(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記情報生成手段は、前記信号合成手段によって合成された合成情報信号の振幅要素を抽出する振幅抽出手段と、前記ノイズ抽出手段によって抽出されたノイズ成分を前記振幅抽出手段によって抽出された振幅要素によって正規化する正規化手段と、をさらに有し、
前記出力制御手段は、前記正規化手段によって正規化されたノイズ成分に基づいて前記信号出力手段に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の通信機。
前記情報生成ステップは、前記信号合成ステップによって合成された合成情報信号の振幅要素を抽出する振幅抽出ステップと、前記ノイズ抽出ステップによって抽出されたノイズ成分を前記振幅抽出ステップによって抽出された振幅要素によって正規化する正規化ステップと、をさらに有し、
前記出力制御ステップは、前記正規化ステップによって正規化されたノイズ成分に基づいて前記信号出力ステップに対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載の通信機の制御方法。
【背景技術】
【0002】
受信する電波の信号強度に対するノイズ成分の強度を検出するために、ノイズ検出機能を有するFM検波部を備えた通信機が一般的に知られている。
【0003】
図6は、関連技術におけるFM無線機の一般的なFM検波部100のブロック図である。
図6において、BPF(バンドパスフィルタ)101は、中間周波数の受信信号(IF入力)に含まれている高域及び低域の不要成分を減衰する。局部発振器102は、所定の周波数の局部発振信号を生成する。位相器103は、局部発振器102で生成された局部発振信号の位相を90度遅らせた位相シフトの局部発振信号を生成する。
【0004】
ミキサ回路104は、BPF101から入力される受信信号と局部発振器102から入力される局部発振信号とを混合して、中間周波数をより低い周波数に変換したI信号を生成し、LPF(ローパスフィルタ)106に入力する。ミキサ回路105は、BPF101から入力される受信信号と位相器103から入力される位相シフトの局部発振信号とを混合して、より低い周波数に変換したQ信号を生成し、LPF107に入力する。
【0005】
ミキサ回路104及び105からのI信号及びQ信号には、中間周波数から局部発振周波数を減算した差分周波数と、中間周波数と局部発振周波数とを加算した加算周波数とで構成される。LPF106及び107は、高域の加算周波数を減衰して、低域の差分周波数からなるI信号及びQ信号をそれぞれアークタンジェント検波回路108に入力する。
【0006】
アークタンジェント検波回路108は、LPF106及び107からそれぞれ入力されるI信号及びQ信号に基づいて受信信号の位相ωt=2πftを算出する。微分回路109は、アークタンジェント検波回路108から入力される位相ωtを微分して周波数ω=2πf、すなわち元の音声信号を含む検波信号をLPF110及びHPF(ハイパスフィルタ)111に入力する。この検波信号には、音声信号の他にノイズ成分が含まれている。LPF110は、微分回路109から入力される音声信号に含まれる不要な高域の周波数成分を減衰して音声信号を出力する。
【0007】
HPF111は、微分回路109から入力される音声信号及びノイズ成分のうち低域の音声信号を減衰して、高域のノイズ成分を抽出して、整流回路112に入力する。整流回路112は、HPF111から入力される高域のノイズ成分を整流し、直流電圧に変換して出力する。この直流電圧値は、復調された音声信号に含まれるノイズの大きさを示すノイズ量となる。すなわち、
図6のFM検波部100においては、音声信号の周波数帯域よりも更に高い周波数帯域をノイズ成分とみなして、HPF111によって復調された音声信号から分離している。ノイズ量が大きいときには、スケルチ機能によって音声の出力を停止する。
【0008】
図7は、理想的なFM信号における復調された信号(シンボル)のコンスタレーションを示す図である。コンスタレーションでは、同位相の信号を複素平面上の実数軸(I軸)に示し、90度位相ずれの信号を複素平面上の虚数軸(Q軸)に示している。
図7に示すように、理想的なFM信号の場合、そのコンスタレーションは単位円、例えば、半径A、位相φ(=ωt)とすると、y=Ae
jωtの円を描くことになる。この単位円の位相(ωt)の微分が周波数(ω=2πf)であり、検波信号となる。
【0009】
しかし、実際には、FM信号に含まれるノイズによって、コンスタレーションは
図7のような単位円を描かず、歪んだ形状になる。
図8は、ノイズが多く含まれているFM信号のコンスタレーションを示す図である。
図8において、コンスタレーションが零点(原点)から遠い位置でa点からb点へと横切る場合には、単位時間当たりの位相変化量(φb−φa)は小さい。しかし、零点近傍のc点からd点へと横切る場合には、単位時間当たりの位相変化量(φd−φc)は大きくなる。このような単位時間当たりの位相変化量の大きいノイズがパルスノイズである。
図9は、パルスノイズが発生する時の復調波形を示す図である。コンスタレーションが零点近傍を横切るときに、円で示すパルスノイズが発生する。
【0010】
一般に、音声信号を受信する通信機においては、ノイズ成分が大きいときには、上記したように、スピーカその他の音声出力部からの音声信号の出力を遮断するスケルチ機能が働く。
【0011】
下記の特許文献1及び特許文献2には、スケルチ機能によって音声出力を停止する技術が開示されている。このため、復調信号に含まれるノイズ成分を正確に検出することがスケルチ機能を適切に働かせる上で重要になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図6に示した従来の一般的なFM検波部においては、音声信号の周波数帯域よりも更に高い周波数成分をノイズ成分とみなしている。しかしながら、FM信号の性質上、音声信号の歪み成分も音声信号の周波数帯域に含まれるため、周波数遷移の大きなFM信号を受信した場合など、その歪み成分が大きくなる。また、理論的に無限に拡がる周波数帯域を持つFM信号の変調波形を送信する際には、必要な周波数帯域(例えば、アナログ信号の場合の12.5kHzで、全電力の95%〜99%)だけを送信しているので、完全に元の信号を復調できない。このため、周波数遷移が大きくなくても、数%の復調されない不足部分が歪み成分として受信信号に含まれることになる。その結果、その歪み成分をノイズ成分として誤検出し、スケルチ動作によって音声信号が遮断されるという問題があった。
【0014】
さらに、パルスノイズは、その瞬間だけ急激に値が変動するので、その値を平均しても平均値はあまり安定しないものになってしまう。従って、ある一定の閾値でスケルチ動作のON/OFFを制御した場合には、閾値を上回ったり下回ったりするので、結果としてスケルチ制御が不安定になってしまう。もちろん、閾値にヒステリシスを設け、一度開いた(出力を許可した)ら閾値を下げて、一度閉じた(出力を停止した)ら閾値を上げる方法、又は一度開いたら数10msecは閉じない方法等の対策を施すこともできる。しかし、パルスノイズの大きさや発生頻度などを考慮して、色々と調整する必要があり、かなり面倒な制御が必要になる。また、パルスノイズが発生しても安定した平均値を得ようとするのであれば、十分に長い時間の平均値を計算する必要が生じてしまい、このことはスケルチ制御の反応速度に大きく影響する。このように、従来の技術においては、復調信号に含まれるパルスノイズによってスケルチ制御の精度が低下するという問題があった。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、復調信号に含まれるノイズ成分を正確に検出し、音声信号の歪み成分をノイズ成分として誤検出することがなく、かつ、復調信号に含まれるパルスノイズによってスケルチ制御の精度が低下するのを防止できる通信機、通信機の制御方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の観点に係る、通信機は、
音声信号を含む中間周波の受信信号を低周波の受信信号に変換する信号変換手段と、
前記信号変換手段によって変換された受信信号を検波して音声信号を再生する信号検波手段と、
前記信号検波手段によって再生された音声信号を出力する信号出力手段と、
前記信号変換手段によって変換された受信信号に対して2乗演算を施して当該受信信号の振幅要素の情報及びノイズ成分の情報を含む情報信号を生成する情報生成手段と、
前記情報生成手段によって生成された情報信号
に含まれる振幅要素の情報とノイズ成分の情報とを比較して前記信号出力手段に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する出力制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記信号変換手段は、音声信号を含む中間周波の受信信号を互いに直交する音声信号を含む低周波の同相成分および直交成分の受信信号に変換し、
前記情報生成手段は、前記信号変換手段によって変換された同相成分に対して2乗演算を施して第1の情報信号を生成する第1の乗算手段と、前記信号変換手段によって変換された直交成分に対して2乗演算を施して第2の情報信号を生成する第2の乗算手段と、前記第1及び第2の乗算手段によって生成された第1及び第2の情報信号を合成して合成情報信号を生成する信号合成手段と、前記信号合成手段によって合成された合成情報信号のノイズ成分を抽出するノイズ抽出手段と、を有し、
前記出力制御手段は、前記ノイズ抽出手段によって抽出されたノイズ成分に基づいて前記信号出力手段に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する、
ことを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記情報生成手段は、前記信号合成手段によって合成された合成情報信号の振幅要素を抽出する振幅抽出手段と、前記ノイズ抽出手段によって抽出されたノイズ成分を前記振幅抽出手段によって抽出された振幅要素によって正規化する正規化手段と、をさらに有し、
前記出力制御手段は、前記正規化手段によって正規化されたノイズ成分に基づいて前記信号出力手段に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する、
ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第2の観点に係る、通信機の制御方法は、
音声信号を含む中間周波の受信信号を低周波の受信信号に変換する信号変換ステップと、
前記信号変換ステップによって変換された受信信号を検波して音声信号を再生する信号検波ステップと、
前記信号検波ステップによって再生された音声信号を出力する信号出力ステップと、
前記信号変換ステップによって変換された受信信号に対して2乗演算を施して当該受信信号の振幅要素の情報及びノイズ成分の情報を含む情報信号を生成する情報生成ステップと、
前記情報生成ステップによって生成された情報信号
に含まれる振幅要素の情報とノイズ成分の情報とを比較して前記信号出力ステップに対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する出力制御ステップと、を含む、
ことを特徴とする。
【0020】
好ましくは、前記信号変換ステップによって、音声信号を含む中間周波の受信信号が互いに直交する音声信号を含む低周波の同相成分および直交成分の受信信号に変換され、
前記情報生成ステップは、前記信号変換ステップによって変換された同相成分に対して2乗演算を施して第1の情報信号を生成する第1の乗算ステップと、前記信号変換ステップによって変換された直交成分に対して2乗演算を施して第2の情報信号を生成する第2の乗算ステップと、前記第1及び第2の乗算ステップによって生成された第1及び第2の情報信号を合成して合成情報信号を生成する信号合成ステップと、前記信号合成ステップによって合成された合成情報信号のノイズ成分を抽出するノイズ抽出ステップと、を有し、
前記出力制御ステップは、前記ノイズ抽出ステップによって抽出されたノイズ成分に基づいて前記信号出力ステップに対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する、
ことを特徴とする。
【0021】
好ましくは、前記情報生成ステップは、前記信号合成ステップによって合成された合成情報信号の振幅要素を抽出する振幅抽出ステップと、前記ノイズ抽出ステップによって抽出されたノイズ成分を前記振幅抽出ステップによって抽出された振幅要素によって正規化する正規化ステップと、をさらに有し、
前記出力制御ステップは、前記正規化ステップによって正規化されたノイズ成分に基づいて前記信号出力ステップに対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する、
ことを特徴とする。
【0022】
本発明の第3の観点に係るコンピュータプログラムは、
受信信号を処理する機能を有するコンピュータを、
音声信号を含む中間周波の受信信号を低周波の受信信号に変換する信号変換手段、
前記信号変換手段によって変換された受信信号を検波して音声信号を再生する信号検波手段、
前記信号検波手段によって再生された音声信号を出力する信号出力手段、
前記信号変換手段によって変換された受信信号に対して2乗演算を施して当該受信信号の振幅要素の情報及びノイズ成分の情報を含む情報信号を生成する情報生成手段、
ならびに
前記情報生成手段によって生成された情報信号
に含まれる振幅要素の情報とノイズ成分の情報とを比較して前記信号出力手段に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する出力制御手段、として機能させる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の通信機、通信機の制御方法及びコンピュータプログラムによれば、復調信号に含まれるノイズ成分を正確に検出し、音声信号の歪み成分をノイズ成分として誤検出することがなく、かつ、復調信号に含まれるパルスノイズによってスケルチ制御の精度が低下するのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、図を参照しながら説明する。なお、図中同一又は相当する部分には同一符号を付す。また、重複する説明は省略する。
【0026】
(実施形態)
図1は、本発明の通信機の実施形態におけるFM受信機10の概略ブロック図である。
図1に示すように、FM受信機10は、受信アンテナ11、BPF(バンドパスフィルタ)12、RF増幅器13、ミキサ部14、IF増幅器15、ミキサ部16、検波部17、BPF18、音声出力部19、ノイズ検出部20、及びスケルチ制御部21を備えている。
【0027】
受信アンテナ11は、FM電波の複数のチャンネルのRF(高周波)信号を受信して、同調回路(図示せず)に入力する。同調回路は、ユーザの指定に応じたチャンネル(周波数)の高周波信号を選択的にチューニングして、BPF12に入力する。
【0028】
BPF12は、同調回路から入力されたRF信号から不要な周波数成分を減衰して、RF増幅器13に入力する。
【0029】
RF増幅器13は、BPF12から入力されたRF信号を増幅して、ミキサ部14に入力する。
【0030】
ミキサ部14は、RF増幅器13から入力されたRF信号と、局部発振器(図示せず)から出力される所定の周波数の局部発振信号とを混合し、IF(中間周波)信号に変換してIF増幅器15に入力する。
【0031】
IF増幅器15は、ミキサ部14から入力されたIF信号を増幅して、ミキサ部16に入力する。
【0032】
ミキサ部16は、IF増幅器15から入力されたIF信号と、局部発振器(図示せず)から出力される所定の周波数の局部発振信号及びその局部発振信号の位相を位相器によって90度遅らせた局部発振信号とを混合して、互いに直交する低周波の同相成分であるI信号および直交成分であるQ信号に変換し、これらを検波部17及びノイズ検出部20に入力する。
【0033】
検波部17は、ミキサ部16から入力されたI信号及びQ信号に基づいて音声信号を検波し、BPF18に入力する。
【0034】
BPF18は、検波部17から入力された音声信号に含まれている不要な周波数成分(約300乃至3000Hz以外の周波数成分)を減衰して、音声出力部19に入力する。
【0035】
ノイズ検出部20は、ミキサ部16から入力された低周波信号に対して乗算処理、フィルタ処理及び整流処理を施して検出したノイズ成分をスケルチ制御部21に入力する。
【0036】
スケルチ制御部21は、ノイズ検出部20から入力されたノイズ成分に基づいて制御信号を生成して音声出力部19に入力する。
【0037】
音声出力部19は、低周波増幅器及びスピーカ等(図示せず)で構成され、BPF18から入力される音声信号に対して増幅処理を行い、スケルチ制御部21から入力される制御信号に従って、増幅した音声信号に応じた音声を出力するか又は出力を停止する。
【0038】
次に、ミキサ部16、検波部17及びノイズ検出部20の詳細な構成及び動作について説明する。
図2は、
図1のミキサ部16、検波部17及びノイズ検出部20の詳細な構成を示すブロック図である。まず、
図2におけるミキサ部16、検波部17及びノイズ検出部20における各構成要素とそれぞれの機能について説明する。
【0039】
ミキサ部16は、BPF31、2つのミキサ回路32及び33、局部発振器34、位相器35、LPF36及び37を有する。
【0040】
BPF31は、
図1に示したIF増幅器15から入力されたIF信号に含まれている不要な高域成分及び低域成分を減衰してミキサ回路32、33に入力する。
【0041】
局部発振器34は、所定の周波数の局部発振信号を生成して、ミキサ回路32及び位相器35に入力する。
【0042】
位相器35は、局部発振器34から入力された局部発振信号の位相を90度遅らせて、ミキサ回路33に入力する。
【0043】
ミキサ回路32は、局部発振器34から入力された局部発振信号によりBPF31から入力されたIF信号の周波数を低い周波数に変換する。ミキサ回路33は、位相器35から入力された90度位相遅れの局部発振信号によりBPF31から入力されたIF信号の周波数を低い周波数に変換する。
【0044】
ミキサ回路32及び33の周波数変換処理においては、中間周波数から局部発振周波数を減算した差分周波数の低周波信号に変換するが、その周波数変換処理において、中間周波数と局部発振周波数とが加算された高周波成分(これを「イメージ成分」という)が発生する。このため、ミキサ回路32及び33にはLPF36及び37がそれぞれ接続されている。
【0045】
LPF36は、ミキサ回路32において発生するイメージ成分を減衰して、低周波信号を検波部17及びノイズ検出部20に入力する。同様に、LPF37は、ミキサ回路33において発生するイメージ成分を減衰して、低周波信号を検波部17及びノイズ検出部20に入力する。
【0046】
ミキサ回路32によって変換されてLPF36によってフィルタ処理された低周波信号と、ミキサ回路33によって変換されてLPF37によってフィルタ処理された低周波信号とは、直交する位相を有することになる。このため上記したように、一般に、ミキサ回路32によって変換された低周波信号をI信号(In-phase signal;同相成分)と呼び、ミキサ回路33によって変換された低周波信号をQ信号(Quadrate signal;直交成分)と呼ぶ。
【0047】
検波部17は、アークタンジェント検波回路38、微分回路39及びLPF40を有する。
【0048】
アークタンジェント検波回路38は、一方の入力端及び他方の入力端に対して、LPF36及び37からそれぞれ入力されたI信号及びQ信号との比に対してアークタンジェント値を算出するアークタンジェント演算処理を行って、微分回路39に入力する。アークタンジェント演算処理の詳細については後述する。
【0049】
微分回路39は、アークタンジェント検波回路38から入力されたアークタンジェント値を時間で微分して周波数を算出し、算出した周波数に基づいて再生した音声信号をLPF40に入力する。
【0050】
LPF40は、微分回路39から入力された音声信号に含まれている不要な高域の周波数成分を減衰して
図1の音声出力部19に入力する。
【0051】
ノイズ検出部20は、2つの2乗演算回路41及び42、合成回路43、HPF44、整流回路45、LPF46、及び正規化回路47を有する。
【0052】
2乗演算回路41は、LPF36から入力されたI信号に対して2乗演算を施して、I信号の振幅要素の情報及びノイズ成分の情報を含む情報信号を算出して合成回路43の一方の入力端に入力する。同様に、2乗演算回路42は、LPF37から入力されたQ信号に対して2乗演算を施して、Q信号の振幅要素の情報及びノイズ成分の情報を含む情報信号を算出して合成回路43の他方の入力端に入力する。
【0053】
合成回路43は、2乗演算回路41及び42からそれぞれ入力されたI信号及びQ信号の情報信号を合成して、その合成情報信号をHPF44及びLPF46に入力する。
【0054】
HPF44は、合成回路43から入力された合成情報信号に含まれる高域のノイズ成分を抽出して、整流回路45に入力する。
【0055】
整流回路45は、HPF44から入力された高域(交流)のノイズ成分を整流し、ノイズ量を示す直流電圧に変換して正規化回路47に入力する。
【0056】
LPF46は、合成回路43から入力された合成情報信号に含まれる振幅要素を抽出して、正規化回路47に入力する。
【0057】
正規化回路47は、LPF46から入力された振幅要素によって、整流回路45から入力された直流電圧値を正規化(例えば、除算)し、ノイズ出力として
図1のスケルチ制御部21に入力する。
【0058】
次に、検波部17及びノイズ検出部20の詳細な動作について、
図2乃至
図4を参照して説明する。
図3は、
図8に示したノイズが多く含まれているFM信号がマッピングされたベクトル空間であるコンスタレーションとノイズ量との関係を示す図である。
図4は、信号強度が大きい場合と信号強度が小さい場合の理想的なFM信号における復調された信号のコンスタレーションを示す図である。
【0059】
受信アンテナ11からノイズ成分を含まない理想的なFM信号、すなわち
図7に示したFM信号が入力された場合には、ミキサ回路32及び33に入力されるIF信号に含まれるFM信号は、下記の式(1)で表される。下記の式(1)において、ω=2πfはFM信号の周波数、ω
c=2πf
cはFM信号の中心周波数、Δω=2πΔfはFM信号の周波数偏倚である。周波数偏倚Δωが音声信号を担う情報である。
【数1】
【0060】
ミキサ回路32から周波数変換されてLPF36から出力されるI信号は、IF信号に含まれるFM信号と同相であるので、下記の式(2)で表される。一方、ミキサ回路33から周波数変換されてLPF37から出力されるQ信号は、IF信号に含まれるFM信号と90度の位相差になっているので、下記の式(3)で表される。
【数2】
【数3】
【0061】
実際には、受信アンテナ11から入力されるFM信号にはノイズ成分が含まれている。言い換えれば、「希望信号」であるFM信号には、「相対的な」ノイズ成分が含まれている。「相対的な」というのは、例えば、受信信号の信号強度が大きくても純度(希望信号/ノイズ成分)が低ければ、ノイズ成分が大きいとみなして音声を遮断し、逆に受信信号の信号強度が小さくても純度が高ければ、ノイズ成分が小さいとみなして音声を出力することになる。ミキサ回路32及び33に入力されるIF信号に含まれるFM信号を、「希望信号」と「相対的な」ノイズ成分の合成として、下記の式(4)で表す。したがって、ミキサ回路32から出力される同相成分のI信号、及びミキサ回路33から出力される直交成分のQ信号は、それぞれ下記の式(5)及び(6)で表される。
【数4】
【数5】
【数6】
一般に、cosθ及びsinθとtanθとの関係は下記の式(7)で表される。
【数7】
したがって、式(5)乃至(7)に基づいて下記の式(8)を導き出せる。
【数8】
【0062】
アークタンジェント検波回路38は、式(8)に基づいて下記の式(9)の演算を行って、算出した(ω
c+Δω)tの値を微分回路39に入力する。
【数9】
【0063】
微分回路39は、アークタンジェント検波回路38から入力された(ω
c+Δω)tの値を下記の式(10)によって時間tで微分して、算出した(ω
c+Δω)の値、すなわちFM信号の中心周波数ω
c及び周波数偏倚Δωによって表される音声信号をLPF40に入力する。
【数10】
【0064】
LPF40は、(ω
c+Δω)の信号に含まれる音声周波数帯域より高域の周波数成分を減衰し、信号対ノイズ比(S/N)の高い音声信号を
図1の音声出力部に入力する。
【0065】
2乗演算回路41は、LPF36から入力されるI信号であるI(t)に対して2乗演算を施して、下記の式(11)で表される信号を合成回路43の一方の入力端に入力する。
【数11】
すなわち、2乗演算回路41は、振幅要素A
2及びノイズ成分A
2(2η(t)+η(t)
2)を含む情報信号(これを「第1の情報信号」という)を合成回路43に入力する。
【0066】
同様に、2乗演算回路42は、LPF37から入力されるQ信号であるQ(t)に対して2乗演算を施して、下記の式(12)で表される信号を合成回路43の他方の入力端に入力する。
【数12】
すなわち、2乗演算回路42も、振幅要素A
2及びノイズ成分A
2(2η(t)+η(t)
2)を含む情報信号(これを「第2の情報信号」という)を合成回路43に入力する。
【0067】
合成回路43は、2乗演算回路41及び2乗演算回路42から入力される第1の情報信号及び第2の情報信号を合成して、下記の式(13)で表される合成情報信号をHPF44及びLPF46に入力する。
【数13】
【0068】
HPF44及びLPF46に入力された上記の合成情報信号の第1項の直流の振幅要素A
2は、
図3に示す点線の単位円の半径の2乗を表している。これに対して、合成情報信号の第2項の交流のノイズ成分A
2(2η(t)+η(t)
2)は、単位円からのズレ幅Dの変動量である。
【0069】
HPF44は、式(13)で示される合成情報信号の第1項の直流の振幅要素を減衰し、第2項の高周波のノイズ成分を抽出して、整流回路45に入力する。
【0070】
整流回路45は、HPF44から入力された合成情報信号の高周波のノイズ成分を整流し、変換した直流電圧(これを「N」とする)を正規化回路47に入力する。したがって、直流電圧Nがノイズ量を表す。
【0071】
LPF46は、式(13)で示される合成情報信号の第2項の高周波のノイズ成分を減衰し、第1項の直流の振幅要素を抽出して、正規化回路47に入力する。
【0072】
正規化回路47は、HPF44によって抽出されたノイズ成分を整流した直流電圧Nが整流回路45から入力されると、その直流電圧NをLPF46によって抽出された振幅要素によって正規化する。例えば、正規化回路47は、直流電圧Nを振幅要素A
2で除算する。この正規化により、信号強度にノイズ成分が依存するのを回避することができる。
【0073】
図4に示すように、異なる半径A1及びA2の2つの単位円からの変動量すなわちノイズ成分は、それぞれの半径すなわち信号強度に依存するので、それぞれのノイズ量を表す直流電圧をN1及びN2とすると、N1/A1
2及びN2/A2
2の演算によって正規化する。正規化した直流電圧をNrとすると、正規化回路47は、正規化した直流電圧Nrを
図1に示したスケルチ制御部21に入力する。
【0074】
これにより、スケルチ制御部21は、上述したように、正規化回路47から入力された直流電圧Nrに基づいて、
図1に示した音声出力部19を制御する。
【0075】
なお、信号強度が所定の範囲で安定している場合には、HPF44によってノイズ成分を抽出し、整流回路45によって整流した直流電圧Nを正規化することなく、
図1に示したスケルチ制御部21に入力する構成にしてもよい。
【0076】
さらに、実施形態の変形例として、信号強度が所定の範囲にあるか否かを検出する振幅検出回路をさらに備える構成も可能である。この構成によれば、信号強度が所定の範囲にあるときには、直流電圧Nを正規化することなくスケルチ制御部21に入力し、信号強度が所定の範囲外のときに、正規化した直流電圧Nrをスケルチ制御部21に入力する。
【0077】
以上説明したように、実施形態の通信機は、音声信号を含む中間周波の受信信号を低周波の受信信号に変換するミキサ部16(信号変換手段)と、ミキサ部16によって変換された受信信号を検波して音声信号を再生する検波部17(信号検波手段)と、検波部17によって再生された音声信号を出力する音声出力部19(信号出力手段)と、ミキサ部16によって変換された受信信号に対して2乗演算を施してその受信信号の振幅要素の情報及びノイズ成分の情報を含む情報信号を生成するノイズ検出部20(情報生成手段)と、ノイズ検出部20によって生成された情報信号に基づいて、音声出力部19に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御するスケルチ制御部21(出力制御手段)と、を備える。
【0078】
したがって、実施形態の通信機によれば、復調信号に含まれるノイズ成分を正確に検出し、音声信号の歪み成分をノイズ成分として誤検出することがない。この結果、ノイズ成分として誤検出した復調信号のために、スケルチブロッキングが生じるのを回避することができる。また、ノイズの変動区間が長いという利点、及び、安定してノイズ成分を抽出できるという利点がある。
【0079】
また、実施形態の通信機において、ミキサ部16は、音声信号を含む中間周波の受信信号を互いに直交する低周波の同相成分であるI信号及び直交成分であるQ信号に変換する。ノイズ検出部20は、ミキサ部16によって変換された同相成分に対して2乗演算を施して第1の情報信号を生成する2乗演算回路41(第1の乗算手段)と、ミキサ部16によって変換された直交成分に対して2乗演算を施して第2の情報信号を生成す2乗演算回路42(第2の乗算手段)と、2乗演算回路41及び2乗演算回路42によって生成された第1及び第2の情報信号を合成して合成情報信号を生成する合成回路43(信号合成手段)と、合成回路43によって合成された合成情報信号のノイズ成分を抽出するHPF44(ノイズ抽出手段)と、をさらに有する。スケルチ制御部21は、HPF44によって抽出されたノイズ成分に基づいて音声出力部19に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する。
【0080】
したがって、復調信号に含まれるノイズ成分を正確に検出し、音声信号の歪み成分をノイズ成分として誤検出することがなく、かつ、復調信号に含まれるパルスノイズによってスケルチ制御の精度が低下するのを防止できる。
【0081】
さらに、実施形態の通信機において、ノイズ検出部20は、合成回路43によって合成された合成情報信号の振幅要素を抽出するLPF46(振幅抽出手段)と、HPF44によって抽出されたノイズ成分をLPF46によって抽出された振幅要素によって正規化する正規化回路47(正規化手段)と、をさらに有する。スケルチ制御部21は、その正規化回路47によって正規化されたノイズ成分に基づいて音声出力部19に対して音声信号の出力の許可又は停止を制御する。
【0082】
したがって、信号強度にノイズ成分が依存するのを回避することにより、信号強度が大きい場合でも、確実にノイズ成分を検出できる。
図5は、関連技術及び本発明の実施形態における信号強度とノイズ量との関係を比較した図である。
図5において、関連技術における信号強度とノイズ量との関係を点線で示し、本発明の実施形態における信号強度とノイズ量との関係を実線で示している。
図5に示すように、所定の閾値TH以上のノイズ量を検出する最大の信号強度は、関連技術の信号強度sig1に比べて、本発明の信号強度sig2は大きい。このように、本発明の実施形態によれば、信号強度が大きい場合でも、確実にノイズ成分を検出できる。
【0083】
なお、上記実施形態においては、通信機を
図1及び
図2に示したハードウェアによって構成したが、本発明の構成はハードウェアに限定されない。通信機の一部、例えば、ノイズ検出部20をCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータで構成することも可能である。この構成によれば、CPUは、ROMに予め格納されているプログラムをRAMに読み込んで、通信機を制御し、上記実施形態と同様の信号処理を実行することが可能である。これにより、通信機の制御方法の発明を実現する。
【0084】
さらに、CPUは、コンピュータ読取可能な記録媒体から読み出したプログラム又はインターネット等の通信回線を介してダウンロードしたプログラムをRAMに読み込んで、通信機を制御し、
図1及び
図2に示したハードウェアの機能をコンピュータに実行させることが可能である。これにより、コンピュータプログラムの発明を実現する。
【0085】
上記実施形態は、本発明を説明するための一例に過ぎない。本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り、上記実施形態に基づいて、当業者が容易に想到できる他の実施形態及び種々の変形例も本発明の範疇に属する。