【実施例】
【0029】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例及び比較例におけるスラリー作製工程の模式図を
図1に示す。
[実施例]
分散材としてのカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)と、溶剤としての純水を混合し(図中符号2)、撹拌機1によって撹拌する。ここで、CMC−Naは粉末のため、次の工程において扱いやすいようにするために予め水に溶解させるものである(
図1(A))。
【0030】
ここに、主剤として活性炭4を、導電性助剤としてケッチェンブラック(KB)を加え、撹拌機1のミキサー3により高いせん断を与えて分散させる。さらに結合材としてγ−ブチロラクトン中での膨張率が13%であるスチレンブタジエン系ゴム(JSR製S2904(C)−1)を加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、3000〜7000mPa・sである(
図1(B))。
【0031】
次に、作製したスラリーをコーティング機5でアルミニウムエッチング箔6にコーティングしてコーティング電極7を作製し、これに引出し端子を設けて電気二重層キャパシタ用電極体を作製する(
図1(C))。
【0032】
ここで、活性炭、ケッチェンブラック及びCMC−Naは粉末形状のものを用い、スチレンブタジエン系ゴムはラテックス形状のものを用いた。また、それぞれの混合の割合は、主剤である活性炭を10gとした場合、導電性助剤のケッチェンブラックを0.5〜1.0g、分散材としてのCMC−Naを0.3g、結合材としてのラテックスを0.2〜0.3gとした。
【0033】
[比較例]
比較例では、結合材として、実施例のスチレンブタジエン系ゴムに代えて、γ−ブチロラクトン中での膨張率が30%のアクリル系ゴムを用いて、上記実施例と同様にして、同様な方法にて電気二重層キャパシタ用電極体を作製した。
【0034】
[比較結果]
上記のような実施例と比較例の電極を用い、1M四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウム、γ−ブチロラクトン溶液(1MTEMABF
4/GBL)を電解液として用いて、巻回型の電気二重層キャパシタを作製して、85℃、2.3V負荷試験を行った。その結果を
図2(A)(B)に示す。
【0035】
図2(A)に示すように、容量の変化率は実施例、比較例は同等であるが、
図2(B)に示すように、内部抵抗の変化率は比較例に対し実施例はより良好であった。
【0036】
このような結果が得られた理由を検証するために、1M四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウムにγ−ブチロラクトンを加えた電解液と、同じく1M四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウムにプロピレンカーボネート(PC)を加えた電解液のそれぞれに対して、アクリル系エラストマーと本発明のスチレンブタジエン系エラストマーについて、85℃、100時間での膨張率を測定した。その結果、
図3に示すように、γ−ブチロラクトン中におけるスチレンブタジエン系エラストマーの膨張率(約12%)は、アクリル系エラストマーの膨張率(約80%)に比べて極めて小さいことがわかった。
【0037】
このことから、
図2(B)で、実施例の方が比較例より内部抵抗変化率が小さいという良好な結果が得られたのは、結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が小さいスチレンブタジエン系エラストマーを用いたことにより、電解液中に含まれるγ−ブチロラクトンによって電極材料中の結合材が大きく膨張することが防止されたためであると考えられる。また、結合材の膨張が防止された結果、結合材の膨張による活性炭等の電極材間距離の拡大に起因すると思われる内部抵抗の変化が抑制されたものと考えられる。すなわち、結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを使用することによって、電気二重層キャパシタの寿命特性を向上させることができることが分かった。
【0038】
なお、
図6に示すように、アセトニトリル中におけるアクリル系エラストマーの60℃での膨張率は50%程度であるが、この膨張率50%の結合材を使用したコーティング電極では、従来より、内部抵抗の劣化が生じていない。このことから、γ−ブチロラクトンを含む電解液を使用した電気二重層キャパシタにおいても、膨張率が50%以下であれば、内部抵抗の劣化が生じないことは論理的に明らかである。なお、
図3、
図6に示されるように、一般的にエラストマーの85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率は5%以上である。
【0039】
(2)含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタについて
(2−1)集電体の含水量について
続いて、含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタについて、寿命試験中の劣化について検討したところ、以下のようなメカニズムが考えられた。すなわち、負荷状態における正極においては、BF
4-が加水分解してF
-が発生し、このF
-が正極のアルミニウムと反応して、絶縁皮膜であるAlF
3が生成して、内部抵抗が上昇する。
【0040】
一方、負極では、電解液中のH
2Oが電気分解して発生したOH
-がBF
4-と反応して、HFが発生する。また、OH
-がAl
2O
3(自然酸化皮膜)と反応してAl(OH)
4-が発生し、HFと反応してAlF
4-が発生する。このAlF
4-が正極へ泳動し、正極へ絶縁皮膜であるAlF
3として堆積して、内部抵抗が上昇する。
【0041】
また、無負荷状態においては、正極、負極においてBF
4-が加水分解してF
-が発生し、このF
-がアルミニウムと反応して、絶縁皮膜であるAlF
3が生成して、内部抵抗が上昇する。
【0042】
ここで、本発明において、集電体中の水分を少なくすると、これらの反応を抑制することができることが判明した。この水分量の上限は30μg/cm
2が好ましい。これは集電体の投影面積中に含まれる水分量である。この点については、後に試験例を示す。なお、上記の反応は、従来の60℃使用でも生じている反応である。したがって、従来のPC(プロピレンカーボネート)を用いた電気二重層キャパシタにおいても、効果を奏する。
【0043】
(2−2)被覆層について
さらに、検討を重ねた結果、負荷状態における正極及び負極の反応を抑制するために、集電体に被覆層を設けると、劣化抑制効果が大幅に向上することが分かった。
【0044】
この場合、被覆層を形成する目的は、アルミニウム集電体表面のアルミニウムを被覆することにあるので、被覆層には、径が5〜35μmのカーボンが含有されることが必要である。この径は1次粒子、2次粒子を含むカーボンの長径である。この範囲未満では本願の効果が低減し、この範囲を越えると塗工して形成する被覆層の塗工性が低下する。この点については、後に試験例を示す。
【0045】
続いて、本発明に係る電気二重層キャパシタの作製方法について説明する。すなわち、黒鉛と、カーボンブラックと、被覆層用結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させた被覆層用スラリーを、リン酸またはその塩を溶解した溶液に浸漬したアルミニウムからなる集電体に塗布して、導電層(被覆層)を形成する。
【0046】
ここで、前記被覆層用スラリーの調製方法について説明する。まず、純水中にアンモニアを加え、ph8に調整する。その後、導電性を有するカーボンブラック、グラファイトを加え、撹拌機のミキサーにより高いせん断を与えて分散させる。さらに被覆層用結合材としてγ−ブチロラクトン中における膨張率が50%以下であるエラストマーを加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、200〜300mPa・sである。
【0047】
なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられ、平均粒子径が0.1〜10μmのものが望ましい。また、グラファイトについては、π電子が非局在化した導電性の高い黒鉛(例えば、天然黒鉛や人造黒鉛)が挙げられ、平均粒子径が1〜20μmのものが望ましい。これら2種の炭素材料を混合することにより、高充填された高い電子伝導性を有する被覆層を形成することができ、電気二重層キャパシタの内部抵抗低減に対して効果的である。
【0048】
また、前記被覆層用結合材としては、85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いる。この85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとしては、一例として、スチレンブタジエン系エラストマーがあるが、水を溶媒として使用できる結合材であり、γ−ブチロラクトン中における膨張率が前記の範囲であれば、他の材料も使用可能である。
【0049】
続いて、前記被覆層が形成された金属集電体箔に、主剤である電極材料と、導電性助剤と、コーティング用結合材と、水などの溶媒とを混合してなるコーティング用スラリーを塗布し、所定の圧力でプレスして、分極性電極(コーティング電極)を形成する。このようにして作製されたコーティング電極を、セパレータを介して対向させてコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に電解液を含浸して、電気二重層キャパシタとする。
【0050】
ここで、前記コーティング用スラリーの調製方法について説明する。すなわち、分散材としてのカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)と、溶剤としての純水を混合し、撹拌機によって撹拌する。ここに、電極材料と導電性助剤を加え、撹拌機のミキサーにより高いせん断を与えて分散させる。さらにコーティング用結合材としてγ−ブチロラクトン中における膨張率が50%以下であるエラストマーを加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、3000〜7000mPa・sである。
【0051】
なお、前記電極材料としては、例えば活性炭を使用する。この場合、活性炭の原料は、植物系の木材、のこくず、ヤシ殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、或いはそれらを熱分解した石炭及び石油系ピッチ、石油コークス等である。活性炭は、これらの原料を炭化後、賦活処理して得られる。
【0052】
また、前記導電性助剤としては、導電性を有する炭素材料であるカーボンブラック、グラファイトを用いることができる。前記カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられ、これらの中でも、ケッチェンブラックが好ましい。グラファイトとしては、例えば、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。
【0053】
さらに、前記コーティング用結合材としては、85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いる。この85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとしては、一例として、スチレンブタジエン系エラストマーがあるが、水を溶媒として使用できる結合材であり、γ−ブチロラクトン中における膨張率が前記の範囲であれば、他の材料も使用可能である。
【0054】
一方、電解液は、その主溶媒として、γ−ブチロラクトンまたはプロピレンカーボネートを用いる。また、副溶媒として、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリルやニトロメタンなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルや炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルのような炭酸ジエステルなどの無機酸エステル類;ジグライム類;トリグライム類;スルホラン;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルホン、1,4−ブタンスルホン、ナフタスルホンなどのスルホン類等を用いることができる。
【0055】
前記有機溶媒中に溶解する電解質としては、金属の陽イオン、4級アンモニウムカチオン、カルボニウムカチオン等のカチオンと、BF
4-、PF
6-、AsF
6-、SbF
6-、から選ばれるアニオンの塩を挙げることができる。
【0056】
本発明の電気二重層キャパシタは、巻回型、積層型等の形状の何れであってもよい。このような電気二重層キャパシタは、例えば、電極シートを所望の大きさ、形状に切断し、セパレータを両極の間に介在させた状態で積層または巻回し、容器に挿入後電解液を注入し、封口部材、すなわち封口板、ガスケット等を用いて封口をかしめて製造できる。
【0057】
(2−3)試験結果
(2−3−1)集電体の含水量とカーボン粒径−その1
保有する水分量が異なる集電体に対して、導電性被覆層を構成するカーボンの粒子径を変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、分散材としてカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これらの電極を用い、電解液の水分率を変化させて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを2.3Vの電圧負荷を与えている状態で85℃で保存した。電解液の溶媒にはGBLもしくはPCを使用した。その後、2000時間まで2.3Vを印加しながら85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表1に示すような結果が得られた。
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、電解液の溶媒としてGBLを用いた電気二重層キャパシタであって、集電体の含水量が40μg/cm
2と高い比較例1とカーボン粒径が3μmと小さい比較例2、また、電解液の溶媒としてPCを用いた比較例3においては、DCIRの変化率が大きいことが分かった。
【0059】
また、電解液の水分率を1000ppmとした実施例4においても、DCIRの変化率は、電解液の水分率を100ppmとした他の実施例と同等であった。このことから、アルミ箔中の水分を規定すれば、たとえ電解液中の水分が多くても劣化しないことが分かった。すなわち、従来考えられていたように劣化反応の原因は電解液中の水分や分極性電極中の水分にあるのではなく、アルミ箔が保有する水分にあることが分かった。
【0060】
(2−3−2)集電体の含水量とカーボン粒径−その2
保有する水分量が異なる集電体に対して、導電性被覆層を構成するカーボンの粒子径を変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これら電極を用いて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを無負荷、85℃で保存した。電解液の溶媒にはPCを使用した。その後、2000時間まで85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表2に示すような結果が得られた。
【表2】
【0061】
表2から明らかなように、電解液の溶媒としてPCを用いた電気二重層キャパシタであって、集電体の含水量が40μg/cm
2と高い比較例4とカーボン粒径が3μmと小さい比較例5においては、実施例7と比べてDCIRの変化率が大きいことが分かった。
(付記)
(付記1)
溶媒としてγ−ブチロラクトンを含む電解液と、
電極材料と、導電性助剤と、結合材として85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを水に分散させたスラリーを集電体に塗布してなるコーティング電極を備えたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
(付記2)
含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタ用集電体であって、
含水量が30μg/cm2以下のアルミニウム基材と、
該アルミニウム基材の上に、径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーを用いて形成された導電性被覆層と、を有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用集電体。
(付記3)
前記径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーが、黒鉛と、カーボンブラックと、結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させてなるスラリーであることを特徴とする付記2に記載の電気二重層キャパシタ用集電体。
(付記4)
付記2又は付記3に記載の電気二重層キャパシタ用集電体を備え、含フッ素アニオンを含む電解液を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
(付記5)
前記電気二重層キャパシタ用集電体の表面に、電極材料と、導電性助剤と、コーティング用結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させてなるコーティング用スラリーを塗布してなるコーティング電極が形成されていることを特徴とする付記4に記載の電気二重層キャパシタ。
(付記6)
溶媒としてγ−ブチロラクトンを含む電解液を用いたことを特徴とする付記5に記載の電気二重層キャパシタ。
(付記7)
前記85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーが、スチレンブタジエン系エラストマーであることを特徴とする付記1、付記5又は付記6のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ。