特許第5724911号(P5724911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724911
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】燃料電池診断装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20060101AFI20150507BHJP
   H01M 8/10 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/10
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-55850(P2012-55850)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-191362(P2013-191362A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡宮 稔
(72)【発明者】
【氏名】坂上 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】末松 啓吾
【審査官】 相羽 昌孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−12419(JP,A)
【文献】 特開2007−66589(JP,A)
【文献】 特開2005−63946(JP,A)
【文献】 特開2011−233242(JP,A)
【文献】 特開2003−317810(JP,A)
【文献】 特開2009−176506(JP,A)
【文献】 特開2007−87635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスおよび燃料ガスといった反応ガスを電気化学反応させて電気エネルギを出力する複数のセル(10)が積層された固体高分子型の燃料電池(1)に適用され、前記燃料電池の状態を診断する燃料電池診断装置であって、
前記燃料電池に対して、予め定めた基準周波数よりも低い低周波数の交流信号、および前記基準周波数よりも高い高周波数の交流信号を印加する交流印加手段(431)と、
前記複数のセルのうち、診断対象となる対象セル(10)のセル電圧を検出する電圧検出手段(42)と、
前記対象セルにおける所定の局所部位を流れる局所電流を検出する局所電流検出手段(41)と、
前記交流印加手段にて前記低周波数の交流信号を印加した際の前記セル電圧、および前記局所電流に基づいて、前記対象セルの前記局所部位の局所インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段(432)と、
前記交流印加手段にて前記高周波数の交流信号を印加した際の前記セル電圧、および前記局所電流に基づいて、前記対象セルの前記局所部位の膜抵抗を算出する膜抵抗算出手段(433)と、
前記局所インピーダンスを補正して前記局所インピーダンスに含まれる拡散インピーダンスを算出する補正手段(434)と、
前記拡散インピーダンスに基づいて前記燃料電池への反応ガスの供給状態を診断する診断手段(435)と、を備え、
前記補正手段は、前記局所インピーダンスから前記膜抵抗、および前記燃料電池の負荷変動に応じて変化する前記対象セルの活性化抵抗の影響を除去することで前記拡散インピーダンスを算出することを特徴とする燃料電池診断装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記交流印加手段にて前記低周波数の交流信号を印加した際の前記セル電圧の変化量に含まれる活性化過電圧の変化分を、前記局所電流の変化量で除算して前記活性化抵抗を算出することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池診断装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記燃料電池のターフェル勾配、前記燃料電池から出力される出力電流の直流成分の値、および前記交流信号の交流成分の振幅を用いて前記活性化過電圧の変化分を算出することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池診断装置。
【請求項4】
前記補正手段は、直列接続された前記活性化抵抗および前記拡散インピーダンスに、前記対象セルの触媒電極層における電気二重層容量を並列接続した合成回路に対して、前記膜抵抗を直列接続して構成される前記セルの等価回路に基づいて、前記拡散インピーダンスを算出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料電池診断装置。
【請求項5】
前記補正手段は、前記電気二重層容量として予め測定した前記対象セルの触媒電極層における電気二重層容量の値を用いることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型の燃料電池の状態を診断する燃料電池診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流インピーダンス法により燃料電池のインピーダンスを測定し、測定したインピーダンスに基づいて、燃料電池の状態を診断する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1では、高周波数領域および低周波数領域といった異なる周波数領域のインピーダンスを測定し、測定した高周波数領域のインピーダンスに基づいて燃料電池の乾湿状態を診断すると共に、低周波数領域のインピーダンスに基づいて燃料電池に供給される反応ガスの供給状態等を診断するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−12419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池における低周波数領域のインピーダンスは、反応ガスの供給状態以外にも、燃料電池内部の乾湿状態(乾燥状態および湿潤状態)や燃料電池の負荷変動(電流密度の変化)の影響によって大きく変化する傾向がある。
【0006】
このため、従来の技術の如く、単に低周波数領域のインピーダンスに基づいて燃料電池に供給される反応ガスの供給状態を診断しようとしても、燃料電池における反応ガスの供給状態を的確に診断することができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、燃料電池における反応ガスの供給状態を的確に診断可能な燃料電池診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸化剤ガスおよび燃料ガスといった反応ガスを電気化学反応させて電気エネルギを出力する複数のセル(10)が積層された固体高分子型の燃料電池(1)に適用され、燃料電池の状態を診断する燃料電池診断装置を対象としている。
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、燃料電池に対して、予め定めた基準周波数よりも低い低周波数の交流信号、および基準周波数よりも高い高周波数の交流信号を印加する交流印加手段(431)と、複数のセルのうち、診断対象となる対象セル(10)のセル電圧を検出する電圧検出手段(42)と、対象セルにおける所定の局所部位を流れる局所電流を検出する局所電流検出手段(41)と、交流印加手段にて低周波数の交流信号を印加した際のセル電圧、および局所電流に基づいて、対象セルの局所部位の局所インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段(432)と、交流印加手段にて高周波数の交流信号を印加した際のセル電圧、および局所電流に基づいて、対象セルの局所部位の膜抵抗を算出する膜抵抗算出手段(433)と、局所インピーダンスを補正して局所インピーダンスに含まれる拡散インピーダンスを算出する補正手段(434)と、拡散インピーダンスに基づいて燃料電池への反応ガスの供給状態を診断する診断手段(435)と、を備える。そして、補正手段は、局所インピーダンスから膜抵抗、および燃料電池の負荷変動に応じて変化する対象セルの活性化抵抗の影響を除去することで拡散インピーダンスを算出することを特徴としている。
【0010】
これによれば、低周波数の交流信号を印加した際の局所インピーダンスから、対象セルの乾湿状態(乾燥状態および湿潤状態)により変化する膜抵抗、および燃料電池の負荷変動により変化する活性化抵抗の影響を除去して算出した拡散インピーダンスに基づいて、燃料電池の反応ガスの供給状態を診断する構成としているので、燃料電池における反応ガスの供給状態を的確に診断することが可能となる。
【0011】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの全体構成図である。
図2】第1実施形態に係る燃料電池診断装置の全体構成図である。
図3】交流信号を印加した際の出力電流を説明するための説明図である。
図4】第1実施形態に係るセルの等価回路図である。
図5】セルへの空気の供給状態が酸素不足状態となる際の等価回路図である。
図6】セルへの空気の供給状態を変化させた際の理想的なコールコールプロットを示す図表である。
図7】燃料電池の負荷変動が生じた際の理想的なコールコールプロットを示す図表である。
図8】燃料電池の電流−電圧特性を示す特性図である。
図9】第1実施形態に係る信号処理装置が実行する燃料電池の空気の供給状態を診断する診断処理の流れを示すフローチャートである。
図10】カソード電極の拡散インピーダンスと酸素濃度との関係を示す特性図である。
図11】第2実施形態に係る燃料電池診断装置の全体構成図である。
図12】セルへの水素の供給状態が水素不足状態となる際の等価回路図である。
図13】第2実施形態に係る信号処理装置が実行する燃料電池の水素の供給状態を診断する診断処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1図10に基づいて説明する。本実施形態の燃料電池システムは、電気自動車の一種である、いわゆる燃料電池車両に適用されており、図示しない車両走行用電動モータ等の電気負荷に電力を供給するものである。
【0015】
図1の全体構成図に示すように、燃料電池システムは、水素と酸素との電気化学反応を利用して電気エネルギを出力する固体高分子型の燃料電池1を備えている。この燃料電池1は、車両走行用電動モータや二次電池といった各種電気負荷に供給される電気エネルギを出力する。燃料電池1は、基本単位となるセル10が複数積層され、各セル10を電気的に直列に接続した直列接続体として構成されている。
【0016】
具体的には、図2に示すように、各セル10は、固体高分子からなる電解質膜100aの両側面に一対の触媒電極層100b、100cが配置された膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)100と、膜電極接合体100を狭持する一対のセパレータ101、102で構成されている。
【0017】
一対のセパレータ101、102のうち、アノード電極100bに対向するセパレータ101には、燃料ガスとしての水素を導入する水素入口部101a、アノード電極100bに水素を供給する水素流路101c、水素流路101cから水素を導出する水素出口部101bが形成されている。
【0018】
また、一対のセパレータ101、102のうち、カソード電極100cに対向するセパレータ102には、酸化剤ガスとしての空気を導入する空気入口部102a、カソード電極100cに酸素を供給する空気流路102c、空気流路102cから空気を導出する空気出口部102bが形成されている。各セパレータ101、102は、水素流路101cを流通する水素の流れ方向と空気流路102cを流通する空気の流れ方向とが互いに対向流となるように、各入口部101a、102a、および各出口部101b、102bが形成される。
【0019】
各セル10は、水素および空気が供給されることで、以下に示すように、水素および酸素といった反応ガスを電気化学反応させて、電気エネルギを出力する。
(アノード電極)H→2H+2e
(カソード電極)2H+1/2O+2e→H
図1に戻り、燃料電池1および各種電気負荷は、双方向に電力を伝達可能なDC−DCコンバータ2を介して電気的に接続されている。このDC−DCコンバータ2は、燃料電池1から各種電気負荷、あるいは、各種電気負荷から燃料電池1への電力の流れを制御するものである。
【0020】
また、各セル10のうち、診断対象となるセル10(以下、対象セル10と称する。)には、燃料電池診断装置4が接続されている。この燃料電池診断装置4は、対象セル10における空気流れ下流側(酸化剤ガス流れ下流側)の局所部位である空気出口部102b(水素入口部101a)付近への空気の供給状態を診断するものである。空気流れ下流側の局所部位は、空気入口部102aよりも空気出口部102bに近い部位である。なお、燃料電池診断装置4の詳細については後述する。
【0021】
燃料電池1には、空気を燃料電池1に供給する空気供給配管20、および燃料電池1にて電気化学反応を終えた余剰空気やカソード電極100c側に溜まった生成水を燃料電池1から外気へ排出する空気排出配管21が接続されている。なお、空気供給配管20は、燃料電池1の内部に形成された空気供給マニホールド(図示略)を介して各セル10の空気入口部102aに連通し、空気排出配管21は、燃料電池1の内部に形成された空気排出マニホールド(図示略)を介して、各セル10の空気出口部102bに連通している。
【0022】
空気供給配管20の最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池1に圧送するための空気ポンプ22が設けられ、空気排出配管21には、燃料電池1内の空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。なお、本実施形態では、空気ポンプ22および空気調圧弁23によって、所定の流量および圧力の空気を燃料電池1に供給する空気供給手段が構成される。
【0023】
また、燃料電池1には、水素を燃料電池1に供給する水素供給配管30、および燃料電池1にて電気化学反応を終えた微量な水素やアノード電極100b側に溜まった生成水を燃料電池1から外気へ排出する水素排出配管31が接続されている。なお、水素供給配管30は、燃料電池1の内部に形成された水素供給マニホールド(図示略)を介して各セル10の水素入口部101aに連通し、水素排出配管31は、燃料電池1の内部に形成された水素排出マニホールド(図示略)を介して、各セル10の水素出口部101bに連通している。
【0024】
水素供給配管30の最上流部には、高圧水素が充填された高圧水素タンク32が設けられ、水素供給配管30における高圧水素タンク32と燃料電池1との間には、燃料電池1に供給される水素の圧力を調整する水素調圧弁33が設けられている。なお、本実施形態では、この水素調圧弁33によって、所望の圧力の水素を燃料電池1に供給する燃料ガス側のガス供給手段が構成される。
【0025】
水素排出配管31には、生成水を微量な水素とともに外気へ排出するために所定の時間間隔で開閉する電磁弁34が設けられている。なお、上述の電気化学反応では、アノード電極100b側において生成水は発生しないものの、アノード電極100b側には、カソード電極100c側から電解質膜100aを透過した生成水が溜まるおそれがある。このため、本実施形態では、水素排出配管31および電磁弁34を設けている。
【0026】
燃料電池システムには、各種制御を行う発電制御手段としての制御装置5が設けられている。この制御装置5は、各種入力信号に基づいて、燃料電池システムを構成する各種電気式アクチュエータの作動を制御するもので、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
【0027】
本実施形態の制御装置5の入力側には、燃料電池診断装置4、制御装置5に対して燃料電池1の運転開始を指示する車両起動スイッチ(図示略)等が接続されており、燃料電池診断装置4、車両起動スイッチ等からの出力信号が入力される。
【0028】
一方、制御装置5の出力側には、上述の空気ポンプ22、空気調圧弁23、水素調圧弁33、電磁弁34といった各種電気式アクチュエータ等が接続されており、これら制御機器が制御装置5からの制御信号により制御される。
【0029】
次に、本実施形態の燃料電池診断装置4について説明する。図2の要部構成図に示すように、燃料電池診断装置4は、局所電流センサ41、電圧センサ42、信号処理装置43を備えている。
【0030】
局所電流センサ41は、対象セル10における空気の供給状態が不足状態となり易い空気流れ下流側の局所部位(本実施形態では、空気出口部102bおよび水素入口部101a付近)に隣接配置されて、空気流れ下流側に対応する局所部位に流れる電流(局所電流)を検出する局所電流検出手段である。なお、局所電流センサ41は、シャント抵抗やホール素子等を利用した周知の電流センサを用いることができる。
【0031】
また、電圧センサ42は、対象セル10のセル電圧を検出する電圧検出手段である。なお、局所電流センサ41および電圧センサ42は、信号処理装置43に接続されており、各センサ41、42からの各出力信号が信号処理装置43に入力される。
【0032】
信号処理装置43は、各種入力信号に基づいて、制御処理や演算処理を実行するもので、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
【0033】
信号処理装置43は、燃料電池1の出力電流に対して交流信号(交流電流)を印加する信号印加部431、対象セル10の局所部位の局所インピーダンスを算出するインピーダンス算出部432、対象セル10の局所部位における電解質膜100aの膜抵抗を算出する膜抵抗算出部433、インピーダンス算出部432の算出結果を補正して局所インピーダンスに含まれる拡散インピーダンスを算出する補正部434、燃料電池1への空気(酸素)の供給状態を診断する診断部435が設けられている。
【0034】
信号印加部431は、燃料電池1の出力電流に対して所定周波数の交流信号を印加する交流印加手段を構成している。これにより、燃料電池1の出力電流は、図3の説明図に示すように、直流成分(電流値I)に対して周波数fの交流成分(振幅ΔI)が重畳されることとなる。
【0035】
本実施形態の信号印加部431は、燃料電池1の出力電流に対して、予め定めた基準周波数(例えば100Hz)よりも小さい低周波数の交流信号、および基準周波数よりも大きい高周波数の交流信号を合成した交流信号を印加可能に構成されている。
【0036】
具体的には、本実施形態では、0.5kHz〜数百kHzとなる高周波数の信号と、0.1Hz〜100Hzとなる低周波数の信号とを合成した交流信号を信号印加部431にて印加するようにしている。なお、低周波数の信号としては、周波数を可変させて交流信号を印加した際の局所インピーダンスの変化を複素平面上に示したコールコールプロットにおいて、2つの半円状の軌跡が交差する変極点よりも高いインピーダンスを示す周波数領域に設定することが望ましい。なお、信号印加部431にて印加する交流信号は、燃料電池1の発電状態に影響しないように燃料電池1の出力電流の10%以内とすることが望ましい。
【0037】
インピーダンス算出部432は、信号印加部431にて燃料電池1の出力電流に前述の交流信号を印加した際に、局所電流センサ41、および電圧センサ42の検出値に基づいて、対象セル10の局所部位における局所インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段を構成している。
【0038】
本実施形態のインピーダンス算出部432は、高速フーリエ変換処理等によって、高周波数の信号に対応する交流成分と低周波数の信号に対応する交流成分とを個別に抽出し、高周波数の信号に対応する高周波インピーダンスZ、および低周波数の信号に対応する低周波インピーダンスZそれぞれを算出可能に構成されている。
【0039】
膜抵抗算出部433は、高周波インピーダンスZを用いて、対象セル10の局所部位における電解質膜100aの膜抵抗Rpemを算出する膜抵抗算出手段を構成している。なお、高周波インピーダンスZは、電解質膜100aの膜抵抗に相関性を有することから、高周波インピーダンスZから膜抵抗を算出することが可能となる。
【0040】
補正部434は、低周波インピーダンスZから、対象セル10の膜抵抗、および燃料電池1の負荷変動(要求出力の変化)に応じて変化する対象セル10の活性化抵抗の影響を除去することで、対象セル10への空気の供給状態に応じて変化するカソード電極100cの拡散インピーダンスを算出する補正手段である。なお、補正部434におけるカソード電極100cの拡散インピーダンスの算出方法については後述する。
【0041】
診断部435は、補正部434にて算出されたカソード電極100cの拡散インピーダンスに基づいて、燃料電池1の空気の供給状態が不足状態、および適正状態のいずれの状態であるかを診断する診断手段を構成している。
【0042】
次に、補正部434におけるカソード電極100cの拡散インピーダンスの算出方法について説明する。まず、本実施形態に係るセル10の等価回路について図4の等価回路図を用いて説明する。
【0043】
図4に示すように、本実施形態に係るセル10の等価回路は、各電極100b、100cを構成する合成回路に電解質膜100aの膜抵抗Rpemを直列接続した構成としている。本実施形態では、アノード電極100bを、直列接続された活性化抵抗Rct_anおよび拡散インピーダンスZanに電気二重層容量(コンデンサ成分)Canを並列接続した合成回路で構成し、カソード電極100cを、直列接続された活性化抵抗Rct_caおよび拡散インピーダンスZcaに電気二重層容量(コンデンサ成分)Ccaを並列接続した合成回路で構成している。なお、セル内部には、各セパレータ101、102の抵抗が存在するが、当該抵抗は、セル内部の乾湿状態、燃料電池1の負荷変動、反応ガスの供給状態に影響を受けないため、本実施形態では省略している。
【0044】
ここで、セル10への空気の供給状態が不足状態であって、セル10の水素の供給状態が適正状態である場合には、アノード電極100bの活性化抵抗Rct_an、拡散インピーダンスZan、および電気二重層容量Canが、カソード電極100cの活性化抵抗Rct_ca、拡散インピーダンスZca、および電気二重層容量Ccaに比べて小さくなるため、セル10を図5に示す等価回路図で表現することができる。
【0045】
図6は、燃料電池1の負荷を一定、セル10における乾湿状態が適正状態とし、さらに、水素の供給状態を適正状態とした際に、セル10への空気の供給状態を変化させた場合の理想的なコールコールプロットを示す図表である。なお、図6は、図5に示すセル10の等価回路を用いて、高周波数から低周波数までの交流信号を印加した際の局所インピーダンスの変化を複素平面上に示した特性図である。
【0046】
図6に示すように、セル10への空気の供給状態が適正状態から不足状態へ変化すると、カソード電極100c側の酸素濃度の変化に応じて、セル10の局所インピーダンスが増減する傾向がある。例えば、セル10への空気の供給状態が不足状態となる際の低周波インピーダンスZは、セル10への空気の供給状態が適正状態となる際よりも大きくなる。従って、低周波インピーダンスZの変化に基づいて、セル10への空気の供給状態を診断することが考えられる。
【0047】
しかし、実際のセル10では、空気の供給状態が適正状態に維持されていたとしても、セル10における乾湿状態が変化すると、膜抵抗Rpemの変化によってセル10の局所インピーダンスが増減してしまう。
【0048】
また、実際のセル10では、空気の供給状態が適正状態に維持されていたとしても、燃料電池1の負荷変動が生じると、セル10の局所インピーダンスが増減する傾向がある。これは、燃料電池1の負荷変動による燃料電池1の発電電流の変化によって、カソード電極100cの電位が変化して、カソード電極100cにおける触媒活性の度合い(酸素とプロトンとの反応のし易さ)を示す活性化抵抗Rct_caが変化してしまうことが要因である。
【0049】
ここで、図7は、セル10における乾湿状態が適正状態とし、空気および水素の供給状態を適正状態とした際に、燃料電池1の負荷変動が生じた場合の理想的なコールコールプロットを示す図表である。この図表は、図4に示すセル10の等価回路を用いて、高周波数から低周波数までの交流信号を印加した際の局所インピーダンスの変化を複素平面上に示した特性図である。
【0050】
図7に示すように、燃料電池1の負荷が低負荷から高負荷へと変化すると、カソード電極100cの活性化抵抗Rct_ca等の減少によって、セル10の局所インピーダンスが減少する傾向がある。
【0051】
そこで、本実施形態では、セル10の乾湿状態の影響を受ける電解質膜100aの膜抵抗Rpem、および燃料電池1の負荷変動の影響により変化するカソード電極100cの活性化抵抗Rct_caを算出し、各算出値を用いて、低周波インピーダンスZからセル10の乾湿状態の影響、および燃料電池1の負荷変動の影響を除去するようにしている。
【0052】
ここで、電解質膜100aの膜抵抗Rpemは、相関性を有する高周波インピーダンスZから膜抵抗Rpemを算出する。具体的には、高周波インピーダンスZの実数部Re(Z)を膜抵抗Rpemとして算出する。
【0053】
また、カソード電極100cの活性化抵抗Rct_caは、低周波数の交流信号を印加した際のセル電圧の変化量に含まれる活性化過電圧の変化分を、局所電流の変化量で除算して算出する。具体的には、カソード電極100cの活性化抵抗Rct_caは、以下の数式F1、F2を用いて算出することができる。
【0054】
Rct_ca=ΔVa/Δi…F1
ΔVa=B×log{(I+ΔI)/ΔI}…F2
但し、ΔVaが燃料電池1の出力電流に印加された交流信号に応じて変化する触媒電極層(カソード電極100c)の活性化過電圧の変化分を示し、Δiが燃料電池1の出力電流に低周波数の交流信号を印加した際の交流成分の振幅(変化量)を示し、Iが燃料電池1の出力電流に低周波数の交流信号を印加した際の直流成分の電流値を示し、Bが燃料電池1のターフェル勾配を示している。
【0055】
なお、ターフェル勾配Bは、図8に示すように、セル10の電解質膜100aの膜抵抗Rpemによる電圧降下を補正した燃料電池1の電流−電圧特性をターフェルプロットで表した際に、所定電流値α(例えば、0.1A/cm)以下の領域における電圧変化率を示している。
【0056】
また、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaについては、図4に示す等価回路を用いて算出する。具体的には、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaは、以下の数式F3を用いて算出することができる。
【0057】
Zca=1/[{1/(Z−Rpem)}−j×ω×Cca]−Rca_ca…F3
但し、jが虚数単位を示し、ω(=2πf)が印加する交流信号の角周波数を示し、Ccaがカソード電極100cの電気二重層容量(コンデンサ成分)を示している。
【0058】
ここで、カソード電極100cの電気二重層容量Ccaは、セル10の局所部位における触媒電極層(カソード電極100c)の容量成分を用いることができる。なお、カソード電極100cの容量成分は、予めサイクリックボルタメントリ(CV)測定を用いて定量化した値(触媒電極層における電気二重層容量の値)を用いればよい。
【0059】
次に、上記構成に係る燃料電池システムにおいて、燃料電池診断装置4で実行する対象セル10への空気の供給状態を診断する処理について図9のフローチャートを用いて説明する。なお、図9に示す制御ルーチンは、車両起動スイッチが投入されて、燃料電池1が発電状態となるとスタートする。
【0060】
燃料電池1が発電状態となると、信号処理装置43の信号印加部431にて燃料電池1の出力電流に対して、高周波数の信号と低周波数の信号とを合成した交流信号を印加する(S10)。
【0061】
続いて、局所電流センサ41および電圧センサ42からの出力信号を読み込む(S20)。そして、局所電流センサ41、および電圧センサ42の検出値に基づいて、信号処理装置43のインピーダンス算出部432にて対象セル10の局所部位における局所インピーダンスを算出する(S30)。このステップS30の処理では、高周波インピーダンスZ、および低周波インピーダンスZそれぞれを算出する。
【0062】
信号処理装置43の膜抵抗算出部433にて、高周波インピーダンスZを用いて、電解質膜100aの膜抵抗Rpemを算出する(S40)。本実施形態では、高周波インピーダンスZの実数部Re(Z)を膜抵抗Rpemとして算出する。
【0063】
続いて、信号処理装置43の補正部434にて、前述の数式F1、F2を用いて、カソード電極100cの活性化抵抗Rct_caを算出する(S50)。
【0064】
また、信号処理装置43の補正部434にて、低周波インピーダンスZからカソード電極100cの拡散インピーダンスZcaを算出する補正を行う(S60)。具体的には、ステップS40にて算出した膜抵抗Rpem、ステップS50で算出した活性化抵抗Rct_caを前述の数式F3に代入して、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaを算出する。
【0065】
続いて、信号処理装置43の診断部435にて、ステップS60の処理で算出したカソード電極100cの拡散インピーダンスZcaの絶対値Abs(Zca)が予め定めた判定閾値Abs(Zca_ref)より大きいか否かを判定する(S70)。この判定閾値Abs(Zca_ref)は、空気の供給状態が不足状態となった際のカソード電極100cの拡散インピーダンスの絶対値Abs(Zca)を基準に定められている。
【0066】
ステップS70の判定処理にて、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaの絶対値Abs(Zca)が判定閾値Abs(Zca_ref)以下と判定された場合(S70:NO)には、空気の供給状態が適正状態であると診断し(S70)、診断処理を終了する。
【0067】
一方、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaの絶対値Abs(Zca)が判定閾値Abs(Zca_ref)よりも大きいと判定された場合(S70:YES)には、空気の供給状態が不足状態であると診断し(S90)、診断処理を終了する。この場合、例えば、空気ポンプ22の回転数を増大させ、空気の供給量を増大させることで、空気の不足状態を解消することができる。なお、空気の不足状態とは、単に空気の供給量が不足している状態だけでなく、例えば、フラッディング等によって対象セル10内における発電に寄与する空気量が不足している状態を含む意味である。
【0068】
以上説明した本実施形態によれば、局所インピーダンスである低周波インピーダンスZから対象セル10における乾湿状態の影響、および燃料電池1の負荷変動の影響を除去して、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaを算出し、当該拡散インピーダンスZcaに基づいて、燃料電池1の空気の供給状態を診断する構成としているので、燃料電池1の空気の不足状態および適正状態を的確に診断することができる。
【0069】
本実施形態では、燃料電池1への空気の供給状態を診断する際に、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaに基づいて、燃料電池1の空気の不足状態および適正状態を的確に診断するようにしているが、これに限定されない。
【0070】
例えば、燃料電池1への空気の供給状態を診断する際に、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaに基づいて、対象セル10の局所部位に供給される空気の酸素濃度を推定するようにしてもよい。
【0071】
具体的には、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaと酸素濃度との対応関係を規定した制御マップを信号処理装置43のROM等の記憶部に記憶しておき、ステップS60で算出したカソード電極100cの拡散インピーダンスZcaに基づいて、制御マップを参照して酸素濃度を推定することができる。なお、酸素濃度は、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaの絶対値の増加に伴って低下する傾向があるため、記憶部に記憶する制御マップは、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaの増大に伴って、酸素濃度が低下するように規定されている。
【0072】
ここで、燃料電池1に負荷変動が生じている際に、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaに基づいて酸素濃度を推定した推定結果と、低周波インピーダンスZに基づいて酸素濃度を推定した推定結果とを比較する実験を行ったところ以下の結果が得られた。
【0073】
図10(a)は、燃料電池1に負荷変動が生じている際の対象セル10の低周波インピーダンスZの絶対値と推定酸素濃度との関係を示し、図10(b)は、燃料電池1に負荷変動が生じている際のカソード電極100cの拡散インピーダンスZcaの絶対値と推定酸素濃度との関係を示している。
【0074】
図10に示すように、対象セル10の低周波インピーダンスZに対応する推定酸素濃度は、燃料電池1の負荷変動の影響を受ける傾向があるのに対して、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaに対応する推定酸素濃度は、燃料電池1の負荷変動の影響を殆ど受けない結果となった。
【0075】
このように、カソード電極100cの拡散インピーダンスZcaから対象セル10における酸素濃度を推定する構成とすれば、専用のガス濃度センサを別途用意することなく、酸素濃度を精度よく推定することができる。
【0076】
(第2実施形態)
本実施形態では、燃料電池診断装置4の信号処理装置43において、セル10への水素の供給状態を診断する例について説明する。本実施形態の燃料電池診断装置4は、図11の要部構成図に示すように、局所電流検出手段を構成する局所電流センサ41を、対象セル10における水素の供給状態が不足状態となり易い水素流れ下流側の局所部位(本実施形態では、水素出口部101bおよび空気入口部102a付近)に隣接配置し、水素流れ下流側に対応する局所部位に流れる電流(局所電流)を検出するようにしている。
【0077】
本実施形態のようにセル10への水素の供給状態を診断する場合、セル10への空気の供給状態を診断する場合と同様に、低周波インピーダンスZからセル10における乾湿状態の影響や、燃料電池1の負荷変動の影響を除去する必要がある。
【0078】
そこで、本実施形態では、セル10における乾湿状態の影響により変化する膜抵抗Rpem、および燃料電池1の負荷変動の影響により変化するアノード電極100bの活性化抵抗Rct_anを算出し、各算出値を用いて、低周波インピーダンスZからセル10における乾湿状態の影響および燃料電池1の負荷変動の影響を除去するようにしている。
【0079】
ここで、アノード電極100bの活性化抵抗Rct_anは、以下の数式F4、F5を用いて算出することができる。
【0080】
Rct_an=ΔVa/Δi…F4
ΔVa=B×log{(I+ΔI)/ΔI}…F5
但し、ΔVaが燃料電池1の出力電流に印加された交流信号に応じて変化する触媒電極層(アノード電極100b)の活性化過電圧の変化分を示し、Δiが燃料電池1の出力電流に低周波数の交流信号を印加した際の交流成分の振幅(変化量)を示し、Iが燃料電池1の出力電流に低周波数の交流信号を印加した際の直流成分の電流値を示し、Bが燃料電池1のターフェル勾配を示している。
【0081】
ここで、セル10への水素の供給状態が不足状態であって、セル10への空気の供給状態が適正状態である場合には、カソード電極100cの活性化抵抗Rct_ca、拡散インピーダンスZca、および電気二重層容量Ccaが、アノード電極100bの活性化抵抗Rct_an、拡散インピーダンスZan、および電気二重層容量Canに比べて小さくなるため、セル10を図12に示す等価回路図で表現することができる。
【0082】
本実施形態では、アノード電極100bの拡散インピーダンスZanについて、図12に示す等価回路を用いて算出する。具体的には、アノード電極100bの拡散インピーダンスZanは、以下の数式F6を用いて算出することができる。
【0083】
Zan=1/[{1/(Z−Rpem)}−j×ω×Can]−Rct_an…F6
但し、jが虚数単位を示し、ω(=2πf)が印加する交流信号の角周波数を示し、Canがアノード電極100bの電気二重層容量(コンデンサ成分)を示している。なお、アノード電極100bの電気二重層容量Canは、セル10の局所部位における触媒電極層(アノード電極100b)の容量成分を用いることができる。
【0084】
次に、上記構成に係る燃料電池システムにおいて、燃料電池診断装置4で実行する対象セル10への水素の供給状態を診断する処理について図13のフローチャートを用いて説明する。
【0085】
燃料電池1が発電状態となり、信号処理装置43の信号印加部431にて燃料電池1の出力電流に対して、高周波数および低周波数の信号を合成した交流信号を印加し(S10)、局所電流センサ41および電圧センサ42からの出力信号を読み込む(S20)。そして、各センサ41、42の検出値に基づいて、信号処理装置43のインピーダンス算出部432にて対象セル10の局所部位における局所インピーダンスを算出する(S30)。信号処理装置43の膜抵抗算出部433にて、高周波インピーダンスZを用いて、電解質膜100aの膜抵抗Rpemを算出する(S40)。
【0086】
続いて、信号処理装置43の補正部434にて、前述の数式F4、F5を用いて、アノード電極100bの活性化抵抗Rct_anを算出する(S100)。
【0087】
また、信号処理装置43の補正部434にて、低周波インピーダンスZからアノード電極100bの拡散インピーダンスZanを算出する補正を行う(S110)。具体的には、ステップS40にて算出した膜抵抗Rpem、ステップS100で算出した活性化抵抗Rct_anを前述の数式F6に代入して、アノード電極100bの拡散インピーダンスZanを算出する。
【0088】
続いて、信号処理装置43の診断部435にて、ステップS110の処理で算出したアノード電極100bの拡散インピーダンスZanの絶対値Abs(Zan)が予め定めた判定閾値Abs(Zan_ref)より大きいか否かを判定する(S120)。この判定閾値Abs(Zan_ref)は、水素の供給状態が不足状態となった際のアノード電極100bの拡散インピーダンスの絶対値Abs(Zan)を基準に定められている。
【0089】
ステップS120の判定処理にて、アノード電極100bの拡散インピーダンスZanの絶対値Abs(Zan)が判定閾値Abs(Zan_ref)以下と判定された場合(S120:NO)には、水素の供給状態が適正状態であると診断し(S130)、診断処理を終了する。
【0090】
一方、アノード電極100bの拡散インピーダンスZanの絶対値Abs(Zan)が判定閾値Abs(Zan_ref)よりも大きいと判定された場合(S120:YES)には、水素の供給状態が不足状態であると診断し(S140)、診断処理を終了する。この場合、例えば、水素調圧弁33の開度を減少させ、高圧水素タンク32からの水素の供給量を減少させることで、水素の過剰状態を解消することができる。
【0091】
以上説明した本実施形態によれば、局所インピーダンスである低周波インピーダンスZから対象セル10における乾湿状態の影響、および燃料電池1の負荷変動の影響を除去してアノード電極100bの拡散インピーダンスZanを算出し、当該拡散インピーダンスZanに基づいて、燃料電池1の水素の供給状態を診断する構成としているので、燃料電池1の水素の不足状態および適正状態を的確に診断することができる。
【0092】
なお、アノード電極100bの拡散インピーダンスZanと水素濃度との対応関係を規定した制御マップを信号処理装置43のROM等の記憶部に記憶しておき、ステップS110で算出したアノード電極100bの拡散インピーダンスZanに基づいて、制御マップを参照して水素濃度を推定するようにしてもよい。この場合、専用のガス濃度センサを別途用意することなく、水素濃度を精度よく推定することができる。
【0093】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0094】
(1)上述の各実施形態では、図5図12に示す等価回路を用いて各電極100b、100cの拡散インピーダンスを算出する例を説明したが、これに限らず、他の等価回路を用いて各電極100b、100cの拡散インピーダンスを算出してもよい。
【0095】
また、各電極100b、100cの活性化抵抗を数式F1、F2、F4、F5に限らず他の数式を用いて算出したり、予め活性化抵抗と燃料電池1の出力電流に含まれる直流成分および交流成分との関係を規定した制御マップを用いて活性化抵抗を算出したりしてもよい。
【0096】
(2)上述の各実施形態では、各電極100b、100cの拡散インピーダンスの絶対値を用いて、セル10への反応ガス(水素、空気)の供給状態の診断を行う例について説明したが、これに限定されない。
【0097】
例えば、拡散インピーダンスの位相差や周波数特性を用いて、セル10への反応ガスの供給状態の診断を行うようにしてもよい。この場合、各判定閾値を、反応ガスの供給状態が不足状態となった際の拡散インピーダンスの位相差や周波数特性を基準に定めればよい。
【0098】
また、拡散インピーダンスからガス濃度(酸素濃度、水素濃度)を算出し、算出したガス濃度を用いてセル10への反応ガス(水素、空気)の供給状態の診断を行うようにしてもよい。この場合、各判定閾値を、反応ガスの供給状態が不足状態となった際のガス濃度を基準に定めればよい。
【0099】
(3)上述の各実施形態では、信号処理装置43の信号印加部431にて燃料電池1の出力電流に対して、高周波数の信号と低周波数の信号とを合成した交流信号を印加する例について説明したが、これに限定されない。例えば、信号処理装置43の信号印加部431にて燃料電池1の出力電流に対して、高周波数の信号と低周波数の信号とを異なるタイミングで印加するようにしてもよい。
【0100】
(4)上述の第1実施形態では、単一の局所電流センサ41を対象セル10の空気出口部102b付近に隣接配置し、インピーダンス算出部432にて空気出口部102b付近の局所インピーダンスを算出する例について説明したが、これに限定されない。
【0101】
例えば、複数の局所電流センサ41を用い、これらを対象セル10の複数の局所部位に隣接配置し、インピーダンス算出部432にて複数の局所部位の局所インピーダンスを算出するようにしてもよい。この場合、対象セル10の複数の局所部位における空気の供給状態を診断することが可能となる。
【0102】
同様に、上述の第2実施形態において、複数の局所電流センサ41を用い、これらを対象セル10の複数の局所部位に隣接配置し、インピーダンス算出部432にて複数の局所部位の局所インピーダンスを算出するようにしてもよい。この場合、対象セル10の複数の局所部位における水素の供給状態を診断することが可能となる。
【0103】
さらに、局所電流センサ41を対象セル10の空気出口部102b付近および水素出口部101b付近それぞれに隣接配置し、インピーダンス算出部432にて空気出口部102b付近および水素出口部101b付近それぞれの局所インピーダンスを算出するようにしてもよい。これによれば、対象セル10における水素および空気それぞれの供給状態を診断することが可能となる。
【0104】
(5)上述の各実施形態のように、電圧センサ42にて対象セル10の電圧を検出する構成が望ましいが、例えば、電圧センサ42にて燃料電池1全体の電圧を検出するようにしてもよい。
【0105】
(6)上述の各実施形態では、信号処理装置43の信号印加部431にて燃料電池1の出力電流に対して2つの異なる周波数の交流信号を印加する例を説明したが、これに限らず、例えば、3つ以上の異なる周波数の交流信号を印加するようにしてもよい。
【0106】
(7)上述の各実施形態では、信号処理装置43の信号印加部431にて燃料電池1の出力電流に対して交流信号を印加する例について説明したが、これに限らず、例えば、DC−DCコンバータ2にて燃料電池1の出力電流に対して交流信号を印加するようにしてもよい。この場合、燃料電池診断装置4の部品点数の低減を図ることができる。
【0107】
(8)上述の各実施形態では、本発明の燃料電池診断装置4を燃料電池車両に搭載された燃料電池1の状態を診断する装置に適用する例を説明したが、これに限らず、船舶およびポータブル発電機等の移動体や設置型の燃料電池1の状態を診断する装置に適用してもよい。
【0108】
(9)上述の各実施形態では、高周波インピーダンスZの実数部Re(Z)を電解質膜100aの膜抵抗Rpemとして算出する例を説明したが、これに限らず、例えば、高周波インピーダンスZの絶対値Abs(Z)を電解質膜100aの膜抵抗Rpemとして算出してもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 燃料電池
10 セル
41 局所電流センサ(局所電流検出手段)
42 電圧センサ(電圧検出手段)
431 交流信号印加部(交流印加手段)
432 インピーダンス算出部(インピーダンス算出手段)
433 膜抵抗算出部(膜抵抗算出手段)
434 補正部(補正手段)
435 診断部(診断手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13