば文字あるいは図形を金属表面に印字する)において、高品質の加工が可能となる。
【0058】
図4は、
図1に示したシードLD2を駆動するドライバ21の構成の一例を示す図である。
図4を参照して、ドライバ21は、FPGA(Field Programmable Gate Array)42と、D/Aコンバータ43と、アンプ(図中、「Amp」と示す)44と、駆動部45とを含む。駆動部45は、トランジスタ46と、抵抗47とを含む。
【0059】
記憶部41は、シード光の波形を定義する波形データ(デジタルデータ)を不揮発的に記憶する。FPGA42は記憶部41から読み出した波形データDをデジタルデータとして出力するデジタル信号発生器である。FPGA42は、制御装置20(
図1)からの動作信号を受けると、記憶部41から波形データDを読み出すとともに、その波形データDに基づいてクロック信号DAC_clkと、データ信号DAC_data(デジタルデータ)とを出力する。FPGA42は、制御装置20からの停止信号に応じてその動作を停止する。
【0060】
なお、波形データが制御装置20に記憶されるとともにFPGA42が制御装置20から波形データを読み出してもよい。また、FPGA42が波形データを予め記憶してもよい。
【0061】
D/Aコンバータ43は、クロック信号DAC_clkと、データ信号DAC_dataとを受けて、データ信号DAC_dataにより示されるデジタルデータをアナログデータに変換する。D/Aコンバータ43は、高速の信号処理に適したD/Aコンバータ(高速D/Aコンバータ)であることが好ましい。
【0062】
アンプ44は、D/Aコンバータ43からのアナログ信号である電流Idacをトランジスタ46の制御に必要な信号に変換する。トランジスタ46の制御電極にはアンプ44から出力された信号に対応する電圧V
LDが与えられる。
【0063】
トランジスタ46が電圧V
LDに応じて導通するとシードLD2に駆動電流I
LDが流れる。駆動電流I
LDがしきい値電流より大きくなるとシードLD2がレーザ発振してシードLD2からシード光が発せられる。電圧V
LDによってトランジスタ46に流れる電流が制御されるので駆動電流I
LDの強度が制御される。これによりシード光の強度が制御される。
【0064】
なお、ドライバ21は、用途に応じて複数の波形データを選択できるように構成されていることが望ましい。複数の波形データの保存先は、たとえば記憶部41の内部、制御装置20の内部でもよい。また、デジタル信号発生器は、FPGAであると限定されず、マイクロプロセッサやASIC(Application Specific Integrated Circuit)などでも良い。
【0065】
図5は、
図4に示した構成を有するドライバ21の動作の説明図である。
図5(A)および
図5(B)は、
図4に示したFPGA42から出力されるデジタルデータの出力タイミングを示した図である。
図5(C)は、
図4に示した駆動電流I
LDの波形図である。
【0066】
図5および
図4を参照して、D/Aコンバータ43への入力値(データ信号DAC_dataが示す値)を、0と、ある値(
図10Aおよび
図10Bではa〜fのいずれかの値)とに設定する。D/Aコンバータ43は、周期tを有するクロック信号DAC_clkの立ち上がりおよび立下りに応じて、データ信号DAC_dataが示すデジタルデータを読み込み、その読み込んだデジタルデータをアナログデータに変換する。
図5(A)に示すように、入力値a〜fのうちのある値(たとえばa)とその次の値(たとえばb)との間には、入力値として0が挟まれる。
【0067】
図5(B)に示すように、D/Aコンバータ43への入力値a〜fは、aからfの順に大きくなる。この入力値に基づいてD/Aコンバータ43、アンプ44および駆動部45が動作する。これらの応答性により、
図5(C)に示されるように、駆動電流I
LDはそのピーク値が時間の経過とともに大きくなるように変化する。
【0068】
なお、データ信号DAC_dataの値が0である期間(周期tに対応)は、
図3に示したパルス間隔tpに対応する。また、FPGA42は、たとえば繰返し期間tprdごとに、
図5(A)に示すように、データ信号DAC_dataの値をaからfまで変化させる。これにより、繰返し期間tprdごとに、シードLD2からパルス列を発生させることができる。
【0069】
図6は、
図5(C)に示した波形を有する駆動電流I
LDがシードLDに供給されることによってシードLDから出力されるシード光の波形を示した図である。
図6を参照して、シード光波形の包絡線Eは時間(t)に対して単調増加する。時間に対して単調増加するのであれば包絡線Eは直線でも曲線でもよい。シード光波形の包絡線が時間に対して単調増加するようにシード光の強度を制御することによって、レーザ加工装置から出力されるパルス列に含まれる各パルスの強度を一定に制御することができる。
【0070】
図7は、マルチパルスを構成する複数の光パルスのピークが一定に制御されたシード光の波形を示す図である。
図7を参照して、シード光の波形の包絡線Eは時間に対する傾きが0である直線となる。
【0071】
図8〜
図10は、
図7に示した波形を有するシード光を光増幅ファイバで増幅することにより光増幅ファイバから出射される出射光(パルス列)の波形を示す図である。図
8は、光増幅ファイバの増幅度が小さい場合の出射光(パルス列)の波形を示す図である。図
9は、光増幅ファイバの増幅度が中程度である場合の出射光(パルス列)の波形を示す図である。図
10は、光増幅ファイバの増幅度が大きい場合の出射光(パルス列)の波形を示す図である。なお、光増幅ファイバの増幅度は光増幅ファイバに入射される励起光のパワーに応じて定まる。
【0072】
図8〜
図10には光増幅ファイバからの出射光である複数の光パルスの波形の包絡線(Ea〜Ec)を示す。包絡線Ea〜Ecの形状から分かるように、光ファイバの増幅度によらず、出射光パルスのピークパワーは次第に低下する。これは光増幅ファイバにパルス列が入射した際に、パルス列に含まれる複数の光パルスが順次増幅されることによって、コア(希土類元素の原子)に蓄積されたエネルギーが次第に減衰するためである。コア(希土類元素の原子)に蓄積されたエネルギーが大きいほど、光増幅ファイバの増幅度が大きくなる一方で、光増幅ファイバによって増幅された光パルスのピークパワーの減衰の度合いが大きくなる。したがってシード光パルスの包絡線Eが直線状の場合、光増幅ファイバの増幅度に従って包絡線Eの形状が大きく変化する。
【0073】
図6に示したように、シード光パルスの包絡線Eを時間に対して単調増加させることにより、光増幅ファイバの増幅度の低下による出射光のピークパワーの低下を補正できる。この結果、
図11に示すように出射光のピークパワーを安定させることができるので、出射光波形の包絡線Edを時間に対する傾きがほぼ0である直線とすることができる。
【0074】
なお、
図6は、シード光波形の一例を示したものである。複数の光パルスの包絡線の形状は、ユーザが所望する加工条件を満たすことが可能な所定の形状であればよい。したがって包絡線はたとえば直線、所定の関数に従う曲線等であってもよい。
【0075】
図12は、
図1に示したシードLD2を駆動するドライバ21の構成の他の例を示す図である。
図12を参照して、ドライバ21の構成は以下の点において
図4に示した構成と異なる。まず、ドライバ21は、D/Aコンバータ43から出力された電流Idacを電圧Vinに変換する電流−電圧変換器(I/V)61と、バイアス電圧Vbiasを発生させるバイアス電圧源62とをさらに備える。さらに、ドライバ21は、アンプ44に代えて差動アンプ44Aを備える。
【0076】
差動アンプ44Aは、電圧Vinがバイアス電圧Vbiasよりも大きい場合に、(Vin−Vbias)に対応する電圧V
LDを発生させる。バイアス電圧源62は、たとえばD/Aコンバータにより構成される。バイアス電圧源62は外部(たとえば制御装置20)からの制御により、電圧Vbiasを任意に設定できる。具体的にはバイアス電圧源62はバイアス電圧源62に入力されるデータに応じた電圧Vbiasを発生させる。電圧Vbiasが制御されることによって、トランジスタ46の制御電極に与えられる電圧V
LDおよびシードLD2に供給される駆動電流I
LDを制御することができる。
【0077】
図13は、
図12に示した電圧Vinの波形図である。
図13を参照して、1つの電圧パルスの幅(半値全幅)はtw1である。
【0078】
電圧Vinおよび電圧Vbiasが差動アンプ44Aに入力されることにより、電圧Vinのレベルが負方向にVbiasだけ低下する。これにより電圧V
LDのレベルが負方向にシフトする。
【0079】
図14は、
図12に示したドライバ21によって制御される電圧V
LDの波形図である。
図14および
図12を参照して電圧V
LDのパルス幅はtw2(tw2<tw1)となる。すなわち電圧V
LDのレベルシフトによって、電圧V
LDのパルス幅が小さくなる。
【0080】
電圧V
LDのパルス幅を小さくすることで駆動電流I
LDのパルス幅が小さくなる。駆動電流I
LDのパルス幅を小さくすることによって、シードLD2から発せられるシード光(パルス列)に含まれる複数の光パルスの各々のパルス幅が小さくなる。したがってレーザ加工装置から出力されるパルス列に含まれる複数の光パルスの各々のパルス幅を短くすることができる。なお、繰返し周期tprd等の他のパラメータは複数の光パルスのパルス幅とは独立に制御可能である。したがって、たとえば繰返し周期tprdを維持したまま光パルスのパルス幅のみを変更することもできる。
【0081】
図15は、電圧Vbiasが0であり、かつ電圧V
LDの周期が短い場合の電流I
LDの波形図である。
図16を参照して、トランジスタ46の応答などの理由により、電圧V
LDの周期が短くなると電流I
LDにオフセット成分が発生する。
【0082】
図16は、電圧Vbiasが所定値に設定された場合の電流I
LDの波形図である。
図16を参照して、電圧Vbiasによって電流I
LDのレベルを、電流I
LDのオフセット成分に対応する電流I
ofだけシフトさせることができる。すなわち電流I
LDのオフセット成分を減少させることができる。これにより、シード光にオフセット成分が含まれたとしても、そのオフセット成分を小さくすることができる。
【0083】
図12の構成によれば、電圧V
LDのパルス幅を変化させることによってシード光波形の振幅が変化する。しかし、光増幅ファイバによって増幅されたレーザ光(パルス列)のパワーは、励起光のパワーによって制御される。したがって本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置では、シード光波形の振幅を変更させてもよい。励起光のパワーを制御することによって、レーザ加工装置から出力されるレーザ光のパワー(パルス列に含まれる複数の光パルスの各々のピークパワー)を制御することができる。
【0084】
図17は、シードLD2を駆動するドライバ21の構成のさらに他の例を示す図である。
図17を参照して、ドライバ21は、差動増幅器の入力部と同様の回路構成を有する。詳細には、ドライバ21は、LDオン/オフ信号発生回路51と、包絡線発生回路52と、抵抗53と、トランジスタ54,55と、定電流回路部56とを含む。定電流回路部56は、トランジスタ57および抵抗58を含む。
【0085】
LDオン/オフ信号発生回路51は、トランジスタ54を制御するための制御信号PLDおよびトランジスタ55を制御するための制御信号/PLDを出力する。制御信号PLD,/PLDは相補の信号である。トランジスタ55はシードLD2と直列に接続される。
【0086】
包絡線発生回路52は、定電流回路部56(トランジスタ57)を制御するための信号Senvを出力する。
【0087】
図18は、
図17に示した構成を有するドライバ21の動作の説明図である。
図18および
図17を参照して、制御信号PLD,/PLDが相補の信号であるのでトランジスタ54,55は交互にオンする。したがってトランジスタ55は所定の繰返し期間ごとにオンする。さらに信号Senvに応じてトランジスタ57に流れる電流が制御される。これにより定電流回路部56に流れる電流が制御される。すなわち制御信号PLD,/PLDは誘導ブリルアン散乱が、光パルス群に含まれる複数の光パルスのいずれかによって生じることを抑制可能な所定の条件を、
図17に示した構成を有するドライバ21によって具体的に実現するためのものである。
【0088】
トランジスタ55がオンすると、シードLD2、トランジスタ55および定電流回路部56からなる電流経路を駆動電流ILDが流れる。この電流の大きさは信号Senvに従って定められる。トランジスタ55が所定の繰返し期間ごとにオンするので、駆動電流ILDはパルス状の電流となる。包絡線発生回路52により信号Senvの波形を所望の波形に設定することで、駆動電流ILDの波形の包絡線の形状に信号Senvの波形が反映される。これによりシードLD2から出射されるシード光の強度波形の包絡線の形状には信号Senvの波形が反映される。なお、信号Senvの波形は
図18に示される形状に限定されず、任意に設定可能である。
【0089】
図19は、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置による加工実験の結果の例を示した図である。
図19を参照して、実験ではシード光(パルス列)のパルス間隔tpを7ns,35ns,70nsに変更して、SUS(ステンレス鋼)および鉄の表面に印字を行なった。なお、この実験ではシード光のパルス間隔tpのみを変更した。パルス間隔を長くすることによって、SUSの加工状態を変えることができ、結果として、印字色を白から黒へと変化させることができる。
【0090】
図19に示したように、パルス間隔tpを変化させることによって、印字パターンの色が白と黒との間で変化する。したがって、たとえばレーザ光の一回の走査の間に、加工箇所に応じてパルス間隔tpを変化させることにより、加工対象物の表面に白黒パターンを作成できる。このような白黒パターンの作成方法を応用することにより、たとえば
図20に示されるような白色印字部と黒色印字部との両方が含まれる2次元コードを、一度の面加工によって作成できる。
図20に示したコードは、「QR Code」(登録商標)との文字列を示す。
【0091】
図20に示した2次元コードを従来の加工方法によって加工対象物(たとえば金属)の表面に作成する場合、まず、加工対象面全体を白地にするための加工を行ない、次に黒パターンを形成するための加工を行なう。これに対して本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置を用いる場合には、シード光のパラメータに関するデータ(シード光の波形データ)を予め作成する。ドライバ21はそのデータに従ってシードLD2を駆動する。さらに、レーザビーム走査機構14は、光ファイバ1,8によって増幅されたシード光を二次元方向に走査する。これにより、白色印字部と黒色印字部との両方を含むパターンを一度の面加工により作成できる。したがって本発明の実施の形態によれば、タクトタイムの向上を図ることができる。
【0092】
以上のように本発明の実施の形態によれば、シードLD2から複数の光パルスを含むパルス列を所定の周期で繰返し発生させることにより、レーザ加工装置100からパルス列(マルチパルス化されたレーザ光)を出力することができる。レーザ加工装置からパルス列を出力するために、1つの光パルスを複数の光パルスに分割するとともにそれら複数の光パルスを合成するという方法を用いた場合には、各光パルスの光路長の間に差を設ける必要があるとともに、各光パルスの光軸を完全に一致させる必要がある。このため、レーザ加工装置が大型化するとともにその構成が複雑となる。しかしながら本発明の実施の形態によれば、このような方法を用いずとも、所望の加工のためのレーザ光(パルス列)をレーザ加工装置から出力できるので、レーザ加工装置の大型化を回避できるとともに、その構成が複雑化することを回避できる。
【0093】
さらに、本発明の実施の形態によれば、ドライバ21は波形データに基づいてシードLD2を駆動する。波形データを変更することによって、シード光(パルス列)に関する複数のパラメータを互いに独立に変更できるので、シード光(パルス列)の制御に関する自由度を高めることができる。これにより、レーザ加工装置から出力されるレーザ光(パルス列)の制御に関する自由度を高めることができる。
【0094】
たとえば、
図19および
図20に示されるように、シード光に関する複数のパラメータのうちの1つのパラメータのみを変更するとともに他のパラメータを維持することによって所望の加工を実現できる。さらに本発明の実施の形態によれば、シード光に関する複数のパラメータから選択された任意の数のパラメータを変更することによって所望の加工を実現することも可能である。上述のように、このようなパラメータの変更は、ドライバ21に用いられる波形データを変更することで実現可能である。
【0095】
なお、本発明の実施の形態では、ドライバ21が波形データを用いてシードLD2を駆動することにより、シードLD2は、複数の光パルスを含むパルス列を所定の周期で発生させる。ただし、シード光源から複数の光パルスを含むパルス列を所定の周期で発生させるための方法は上記のように限定されるものではない。たとえばシード光源が発生した連続光をシャッタによってオン/オフすることにより複数の光パルスを含むパルス列をシード光として発生させてもよい。シャッタのオン/オフを繰返すことによって複数の光パルスを含むパルス列を発生させることができる。さらに、パルス列が発生する周期をシャッタのオン/オフの周期よりも長くすることによって、複数の光パルスを含むパルス列を所定の周期で発生させることができ、かつ複数の光パルスの時間間隔を、所定の周期よりも短くできる。この場合においても、装置の大型化、構成の複雑化を回避しつつ、複数の光パルスの時間間隔と、パルス列を発生させる周期とを互いに独立に制御できる。
【0096】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。