(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724986
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】放電電極
(51)【国際特許分類】
H05G 2/00 20060101AFI20150507BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
H05G2/00 K
H01L21/30 531S
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-239007(P2012-239007)
(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公開番号】特開2014-89880(P2014-89880A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2014年12月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100930
【弁理士】
【氏名又は名称】長澤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】白井 隆宏
【審査官】
亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−539637(JP,A)
【文献】
特開2010−153563(JP,A)
【文献】
特開2010−061903(JP,A)
【文献】
特開2009−224182(JP,A)
【文献】
特開2007−273454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 2/00
H01L 21/30 ,21/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間して配置される一対の円盤状の放電電極と、上記放電電極にパルス電力を供給するパルス電力供給手段と、光を放射させるための原料を前記放電電極上に供給する原料供給手段と、上記放電電極の曲面上の原料にエネルギービームを照射して当該原料を気化するエネルギービーム照射手段とを有し、上記原料供給手段は、上記原料の融液を充填した容器を備え、上記各放電電極が回転し、当該各放電電極の一部が前記容器内に充填された原料融液を通過することにより、上記各放電電極の一部に上記原料が付着するように構成された光源装置における放電電極であって、
上記各放電電極の2つの円形表面の、上記原料が付着する円環状の領域の一部に、複数の円環状の捕獲用溝部が同心円状に設けられている
ことを特徴とする放電電極。
【請求項2】
棒状の形状であって先端が上記捕獲用溝部に進入・退避が可能な原料除去機構が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の放電電極。
【請求項3】
上記複数の捕獲用溝部のうち、少なくとも1つの捕獲用溝部の深さが他の捕獲用溝部の深さと相違する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放電電極。
【請求項4】
上記各捕獲用溝部の深さの比は、円盤状の放電電極の円形平面部に高温プラズマ原料が付着した領域であって、各捕獲用溝部に隣接する平面部のうち、上記円形平面の中心側に隣接する平面部の放射方向の長さの比に等しいか、ほぼ等しいように設定されている
ことを特徴とする請求項3に記載の放電電極。
【請求項5】
上記捕獲用溝部の側壁部の角度が、放電電極の円形平面を基準平面としたとき当該平面に対して負の角度を成している
ことを特徴とする請求項1、2、3または請求項4のいずれか1項に記載の放電電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外光光源装置等の光源装置に用いられる放電電極に係わり、特に、放電電極を回転させながら放電電極間にパルス電力を印加してプラズマを発生させ、極端紫外光等の光を発生させる光源装置における放電電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、露光用光源の短波長化が進められ、次世代の半導体露光用光源として、特に波長13.5nmの極端紫外光(以下、EUV(Extreme Ultra Violet)光ともいう)を放射する極端紫外光光源装置(以下、EUV光源装置ともいう)の開発が進められている。
【0003】
EUV光源装置において、EUV光を発生させる方法はいくつか知られているが、そのうちの一つに極端紫外光放射種(以下、EUV放射種)を加熱して励起することにより高温プラズマを発生させ、この高温プラズマからEUV光を取り出す方法がある。
このような方法を採用するEUV光源装置は、高温プラズマの生成方式により、LPP(Laser Produced Plasma:レーザ生成プラズマ)方式EUV光源装置とDPP(Discharge Produced Plasma:放電生成プラズマ)方式EUV光源装置とに大きく分けられる。
【0004】
以下、DPP方式のEUV光源装置について簡単に説明する。
図10は、特許文献1記載されたDPP方式のEUV光源装置を簡易的に説明するための図、
図11は
図10においてD−D断面方向から見た放電電極およびコンテナを示す図である。また、
図12は
図10のA−A断面図である。
EUV光源装置は、放電容器であるチャンバ1を有する。チャンバ1内には、一対の円板状の放電電極2a,2bなどが収容される放電部1aと、ホイルトラップ5や集光光学手段であるEUV集光鏡6などが収容されるEUV集光部1bとを備えている。
1cは、放電部1a、EUV集光部1bを排気して、チャンバ1内を真空状態にするためのガス排気ユニットである。
2a,2bは円盤状の放電電極である。放電電極2a,2bは所定間隔だけ互いに離間しており、それぞれ回転モータ16a,16bが回転することにより、16c,16dを回転軸として回転する。
14は、波長13.5nmのEUV光を放射する高温プラズマ用原料である。高温プラズマ原料14は、加熱された溶融金属(melted metal)例えば液体状のスズ(Sn)であり、コンテナ15に収容される。溶解金属の温度は、
図11に示すように、コンテナ内に設けられた温度調整手段15aにより調整される。
【0005】
上記放電電極2a,2bは、その一部が高温プラズマ原料14を収容するコンテナ15の中に浸されるように配置される。放電電極2a,2bの表面上に乗った液体状の高温プラズマ原料14は、放電電極2a,2bが回転することにより、放電空間に輸送される。上記放電空間に輸送された高温プラズマ原料14に対してレーザ源17aよりレーザ光17が照射される。レーザ光17が照射された高温プラズマ原料14は気化する。
【0006】
レーザ光は、例えば
図11に示すように、円盤状の放電電極2a,2bの曲面部に照射される。
上記したように、円盤状の放電電極は、その一部が高温プラズマ原料を収容するコンテナ15の中に浸されるように配置されて回転する。よって、
図11に示すように、コンテナ内で溶融している高温プラズマ原料は、円盤状放電電極の円形平面部側に円輪状に付着するとともに、円盤状の放電電極の曲面部側にも付着する。
そのため、レーザビームが円盤状の放電電極2a,2bの曲面部に照射される場合、高温プラズマ原料が付着する当該曲面部表面は「プラズマに必要な領域」であり、上記円形平面部側の円輪状に高温プラズマ原料が付着した領域は「プラズマに不要な領域」となる。
【0007】
高温プラズマ原料14がレーザ光17の照射により気化された状態で、放電電極2a,2bに、電力供給手段4からパルス電力が印加されることにより、両放電電極2a,2b間にパルス放電が開始し、高温プラズマ原料14によるプラズマPが形成される。放電時に流れる大電流によりプラズマが加熱励起され高温化すると、この高温プラズマPからEUVが放射される。
なお、上記したように放電電極2a,2b間にはパルス電力が印加されるので放電はパルス放電となり、放射されるEUV光はパルス状に放射されるパルス光となる。
高温プラズマPから放射したEUV光は、EUV集光鏡6により集光鏡6の集光点(中間集光点ともいう)fに集められ、EUV取出部7から出射し、EUV光源装置に接続された点線で示した露光機40に入射する。
【0008】
本方式によれば、常温では固体であるSnを放電が発生する放電領域(放電電極間の放電が発生する空間)の近傍で気化させることが容易になる。すなわち、放電領域に効率よく気化したSnを供給できるので、放電後、効果的に波長13.5nmのEUV放射を取り出すことが可能となる。
また、特許文献1に記載されたEUV光源装置においては、放電電極を回転させているので、次のような利点がある。
(1)常に新しいEUV発生種の高温プラズマ原料である固体または液体状の高温プラズマ原料を放電領域に供給することができる。
(2)放電電極表面における、レーザビームが照射される位置、高温プラズマが発生する位置(放電部の位置)が常に変化するので、放電電極の熱負荷が低減し消耗を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007−505460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このようなEUV光源装置を露光用光源として採用する場合、当該EUV光源装置には、露光の制御性の観点からできるだけ高繰り返しのEUV放射動作が要求される。
常に新しいEUV発生種である高温プラズマ原料を放電領域に供給し、放電電極表面における、レーザビームが照射される位置、高温プラズマが発生する位置(放電部の位置)を常に変化させるためには、EUV放射動作がより高繰り返し化されるに従い、より高速に放電電極を回転させる必要がある。
【0011】
放電電極の回転数が増加すると、放電電極外周部や外周部近傍に作用する遠心力も当然ながら増加する。
そのため、円盤状の放電電極の回転数が増加するにつれて、回転している放電電極上に付着している高温プラズマ原料にも遠心力が作用する。
ここで、円盤状の放電電極は、前述したように「プラズマの発生に必要な領域」だけでなく、「プラズマの発生に必要がない領域」もコンテナ内の高温プラズマ原料に浸されるので、放電電極の「プラズマの発生に不要な領域」にまで高温プラズマ原料は付着する。
そして、前記「プラズマに必要な領域」に付着している高温プラズマ原料の一部はレーザビームが照射され気化するが、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料は、レーザビームが照射されないので気化されず、放電電極の回転速度が高速になるにつれて、円盤状の放電電極の周縁部側に移動する。
【0012】
すなわち、
図12(a)に示すように、放電電極の回転が低速回転の場合は、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料はほとんど移動しないが、
図12(b)に示すように、放電電極の回転が中速回転となるにつれて上記高温プラズマ原料は円盤状の放電電極の周縁部側に移動し、放電電極の周縁部分における高温プラズマ原料の膜厚が増加する。
そして、
図12(c)に示すように、放電電極の回転が高速回転となるにつれて、電極表面を離脱する高温プラズマ原料の液滴(図中の飛散原料)が形成される。これらの液滴は、不随意な方向に飛散し、チャンバ内壁やチャンバ内に設置された各構成要素を汚染してしまう。
【0013】
なお、このような高温プラズマ原料の液滴の飛散を抑制する方法として、回転電極がコンテナに収容されている高温プラズマ原料に浸漬する深さをできるだけ浅くして、「プラズマに不要な領域」を小さくすることが考えられる。
しかしながら、回転電極はレーザビームの照射や放電により自身の温度が上昇し、冷却を行わない場合、回転電極表面の材料が蒸発し、変形が生じるという不具合が発生する。
上記冷却は、加熱された回転電極がコンテナに収容されている高温プラズマ原料に浸漬されることにより生じる回転電極と高温プラズマ原料との間の熱交換によって行われる。
したがって、回転電極がコンテナに収容されている高温プラズマ原料に浸漬する深さは、回転電極が冷却されるようにある程度確保しておく必要がある。そのため、「プラズマに不要な領域」を小さくすることは困難となる。
なお、コンテナには図示を省略した高温プラズマ原料の循環機構が設けられている。コンテナ中で、熱交換により回転電極の除熱を行い温度上昇した高温プラズマ原料は、循環機構によって循環する循環経路を通過することにより冷却され、冷却された高温プラズマ原料は、再びコンテナ中に注入される。
【0014】
本発明は上記したような事情に鑑みなされたものであり、その課題は、EUV発光の項繰り返し動作に対応するために、回転する円盤状の放電電極の回転数が高速になっても、当該電極に付着している高温プラズマ原料のチャンバ内部への飛散を抑制できる放電電極、および、そのような放電電極を使用した極端紫外光光源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明においては、円盤状の放電電極に上記「プラズマの発生に不要な領域」に付着している高温プラズマ原料を捕獲するための捕獲用溝部を複数設けた。
すなわち、円盤状の放電電極の上記原料が付着する領域に同心円状に複数の捕獲用溝部を設け、円盤が回転することにより放電電極の周縁部側に移動する上記高温プラズマ原料を上記捕獲用溝部で捕獲し、周縁部側に移動しないようにした。
ここで、放電電極は高速で回転しており、電極の厚さを薄くすると変形や破損の恐れがあり、放電電極の厚さを薄くするには限界がある。捕獲用溝部の深さが浅いと、上記「プラズマの発生に不要な領域」に付着している高温プラズマ原料を充分に捕獲することができず、溝部から溢れ出る場合もでてくる。
そこで、本発明においては、捕獲用溝部を上記のように同心円状に複数設けた。これにより、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料を確実に捕獲し、放電電極の周縁部側に移動するのを防ぐことができる。
また、上記捕獲用溝部に捕獲された高温プラズマ原料が溢れ出ないようにするために、本発明においては、棒状の形状であって先端が、上記放電電極の捕獲用溝部に進入・退避が可能な原料除去機構が設ける。これにより、捕獲用溝部に捕獲された高温プラズマ原料を除去することができる。
【0016】
以上に基づき、本発明においては、以下のようにして前記課題を解決する。
(1)互いに離間して配置される一対の円盤状の放電電極と、上記放電電極にパルス電力を供給するパルス電力供給手段と、光を放射させるための原料を前記放電電極上に供給する原料供給手段と、上記放電電極の曲面上の原料にエネルギービームを照射して当該原料を気化するエネルギービーム照射手段とを有し、上記原料供給手段は、上記原料の融液を充填した容器を備え、上記各放電電極が回転し、当該各放電電極の一部が前記容器内に充填された原料融液を通過することにより、上記各放電電極の一部に上記原料が付着するように構成された光源装置における放電電極において、各放電電極の2つの円形表面の、上記原料が付着する円環状の領域の一部に、複数の円環状の捕獲用溝部を同心円状に設ける。
(2)上記(1)において、棒状の形状であって先端が上記捕獲用溝部に進入・退避が可能な原料除去機構を設ける。
(3)上記(1)(2)において、上記複数の捕獲用溝部のうち、少なくとも1つの捕獲用溝部の深さを他の捕獲用溝部の深さと異ならせる。
(4)上記(3)において、上記各捕獲用溝部の深さの比を、円盤状の放電電極の円形平面部に高温プラズマ原料が付着した領域であって、各捕獲用溝部に隣接する平面部のうち、上記円形平面の中心側に隣接する平面部の放射方向の長さの比に等しいか、ほぼ等しいように設定する。
(5)上記(1)(2)(3)(4)において、上記捕獲用溝部の側壁部の角度を、放電電極の円形平面を基準平面としたとき当該平面に対して負の角度を成すようにする。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)各放電電極の2つの円形表面の、上記原料が付着する円環状の領域の一部に、複数の円環状の捕獲用溝部を同心円状に設けたので、放電電極のプラズマの発生に不要な領域に付着している高温プラズマ原料を確実に捕獲することができる。このため、放電電極の回転数が高速になっても、当該電極に付着している高温プラズマ原料のチャンバ内部への飛散を抑制することができる。
(2)捕獲用溝部を複数設けたので、一つ当たりの溝部の深さが浅くて高温プラズマ原料の捕獲量が少なくても、プラズマの発生に不要な領域に付着している高温プラズマ原料を充分に捕獲することができ、溝部から溢れ出るのを防ぐことができる。
(3)捕獲用溝部に進入・退避が可能な原料除去機構を設けることにより、捕獲用溝部に捕獲された高温プラズマ原料が溢れ出る前に、適宜、捕獲された高温プラズマ原料を除去することができる。
(4)捕獲用溝部の深さを異ならせ、各捕獲用溝部の深さの比を、円盤状の放電電極の円形平面部に高温プラズマ原料が付着した領域であって、各捕獲用溝部に隣接する平面部のうち、上記円形平面の中心側に隣接する平面部の放射方向の長さの比に等しいか、ほぼ等しいように設定することにより、捕獲用溝部で捕獲される高温プラズマ原料を均等化することができる。
(5)捕獲用溝部の側壁部の角度を、放電電極の円形平面を基準平面としたとき当該平面に対して負の角度を成すようにすることにより、不要な高温プラズマ原料を効果的に捕獲することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図1における放電電極のA方向矢視図およびB−B断面図である。
【
図3】捕獲用溝部による高温プラズマ原料の捕獲を説明する図である。
【
図4】膜厚調整機構を説明する図である(
図2におけるC−C断面図)
【
図5】本実施例の放電電極を使用したEUV光源装置の構成例を示す図である。
【
図6】円環状の捕獲用溝部を1つの円形表面に三箇所同心円状に設けた例を示す図である。
【
図7】捕獲用溝部の深さを変えた例を示す図である。
【
図8】放電電極の周辺部に突起部を設け捕獲用凹部を多段に設けた例を示す図である。
【
図9】捕獲用溝部に流入した高温プラズマ原料を除去する原料除去機構を説明する図である。
【
図10】DPP方式のEUV光源装置を説明する図である。
【
図11】
図10においてD−D断面方向から見た放電電極、コンテナを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に本発明の放電電極2a,2bを示す。
図2(a)は
図1におけるA方向矢視図であり、
図2(b)は
図2(a)におけるB−B断面図である。また、
図3は捕獲用溝部による高温プラズマ原料の捕獲を説明する図であり、
図4は
図2におけるC−C断面図である。なお、
図3、
図4には捕獲用溝部10aのみが示されている。
また、
図5に
図1に示す本発明の放電電極2a,2bを使用したEUV光源装置の構成例を示す。
図5に示すEUV光源装置は、本発明に係る放電電極2a,2b、原料除去機構11および
図10で省略した膜厚調整機構12の他は
図10に示すものと同様の構成要素を有する。よって、以下で、主として本発明に係る構成要素である放電電極2a,2b、原料除去機構11および膜厚調整機構12を説明し、他の構成要素については簡単に説明する。
【0020】
まず
図5に示す本発明のEUV光源装置について簡単に説明する。
図5において、前記したようにチャンバ1内に放電電極2a,2bなどが収容される放電部1aと、ホイルトラップ5やEUV集光鏡6などが収容されるEUV集光部1bとが設けられ、チャンバ1内を真空状態にするためのガス排気ユニット1cが設けられる。放電電極2a,2bはそれぞれ回転モータ16a,16bが回転することにより、16c,16dを回転軸として回転する。
高温プラズマ原料14は、例えば液体状のスズ(Sn)であり、前記したようにコンテナ15に収容される。溶解金属の温度は、前記
図11に示したようにコンテナ15内に設けられた温度調整手段15aにより調整される。
【0021】
ここで、回転放電電極2a,2bは、レーザ光17の照射や放電で温度が上昇し、冷却をしない場合に電極表面の材料が蒸発し、変形が生じる。高温プラズマ原料を収納したコンテナ15は、この熱を電極2a,2bから除熱し、電極2a,2bの温度をコントロールする役割を持っている。このための仕組みとして、コンテナ15は温度調整手段15aを有し、コンテナ15中で電極から除熱し温度上昇した高温プラズマ原料14は、外部に取り付けられた循環機構(不図示)で循環し、経路中で高温プラズマ原料を冷却し再びコンテナ15に供給する。
上記放電電極2a,2bは、その一部が高温プラズマ原料14を収容するコンテナ15の中に浸されるように配置され、放電電極2a,2bが回転することにより、高温プラズマ原料14が放電空間に輸送されるとともに、上記の放電電極2a,2bから除熱される。また、放電空間に輸送された高温プラズマ原料14に対してレーザ源17aよりレーザ光17が照射される。レーザ光17が照射された高温プラズマ原料14は気化する。
【0022】
高温プラズマ原料14がレーザ光17の照射により気化された状態で、放電電極2a,2bに、電力供給手段4からパルス電力が印加されることにより、両放電電極2a,2b間にパルス放電が開始し、高温プラズマ原料14によるプラズマPが形成される。放電時に流れる大電流によりプラズマが加熱励起され高温化すると、この高温プラズマPからEUVが放射される。このEUV光は、EUV集光鏡6により集光鏡6の集光点(中間集光点ともいう)fに集められ、EUV光出射口7から出射し、EUV光源装置に接続された点線で示した露光機40に入射する。
【0023】
図1、
図2に示すように、本発明の円盤状の放電電極2a,2bは、周縁近傍に高温プラズマ原料を捕獲するための複数の捕獲用溝部10a,10bが同心円状に設けられている。具体的には、上記した放電用溝部10a,10bは、
図2に示すように、コンテナに収容されている溶融した高温プラズマ原料中を放電電極2a,2bが通過した際当該放電電極2a,2bの高温プラズマ原料が付着する領域のうち、上記した「プラズマに不要な領域」内に円輪状に設けられる。
この円輪状の捕獲用溝部10a,10bは、円盤状の放電電極2a,2bの両円形平面部に設けられる。
【0024】
このような円盤状の放電電極2a,2bを回転させる場合、従来の円盤状の放電電極2a,2bと同様、回転数(回転速度)が増加するにつれて、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料14は、遠心力の作用により円盤状の放電電極2a,2bの周縁部側に移動する。
【0025】
ここで、
図3(a)に示すように、放電電極2a,2bの回転が低速回転の場合は、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料14はほとんど移動しないが、
図3(b)に示すように、放電電極2a,2bの回転が中速回転となるにつれて上記高温プラズマ原料14は円盤状の放電電極2a,2bの周縁部側に移動する。しかしながら、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料14の内、捕獲用溝部10a,10bより内側(円盤状の放電電極2a,2bの中心側)に付着しているものは、捕獲用溝部10a,10bに流れ込み、捕獲用溝部10a,10bより外側(円盤状の放電電極2a,2bの周縁部側)には移動しない。
「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料14の内、捕獲用溝部10a,10bより外側に付着しているものは円盤状の放電電極2a,2bの周縁部側に移動する。しかし、捕獲用溝部10aより内側に付着しているものは移動してこないので、放電電極2a,2bの周縁部分における高温プラズマ原料14の膜厚はあまり増加しない。
【0026】
そして、
図3(c)に示すように、放電電極2a,2bの回転が高速回転となるにつれて、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料14の内、捕獲用溝部10a,10bより内側に付着しているものの捕獲用溝部10a,10bに流れ込む速度は速くなるが、捕獲用溝部10a,10bが高温プラズマ原料で満たされるまでは捕獲用溝部10a,10bより外側には移動しない。
また、放電電極2a,2bの回転が中速回転のときと同様、「プラズマに不要な領域」に付着している高温プラズマ原料14の内、捕獲用溝部10a,10bより外側に付着しているものは円盤状の放電電極2a,2bの周縁部側に移動する。しかし、捕獲用溝部10aより内側に付着しているものは移動してこないので、放電電極2a,2bの周縁部分における高温プラズマ原料14の膜厚はあまり増加しない。
【0027】
以上のように、本発明の極端紫外光光源装置の円盤状の放電電極2a,2bは、その一部がコンテナ15に収容された溶解した高温プラズマ原料14に浸漬していて、回転動作により高温プラズマ原料14が付着した部分を放電部に当該高温プラズマ原料を輸送する構造であって、円盤状の放電電極2a,2bの円形表面に付着している円環状の領域の一部に同心円状に円環状の捕獲用溝部10a,10bを設けたものである。
よって、比較的高速に上記放電電極2a,2bを回転したとしても、捕獲用溝部10a,10bより内側(円盤状の放電電極2a,2bの中心側)に付着している高温プラズマ原料14は捕獲用溝部10a,10bに流れ込み、捕獲用溝部10a,10bより外側(円盤状の放電電極2a,2bの周縁部側)には移動しない。
そのため、従来のように回転する放電電極2a,2bのように、放電電極2a,2bの周縁部側に移動する高温プラズマ原料14の量が減少し、放電電極2a,2bの周縁部分における高温プラズマ原料14の膜厚の増加が顕著に小さくなり、電極2a,2b表面を離脱する高温プラズマ原料14の液滴の形成が抑制される。
従って、放電電極2a,2bから飛散する高温プラズマ原料14によるチャンバ内壁やチャンバ内に設置された各構成要素の汚染も小さくすることが可能となる。
【0028】
なお、前記
図10で省略した膜厚調整機構12は、
図4に示すように、放電電極2a,2bにおけるプラズマに必要な膜領域における高温プラズマ原料の厚みを最適厚みにするためのものである。すなわち、レーザビームが照射される円盤状の放電電極2a,2bの曲面部上方の空間の大きさを規制して、上記曲面部に付着する高温プラズマ原料の膜厚を最適厚みに調整する
【0029】
図3に戻り、同図における捕獲用溝部10aの側壁部の角度は放電電極2a,2bの円形平面を基準平面としたとき当該平面に対して負の角度を成しているが、これに限るものではなく放電電極2a,2bの円形平面に対して直角であってもよい。しかし上記側壁部の角度が円形平面に対して負の角度を成している場合、捕獲用溝部10a,10bより内側に付着している高温プラズマ原料が上記捕獲用溝部10a,10bに流れ込みやすく、一旦捕獲用溝部10a,10bに流れ込んだ高温プラズマ原料が外部に流出しにくいという利点を有する。よって、獲用溝部10aの側壁部の角度は放電電極2a,2bの円形平面を基準平面としたとき当該平面に対して負の角度を成している方が好ましい。
【0030】
図1、
図2等に示したように、本発明においては円環状の捕獲用溝部10a,10bを1つの円形表面に二箇所同心円状に設けたが、このように捕獲用溝部を放電電極2a,2bに複数、同心円状に設けることで、円環状の捕獲用溝部を当該円形平面に1つ設ける場合と比較すると、円盤状の放電電極2a,2bの円形平面側に付着した高温プラズマ原料の捕獲可能体積を大きくすることが可能となる。このため、放電電極2a,2bの高速回転時における放電電極2a,2bから飛散する高温プラズマ原料によるチャンバ内壁やチャンバ内に設置された各構成要素の汚染を更に小さくすることが可能となる。
また、捕獲用溝部を複数設けることで、一つ当たりの捕獲用溝部の容積を小さくすることができ、捕獲用溝部の深さを浅くすることが可能となる。このため、捕獲用溝部を設けることによる放電電極の強度の低下を抑制しながら、「プラズマの発生に不要な領域」に付着している高温プラズマ原料を充分にかつ確実に捕獲することが可能となる。
【0031】
図1、
図2等では、円環状の捕獲用溝部10a,10bを1つの円形表面に二箇所同心円状に設けた例を示したが、
図6に示すように、円環状の捕獲用溝部10a,10b,10cを1つの円形表面に三箇所同心円状に設けてもよい。なお、
図6において、同図(a)は前記
図1におけるA方向矢視図であり、同図(b)は同図(a)におけるB−B断面図である。
【0032】
また、複数の捕獲用溝部の深さは、必ずしも全て同じ深さでなくてもよい。例えば、
図7(a)(b)に示すように、放電電極2a,2bの周縁部方向に向かうに従って浅くなるように設定してもよい。
図7(a)に示す例では、捕獲用溝部10a,10bが各平面に二箇所設けられていて、放電電極2a,2bの最も周縁部側に位置する放電用溝部10aの深さD1は、その隣の放電用溝部10bの深さD2より浅い。
また、各捕獲用溝部に捕獲される高温プラズマ原料の量は、円盤状の放電電極2a,2bの円形平面部に高温プラズマ原料が付着した領域であって、各捕獲用溝部10aに隣接する平面部のうち、上記円形平面の中心側に隣接する領域の面積にほぼ比例するものと考えられる。そして、概略的には、上記隣接する平面部の放射方向の長さにほぼ比例すると考えられる。
【0033】
よって、例えば放電用溝部10aの上記円形平面の中心側に隣接する領域の放射方向の長さをL1、放電用溝部10bの上記円形平面の中心側に隣接する領域の放射方向の長さをL2とするとき、D1:D2=L1:L2もしくはD1:D2≒L1:L2となるように、上記放電用溝部10a,10bの深さD1、D2を設定してもよい。
【0034】
また、
図7(b)は捕獲用溝部が各平面に三箇所設けられている例では、捕獲用溝部10a,10b,10cが各平面に三箇所設けられていて、放電電極2a,2bの最も周縁部側に位置する放電用溝部10aの深さD1はその隣の放電用溝部10bの深さD2より浅く、上記深さD2は、放電用溝部10bの隣の放電用溝部10cの深さD3より浅くなっている。そして、放電用溝部10aの上記円形平面の中心側に隣接する領域の放射方向の長さをL1、放電用溝部10bの上記円形平面の中心側に隣接する領域の放射方向の長さをL2、放電用溝部10cの上記円形平面の中心側に隣接する領域の放射方向の長さをL3とするとき、D1:D2:D3=L1:L2:L3もしくはD1:D2:D3≒L1:L2:L3となるように、上記放電用溝部10aの深さD1、D2、D3を設定してもよい。
【0035】
なお、
図7に示す例では、複数の捕獲用溝部10aの深さの少なくとも1つが異なる例を示したがこれに限るものではない。例えば、複数の捕獲用溝部10aの深さが同じで、幅の少なくとも1つが異なるように構成してもよい。
【0036】
なお、捕獲用溝部を複数設ける代わりに、
図8に示すように、放電電極2a,2bの周辺部に突起部13を設け、ここに、捕獲用凹部13aを多段構造で設けても同様の効果が得られるものと考えられる。しかしながら多段構造は以下の理由により好ましくない。すなわち、放電電極2a,2bは、5mm程度の厚みで高速に回転している。よって、
図8に示すように多段構造を採用して放電電極の中心付近を薄くすると、回転初期に放電電極2a,2bの回転軸付近の材料に負荷が生じ、電極の変形および破損が生じると考えられ望ましくない。
【0037】
ところで、EUV光源装置の動作時間の経過につれて、円盤状の放電電極2a,2bに設けた捕獲用溝部10a,10b,…,に流入する高温プラズマ原料の流入量も大きくなる。そして、上記流入量が上記捕獲用溝部10a,10b,…,の捕獲可能容量を超えると、円盤状の放電電極2a,2bの周縁部側に移動する高温プラズマ原料の量が大きくなり、放電電極2a,2bの周縁部分における高温プラズマ原料の膜厚が増加し、電極2a,2b表面を離脱する高温プラズマ原料の液滴の形成頻度が大きくなる。そこで、定期的に捕獲用溝部10aに流入した高温プラズマ原料を除去することが望ましい。
【0038】
そのために、例えば
図1、
図5、
図9に示すように、捕獲用溝部10a,10bに流入した高温プラズマ原料を除去する原料除去機構11を設けてもよい。
同図に示すように、原料除去機構11は、2組の円盤状の放電電極2a,2bの各円形平面に形成された各捕獲用溝部毎に合計4組設けられ、例えば捕獲用溝部が同心円状に2箇所に設けられている場合は8組設けられる。
図9に示すように、原料除去機構11は、棒状の形状であって先端が捕獲用溝部10aに進入・退避が可能な形状となっている。
図9(a)に示すように、捕獲用溝部10aに流入した高温プラズマ原料の量が増加すると、原料除去機構11は捕獲用溝部10aに挿入される方向に進行する。そして、
図9(b)に示すように、原料除去機構11の先端は捕獲用溝部10aに挿入される。このとき放電電極2a,2bは回転しているので、捕獲用溝部10aに流入していた高温プラズマ原料は、原料除去機構11と接触しながら徐々に外部に掻き出される。
捕獲用溝部10aに流入していた高温プラズマ原料の量の殆どを外部に掻き出したあと、原料除去機構11は捕獲用溝部10aから退避する方向に進行する。
【0039】
なお、原料除去機構11から掻き出された高温プラズマ原料は重力方向に落下するが、落下してくる高温プラズマ原料を収容する原料収容部を適宜設けることが望ましい。例えば、
図5に示すように、溶融した高温プラズマ原料を収容するコンテナを
図10と比較して大きくして、落下してくる高温プラズマ原料を収容可能なように構成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 チャンバ
1a 放電部
1b EUV集光部
1c ガス排気ユニット
2a,2b 放電電極
4 電力供給手段
5 ホイルトラップ
6 EUV集光鏡
10a,10b,10c 捕獲用溝部
11 原料除去機構
12 膜厚調整機構
14 高温プラズマ原料
15 コンテナ
15a 温度調整手段
16a,16b 回転モータ
16c,16d 回転軸
17 レーザ光
17a レーザ源
40 露光機
P 高温プラズマ