(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体素子の高集積化・微細化は、デザインルール45nmノードから32nmノードへと進展し、さらに22nmノードの半導体素子の開発が進められている。これらの半導体素子の高集積化・微細化を実現するために、現在、露光波長193nmのArFエキシマレーザを用いた光学式の投影露光装置により、フォトマスクを用いてウェハ上にパターン転写するフォトリソグラフィ技術が行なわれている。フォトリソグラフィ技術においては、露光装置での高解像技術として、投影レンズの開口数(NA)を大きくした高NA露光技術、投影レンズと露光対象の間に高屈折率媒体を介在させて露光を行なう液浸露光技術、変形照明搭載露光技術などの開発、実用化が急速に進められている。
【0003】
フォトリソグラフィ技術においては、投影露光装置で転写できる最小の寸法(解像度)Rは、以下の数式(1)に示されるように、露光に用いる光の波長λに比例し、投影光学系のレンズの開口数(NA)に反比例するため、半導体素子の微細化への要求に伴い、露光光の短波長化及び投影光学系の高NA化が進んでいるが、短波長化及び高NA化だけでこの要求を満足するには限界となっている。k
1はプロセスに依存する定数(プロセス定数、あるいはk
1ファクターとも言う。)である。
R=k
1・λ/NA ・・・ (1)
【0004】
そこで解像度を上げるために、定数k
1(k
1=解像線幅×レンズの開口数/露光波長)の値を小さくすることによって微細化を図る超解像技術が近年提案されている。このような超解像技術として、露光光学系の特性に応じてマスクパターンに補助パターンや線幅オフセットを与えてマスクパターンを最適化する方法、あるいは変形照明法(斜入射照明法とも称する。)と呼ばれる方法などがある。変形照明法には、通常、瞳フィルタを用いた輪帯照明、二重極(ダイポール:Dipoleとも称する。)の瞳フィルタを用いた二重極照明および四重極(クォードラポール:C−quadとも称する。)の瞳フィルタを用いた四重極照明などが用いられている。
【0005】
一方、フォトリソグラフィ技術に用いられるフォトマスク(レチクルとも称する。)における解像度向上策としては、透明基板上にクロムなどで遮光膜を形成し、光を透過させる部分と遮光する部分でパターンを構成した従来のバイナリ型のフォトマスク(以後、バイナリマスクとも呼ぶ。)の微細化、高精度化とともに、光の干渉を利用した位相シフト効果により解像度向上を図るレベンソン型(渋谷・レベンソン型とも称する。)位相シフトマスク、光を透過させる部分と半透過させる部分で構成されたハーフトーン型位相シフトマスク、クロムなどの遮光層を設けないクロムレス型位相シフトマスクなどの位相シフトマスクの開発、実用化が進行している。上記の各種フォトマスクの中で、バイナリマスクは汎用性が高く使い易いマスクであり、微細化、高精度化に対応したマスクとしての開発が進められ、比較的安価なこともあり、現在でも広く使われている。
【0006】
図13は、従来のバイナリマスクの製造方法の一例を示す工程断面図である(特許文献1参照。)。従来のバイナリマスクは、
図13(D)に示すように、透光性基板131上に遮光膜132でマスクパターンが形成されており、必要に応じてさらに反射防止膜133が設けられていた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記のように、半導体素子の微細化に伴い、半導体製造のフォトリソグラフィにおいて、開口レンズの高NA化が進み、マスクに入射する照明光の入射角度が大きくなって斜入射光が用いられ、瞳フィルタを用いた変形照明法によるフォトリソグラフィ技術が一般的に用いられるようになっている。
【0019】
本発明においては、ArFエキシマレーザを露光光源とし、変形照明による投影露光に用いられるフォトマスクにおいて、露光裕度(EL)の影響の度合いを調べるために、NILS(Normalized Image Log−Slope:正規化画像対数勾配)を指標とし、マスクパターンの転写特性を評価した。好ましいフォトマスク構成については、さらにMEEF〔Mask Error Enhancement Factor:マスク誤差増大因子)、光強度の閾値(Threshold)についても評価した。
【0020】
NILSは、下記の数式(2)で表される。NILSの値が大きいと、光学像は急峻となりレジストパターンの寸法制御性は向上する。一般的に、NILSは2以上が好ましいが、半導体素子の微細化に伴い、1.0程度以上でも解像するようなレジストプロセスが求められてきている。ここで、Iは光強度、xは位置を示し、(dI/dx)は空間像の勾配、Wは所望のパターン寸法、I
thはWを与える光強度の閾値(Threshold)である。
NILS=(dI/dx)/(W×I
th) ・・・ (2)
【0021】
NILSと露光裕度(EL)は数式(3)の一次関数で関連付けられる。なお、定数aとbはレジストプロセスなどによって変わる値である。数式(3)が示すように、NILSの値が大きいほど露光裕度は向上する。
EL(%)=a・(NILS−b) ・・・ (3)
【0022】
MEEFは、下記の数式(4)で表されており、マスク寸法変化量(ΔマスクCD)に対するウェハ上のパターン寸法変化量(ΔウェハCD)の比で示される。CDはマスクやウェハの重要な寸法(Critical Dimension)を示す。数式(4)の数値4はマスクの縮小比であり、一般的な4倍マスクを用いた場合を例示している。数式(4)が示すように、MEEFの値は小さい方(1付近)が、マスクパターンがウェハパターンに忠実に転写されることになり、MEEFの値が小さくなればウェハ製造歩留りが向上する。また、その結果として、ウェハ製造に用いるマスク製造歩留りも向上することになる。
MEEF=ΔウェハCD/ΔマスクCD/4 ・・・ (4)
【0023】
本発明においては、マスクパターンの転写特性を見積もるために、バイナリ型のフォトマスクが効果を示す条件をシミュレーションにより求めた。シミュレーション・ソフトウェアとして、EM−Suite Version v6.00(商品名:Panoramic Technology社製)を用い、シミュレーション・モードには三次元電磁界シミュレーションのTEMPEST(EM−Suiteオプション)によるFDTD法(時間領域差分法、有限差分時間領域法とも称する。)を用い、グリッドサイズは1nm(4倍マスクにおいて)とした。
【0024】
(リソグラフィ条件)
露光光源はArFエキシマレーザで露光波長は193nm、投影レンズの開口数(NA)は本実施形態では1.35とし、純水を用いた液浸露光とした。照明系は変形照明とし、
図3に示す四重極(C−quad)の瞳フィルタを用いた四重極照明を設定した。C−quadの4つの光透過部は、XY軸上に瞳中心からの開口角が30度の扇型(ポーラリゼーションはXY)をなし、瞳フィルタの半径を1としたとき、瞳中心からの距離の外径(外σ)を0.98、内径(内σ)を0.81とした。遮光膜よりなるマスクパターンは1対1のライン&スペースで、ウェハ上に転写したときのピッチは80nm、ターゲットCDは40nmとした。バイナリマスクの遮光膜は、表面低反射膜を設けたクロム(Cr)2層膜とした。露光光のフォトマスクへの入射角は約16度とし、透明層は真空製膜した二酸化シリコンとし、屈折率は1.563と設定した。
【0025】
本実施形態において、投影レンズの開口数(NA)1.35は、微細な半導体デバイス用のマスクパターン転写に用いられていることにより、一例として用いたものであり、もとより本発明はそれに限定されることはなく、他の開口数のレンズを用いることが可能である。
【0026】
また、本実施形態の照明系として四重極照明を用いたのは、四重極照明は縦・横のパターンが同時に解像でき、普遍性が高くて一般的なマスクパターン転写に適用できるからである。ただし、四重極照明は実施形態の好ましい一例として用いたものであり、本発明のバイナリ型のフォトマスクにおいては、四重極照明以外の他の変形照明系、例えば、輪帯照明、二重極照明などにおいても同様に露光裕度の改善効果が得られるものである。
【0027】
(フォトマスク)
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係るバイナリ型のフォトマスクについて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明のバイナリ型のフォトマスクの一例を示すマスクパターンの部分断面図である。
図1に示すように、露光光を透過する透明基板11の一主面上にエッチング加工しない薄膜層を2層または2層以上形成し、上記の薄膜層上に露光光に対して実質的に不透明な遮光膜でマスクパターン14を形成したバイナリ型のフォトマスク10である。本発明において、露光光に対して実質的に不透明な遮光膜とは、露光波長において、1回の露光により露光光を透過して感光性レジストを感光させない遮光膜パターンを意味するものであり、通常は透過率0.1%以下が望ましいとされている。
【0029】
上記のエッチング加工しない薄膜層は、透明基板11上に設けた所定の屈折率と消衰係数とを有する中間層12と、この中間層12上に設けた露光光を透過する透明層13とから少なくとも構成されており、中間層12は消衰係数や膜厚などにしたがって所定の透過率で露光光を透過する。本発明においては、透明基板11側からフォトマスク10に入射した露光光のうち、上記の遮光膜マスクパターン14の透明層13側で反射した露光光が、所定の屈折率と消衰係数とを有する中間層12の表面で再反射し、再反射した露光光がマスクパターン14で反射しなかった露光光と干渉することにより、フォトマスク10から出射する露光光の光強度を向上させるものである。本発明における中間層12と透明層13の作用効果については後述する。
【0030】
(透明層の膜厚を変えたときの転写特性)
本発明のフォトマスクの転写特性を評価する手順としては、まず中間層の膜厚を固定し、透明層の膜厚を変えたときの転写特性としてのNILSの増減率を評価した。
図7は、本発明のバイナリ型のフォトマスクの転写特性評価において、中間層72の膜厚d1を20nmに固定し、透明層73の膜厚d2を10〜100nmまで変えたときのフォトマスク70の説明図である。
【0031】
図8は、上記のシミュレーション条件、リソグラフィ条件により、
図7に示すフォトマスク70の転写特性をシミュレーションにより評価した結果である。
図8において、中間層72の膜厚d1は20nm、消衰係数kは0.5とし、横軸に中間層72の屈折率n、縦軸に透明層73の膜厚d2をとり、透明層73の膜厚d2を0〜100nmまで変えたときのNILSの増減率(%)を示す図である。増減率は、中間層72、透明層73が設けられていない透明基板上に表面低反射膜を設けた2層クロムの遮光膜でマスクパターンを形成した従来のバイナリ型のフォトマスクの場合を基準にして比較している。
【0032】
図8に示されるように、NILSの増減率は透明層73の膜厚d2に関係しており、透明層73の膜厚d2が20nmおよび80nmの場合において、NILSの増減率は5.0〜10.0%の増加率となり、
図8においては最も高い転写特性の向上が示されている。膜厚20nmと80nmとの周期ピッチは60nmである。真空成膜で形成する透明層の膜厚は薄い方が、製造がより容易であり製造コストが低減できるので、本実施形態においては、透明層の膜厚d2は20nmが最適であると設定した。
【0033】
(中間層、透明層の作用効果)
ここで、本発明のバイナリ型のフォトマスクにおける中間層12、透明層13の作用効果について説明する。
図2は、
図1に示した本発明のバイナリ型のフォトマスク10の転写特性向上の説明図であり、
図1と図面寸法は異なるが、同じ部位には同じ符号を用いている。
図2(a)はマスクパターンの部分断面図であり、
図2(b)は、さらに矩形枠で示す
図2(a)の一部分を拡大した図である。
図2(b)において、フォトマスク10に約16度の入射角で斜め入射した露光光のうち、破線で示す露光光15は透明層13上に設けられた遮光膜マスクパターン14で反射し、次いで中間層12で再反射し、遮光膜マスクパターン14で反射しなかった直線で示す露光光16と干渉することにより、光強度を向上させた露光光17としてフォトマスク10から出射させることができる。
【0034】
図8において、透明層の膜厚を変えたときの転写特性向上のNILS増加率の周期ピッチが60nmであることから、
図2において、マスクパターン14で反射しなかった露光光16に対して、マスクパターン14で反射し中間層12で再反射した露光光15の光路差は、下記の数式(5)で示される。
光路差=2×60nm/cos(16°)=124nm ・・・ (5)
【0035】
透明層13を二酸化シリコン(屈折率を1.563とする)で形成すると、上記の数式(5)に示された光路差124nmは、透明層13内での露光光の波長124nm(193.4nm/1.563)に等しい。したがって、マスクパターン14で反射し中間層12で再反射する露光光15の光路差を透明層13内における露光光の波長に等しくすることにより、干渉による出射光17の光強度の向上が最大となる。上記の数式(2)に示されるように、出射光17の光強度が大きくなることにより、NILSも増加し、マスクパターン転写における露光裕度が向上する。本発明者は、本発明のバイナリ型フォトマスクにおける転写特性向上の要因を、上記の干渉による作用効果に基づくものと推察している。
【0036】
(中間層の膜厚を変えたときの転写特性)
次に、透明層の膜厚を固定し、中間層の膜厚を変えたときの転写特性としてのNILSの増減率を評価した。
図9は、本発明のバイナリ型のフォトマスクの転写特性評価において、透明層93の膜厚d2を上記の最適値20nmに固定し、中間層92の膜厚d1を4〜40nmまで変えたときのフォトマスク90の説明図である。
【0037】
図10は、上記のシミュレーション条件、リソグラフィ条件により、
図9に示すフォトマスク90の転写特性をシミュレーションにより評価した結果である。
図10において、透明層93の膜厚d2は20nm、中間層の消衰係数kは0.5とし、横軸に中間層92の屈折率n、縦軸に中間層92の膜厚d1をとり、中間層92の膜厚d1を0〜40nmまで変えたときのNILSの増減率(%)を示す図である。増減率は、中間層92、透明層93が設けられていない透明基板上に表面低反射膜を設けた2層クロムの遮光膜でマスクパターンを形成した従来のバイナリ型のフォトマスクの場合を基準にして比較している。
【0038】
図10に示されるように、中間層92の厚みに対する転写特性NILSの周期性は見られず、中間層92の膜厚d1が10nm程度から40nmの範囲、より好ましくは12nmから36nmの範囲において、NILSの増減率は5.0〜10.0%の増加率となる。一方、所定の屈折率と消衰係数を有する中間層92の膜厚d1を厚くすると出射光の光強度が減少するために、中間層92の厚みは薄い方がより好ましい。そこで本実施形態では、中間層の膜厚d1は12nmが適切であると設定した。
【0039】
(中間層、透明層の膜厚を最適化したときの転写特性)
上記のように、中間層および透明層の膜厚を最適化して、中間層12nm、透明層20nmに設定した後に、中間層の屈折率nと消衰係数kと転写特性との関係をシミュレーションにより評価した。
【0040】
図4は、転写特性としてNILSの増減率(%)を示す図である。増減率は、中間層、透明層が設けられていない透明基板上に表面低反射膜を設けた2層クロムの遮光膜でマスクパターンを形成した従来のバイナリ型のフォトマスクの場合を基準にして比較している。
【0041】
図4に示すように、本発明のフォトマスクは、中間層の屈折率nが0.2〜3、消衰係数kが0〜3の範囲のすべての領域において、NILSの増減率が従来のフォトマスクに比較して同等以上に増加する。さらに、NILSの増減率が従来のフォトマスクに比較して5%以上増加し転写特性が向上する領域が広く存在する。
【0042】
図5は、転写特性としてMEEFの増減率(%)を示す図である。増減率は、上記と同様に中間層、透明層が設けられていない透明基板上に表面低反射膜を設けた2層クロムの遮光膜でマスクパターンを形成した従来のバイナリ型のフォトマスクの場合を基準にして比較している。
【0043】
図5に示すように、本発明のフォトマスクは、中間層の屈折率nが0.2〜3、消衰係数kが0〜3の範囲の領域において、n=1.6〜2.5かつk=0〜0.25の領域、およびn=2.4〜3かつk=2.4〜3の領域の2箇所を除いて、MEEFの増減率が従来のフォトマスクに比較して同等以下に減少する。さらに、MEEFの増減率が従来のフォトマスクに比較して−5〜−25%減となり、転写特性が向上する領域が広く存在する。
【0044】
図6は、転写特性として光強度の閾値(Threshold)の増減率(%)を示す図である。光強度の増減率は、中間層、透明層が設けられていない透明基板上に表面低反射膜を設けた2層クロムの遮光膜でマスクパターンを形成した従来のバイナリ型のフォトマスクの場合の光強度の増減率を100%として比較している。光強度の閾値は、閾値が低すぎるとスループットが悪化し、ウェハプロセスへの適用が困難となる。そこで、光強度の閾値の増減率は30%以上の領域が好ましい。
【0045】
図6に示すように、本発明のフォトマスクは、中間層の屈折率nが0.2〜3、消衰係数kが0〜3の範囲のすべての領域において、光強度の閾値の増減率が従来のフォトマスクに比較して同等以下に減少する。さらに、より好ましい光強度の閾値の増減率を従来のバイナリ型のフォトマスクの中位の閾値である30〜60%の範囲とすると、中間層の屈折率nが0.2〜3、消衰係数kが0〜3.0の範囲において、中位の光強度の閾値となり転写特性が向上する領域が存在する。
【0046】
上記のNILS、MEEFおよび光強度の閾値の評価結果から明らかなように、透明基板上にエッチング加工しない薄膜層を2層または2層以上形成し、上記の薄膜層上に設けた遮光膜でマスクパターンを形成し、上記薄膜層が、透明基板上に設けた所定の屈折率と消衰係数とを有する中間層と、中間層上に設けた露光光を透過する透明層とから少なくとも構成され、フォトマスクに入射した露光光のうち、上記マスクパターンで反射した露光光が、中間層で再反射し、マスクパターンで反射しなかった露光光と干渉することにより、フォトマスクから出射する露光光の光強度を向上させたことを特徴とする本発明のバイナリ型のフォトマスクは、従来のバイナリ型のフォトマスクに比較し、NILSが高く、MEEFが低く、中位の光強度の閾値を示し、露光裕度を向上させたフォトマスクである。
【0047】
上記のNILS、MEEFおよび光強度の閾値の評価結果から、本発明のバイナリ型フォトマスクは、中間層の屈折率nが0.2〜3、消衰係数kが0〜3の範囲にあるのが好ましい。
【0048】
さらに、本発明者は上記の屈折率n、消衰係数kの範囲において、実際の薄膜材料の屈折率と消衰係数と対比することにより、転写特性としてのNILSが高く、MEEFが低く、中位の閾値となる本発明のバイナリ型フォトマスクのより好ましい形態として、中間層の屈折率nが2.2〜2.5、消衰係数kが0.4〜1.1の範囲を選定した。
【0049】
(フォトマスク構成材料)
次に、本発明のフォトマスクを構成する材料について説明する。
図1に示す本発明のバイナリ型のフォトマスク10を構成する透明基板11としては、従来公知の露光光を高透過率で透過する光学研磨された合成石英ガラス、蛍石、フッ化カルシウムなどを用いることができるが、通常、多用されており品質が安定している合成石英ガラスがより好ましい。
【0050】
図1に示す本発明のフォトマスク10を構成する中間層12は、上記のように、所定の屈折率と消衰係数とを有する薄膜層であり、露光光を所定の透過率で透過し、遮光膜マスクパターンで反射した露光光を再反射する機能を有する。中間層12はエッチング加工しない。中間層12としては、例えば、クロム(Cr)、タンタル(Ta)などの金属元素の薄膜、あるいは上記金属元素の窒化物、酸化物、または酸化窒化物を主成分とする薄膜、あるいはモリブデンシリサイド(MoSi)、窒化モリブデンシリサイド(MoSiON)などのモリブデンシリサイド化合物の薄膜などが挙げられる。中間層12における露光光の透過率は高い方が光強度の低下が少ないので、消衰係数kは小さい値の薄膜が好ましく、モリブデンシリサイド膜がより好ましい。上記のように、中間層12の膜厚は12nmが好ましい。
【0051】
図1に示す本発明のフォトマスク10を構成する透明層13としては、露光光を高透過率で透過する材料で、露光光に対して透明層13の消衰係数kが0〜1.0の範囲にある薄膜が好ましい。例えば、真空製膜した二酸化シリコンあるいはフッ化カルシウム、塗布焼成型の二酸化シリコンなどが挙げられる。透明層13はエッチング加工しない。透明層13の屈折率(n)をn=1.563とした場合、膜厚を20nmと薄くして露光光透過率をより高くし高品質の薄膜層を形成するには、真空製膜した二酸化シリコンがより好ましい。たとえば、本発明のバイナリ型フォトマスクの好ましい形態として、透明層13に二酸化シリコン、透明基板11に合成石英を用いることにより、中間層12がSiO
2にサンドイッチされた構造とすることができ、高品質のフォトマスクを形成することができる。
【0052】
本発明において、エッチング加工しない薄膜層は2層に限定されず、2層以上の多層にすることも可能である。例えば、中間層を2層以上の薄膜とする構成や、透明層を2層以上の薄膜とする構成にしてもよい。透明層を2層にして、遮光膜側の透明層に耐ドライエッチング性の機能を付与してエッチング停止層を兼ねさせることもできる。また中間層と透明層の双方を2層以上の多層構成にすることも可能である。
【0053】
図1に示す本発明のフォトマスク10を構成する遮光膜マスクパターン14としては、従来公知の単層もしくは2層以上の遮光膜をパターン形成することができる。遮光膜としては、例えば、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などから選択された金属元素のいずれか1種を主成分とする薄膜、あるいは上記金属元素の窒化物、酸化物、または酸化窒化物のいずれかを主成分とする薄膜、あるいはモリブデンシリサイド(MoSi)薄膜などが挙げられる。上記の遮光膜マスクパターン14の膜厚は、30nm〜150nm程度の範囲で用いられ、遮光膜表面に反射防止膜を積層した2層膜とすることもできる。
【0054】
(本発明のフォトマスクの適用領域)
次に、本発明のフォトマスクが適するフォトリソグラフィ領域を、下記の数式(1)のプロセス定数k
1を指標として、k
1の値を変化させたときのNILSの値をシミュレーションにより求めた。ここで、Rは投影露光装置で転写できる最小の寸法(解像度)、λは露光波長、NAはレンズの開口数である。
R=k
1・λ/NA ・・・ (1)
【0055】
シミュレーション条件は、上記と同様であり、露光光源はArFエキシマレーザで露光波長λは193nm、NAは1.35とし、純水を用いた液浸露光とした。照明系は、
図3に示す四重極(C−quad)の瞳フィルタを用いた四重極照明を設定した。C−quadの4つの光透過部は、XY軸上に瞳中心からの開口角が30度の扇型(ポーラリゼーションはXY)をなし、瞳フィルタの半径を1としたとき、瞳中心からの距離の外径(外σ)を0.98、内径(内σ)を0.81とした。遮光膜よりなるマスクパターンは1対1のライン&スペースで、ウェハ上に転写したときのピッチは80nm、ターゲットCDは40nmとした。バイナリマスクの遮光膜は、表面低反射膜を設けたクロム(Cr)2層膜とした。露光光のフォトマスクへの入射角は約16度とし、中間層は膜厚20nmのモリブデンシリサイド(MoSi)膜とした。中間層のMoSi膜の屈折率nは2.4、消衰係数kは0.5とした。透明層は真空製膜した二酸化シリコン(SiO
2)とし、屈折率は1.563と設定した。
【0056】
図11は、シミュレーションにより求めた本発明のバイナリ型のフォトマスクのプロセス定数k
1(k
1ファクター:factor)を0.28〜0.9まで変えたときのNILS値の変化を示す図である。
図11(a)は全体図であり、
図11(b)は
図11(a)の矩形で囲んだ部分の拡大図である。
図11において、実線で示すNILS(sand)が、本発明の透明層SiO
2膜と透明基板(合成石英;SiO2)に挟まれたサンドイッチ構造の中間層を有するフォトマスクのNILS値であり、破線で示すNILS(Ref)が、比較とする透明層と中間層を有しない従来のフォトマスクのNILS値である。
【0057】
図11(b)に示されるように、本発明のバイナリ型のフォトマスクは、k1≦0.55の領域において、従来のバイナリ型のフォトマスクよりも高いNILS値を示す。したがって、本発明のバイナリ型のフォトマスクは、ArFエキシマレーザを露光光源とし、露光光の波長をλ、投影レンズの開口数をNA、ウェハ上に転写される最小のパターン寸法をR、定数をk
1としたときに、R=k
1・λ/NAの関係が成り立ち、上記k
1が0.55以下であり、瞳フィルタを用いた変形照明により液浸露光するフォトリソグラフィ技術に用いられるマスクである。
【0058】
(フォトマスクの製造方法)
次に、本発明のフォトマスクの製造方法について図面を用いて説明する。
【0059】
本発明のフォトマスクの製造方法は、ArFエキシマレーザを露光光源とし、変形照明による投影露光に用いられるフォトマスクの製造方法であり、上記のフォトマスクは、露光光を透過する透明基板の一主面上にエッチング加工しない薄膜層を2層または2層以上形成し、上記薄膜層上に設けた露光光に対して実質的に不透明な遮光膜でマスクパターンを形成したバイナリ型のフォトマスクである。
【0060】
図12は、本発明のフォトマスクの製造方法の一例を示す工程断面図である。先ず、
図12(a)に示すように、透明基板11上に所定の屈折率と消衰係数とを有する中間層12を真空成膜で形成し、この中間層12上に、フォトマスクに入射した露光光のうち、遮光膜よりなるマスクパターンで反射した露光光が、上記の中間層12で再反射し、遮光膜マスクパターンで反射しなかった露光光と干渉することにより、フォトマスクから出射する露光光の光強度が向上するような膜厚で透明層13を真空成膜で形成し、上記の透明層13上に遮光膜14aを真空成膜で形成したフォトマスクブランクスを準備する。
【0061】
中間層12は、上記のフォトマスク構成材料で説明した材料が用いられ、膜厚は10nm程度から40nmの範囲、より好ましくは12nm〜36nmの範囲で用いられるが、光強度の減少を抑制するために、12nmと薄い方がさらに好ましい。
【0062】
次に、
図12(b)に示すように、上記のフォトマスクブランクスの遮光膜14a上に、電子線レジスト18aを塗布する。
【0063】
次に、
図12(c)に示すように、上記電子線レジスト18aを電子線描画装置でパターン描画して、上記遮光膜14a上に、被転写体に対する転写パターンとなる遮光膜によるマスクパターンを形成するためのレジストパターン18を形成する。
【0064】
次に、レジストパターン18をマスクにして、遮光膜14aをドライエッチングし、
図12(d)に示すように、遮光膜のマスクパターン14を形成した後、レジストパターン18を酸素プラズマなどで除去し、
図12(e)に示すように、本発明のバイナリ型のフォトマスク10を形成する。
【0065】
上記の遮光膜14aのドライエッチングに際し、クロム(Cr)系の材料からなる遮光膜のドライエッチングには、塩素と酸素との混合系のガスが用いられ、酸素を含むタンタル化合物、あるいは酸窒化シリコンからなる遮光膜のドライエッチングには、フッ素系ガス、例えば、CF
4、CHF
3などのガスを用いたプラズマでドライエッチングできる。
【0066】
遮光膜のパターンエッチングにおいて、透明層13が二酸化シリコンで形成されている場合には、遮光膜のエッチングにフッ素系ガスを用いると、二酸化シリコンもエッチングされてしまうので、遮光膜は塩素と酸素との混合系のガスでエッチングされるクロム(Cr)系の材料とする。あるいは上記のように、二酸化シリコンの透明層の上に露光光の透過率が高いフッ素系ガスに耐性のあるエッチング停止層を設け、透明層を保護することも可能である。この場合、エッチング停止層としてクロム系の材料からなる薄膜層を用いることができる。
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0067】
光学研磨された大きさ6インチ角(厚さ0.25インチ)の合成石英基板の一方の主面上に、DCマグネトロンスパッタ法により、MoSiのターゲットを用いてArガス雰囲気下で、MoSi膜を20nm成膜し中間層とした。エリプソメータ(ジェー・エー・ウーラム社製VUV−VASE)の測定より得た中間層MoSi膜の屈折率nは2.4、消衰係数kは0.5であった。
【0068】
次に、中間層としたMoSi膜上に、DCマグネトロンスパッタ法により、SiO
2のターゲットを用いて、SiO
2膜を12nmの厚さに成膜し、透明層とした。透明層SiO
2膜の屈折率nは1.563であった。
【0069】
次に、透明層としたSiO
2膜上に、DCマグネトロンスパッタ法により、Crターゲットを用いて、遮光膜としてクロム膜を50nmの厚さに成膜し、続いてクロム酸化膜を20nm成膜して表面低反射層とし、2層構成の遮光膜としたマスクブランクスを形成した。
【0070】
次に、このマスクブランクスを用い、遮光膜上に電子線レジストを塗布し、電子線描画装置でパターン描画し、現像して、ウェハ上に転写されたときにハーフピッチ40nmのライン/スペースパターンとなるレジストパターンを形成した。
【0071】
次に、レジストパターンをマスクにして、クロム遮光膜を塩素と酸素の混合ガスを用いてエッチングし、遮光膜パターンを形成し、次いで、レジストパターンを酸素プラズマで除去して、バイナリ型のフォトマスクを形成した。
【0072】
次に、上記のバイナリ型のフォトマスクを用いてフォトレジストを塗布したシリコンウェハに、波長193nmのArFエキシマレーザを露光光源とし、投影レンズの口径NAが1.35で、
図2に示した四重極瞳フィルタを用いた変形照明により液浸露光し、現像し、ウェハ上にピッチ80nm(ハーフピッチ40nm)、ターゲットCD40nmのレジストパターンを形成した。本実施例のフォトリソグラフィ技術におけるプロセス定数k
1は、上記の数式(1)より算出すると、k
1=0.28である。
【0073】
本実施例のバイナリ型のフォトマスクを用いることにより、従来の透明基板上に表面低反射層を有する遮光膜クロムを用いたバイナリ型のフォトマスクによる転写露光に比べ、露光時の露光裕度を示すNILSは10%向上し、ウェハのフォトリソグラフィ工程の歩留が高められた。