(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
版式印刷は、インクの色毎に版を作成して多色印刷するため、同一画像のシームレス缶を大量生産する場合に効率的であるが、印刷デザインを変更する場合には、新たに版を製造する必要があることから、デザイン変更に長期間を要し、印刷デザインの自由度がなく、限られた種類のデザインしか印刷できないという問題があった。
一方、インクジェット印刷は版を必要としないことから製版コストがかからず、しかも短期間に印刷デザインを自由に変更できるバリアブル(可変)性を有すると共に、インクを厚盛することができるので、深みのある画像を形成することができ、写真等の高精細な画像の再現性に優れているという利点を有している。しかしながら、その印刷方式の原理がインクヘッドから噴射されたインクの液滴を着弾させるものであることから、ベタ印刷の濃度の再現性に劣る(以下に「ベタ部かすれ」と呼称する場合がある)と共に、ヘッド幅や液滴吐出周波数の制約があることから、印刷速度に限界があるという問題があった。
【0006】
またシームレス缶は、飲料缶や美術缶として外面が同一デザインで大量生産される一方、小ロット多品種的な異なったデザインも求められており、ベタ印刷の濃度の再現性に優れていると共に、印刷デザインの自由度が大きく、小ロット多品種のデザインを有する印刷シームレス缶を短期間で提供し得る印刷シームレスの製造方法が望まれている。
版式印刷及びインクジェット印刷を組み合わせて成る印刷方式においては、上述した版式印刷及びインクジェット印刷のそれぞれの利点を併せ持つことが期待されているが、それぞれの印刷画像の位置決めが難しく、画像の重なり部分において鮮明な画像を得ることができない等の問題があり、未だ充分満足するものではなかった。
【0007】
従って本発明の目的は、ベタ印刷の濃度の再現性及び画像の鮮明性に優れていると共に、小ロット多品種的なデザインが施された印刷シームレス缶を提供することである。
本発明の他の目的は、小ロット多品種のデザインを有する印刷シームレス缶を短期間で提供可能なバリアブル性を有すると共に、ベタ印刷の濃度の再現性及び画像の鮮明性に優れた印刷シームレス缶を生産性よく製造可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、シームレス缶外面の少なくとも胴部に、少なくとも印刷層及び仕上げニス層が形成されてなる印刷シームレス缶において、前記印刷層が、版式印刷による画像及びインクジェット印刷による画像から成り且つ仕上げニス層によって被覆されて
おり、該版式印刷による画像の一部に、インクジェット印刷のための缶位置決め用の合わせマークが形成されていることを特徴とする印刷シームレス缶が提供される。
本発明の印刷シームレス缶においては、
1.シームレス缶が、外面にホワイトコート層が形成されていること、
2.印刷層の下層としてアンカーコート層が形成されていること、
3.印刷層が、版式印刷による画像上にインクジェット印刷による画像が形成された重なり部分を有すること、
4
.缶位置決め用の合わせマークが、缶と蓋の巻締め工程後に巻締め内に隠れる位置に形成されていること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、シームレス缶外面の少なくとも胴部に、版式印刷及び
該版式印刷を行った後にインクジェット印刷を行うことにより印刷層を形成し、次いで仕上げニスを施すことにより印刷層上に仕上げニス層を形成する
印刷シームレス缶の製造方法であって、前記版式印刷による画像の一部に、インクジェット印刷のための缶位置決め用の合わせマークが形成されていることを特徴とする印刷シームレス缶の製造方法が提供される。
本発明の印刷シームレス缶の製造方法によれば、
1.インクジェット印刷による画像の硬化が、インクジェットによる各色のインクの供給毎の仮硬化と共に、全色供給後の本硬化によって行われること、
2.仮硬化が、各色のインクの供給と同時、或いは各色のインクの供給の直後且つ次の色のインクの供給の前にそれぞれ行われること、
3
.インクジェット印刷が、版式印刷による画像との重なり部分を形成するように行われること、
4.版式印刷よる画像の仮焼付を、インクジェット印刷前に行うこと、
5.シームレス缶が、外面にホワイトコート層及び/又はアンカーコート層を有すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の印刷シームレス缶においては、版式印刷及びインクジェット印刷を組み合わせで使用することにより、版式印刷によるベタ印刷の濃度の再現性に優れた画像及びインクジェット印刷による可変可能な画像の組み合わせが可能であり、版式印刷のみでは対応できなかった小ロット多品種のデザインに対応することが可能であると共に、インクジェット印刷のみでは困難であった優れた画像濃度の再現性を実現することが可能になった。
また本発明の印刷シームレス缶では、先に行う印刷を仮硬化するために仮焼付けを行うことにより、画像の重なり部分を有する場合でも、インクの滲みがなく、鮮明な画像を有するシームレス缶を提供することができる。
本発明の印刷シームレス缶においては、接触式の印刷方式である版式印刷に非接触のインクジェット印刷を組み合わせると共に、版式印刷による画像を仮硬化することにより、版式印刷による画像の上にインクジェット印刷による画像が形成された印刷画像を滲みなく鮮明に形成することもできる。
更に、本発明の印刷シームレス缶においては、下地的な画像と絵柄的な画像を組み合わせで、しかも重なりを有するように形成することができ、下地的な画像と絵柄的な画像の組み合わせは勿論、絵柄的な画像同士を組み合わせることによって、印刷シームレス缶に加飾的な効果を付与することができ、商品価値を向上することが可能となる。
【0011】
本発明の印刷シームレス缶の製造方法においては、版式印刷によるベタ印刷の濃度の再現性に優れた画像及びインクジェット印刷による可変可能な画像の両方を兼ね備えたシームレス缶を生産性よく製造することができる。
また本発明の印刷シームレス缶の製造方法においては、版式印刷の部分は版替えすることなく同じデザインで、インクジェット印刷による部分の画像のみを変化させることにより、印刷シームレス缶のデザイン変更を短期間で容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(印刷シームレス缶の製造方法)
本発明の印刷シームレス缶の製造方法においては、シームレス缶外面の少なくとも胴部に、版式印刷及びインクジェット印刷を行うことにより印刷層を形成し、次いで仕上げニスを施すことにより印刷層上に仕上げニス層を形成することが重要な特徴である。
本発明において、シームレス缶への版式印刷及びインクジェット印刷を行う順序は特に問わず、デザインに応じて適宜決めることができる。
また版式印刷及びインクジェット印刷をそれぞれ独立した印刷装置で行うこともできるし、版式印刷及びインクジェット印刷が同一装置内で行われる複合装置(以下、「ハイブリッド装置」ということがある)で行うこともできる。
【0014】
図1及び
図2は、独立した版式印刷装置(A)及びインクジェット印刷装置(B)を用いて行う印刷方法を説明する図であり、
図1においては、版式印刷装置(A)で版式印刷を行った後、版式印刷の画像を有するシームレス缶はインクジェット印刷装置(B)に搬送されて、インクジェット印刷及び仕上げニス塗装が行われる。また、
図2においては、インクジェット印刷を行った後、版式印刷及び仕上げニス塗装が行われる。
また
図3及び
図4は、版式印刷及びインクジェット印刷が同一装置内で行われるハイブリッド装置による印刷方法を説明する図であり、
図3においては、マンドレルに装着されたシームレス缶はまず版式印刷に付され、次いでインクジェット印刷及び仕上げニス塗装に付される。また
図4においては、マンドレルに装着されたシームレス缶はまずインクジェット印刷に付され、次いで版式印刷及び仕上げニス塗装に付される。
尚、
図1乃至4の何れの場合においても、図中に記載されている通り、後述する仮焼付けや位置決めが採用されている。
【0015】
本発明の印刷シームレス缶の製造方法においては、上述した何れの順序で印刷を行うこともできるが、位置決めの容易性や、インクジェット印刷による重ね塗り等のデザイン性の点から版式印刷を先に行うことが特に好ましい。
またこの場合、後述するように、先にシームレス缶上に形成された画像を仮硬化させてインクの広がりを抑制しておくことが好ましく、これにより、画像の重なる部分のインクの滲みが防止され、鮮明な画像を得ることが可能になる。
更に、版式印刷及びインクジェット印刷を、別々の印刷装置及び同一の印刷装置で行う場合のいずれにおいても、所期の印刷画像を得るためには、次の印刷の前に位置決めを行うことが重要であることから、先に行う印刷によって位置決め用の合わせマークを形成しておき、次いで行う印刷の前に該位置決め用の合わせマークを検出して、シームレス缶を装着したマンドレルの回転を制御することによってシームレス缶の位置を合わせ、所期の印刷画像を再現性よく形成することが可能になる。
尚、位置決め用の合わせマークは、一箇所に形成するだけでなく、複数個所設けることもできるし、また位置決め用の特別なマークを形成することなく、印刷画像の一部を位置決め用の合わせマークとして、位置合せに用いることも勿論できる。
【0016】
[版式印刷]
本発明の印刷シームレス缶の印刷に採用される版式印刷は、従来シームレス缶の印刷に採用されていた凸版、平版等を用いた印刷方式を採用することができ、中でも特にオフセット印刷を好適に採用することができる。
オフセット印刷は、
図1乃至
図4に示したように、インク供給ユニット1から版胴2上の凸版等の刷版(図示せず)に印刷インクを供給し、刷版の網点及び画像部の上のインクをブランケット3に転移させる。ブランケット3上に転写された各色のインクをマンドレル4に装着したシームレス缶に転移させることで、版式印刷済みシームレス缶が得られる。
版式印刷をインクジェット印刷の前に行う場合には、インクジェット印刷を行う前に、仮焼付けによりインクを仮硬化させておくことが好ましく、これにより、インクジェット印刷との画像の重なり部分での滲みの発生を防止することができる。
尚、版式印刷を先に行う場合、版式印刷による画像の一部に、インクジェット印刷のための缶位置決め用の合わせマークが形成されていることが好ましく、特にこのマークは缶と蓋の巻締め工程後に巻締め内に隠れる位置に形成されていることが望ましい。
本発明において、版式印刷に用いる印刷インクとしては、従来シームレス缶の印刷に用いられていた印刷インクを用いることができるが、特に熱乾燥型(溶剤型)のインクを用いることが好ましい。尚、版式印刷を行った後に、インクジェット印刷を行う場合、必ずしも必要ではないが、インク濃度などによっては、インクジェット印刷を行う前に仮焼付けを行うことが望ましい。これにより、インクの広がりが抑制され、鮮明な画像を得ることができる。
【0017】
[インクジェット印刷]
本発明の印刷シームレス缶の印刷に採用されるインクジェット印刷は、従来シームレス缶の印刷に採用されていた印刷方式を採用することができる。
インクジェット印刷は、
図1乃至
図4に示したように、ホワイト(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各インクに対応するインクジェットヘッド10から順次各インクの液滴を噴射し、マンドレル4に装着されたシームレス缶上に印刷画像を形成する。尚、各色のインクジェットヘッドの配置は、図に示した例に限定されるものではなく、任意の順序をとることができる。
【0018】
インクジェット印刷においては、版式印刷による画像及び仕上げニスの加熱硬化と同時に行われる本硬化を行う前に、仮焼付けによりインクを仮硬化させておくことが好ましく、これにより、シームレス缶のようなインクの吸収のない被印刷物であっても、インクが広がって滲んだりすることがなく、シャープな画像を形成することが可能となる。
図5乃至
図8は、インクジェット印刷における仮焼付けのタイミングを説明するための図であり、仮焼付けのタイミングは、所期の画像やインクジェット印刷に用いるインクの種類等によって好適なタイミングがあり、
図5乃至
図8に示すように、(i)全ての色のインクの供給後(
図5)、(ii)各インクの供給の直後(
図6)、(iii)各インクの供給後、次のインクの供給前の間(
図7)、或いは(iv)白色インクの供給直後及び全色供給後の2回(
図8)、に仮硬化することが好ましい。尚、
図5乃至
図8は、いずれも版式印刷が先に行われ、版式印刷の画像の仮硬化を行った後に、インクジェット印刷が行われる態様になっているが、インクジェット印刷の仮硬化のタイミング自体は、インクジェット印刷が先に行われる場合でも、
図5乃至
図8に示す場合と同様である。
すなわち、インクジェット印刷用のインクを用いる場合には、上述した(i)〜(iv)の何れのタイミングで仮焼付けを行ってもよいが、経済性の点から、上記(i)のタイミングで行うことが好ましい。
更に後述するようにシームレス缶にホワイトコート層が形成されていない場合には、インクジェット画像を鮮明にするために、白色のインクジェット印刷によって、白色ベタ層を形成しておくことが好ましく、このため最初に供給される白色インクを仮焼付けし、次いで各色のインクを該白色インク上に供給し、仕上げニスの塗装前に再度仮焼付けを行う、上記(iv)のタイミングで仮焼付けを行うことが好ましい。
尚、
図5乃至
図8に示したインクジェット印刷の仮焼付けのタイミングは、前述した
図1乃至
図4に示した装置のインクジェット印刷にいずれも適用できる。
【0019】
本発明において、インクジェット印刷に用いる印刷インクとしては、従来シームレス缶へのインクジェット印刷に用いられていた、熱乾燥型インク、熱硬化型インク、紫外線硬化型インク、電子線硬化型インク等を使用できるが、特に焼付に関わる設備コストが安価である点から、熱乾燥型インクを好適に使用できる。
熱乾燥型インクには水性タイプ、油性タイプ、溶剤タイプなどがあるが、硬化に要する時間が短いことから溶剤タイプが好適である。
またインクジェット印刷に使用するヘッドの方式としては、静電方式、ピエゾ方式、バブルジェット方式などが知られているが、本発明においては制限なく使用できる。
【0020】
[仕上げニス塗装]
本発明の印刷シームレス缶の製造方法においては、版式印刷及びインクジェット印刷による画像形成後、
図1乃至
図4に示すように、仕上げニスを塗装する。
本発明においては、版式印刷による画像及びインクジェット印刷による画像の両方を仕上げニスで覆うことが重要な特徴であり、これにより印刷シームレス缶がレトルト殺菌や巻き締め加工等の加工に付された場合、あるいは搬送等でこすれた場合においても、印刷画像の密着性に優れていると共に、印刷シームレス缶の耐傷付き性が確保される。
本発明の印刷シームレス缶の製造に用いられる仕上げニスとしては、従来より印刷シームレス缶のトップコートとして用いられていた透明塗料を用いることができるが、特に、熱硬化型の塗料を好適に用いることができる。
仕上げニスを塗装した後、仕上げニスの焼付けと同時に、版式印刷の画像、及びインクジェット印刷に熱硬化型インクを使用した場合には、インクジェット印刷の画像の本焼付けを行うことにより、本発明の印刷シームレス缶が作成される。
【0021】
[シームレス缶]
本発明の印刷シームレス缶の製造方法において、印刷が施されるシームレス缶としては、これに限定されないが、ティンフリースチール(TFS)などの各種表面処理鋼板やすずめっき等の各種メッキ鋼板、アルミニウム等の軽金属板、或いはこれらの金属板にポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂から成る被覆が形成された樹脂被覆金属板を、絞り・再絞り加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工、軽金属板のインパクト加工等の従来公知の手段に付すことによって製造されたシームレス缶を用いることができる。
【0022】
またシームレス缶の外面には、ホワイトコート層を形成しておくことが、金属板の地色を隠蔽し、印刷画像を鮮明に形成できるので好ましい。
更に、上記ホワイトコート層の上、或いはホワイトコート層が形成されない場合は、シームレス缶外面上にアンカーコート層を形成しておくことが望ましい。このアンカーコート層を形成することにより、インクジェット印刷による画像が強固に保持固定され、印刷画像の密着性が向上される。またアンカーコート層を設けることによりインクジェットインクの滲みを軽減することができる。
アンカーコート層は、従来公知の方法により形成することができ、熱硬化性、紫外線硬化性又は電子線硬化性の透明な、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を所定の溶剤に分散乃至溶解した塗布液を塗布・乾燥し、次いで加熱、紫外線照射、電子線照射等により硬化することにより形成できる。これらの中でも樹脂の選択範囲が広いことから熱硬化性樹脂を加熱硬化する方法が好適である。
またホワイトコート層は、上記アンカーコート層の形成に用いられる樹脂として例示した樹脂から成る塗布液に二酸化チタン等の白色顔料を含有させることにより、同様に形成することができるが、好適には熱硬化性樹脂を溶剤に分散又は溶解して成る塗布液を加熱硬化する方法が好適である。
ホワイトコート層の厚みは、地色の隠蔽という点から、0.1乃至10μm、特に0.5乃至5μmの範囲あることが好ましく、またアンカーコート層の厚みは、0.1乃至5μm、特に0.1乃至2μmの範囲あることが好ましい。
尚、ホワイトコート層の代わりに、樹脂被覆金属板の樹脂被覆中に白色顔料を含有させた白色樹脂被覆を形成することによっても同様の効果が得られる。
【0023】
(印刷シームレス缶)
本発明の印刷シームレス缶は、上述した種々のシームレス缶の外面の少なくとも胴部に、版式印刷による画像及びインクジェット印刷による画像が形成されていると共に、これらの画像が仕上げニス層によって被覆されていることが重要な特徴である。
図9は、本発明の印刷シームレス缶の胴部の断面構造の一例を示す図であり、缶胴20の外表面上にホワイトコート層21、ホワイトコート層21の上にアンカーコート層22が形成されている。アンカーコート層22上には、版式印刷により転写されたインク23a,23b,23cが形成されていると共に、インクジェット印刷により着弾されたインク24a,24b,24c,24dが形成されている。また版式印刷によるインク23及びインクジェット印刷によるインク24の両方を完全に覆うように仕上げニス層25が形成されている。
また
図10に示す、本発明の印刷シームレス缶の胴部の断面構造の他の一例においては、ホワイトコート層が形成されておらず、缶胴20の外表面にアンカーコート層22が形成され、仕上げニス層25が版式印刷によるインク23及びインクジェット印刷によるインク24の両方を完全に覆うように形成されている点では、
図9に示した場合と同様である。
図10においては、ホワイトコート層が形成されていないため、前述した通り、インクジェット印刷の画像を鮮明に形成するために、インクジェット印刷による白色インク26eでのベタ印刷の上に、他の色のインキ24a,24b,24c,24dが施されている。尚、白色インク26eはベタ印刷でなく網点印刷であってもよい。
また
図11に示す、本発明の印刷シームレス缶の胴部の断面構造の他の一例においては、缶胴20の外表面上にホワイトコート層21、ホワイトコート層21の上にアンカーコート層22が形成され、アンカーコート層22上には、版式印刷により転写されたインク23a,23b,23cが形成されていると共に、インクジェット印刷により着弾されたインク24a,24b,24c,24dが形成され、版式印刷によるインク23及びインクジェット印刷によるインク24の両方を完全に覆うように仕上げニス層25が形成されている点で、
図9に示した場合と同様であるが、版式印刷によるインク23dの上にインクジェット印刷によるインク24a,24b,24c,24dが施されており、版式印刷による画像とインクジェット印刷による画像の重なり部を有している。
【0024】
図12及び
図13は、本発明の印刷シームレス缶胴部に施された印刷画像の一例を示す図であり、
図12に示す例では、一部に印刷が施されない窓部分30を有する版式印刷による画像31が缶胴のほぼ全面に施され、印刷が施されていない窓部分30にインクジェット印刷による画像32を形成する。この態様においては、印刷が施されていない窓部分30を有する版式印刷による画像31を固定デザインとし、この非印刷部分である窓部分30中にインクジェット印刷により可変デザイン32を施すことにより、種々のデザインの印刷シームレス缶を提供することが可能になる。
また
図13に示す例は、版式印刷による画像上にインクジェット印刷による画像が形成された重なり部分を有する例であり、すなわち、版式印刷による画像30をシームレス缶の胴部の全面に施し、版式印刷による画像31の上にインクジェット印刷による画像32を形成する。この態様においても、インクジェット印刷による画像32を変更することにより、種々のデザインの印刷シームレス缶を提供することができる。
【実施例】
【0025】
<実施例1>
板厚0.30mmのアルミニウムJIS3004合金板を常法に従ってブランキングし、絞りカップを作製し、再絞りしごき加工を行い、開口部をトリミングし、ウオッシャーで内外面を酸性溶液で洗浄し工業用水と脱イオン水で水洗し乾燥させて、シームレス缶を作製した。作製したシームレス缶の外面にエポキシ系のアンカーコートを塗布後焼き付けした。
図3に示すハイブリッド印刷装置のマンドレルにシームレス缶を挿入しマンドレル内部からのバキュームで固定した。
図3に示す装置の間欠回転に伴って版式印刷(オフセット印刷)、位置決め、インクジェット印刷、仮焼付、仕上げニス塗装を行い、オーブンでの加熱焼付を行った。インクジェット印刷における仮焼付けのタイミングは
図8に示す仕様で行った。デザインは
図12に示したデザイン(1)とした。版式印刷後の仮焼付は行わなかった。その後、シームレス缶に内面塗装と焼付をし、開口部側にネッキング、フランジングをして缶胴呼称211径、開口部206径の350ml用印刷シームレス缶を作製した。印刷関係については以下に詳細に述べる。
【0026】
印刷画面は、
図12に示したデザイン(1)であり、オフセットベタ印刷画面とインクジェット印刷網点画面が重ならないデザインである。ハイブリッド印刷装置は
図3に示した仕様である。版式印刷では溶剤タイプの熱乾燥型インクを樹脂凸版からブランケットを介して缶胴外面にベタ印刷をした。このとき開口部側に高さ3mm、幅10mmの位置決め用の合わせマークを黒色で印刷した。この部分は内容物充填後の蓋二重巻締め部にほとんど隠れる部位である。
版式印刷後カメラで位置決め用の合わせマークを検出しマンドレルを回転させて版式印刷画面とインクジェット印刷画面とを合わせた。
インクジェット印刷用画面にまずインクジェットインクでホワイト(W色)ベタ印刷し100℃の温風で仮焼付した。次いで、イエロー(Y色)、マゼンタ(M色)、シアン(C色)、ブラック(K色)の順にインクジェットの網点印刷をし、その後一括して100℃の温風で焼付し、仕上げニスを塗布したのちオーブンで200℃1分の焼付けを行った。インクジェットインクは溶剤タイプの熱乾燥型インクを用いた。
インクジェット印刷のインクジェットヘッドはピエゾ方式の1ヘッドタイプであり、シームレス缶側壁の缶高さ全体に亘って印刷できるものである。シームレス缶はマンドレルに挿入固定されY色、M色、C色、K色の印刷の位相が合うようにした。印刷画面はY色、M色、C色、K色に色分解してインクジェット印刷の網点で再現できるようコンピュータにプログラミングされている。
外面仕様の明細と評価結果を、表1及び表2にそれぞれ示す。
【0027】
<実施例2>
インクジェットでのW色印刷後の温風仮焼付を行わなかった以外は実施例1と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。インクジェットホワイトベタ印刷画像とインクジェット網点印刷画像の重なり部でインクの滲みがわずかに見られた。
【0028】
<実施例3>
シームレス缶側壁外面にアンカーコートをしない以外は実施例1と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0029】
<実施例4>
シームレス缶側壁外面に酸化チタン顔料を含有した熱硬化型ベースコート(ホワイトコート)を塗布焼付したのち、アンカーコートを塗布焼付け、インクジェットでのW色ベタ印刷と温風焼付をしなかった以外は実施例1と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0030】
<比較例1>
仕上げニスの塗布焼付をしない以外は実施例4と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0031】
<実施例5>
インクジェット印刷のインクタイプが紫外線硬化型インクでありその焼付手段が紫外線照射であること以外は実施例1と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0032】
<実施例6>
インクジェットでのW色印刷後の紫外線照射仮焼付を行わなかった以外は実施例5と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。インクジェットホワイトベタ印刷画像とインクジェット網点印刷画像の重なり部でインクの滲みがわずかに見られた。
【0033】
<実施例7>
インクジェットでの各色印刷後の紫外線照射を各色間にした以外は実施例5と同様にして印刷シームレス缶を作製した。インクジェット印刷における仮焼付けのタイミングは
図7に示す仕様で行った。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。インクジェット網点印刷画像は特に鮮明であった。インクジェットでの各色印刷後に紫外線照射装置を設けたため設備が大きくなった。
【0034】
<実施例8>
シームレス缶側壁外面に酸化チタン顔料を含有した熱硬化型ベースコート(ホワイトコート)を塗布焼付けしたのち、アンカーコートを塗布焼付けし、インクジェットでのW色ベタ印刷及びその後の紫外線照射をしなかった以外は実施例5と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0035】
<実施例9>
インクジェット印刷のインクタイプが電子線硬化型インクでありその焼付手段が電子線照射であること以外は実施例1と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0036】
<実施例10>
インクジェットでのW色印刷後の電子線照射仮焼付を行わなかった以外は実施例9と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。インクジェットホワイトベタ印刷画像とインクジェット網点印刷画像の重なり部でインクの滲みがわずかに見られた。
【0037】
<実施例11>
缶胴に酸化チタン顔料を含有した熱硬化型ベースコート(ホワイトコート)を塗布焼付けした後、アンカーコートを塗布焼付けし、インクジェットでのW色ベタ印刷とその後の電子線照射仮焼付をしなかった以外は実施例9と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0038】
<実施例12>
印刷画面を
図13に示すデザイン(2)にした。デザイン(2)はオフセット印刷画面(ベタ印刷)の上にインクジェット印刷画面(網点印刷)が重なるデザインである。
シームレス缶側壁外面に酸化チタン顔料を含有した熱硬化型ベースコート(ホワイトコート)を塗布焼付けしたのち、アンカーコートを塗布焼付けた。
図3に示す装置のマンドレルにシームレス缶を挿入固定し、
図3の装置の回転に伴って版式印刷(オフセット印刷)、版式印刷画面の仮焼付(100℃温風処理)、位置決め、インクジェット印刷と仮焼付、仕上げニス塗装を行い、オーブンでの加熱焼付を行った。インクジェット印刷における仮焼付けのタイミングは
図5に示す仕様で行った。インクジェットインクは溶剤タイプの熱乾燥型インクを用いた。インクジェットでのW色印刷及びその仮焼付は行わなかった。その他は実施例1と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0039】
<実施例13>
版式印刷後の仮焼付をしない以外は実施例12と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。版式印刷画像とインクジェット網点印刷画像の重なり部でインクの滲みがわずかに見られた。
【0040】
<実施例14>
インクジェット印刷のインクタイプが紫外線硬化型インクでありその焼付手段が紫外線照射であること以外は実施例12と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0041】
<実施例15>
版式印刷後の仮焼付けをしない以外は実施例14と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。版式印刷画像とインクジェット網点印刷画像の重なり部でインクの滲みがわずかに見られた。
【0042】
<実施例16>
インクジェット印刷のインクタイプが電子線硬化型インクでありその焼付手段が電子線照射であること以外は実施例12と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0043】
<実施例17>
版式印刷後の仮焼付をしない以外は実施例16と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。版式印刷画像とインクジェット網点印刷画像の重なり部でインクの滲みがわずかに見られた。
【0044】
<実施例18>
印刷装置として、
図1に示した装置を使用した。印刷画面は
図13に示したデザイン(2)である。
シームレス缶外面に実施例12と同様にホワイトコートとアンカーコートを設けた。その後シームレス缶を
図1の版式印刷装置のマンドレルに挿入固定し、溶剤タイプの熱乾燥型インクでオフセット印刷(版式印刷)を行った。版式印刷終了後シームレス缶の底を外面からバキューム吸引してチャックに固定した状態でインクジェット印刷機に搬送し、インクジェット印刷機のマンドレルに挿入しバキュームで固定した。次いで、100℃の温風を缶胴側面に吹きかけて印刷画面を仮焼付し、カメラで位置決め用の合わせマークを検出しマンドレルを回転させて版式印刷画面とインクジェット印刷画面を合わせた。その他は実施例12と同様にして印刷シームレス缶を作製した。インクジェット印刷における仮焼付けのタイミングは
図5に示す仕様で行った。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。版式印刷装置とインクジェット印刷装置を別装置にし、間に搬送装置を設けたため設備が大きくなった。
【0045】
<比較例2>
シームレス缶外面にホワイトコートとアンカーコートを設けた後、
図3に示した印刷装置を用い、版式印刷なし、版式印刷後仮焼付けなし、インクジェット印刷4色で印刷した。印刷デザインは
図12に示したデザイン(1)と同様のデザインとし、固定デザインをインクジェットベタ印刷、可変デザインをインクジェット網点印刷にして1工程で印刷した。その他は実施例4と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。インクジェットベタ印刷画面にベタ部かすれがあった。
【0046】
<比較例3>
印刷デザインを
図13に示したデザイン(2)と同様のデザインにして固定デザインをインクジェットベタ印刷、可変デザインをインクジェット網点印刷にして1工程で印刷した以外は比較例2と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。インクジェットベタ印刷画面にベタ部かすれがあった。
【0047】
<比較例4>
図12に示したデザイン(1)と同様のデザインをオフセット印刷(版式印刷)のみで1工程で印刷した以外は比較例2と同様にして印刷シームレス缶を作製した。インクジェット印刷は行わなかった。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0048】
<比較例5>
図13に示したデザイン(2)と同様のデザインをオフセット印刷(版式印刷)のみで印刷した以外は比較例3と同様にして印刷シームレス缶を作製した。インクジェット印刷は行わなかった。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0049】
<評価方法>
(印刷画質評価)
作製した印刷シームレス缶の印刷画面を目視評価した。4段階で評価した。評価基準は、優れる(◎)、良好(○)、ほぼ良好(△)、不良(×)である。◎、○、△が、許容範囲である。画質が不良の場合は不良特性を表2に記載した。
【0050】
(印刷面光沢性)
作製した印刷シームレス缶の印刷面光沢性を目視評価した。3段階で評価した。評価基準は、良好(○)、ほぼ良好(△)、不良(×)である。○、△が、許容範囲である。
【0051】
(レトルト後密着性)
作製した印刷シームレス缶を用い130℃×30分の蒸気レトルト処理を行った後、オフセット印刷部、インクジェット印刷部、オフセット印刷部とインクジェット印刷部の重なり部のそれぞれの画面について1mm間隔に缶高さ方向と缶円周方向にそれぞれ6本ずつのスクラッチをカッターで付与し25ピースの碁盤目を作製し、セロハンテープ(ニチバン製 登録商標)を粘着し1回剥離したのち、下記の基準でインクの密着性の評価を行った。評価基準は、剥離10%未満(○)、剥離10%以上〜50%未満(△)、剥離50%以上(×)である。○、△が、許容範囲である。
【0052】
(缶胴傷付き性)
作製した印刷シームレス缶に水道水を充填し蓋を巻締しカートンケース(24缶用)に詰め梱包した後、3方向同時振動試験装置((株)振研製)により、振動方向縦横各30分−1G相当の振動を与え、印刷面の傷付き状態を目視観察し3段階で評価した。評価基準は、次のとおりである。○、△が、許容範囲である。
○:傷付き缶なし。
△:微少傷の傷付き缶が1缶〜2缶ある。
×:微少傷付き缶が3缶以上ある。或いはより強度の傷付き缶が1缶以上ある。
【0053】
(加工部密着性)
作製した印刷シームレス缶のネック部外面全周に1本のスクラッチをカッターで付与し、130℃×30分の蒸気レトルト処理を行い、スクラッチ部からの印刷膜剥離状態を目視観察し、加工部密着性を評価した。n=10缶で行った。評価基準は、剥離缶が10%未満(○)、剥離缶が10%以上〜50%未満(△)、剥離缶が50%以上(×)である。○、△が、許容範囲である。
【0054】
(生産性)
図12及び
図13に示したデザイン(1)及び(2)それぞれの固定デザイン部はそのままにし、可変デザイン部画面のみを変更した場合に切り替えに要する時間を評価した。評価は○(短時間)、×(長時間)で評価した。また、設備が大きくなる場合には△とした。○、△が許容範囲である。
【0055】
(総合評価)
上記、(印刷画質評価)(印刷面光沢性)(レトルト後密着性)(缶胴傷付き性)(加工部密着性)(生産性)の各評価において最も劣る評点をもって総合評価とした。○、△が、許容範囲である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】