(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724392
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】変速機冷却装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20150507BHJP
【FI】
F16H57/04 G
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-2308(P2011-2308)
(22)【出願日】2011年1月7日
(65)【公開番号】特開2012-145141(P2012-145141A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】寺島 幸士
【審査官】
櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−303918(JP,A)
【文献】
実開平04−004554(JP,U)
【文献】
特開平10−238344(JP,A)
【文献】
特開2008−116018(JP,A)
【文献】
特開2008−002596(JP,A)
【文献】
特開平07−103318(JP,A)
【文献】
特開2002−039336(JP,A)
【文献】
特開2009−281498(JP,A)
【文献】
特開2006−292071(JP,A)
【文献】
特開2012−087822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛合して回転される複数の歯車と、前記複数の歯車が収容され前記歯車の少なくとも一部が浸かるように底部にオイルを溜めるケースと、前記ケースの底部からオイルを吸い上げて圧送するオイルポンプとを備えた変速機のオイルを冷却する冷却装置において、
前記オイルポンプが圧送するオイルを前記ケース内の動力伝達部材に供給する循環路と、
前記オイルポンプが圧送するオイルの一部を取り出して、前記循環路とは異なる経路でオイルを前記ケース内に移送する移送路と、
前記移送路で移送されたオイルを前記ケースの内面に放出するオイル放出部材と、
前記オイルポンプの出口のオイル圧が閾値以上になると前記オイルポンプの出口から前記移送路にオイルを抜き出すリリーフ弁とを備えたことを特徴とする変速機冷却装置。
【請求項2】
前記オイル放出部材は、前記ケースの内面に沿わせて配置されオイルを流下させる流下孔が形成された管を有することを特徴とする請求項1記載の変速機冷却装置。
【請求項3】
前記オイル放出部材は、前記ケースの内面に対向させて配置され前記ケースの内面に向けてオイルを噴射するノズルを有することを特徴とする請求項1記載の変速機冷却装置。
【請求項4】
前記ケースの内面に、該内面に放出されたオイルを拡散させる拡散ガイドを備えたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の変速機冷却装置。
【請求項5】
前記変速機は、複数のメイン歯車を有し前記ケース内の上部に配置されるメインシャフトと、前記メイン歯車に噛合して一部がオイルに浸かる複数のカウンタ歯車を有し前記ケース内の下部に配置されるカウンタシャフトとを有し、
前記オイル放出部材は、前記ケースの内面のうち前記カウンタ歯車の掻き上げ側に臨む面とは反対側の面にオイルを放出することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の変速機冷却装置。
【請求項6】
前記移送路でオイルが逆流することを防止する逆止弁を備えたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の変速機冷却装置。
【請求項7】
オイルの温度を検出するオイル温度センサと、
前記オイル温度センサが検出した温度が閾値以下のとき前記オイル放出部材からのオイル放出を抑制するオイル放出抑制部材とを備えたことを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の変速機冷却装置。
【請求項8】
前記オイル放出抑制部材は、前記移送路のオイルを前記ケースの底部に抜き出す弁を有することを特徴とする請求項7記載の変速機冷却装置。
【請求項9】
前記オイル放出抑制部材は、前記オイル放出部材からのオイル放出を抑制していないときに、前記オイル温度センサが検出した温度が前記閾値以下になると抑制を開始し、前記オイル放出部材からのオイル放出を抑制しているとき、前記オイル温度センサが検出した温度が前記閾値より高いヒステリシス用閾値を超えたとき抑制を停止することを特徴とする請求項7または8記載の変速機冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低燃費低コストで高い冷却効果が得られ、暖機を妨げない変速機冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機は、エンジンの回転を複数のギア比から選択されたギア比で駆動輪の軸に伝達するものである。変速機のケース内には複数の歯車が組み合わせて配置される。また、ケース内では、歯車同士の摩擦や、歯車と歯車を回転自在に保持する軸との摩擦を緩和するために、オイルが循環される。例えば、ケースの底部は、歯車の少なくとも一部が浸かるようにオイルが溜まるようになっており、オイルに一部が浸かる歯車が回転することで、オイルが掻き上げられて、周辺の部材にオイルが浴びせられる。オイルは部材からケースの底部へ落ちて循環する。この潤滑方法を油浴潤滑という。
【0003】
また、オイルポンプによりケースの底部からオイルが吸い上げられて循環路に圧送され、循環路から歯車や軸にオイルが供給されるという潤滑方法も採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−303918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、オイルは、潤滑だけでなく冷却にも効果がある。すなわち、ケース内にある歯車等の熱源はオイルに熱を奪われ、ケース底部に落ちて溜まった高温のオイルからケースへ熱が伝搬し、ケースから外部へ放熱される。また、歯車で掻き上げられたオイルがケースの内面に跳ねかけられるため、オイルがケースの内面を流下する間にオイルの熱がケースへ伝搬する。このようにして冷却されたオイルが掻き上げやオイルポンプで循環されることで熱源が冷却される。
【0006】
期待した冷却効果が得られない場合、さらなる冷却対策が取られる。例えば、オイル量が増量されると、オイル全体の熱容量が増加するので、高負荷運転などによる一時的な温度上昇が抑えられる。また、ケースの外部にオイルクーラが設置され、ケースからオイルクーラに高温のオイルが取り出され、オイルクーラで冷却されたオイルがケースに戻されると、長時間にわたり優れた冷却効果が維持される。
【0007】
しかしながら、オイル量が増量されると、歯車がオイルに深く浸かるため、歯車がオイルを攪拌する仕事による攪拌損失が増大して燃費が悪化する。また、オイルクーラの設置は、部品コストの上昇を招く。よって、これらの冷却対策は好ましくない。
【0008】
一方、エンジンや変速機が外気温と同じ温度になっている状態からの始動、いわゆるコールドスタートに際しては、エンジンや変速機が円滑に動作する温度まで暖機を行う必要がある。このとき、オイルの冷却効果が働いていると、暖機の妨げになってしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、低燃費低コストで高い冷却効果が得られ、暖機を妨げない変速機冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、噛合して回転される複数の歯車と、前記複数の歯車が収容され前記歯車の少なくとも一部が浸かるように底部にオイルを溜めるケースと、前記ケースの底部からオイルを吸い上げて圧送するオイルポンプとを備えた変速機のオイルを冷却する冷却装置において、前記オイルポンプが圧送するオイルの一部を取り出して移送する移送路と、前記移送路で移送されたオイルを前記ケースの内面に放出するオイル放出部材と、オイルの温度を検出するオイル温度センサと、前記オイル温度センサが検出した温度が閾値以下のとき前記オイル放出部材からのオイル放出を抑制するオイル放出抑制部材とを備えたものである。
【0011】
前記オイル放出部材は、前記ケースの内面に沿わせて配置されオイルを流下させる流下孔が形成された管を有してもよい。
【0012】
前記オイル放出部材は、前記ケースの内面に対向させて配置され前記ケースの内面に向けてオイルを噴射するノズルを有してもよい。
【0013】
前記ケースの内面に、該内面に放出されたオイルを拡散させる拡散ガイドを備えてもよい。
【0014】
前記変速機は、複数のメイン歯車を有し前記ケース内の上部に配置されるメインシャフトと、前記メイン歯車に噛合して一部がオイルに浸かる複数のカウンタ歯車を有し前記ケース内の下部に配置されるカウンタシャフトとを有し、前記オイル放出部材は、前記ケースの内面のうち前記カウンタ歯車の掻き上げ側に臨む面とは反対側の面にオイルを放出してもよい。
【0015】
前記オイルポンプの出口のオイル圧が閾値以上になると前記オイルポンプの出口から前記移送路にオイルを抜き出すリリーフ弁を備えてもよい。
【0016】
前記移送路でオイルが逆流することを防止する逆止弁を備えてもよい。
【0017】
前記オイル放出抑制部材は、前記移送路のオイルを前記ケースの底部に抜き出す弁を有してもよい。
【0018】
前記オイル放出抑制部材は、前記オイル放出部材からのオイル放出を抑制していないときに、前記オイル温度センサが検出した温度が前記閾値以下になると抑制を開始し、前記オイル放出部材からのオイル放出を抑制しているとき、前記オイル温度センサが検出した温度が前記閾値より高いヒステリシス用閾値を超えたとき抑制を停止してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0020】
(1)低燃費低コストである。
【0021】
(2)高い冷却効果が得られる。
【0022】
(3)暖機が妨げられない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態を示す変速機と変速機冷却装置の構成図である。
【
図2】
図1の変速機と変速機冷却装置を歯車の側面に沿った断面で見た断面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態を示す変速機のケースと変速機冷却装置の一部の構成図である。
【
図4】本発明の変速機冷却装置の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1に示されるように、本発明が適用される変速機101は、噛合して回転される複数の歯車102,103,104と、複数の歯車102,103,104が収容され歯車103の一部が浸かるように底部105aにオイルDを溜めるケース105と、ケース105の底部105aからオイルDを吸い上げて循環路106に圧送するオイルポンプ107とを備える。
【0026】
本実施形態の変速機101は、インプット歯車102を有しケース105内の上部に配置されるインプットシャフト108と、歯数の異なる複数のメイン歯車104を有しインプットシャフト108と同一軸線上となるケース105内の上部に配置されるメインシャフト109と、メイン歯車104に噛合して一部がオイルに浸かる歯数の異なる複数のカウンタ歯車103を有しインプットシャフト108及びメインシャフト109と平行にケース105内の下部に配置されるカウンタシャフト110とを有する。
【0027】
インプットシャフト108は、図示しないクラッチを介して図示しないクランクシャフトに連結される。インプット歯車102は、インプットシャフト108に対して一体的に取り付けられている。カウンタシャフト110の5つのカウンタ歯車103はカウンタシャフト110に対して一体的に取り付けられている。1つのカウンタ歯車103がインプット歯車102に常時噛合し、4つのカウンタ歯車103に対しては4つのメイン歯車104がそれぞれ常時噛合している。したがって、インプットシャフト108が回転すると、インプット歯車102、全てのカウンタ歯車103、カウンタシャフト110、全てのメイン歯車104が回転することになる。
【0028】
メイン歯車104は、メインシャフト109に対して回転自在に取り付けられている。メインシャフト109にはそれぞれのメイン歯車104をメインシャフト109にロックする機構(図示せず)が設けられており、いずれかのメイン歯車104が選択的にロックされることにより、ロックされたメイン歯車104と共にメインシャフト109が回転するようになり、インプットシャフト108の回転がメインシャフト109に伝達される。このとき選択されたメイン歯車104とこれに噛合するカウンタ歯車103とのギア比により変速機101の変速比が決まる。
【0029】
循環路106は、オイルポンプ107から圧送されたオイルDをメイン歯車104の歯面やメイン歯車104とメインシャフト109の摩擦箇所などの潤滑部位に導くものである。循環路106としては、オイルポンプ107から潤滑部位の近傍までケース105の内部あるいは外部に配管が施されてもよいが、ここではメインシャフト109の中を貫通して潤滑部位の近傍で開口する溝が形成され、オイルポンプ107から溝の入口まで配管が施された構造を有する。
【0030】
本発明に係る変速機冷却装置1は、オイルポンプ107が循環路106に圧送するオイルDの一部を取り出して、一点鎖線で示したオイル面より上部に、例えば、メイン歯車104の頂部と同程度の高い位置まで移送する移送路2と、移送路2で移送されたオイルDをケース105の内面に放出するオイル放出部材3と、オイルDの温度を検出するオイル温度センサ4と、オイル温度センサ4が検出した温度が閾値以下のときオイル放出部材3からのオイル放出を抑制するオイル放出抑制部材5とを備える。なお、移送路2は、循環路106から分岐されて設置されるが、オイル放出部材3まではケース105の内部に設置されてもよいし、外部に設置されてもよい。
【0031】
本実施形態では、オイル放出部材3は、ケース105の内面に沿わせて配置されオイルDを流下させる流下孔6が形成された管7を有する。管7は、ケース105の上面に近い位置でメインシャフト109と平行に延びており、適宜な間隔で複数の流下孔6が形成されている。
【0032】
図2に示されるように、カウンタ歯車103は常時同じ回転方向に回転する。ここでは、カウンタ歯車103の回転方向が反時計回りに図示されている。カウンタ歯車103に噛合するインプット歯車102及びメイン歯車104はカウンタ歯車103とは反対の時計回りに回転する。
図2では、掻き上げられたオイルDがケース105の内面に跳ねかけられる様子が示されている。カウンタ歯車103が反時計回りに回転するので、オイルDは右向きに掻き上げられる。ケース105の内面のうち図示右側の面がカウンタ歯車103の掻き上げ側に臨んでいることになる。オイルDは、図示のように右側の面に跳ねかけられる。この面を跳ねかけ面111と呼ぶ。
【0033】
本実施形態では、オイル放出部材3は、カウンタ歯車103の掻き上げ側に臨む面(跳ねかけ面111)とは反対側にあたる図示左側の面にオイルDを放出するように構成される。この面を非跳ねかけ面112と呼ぶ。管7は、非跳ねかけ面112に沿うよう断面が半円形に形成される。流下孔6は、オイルDがケース105の内面を伝わって流下するよう、ケース105の底部105aに向けて開口される。
【0034】
図1に示されるように、本実施形態では、変速機冷却装置1は、オイルポンプ107の出口に接続された循環路106のオイル圧が閾値以上になると循環路106から移送路2にオイルDを抜き出すリリーフ弁8を備える。リリーフ弁8は、入口側の圧力が閾値以上になろうとすると出口側が開放されるように構成された弁である。リリーフ弁8は、循環路106のオイル圧を閾値未満に抑えると同時に、抜き出したオイルDを移送路2に供給する働きをする。
【0035】
変速機冷却装置1は、移送路2でオイルDが逆流することを防止する逆止弁9を備える。具体的には、リリーフ弁8の出口にて移送路2が分岐路10となっており、分岐路10の一方には、管7に向かう途中に逆止弁9が挿入されている。
【0036】
本実施形態では、オイル放出抑制部材5は、移送路2のオイルDをケース105の底部105aに抜き出す弁11を有する。弁11は、分岐路10の他の一方に接続されている。弁11の出口は、ケース105の底部105aに向けて配置されるか、又は、オイルポンプ107の入口からケース105の底部105aに配管されている吸引管113の途中に接続される。
【0037】
以下、本発明の変速機冷却装置1の動作を説明する。
【0038】
暖機完了後の車両が走行する間、変速機101では、複数の歯車102,103,104が常時噛合して回転されるので、歯車102,103,104同士の摩擦やメイン歯車104とメインシャフト109との摩擦を緩和するために、オイルDが循環される。ケース105の底部105aに溜まっているオイルDに一部が浸かるカウンタ歯車103が回転することで、オイルDが掻き上げられて、油浴潤滑がなされる。また、オイルポンプ107によりケース105の底部105aから吸い上げられたオイルDは、循環路106に圧送され、メイン歯車104の歯面やメイン歯車104とメインシャフト109の摩擦箇所などの潤滑部位に供給される。
【0039】
このとき、ケース105内にある歯車102,103,104等の熱源はオイルDに熱を奪われ、ケース底部105aに落ちて溜まった高温のオイルDからケース105へ熱が伝搬し、ケース105から外部へ放熱される。また、カウンタ歯車103で掻き上げられたオイルDが跳ねかけ面111に跳ねかけられるため、オイルDが跳ねかけ面111を流下する間にオイルDの熱がケース105へ伝搬する。このようにして冷却されたオイルDが掻き上げやオイルポンプで循環されることで熱源が冷却される。
【0040】
しかし、従来技術では、カウンタ歯車103による掻き上げでのみオイルDがケース105の内面に移送されており、また、ケース105の内面のうち、非跳ねかけ面112は、オイルDが跳ねかからず、冷却に寄与していなかった。
【0041】
本発明では、オイルポンプ107が循環路106に圧送したオイルDの一部が移送路2によりオイル面より上部に移送され、移送路2で移送されたオイルDがオイル放出部材3によりケース105の内面に放出される。これにより、より多くのオイルDがケース105の内面を流下することになり、高い冷却効果が得られる。しかも、本実施形態では、オイル放出部材3が非跳ねかけ面112にオイルDを放出するように構成されているため、非跳ねかけ面112が冷却に寄与することになり、いっそう高い冷却効果が得られる。この結果、従来技術で設置されていたオイルクーラが省略されるか又は小型化され、部品コストが低減されると共に、オイルクーラへオイルを移送する仕事が不要になるか又は低減されて燃費が向上する。
【0042】
さらに、本実施形態では、従来からオイルDを圧送している循環路106にリリーフ弁8が接続されることでオイルDの一部が移送路2に抜き出されオイル放出部材3から放出される。このオイル移送にはオイルポンプ107で余剰となった仕事が利用されており、特別な汲み上げ手段が追加されることがないので、部品コストの上昇が抑えられ、燃費の悪化も抑えられる。
【0043】
本実施形態では、オイル放出部材3としての管7がケース105の上面に近い位置でメインシャフト109と平行に延びているため、ケース105の内面の広い面積にわたりオイルDが流下されることになり、高い冷却効果が得られる。
【0044】
次に、車両がコールドスタートする時における変速機冷却装置1の動作を説明する。
【0045】
コールドスタート時の暖機完了前は、オイル冷却効果が働いていると、暖機の妨げになってしまう。本発明の変速機冷却装置1では、オイル温度センサ4が検出した温度が閾値以下のとき、オイル放出抑制部材5がオイル放出部材3からのオイル放出を抑制する。具体的には、分岐路10に接続されている弁11が移送路2のオイルDをオイルポンプ107の入口又はケース105の底部105aに抜き出すので、逆止弁9から管7にオイルDが移送されることがなくなり、オイル放出が抑制される。このように、オイル温度が閾値以下のときは、非跳ねかけ面112にオイルDが流下されなくなり、暖機が妨げられない。
【0046】
本実施形態では、移送路2に逆止弁9が挿入されているため、リリーフ弁8からのオイル供給がない場合やオイル放出部材3によってオイルDが抜き出されている場合に、移送路2でオイルDが逆流して空気が移送路2に浸入することが防止される。これにより、ケース105の底部105aに溜まっているオイルDに気泡が生じたり、管7から非跳ねかけ面112に流下するオイルDに気泡が生じたりすることがなくなる。
【0047】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
【0048】
図3に変速機冷却装置31を示す。ただし、ケース105に収容されている変速機101の部材は省略されている。また、変速機冷却装置31の部材のうち変速機冷却装置1と同じものは省略されている。
【0049】
図3に示されるように、変速機冷却装置31のオイル放出部材3は、ケース105の非跳ねかけ面112に対向させて配置され非跳ねかけ面112に向けてオイルDを噴射するノズル12を有する。ノズル12は、移送路2に接続され、移送路2からのオイルDを微細な油滴あるいは霧にして拡散噴射させるものである。ノズル12は、非跳ねかけ面112に広くオイルDが噴射されるよう、広角な噴射範囲を有するのが好ましい。ノズル12は、1つに限らず、複数個配置されてもよい。ノズル12は、図示のようにオイル面に近い低い位置で上向きあるいは斜め上向きの姿勢で配置されてもよいし、高い位置で比較的水平に近い姿勢で配置されてもよい。
【0050】
ノズル12から、非跳ねかけ面112に噴射されたオイルDは、ケース105に熱を奪われながら流下する。また、ノズル12から噴射されたオイルDは、ケース105内に広く拡散するので、歯車102,103,104の潤滑にも寄与する。
【0051】
図3に示されるように、変速機冷却装置31は、ケース105の内面に、放出されたオイルDを拡散させる拡散ガイド13を備える。拡散ガイド13は、ケース105の内面から隆起したリブあるいは窪んだ溝が水平又は緩い傾斜で延びるように形成される。拡散ガイド13は、ケース105の内面に沿って流下しようとするオイルDを横方向に拡散させる働きをする。これにより、ケース105の内面のより広い面積にわたりオイルDが流下されることになり、高い冷却効果が得られる。拡散ガイド13は、跳ねかけ面111と非跳ねかけ面112のどちらに形成されてもよい。拡散ガイド13は、複数あってもよい。
【0052】
図4のフローチャートは、オイル温度の判定にヒステリシスを有する変速機冷却装置1,31の制御手順を示す。
【0053】
この制御手順は、適宜な時間刻みで繰り返し実行される。
【0054】
ステップS1では、オイル放出抑制部材5の弁11が開かれているか閉じられているかが判定される。弁11が閉じられている場合、オイル放出抑制部材5は、オイル放出部材3からのオイル放出を抑制していないので、ステップS2に進む。弁11が開かれている場合、オイル放出抑制部材5は、オイル放出部材3からのオイル放出を抑制しているので、ステップS3に進む。
【0055】
ステップS2では、オイル温度センサ4が検出した温度tが閾値t1以下かどうかが判定される。温度tが閾値t1を超えている場合は今回の制御手順は終了となる。温度tが閾値t1以下の場合は、ステップS4にて弁11が開かれた後、今回の制御手順は終了となる。
【0056】
ステップS3では、オイル温度センサ4が検出した温度tがヒステリシス用閾値t2(t1<t2)を超えているかどうかが判定される。温度tがヒステリシス用閾値t2以下の場合は今回の制御手順は終了となる。温度tがヒステリシス用閾値t2を超えている場合は、ステップS5にて弁11が閉じられた後、今回の制御手順は終了となる。
【0057】
以上の制御手順が実行されることにより、オイル放出抑制部材5は、オイル放出部材3からのオイル放出を抑制していないときに、オイル温度センサ4が検出した温度が閾値t1以下になると抑制を開始し、オイル放出部材3からのオイル放出を抑制しているとき、オイル温度センサ4が検出した温度がヒステリシス用閾値t2を超えたとき抑制を停止することになる。
【0058】
閾値がt1の一つのみであって、オイル温度が閾値t1以下なら直ちにオイル放出を抑制し、オイル温度が閾値t1を超えたら直ちに抑制を停止するという制御手順では、オイル温度が閾値t1近傍にあるときにオイル放出の抑制と抑制停止とが頻繁に繰り返されるハンチング(チャタリング)が起きやすい。しかし、
図4の制御手順に従えば、オイル温度の判定にt2−t1の温度幅でヒステリシスを有するので、ハンチングは防止される。
【符号の説明】
【0059】
1 変速機冷却装置
2 移送路
3 オイル放出部材
4 オイル温度センサ
5 オイル放出抑制部材
6 流下孔
7 管
8 リリーフ弁
9 逆止弁
10 分岐路
11 弁
12 ノズル
13 拡散ガイド