特許第5724233号(P5724233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724233
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】可動鉄心型リニアアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/16 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   H02K33/16 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-157507(P2010-157507)
(22)【出願日】2010年7月12日
(65)【公開番号】特開2012-23793(P2012-23793A)
(43)【公開日】2012年2月2日
【審査請求日】2013年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(74)【代理人】
【識別番号】100155309
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中川 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆良
(72)【発明者】
【氏名】福永 崇
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−135351(JP,A)
【文献】 特開2004−360747(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/081295(WO,A1)
【文献】 特開2002−078252(JP,A)
【文献】 特開2005−328655(JP,A)
【文献】 特開2006−014464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子を往復移動させる可動鉄心型リニアアクチュエータであって、
前記可動子を構成する鉄心と、この鉄心に対向する対向部を有する固定子コアと、この対向部に往復動方向に沿って配列され各々の鉄心に臨む側の面の磁極を反転させた対をなす永久磁石と、固定子コアに巻回されるコイルとを含んで構成される磁気回路を備え、コイルへの通電により生じる磁束が前記対をなす永久磁石のうち所要の方向に位置する磁石で生じる磁束を弱め、他方の磁石で生じる磁束を強めることにより可動子を往復移動させるとともに、コイルへの通電がなされている場合において永久磁石で生じる磁束によって固定子コアに対する可動子の相対位置に応じて変化する磁気バネのバネ力が前記コイルへの通電によって生じる電磁駆動力に重畳して可動子に作用するものであり、
前記コイルに通電されていない場合において、前記対をなす永久磁石のうちの一方の永久磁石、前記鉄心、他方の永久磁石、固定子コアを経て前記一方の永久磁石に戻るループ状の磁束経路が形成され、
当該ループ状の磁束経路の途中にある固定子コアの対向部の一部と永久磁石との間に、対向部の一部を切り欠いた状態にして固定子コアに比べて透磁率の低い空隙部を形成することで磁束分布を変更する磁気バネ調節部を構成し、この磁気バネ調節部により、前記固定子コアに対する前記可動子の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性を空隙部がない場合に比べて変化させていることを特徴とする可動鉄心型リニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記空隙部は、前記対向部のうち前記可動子の可動方向と同一である軸心方向両端部を残し、両端部に挟まれる部位を切り欠いた状態にして形成されている請求項1に記載の可動鉄心型リニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記空隙部は、前記対をなす永久磁石の境界線を中心として対称となるように形成されている請求項1又は2に記載の可動鉄心型リニアアクチュエータ。
【請求項4】
前記永久磁石は複数対をなしていて、各々の対をなす永久磁石のうち少なくとも一方の永久磁石と当該永久磁石に対向している対向部との間に前記空隙部が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の可動鉄心型リニアアクチュエータ。
【請求項5】
前記鉄心、前記対向部、前記対をなす永久磁石及び前記磁気バネ調節部を一つのユニットとし、ユニットが一対又は複数対をなしている場合に、各々の対をなすユニットのうち一方の磁気バネのバネ力が作用する方向と、他方の磁気バネのバネ力が作用する方向とが互いに逆方向になるように各々の磁気バネ調節部が構成されている請求項1〜4のいずれかに記載の可動鉄心型リニアアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復移動する可動子に磁気バネのバネ力を作用させる可動鉄心型リニアアクチュエータに係り、特にバネ特性の新たな態様を実現する可動鉄心型リニアアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロモータ等の可動鉄心型リニアアクチュエータは、例えば特許文献1に例示されるように、通電がなされることにより可動子を往復移動させる磁気回路を主体としている。磁気回路は、可動子を構成する鉄心と、この鉄心に対向する対向部を有する固定子コアと、この対向部に往復動方向に沿って配列され各々の鉄心に臨む側の面の磁極を反転させた対をなす永久磁石と、固定子コアに巻回されるコイルとを含んで構成されており、コイルへの通電により生じる磁束が対をなす永久磁石のうち所要の方向に位置する磁石で生じる磁束を弱め、他方の磁石で生じる磁束を強めることにより可動子を固定子コアに対して相対往復移動させるものである。
【0003】
さらに、磁気回路は、永久磁石で生じる磁束によって固定子コアに対する可動子の相対位置に応じて変化する磁気バネのバネ力を可動子に作用させる。コイルへの通電がなされている場合では、磁気バネのバネ力がコイルへの通電により生じる磁気駆動力に重畳して可動子に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−135351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、固定子コアに対する可動子の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性は、磁束分布や磁極ピッチにより決定されるものの、従来のリニアアクチュエータでは、これら磁束分布等を変更して磁気バネ特性を調節して設計することが難しい。
【0006】
リニアアクチュエータをピストンポンプ等の動力源として用いる場合は、高効率となる共振状態で往復動させるのが一般的であるものの、板バネ等の機械バネに負荷がかかり、機械バネの寿命が低減する不具合がある。しかも、共振運動に必要なバネ定数を得るにあたり、磁気バネは調整できずに固定であるので機械バネだけで対応する必要があり、機械バネに要するコストが増大する問題がある。
【0007】
また、リニアアクチュエータを位置決め装置や加振装置、リニアサーボモータ等の位置制御や力制御等の制御要素として用いる場合は、磁気バネのバネ力が制御の阻害要因や推力損失の原因となる。
【0008】
さらに上記に加えて、例えば機械バネ及び磁気バネを合わせたバネ定数を低減又は無くする等のバネ特性の新たな態様を実現するためには、機械バネ特性だけでなく磁気バネ特性の設計自由度が要求されるものの、上記のように磁気バネ特性を調節することが難しいので、その実現が難しいものである。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、製造コストを増大させることなく、磁気バネ特性を調節可能にすることを始めとしてバネ特性の新たな態様を実現する可動鉄心型リニアアクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0011】
すなわち、本発明の可動鉄心型リニアアクチュエータは、可動子を往復移動させるリニアアクチュエータであって、前記可動子を構成する鉄心と、この鉄心に対向する対向部を有する固定子コアと、この対向部に往復動方向に沿って配列され各々の鉄心に臨む側の面の磁極を反転させた対をなす永久磁石と、固定子コアに巻回されるコイルとを含んで構成される磁気回路を備え、コイルへの通電により生じる磁束が前記対をなす永久磁石のうち所要の方向に位置する磁石で生じる磁束を弱め、他方の磁石で生じる磁束を強めることにより可動子を往復移動させるとともに、コイルへの通電がなされている場合において永久磁石で生じる磁束によって固定子コアに対する可動子の相対位置に応じて変化する磁気バネのバネ力が前記コイルへの通電によって生じる電磁駆動力に重畳して可動子に作用するものであり、前記コイルに通電されていない場合において、前記対をなす永久磁石のうちの一方の永久磁石、前記鉄心、他方の永久磁石、固定子コアを経て前記一方の永久磁石に戻るループ状の磁束経路が形成され、当該ループ状の磁束経路の途中にある固定子コアの対向部の一部と永久磁石との間に、対向部の一部を切り欠いた状態にして固定子コアに比べて透磁率の低い空隙部を形成することで磁束分布を変更する磁気バネ調節部を構成し、この磁気バネ調節部により、前記固定子コアに対する前記可動子の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性を空隙部がない場合に比べて変化させていることを特徴とする。
【0012】
このように、固定子コアの対向部を切り欠いた状態にして空隙部を形成するだけで、固定子コアに対する可動子の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性が所望の特性となるように調節可能であるので、アクチュエータを動力源として用いる場合には、機械バネにかかる負担を磁気バネに分散するように磁気バネ特性を調節して、機械バネの寿命を向上させることが可能となるうえ、共振運動に必要なバネ定数を得るにあたり、磁気バネ及び機械バネの双方のバネで対応して機械バネに要するコストを低減させることが可能となる。さらに、アクチュエータを制御要素としても用いる場合には、磁気バネのバネ力が低減するように磁気バネ特性を調節して、磁気バネのバネ力が制御の阻害要因や推力損失の原因となることを低減して制御精度や効率を向上させることが可能となる。しかも、磁気バネ調節部により磁気バネ特性を調節可能であるので、例えば機械バネ及び磁気バネを合わせたバネ定数を低減又は無くする等のバネ特性の新たな態様を実現することが可能となる。
【0013】
制御精度や効率を向上させるためには、前記空隙部は、前記対向部のうち前記可動子の可動方向と同一である軸心方向両端部を残し、両端部に挟まれる部位を切り欠いた状態にして形成されていることを好ましい。
【0014】
対をなす永久磁石の境界線における磁気バネのバネ力を変更することなく、制御精度や効率を向上させるためには、前記空隙部は、前記対をなす永久磁石の境界線を中心として対称となるように形成されていることが望ましい。
【0015】
通電により可動子を往復動させる電磁駆動力を増大させるために永久磁石が複数対をなす構成にした場合であっても磁気バネ特性を調節可能とするためには、前記永久磁石は複数対をなしていて、各々の対をなす永久磁石のうち少なくとも一方の永久磁石と当該永久磁石に対向している対向部との間に前記空隙部が形成されていることが挙げられる。
【0016】
鉄心、対向部、対をなす永久磁石及び磁気バネ調節部から構成される単一のユニットで実現できる磁気バネ特性に制約がある場合であっても、磁気バネ特性の調節自由度を向上させるためには、前記鉄心、前記対向部、前記対をなす永久磁石及び前記磁気バネ調節部を一つのユニットとし、ユニットが一対又は複数対をなしている場合に、各々の対をなすユニットのうち一方の磁気バネのバネ力が作用する方向と、他方の磁気バネのバネ力が作用する方向とが互いに逆方向になるように各々の磁気バネ調節部が構成されていることが挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上説明したように、固定子コアの対向部を切り欠いた状態にして空隙部を形成するだけで磁気バネ特性が調節可能となるので、アクチュエータを動力源として用いる場合には、磁気バネのバネ力を所要の値に調節することで機械バネの寿命の向上や機械バネに要するコストを低減させることが可能となる。さらに、アクチュエータを制御要素として用いる場合には、磁気バネのバネ力を低減させることで、バネ力が制御の阻害要因や推力損失の原因となることを低減して制御精度や効率を向上させることが可能となる。しかも、例えば機械バネ及び磁気バネを合わせたバネ定数を低減又は無くするといったバネ特性の新たな態様を実現することが可能となる。したがって、製造コストの削減や制御精度の向上、高効率化等に適した可動鉄心型リニアアクチュエータを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る可動鉄心型リニアアクチュエータを一部破断して示す斜視図。
図2】同リニアアクチュエータを示す縦断面図。
図3】コイルへの通電により可動子を往復移動させる動作に関する説明図。
図4】永久磁石の磁束により生ずる磁気バネのバネ力に関する説明図。
図5】固定子コアに対する可動子の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性に関する説明図。
図6】空隙部を形成する場合の磁気バネ特性と空隙部がない場合の磁気バネ特性とを比較して示す説明図。
図7】本発明の他の実施形態に係るリニアアクチュエータを示す縦断面図。
図8】本発明の上記以外の実施形態に係るリニアアクチュエータを一部破断して示す斜視図。
図9図8に対応するリニアアクチュエータを示す縦断面図。
図10】本発明の上記以外の実施形態に係るリニアアクチュエータを示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態の可動鉄心型リニアアクチュエータは、軸心を通る縦断面図である図1及び図2に示すように、固定子1の径方向外側に可動子2を配置するアウターロータ型のリニアアクチュエータであり、略筒状をなし軸心方向(X方向)に沿って往復移動可能な可動子2と、この可動子2の内部に配置される固定子1と、この可動子2を軸心方向(往復動方向)に沿って往復移動させる磁気回路mcとを有している。なお、径方向外側は、軸心から遠ざかる方向をいい、径方向内側は、軸心に近づく方向をいうのであって、図に示されているように可動子や固定子の形状が円柱や円筒に限られることを意味するものではない。
【0021】
可動子2は、図1で一部分詳細に示すように、複数の可動子コア板2sを積層して固定することで略筒状をなす鉄心20を主体として構成されており、その内壁20aから径方向内側に向けて延出する一対の極部20b・20bが形成されている。また、可動子2は、その軸心方向両側を図示しない板バネ等の機械バネ部に支持させることにより、軸心方向に沿った往復移動を可能としている。
【0022】
固定子1は、軸心部10aから径方向外側に向けて突出する一対の突極部10b・10bが形成される固定子コア10と、この固定子コア10の突極部10b・10bに巻回されるコイル11と、突極部10bのうち上記鉄心20の極部20bに対向する対向部10c(対向面)に軸心方向(往復動方向)に沿って配列され各々の鉄心20に臨む側の面の磁極を反転させた一対の永久磁石12(12a,12b)とを有している。固定子コア10は、図1で一部詳細に示すように、上記可動子2を構成する鉄心20と同様に複数の固定子コア板10sを積層配置して固定することで構成されている。
【0023】
磁気回路mcは、上記の鉄心20と、固定子コア10と、対をなす永久磁石12(12a・12b)と、コイル11とを含んで構成されるもので、コイル11への通電によって可動子2を往復移動させるものである。本実施形態では、磁気回路mcを構成する複数の要素部品のうち可動子2を構成する要素部品を鉄心20のみとして可動鉄心型のアクチュエータを構成している。具体的には、コイル11に通電されていない場合は、図3(a)に示すように、対をなす永久磁石12a・12bにより一方の永久磁石12a、鉄心20、他方の永久磁石12b、固定子コア10を経て一方の永久磁石12aに戻るループ状の磁束経路rtが形成され、可動子2の往復動方向両側に互いに向きの異なる磁束mf1・mf2が発現する。この場合、コイル11へ正方向に通電を行うと、図2及び図3(b)に示すように、コイル11への通電により磁束mfが生じ、永久磁石12で生じる二つの磁束mf1・mf2のうちコイル11による磁束mfと同方向である磁束mf1が強まり他方の磁束mf2が弱まり、電磁駆動力F1が可動子2(鉄心20)に作用して可動子2が磁束の強まる方向(X1方向)へ移動する。一方、コイル11へ逆方向に通電した場合には、図3(c)に示すように、その逆の方向(X2方向)に電磁駆動力F2が作用してX2方向に可動子2が移動する。すなわち、磁気回路mcは、コイル11への通電により生じる磁束mfが対をなす永久磁石12a・12bのうち所要の方向に位置する磁石12a(12b)で生じる磁束mf2(mf1)を弱め、他方の磁石12b(12a)で生じる磁束mf1を強めることにより可動子2に電磁駆動力F1(F2)を作用させて可動子2を往復移動させるものである。
【0024】
さらに、磁気回路mcは、永久磁石12で生じる磁束によって固定子コア10に対する可動子2の相対位置に応じて変化する磁気バネのバネ力を可動子2に作用させる。すなわち、図4(a)において磁束密度を線の間隔で模式的に示すように、可動子2の往復動方向両側の磁束密度が等しい位置ps1に可動子2がある場合に、図4(b)に示すように、例えば可動子2をX2方向に変位させるほど、X2方向側の磁束経路が広くなる一方で、X1方向側の磁束経路が狭くなることから、X2方向側の磁束密度が弱まり、X1方向側の磁束密度が強くなる。この場合、可動子2の往復動方向両側の磁束密度が等しくなる位置ps1へ移動するように可動子2に対して磁気バネのバネ力F3が作用する。この磁気バネのバネ力F3は、図5に示すように固定子コア10に対する可動子2の相対位置(可動子の可動範囲の中心からの変位量)に応じて大きさ及びその向きが変化するものであり、磁束密度や磁束分布、鉄心と永久磁石との間の磁極ピッチ等により決定される。なお、この永久磁石12による磁気バネのバネ力F3は、コイル11への通電がなされている場合では、コイル11への通電により生じる磁気駆動力F1,F2に重畳して可動子2に作用する。
【0025】
ところが、磁気バネのバネ力と固定子コア10に対する可動子2の相対位置との関係である磁気バネ特性は、磁束分布や磁極ピッチ等により決定されるものの、これら磁束分布等を変更して磁気バネ特性を調整して設計することが難しいものである。特に製造コストの増大を伴わずに磁気バネ特性の調整自由度を向上させることは困難である。
【0026】
そこで、本実施形態では、図1及び図2に示すように、磁束経路である固定子コア10の対向部10cの一部と永久磁石12との間に、対向部10cの一部を切り欠いた状態にして固定子コア10に比べて透磁率の低い空隙部30を形成することで磁束分布を変更している。この空隙部30は、対向部10cのうち可動子2の可動方向と同一である軸心方向両端部10e・10eを残し、両端部10e・10eに挟まれる部位を切り欠いた状態にして形成されて、永久磁石12a・12bと対向部10cとの間の深さが一定になるように設定されている。両端部10e・10eは、対をなす永久磁石12a・12bにそれぞれ接触している。対をなす永久磁石12a・12bの境界線は、可動子の可動範囲の中心であり、空隙部30は、対をなす永久磁石12a・12bの境界線を中心として対称になるように形成されている。
【0027】
このような空隙部30を形成すると、軸心方向中央部にある空隙部30に比べて軸心方向両側にある両端部10e・10eの方が高い透磁率であり、両端部10e・10eに磁束が集中して、軸心方向両端側での磁束が強くなり、両端部に挟まれる軸心方向中央部での磁束が弱くなる。この磁束分布によって可動子が軸心方向(往復動方向)中央部にとどまろうとする力が低減するので、図6に示すように、可動子2の変位に対する磁気バネのバネ力の変化量(傾き)が、可動子の可動範囲の中心でのバネ力を維持した状態で可動子の可動範囲全域に亘って低減する。
【0028】
このように、空隙部30を形成することで磁束分布を変更する磁気バネ調節部3を構成し、この磁気バネ調節部3により、図6に示すように、固定子コア10に対する可動子2の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性を空隙部30がない場合に比べて変化させている(図6参照)。磁気バネ特性は、空隙部30の軸心方向の寸法や軸心方向に直交する寸法、深さ等の形状や、配置位置、形成する個数等を種々変更することで調節可能である。例えば、空隙部30の底面が軸心に対して傾斜するように形成することや、空隙部30の寸法や深さが軸心に沿って変化するように形成することが挙げられる。
【0029】
以上のように本実施形態の可動鉄心型リニアアクチュエータは、可動子2を往復移動させるリニアアクチュエータであって、可動子2を構成する鉄心20と、この鉄心20に対向する対向部10cを有する固定子コア10と、この対向部10cに往復動方向に沿って配列され各々の鉄心に臨む側の面の磁極を反転させた磁極が異なる対をなす永久磁石12(12a・12b)と、固定子コア10に巻回されるコイル11とを含んで構成される磁気回路mcを備え、コイル11への通電により生じる磁束mfが対をなす永久磁石12a・12bのうち所要の方向に位置する磁石12a(12b)で生じる磁束mf2(mf1)を弱め、他方の磁石12b(12a)で生じる磁束mf1(mf2)を強めることにより可動子2を往復移動させるとともに、コイル11への通電がなされている場合において永久磁石12で生じる磁束によって固定子コア10に対する可動子2の相対位置に応じて変化する磁気バネのバネ力がコイル11への通電によって生じる電磁駆動力F1(F2)に重畳して可動子2に作用するものであり、磁束経路である固定子コア10の対向部10cの一部と永久磁石12との間に、対向部10cの一部を切り欠いた状態にして固定子コア10に比べて透磁率の低い空隙部30を形成することで磁束分布を変更する磁気バネ調節部3を構成し、この磁気バネ調節部3により、固定子コア10に対する可動子2の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性を空隙部30がない場合に比べて変化させている。
【0030】
このように、固定子コアの対向部を切り欠いた状態にして空隙部を形成するだけで、固定子コア10に対する可動子2の相対位置と磁気バネのバネ力との関係である磁気バネ特性が所望の特性となるように調節可能であるので、アクチュエータを動力源として用いる場合には、機械バネにかかる負担を磁気バネに分散するように磁気バネ特性を調節して、機械バネの寿命を向上させることが可能となるうえ、共振運動に必要なバネ定数を得るにあたり、磁気バネ及び機械バネの双方のバネで対応して機械バネに要するコストを低減させることが可能となる。さらに、アクチュエータを制御要素としても用いる場合には、磁気バネのバネ力が低減するように磁気バネ特性を調節して、磁気バネのバネ力が制御の阻害要因や推力損失の原因となることを低減して制御精度や効率を向上させることが可能となる。しかも、磁気バネ調節部3により磁気バネ特性を調節可能であるので、例えば機械バネ及び磁気バネを合わせたバネ定数を低減又は無くする等のバネ特性の新たな態様を実現することが可能となる。
【0031】
さらに、本実施形態では、空隙部30は、対向部10cのうち可動子2の可動方向と同一である軸心方向両端部10e・10eを残し、これら両端部10e・10eに挟まれる部位を切り欠いた状態にして形成されているので、軸心方向中央部にある空隙部30に比べて軸心方向両側にある両端部10e・10eの方が高い透磁率であり、両端部10e・10eに磁束が集中して、軸心方向両端側での磁束が強くなり、両端部に挟まれる軸心方向中央部での磁束が弱くなり、可動子が軸心方向(往復動方向)中央部にとどまろうとする力が低減するので、可動子2の変位に対する磁気バネのバネ力の変化量(図6で示す傾き)が低減し、可動子の移動制御を容易として制御精度を向上させることができる。しかも、磁気バネのバネ力が減少するので、磁気バネのバネ力で生じる推力損失が低減し、効率を向上させることが可能となる。
【0032】
加えて、本実施形態では、空隙部30は、対をなす永久磁石12a・12bの境界線を中心として対称となるように形成されているので、対をなす永久磁石の境界線における磁気バネのバネ力を変更することなく、上記の制御精度や効率の向上の効果を奏することが可能となる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0034】
例えば、図7に示すように、空隙部130を、対をなす永久磁石12a・12bのうち一方の永久磁石12bに対向する対向部110cにのみ形成し、対向部110cの軸心方向両端部110e・110eで空隙部130を挟み込むように構成することが挙げられる。このように構成すると、軸心方向両側で磁束のアンバランスが生じ、磁気バネのバネ力がX2方向に全体的に偏るものの、上記の実施形態と同様に可動子2の変位に対する磁気バネのバネ力の変化量(図6で示す傾き)が低減するという効果を得られる。
【0035】
さらに、図8及び図9に示すように、可動子202を構成する鉄心220、固定子コア210の対向部210c及び対をなす永久磁石212a・212bを一つのユニットとし、一つのユニットを軸心方向に沿って複数設けて永久磁石212a・212bが複数対をなすように構成し、各々のユニットを構成する対をなす永久磁石212a・212bとこれら永久磁石212a・212bに対向している対向部210cとの間に空隙部230が形成されていることが挙げられる。空隙部230は、各々の対をなす永久磁石212a・212bの境界線を中心に対称となるように形成され、軸心方向両側から対をなす端部210e・210eで挟み込まれている。このように構成すると、通電により可動子2を往復動させる電磁駆動力を増大させるために永久磁石212a・212bが複数対をなす構成にした場合であっても、可動子2の変位に対する磁気バネのバネ力の変化量(図6で示す傾き)を低減させるように磁気バネ特性を調整することが可能である。
【0036】
加えて、図10に示すように、可動子302を構成する鉄心320、固定子コア310の対向部310c、各々の対をなす永久磁石312a・312b及び磁気バネ調節部303を一つのユニットとし、一つのユニットを軸心方向に沿って複数設けてユニットが一対又は複数対をなすように構成し、対をなすユニットのうち一方のユニットを構成する空隙部330がX2方向側の永久磁石312aに対向する対向部310cにのみ形成され、他方のユニットを構成する空隙部330がX1方向側の永久磁石312bに対向する対向部310cにのみ形成されている。すなわち、各々の対をなすユニットのうち一方の磁気バネのバネ力が作用する方向と、他方の磁気バネのバネ力が作用する方向とが互いに逆方向になるように各々の磁気バネ調節部303が構成されている。このように構成すると、単一のユニットで実現できる磁気バネ特性に例えばバネ力を低減させる限界等の制約がある場合であっても、各々の磁気バネのバネ力が作用する方向を互いに逆方向にすることで、全てのユニットの磁気バネ特性を合わせた全体での磁気バネ特性を所望のバネ特性にすることができる場合があり、磁気バネ特性の調整自由度を向上させることができる場合がある。
【0037】
また、上述した可動子2を往復動可能に支持する図示しない板バネ等の機械バネ部は、固定子コア10に対する可動子2の相対位置に応じて変化する付勢力を可動子2に作用させるものであり、可動子2の可動範囲において機械バネの付勢力が作用する方向に対し逆方向に磁気バネのバネ力が作用するように空隙部を形成する構成が挙げられる。このように構成すると、機械バネの付勢力が磁気バネのバネ力により弱まり又は打ち消され、機械バネ及び磁気バネを合わせたバネ定数を低減又は無くした新たなバネ特性を備えたリニアアクチュエータを提供することが可能となる。
【0038】
加えて、本実施形態では、アウターロータ型のリニアアクチュエータを例として説明しているが、勿論、軸心を中心として固定子1の径方向内側に可動子2を配置するインナーロータ型のリニアアクチュエータにも適用可能である。
【0039】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0040】
10、110、210、310…固定子コア
10c、110c、210c、310c…固定子コアの対向部
11…コイル
12a・12b、112a・112b、212a・212b、312a・312b…対をなす永久磁石
10e、110e、210e、310e…固定子コアの両端部
2、202、302…可動子
20、220、320…鉄心
3、303…磁気バネ調節部
mc…磁気回路
mf…コイル通電で生じる磁束
mf1、mf2…永久磁石による磁束
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10