(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1では、振れ量に応じた振れ除去研削を実施できるが、振れ精度の測定中は研削を中断するため、研削終了までに時間を要する。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、振れ精度を研削中に測定できる振れ精度測定方法と、測定された振れ量に応じて振れ除去研削を実施でき、無駄な研削時間を消費しない研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、円筒状の工作物を回転支持して加工部を研削する研削中に前記加工部の精度を測定する振れ精度測定方法において、
前記工作物の研削中の1回転の間に、前記砥石車の切込み方向における研削点と対向する前記加工部の表面の位置である表面位置と、この時作用している法線研削抵抗力を同時に測定し、
測定開始位置における前記表面位置と、前記測定開始位置から所定の角度Θ回転した位置における前記表面位置と、の差を表面変化Δs(Θ)とし、
前記測定開始位置における前記法線研削抵抗力と、前記測定開始位置から所定の角度Θ回転した位置における前記法線研削抵抗力と、の差を抵抗力変化ΔR(Θ)とし、
測定開始位置を含む前記加工部の直径である開始位置直径D
0と、測定終了位置を含む前記加工部の直径である終了位置直径D
360とを測定し、外径寸法変化ΔDをΔD=D
0−D
360で演算し、
研削時の前記加工部の剛性kと前記抵抗力変化ΔR(Θ)を用いて前記加工部のたわみ変化Δt(Θ)を演算し、
前記表面変化Δs(Θ)に対して、前記たわみ変化Δt(Θ)と、前記外径寸法変化ΔDを回転角度Θに応じて按分した補正値と、を用いて補正して振れF(Θ)を演算し、
前記振れF(Θ)の最大値と最小値の差を振れ精度Fmとして演算することである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、円筒状の工作物を回転支持して砥石車により加工部を研削する研削盤において、
前記加工部の外径寸法を測定する工作物径測定部と、
前記砥石車の切込み方向における前記加工部の表面の位置を測定する位置測定部と、
研削中の法線抵抗力を測定する法線抵抗力測定部と、
前記工作物の研削中の1回転の間に、測定開始位置における前記位置測定部で測定された開始表面位置と、同時に前記法線抵抗力測定部により測定された開始法線研削抵抗力と、測定開始位置から所定の角度Θ回転した位置における前記位置測定部で測定されたΘ表面位置と、同時に前記法線抵抗力測定部により測定されたΘ法線研削抵抗力を用いて、
前記開始表面位置と前記Θ表面位置の差を表面変化Δs(Θ)とし、
前記開始法線研削抵抗力と前記Θ法線研削抵抗力の差を法線研削抵抗力変化ΔR(Θ)とし、
前記加工部の剛性kと前記法線抵抗力変化ΔR(Θ)を用いて前記加工部のたわみ変化Δt(Θ)を式Δt(Θ)=ΔR(Θ)/kを用いて演算する変化演算部と、
測定開始位置を含む前記加工部の直径である開始位置直径D
0と、測定終了位置を含む前記加工部の直径である終了位置直径D
360との差である外径寸法変化ΔDをΔD=D
0−D
360で演算し、
前記回転角度Θに対応する振れF(Θ)を式F(Θ)=Δs(Θ)+Δt(Θ)+Θ・ΔD/720を用いて演算する振れ演算部と、
前記振れF(Θ)の最大値と最小値の差を振れ精度として演算する振れ精度演算部と、
前記振れ精度に基づき、研削工程を変更する制御装置を備えることである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1係る発明によれば、研削中に測定した砥石車の切込み方向における加工部の表面の変位変化Δs(Θ)と変位変化Δs(Θ)測定時の法線抵抗力変化ΔR(Θ)と加工部の外径寸法変化ΔD(Θ)と、加工部の剛性kを用いて加工部の半径振れF(Θ)を演算することで、研削中に加工部の振れ精度を測定できる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、研削中に測定した砥石車の切込み方向における加工部の表面の変位変化Δs(Θ)と変位変化Δs(Θ)測定時の法線抵抗力変化ΔR(Θ)と加工部の外径寸法変化ΔD(Θ)と、加工部の剛性kを用いて加工部の半径振れF(Θ)を演算することで、研削中に加工部の振れ精度を測定できる。この測定値を用いて研削条件の変更を行い、短時間で所望の精度の研削が可能な研削盤を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を円筒研削盤の実施例に基づき、
図1〜
図6を参照しつつ説明する。
図1に示すように、円筒研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能に支持され送りモータ9により駆動される砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石7を回転自在に支持し、砥石車7は砥石軸回転モータ(図示省略する)により回転駆動される。テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。工作物Wの加工部を測定する測定装置8がテーブル上に設置されている。
図2に示すように、測定装置8は、テーブルに固定されたベース81に保持された工作物径測定装置本体831と工作物径測定装置本体831に係合する180度対向して配置された接触子832a、832bで構成される工作物径測定装置83と、ベース81に保持されたブラケット82に固定され、非接触で工作物Wの表面位置を測定する静電容量型の表面位置測定装置85を備えている。接触子832a、832bと表面位置測定装置85は工作物Wの軸方向で同一位置に配置され、加工部の同一部位を測定することができる。
【0012】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削加工や計測を実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御部31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御部32、主軸5の回転を制御する主軸制御部33、測定装置8を制御する測定装置制御部34、各種の演算をする演算部35などを具備している。X軸制御部31の機能として研削時に砥石車7に作用する法線研削抵抗力を送りモータ9の電流値から測定する法線研削抵抗測定部311を備えている。また、演算部35の機能として変化演算部351、振れ演算部352、振れ精度演算部353を備えている。
【0013】
はじめに、本発明の振れ精度測定方法の概要を説明する。
通常、振れ精度の測定は、センタ穴などの回転基準を基準として測定物を回転させ、測定部表面の回転基準中心からの半径変動量である振れを1回転分測定し、振れの最大値と最小値の差を振れ精度とする。
研削中に加工部の振れ精度を測定するためには、法線研削抵抗力による加工部の回転基準からのたわみ変動の補正が必要である。さらに、研削中の加工部は渦巻状に取代が除去されるため、渦巻状の半径変動を備えており、この半径変動の補正も必要である。加工中の加工部の表面位置を1回転分測定し上記の2つの変動の補正をすることで振れ精度を測定する。
【0014】
図3に基づき研削中の振れ精度測定について詳細を説明する。
図3(a)に示す測定開始位置おける、工作物Wの回転基準である主軸5の回転中心と心押台6のセンタ中心を結ぶ線の加工部における位置を点Pとする。工作物Wに法線研削抵抗力が作用していると、加工部の回転中心は点Pからたわみ量t
0だけ移動した点Oとなる。点Pと表面位置測定装置85の距離をuとし、点Pと点Oの距離をt
0とし、加工部の表面と表面位置測定装置85の距離をs
0すると、点Oからの加工部の表面半径r
0はr
0=u−s
0−t
0と表される。uは測定装置8、主軸5、心押し台6の配置により決定される一定の値である。t
0は法線研削抵抗力により生じる砥石車7の切込み方向における工作物Wの加工部のたわみ量であり、加工部の剛性をkとし、法線研削抵抗力をR
0とするとt
0=R
0/kで算出できる。剛性kはあらかじめ測定または解析により求めることができる。法線研削抵抗力Rは砥石台3を送る送りモータ9の電流値を法線抵抗測定部311において検出し法線研削抵抗力Rに換算することで測定する。
【0015】
ここで、加工部の直径は工作物径測定装置83により測定されるが、測定開始点Aを含む加工部の直径D
0は
図3(b)に示すように点Aが接触子84aの位置まで回転した時に測定される。表面位置測定装置85と接触子84aの位相差がΦあるので、点Aのs
0、R
0測定時から工作物Wが角度Φだけ回転した時の工作物径測定装置83の測定値が点Aを含む加工部の直径となる。測定終了点A
1は点Aと同一位相で半径が1回転の研削除去量だけ減少した点となり、A
1を含む加工部の直径は測定開始から工作物が(360+Φ)度回転した時に測定される。
【0016】
測定開始点Aにおける表面半径をr
0とし、所定の回転角度ΔΘ毎にr
0からr
nまで表面半径を1回転分求め、点Aを含む加工部の直径をD
0とし、1回転後の測定終了点A
1を含む加工部の直径をD
360とすると、
図4(a)に示すような表面半径変動のグラフが得られる。このグラフに点Aにおけるr
0の値と点A
1におけるr
nの差である(D
0−D
360)/2を1回転中の研削除去による半径減少量と見なして回転位置に応じた補正をすると
図4(b)に示すグラフが得られる。具体的には、点Aからi番目の回転位置Θ
i(度)における補正量はΘ
i・(D
0−D
360)/720となり、このときの補正表面半径r
iはr
i=u−s
i−t
i+Θ
i・(D
0−D
360)/720として算出できる。
ここで、点Aの値を基準にしてi番目の補正表面半径の差すなわち点Aに対するi番目の表面の振れF
iを計算するとF
i=s
i−s
1+t
i−t
1−Θ
i・(D
0−D
360)/720となり、uに無関係に振れを算出できる。工作物Wの1回転中のF
iの最大値と最小値の差が振れ精度Fmとなる。
【0017】
本研削盤1において、本振れ測定工程を用いたバックオフ研削により加工部の振れを修正する研削工程について、
図5のフローチャートに基づき説明する。ここで、バックオフ研削とは研削中に砥石車7を後退させて工作物Wと砥石車7が離れた位置から再度前進して研削を行うことである。こうすることで、振れのある加工部の振れの大きい部分のみを選択的に研削除去し、工作物径の減少を最小として振れの補正ができる研削方法である。
はじめに、砥石車7と工作物Wを所定の回転速度で回転させた状態で、砥石車7を研削開始位置X=X
0まで早送りする(S1)。所定の粗研削仕上径となるX=X
0−f
1まで砥石車7を送り粗研削を行う(S2)。中仕上げ研削の研削条件で工作物1回転分研削を行う。砥石車7を工作物1回転あたりの送り量であるΔf
2送る(S3)。
図6のフローチャートに示す振れ測定工程を開始する(S4)。振れ測定工程で測定した振れ精度Fmが許容値Cより大きいかを判定する。Fm>Cならばバックオフ研削を開始するためS6へ移動し、Fm≦CならばS7へ移動する(S5)。砥石台3を後退させバックオフ研削開始位置のX=X
0−f
1−3・Δf
2+Fmへ位置決め後、S3へ移動する(S6)。工作物Wの加工部の径が仕上げ研削開始に達するまで中仕上げ研削を行う(S7)。仕上げ研削を行う(S8)。砥石台を加工開始位置のX=X
0+X
fへ後退させる(S9)。
【0018】
次に、本研削盤1における振れ測定工程を、工作物回転の1度(ΔΘ)毎に1回転分のi=0〜360までの361個の表面半径を測定する例で、
図6のフローチャートに基づき
図3を参照して具体的に説明する。
はじめに、工作物Wの加工部の剛性kと、
図3(b)に示す、表面位置測定装置85と接触子84aの位相差Φを演算部35に読込む(S11)。演算部35において工作物回転角度Θの値を0、データカウントiの値を1にリセットする(S12)。
図3(a)に示すように、測定開始位置である点Aの表面位置s
0を表面位置測定装置85で測定し、同時に法線研削抵抗力R
0を法線抵抗測定部311で測定し、演算部35に記録する(S13)。工作物を1度回転させる(S14)。表面位置s
iを表面位置測定装置85で測定し、同時に法線研削抵抗力R
iを法線抵抗測定部311で測定し、演算部35に記録する(Θ=1〜Φ)(S15)。データカウントiの値に1を加算する。i=i+1(S16)。i≧Φ+1(測定開始点Aが接触子85aの位置に到達した)か判定する。i<Φ+1ならS14へ移動、i≧Φ+1ならS18へ移動する(S17)。
図3(b)に示すように、測定開始位置点Aの工作物直径D
0を工作物径測定装置83で測定し、演算部35に記録する(S18)。
【0019】
工作物を1度回転させる(S19)。表面位置s
iを表面位置測定装置85で測定し、同時に法線研削抵抗力R
iを法線抵抗測定部311で測定し、演算部35に記録する(Θ=Φ+1〜360)(S20)。データカウントiの値に1を加算する。i=i+1(S21)。i≧361(測定開始点Aが1回転した)か判定する。i<361ならS19へ移動し、i≧361ならS23へ移動する(S22)。抵抗力変化ΔR
i=R
0−R
i、たわみ変化Δt
i=ΔR
i/k、表面変化Δsi=s
0−s
iを変化演算部351で演算し演算部35に記録する(S23)。S23開始と同時に工作物をΦ度回転させる。ここで、S26における演算時間はS24における工作物回転時間より短い(S24)。
図3(d)に示すように、測定終了位置点A
1の工作物直径D
360を工作物径測定装置83で測定し、演算部35に記録する(S25)。振れF
iを式F
i=Δsi+Δt
i+i・(D
0−D
360)/720(i=1〜360について)を用いて振れ演算部352で演算する(S26)。振れ精度FmをF
1〜F
360の最大値と最小値の差として振れ精度演算部353で演算する(S27)。S26開始と同時に工作物を(360−Φ)度回転させる。ここで、S26とS27における演算時間はS28における工作物回転時間より短い(S28)。
【0020】
以上のように、本発明の振れ精度測定方法を用いると、研削中に法線研削抵抗力の影響を受けることなく加工部の振れ精度が測定でき、その結果に応じて最適な振れ取り研削工程を実施できる。このため、振れ取り研削の取り代を必要最小限にでき、研削時間を短縮でき、砥石車7の消耗も削減できる。
【0021】
上記事例では砥石台送りモータ9の電流値を検出して法線研削抵抗力の測定を行ったが、主軸台5と心押し台6に荷重測定センサを設置して測定してもよい。
表面位置測定装置85を非接触型のものを用いたが、差動トランス方式などの接触式の測定機を用いてもよい。