特許第5724872号(P5724872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5724872ブルーム防止剤及びブルーム耐性に優れたチョコレート類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724872
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】ブルーム防止剤及びブルーム耐性に優れたチョコレート類
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/00 20060101AFI20150507BHJP
   A23G 1/30 20060101ALI20150507BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   A23G1/00
   A23D9/00 500
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-507229(P2011-507229)
(86)(22)【出願日】2010年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2010055745
(87)【国際公開番号】WO2010113969
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2013年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2009-83516(P2009-83516)
(32)【優先日】2009年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】山田 和寿
(72)【発明者】
【氏名】木田 晴康
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−134043(JP,A)
【文献】 特開2001−055598(JP,A)
【文献】 特開昭56−127052(JP,A)
【文献】 特開2001−131574(JP,A)
【文献】 特開平04−075593(JP,A)
【文献】 特開2008−206490(JP,A)
【文献】 REDDY S Y, PRABHAKAR J V,Isolation of 9,10-Dihydroxystearic Acid from Sal(Shored robusta) Fat,Journal of the American Oil Chemists' Society,米国,1987年 1月,Vol.64, No.1,97-99
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00− 9/34
A23D 7/00− 9/06
JSTPlus(JDreamIII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
食品関連文献情報(食ネット)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸としてジヒドロキシステアリン酸を含むトリグリセリド(以下DHS−TG)を20重量%以上含有する、非ラウリン、非テンパリング型ハードバター用のブルーム防止剤。
【請求項2】
請求項1記載のブルーム防止剤由来のDHS−TGを油脂中1〜10重量%含有する非ラウリン、非テンパリング型ハードバター。
【請求項3】
非ラウリンで、かつトランス酸含有量が14重量%以下である請求項2記載のハードバター。
【請求項4】
請求項1記載のブルーム防止剤由来のDHS−TGをチョコレート中0.5〜2.5重量%含有する非ラウリン、非テンパリング型チョコレート類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレートのブルーム防止剤、ハードバター及びチョコレート類に関する。さらに、詳細には、チョコレート類に使用した際に優れたブルーム耐性をもたらすハードバター及び優れたブルーム耐性を有するチョコレート類に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは本来カカオマス、ココアバター、砂糖、粉乳等から製造されるものであるが、かかる原材料の中でココアバターは価格、供給とも不安定であることから、従来からココアバターに代わる油脂であるハードバターがチョコレート類に使用されている。ハードバターは、ココアバターを単に置換するだけでなく、ココアバターの持つ様々な欠点を改良する目的にも使用され、今ではチョコレート類に欠かせないもののひとつになっている。
【0003】
ハードバターは、チョコレートを製造する際のテンパリング要否により、テンパリング型と非テンパリング型の2種に大別される。テンパリング型は、その主要トリグリセリドがココアバター類似の2−不飽和−1,3−ジ飽和トリグリセリドからなり、シャープで良好な口溶けを持つ反面、結晶多形を持つためにテンパリング工程が必須であり、使用条件が限定される。
【0004】
非テンパリング型はラウリン系と非ラウリン系に大別され、ラウリン系は炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸が主たる構成脂肪酸である。このラウリン系ハードバターはシャープで良好な口溶けを持ち、テンパリングを必要としない利点があるが、ココアバターとの相性が悪く、またチョコレート原材料やチョコレート生産環境が適切でないとソーピー臭が発生する問題がある。
【0005】
非ラウリン系は液体油やパーム液状油を金属触媒と含硫アミノ酸などの存在下で異性化硬化することにより得られるトランス酸型不飽和脂肪酸を主要構成脂肪酸とする。この非ラウリン系ハードバターは同様にテンパリングを必要としない利点を持つばかりでなく、ココアバターと一定の相性の良さ、相溶性を有する。そのため、チョコレート配合中でカカオマスやココアバターを一部併用することができ、優れたチョコレート風味のチョコレート類の製造が可能となる。
【0006】
上記のハードバターやココアバターを使用して製造されたチョコレート類は、一定温度下の保存において、また温度変化の大きい保存条件下、あるいは完全融解状態から徐々に温度を下げていく、いわゆる徐冷の条件において、チョコレート表面に白い粉がふいたようなブルームと呼ばれる現象がしばしば観察される。ブルームには、チョコレート中の砂糖に由来するシュガーブルームと油脂の結晶粗大化によるファットブルームがあり、かかるブルームが発現するとチョコレートの商品価値が著しく低下する。また、ブルームの発生に伴い、チョコレート内部組織も粗くなり、ボソボソとした食感を呈するグレーニングと呼ばれる現象も起こり、同様に商品価値が失われる。
【0007】
上記のファットブルームの発生を防止するために様々な方法がとられており、ひとつにはハードバターそのものを改質して、ブルーム耐性を付与する方法が提案されている。
【0008】
また、最近の新しい動きとして、非ラウリン系ハードバターに含まれるトランス酸に関して、健康への影響が種々検討され、特に欧米においてはその摂取を抑制しようとする傾向が高まっている。かかる状況の中で、トランス酸を含有しない若しくはトランス酸が少なく、かつラウリン酸型でない非テンパリング型ハードバターに対する要望が高まっており、いくつかの提案がなされている。
【0009】
上記のハードバターそのものを改質して、ハードバターにブルーム耐性を付与する方法として、非ラウリン系のトランス酸型に関し下記のような提案がなされている。
特許文献1は、構成脂肪酸が炭素数12〜22で、且つHLBが4〜5のポリグリセリン脂肪酸エステルからなるファットブルーム防止剤を含有するチョコレート用油脂組成物である。
【0010】
特許文献2は、アセチル化蔗糖脂肪酸エステルをブルーム防止剤として用いるカカオ脂含量が高い非テンパリング型チョコレートに関するもので、ブルーム耐性を付与することによりチョコレート配合油脂中のココアバター含量を約40重量%まで高めることを可能としている。
【0011】
特許文献3は、炭素数16〜22の飽和脂肪酸またはトランス酸型不飽和脂肪酸を分子内に構成脂肪酸として1個以上含有するジグリセリドからなるブルーム防止剤に関するものである。
【0012】
一方、トランス酸含有量を低減した非ラウリン、低トランス型の非テンパリング型ハードバターとしては下記の提案がある。
特許文献4は、パームステアリンをランダムエステル交換した油脂から分取した非対称トリグリセリドであるSSU(1,2−飽和−3−不飽和トリグリセリド)を主成分とする中融点部をハードバターに添加する方法である。
【0013】
特許文献5は、SUS(1,3−ジ飽和−2−不飽和トリグリセリド)型トリグリセリドを50重量%以上含む油脂をトランス酸含有量が4〜15重量%含むように硬化した油脂とSSU型トリグリセリドを35重量%以上含有する油脂を混合した非ラウリン、低トランスの非テンパリング型ハードバターである。少量のトランス酸とSSU成分の組み合わせにより、チョコレート配合油脂中で15重量%程度までのココアバター併用を可能としている。しかし、該方法のココアバター許容量は5℃、急冷固化品での結果で、改めて検証すると例えば20℃、徐冷固化の場合は、ココアバター許容量は10重量%程度であった。
【0014】
上記の先行技術から解るように、従来のトランス酸型ハードバターではチョコレート配合油脂中のココアバター含量を約40重量%まで高めることが可能であるが、非ラウリン・低トランス型の場合はチョコレート中のココアバター配合許容量が10重量%程度に留まっており、さらにココアバター配合許容量を高めるブルーム防止剤やブルーム防止機能のあるハードバターが求められていた。
【0015】
また、最近の食品関係の新しい動きのひとつとして、添加剤表示の必要な乳化剤の使用を敬遠するニーズも出てきており、添加剤表示の不要なブルーム防止剤も求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−185123号公報
【特許文献2】特開2000−41579号公報
【特許文献3】特開平5−168412号公報
【特許文献4】特開平9−285255号公報
【特許文献5】再公表特許WO2005−094598号公報
【特許文献6】特開2001−55598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は非ラウリン、非テンパリング型ハードバターのブルーム耐性を向上させ、チョコレート配合油脂中へのココアバター許容量を高めることにより、非テンパリングチョコレート類のチョコレート風味の改善するブルーム防止剤の提供を目的とする。また、本発明は非ラウリン、低トランスでありながらテンパリング工程が不要で、かつ従来のトランス酸型の非テンパリング型ハードバターに匹敵する耐熱性と一定の耐ブルーム性を持つ非テンパリング型ハードバター及びブルーム耐性に優れたチョコレート類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、サル脂に天然に含まれるジヒドロキシステアリン酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリド(以下DHS−TG)を主成分とする油脂が、上記課題を解決するブルーム防止剤になりうることを発見し、本発明を完成した。
【0019】
本発明は上記知見にもとづいてなされたもので、第1は、構成脂肪酸としてジヒドロキシステアリン酸を含むトリグリセリド(以下DHS−TG)を20重量%以上含有するブルーム防止剤である。第2は、DHS−TGを油脂中1〜10重量%含有する非テンパリング型ハードバターである。第3は、非ラウリンで、且つトランス酸含有量が14重量%以下である第2記載のハードバターである。第4は、DHS−TGをチョコレート中0.5〜2.5重量%含有する非テンパリング型チョコレート類である。
【発明の効果】
【0020】
非ラウリン、非テンパリング型ハードバターのブルーム耐性を向上させ、チョコレート配合油脂中へのココアバター許容量を高めることにより、非テンパリングチョコレート類のチョコレート風味の改善を可能とする。また、非ラウリン、低トランスでありながらテンパリング工程が不要で、かつ従来のトランス酸型の非テンパリング型ハードバターに匹敵する耐熱性、耐ブルーム性を持つ非テンパリング型ハードバター及びブルーム耐性に優れたチョコレート類の提供を可能とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について説明する。
サル脂は、対称型トリグリセリドであるSUS(1,3−ジ飽和−2−不飽和トリグリセリド)を多く含むので、精製サル脂あるいはサル脂分別油はテンパリング型ハードバターの原料油のひとつとして重要な原料油脂である。サル脂は、サルシード脂とも呼ばれ、天然に生育するショリアロブスタというカン木の種子から主にヘキサンを用いて抽出される油脂で、ボルネオタロー型油脂と総称される油脂群のなかの一種である。ショリアロブスタ種子中の油脂は、加水分解酵素により加水分解されやすいため、種子集荷後は速やかに油脂の抽出を行うのが望ましいが、集荷地域の労働事情や交通事情のために必ずしも速やかな油脂の抽出がなされないのが実情である。そのため、入手したサル脂原油の中には加水分解が過度に進んだ、いわゆる低品質の原料油脂がしばしば見かけられる。
【0022】
一方、サル脂にはジヒドロキシステアリン酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリド(以下DHS−TG)やエポキシステアリン酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリド(以下EP−TG)が存在すること、特にDHS−TGが多く含まれることが知られている。低品質の原料油脂にはDHS−TGが2〜10重量%含まれ、該油脂を精製したサル脂や従来のサル脂分別油でも通常は1.0重量%以上含むため、かかる油脂は良好な品質のテンパリング型ハードバターと言えないものになる。具体的には、チョコレート作製時のチョコレート生地粘度上昇を引き起こしテンパリングが困難になるとともに、離型性も不良となる。その結果、チョコレートの艶がなく、口溶けも不良となるという大きな問題がある。
【0023】
上記の問題を解決するために、特許文献6のように、サル脂精製油を乾式分別やヘキサンのような非極性溶剤を用いた分別で、DHS−TGを高融点画分として部分的に除去し、アセトンのような極性溶剤を用いた分別で、さらに残存するDHS−TGを結晶部から除去して、高品質のテンパリング型ハードバターが得られている。
【0024】
本発明者らは、上記の分別工程で除去されるDHS−TGを主成分とする油脂の高度利用法を種々検討する中で、該油脂が非テンパリング型ハードバターのブルーム防止剤になりうるのではとの想定で検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0025】
即ち、本発明はDHS−TGを20重量%以上、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%含有するブルーム防止剤である。DHS−TG含有量が20重量%未満であると、ブルーム防止剤のチョコレート類への配合量を多くする必要があり、チョコレート類の耐熱保型性が低下するため好ましくない。本発明のブルーム防止剤は、サル脂原油またはサル脂精製油を、乾式分別または非極性溶剤で分別することにより、その高融点部として得ることができる。
【0026】
サル脂精製油は、サル脂原油に対しリン酸を添加しての脱ガム、アルカリによる脱酸、湯洗、脱水、漂白、脱臭の手順で製造されるが、本発明のブルーム防止剤の原料油脂としてはサル脂原油、サル脂精製油いずれも利用できる。
【0027】
本発明のブルーム防止剤を乾式分別で得る方法は、下記の通りである。サル脂原油またはサル脂精製油を50〜80℃で30分以上加熱して完全に融解し、攪拌しながら好ましくは0.02℃〜20℃/時の速さで30〜36℃まで徐々に冷却し、必要によっては該温度でホールドし、高融点のDHS−TGを結晶化させる。結晶化時間は原料油脂の組成や環境温度にもよるが、通常24時間以上を要する。このとき、結晶核となるシード(種晶)を原料油脂に対し0.01〜0.1重量%添加すると結晶化時間を短縮することも可能である。シードとしては、サル脂高融点部、大豆極度硬化油、菜種極度硬化油、パームステアリンなどの粉末やフレークが好適に使用することができる。結晶化終了後に、0.1〜5MPaで圧搾ロ過し、液状部と結晶部に分離する。結晶部を常法通り、脱色、脱臭してDHS−TG含有量20重量%以上のブルーム防止剤を得る。
【0028】
本発明のブルーム防止剤をヘキサンのような非極性溶剤で分別して得る方法は下記の通りである。サル脂原油またはサル脂精製油を50〜80℃で30分以上加熱して完全に融解し、原料油脂に対し300〜900重量%のヘキサンを添加、混合し、攪拌しながら0.02℃〜20℃/分の速さで、結晶化温度である−5℃〜20℃まで徐々に冷却し、高融点のDHS−TGを結晶化させる。このとき、結晶核となるシード(種晶)を原料油脂に対し0.1〜0.3重量%添加すると結晶化時間を短縮できるとともに、次の分離工程でのロ過性を向上させることができる。シードとしては、サル脂高融点部、大豆極度硬化油、菜種極度硬化油、パームステアリンなどの粉末やフレークが好適に使用することができる。本法における結晶化時間は3時間程度である。結晶化終了後に、減圧濾過により液上部と結晶部に分離する。得られた結晶部は、結晶化温度〜結晶化温度より10℃低い温度に調温した新鮮なヘキサンで洗浄するのが好ましい。得られた結晶部を脱溶剤し、常法通り脱色、脱臭してDHS−TG含有量20重量%以上のブルーム防止剤を得る。
【0029】
本発明のブルーム防止剤は、チョコレート用の非ラウリン、非テンパリング型ハードバターに対し、DHS−TG含有量が油脂中1.0〜10.0重量%となるよう配合することにより、該ハードバターのブルーム耐性を大幅に向上させることができる。配合割合としては、非ラウリン、非テンパリング型ハードバター50〜99重量部に対し、本発明のブルーム防止剤1〜50重量部を配合することにより、また本発明であるブルーム耐性の優れたハードバターを得ることができる。
【0030】
上記で得られたハードバターは、チョコレート用油脂として対チョコレート5〜50重量%、好ましくは20〜40重量%で使用することができる。また、本発明のDHS−TGを油脂中1〜10重量%含有するハードバターは、ココアバターとの相溶性も向上している。チョコレート配合油脂中でのココアバター配合許容量としては、トランス酸型非テンパリングハードバターの場合で40重量%まで、低トランス酸型非テンパリングハードバターの場合で15重量%までのココアバターの配合が可能である。そのため、本発明のハードバターをチョコレート類に利用することで、チョコレート類のブルーム耐性を改善できるばかりでなく、カカオマスやココアバターを一部併用することによりチョコレート風味も優れたものとすることができる。
【0031】
上記ハードバターにおいて、DHS−TG含有量が1重量%未満では、ブルーム耐性を十分向上させることができないため、好ましくない。また、10重量%を超えるとブルーム耐性は向上するもののチョコレートの口溶けが低下し、チョコレートの美味しさが損なわれるため好ましくない。
【0032】
本発明のブルーム防止剤を配合する非ラウリン、非テンパリング型ハードバターとしては、トランス酸型と低トランス酸型のいずれも利用することができる。
トランス酸型は、原料として菜種油、大豆油、米油、綿実油などの液状油あるいは、パーム油、シア脂、及びこれらの分画油などの1種又は2種以上の配合油を、異性化硬化し、必要に応じ、分別やエステル交換を行って得る油脂である。
【0033】
一方、低トランス酸型は、パーム油、シア脂、ハイオレイックひまわり油などの1,3位に飽和脂肪酸を酵素エステル交換で導入した油脂などから由来するSUS(1,3−ジ飽和−2−不飽和グリセリド)含有油脂、その部分水素添加油、パームステアリンのランダムエステル交換油や菜種極度硬化油とハイオレイックひまわり油のランダムエステル交換油などやそれらの分別油に由来するSSU(1,2−ジ飽和−3−不飽和グリセリド)含有油脂、大豆油、菜種油、パーム油、パーム分画油などの極度硬化油などに由来するSSS(トリ飽和グリセリド)含有油脂の配合によって得ることができる。また、非ラウリン系の範疇外にはなるが、パーム油やその分画油、ヤシ油やパーム核油及びそれらの分別油、大豆油、菜種油、パーム油、パーム分画油の極度硬化油などのエステル交換油及びその分別油に由来する低トランス、非テンパリング型ハードバターにも適用することができる。
【0034】
上記の中で、非ラウリン、低トランス酸型のハードバターとしては、パーム分別中融点部とその部分水素添加油及びパームステアリンのランダムエステル交換油の分別中融点部の配合油が、特に経済性の面から好適に利用することができる。即ち、POPを主成分とする油脂、POPを主成分とする油脂の部分水素添加油、PPOを主成分とする油脂の組み合わせた油脂であるが、これに必要によっては豆油、菜種油、パーム油、パーム分画油の極度硬化油を少量配合することもできる。かかる配合油中のトランス酸含有量は、4〜15重量%であるのが好ましい。トランス酸はPOPを主成分とする油脂の部分水素添加油に由来するが、トランス酸は4重量%未満であると非テンパリング性の特性を発現することが困難となる。トランス酸含量が15重量%を超えると、低トランスの思想からはずれてしまうとともに、同時に生成する三飽和グリセリドが多くなり、口溶けが悪化してしまうので好ましくない。
【0035】
上記の非ラウリン、低トランス酸型のハードバターは、非テンパリングで使用できる利点は有するが、ブルーム耐性は比較的弱いもので、チョコレート配合油脂中でのココアバター許容量は急冷固化品(0〜10℃固化)で15重量%程度、徐冷固化品(15〜25℃固化)では10重量%程度である。かかるハードバターに、DHS−TGを油脂中1〜10重量%含有させることにより、ブルーム耐性を向上させることができ、チョコレート配合油脂中のココアバター許容量を徐冷固化品でも15重量%程度まで向上させることができる。配合割合としては、該ハードバター50〜95重量部に対し、本発明のブルーム防止剤5〜50重量部である。ブルーム耐性を向上させた本発明の非ラウリン、低トランス酸型のハードバターは、トランス酸含量としては14重量%以下、好ましくは3〜14重量%である。トランス酸は3重量%未満であると非テンパリング性の特性を発現することが困難となる。トランス酸含量が14重量%を超えると、低トランスの思想からはずれてしまうとともに、同時に生成する三飽和グリセリドが多くなり、口溶けが悪化してしまうので好ましくない。
【0036】
また、本発明はDHSーTGをチョコレート中0.5〜2.5重量%含有する非テンパリング型チョコレート類である。チョコレート中にDHS−TGを0.5〜2.5重量%含有させることにより、チョコレート類のブルーム耐性を向上させることができ、チョコレート配合油脂中のココアバター許容量も向上させることができる。DHS−TG含有量が0.5重量%未満では、ブルーム耐性を十分向上させることができないため、好ましくない。また、2.5重量%を超えるとブルーム耐性は向上するもののチョコレートの口溶けが低下し、チョコレートの美味しさが損なわれるため好ましくない。
【0037】
チョコレート中にDHS−TGを0.5〜2.5重量%含有させる方法としては、チョコレートに本発明のブルーム防止剤(DHS−TG20重量%以上含有)を0.5〜12.5重量%添加する方法、またはチョコレート油脂として本発明の非テンパリングハードバター(DHS−TG1〜10重量%含有)を5〜50重量%、好ましくは20〜40重量%使用する方法が適用できる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。
<実施例1>
ショリアロブスタの種子から得られたサル脂原油(DHS−TG5.2%含有)に対して、リン酸を0.2%添加して脱ガムした。脱ガム油を常法通り、アルカリ脱酸し、次いで常法通り白土を使用した
漂白処理と脱臭処理(脱臭温度250〜260℃、真空度2Torr以下)を行い、精製サル脂を得た。得られた精製サル脂は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、DHS−TG2.3%を含有していた。
【0039】
上記で得たサル脂精製油を60℃で30分加熱し完全融解し、原料油脂に対し900重量%のヘキサンを添加、混合し、攪拌しながら0.5℃/分の速さで、5℃まで徐々に冷却し、その後5℃で30分間攪拌しながらホールドして、高融点のDHS−TGを結晶化させた。結晶化終了後に、減圧ロ過により液状部と結晶部に分離し、得られた結晶部を予め0℃に冷却した新鮮なヘキサン、原料油脂に対し100重量部で洗浄した。減圧ロ過により液状部と結晶部に分離し、得られた結晶部を脱溶剤し、1.8重量%の収量で結晶画分を得た。常法通り脱色、脱臭してDHS−TG含有量69.9重量%のブルーム防止剤を得た。
【0040】
<実施例2>
実施例1で調製したサル脂精製油を60℃で30分加熱し完全融解し、攪拌しながら0.5℃/時の速さで34℃に徐々に冷却した。シードとして菜種極度硬化油粉末を原料油脂に対して0.02重量%添加して、さらに60時間攪拌した。次いで、0.5MPaで圧搾ロ過して、結晶部と液状部に分離した。収量2.8重量%で得られた結晶部を常法通り脱色、脱臭してDHS−TG含有量45.0重量%のブルーム防止剤を得た。
【0041】
<実施例3>
市販されているトランス酸を多く含有する非ラウリン、非テンパリング型テンパリングハードバター(商品名:メラノSTS,トランス酸含量39.8重量%)90重量部と実施例1で得たブルーム防止剤10重量部を、それぞれ60℃、30分加熱して完全融解してから混合し、ハードバターA(DHS−TG7重量%含有)を得た。このハードバターAを用いて、表1の配合にて常法通り非テンパリング型チョコレート生地を試作した。この溶融したチョコレート生地を45℃で型流しし5℃で30分冷却し、その後、型から離して厚さ5mm,縦幅50mm,横幅20mmの板状のチョコレートを試作した。
【0042】
<実施例4>
実施例3で用いた非テンパリング型ハードバター90重量部と実施例2で得たブルーム防止剤10重量部を、それぞれ60℃、30分加熱して完全融解してから混合し、ハードバターB(DHS−TG4.5重量%含有)を得た。このハードバターBを用いて、表1の配合にて実施例3同様に板状のチョコレートを試作した。
【0043】
<比較例1>
実施例3で用いた非テンパリング型ハードバター(商品名:メラノSTS)を用いて、表1の配合にて実施例3同様に板状のチョコレートを試作した。
【0044】
<比較例2>
実施例3で用いた非テンパリング型ハードバター(商品名:メラノSTS)を用いて、表1の配合にて実施例3同様に板状のチョコレートを試作した。
【0045】
<表1>チョコレート配合重量%
【0046】
実施例3、実施例4、比較例1、及び比較例2を、官能による風味テスト(チョコレート風味の強度)及び経時保存テスト(27℃と18℃で、12時間づつ交互に保管するサイクルテスト、及び20℃の一定温度での保存テストを行い、ブルームの発現と結晶粗大化(グレーニング)の観察を行った。表2にテスト結果を示した。
【0047】
<表2>テスト結果
注1:風味テスト/◎:非常に良好、○:良好、△:可、×:不足
注2:保存テスト/○:良好、×:粗大化(少)とブルーム、×××:粗大化(大)と激しいブルーム
【0048】
本発明のDHS−TGを含有する非テンパリング型ハードバターを配合した実施例3、4はいずれも優れたチョコレート風味を持ち、ココアバター配合量39.1%でも良好なブルーム耐性とグレーニング耐性を示した。比較例1はチョコレート風味は良好であったが、ブルーム耐性とグレーニング耐性は不十分であった。また、ココアバター配合量21.0%の比較例2は、ブルーム耐性とグレーニング耐性は良好であったが、ココアバター配合量がやや低いためチョコレート風味は不足するものであった。
【0049】
<実施例5>
沃素価34.5、SUS含有量59.0重量%のパーム中融点部を、メチオニンで被毒したニッケル触媒0.3重量%を用い、常法に従い異性化硬化した。この硬化油(1)の沃素価は33.5、トランス酸含量は9.5重量%であった。パームステアリン(沃素価31.0)をナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換を行った後、ヘキサンを用いて溶剤分別を行い高融点部及び低融点部を除去し、分別中融点部を得た。この分別中融点部を常法通り脱溶剤し、分別油(2)を得た。この分別油の組成はSUS29.5重量%、SSU56.2重量%であった。別に、高エルシン酸含有菜種油(エルシン酸含量45.0重量%)を極度硬化し沃素価0.70の硬化油(3)を得た。
【0050】
硬化油(1)78重量部、分別油(2)19重量部、硬化油(3)3重量部を混合し、常法通り脱色、脱臭し非ラウリン、低トランスの非テンパリング型ハードバターCを得た。ハードバターCのトランス酸含量は7.6重量%であった。このハードバターC90重量部と実施例1のブルーム防止剤10重量部を混合し、非テンパリング型ハードバターD(DHS−TG7重量%含有)を得た。ハードバターDのトランス酸含量は6.9重量%であった。
【0051】
ハードバターDを用いて、表3の配合にて常法通り非テンパリング型チョコレート生地を試作した。この溶融したチョコレート生地を50℃で型流しテンパリング処理を行わず50℃で直径30mmのカップに10g流し込み20℃の環境下で徐冷固化させて、カップ入りチョコレートを調製した。
【0052】
<比較例3>
実施例5の非テンパリング型チョコレート生地の試作において、ハードバターDに変えて、DHS−TGを含有しないハードバターCを用いてチョコレート生地を試作し、実施例5と同様にカップ入りチョコレートを調製した。
【0053】
<表3>チョコレート配合(重量%)
【0054】
実施例5、比較例3のカップ入りチョコレート(20℃、3日間エージング品)を用いて、チョコレート耐熱性とブルーム耐性を評価した。耐熱性、ブルーム耐性は下記の方法で評価した。
【0055】
耐熱性テスト:28℃、29℃、30℃で2時間保持後のチョコレートの硬さを不動工業(株)製のレオメーターで測定した。(測定条件:直径3mmの円柱状プランジャー使用、テーブル速度2cm/秒のテーブル速度)
レオメーター測定値が高いほど耐熱性に優れることを意味する。
【0056】
耐ブルーム性テスト:カップ入りチョコレートを20℃一定の静置保存、25℃一定の静置保存、1日に1サイクルのサイクル保存(17℃で12時間、28℃で12時間)で、ブルームの発生状態を観察した。
【0057】
表4にチョコレート耐熱性の測定結果を示す。
<表4>耐熱性:レオメーター測定値
【0058】
表5にチョコレートブルーム耐性テスト結果を示す。
<表5>耐ブルーム性テスト結果
20℃一定保存
25℃一定保存
17−28℃サイクル保存
−:ブルーム無し
−+:よく見るとブルームが確認できる
+:容易にブルームが確認できる
++:ブルームが目立つ
+++:かなりのブルームが発生
++++:激しくブルームが発生
【0059】
表4に示すように、DHS−TGを含有するハードバターDを用いた実施例5は、ハードバターCを用いた比較例3よりも耐熱性に優れていた。また、表5に示すように、実施例5は比較例3対比で優れたブルーム耐性を示し、チョコレート配合油脂中のココアバター含量15%の徐冷固化の場合においても優れた相溶性を持っていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、非テンパリング型チョコレート類に使用されるブルーム耐性に優れた非ラウリン、非テンパリング型ハードバターに関し、またブルーム耐性の向上によりチョコレート風味が改善されたチョコレート類に関する。