特許第5725038号(P5725038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725038
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20150507BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20150507BHJP
【FI】
   H02P7/63 Z
   H02P7/63 303V
   H02M7/48 M
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-549844(P2012-549844)
(86)(22)【出願日】2011年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2011079602
(87)【国際公開番号】WO2012086674
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2010-285260(P2010-285260)
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 章夫
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3773798(JP,B2)
【文献】 特開平11−352276(JP,A)
【文献】 特開2006−211831(JP,A)
【文献】 特開2010−162672(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/009463(WO,A1)
【文献】 特開2001−268973(JP,A)
【文献】 特開平09−327192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源とコンデンサとの並列接続回路が直流側に接続されたインバータにより、交流モータを駆動する電力変換装置において、
前記インバータの半導体スイッチング素子を制御するための制御装置が、
前記インバータの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記インバータの運転を停止するための過電流レベルを、前記モータの回転数相当値に応じて決定する過電流レベル決定手段と、
前記電流検出手段から出力された前記インバータの出力電流検出値と前記過電流レベル決定手段により決定された前記過電流レベルとを比較する電流比較手段と、
前記電流比較手段により、前記出力電流検出値が前記過電流レベルに達したことを判定したときに前記インバータの全ての半導体スイッチング素子をオフさせる信号を出力する駆動信号生成手段と、
を備え
前記過電流レベル決定手段により決定される過電流レベルが、前記モータの定出力領域において、前記回転数相当値が高いほど低い値であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
直流電源とコンデンサとの並列接続回路が直流側に接続されたインバータにより、交流モータを駆動する電力変換装置において、
前記インバータの半導体スイッチング素子を制御するための制御装置が、
前記インバータの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記インバータの運転を停止するための過電流レベルを、前記モータの回転数相当値に応じて決定する過電流レベル決定手段と、
前記インバータの出力電流を制限するための電流制限レベルを、前記モータの回転数相当値に応じて決定する電流制限レベル決定手段と、
前記電流検出手段から出力された前記インバータの出力電流検出値と前記過電流レベル決定手段により決定された前記過電流レベルとを比較し、かつ、前記出力電流検出値と前記電流制限レベル決定手段により決定された前記電流制限レベルとを比較する電流比較手段と、
前記電流比較手段により、前記出力電流検出値が前記過電流レベルに達したことを判定したときに前記インバータの全ての半導体スイッチング素子をオフさせる信号を生成し、かつ、ある相の前記出力電流検出値が前記電流制限レベルに達したことを判定したときに前記インバータの当該相の出力電流を制限するための信号を出力する駆動信号生成手段と、
を備え
前記過電流レベル決定手段により決定される過電流レベルが、前記モータの定出力領域において、前記回転数相当値が高いほど低い値であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載した電力変換装置において、
前記電流制限レベル決定手段により決定される電流制限レベルが、前記モータの定出力領域において、前記回転数相当値が高いほど低い値であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載した電力変換装置において、
前記電流制限レベルが、前記モータの回転数相当値の全範囲にわたって前記過電流レベルより低い値であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項2〜4の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記駆動信号生成手段は、ある相の前記出力電流検出値が前記電流制限レベルに達したときに前記インバータの当該相のスイッチングを停止させるための信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項2〜5の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記駆動信号生成手段は、ある相の前記出力電流検出値が前記電流制限レベルに達したときに前記インバータの当該相の半導体スイッチング素子をオンさせるパルスの幅を短くするための信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記モータの回転数相当値が、回転数検出値,回転数推定値または回転数指令値のいずれかであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項17の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記インバータ及びモータが、ハイブリッド自動車または電気自動車の車両駆動システムを構成していることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記モータが、永久磁石モータであることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動用のインバータを過電流から保護する機能を備えた電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、インバータには、過電流からインバータを保護するために過電流保護機能が設けられている。この場合の過電流検出レベルは、例えばインバータを構成するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子の許容電流に応じて決定することができるが、可変速用途のインバータでは、一般に過電流検出レベルが固定されている。
【0003】
さて、ハイブリッド自動車や電気自動車における車両駆動用のモータは、図7に示すように、ある回転数n(例えば、n=1500[r/min.])まではトルクが一定の定トルク領域とし、回転数n以上では出力が一定の定出力領域として制御する場合がほとんどである。この種のモータとして、埋込磁石型などの永久磁石同期モータを用いる場合、そのトルクと電流とは完全には比例しないものの、必要なトルクが低下すれば電流も減少する。つまり、図7の特性によれば、回転数が高いほど電流は減少することになる。
【0004】
いま、モータの電流が定格電流の300[%]になった状態を過電流として検出する場合を考える。仮に、永久磁石同期モータを用いる場合、回転数が6000[r/min.]の時は、回転数が1500[r/min.]の時に比べて無負荷誘起電圧が4倍になる。つまり、過電流検出時にインバータを非常停止した時には、モータの高速回転時ほど回生エネルギーが大きい。このようにモータの高速回転時にインバータを非常停止すると、インバータの直流側のコンデンサに大きなエネルギーが回生される結果、コンデンサに過大な電圧が印加されてこれを破壊する恐れがある。
【0005】
ここで、モータの回転中にインバータの全ゲートを遮断して非常停止した時に、コンデンサの電圧が上昇する様子をシミュレーションにより確認したので、その結果を説明する。
図8は、シミュレーションに用いた電力変換装置の回路図である。図8において、10は直流電源、20は電源切り離しスイッチ、30はコンデンサ、40は半導体スイッチング素子をブリッジ接続してなる三相の電圧形インバータ、60は制御装置、61は電流検出手段、65はゲート信号生成手段、Mはインバータ40により駆動される三相のモータ、P,Nはインバータ40の直流入力端子、U,V,Wは交流出力端子を示す。
【0006】
図8において、インバータ40によりモータMを駆動している状態で電源切り離しスイッチ20を開放し、同時に、ゲート信号生成手段65によりインバータ40の全ての半導体スイッチング素子をオフ(全ゲート遮断)した。ただし、モータMの定格出力は20[kW]、回転速度が8000[r/min.]の時の無負荷誘起電圧は519[V]、定格電流は60[A]、直流中間電圧(コンデンサ30の電圧)は650[V]、コンデンサ30の容量値は400[μF]である。
【0007】
図9は、モータMを定格出力の2倍の40[kW]にて運転している時に、全ゲートを遮断した時のシミュレーション結果である。ただし、モータMの電流は49[A](定格電流の約82[%])である。この図9によれば、全ゲート遮断により、コンデンサ30の電圧が約812[V]まで上昇することがわかる。
次に、図10は、モータMを定格電流の2倍の120[A]にて運転している時に、全ゲートを遮断した時のシミュレーション結果である。この図10によれば、全ゲート遮断により、コンデンサ30の電圧が約961[V]まで上昇することがわかる。
【0008】
以上のように、モータMの高速回転時にインバータ40の全ゲートを遮断するとコンデンサ30には大きな電圧が印加される。従って、例えば、コンデンサ30の耐圧が900[V]であると、図10のようなケースでは、全ゲートを遮断した際にコンデンサ30に耐圧以上の電圧が印加されることになり、コンデンサ30が破損する恐れがある。
【0009】
ところで、インバータには、過電流保護機能に加えて電流制限機能を有するものがある。ここで、電流制限機能とは、インバータの運転を継続させながら、予め設定した電流制限レベル以上に電流が流れないように電流を抑制する機能である。
電流制限機能を備えた従来技術としては、特許文献1に記載された電力変換装置が知られている。この電力変換装置は、交流電源の瞬時停止(以下、単に瞬停という)等の故障が発生し、その後に復電してモータを再始動する際に、過電流によってインバータが停止しないように電流制限レベルを調節する機能を備えている。
【0010】
図11は、特許文献1に係る従来技術を示しており、100は交流電源、200は電力変換装置の主回路部、201は整流回路、202はコンデンサ、203はインバータ回路、301は電流検出器、302は電流制限レベル演算器、303は比較装置、304は位相検出装置、305,306はゲート制御装置である。
【0011】
図11の動作を略述すると、次のとおりである。例えば、交流電源100の瞬停等による故障発生時には、ゲート制御装置305が整流回路201を停止させ、ゲート制御装置306がインバータ回路203を停止させる。また、ゲート制御装置306は、位相検出装置304により検出したモータの位相に基づき、再始動時のインバータ回路203の周波数指令を算出する。その後、交流電源100が復電した場合には、ゲート制御装置305,306により整流回路201、インバータ回路203を始動する。
【0012】
このとき、比較装置303では、速度指令に基づいて電流制限レベル演算器302が所定の関数から算出した電流制限レベルと、インバータ回路203の出力電流とを、相ごとに比較する。そして、電流制限レベルに達した相のみをゲート制御装置306により一定期間ゲートブロックし、当該相のインバータ回路203の出力電流が過大になるのを防止している。
これにより、ある相の電流が電流制限レベルに達した場合でも、電力変換装置の継続的な運転が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3773798号公報(段落[0012]〜[0014]、図1図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図12は、特許文献1における速度指令、電流制限レベル、インバータ回路の出力電流、整流回路の入力電流を示す波形図である。図12中の「制御切替期間」は、瞬停等による故障発生から再始動に至る期間を示す。
図12から明らかなように、特許文献1では、電流制限レベルが速度指令と同じ傾向で変化している。
【0015】
ここで、ハイブリッド自動車や電気自動車の車両駆動システムにおいて、モータ駆動用のインバータの再始動時に電流制限を行う場合、モータが高速回転している時には大きなトルクを必要としないので、モータの電流値は小さくてよい。しかしながら、図12に示すように、速度指令の大きさに応じて電流制限レベルが決定すると、速度指令が大きい場合にはこれに応じて電流制限レベルも大きくなり、再始動時のインバータ回路203の出力電流も大きくなる。
従って、従来技術では電流制限レベルの決定方法が適切ではなく、再始動時に必要以上に大きな出力電流を許容しているので、無駄が多いという問題があった。
【0016】
そこで、本発明の目的は、インバータの過電流レベルをモータの回転速度に応じて変化させ、モータの高速回転時にインバータを非常停止した時に直流側のコンデンサが過電圧によって破壊されるのを防止するようにした、電力変換装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ハイブリッド自動車や電気自動車の車両駆動システムに最適な電流制限レベルを決定可能な電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は、直流電源とコンデンサとの並列接続回路が直流側に接続されたインバータにより、例えば永久磁石同期モータを駆動する電力変換装置に適用されるものである。特に、本発明に係る電力変換装置は、ハイブリッド自動車または電気自動車の車両駆動システムに適用すると好適である。
【0018】
本発明において、インバータの半導体スイッチング素子を制御するための制御装置は、電流検出手段、過電流レベル決定手段、電流比較手段、駆動信号生成手段を備えており、更に、必要に応じて電流制限レベル決定手段を備えている。
電流検出手段はインバータの出力電流を検出し、過電流レベル決定手段は、インバータの運転を停止するための過電流レベルを、モータの回転数相当値に応じて決定する。ここで、モータの回転数相当値は、モータの回転数検出値、回転数推定値または回転数指令値のいずれかであれば良い。
電流比較手段は、電流検出手段から出力されたインバータの出力電流検出値と過電流レベル決定手段により決定された過電流レベルとを比較する。また、電流制限レベル決定手段を有する場合には、前記出力電流検出値と電流制限レベルとの比較も行う。
電流制限レベル決定手段は、インバータの出力電流を制限するための電流制限レベルを、モータの回転数相当値に応じて決定する。
駆動信号生成手段は、電流比較手段により、出力電流検出値が過電流レベルに達したことを判定したときにインバータの全ての半導体スイッチング素子をオフさせる信号を生成すると共に、ある相の出力電流検出値が電流制限レベルに達したことを判定したときにインバータの当該相の出力電流を制限するための信号を生成する。ここで、出力電流を制限するには、当該相のスイッチングを停止させるか、あるいは、当該相の半導体スイッチング素子をオンさせるパルスの幅を短くすれば良い。
前記過電流レベル及び電流制限レベルは、モータの定出力領域において、回転数相当値が高いほど低い値であることが望ましく、また、電流制限レベルは、モータの回転数相当値の全範囲にわたって過電流レベルよりも低い値であることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インバータを保護するための過電流レベルや電流制限レベルを、モータの回転数の増加に伴って低下させる。これにより、モータの高速回転時にインバータを非常停止した際の回生エネルギーを少なくし、直流側のコンデンサに印加される電圧を小さくしてコンデンサの破損を防止することができる。
また、過電流レベルよりも電流制限レベルを低く設定することにより、インバータを非常停止した後で再始動する時に、モータに必要以上の電流が流れるのを防止し、損失を低減させて効率を向上させる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態を示す回路図である。
図2】第1実施形態におけるモータの回転数と過電流レベルとの関係を示す図である。
図3】第1実施形態におけるモータの回転数と過電流レベルとの関係を示す図である。
図4】本発明の第2実施形態を示す回路図である。
図5】第2実施形態におけるモータの回転数と、過電流レベル、電流制限レベルとの関係を示す図である。
図6】第2実施形態におけるモータの回転数と、過電流レベル、電流制限レベルとの関係を示す図である。
図7】モータの回転数とトルクとの関係を示す図である。
図8】シミュレーションに用いた電力変換装置の回路図である。
図9】インバータの全ゲートを遮断した場合のシミュレーション結果を示す波形図である。
図10】インバータの全ゲートを遮断した場合のシミュレーション結果を示す波形図である。
図11】特許文献1に係る従来技術の回路図である。
図12図11の回路の動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の第1実施形態を示す回路図である。
図1において、10はバッテリー等の直流電源であり、その両端にはコンデンサ30が接続されている。直流電源10とコンデンサ30との並列接続回路の両端には、電圧形インバータ40の直流入力端子P,Nが接続されている。インバータ40は、還流ダイオードを備えたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子41〜46をブリッジ接続して構成されている。なお、半導体スイッチング素子はIGBTに限定されず、通常のバイポーラトランジスタやFET(Field Effect Transistor)等であっても良い。
インバータ40の交流出力端子U,V,Wは、変流器(Current Transformer)等の電流検出手段61を介して、三相のモータMの各相入力端子に接続されている。ここで、モータMは、例えば埋込磁石型の永久磁石同期モータである。
【0022】
制御装置60Aは、インバータ40の半導体スイッチング素子41〜46をオンオフするためのものであり、前記電流検出手段61、回転数検出手段62、過電流レベル決定手段63、電流比較手段64、及び、駆動信号生成手段としてのゲート信号生成手段65によって構成されている。なお、制御装置60Aの主要部は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)及び所定のプログラムによって実現可能である。
【0023】
電流検出手段61は、インバータ40の出力電流を相ごとに検出し、回転数検出手段62は、モータMの回転数を検出する。過電流レベル決定手段63は、後述するように、モータMの回転数に応じて過電流レベルを決定する。電流比較手段64は、過電流レベルと電流検出手段61による電流検出値とを相ごとに比較し、インバータ40の出力電流が過電流レベルに達したらゲート信号生成手段65に過電流検出信号を出力する。
過電流検出信号が入力されたゲート信号生成手段65では、インバータ40の全ゲートを遮断するためのゲート信号を生成し、出力する。
【0024】
この第1実施形態では、回転数検出手段62によりモータMの回転数を検出しているが、回転数検出手段62を用いずにいわゆるセンサレス制御を行う場合には、モータMの誘起電圧に基づいて回転数を推定する等、周知の方法によって回転数を推定し、この回転数推定値を過電流レベル決定手段63に入力すれば良い。また、回転数検出値や回転数推定値に代えて、回転数指令値を過電流レベル決定手段63に入力することもできる。
【0025】
図2図3は、第1実施形態におけるモータMの回転数と過電流レベルとの関係を示している。
図2に示す特性は、図7の回転数−トルク特性に類似し、例えば回転数が所定値(n=1500[r/min.])までの定トルク領域では定格電流の300[%]を過電流レベルとし、回転数がn以上の定出力領域では、回転数の増加に伴って過電流レベルを低下させる特性である。
また、図3は、回転数の範囲に応じて過電流レベルを決定する例である。例えば、回転数が0〜2000[r/min.]の範囲では過電流レベルを定格電流の300[%]とし、その後、1000[r/min.]刻みで過電流レベルを定格電流の50[%]ずつ低下させる例である。
図2図3に示した特性(回転数に応じた過電流レベル)は、図1の制御装置60Aに設けたメモリ(図示せず)に数値データやテーブルとして予め記憶させておき、過電流レベル決定手段63は、これらの特性と回転数とから所定の過電流レベルを決定して電流比較手段64に出力する。
【0026】
図1の電流比較手段64は、前述したように、電流検出手段61から入力された電流検出値と、図2または図3に基づいて過電流レベル決定手段63により決定された過電流レベルとを常時比較している。そして、ある相の電流検出値が過電流レベルに達した場合にゲート信号生成手段65に過電流検出信号を送り、ゲート信号生成手段65によりインバータ40の半導体スイッチング素子41〜46を全てオフさせてインバータ40を非常停止させる。
【0027】
図2に示すように、従来技術ではモータMの回転数に関わらず過電流レベルが一定値に設定されているが、本実施形態によれば、モータMの定出力領域では回転数が増加するにつれて過電流レベルを低下させている。
このため、モータMの高速回転時にインバータ40の出力電流が上記過電流レベルを超えてインバータ40が非常停止する場合の、モータMの電流を小さくすることができる。これにより、コンデンサ30への回生エネルギーが減少するので、コンデンサ30の電圧が上昇して破損するおそれもない。
【0028】
次に、図4は本発明の第2実施形態を示す回路図である。
この第2実施形態が図1の第1実施形態と異なる点は、制御装置60Bに電流制限レベル決定手段66を追加した点であり、回転数検出手段62の出力が過電流レベル決定手段63及び電流制限レベル決定手段66に加えられ、これらの出力が電流比較手段64に入力されている。なお、この第2実施形態でも、回転数検出手段62から出力される回転数検出値に代えて、回転数推定値や回転数指令値を過電流レベル決定手段63及び電流制限レベル決定手段66に入力しても良い。
図4における他の構成は図1と同様であるため、図1と同一の機能を有する構成要素には図1と同一の参照符号を付して説明を省略する。
制御装置60Bの主要部も、CPUやDSP及び所定のプログラムによって実現可能である。
【0029】
図4における電流制限レベル決定手段66は、モータMの回転数に応じて電流制限レベルを決定する機能を備えている。
図5図6は、第2実施形態におけるモータMの回転数と、過電流レベル、電流制限レベルとの関係を示している。これらの図5図6において、モータMの回転数と過電流レベルとの関係は図2図3とそれぞれ同一である。
【0030】
図5における電流制限レベルは、モータMの定トルク領域では一定値であり、定出力領域では回転数が増加するにつれて次第に低下する特性を持ち、回転数の全範囲にわたって過電流レベルより小さくなるように設定されている。
また、図6に示す特性は、回転数が0〜2000[r/min.]の範囲では電流制限レベルを定格電流の250[%]とし、その後、1000[r/min.]刻みで電流制限レベルを定格電流の50[%]ずつ低下させる例である。
【0031】
第1実施形態と同様に、図5図6に示した特性(回転数に応じた過電流レベル及び電流制限レベル)は、図4の制御部60Bに設けたメモリ(図示せず)に数値データやテーブルとして予め記憶されている。そして、過電流レベル決定手段63及び電流制限レベル決定手段66は、モータMの回転数と図5及び図6の特性とに基づいて決定された過電流レベル及び電流制限レベルを、電流比較手段64に出力する。
【0032】
電流比較手段64は、電流検出手段61から入力された電流検出値と、過電流レベル決定手段63により決定された過電流レベル、及び、電流制限レベル決定手段66により決定された電流制限レベルとを、常時比較している。そして、ある相の電流検出値が電流制限レベルに達すると、当該相のスイッチングを停止し、または、半導体スイッチング素子をオンさせるゲートパルスの幅を短くするようにゲート信号生成手段65に指令を送り、インバータ40の当該相の出力電流の大きさを制限する電流制限動作を実行する。
更に、電流検出手段61から入力されたある相の電流検出値が過電流レベルに達すると、ゲート信号生成手段65に過電流検出信号を送り、ゲート信号生成手段65によりインバータ40の半導体スイッチング素子41〜46を全てオフさせてインバータ40を非常停止させる。
【0033】
この第2実施形態によれば、モータMの回転数が大きいほど電流制限レベルが低下するように電流制限レベル決定手段66を機能させている。このため、モータMの高速回転時にインバータ40を非常停止させ、その後に再始動する際に、モータMに過電流が流れるのを防止することができる。
従って、ハイブリッド自動車や電気自動車の車両駆動システムのように、再始動時にモータMが高速回転していてもそれほど大きなトルクを必要とせず、電流値が小さくて良い駆動システムに最適な電力変換装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る電力変換装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車だけでなく、モータを用いた各種の駆動システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10:直流電源
30:コンデンサ
40:インバータ
60A,60B:制御装置
61:電流検出手段
62:回転数検出手段
63:過電流レベル決定手段
64:電流比較手段
65:ゲート信号生成手段
66:電流制限レベル決定手段
M:モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12