特許第5724734号(P5724734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724734
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】プレス型
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/14 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   B21D24/14
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-170847(P2011-170847)
(22)【出願日】2011年8月4日
(65)【公開番号】特開2013-35002(P2013-35002A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2013年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石島 聡
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 学
(72)【発明者】
【氏名】脇田 明浩
(72)【発明者】
【氏名】高島 淳志
【審査官】 馬場 進吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−154897(JP,A)
【文献】 実開昭58−125623(JP,U)
【文献】 実開平04−075620(JP,U)
【文献】 実開昭62−056227(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型と、上死点と下死点間で昇降可能に構成された上型と、前記上型に対して一定距離だけ上下動可能な状態でその上型に連結された押え部材とを備え、前記上型が下降する過程で前記押え部材が前記下型上の板状素材を押え、この状態から前記上型が前記下死点まで下降することで前記板状素材が前記上型と下型とにより加工され、さらに前記上型が上昇する過程でその上型が前記押え部材と係合し、前記押え部材が前記上型と共に上昇する構成のプレス型であって、
前記押え部材は、前記上型に設けられた押え力付与手段の力を受けて、前記下型上の板状素材を押える構成であり、
前記下型には、上昇中の前記上型が前記押え部材と係合する前から前記押え部材を押し上げ、前記上型と前記押え部材とが係合するタイミングで前記押え部材の上昇速度を所定値にする押上手段が設けられており、
上昇中の前記上型が前記押え部材と係合する前に、前記押え力付与手段が前記押え部材から離れ、前記押え部材は前記押え力付与手段の力を受けないように構成されていることを特徴とするプレス型。
【請求項2】
請求項1に記載されたプレス型であって、
記押上手段は、前記押え力付与手段の力を受けた前記押え部材によって押し下げられることで、前記押え部材に対する押上げ力を蓄え、前記押え力付与手段の力が解除されたときに、前記押え部材を押し上げる構成であることを特徴とするプレス型。
【請求項3】
請求項2に記載されたプレス型であって、
前記押え力付与手段の力は、前記押え部材が前記下型上の板状素材を押えるのに必要な力と前記押上手段の押上げ力との和以上の値に設定されていることを特徴とするプレス型。
【請求項4】
請求項2又は請求項3のいずれかに記載されたプレス型であって、
前記押え部材は、前記板状素材の周縁を押えることができる構成であり、
前記押上手段は、前記押え部材の周方向に等間隔で複数セット設けられていることを特徴とするプレス型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下型と、上死点と下死点間で上下動可能に構成された上型と、前記上型に対して一定距離だけ上下動可能な状態でその上型に連結された押え部材とを備えるプレス型に関する。
【背景技術】
【0002】
上型と下型とで板状素材を絞り成形するプレス型が特許文献1に記載されている。
このプレス型は、下型側に板状素材の周縁を押えるしわ押えリングが設けられている。このため、上型が下降する過程でその上型の周縁部としわ押えリングとにより板状素材の周縁が拘束される。そして、この状態から上型が下死点まで下降することで、前記上型と下型とにより板状素材の絞り成形が行われる。
これに対して、上型側にしわ押えリングを備えるプレス型が図10(A)(B)に示されている。
このプレス型100では、しわ押えリング105は連結ピン102pとガイド縦溝105uとの連結機構を介して上型102に吊り支持されている。このため、しわ押えリング105は上型102に対して一定距離だけ上下動可能となる。
また、上型102を支持するスライド101には、しわ押えリング105に対してしわ押え力を付与する押え力付与シリンダ104が取付けられている。
【0003】
上記構成により、板状素材Wがセットされた下型103に対して上型102及びスライド101(以下、上型102という)が下降すると、先ず、上型102に吊り支持されているしわ押えリンク105が板状素材W、及び下型103の周縁に当接する。そして、上型102がさらに下降することで、しわ押えリンク105がその上型102に対して相対的に上動し、押え力付与シリンダ104が押し縮められる。この結果、押え力付与シリンダ104がしわ押えリング105に対してしわ押え力を付与し、しわ押えリング105と下型103の周縁間で板状素材Wが拘束される。そして、この状態から上型102が下死点まで下降することで板状素材Wが上型102と下型103とにより絞り成形される。
次に、上型102が上昇する過程で、その上型102の連結ピン102pがしわ押えリンク105のガイド縦溝105uの上端と係合することで、しわ押えリンク105が上型102と共に上昇して板状素材Wの拘束が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−255787号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したプレス型100では、上型102が上昇する過程で、その上型102の連結ピン102pとしわ押えリンク105のガイド縦溝105uの上端とを係合させて、しわ押えリンク105を上型102と共に上昇させる。このため、プレス速度が大きいと、上型102の連結ピン102pとしわ押えリンク105のガイド縦溝105uの上端とが係合する際に大きな衝撃が加わり、この部分が損傷することがある。
さらに、スライド101と上型102の連結部分101cにも大きな衝撃が加わるようになる。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、板状素材の押え部材が上型によって引き上げられる際の衝撃を緩和して、プレス型の損傷を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、下型と、上死点と下死点間で昇降可能に構成された上型と、前記上型に対して一定距離だけ上下動可能な状態でその上型に連結された押え部材とを備え、前記上型が下降する過程で前記押え部材が前記下型上の板状素材を押え、この状態から前記上型が前記下死点まで下降することで前記板状素材が前記上型と下型とにより加工され、さらに前記上型が上昇する過程でその上型が前記押え部材と係合し、前記押え部材が前記上型と共に上昇する構成のプレス型であって、前記押え部材は、前記上型に設けられた押え力付与手段の力を受けて、前記下型上の板状素材を押える構成であり、前記下型には、上昇中の前記上型が前記押え部材と係合する前から前記押え部材を押し上げ、前記上型と前記押え部材とが係合するタイミングで前記押え部材の上昇速度を所定値にする押上手段が設けられており、上昇中の前記上型が前記押え部材と係合する前に、前記押え力付与手段が前記押え部材から離れ、前記押え部材は前記押え力付与手段の力を受けないように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によると、下型に設けられた押上手段は、上昇中の上型が押え部材と係合する前から前記押え部材を押し上げ、前記上型と前記押え部材とが係合するタイミングで前記押え部材の上昇速度を所定値にする。即ち、押え部材は、押上手段により押し上げられ、所定速度で上昇しているときに、上昇中の前記上型と係合するようになる。このため、押え部材が停止している状態で上昇中の前記上型と係合する場合と比較して、前記押え部材と上型との速度差が小さくなる。これにより、押え部材が上型と係合する際の衝撃を緩和できるようになる。
【0009】
請求項2の発明によると、押上手段は、前記押え力付与手段の力を受けた前記押え部材によって押し下げられることで、前記押え部材に対する押上げ力を蓄え、前記押え力付与手段の力が解除されたときに、前記押え部材を押し上げる構成であることを特徴とする。
このため、押え部材を押し上げるための新たな動力源が不要になる。
【0010】
請求項3の発明によると、押え力付与手段の力は、押え部材が下型上の板状素材を押えるのに必要な力と前記押上手段の押上げ力との和以上の値に設定されていることを特徴とする。
このため、押上手段を設けても、押え部材が下型上の板状素材を押えるのに必要な力を確保できる。
請求項4の発明によると、押え部材は、板状素材の周縁を押えることができる構成であり、押上手段は、前記押え部材の周方向に等間隔で複数セット設けられていることを特徴とする。
このため、押え部材をバランス良く持ち上げられるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、押え部材が上型によって引き上げられる際の衝撃が緩和されるため、プレス型の損傷を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態1に係るプレス型の動作を表す全体縦断面図である。
図2】前記プレス型の押上シリンダの取付け状態を表す側面図である。
図3】前記プレス型の上型の上昇過程(下死点UP168mm)を表す側面図(A図)、及びA図のB部拡大図(B図)である。
図4】前記プレス型の上型の上昇過程(下死点UP170mm)を表す側面図(A図)、及びA図のB部拡大図(B図)である。
図5】前記プレス型の上型の上昇過程(下死点UP172mm)を表す側面図(A図)、及びA図のB部拡大図(B図)である。
図6】前記プレス型の上型の上昇過程(下死点UP174mm)を表す側面図(A図)、及びA図のB部拡大図(B図)である。
図7】前記プレス型の上型の上昇過程(下死点UP176mm)を表す側面図(A図)、及びA図のB部拡大図(B図)である。
図8】前記プレス型のスライド位置とスライド速度の関係、及びしわ押えリングの位置と速度の関係を表すグラフである。
図9】変更例に係るプレス型の模式縦断面図である。
図10】従来のプレス型の全体縦断面図(A図)(B図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態1]
以下、図1図9に基づいて、本発明の実施形態1に係るプレス型の説明を行う。
ここで、プレス型の幅方向をX方向、前後方向をY方向、高さ方向をZ方向として図示する。
【0014】
<プレス型10の概要について>
プレス型10は、板状素材Wを絞り成形する型であり、図1の上図に示すように、昇降可能に構成されたスライド12に取付けられた上型20と、その上型20に吊り支持されたしわ押えリング30と、水平なボルスタ14上に設置された下型40とを備えている。
なお、前記スライド12等を昇降させるスライド駆動機構とボルスタ14を水平に支える機構等は図視省略されている。
【0015】
<上型20について>
前記スライド12の下面には、図1の上図に示すように、上型20をスライド12に連結するための上型クランプ12kが上型20を囲むように複数箇所に設けられている。
上型20は、スライド12の下面にセットされる天井板部21と、その天井板部の中央位置で下方に突出するように設けられた成形部22と、その成形部22を囲むように前記天井板部21の周縁部分に設けられた外壁部24とを備えている。そして、上型20の成形部22と外壁部24間に形成されたリング状の空間にしわ押えリング30が上下動可能な状態で収納されている。
【0016】
<しわ押えリング30について>
しわ押えリング30は、図1の中央左図に示すように、上型20が所定位置まで下降した段階で下型40上の板状素材Wの周縁を押える部材である。しわ押えリング30は、スライド12の下面に下向きに設置された押え力付与シリンダ35の押圧力(しわ押え力)を受けられるように構成されている。押え力付与シリンダ35は、図3等に示すように、シリンダ本体部35cと、そのシリンダ本体部35cに対して軸方向に変位可能に構成されたピストンロッド部35pとから構成されており、そのピストンロッド部35pの先端(下端)でしわ押えリング30を押圧できるように構成されている。押え力付与シリンダ35は、ガスシリンダであり、前記シリンダ本体部35c内に一定圧力のガスが供給されるようになっている。
しわ押えリング30の側面には、図1の上図等に示すように、周方向の複数箇所に所定長さ寸法(本実施形態では170mm)のガイド縦溝32が形成されており、このガイド縦溝32に上型20の外壁部24に固定された連結横ピン24pの先端が横方向から嵌め込まれている。このため、しわ押えリング30は、ガイド縦溝32の長さ寸法分(170mm)だけ上型20に対して上下動が可能になり、そのガイド縦溝32の上端に連結横ピン24pが係合することで、しわ押えリング30は上型20に吊り支持される(図1上図、図7参照)。
即ち、しわ押えリング30が本発明の押え部材に相当し、押え力付与シリンダ35が本発明の押え力付与手段に相当する。
【0017】
<下型40について>
下型40は、図1の上図に示すように、ボルスタ14上に固定される型支持部43と、その型支持部43の上面側に設けられて上型20の成形部22が型合わせされる成形凹部45と、その成形凹部45を囲んで設けられており、上型20のしわ押えリング30が当接するリング受け部47とを備えている。そして、下型40のリング受け部47の位置に、前記上型20がしわ押えリング30を引き上げる際に、そのしわ押えリング30を押し上げる押上シリンダ50が周方向に等間隔で4ケ所設けられている。
押上シリンダ50は、図2に示すように、シリンダ本体部52と、そのシリンダ本体部52に対して上下動可能に構成された可動部54とから構成されており、その可動部54の上面54uでしわ押えリング30の下面30dを押圧できるように構成されている。
なお、図2では、板状素材Wは省略されている。
押上シリンダ50は、ストロークが6mmのガスシリンダであり、前記シリンダ本体部52内に一定圧力のガスが封入されている。押上シリンダ50は、その押上シリンダ50の可動部54が下型40のリング受け部47の上面47uから約4mm上方に突出するように、下型40のリング受け部47に固定されている(図2図7参照)。さらに、4台の押上シリンダ50がしわ押えリング30を押し上げる力は、そのしわ押えリング30の重量の約1.5倍程度に設定されている。
ここで、しわ押えリング30に対して押圧力(しわ押え力)を付与する押え力付与シリンダ35の力は、しわ押えリング30が下型40上の板状素材Wを押えるのに必要な力と押上シリンダ50の押上げ力との和以上の値に設定されている。
即ち、押上シリンダ50が本発明の押上手段に相当する。
【0018】
<プレス型10の動作について>
次に、図1図3図7に基づいて、前記プレス型10の動作について説明する。なお、図3図7では、板状素材Wは省略されている。
プレス型10においてスライド12及び上型20(以下、上型20という)が上死点の位置にある状態では、図1の上図に示すように、上型20の連結横ピン24pがしわ押えリング30のガイド縦溝32の上端に係合して、しわ押えリング30が上型20に吊り支持されている。即ち、しわ押えリング30は上型20に対して下限位置に保持されている。また、この状態で、押え力付与シリンダ35は、シリンダ本体部35cに対するピストンロッド部35pの突出量を最大にしており(初期状態)、そのピストンロッド部35pの先端(下端)が、図7(B)等に示すように、しわ押えリング30の上面から約2mm離れている。したがって、しわ押えリング30には、押え力付与シリンダ35の押圧力は加わっていない。
また、下型40のリング受け部47に設けられた押上シリンダ50の可動部54は、図7(B)等に示すように、リング受け部47の上面47uから約4mm上方に突出している。
そして、この状態で、図1の上図に示すように、下型40上に板状素材Wがセットされる。
【0019】
次に、前記上型20が上死点の位置から下降して、図2図6に示すように、下死点の上方約174mm(下死点UP174mm)の位置まで到達すると、しわ押えリング30の下面30dが板状素材Wを介して押上シリンダ50の可動部54の上面54uに当接する。そして、この位置から上型20が約2mm下降することで、押え力付与シリンダ35のピストンロッド部35pの先端(下端)がしわ押えリング30に当接するようになる。これにより、上型20が引き続き下降することで、押え力付与シリンダ35のピストンロッド部35pがガス圧に抗してシリンダ本体部35cに押し込まれ、しわ押えリング30には押え力付与シリンダ35の押圧力が加わるようになる。そして、しわ押えリング30に押え力付与シリンダ35の押圧力が加わることで、押上シリンダ50の可動部54がしわ押えリング30に押圧されて、その可動部54が封入ガス圧に抗して押上シリンダ50のシリンダ本体部52に押し込まれる。これにより、押上シリンダ50には、しわ押えリング30に対する押上げ力が蓄えられるようになる。
そして、押上シリンダ50の可動部54が完全に下型40のリング受け部47に押し込まれ、しわ押えリング30が下型40のリング受け部47の上面47uに当接すると、図1の中央左図に示すように、板状素材Wの周縁部がしわ押えリング30と下型40のリング受け部47とによって拘束される。
次に、下型40、及びしわ押えリング30に対して上型20が引き続き下降し、図1の下図に示すように、上型20の成形部22が下型40の成形凹部45に型合わせされて、板状素材Wが絞り成形される。そして、上型20が下死点まで下降した段階で板状素材Wの絞り成形が完了する。
【0020】
このようにして、板状素材Wの成形が完了すると、上型20が下死点の位置から上昇する。
下死点の位置から下死点上方168mm(下死点UP168mm)の位置までは、しわ押えリング30の下面30dが押え力付与シリンダ35の押圧力で下型40のリング受け部47の上面47uに当接しており、上型20のみが上昇するようになる。即ち、上型20の上昇に伴って、押え力付与シリンダ35のピストンロッド部35pがシリンダ本体部35cからガス圧で押し出されるようになる。さらに、上型20の連結横ピン24pが上型20の上昇に伴ってしわ押えリング30のガイド縦溝32に沿って上方に移動するようになる。このようにして、上型20が下死点UP168mmの位置まで上昇すると、図3(A)(B)に示すように、押え力付与シリンダ35が初期状態までピストンロッド部35pを突出させる。即ち、この状態では、押え力付与シリンダ35のピストンロッド部35pはしわ押えリング30に当接しているだけであり、押え力付与シリンダ35の押圧力はしわ押えリング30に加わっていない。さらに、上型20の連結横ピン24pはしわ押えリング30のガイド縦溝32の上端より約2mm下側に位置している。
【0021】
この状態からさらに上型20が上昇すると、しわ押えリング30が下型40の押上シリンダ50の可動部54によって押し上げられる。前述のように、押上シリンダ50の可動部54は、押え力付与シリンダ35の押圧力を受けたしわ押えリング30によって封入ガス圧に抗して下型40のリング受け部47に押し込まれている。このため、押え力付与シリンダ35の押圧力が解除されると、押上シリンダ50の可動部54はしわ押えリング30に押し込まれた距離(4mm)と等しい距離だけそのしわ押えリング30を押し上げるようになる。
図4は、上型20が下死点UP170mmの位置まで上昇した状態である。下死点UP170mmの位置では、押上シリンダ50の可動部54がしわ押えリング30を約2mm押し上げている。また、図5は、上型20が下死点UP172mmの位置まで上昇した状態である。下死点UP172mmの位置では、押上シリンダ50の可動部54がしわ押えリング30を約4mm押し上げている。
【0022】
そして、しわ押えリング30が押上シリンダ50の可動部54に押し上げられて、所定の上昇速度で上方に移動しているときに、図6に示すように、上昇中の上型20の連結横ピン24pがしわ押えリング30のガイド縦溝32の上端と係合するようになる。ここで、図6は、上型20が下死点UP174mmの位置まで上昇した状態である。下死点UP174mmの位置では、上型20の連結横ピン24pがしわ押えリング30のガイド縦溝32の上端と係合して、押え力付与シリンダ35のピストンロッド部35pの先端(下端)がしわ押えリング30から約2mm離れている。
ここで、図3から図6はプレス型10の動作を静的に表したものでり、実際には、上型20が下死点UP170mmの位置から下死点UP174mmの位置まで上昇する間に、上型20の連結横ピン24pがしわ押えリング30のガイド縦溝32の上端に係合するようになる。
そして、上型20としわ押えリング30との係合後、しわ押えリング30は上型20に引き上げられて上死点の位置まで上昇するようになる。ここで、図7は、上型20としわ押えリング30との係合後、上型20が下死点UP176mmの位置まで上昇した状態を表している。
【0023】
<本実施形態に係るプレス型10の長所について>
実施形態に係るプレス型10によると、しわ押えリング30は、押上シリンダ50により押し上げられ、所定速度で上昇しているときに、上昇中の上型20と係合するようになる。
図8は、縦軸にスライド位置(上型20の位置)と横軸にスライド速度(上型20の上昇速度)との関係を表すグラフである。ここで、スライド位置170の丸印は、下死点UP170mmの位置で停止しているしわ押えリング30を表している。また、スライド位置170〜174の丸印は、押上シリンダ50により押し上げられて下死点UP170mm〜174mmの位置で上方に速度Vで移動しているしわ押えリング30を表している。
図8に示すように、下死点UP170mmの位置で停止しているしわ押えリング30と上昇中の上型20との速度差はV0である。これに対し、押上シリンダ50により押し上げられて下死点UP170mm〜174mmの位置で上方に速度Vで移動しているしわ押えリング30と上昇中の上型20との速度差はVsである。図から明らかなように、上方に速度Vで移動しているしわ押えリング30と上昇中の上型20との速度差Vsは、停止しているしわ押えリング30と上昇中の上型20との速度差V0よりも小さくなる。
このため、しわ押えリング30を押上シリンダ50により所定速度Vで上方に移動させることで、しわ押えリング30と上昇中の上型20とが係合する際の衝撃を緩和できるようになる。
ここで、しわ押えリング30の上昇速度Vが、図8に示すように、上型20の上昇速度よりも小さくなるように、押上シリンダ50が設計されている。
【0024】
また、押上シリンダ50は、押え力付与シリンダ35の押圧力を受けたしわ押えリング30によって押し下げられることで、しわ押えリング30に対する押上げ力を蓄える。そして、押上シリンダ50は、押え力付与シリンダ35の押圧力が解除されたときに、しわ押えリング30を押し上げる構成である。このため、しわ押えリング30を押し上げるための新たな動力源が不要になる。
また、押え力付与シリンダ35の押圧力は、しわ押えリング30が下型40上の板状素材Wを押えるのに必要な力と押上シリンダ50の押上げ力との和以上の値に設定されている。このため、押上シリンダ50を設けても、しわ押えリング30が下型40上の板状素材Wを押えるのに必要な力を確保できる。
また、押上シリンダ50は、しわ押えリング30の周方向に等間隔で複数セット設けられているため、しわ押えリング30をバランス良く持ち上げられるようになる。
【0025】
<変更例>
ここで、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、板状素材Wを絞り成形するプレス型を例示したが、図9に示すように、板状素材(図視省略)の周縁を切断等するプレス型70に本発明を適用することも可能である。
即ち、図9のプレス型70は、上型20の外壁部24の下端内側に切刃28が設けられており、上型20の中央部分に上下動可能なように板状素材(図視省略)を押えるパッド60が設けられている。そして、前記パッド60が押え力付与シリンダ35の押圧力を受けられるように構成されている。前記パッド60の外側面には周方向の複数箇所にガイド縦溝62が形成されており、このガイド縦溝62に上型20の外壁部24の連結横ピン24pが横方向から嵌め込まれている。
下型40の上部周縁には、上型20の切刃28に対応する位置に切刃49が設けられており、切刃49に対して中央寄りの位置に板状素材を支える素材受け面48が形成されている。そして、素材受け面48の所定位置にパッド60の素材押え面68を押し上げるための押上シリンダ50が設けられている。
上記構成により、板状素材の加工後、上型20がパッド60を引き上げる際、押上シリンダ50により前記パッド60を押し上げられるようになり、上型20がパッド60を引き上げる際の衝撃を緩和できるようになる。
このように、前記パッド60が本発明の押え部材に相当し、押上シリンダ50が本発明の押上手段に相当する。また、押え力付与シリンダ35が本発明の押え力付与手段に相当する。
また、本実施形態では、押上シリンダ50及び押え力付与シリンダ35にガスシリンダを使用する例を示したが、ガスシリンダの代わりに弾性体等を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
10・・・・プレス型
12・・・・スライド(上型)
20・・・・上型
24p・・・連結横ピン
30・・・・しわ押えリング(押え部材)
32・・・・ガイド縦溝
35・・・・押え力付与シリンダ(押え力付与手段)
40・・・・下型
50・・・・押上シリンダ(押上手段)
52・・・・シリンダ本体部
54・・・・可動部
60・・・・パッド(押え部材)
W・・・・・板状素材
V・・・・・上昇速度(所定値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10