【実施例】
【0019】
図1は、本発明の一実施例としての電磁弁駆動回路の制御装置を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図であり、
図2は、トルクコンバータ22と自動変速機30との構成の概略を示す構成図である。実施例の自動車10は、
図1および
図2に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)16と、エンジン12のクランクシャフト14に取り付けられた流体伝動装置22と、この流体伝動装置22の出力側に入力軸31が接続されると共にギヤ機構48やデファレンシャルギヤ49を介して駆動輪11a,11bに出力軸32が接続され入力軸31に入力された動力を変速して出力軸32に伝達する有段の自動変速機30と、流体伝動装置22や自動変速機30に作動油を給排する油圧回路50と、油圧回路50を制御することによって流体伝動装置22や自動変速機30を制御する変速機用電子制御ユニット(以下、変速機ECUという)80と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)17と、を備える。
【0020】
エンジンECU16は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。エンジンECU16にはクランクシャフト14に取り付けられた回転速度センサ14aからのエンジン回転速度Neなどのエンジン12の運転状態を検出する各種センサからの信号やイグニッションスイッチ90からのイグニッション信号,アクセルペダル93の踏み込み量としてのアクセル開度Accを検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,車速センサ98からの車速Vなどの信号が入力ポートを介して入力されており、エンジンECU16からは、スロットルバルブを駆動するスロットルモータへの駆動信号や燃料噴射弁への制御信号,点火プラグへの点火信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0021】
流体伝動装置22は、
図2に示すように、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されており、フロントカバー18を介してエンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側流体伝動要素としてのポンプインペラ23と、タービンハブを介して自動変速機30の入力軸31に接続された出力側流体伝動要素としてのタービンランナ24と、ポンプインペラ23およびタービンランナ24の内側に配置されてタービンランナ24からポンプインペラ23への作動油の流れを整流するステータ25と、ステータ25の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ26と、ダンパ機構を有するロックアップクラッチ28と、を備える。この流体伝動装置22は、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が大きいときにはステータ25の作用によってトルク増幅機として機能し、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が小さいときには流体継手として機能する。また、ロックアップクラッチ28は、ポンプインペラ23(フロントカバー18)とタービンランナ24(タービンハブ)とを連結するロックアップとロックアップの解除とを実行可能なものであり、自動車10の発進後にロックアップオン条件が成立すると、ロックアップクラッチ28によってポンプインペラ23とタービンランナ24とがロックアップされてエンジン12からの動力が入力軸31に機械的かつ直接的に伝達されるようになる。なお、この際に入力軸31に伝達されるトルクの変動は、ダンパ機構によって吸収される。
【0022】
自動変速機30は、6段変速の有段変速機として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構35とラビニヨ式の遊星歯車機構40と3つのクラッチC−1,C−2,C−3と2つのブレーキB−1,B−2とワンウェイクラッチF−1とを備える。シングルピニオン式の遊星歯車機構35は、外歯歯車としてのサンギヤ36と、このサンギヤ36と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ37と、サンギヤ36に噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のピニオンギヤ38と、複数のピニオンギヤ38を自転かつ公転自在に保持するキャリア39とを備え、サンギヤ36はケースに固定されており、リングギヤ37は入力軸31に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構40は、外歯歯車の2つのサンギヤ41a,41bと、内歯歯車のリングギヤ42と、サンギヤ41aに噛合する複数のショートピニオンギヤ43aと、サンギヤ41bおよび複数のショートピニオンギヤ43aに噛合すると共にリングギヤ42に噛合する複数のロングピニオンギヤ43bと、複数のショートピニオンギヤ43aおよび複数のロングピニオンギヤ43bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア44とを備え、サンギヤ41aはクラッチC−1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構35のキャリア39に接続され、サンギヤ41bはクラッチC−3を介してキャリア39に接続されると共にブレーキB−1を介してケースに接続され、リングギヤ42は出力軸32に接続され、キャリア44はクラッチC−2を介して入力軸31に接続されている。また、キャリア44はブレーキB2を介してケースに接続されると共にワンウェイクラッチF−1を介してケースに接続されている。
図3に自動変速機30の各変速段とクラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2の作動状態との関係を表した作動表を示す。この自動変速機30は、
図3の作動表に示すように、クラッチC−1〜C−3のオンオフ(オンが係合状態でオフが解放状態)とブレーキB−1,B−2のオンオフとの組み合わせによって前進1速〜6速と後進とニュートラルとを切り替えることができる。
【0023】
流体伝動装置22や自動変速機30は、変速機ECU80によって駆動制御される油圧回路50によって作動する。油圧回路50は、エンジン12からの動力を用いて作動油を圧送するオイルポンプや、オイルポンプからの作動油を調圧してライン圧PLを生成するプライマリレギュレータバルブ,プライマリレギュレータバルブからのライン圧PLを減圧してセカンダリ圧Psecを生成するセカンダリレギュレータバルブ,プライマリレギュレータバルブからのライン圧PLを調圧して一定のモジュレータ圧Pmodを生成するモジュレータバルブ,シフトレバー91の操作位置に応じてプライマリレギュレータバルブからのライン圧PLの供給先(クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2)を切り替えるマニュアルバルブ,マニュアルバルブからのライン圧PLを調圧して対応するクラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2へのソレノイド圧を生成するノーマルクローズ型の複数のリニアソレノイドバルブ52a〜52dなどを備える。なお、ブレーキB2は、実施例では、前進1速でのエンジンブレーキ時にはクラッチC−3に対応するソレノイドバルブ52cからの作動油が図示しない切り替えバルブを介して供給され、シフトレバー91の操作位置がリバースポジション(Rポジション)のときにはマニュアルバルブから作動油が供給されるようになっているものとした。即ち、実施例では、油圧回路50はブレーキB2専用のリニアソレノイドバルブを有しないものとした。
【0024】
図4は、電磁弁としてのリニアソレノイドバルブ52a〜52dの電磁部としてのソレノイド54a〜54dを含む電気系53の構成の概略を示す構成図である。図示するように、電気系53は、ソレノイド54a〜54dの他に、ソレノイド54a〜54dに接続されたスイッチングとしてのトランジスタ56a〜56dと、例えば12Vなどの直流電源57と、直流電源57とトランジスタ56a〜56dとの接続や遮断を行なう遮断回路58と、ソレノイド54a〜54dに流れる電流を検出する電流センサ59a〜59dと、を備える。ここで、遮断回路58は、トランジスタ58a,58bが直流電源57とトランジスタ56a〜56dとに対して直列に配置されたものとして構成されている。なお、
図4の例では、トランジスタ56a〜56dについてはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)として図示し、トランジスタ58a,58bについてはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)として図示したが、同一のトランジスタを用いるものとしてもよい。以下、説明の都合上、トランジスタ58aを遮断用メイントランジスタ58a,トランジスタ58bを遮断用サブトランジスタ58b,トランジスタ56a〜56dを駆動用トランジスタ56a〜56dという。
【0025】
この電気系53では、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとが共にオンとなっている状態で駆動用トランジスタ56a〜56dのオン時間(デューティ比)を調節することにより、ソレノイド54a〜54dに流す電流を調整して、クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2へのソレノイド圧を調節できるようになっている。また、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとのうち少なくとも一方がオフになると、直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断される。基本的には、イグニッションスイッチ90がオンとされたときに遮断用メイントランジスタ58aおよび遮断用サブトランジスタ58bをオンとすると共にイグニッションスイッチ90がオフとされたときに遮断用メイントランジスタ58aおよび遮断用サブトランジスタ58bをオフとするものとした。なお、遮断用サブトランジスタ58bについては、遮断用メイントランジスタ58aが正常なときには、イグニッションスイッチ90の状態に拘わらずオンで保持するものとしてもよい。
【0026】
変速機ECU80は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。変速機ECU80には、クランクシャフト14に取り付けられた回転速度センサ14aからのエンジン回転速度Neなどのエンジン12の運転状態を検出する各種センサからの信号や、入力軸31に取り付けられた回転速度センサ31aからの入力軸回転速度Ninや、出力軸32に取り付けられた回転速度センサ32aからの出力軸回転速度Nout,ソレノイドバルブ52〜58に印加される電流を検出する電流センサ59a〜59dからのソレノイド電流Ia〜Id,イグニッションスイッチ90からのイグニッション信号,シフトレバー91の位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSP,アクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ96からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ98からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されており、変速機ECU80からは、油圧回路50への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0027】
なお、エンジンECU16とブレーキECU17と変速機ECU80は、相互に通信ポートを介して接続されており、相互に制御に必要な各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0028】
ここで、実施例の電磁弁駆動回路としては、駆動用トランジスタ56a〜56dと遮断回路58と電流センサ59a〜59dとが該当する。また、実施例の電磁弁駆動回路の制御装置としては、変速機ECU80が該当する。
【0029】
こうして構成された実施例の自動車10では、変速機ECU80は、自動変速機30の変速段を形成するために、油圧回路50のリニアソレノイドバルブ52a〜52dを駆動制御する。リニアソレノイドバルブ52aの駆動制御としては、まず、アクセル開度Accや自動変速機30の変速段,自動変速機30の入力軸31のトルク,油圧回路50の作動油の温度などに基づいてソレノイド54aの目標電流Ia*を設定する。続いて、目標電流Ia*に対応するデューティ比(理論的には、駆動用トランジスタ56aのオン時間とオフ時間との和に対するオン時間の割合)をフィードフォワード項Dffaとして設定すると共に、電流センサ59aにより検出された電流Iaと目標電流Ia*とを用いて次式(1)によりフィードバック項Dfbaを設定し、設定したフィードフォワード項Dffaとフィードバック項Dfbaとの和を目標デューティ比Da*に設定する。そして、目標デューティ比Da*で駆動用トランジスタ56aをスイッチングさせるためのスイッチング指令を駆動用トランジスタ56aに出力することによって駆動用トランジスタ56aを駆動制御する。ここで、式(1)は、電流Iaと目標電流Ia*との差が打ち消されるようにするための電流フィードバック制御におけるフィードバック項の計算式であり、式(1)中、右辺第1項の「kp」は比例項のゲインであり、右辺第2項の「ki」は積分項のゲインである。なお、リニアソレノイドバルブ52b〜52dは、リニアソレノイドバルブ52aと同様に駆動制御することができる。こうした駆動制御により、電流センサ59a〜59dにより検出される電流Ia〜Idが目標電流Ia*〜Id*となるようにすることができる。
【0030】
Dfba=kp(Ia*-Ia)+ki∫(Ia*-Ia)dt (1)
【0031】
次に、こうして構成された実施例の自動車10の動作、特に、遮断回路58が正常に作動するか否か(直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとを正常に遮断できるか否か)を判定する際の動作について説明する。
図5は、実施例の変速機ECU80により実行される遮断回路診断ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、イグニッションスイッチ90がオフとされたときに実行される。なお、このルーチンの実行開始時には、遮断用メイントランジスタ58aおよび遮断用サブトランジスタ58bは共にオンとなっている。
【0032】
遮断回路診断ルーチンが実行されると、変速機ECU80は、まず、ソレノイド54a〜54dの少なくとも一つに異常が生じているか否かを示すソレノイド異常判定フラグFの値を入力し(ステップS100)、入力したソレノイド異常判定フラグFの値を調べる(ステップS110)。ここで、ソレノイド異常判定フラグFは、図示しないソレノイド異常判定ルーチンにより、初期値として値0が設定され、ソレノイド54a〜54dの少なくとも一つに異常が生じたときに値1が設定されるフラグである。ソレノイド54a〜54dの少なくとも一つに異常が生じたときとしては、例えば、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとが共にオンの状態で、電流センサ59a〜59dにより検出されるソレノイド電流Ia〜Idが所定時間に亘って値0や最大値などで変動しないときなどがある。
【0033】
ソレノイド異常フラグFが値0のとき、即ち、ソレノイド54a〜54dのいずれにも異常が生じていないときには、遮断用メイントランジスタ58aを診断対象に設定すると共に(ステップS120)、遮断用メイントランジスタ58aをオフとさせるためのメインオフ指令を遮断用メイントランジスタ58aに出力するメインオフ処理を開始する(ステップS130)。メインオフ処理の開始により、遮断用メイントランジスタ58aや変速機ECU80と遮断用メイントランジスタ58aとの信号線などが正常なときには、遮断用メイントランジスタ58aがオフ指令に応じてオフとなり、直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断される。なお、このとき、遮断用サブトランジスタ58bはオンで保持されている。
【0034】
続いて、駆動用トランジスタ56a〜56dを所定デューティ比D1でスイッチングさせるためのスイッチング指令を駆動用トランジスタ56a〜56dに出力する診断用デューティ処理を開始する(ステップS140)。ここで、所定デューティ比D1は、直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されていないとき(接続されているとき)に、クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2のうちソレノイド54a〜54d(リニアソレノイドバルブ52a〜54d)に対応するクラッチやブレーキに作用するソレノイド圧がクラッチやブレーキの係合に要する最低油圧より低くなるよう、即ち、ソレノイド54a〜54dに印加される電流がクラッチやブレーキの係合に要する最低電流Iminより小さくなるよう、実験や解析などによって定められた値を用いるものとした。この所定デューティ比D1は、例えば、最低電流Iminが280mAや300mA,320mAなどのときに、ソレノイド54a〜54dに80mAや100mA,120mAなどを流すためのデューティ比などを用いることができる。また、この所定デューティ比D1は、ソレノイド54a〜54dのそれぞれに対して(それぞれの仕様に応じて)異なる値を用いるものとしてもよいし、同一の値を用いるものとしてもよい。変速機ECU80は、上述したように、自動変速機30の変速段を形成する際には、フィードフォワード項とフィードバック項との和を目標デューティ比としてスイッチング指令を出力する。これに対して、診断用デューティ処理の実行時には、所定デューティ比D1を目標デューティ比としてスイッチング指令を出力することになる。なお、所定デューティ比D1を目標デューティ比とすることは、フィードバック項を用いずに所定デューティ比D1をフィードフォワード項として目標デューティ比を設定することに相当する、と言える。
【0035】
こうして診断用デューティ処理を開始すると、即ち、メインオフ処理および診断用デューティ処理の実行中に、電流センサ59a〜59dからのソレノイド電流Ia〜Idを入力し(ステップS150)、入力したソレノイド電流Ia〜Idを閾値Irefと比較する(ステップS160)。ここで、閾値Irefは、実施例では、ソレノイド54a〜54dに電流が流れているか否かを判定するために用いられるものであり、電流センサ59a〜59dの検出誤差やソレノイド54a〜54dの抵抗値Rsa〜Rsdの温度特性などを考慮して定められた値(例えば、17mAや20mA,23mAなど)を用いることができる。この閾値Irefは、対応するソレノイド54a〜54dのそれぞれに対して異なる値を用いるものとしてもよいし、同一の値を用いるものとしてもよい。
【0036】
ソレノイド電流Ia〜Idが全て閾値Iref未満のときには、ソレノイド54a〜54dのいずれにも電流は流れていないと判断し、診断用デューティ処理を開始してから所定時間T1が経過したか否かを判定し(ステップS170)、所定時間T1が経過していないときには、ステップS150に戻る。ここで、所定時間T1は、ソレノイド54a〜54dのいずれにも電流が流れていないか否かの判定を確定するのに要する時間であり、例えば、40msecや50msec,60msecなどを用いることができる。
【0037】
こうして所定時間が経過するまでソレノイド電流Ia〜Idが全て閾値Iref未満のときには、診断対象が正常に作動している(直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されている)と判定して(ステップS180)、診断用デューティ処理を終了する(ステップS200)。一方、所定時間が経過する前にソレノイド電流Ia〜Idの少なくとも一つが閾値Iref以上に至ったときには、診断対象が正常に作動していない(直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されていない)と判定して(ステップS190)、診断用デューティ処理を終了する(ステップS200)。実施例では、診断対象が正常に作動していないと判定されたときには、そのことを示す情報(異常情報)を履歴として不揮発性の記憶媒体(フラッシュメモリなど)に記憶させると共に、図示しない警告灯を点灯させたり図示しないスピーカから警告音を出力したりして運転者に報知するものとした。
【0038】
このように、メインオフ処理の開始後に診断用デューティ処理を開始して、その最中(メインオフ処理および診断用デューティ処理の実行中)のソレノイド電流Ia〜Idを閾値Irefと比較することにより、診断対象が正常に作動しているか否かを判定(診断)することができる。しかも、診断用デューティ処理におけるスイッチング指令のデューティ比(目標デューティ比)として、直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されていないとき(接続されているとき)にソレノイド54a〜54dに印加される電流がクラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2の係合に要する最低電流Iminより小さくなる所定デューティ比D1を用いるから、診断対象が正常に作動していない(直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されていない)ときでも、クラッチやブレーキが係合状態となる(変速段が形成されたり、自動変速機30の出力軸32の回転が停止する)のを抑制することができる。さらに、診断用デューティ処理の実行時には、所定デューティ比D1を目標デューティ比として(フィードバック項を用いずに所定デューティ比D1をフィードフォワード項として得られる目標デューティ比を用いて)スイッチング指令を出力するから、ソレノイドバルブ52a〜52dの油圧の影響(例えば、ソレノイドバルブ52a〜52dの油圧の変動に起因するソレノイド54a〜54dの逆起電力(電流)の変動など)によって駆動用トランジスタ58a〜58dのスイッチングのデューティ比が変動するのを回避することができ、診断対象が正常に作動しているか否かを誤判定(診断)してしまうのを抑制することができる。
【0039】
そして、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとの両方についての診断が完了したか否かを判定し(ステップS210)、遮断用サブトランジスタ58bについての診断が完了していないと判定されたときには、遮断用サブトランジスタ58bを診断対象に設定し(ステップS220)、遮断用サブトランジスタ58bをオフとさせるためのサブオフ指令を遮断用サブトランジスタ58bに出力するサブオフ処理を開始すると共に(ステップS230)、遮断用メイントランジスタ58aをオンとさせるためのメインオン指令を遮断用メイントランジスタ58aに出力するメインオン処理を開始して(ステップS240)、ステップS140に戻る。そして、遮断用サブトランジスタ58bを診断対象として、診断対象が正常に作動しているか否かを判定(診断)し(ステップS140〜S200)、ステップS210で遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとの両方についての診断が完了したと判定されると、本ルーチンを終了する。
【0040】
ステップS100でソレノイド54a〜54dの少なくとも一つに異常が生じていると判定されたときには、遮断用メイントランジスタ58aや遮断用サブトランジスタ58bについての診断を行なうことができないため、そのまま本ルーチンを終了する。なお、この場合には、図示しないフェールセーフ処理を実行する。
【0041】
以上説明した実施例の変速機ECU80によれば、イグニッションスイッチ90がオフとされたときには、遮断用メイントランジスタ58aをオフとさせるメインオフ指令を遮断用メイントランジスタ58aに出力すると共に駆動用トランジスタ56a〜56dをスイッチングさせるスイッチング指令を駆動用トランジスタ56a〜56dに出力し、メインオフ指令およびスイッチング指令の出力中に電流センサ59a〜59dにより検出されたソレノイド電流Ia〜Idを閾値Idrefと比較して遮断用メイントランジスタ58aが正常に作動している(直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されている)か否かを判定(診断)する。そして、同様に、遮断用サブトランジスタ58bが正常に作動しているか否かを判定する。これにより、遮断回路58の遮断用トランジスタ58aや遮断用サブトランジスタ58bが正常に作動するか否かを診断することができる。
【0042】
しかも、実施例の変速機ECU80によれば、スイッチング指令のデューティ比として、直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されていないとき(接続されているとき)にソレノイド54a〜54dに印加される電流がクラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2の係合に要する最低電流Iminより小さくなる所定デューティ比D1を用いる。これにより、診断対象が正常に作動していない(直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されていない)ときでも、クラッチやブレーキが係合状態となるのを抑制することができる。
【0043】
実施例の変速機ECU80では、遮断回路80の診断として、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとについてそれぞれ正常に作動するか否かを判定(診断)するものとしたが、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとのうち一方だけについて正常に作動するか否かを判定(診断)するものとしてもよい。
【0044】
実施例の変速機ECU80では、所定デューティ比D1は、直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとが遮断されていないとき(接続されているとき)にソレノイド54a〜54dに印加される電流が最低電流Iminより小さくなるよう定めるものとしたが、より具体的には、ソレノイド54a〜54dに想定される温度領域の任意の温度に対して、ソレノイド54a〜54dに印加される電流が最低電流Iminより小さくなるよう定めるのが好ましい。
図6は、ソレノイド54a〜54dの温度Tsと抵抗Rsとの関係の一例を示す説明図である。簡単のために、この図では、ソレノイド54a〜54dは、同一の温度特性を示すものとした。図中、「Tsmin」,「Tsmax」は、それぞれソレノイド54a〜54dに想定される最低温度(例えば−40℃や−30℃など),最高温度(例えば、160℃や170℃など)を示す。図示するように、ソレノイド54a〜54dは、温度Tsが高いほど抵抗Rsが大きくなる傾向の特性を有する。また、ソレノイド54a〜54dは、抵抗Rsが小さいほど大きな電流が流れやすい。したがって、所定デューティ比D1は、ソレノイド54a〜54dの温度が最低温度Tsminのときでもソレノイド54a〜54dに印加される電流が最低電流Iminより小さくなるよう定めるのが好ましい。また、閾値Irefは、遮断対象が正常に作動していないときにそれをより確実に判定(検出)するために、ソレノイド54a〜54dの温度が最高温度Tsmaxのときでも判定可能となるよう定めるのが好ましい。
【0045】
実施例の変速機ECU80では、メインオフ処理中またはサブオフ処理中に、駆動用トランジスタ56a〜56dを所定デューティ比D1でスイッチングさせるためのスイッチング指令を駆動用トランジスタ56a〜56dに出力する診断用デューティ処理を開始するものとしたが、スイッチング指令を駆動用トランジスタ56a〜56dの一部(例えば、駆動用トランジスタ56aだけなど)に出力するものとしてもよい。
【0046】
実施例の変速機ECU80では、イグニッションスイッチ90がオフとされたときに、遮断回路58が正常に作動するか否かを判定(診断)するものとしたが、シフトレバー91の操作位置が駐車ポジション(Pポジション)のときなどに遮断回路58が正常に作動するか否かを判定(診断)するものとしてもよい。なお、シフトレバー91の操作位置が駐車ポジションでイグニッションスイッチ90がオフとされたときなどには、図示しないパーキングロック機構によって駆動輪11a,11bがロックされていると考えられる。
【0047】
実施例の変速機ECU80を備える自動車10では、電気系53の遮断回路58は、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとが直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dとに対して直列に配置されて構成されるものとしたが、1つのスイッチによって構成されるものとしてもよい。
【0048】
実施例の変速機ECU80を備える自動車10では、直流電源57と4つの駆動用トランジスタ56a〜56d(ソレノイド54a〜54d)とに対して1つの遮断回路58を用いるものとしたが、
図7の電気系53Bに例示するように、直流電源57と駆動用トランジスタ56a,56bとに対して遮断回路58B1を用いると共に直流電源57と駆動用トランジスタ56c,56dとに対して遮断回路58B2を用いるものとしたり、
図8の電気系53Cに例示するように、直流電源57と駆動用トランジスタ56a〜56dの各々に対して遮断回路58C1〜58C4を各々に用いるものとしたりしてもよい。また、電気系53〜53Cの駆動用トランジスタ(ソレノイド)の数は、4つに限られず、1つや2つ,3つであってもよいし、5つ以上であってもよい。
【0049】
実施例の変速機ECU80を備える自動車10では、6速の自動変速機30を用いるものとしたが、3速や4速,5速の自動変速機を用いるものとしてもよいし、7速や8速以上の自動変速機を用いるものとしてもよい。
【0050】
実施例では、電磁弁としてのリニアソレノイドバルブ52a〜52dは、自動変速機30の油圧回路50に用いられるものとしたが、無段変速機やハイブリッド駆動装置の変速機など如何なる装置に用いられるものとしてもよい。
【0051】
実施例では、変速機ECU80の形態に適用するものとしたが、電磁弁駆動回路の異常診断方法の形態としてもよい。
【0052】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、ソレノイド54a〜54dが「ソレノイド」に相当し、駆動用トランジスタ56a〜56dが「スイッチング素子」に相当し、遮断用メイントランジスタ58aと遮断用サブトランジスタ58bとを有する遮断回路58が「遮断回路」に相当し、電流センサ59a〜59dが「電流検出手段」に相当し、
図5の遮断回路診断ルーチンを実行する変速機ECU80が「判定手段」に相当する。
【0053】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。