特許第5724875号(P5724875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ケミコン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5724875-電気二重層キャパシタ 図000004
  • 特許5724875-電気二重層キャパシタ 図000005
  • 特許5724875-電気二重層キャパシタ 図000006
  • 特許5724875-電気二重層キャパシタ 図000007
  • 特許5724875-電気二重層キャパシタ 図000008
  • 特許5724875-電気二重層キャパシタ 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724875
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】電気二重層キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/28 20130101AFI20150507BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20150507BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20150507BHJP
【FI】
   H01G11/28
   H01G11/38
   H01G11/60
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-534088(P2011-534088)
(86)(22)【出願日】2010年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2010005903
(87)【国際公開番号】WO2011040040
(87)【国際公開日】20110407
【審査請求日】2013年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2009-228521(P2009-228521)
(32)【優先日】2009年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】駒津 晋司
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−099978(JP,A)
【文献】 特開2007−180250(JP,A)
【文献】 特開2008−288549(JP,A)
【文献】 特開2001−217150(JP,A)
【文献】 特開平11−102843(JP,A)
【文献】 特開2004−296863(JP,A)
【文献】 特開2007−329180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/28
H01G 11/38
H01G 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒としてγ−ブチロラクトンを含む電解液と、
電極材料と、導電性助剤と、結合材として85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるスチレンブタジエン系エラストマーを水に分散させたスラリーを、エッチング箔からなる集電体に塗布してなるコーティング電極を備えることを特徴とする使用温度が70℃を超える電気二重層キャパシタ。
【請求項2】
含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタ用の集電体であって、
含水量が30μg/cm2以下のアルミニウム基材と、
該アルミニウム基材の上に、径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーを用いて形成された導電性被覆層と、を有する集電体を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項3】
前記径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーが、黒鉛と、カーボンブラックと、結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させてなるスラリーであることを特徴とする請求項2に記載の電気二重層キャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー状の電極を集電体にコーティングしてなるコーティング電極を使用した電気二重層キャパシタに関するものである。また、85℃前後の温度域においても特性劣化が生じることがない電気二重層キャパシタ用集電体及び電気二重層キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、例えばアルミニウムである金属箔の表面に分極性電極層を設けた分極性電極間にセパレ−タを介在させて巻回し、または積層したコンデンサ素子に電解液を含浸し、このコンデンサ素子を金属ケ−ス内に収納して、開口端部を密封した構造を有する。
【0003】
この電気二重層キャパシタは、電気自動車やハイブリッドカーのモーター駆動用電源、またはブレーキ時の回生エネルギー蓄電などのパワー用途では、電極の厚みを薄くすることによって、パワー密度の向上を図っている。そして、そのためには、電極をポリテトラフルオロエチレン等をバインダーとして用いシート状にしてこれを集電体に接着してなるシート電極より、ラテックス等をバインダーとして用いたスラリー状の電極を集電体にコーティングしてなるコーティング電極の方が薄膜化が図れる。
【0004】
このコーティング電極は、電極材料(主剤)と、導電性助剤と、主剤及び導電性助剤とを結合させる結合材(バインダー)と、さらに主剤と導電性助剤とを水に分散させスラリー化させるために使用する分散材とから構成される。
【0005】
すなわち、正極・負極として用いる電極材料としては、活性炭やポリアセン等が挙げられる。活性炭としては、例えば、フェノール樹脂等の樹脂系炭素、椰子殻などの植物系炭素、石炭/石油系ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を賦活して用いている。導電性助剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、天然/人造黒鉛等が用いられる。分散材としては、ヒドロキシメチルエチルセルロース(HMEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)を用いる。結合材には取り扱い易い水系の結合材であるアクリル系エラストマーのラテックスが使用されることが好ましい。分極性電極材料と導電性助剤を撹拌するための溶剤としては水を用いる。
【0006】
一方、電気二重層キャパシタは、高容量で長期信頼性に優れたものが要求され、従来の電気二重層キャパシタの電解液には、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒やアセトニトリルが使用されている。これによれば、60℃使用において、高容量で、しかも高温負荷に優れる電気二重層キャパシタを得ることができるとされている。
【0007】
ところが、カーボネート系溶媒を用いた電解液では、高温下では溶媒の分解により一酸化炭素(CO)ガスが発生するため、分極性電極や電解液等を収容している容器の内圧が上昇するという問題が生じる。このため、60℃が限界であり、70〜85℃というさらなる高温使用には対応することができないという問題点があった。これに対して、γ−ブチロラクトンを用いて70℃使用を可能にしようという試みがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−217150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、溶媒として四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウム(TEMABF)とγ−ブチロラクトン(GBL)を含む電解液を用い、主剤として活性炭、導電性補助剤としてケッチェンブラック、結合材としてアクリル系エラストマー(例えば、アクリルニトリルゴム)を用いたコーティング電極を有する電気二重層キャパシタにおいて、85℃での寿命試験を行うと、その内部抵抗(DCIR)の上昇が大きいことがわかった。
【0010】
すなわち、図4に示すように、コーティング電極とシート電極のそれぞれについて、60℃、70℃及び85℃の各温度において500時間にわたる負荷実験を行い、容量並びに内部抵抗変化を計測したところ、85℃におけるコーティング電極の内部抵抗のみ、特性が著しく劣化していることが判明した。
【0011】
この知見に基づき、コーティング電極とシート電極のバインダーの溶媒中での膨張率の違いに着目し、結合材成分の電解液中での膨張率を測定した。測定方法は図5に示すように、所定の溶剤に溶解させたアクリル系エラストマーを板上にキャストして薄膜を形成し、これを乾燥し、直径20mmの結合材フィルムを作製した。
【0012】
この結合材フィルムをγ−ブチロラクトンを含む電解液に、20℃、60℃、70℃、105℃でそれぞれ200時間浸漬した後、その厚み、直径を測定し、結合材フィルムの膨張度合いを確認した。図6が電解液浸漬後の結合材フィルムの膨張率を示すグラフである。この試験結果によれば、溶媒としてγ−ブチロラクトン(GBL)を含む電解液を使用した場合、アクリル系エラストマーの高温領域での膨張度合いが、溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)やアセトニトリル(AN)を含む電解液を使用した場合に比べて大きいことが分かった。
【0013】
本発明は、水を溶媒として使用することのできる結合材によって電極材料と導電性助剤を結合してなるコーティング電極を、γ−ブチロラクトンを含む電解液に使用した場合であっても、85℃前後の温度域においても特性劣化が生じることがない電気二重層キャパシタを提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタにおいて、85℃前後の温度域においても特性劣化が生じることがない電気二重層キャパシタ用集電体及び電気二重層キャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明の電気二重層キャパシタは、溶媒としてγ−ブチロラクトンを含む電解液と、電極材料と、導電性助剤と、結合材として85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを水に分散させたスラリーを集電体に塗布してなるコーティング電極を備えたことを特徴とする。また、85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーが、スチレンブタジエン系エラストマーであることも本発明の一態様である。
【0016】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用集電体は、含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタ用集電体であって、含水量が30μg/cm2以下のアルミニウム基材と、該アルミニウム基材の上に、径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーを用いて形成された導電性被覆層とを有することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の電気二重層キャパシタは、径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーを、含水量が30μg/cm2以下のアルミニウム基材の上に塗布して乾燥することにより導電性被覆層を形成した集電体を備え、含フッ素アニオンを含む電解液を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電気二重層キャパシタは、85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いたため、電解液中に含まれるγ−ブチロラクトンによって電極材料中の結合材が大きく膨張することが防止される。その結果、結合材の膨張による活性炭等の電極材間距離の拡大に起因すると思われる内部抵抗変化が抑制される。また、コーティング電極の溶媒として水を使用することができるので、製造時の取扱いが簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の電気二重層キャパシタ用電極の作製方法を示す模式図である。
図2】本発明の電気二重層キャパシタ用電極の実施例及び比較例について、容量、DCIRの寿命試験ビーカーセル評価の結果を示す図であって、(A)は負荷時間と容量変化率の関係を示す図、(B)は負荷時間と内部抵抗変化率の関係を示す図である。
図3】結合材の相違による膨張性の違いを示すグラフである。
図4】コーティング電極とシート電極を使用した電気二重層キャパシタの特性を比較したグラフであって、(A)は負荷時間と容量変化率の関係を示す図、(B)は負荷時間と内部抵抗変化率の関係を示す図である。
図5】アクリル系エラストマーフィルムの膨張及び溶解を確認する試料を作成する方法の一例を示す工程図である。
図6】材質の異なる電解液に浸漬後のアクリル系エラストマーフィルムの膨張率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)コーティング電極に用いられる結合材について
本発明の電気二重層キャパシタは、アルミニウムからなる金属集電体箔に分極性電極層を形成した電極を、セパレータを介して対向させてコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に電解液を含浸して、電気二重層キャパシタとしたものである。
【0021】
電極に用いる金属集電体箔としては、アルミニウムエッチング箔を用いる。アルミニウム箔としては純度99.9%以上の高純度のアルミニウムを用いる。その厚さとしては、通常10〜50μm程度の厚さのアルミニウム箔を用いる。
【0022】
この金属集電体箔に、主剤である電極材料と、導電性助剤と、結合材と、水などの溶媒とを混合してなるスラリー(ペーストとも呼ばれる)を塗布して分極性電極(コーティング電極)とする。このようにして作製されたコーティング電極を、セパレータを介して対向させてコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に電解液を含浸して、電気二重層キャパシタとする。
【0023】
電極材料としては、例えば活性炭を使用する。この場合、活性炭の原料は、植物系の木材、のこくず、ヤシ殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、或いはそれらを熱分解した石炭及び石油系ピッチ、石油コークス等である。活性炭は、これらの原料を炭化後、賦活処理して得られる。
【0024】
導電性助剤としては、導電性を有する炭素材料である、カーボンブラック、グラファイトを用いることができる。前記カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられ、これらの中でも、ケッチェンブラックが好ましい。グラファイトとしては、例えば、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。
【0025】
結合材としては、85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いる。この85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとしては、一例として、スチレンブタジエン系エラストマーがあるが、水を溶媒として使用できる結合材であれば、γ−ブチロラクトンにおける膨張率が前記の範囲であれば、他の材料も使用可能である。
【0026】
一方、電解液は、その主溶媒として、γ−ブチロラクトンを用いる。また、副溶媒として、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリルやニトロメタンなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルや炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルのような炭酸ジエステルなどの無機酸エステル類;ジグライム類;トリグライム類;スルホラン;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトンなどのスルトン類等を用いることができる。
【0027】
有機溶媒中に溶解する電解質としては、金属の陽イオン、4級アンモニウムカチオン、カルボニウムカチオン等のカチオンと、BF4-、PF6-、ClO4-、AsF6-、SbF6-、AlCl4-、またはRfSO3-、(RfSO22-、RfCO2-(Rfは炭素数1〜8のフルオロアルキル基)から選ばれるアニオンの塩を挙げることができる。
【0028】
本発明の電気二重層キャパシタは、巻回型、積層型等の形状の何れであってもよい。このような電気二重層キャパシタは、例えば、電極シートを所望の大きさ、形状に切断し、セパレータを両極の間に介在させた状態で積層または巻回し、容器に挿入後電解液を注入し、封口部材、すなわち封口板、ガスケット等を用いて封口をかしめて製造できる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例及び比較例におけるスラリー作製工程の模式図を図1に示す。
[実施例]
分散材としてのカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)と、溶剤としての純水を混合し(図中符号2)、撹拌機1によって撹拌する。ここで、CMC−Naは粉末のため、次の工程において扱いやすいようにするために予め水に溶解させるものである(図1(A))。
【0030】
ここに、主剤として活性炭4を、導電性助剤としてケッチェンブラック(KB)を加え、撹拌機1のミキサー3により高いせん断を与えて分散させる。さらに結合材としてγ−ブチロラクトン中での膨張率が13%であるスチレンブタジエン系ゴム(JSR製S2904(C)−1)を加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、3000〜7000mPa・sである(図1(B))。
【0031】
次に、作製したスラリーをコーティング機5でアルミニウムエッチング箔6にコーティングしてコーティング電極7を作製し、これに引出し端子を設けて電気二重層キャパシタ用電極体を作製する(図1(C))。
【0032】
ここで、活性炭、ケッチェンブラック及びCMC−Naは粉末形状のものを用い、スチレンブタジエン系ゴムはラテックス形状のものを用いた。また、それぞれの混合の割合は、主剤である活性炭を10gとした場合、導電性助剤のケッチェンブラックを0.5〜1.0g、分散材としてのCMC−Naを0.3g、結合材としてのラテックスを0.2〜0.3gとした。
【0033】
[比較例]
比較例では、結合材として、実施例のスチレンブタジエン系ゴムに代えて、γ−ブチロラクトン中での膨張率が30%のアクリル系ゴムを用いて、上記実施例と同様にして、同様な方法にて電気二重層キャパシタ用電極体を作製した。
【0034】
[比較結果]
上記のような実施例と比較例の電極を用い、1M四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウム、γ−ブチロラクトン溶液(1MTEMABF/GBL)を電解液として用いて、巻回型の電気二重層キャパシタを作製して、85℃、2.3V負荷試験を行った。その結果を図2(A)(B)に示す。
【0035】
図2(A)に示すように、容量の変化率は実施例、比較例は同等であるが、図2(B)に示すように、内部抵抗の変化率は比較例に対し実施例はより良好であった。
【0036】
このような結果が得られた理由を検証するために、1M四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウムにγ−ブチロラクトンを加えた電解液と、同じく1M四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウムにプロピレンカーボネート(PC)を加えた電解液のそれぞれに対して、アクリル系エラストマーと本発明のスチレンブタジエン系エラストマーについて、85℃、100時間での膨張率を測定した。その結果、図3に示すように、γ−ブチロラクトン中におけるスチレンブタジエン系エラストマーの膨張率(約12%)は、アクリル系エラストマーの膨張率(約80%)に比べて極めて小さいことがわかった。
【0037】
このことから、図2(B)で、実施例の方が比較例より内部抵抗変化率が小さいという良好な結果が得られたのは、結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が小さいスチレンブタジエン系エラストマーを用いたことにより、電解液中に含まれるγ−ブチロラクトンによって電極材料中の結合材が大きく膨張することが防止されたためであると考えられる。また、結合材の膨張が防止された結果、結合材の膨張による活性炭等の電極材間距離の拡大に起因すると思われる内部抵抗の変化が抑制されたものと考えられる。すなわち、結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを使用することによって、電気二重層キャパシタの寿命特性を向上させることができることが分かった。
【0038】
なお、図6に示すように、アセトニトリル中におけるアクリル系エラストマーの60℃での膨張率は50%程度であるが、この膨張率50%の結合材を使用したコーティング電極では、従来より、内部抵抗の劣化が生じていない。このことから、γ−ブチロラクトンを含む電解液を使用した電気二重層キャパシタにおいても、膨張率が50%以下であれば、内部抵抗の劣化が生じないことは論理的に明らかである。なお、図3図6に示されるように、一般的にエラストマーの85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率は5%以上である。
【0039】
(2)含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタについて
(2−1)集電体の含水量について
続いて、含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタについて、寿命試験中の劣化について検討したところ、以下のようなメカニズムが考えられた。すなわち、負荷状態における正極においては、BF4-が加水分解してF-が発生し、このF-が正極のアルミニウムと反応して、絶縁皮膜であるAlF3が生成して、内部抵抗が上昇する。
【0040】
一方、負極では、電解液中のH2Oが電気分解して発生したOH-がBF4-と反応して、HFが発生する。また、OH-がAl23(自然酸化皮膜)と反応してAl(OH)4-が発生し、HFと反応してAlF4-が発生する。このAlF4-が正極へ泳動し、正極へ絶縁皮膜であるAlF3として堆積して、内部抵抗が上昇する。
【0041】
また、無負荷状態においては、正極、負極においてBF4-が加水分解してF-が発生し、このF-がアルミニウムと反応して、絶縁皮膜であるAlF3が生成して、内部抵抗が上昇する。
【0042】
ここで、本発明において、集電体中の水分を少なくすると、これらの反応を抑制することができることが判明した。この水分量の上限は30μg/cm2が好ましい。これは集電体の投影面積中に含まれる水分量である。この点については、後に試験例を示す。なお、上記の反応は、従来の60℃使用でも生じている反応である。したがって、従来のPC(プロピレンカーボネート)を用いた電気二重層キャパシタにおいても、効果を奏する。
【0043】
(2−2)被覆層について
さらに、検討を重ねた結果、負荷状態における正極及び負極の反応を抑制するために、集電体に被覆層を設けると、劣化抑制効果が大幅に向上することが分かった。
【0044】
この場合、被覆層を形成する目的は、アルミニウム集電体表面のアルミニウムを被覆することにあるので、被覆層には、径が5〜35μmのカーボンが含有されることが必要である。この径は1次粒子、2次粒子を含むカーボンの長径である。この範囲未満では本願の効果が低減し、この範囲を越えると塗工して形成する被覆層の塗工性が低下する。この点については、後に試験例を示す。
【0045】
続いて、本発明に係る電気二重層キャパシタの作製方法について説明する。すなわち、黒鉛と、カーボンブラックと、被覆層用結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させた被覆層用スラリーを、リン酸またはその塩を溶解した溶液に浸漬したアルミニウムからなる集電体に塗布して、導電層(被覆層)を形成する。
【0046】
ここで、前記被覆層用スラリーの調製方法について説明する。まず、純水中にアンモニアを加え、ph8に調整する。その後、導電性を有するカーボンブラック、グラファイトを加え、撹拌機のミキサーにより高いせん断を与えて分散させる。さらに被覆層用結合材としてγ−ブチロラクトン中における膨張率が50%以下であるエラストマーを加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、200〜300mPa・sである。
【0047】
なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられ、平均粒子径が0.1〜10μmのものが望ましい。また、グラファイトについては、π電子が非局在化した導電性の高い黒鉛(例えば、天然黒鉛や人造黒鉛)が挙げられ、平均粒子径が1〜20μmのものが望ましい。これら2種の炭素材料を混合することにより、高充填された高い電子伝導性を有する被覆層を形成することができ、電気二重層キャパシタの内部抵抗低減に対して効果的である。
【0048】
また、前記被覆層用結合材としては、85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いる。この85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとしては、一例として、スチレンブタジエン系エラストマーがあるが、水を溶媒として使用できる結合材であり、γ−ブチロラクトン中における膨張率が前記の範囲であれば、他の材料も使用可能である。
【0049】
続いて、前記被覆層が形成された金属集電体箔に、主剤である電極材料と、導電性助剤と、コーティング用結合材と、水などの溶媒とを混合してなるコーティング用スラリーを塗布し、所定の圧力でプレスして、分極性電極(コーティング電極)を形成する。このようにして作製されたコーティング電極を、セパレータを介して対向させてコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に電解液を含浸して、電気二重層キャパシタとする。
【0050】
ここで、前記コーティング用スラリーの調製方法について説明する。すなわち、分散材としてのカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)と、溶剤としての純水を混合し、撹拌機によって撹拌する。ここに、電極材料と導電性助剤を加え、撹拌機のミキサーにより高いせん断を与えて分散させる。さらにコーティング用結合材としてγ−ブチロラクトン中における膨張率が50%以下であるエラストマーを加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、3000〜7000mPa・sである。
【0051】
なお、前記電極材料としては、例えば活性炭を使用する。この場合、活性炭の原料は、植物系の木材、のこくず、ヤシ殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、或いはそれらを熱分解した石炭及び石油系ピッチ、石油コークス等である。活性炭は、これらの原料を炭化後、賦活処理して得られる。
【0052】
また、前記導電性助剤としては、導電性を有する炭素材料であるカーボンブラック、グラファイトを用いることができる。前記カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられ、これらの中でも、ケッチェンブラックが好ましい。グラファイトとしては、例えば、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。
【0053】
さらに、前記コーティング用結合材としては、85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いる。この85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとしては、一例として、スチレンブタジエン系エラストマーがあるが、水を溶媒として使用できる結合材であり、γ−ブチロラクトン中における膨張率が前記の範囲であれば、他の材料も使用可能である。
【0054】
一方、電解液は、その主溶媒として、γ−ブチロラクトンまたはプロピレンカーボネートを用いる。また、副溶媒として、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリルやニトロメタンなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルや炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルのような炭酸ジエステルなどの無機酸エステル類;ジグライム類;トリグライム類;スルホラン;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルホン、1,4−ブタンスルホン、ナフタスルホンなどのスルホン類等を用いることができる。
【0055】
前記有機溶媒中に溶解する電解質としては、金属の陽イオン、4級アンモニウムカチオン、カルボニウムカチオン等のカチオンと、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、から選ばれるアニオンの塩を挙げることができる。
【0056】
本発明の電気二重層キャパシタは、巻回型、積層型等の形状の何れであってもよい。このような電気二重層キャパシタは、例えば、電極シートを所望の大きさ、形状に切断し、セパレータを両極の間に介在させた状態で積層または巻回し、容器に挿入後電解液を注入し、封口部材、すなわち封口板、ガスケット等を用いて封口をかしめて製造できる。
【0057】
(2−3)試験結果
(2−3−1)集電体の含水量とカーボン粒径−その1
保有する水分量が異なる集電体に対して、導電性被覆層を構成するカーボンの粒子径を変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、分散材としてカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これらの電極を用い、電解液の水分率を変化させて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを2.3Vの電圧負荷を与えている状態で85℃で保存した。電解液の溶媒にはGBLもしくはPCを使用した。その後、2000時間まで2.3Vを印加しながら85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表1に示すような結果が得られた。
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、電解液の溶媒としてGBLを用いた電気二重層キャパシタであって、集電体の含水量が40μg/cm2と高い比較例1とカーボン粒径が3μmと小さい比較例2、また、電解液の溶媒としてPCを用いた比較例3においては、DCIRの変化率が大きいことが分かった。
【0059】
また、電解液の水分率を1000ppmとした実施例4においても、DCIRの変化率は、電解液の水分率を100ppmとした他の実施例と同等であった。このことから、アルミ箔中の水分を規定すれば、たとえ電解液中の水分が多くても劣化しないことが分かった。すなわち、従来考えられていたように劣化反応の原因は電解液中の水分や分極性電極中の水分にあるのではなく、アルミ箔が保有する水分にあることが分かった。
【0060】
(2−3−2)集電体の含水量とカーボン粒径−その2
保有する水分量が異なる集電体に対して、導電性被覆層を構成するカーボンの粒子径を変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これら電極を用いて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを無負荷、85℃で保存した。電解液の溶媒にはPCを使用した。その後、2000時間まで85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表2に示すような結果が得られた。
【表2】
【0061】
表2から明らかなように、電解液の溶媒としてPCを用いた電気二重層キャパシタであって、集電体の含水量が40μg/cm2と高い比較例4とカーボン粒径が3μmと小さい比較例5においては、実施例7と比べてDCIRの変化率が大きいことが分かった。
(付記)
(付記1)
溶媒としてγ−ブチロラクトンを含む電解液と、
電極材料と、導電性助剤と、結合材として85℃のγ−ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを水に分散させたスラリーを集電体に塗布してなるコーティング電極を備えたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
(付記2)
含フッ素アニオンを含む電解液を用いる電気二重層キャパシタ用集電体であって、
含水量が30μg/cm2以下のアルミニウム基材と、
該アルミニウム基材の上に、径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーを用いて形成された導電性被覆層と、を有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用集電体。
(付記3)
前記径が5μm以上のカーボンを含有する被覆層用スラリーが、黒鉛と、カーボンブラックと、結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させてなるスラリーであることを特徴とする付記2に記載の電気二重層キャパシタ用集電体。
(付記4)
付記2又は付記3に記載の電気二重層キャパシタ用集電体を備え、含フッ素アニオンを含む電解液を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
(付記5)
前記電気二重層キャパシタ用集電体の表面に、電極材料と、導電性助剤と、コーティング用結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させてなるコーティング用スラリーを塗布してなるコーティング電極が形成されていることを特徴とする付記4に記載の電気二重層キャパシタ。
(付記6)
溶媒としてγ−ブチロラクトンを含む電解液を用いたことを特徴とする付記5に記載の電気二重層キャパシタ。
(付記7)
前記85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーが、スチレンブタジエン系エラストマーであることを特徴とする付記1、付記5又は付記6のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ。
【符号の説明】
【0062】
1…撹拌機
2…純水+分散材
3…ミキサー
4…活性炭
5…コーティング機
6…アルミニウムエッチング箔
図1
図2
図4
図3
図5
図6