(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
LEDやパワーモジュール等の半導体装置においては、導電材料からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
風力発電、電気自動車等の電気車両などを制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子においては、発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えばAlN(窒化アルミニウム)などからなるセラミックス基板(絶縁層)の一方の面及び他方の面に導電性の優れた金属板を回路層及び金属層として接合したパワーモジュール用基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すパワーモジュールにおいては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にAlからなる回路層及び金属層が形成されたパワーモジュール用基板と、この回路層上にはんだ材を介して接合された半導体素子と、を備えた構造とされている。そして、パワーモジュール用基板の下側には、ヒートシンクが接合されており、半導体素子で発生した熱を、パワーモジュール用基板側に伝達し、ヒートシンクを介して外部へ放散する構成とされている。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたパワーモジュールのように、金属層をAlで構成した場合には、表面にAlの酸化皮膜が形成されるため、はんだ材によってヒートシンクを接合することができない。
そこで、従来、例えば特許文献2に開示されているように、金属層の表面に無電解めっき等によってNiめっき膜を形成した上で、はんだ材で接合している。
また、特許文献3には、はんだ材の代替として、酸化銀粒子と有機物からなる還元剤とを含む酸化銀ペーストを用いて金属層とヒートシンクとを接合する技術が提案されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、金属層をAl層とCu層で構成したパワーモジュールが提案されている。この場合、金属層の表面にはCu層が配置されるため、はんだ材を用いてヒートシンクを良好に接合することができる。また、CuはAlに比べて変形抵抗が大きいことから、このパワーモジュールにヒートサイクルが負荷された際に、金属層表面が大きく変形することを抑制でき、はんだ層におけるクラックの発生を防止して、金属層とヒートシンクとの接合信頼性を向上させることが可能となる。
なお、特許文献4に記載されたパワーモジュールにおいては、金属層として、Al層とCu層とがTi層を介して接合された接合体が用いられている。ここで、Al層とTi層との間には、拡散層が形成されており、この拡散層は、Al層側から順に、Al−Ti層、Al−Ti−Si層、Al−Ti−Cu層と、を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2に記載されたように、金属層表面にNiめっき膜を形成したパワーモジュール用基板においては、ヒートシンクを接合するまでの過程においてNiめっき膜の表面が酸化等によって劣化し、はんだ材を介して接合したヒートシンクとの接合信頼性が低下するおそれがあった。また、Niめっき工程では、不要な領域にNiめっきが形成されて電食等のトラブルが発生しないように、マスキング処理を行うことがある。このように、マスキング処理をした上でめっき処理をする場合、金属層部分にNiめっき膜を形成する工程に多大な労力が必要となり、パワーモジュールの製造コストが大幅に増加してしまうといった問題がある。
【0008】
さらに、特許文献3に記載されたように、酸化銀ペーストを用いて金属層とヒートシンクとを接合する場合には、Alと酸化銀ペーストの焼成体との接合性が悪いために、予め金属層の表面にAg下地層を形成する必要があった。
【0009】
また、特許文献4に記載されたパワーモジュールにおいては、金属層のうちAl層とTi層との接合界面に、硬いAl−Ti層やAl−Ti−Cu層が形成されているので、ヒートサイクルが負荷された際にクラックの起点となるといった問題があった。
さらには、Al層にTi箔を介してCu板等を積層し、Al層とTi箔との界面が溶融する温度にまで加熱する場合、接合界面に液相が生じてコブが生じたり、厚さが変動したりするため、接合信頼性が低下する問題があった。
【0010】
ここで、特許文献2のNiめっきの代替として、特許文献4に記載されたように、Alからなる金属層にTi箔を介してNi板を接合してNi層を形成することも考えられる。さらには、特許文献3の酸化銀ペーストを用いる際に、Alからなる金属層にTi箔を介してAg板を接合してAg下地層を形成することも考えられる。
しかしながら、特許文献4に記載された方法で、Ni層やAg層を形成すると、Cu層を形成した場合と同様に、Al層とTi層との接合界面に、Al−Ti層、Al−Ti−Ni層、Al−Ti−Ag層等の硬い層が形成されたり、接合界面にコブが生じたりすること等によって、接合信頼性が低下するおそれがあった。
以上のように、従来は、Al層と、Cu、Ni、Agのいずれかからなる金属部材層とを良好に接合することができず、接合信頼性に優れた金属層を有するパワーモジュール用基板を得ることはできなかった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、Al層と、銅、ニッケル、銀のいずれかからなる金属部材層とを有する金属層において、Al層と金属部材層とが良好に接合され、ヒートサイクルが負荷された際に接合部におけるクラックの発生を抑制でき、接合信頼性が良好なパワーモジュール用基板、及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するために、本発明のパワーモジュール用基板は、絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、を備えたパワーモジュール用基板であって、前記金属層は、前記絶縁層の他方の面に形成されアルミニウムからなるAl層と、このAl層のうち前記絶縁層が形成された面と反対側の面に形成され
ニッケルからなる金属部材層と、を有し、
前記Al層と前記金属部材層とは、チタン材を介して積層され、前記Al層と前記チタン材と前記金属部材層とを積層方向に加圧して加熱することにより、前記Al層と前記チタン材、前記チタン材と前記金属部材層とがそれぞれ固相拡散接合されており、前記Al層と前記金属部材層との接合部には、前記金属部材層側に位置するTi層と、前記Ti層と前記Al層との間に位置し、Al
3TiにSiが固溶したAl−Ti−Si層と、が形成されており、前記Al−Ti−Si層は、前記Ti層側に形成された第一Al−Ti−Si層と、前記Al層側に形成され前記第一Al−Ti−Si層よりもSi濃度が低い第二Al−Ti−Si層と、を備えていることを特徴としている。
また、本発明のパワーモジュール用基板は、絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、を備えたパワーモジュール用基板であって、前記金属層は、前記絶縁層の他方の面に形成されアルミニウムからなるAl層と、このAl層のうち前記絶縁層が形成された面と反対側の面に形成され銅又は銀からなる金属部材層と、を有し、前記Al層と前記金属部材層との接合部には、前記金属部材層側に位置するTi層と、前記Ti層と前記Al層との間に位置し、Al3TiにSiが固溶したAl−Ti−Si層と、が形成されており、前記Al−Ti−Si層は、前記Ti層側に形成された第一Al−Ti−Si層と、前記Al層側に形成され前記第一Al−Ti−Si層よりもSi濃度が低い第二Al−Ti−Si層と、を備えていることを特徴としている。
なお、本発明において、アルミニウムは純アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものとし、銅は純銅又は銅合金、ニッケルは純ニッケル又はニッケル合金、銀は純銀又は銀合金で構成されたものとしている。
【0013】
本発明のパワーモジュール用基板によれば、金属層において、Al層と金属部材層との接合部には、Ti層と、Al−Ti−Si層とが形成されており、硬いAl−Ti−Cu層やAl−Ti層等が形成されていないので、ヒートサイクルが負荷された際に、金属層にクラックが発生することを抑制することができる。したがって、パワーモジュール用基板の金属層がヒートシンクに接合された場合、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの接合信頼性を向上できる。
さらに、Ti層側に形成された第一Al−Ti−Si層のSi濃度が、Al層側に形成された第二Al−Ti−Si層のSi濃度よりも高いので、Ti原子がAl層側に拡散することが抑制され、第一Al−Ti−Si層、及び第二Al−Ti−Si層の厚さを薄くすることができる。
【0014】
また、この場合、絶縁層の他方の面に比較的変形抵抗の小さいAl層が形成されているので、ヒートサイクルが負荷された際に生じる熱応力をAl層が吸収し、セラミックス基板に割れが発生することを抑制できる。
さらに、Al層のうち絶縁層が形成された面と反対側の面に、銅又は銅合金からなるCu層が形成されている場合、Cu層はAl層に比べて変形抵抗が大きいことから、ヒートサイクルが負荷された際に金属層の変形が抑制され、ヒートシンクと金属層を接合する接合層の変形を抑制し、接合信頼性を向上できる。
また、Al層のうち絶縁層が形成された面と反対側の面に、ニッケル又はニッケル合金からなるNi層が形成されている場合、はんだ付け性が良好となり、ヒートシンクとの接合信頼性が向上する。
また、Al層のうち絶縁層が形成された面と反対側の面に、銀又は銀合金からなるAg層が形成されている場合、例えば酸化銀粒子と有機物からなる還元剤とを含む酸化銀ペーストを用いてヒートシンクを接合する際に、酸化銀が還元された銀とAg層とが同種の金属同士の接合となるため、接合信頼性を向上させることができる。
【0015】
また、上記パワーモジュール用基板において、前記第二Al−Ti−Si層に含まれるSi濃度が1at%以上であることが好ましい。
この場合、Al層側に形成された第二Al−Ti−Si層が十分なSi濃度を有しているので、Al層を構成するAl原子がTi層側に過剰に拡散することが抑制され、第一Al−Ti−Si層、及び第二Al−Ti−Si層の厚さを薄くすることができる。
【0016】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、上述のパワーモジュール用基板と、前記金属層に接合されたヒートシンクと、を備えることを特徴としている。
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、パワーモジュール用基板とヒートシンクとが接合されているので、ヒートシンクを介してパワーモジュール用基板側からの熱を効率的に放散することができる。
【0017】
また、上述のヒートシンク付パワーモジュール用基板において、前記金属層と前記ヒートシンクとがはんだ層を介して接合されていることが好ましい。
この場合、金属層のうちヒートシンク側に形成された銅、ニッケル、又は銀からなる金属部材層と、ヒートシンクとがはんだ層を介して接合されているので、金属部材層とはんだ層を良好に接合することができ、金属層とヒートシンクとの接合信頼性を向上させることができる。
【0018】
また、上述のヒートシンク付パワーモジュール用基板において、前記回路層は、アルミニウムからなるAl層と、このAl層の一方の面に形成され銅、ニッケル、又は銀からなる金属部材層と、を有し、前記Al層と前記金属部材層との接合部には、前記金属部材層側に位置するTi層と、前記Ti層と前記Al層との間に位置し、Al
3TiにSiが固溶したAl−Ti−Si層と、が形成されており、前記Al−Ti−Si層は、前記Ti層側に形成された第一Al−Ti−Si層と、前記Al層側に形成され前記第一Al−Ti−Si層よりもSi濃度が低い第二Al−Ti−Si層と、を備えていることを特徴としている。
【0019】
この場合、回路層において、Al層と金属部材層との接合部には、Ti層と、Al−Ti−Si層とが形成されており、硬いAl−Ti−Cu層やAl−Ti層等が形成されていないので、ヒートサイクルが負荷された際に、回路層にクラックが発生することを抑制することができる。したがって、回路層に接合される半導体素子との接合信頼性を向上できる。
さらに、Al層の一方の面にCu層又はAg層が形成されている場合、熱伝導率の良好なCu層又はAg層が回路層の一方側に形成されているので、半導体素子からの熱を拡げて効率的にパワーモジュール用基板側に伝達することができる。
また、Al層の一方の面にニッケル又はニッケル合金からなるNi層が形成されている場合、はんだ付け性が良好となり、半導体素子との接合信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Al層と、銅、ニッケル、銀のいずれかからなる金属部材層とを有する金属層において、Al層と金属部材層とが良好に接合され、ヒートサイクルが負荷された際に接合部におけるクラックの発生を抑制でき、接合信頼性が良好なパワーモジュール用基板、及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の一実施形態に係るヒートシンク付パワーモジュール1を示す。
ヒートシンク付パワーモジュール1は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板30と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板30の一方の面(
図1において上面)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
ヒートシンク付パワーモジュール用基板30は、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10の下側にはんだ層35を介して接合されたヒートシンク31と、を備えている。
【0023】
パワーモジュール用基板10は、
図2に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図3において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0024】
セラミックス基板11は、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化ケイ素)、Al
2O
3(アルミナ)等で構成されている。本実施形態では、放熱性の優れたAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面(
図2において上面)に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。なお、回路層12となるアルミニウム板の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、
図1に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図2において下面)に配設されたAl層13Aと、このAl層13Aのうちセラミックス基板11が接合された面と反対側の面にTi層15を介して積層されたCu層13B(金属部材層)と、を有している。
Al層13Aは、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、Al層13Aは、純度99質量%以上のアルミニウム(いわゆる2Nアルミニウム)の圧延板を接合することで形成されている。前記純度99質量%以上のアルミニウムの圧延板には、0.08質量%以上0.95質量%以下のSiが含有されているとよい。なお、接合されるアルミニウム板の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0027】
Cu層13Bは、Al層13Aのうちセラミックス基板11が形成された面と反対側の面(
図2において下面)に、Ti層15を介して、銅又は銅合金からなる銅板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、Cu層13Bは、無酸素銅の圧延板がAl層13Aに、チタン箔を介して固相拡散接合されることにより形成されている。なお、接合される銅板の厚さは0.1mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
【0028】
Ti層15は、Al層13Aと銅板とがチタン箔を介して積層され、固相拡散接合されることにより形成されるものである。ここで、チタン箔の純度は99%以上とされている。また、Ti箔の厚さは3μm以上40μm以下に設定されており、本実施形態では、15μmに設定されている。
そして、Al層13AとTi層15との接合界面には、
図3に示すように、Al
3TiにSiが固溶したAl−Ti−Si層16が形成されている。
【0029】
Al−Ti−Si層16は、Al層12AのAl原子と、Ti層15のTi原子とが相互拡散することによって形成されるものである。Al−Ti−Si層16の厚さは、0.5μm以上10μm以下に設定されており、本実施形態においては5μmとされている。このAl−Ti−Si層16は、
図3に示すように、Ti層15側に形成された第一Al−Ti−Si層16Aと、Al層13A側に形成された第二Al−Ti−Si層16Bとを備えている。すなわち、Al層13AとCu層13Bとの接合部には、Ti層15と、第一Al−Ti−Si層16Aと、第二Al−Ti−Si層16Bとが形成されているのである。
【0030】
これら、第一Al−Ti−Si層16Aと第二Al−Ti−Si層16Bは、Al
3TiにSiが固溶したAl−Ti−Si相からなり、第二Al−Ti−Si層16BのSi濃度が、第一Al−Ti−Si層16AのSi濃度よりも低くなっている。なお、本実施形態において、第一Al−Ti−Si層16A及び第二Al−Ti−Si層16Bに含まれるSiは、2N−Alの圧延板中に不純物として含まれるSiがAl−Ti−Si層16中に拡散し、濃化したものである。
第一Al−Ti−Si層16AのSi濃度は、10at%以上30at%以下とされており、本実施形態では20at%とされている。第二Al−Ti−Si層16BのSi濃度は、1at%以上10at%以下とされており、本実施形態では3at%とされている。
【0031】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、はんだ層2を介して接合されている。
はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされており、パワーモジュール用基板10と半導体素子3とを接合するものである。
【0032】
ヒートシンク31は、パワーモジュール用基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では無酸素銅で構成されている。このヒートシンク31には、冷却用の流体が流れるための流路32が設けられている。
はんだ層35は、はんだ層2と同様に、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされており、パワーモジュール用基板10とヒートシンク31とを接合するものである。
【0033】
次に、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール1の製造方法について、
図4及び
図5を参照して説明する。
まず、
図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、回路層12となるアルミニウム板22を積層する。一方、セラミックス基板11の他方の面には、Al層13Aとなるアルミニウム板23Aを積層し、さらにその上にチタン箔25を介してCu層13Bとなる銅板23Bを積層する(アルミニウム板及び銅板積層工程S01)。ここで、本実施形態においては、アルミニウム板22、23Aとセラミックス基板11との間には、Al−Si系のろう材箔26を介して積層した。
【0034】
次いで、積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で真空加熱炉内に配置し加熱して、回路層12及びAl層13Aを形成するとともに、Al層13Aとチタン箔25、及び銅板23Bとチタン箔25を固相拡散接合し、回路層12及び金属層13を形成する(回路層及び金属層形成工程S02)。
【0035】
ここで、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上643℃以下、保持時間は30分以上180分以下の範囲内に設定されることが好ましい。また、より好ましい加熱温度は、630℃以上643℃以下の範囲内とされている。本実施形態においては、積層方向に12kgf/cm
2の圧力を負荷し、加熱温度640℃、保持時間60分の条件で実施した。
なお、アルミニウム板23A、チタン箔25、及び銅板23Bの接合されるそれぞれの面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされた後に、固相拡散接合されている。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0036】
次に、パワーモジュール用基板10の金属層13に、はんだ材を介してヒートシンク31を積層し、還元炉内においてはんだ接合する(ヒートシンク接合工程S03)。
このようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30が製造される。
次いで、回路層12の一方の面(表面)に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する(半導体素子接合工程S04)。
上記のようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール1が製造される。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態に係るヒートシンク付パワーモジュール1、ヒートシンク付パワーモジュール用基板30、及びパワーモジュール用基板10によれば、金属層13においてAl層13AとCu層13Bとの接合部には、Ti層15と、Al−Ti−Si層16とが形成された構成とされており、硬いAl−Ti−Cu層やAl−Ti層が形成されていないので、ヒートサイクルが負荷された際に、金属層13にクラックが発生することを抑制することができる。したがって、パワーモジュール用基板10とヒートシンク31との接合信頼性を向上できる。
【0038】
さらに、Ti層15側に形成された第一Al−Ti−Si層16AのSi濃度が、Al層13A側に形成された第二Al−Ti−Si層16BのSi濃度よりも高いので、Si濃度が高い第一Al−Ti−Si層16AによってTi原子がAl層13A側に拡散することが抑制され、Al−Ti−Si層16の厚さを薄くすることができる。そして、このようにAl−Ti−Si層16の厚さを薄くすることで、ヒートサイクルが負荷された際にAl層13AとCu層13Bとの接合部にクラックが発生することを抑制可能となる。
【0039】
また、Al層13A側に形成された第二Al−Ti−Si層16Bに含まれるSi濃度が1at%以上10at%以下とされているので、Al原子がTi層15側に過剰に拡散することが抑制され、第二Al−Ti−Si層16Bの厚さを薄くすることができる。
さらには、Ti層15側に形成された第一Al−Ti−Si層16Aに含まれるSi濃度が10at%以上30at%以下とされているので、Ti原子がAl層13A側に過剰に拡散することが抑制され、第一Al−Ti−Si層16Aの厚さを薄くすることができる。
【0040】
また、本実施形態においては、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に、アルミニウム板23A、チタン箔25、銅板23B、及びアルミニウム板22を一度に接合する構成とされているので、製造工程を簡略化することができ、製造コストを低減可能である。
【0041】
また、セラミックス基板11の他方の面に比較的変形抵抗の小さいAl層13Aが形成されているので、ヒートサイクルが負荷された際に生じる熱応力をAl層13Aが吸収し、セラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。
さらに、Al層13Aのうちセラミックス基板11が形成された面と反対側の面には、比較的変形抵抗の大きいCu層13Bが形成されているので、ヒートサイクルが負荷された際に金属層13の変形が抑制され、金属層13とヒートシンク31とを接合するはんだ層35の変形を抑制し、接合信頼性を向上できる。
【0042】
また、本実施形態においては、Al層13A(アルミニウム板23A)とチタン箔25、及び銅板23Bとチタン箔25との固相拡散接合は、積層方向へ1〜35kgf/cm
2の圧力をかけられた状態で600℃以上643℃以下に保持することで行われる構成とされているので、Al層13A及び銅板23B中にTi原子を拡散させ、チタン箔25中にAl原子及びCu原子を固相拡散させて固相拡散接合し、Al層13A、チタン箔25、及び銅板23Bを確実に接合することができる。
【0043】
固相拡散接合する際に積層方向にかかる圧力が1kgf/cm
2未満の場合は、Al層13A、チタン箔25、及び銅板23Bを十分に接合させることが困難となり、接合界面に隙間が生じる場合がある。また、35kgf/cm
2を超える場合には、負荷される荷重が高すぎるために、セラミックス基板11に割れが発生することがある。このような理由により、固相拡散接合の際にかかる圧力は、上記の範囲に設定されている。
【0044】
固相拡散接合する際の温度が600℃以上の場合には、Al原子、Ti原子、及びCu原子の拡散が促進され、短時間で十分に固相拡散させることができる。また、643℃以下の場合には、アルミニウムの溶融による液相が生じて接合界面にコブが生じたり、厚さが変動したりすることを抑制できる。そのため、固相拡散接合の好ましい温度範囲は、上記の範囲に設定されている。
【0045】
また、固相拡散接合する際に、接合される面に傷がある場合、固相拡散接合時に隙間が生じる場合があるが、本実施形態では、アルミニウム板23A、銅板23B、及びチタン箔25の接合される面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされた後に、固相拡散接合されているので、それぞれの接合界面に隙間が生じることを抑制して接合することが可能である。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0047】
なお、上記実施の形態では、Al層と、Cu層とが接合される場合について説明したが、Cu層に代えて、ニッケル又はニッケル合金からなるNi層、もしくは銀又は銀合金からなるAg層が接合されても良い。
【0048】
例えば、Cu層に代えてNi層を形成した場合には、はんだ付け性が良好となり、はんだ材を介して金属層とヒートシンクとを接合した際に、接合信頼性を向上できる。さらに、固相拡散接合によってNi層を形成する場合には、無電解めっき等でNiめっき膜を形成する際に行われるマスキング処理が不要なので、製造コストを低減できる。この場合、Ni層の厚さは1μm以上30μm以下とすることが望ましい。Ni層の厚さが1μm未満の場合には半導体素子との接合信頼性の向上の効果が無くなるおそれがあり、30μmを超える場合にはNi層が熱抵抗体となり効率的にヒートシンク側に熱を伝達できなくなるおそれがある。
また、固相拡散接合によってNi層を形成する場合、固相拡散接合は、前記第一実施形態においてCu層を形成した場合と同様の条件で形成することができる。
【0049】
また、Cu層に代えてAg層を形成した場合には、例えば酸化銀粒子と有機物からなる還元剤とを含む酸化銀ペーストを用いてヒートシンクを接合する際に、酸化銀が還元された銀とAg層とが同種の金属同士の接合となるため、接合信頼性を向上させることができる。この場合、Ag層の厚さは1μm以上20μm以下とすることが望ましい。Ag層の厚さが1μm未満の場合には半導体素子との接合信頼性の向上の効果が無くなるおそれがあり、20μmを超える場合には接合信頼性向上の効果が観られなくなり、コストの増加を招く。
また、固相拡散接合によってAg層を形成する場合、固相拡散接合は、前記第一実施形態においてCu層を形成した場合と同様の条件で形成することができる。
【0050】
また、
図6に示すように、回路層112が、セラミックス基板11の一方の面(
図6において上面)に形成されたAl層112Aと、Al層112Aの一方の面(
図6において上面)に、Ti層115を介して固相拡散接合されたCu層112Bと、を有する構成とされても良い。
【0051】
この回路層112を備えたヒートシンク付パワーモジュール101においては、ヒートサイクルが負荷された際に、セラミックス基板11に生じる熱応力をAl層112Aによって吸収し、セラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。また、Al層112Aの上側には、Cu層112Bが形成されているので、半導体素子3側からの熱を拡げて効率的にヒートシンク31側に放散できる。
【0052】
なお、上記実施形態では、チタン箔を介して、2Nアルミニウムからなるアルミニウム板と無酸素銅からなる銅板とを積層し、固相拡散接合する場合について説明したが、Siの含有量が2Nアルミニウムよりも少ない4Nアルミニウムからなるアルミニウム板と銅板とをチタン箔を介して固相拡散接合した場合には、接合界面にAl
3TiにSiが固溶したAl−Ti−Si層は形成されず、Al
3Ti層(Al−Ti層)が厚く成長することになる。4Nアルミニウムからなるアルミニウム板と銅板とを接合する場合、例えば
図7に示すように、4Nアルミニウムからなるアルミニウム板223Aの下に、Al−Si系のろう材箔226、チタン箔225、銅板223Bを順に積層し、固相拡散接合することによって、パワーモジュール用基板10と同様に第一Al−Ti−Si層及び第二Al−Ti−Si層を形成することができ、ヒートサイクルが負荷された際に金属層にクラックが生じることを抑制可能となる。
【0053】
また、上記実施形態では、はんだ材を介して金属層とヒートシンクとを接合する場合について説明したが、これに限定されることはなく、他の手法によって接合されても良い。例えば、上述の酸化銀ペーストによって接合されても良いし、ろう材箔によって接合されても良い。
【0054】
また、上記実施形態において、回路層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成される場合について説明したが、これに限定されることはなく、銅や銅合金で構成されても良い。また、回路層が銅又は銅合金からなるリードフレームの一部とされていてもよい。
また、ヒートシンクが銅又は銅合金で構成される場合について説明したが、これに限定されることはなく、ヒートシンクがアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されても良い。
【0055】
また、上記実施の形態では、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Al−Si系のろう材箔を介してアルミニウム板を接合する場合について説明したが、これに限定されることはなく、過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Bonding)を適用しても良い。
【0056】
さらに、上記実施の形態では、セラミックス基板の他方の面に、Al−Si系のろう材箔を介して、Al層となるアルミニウム板を積層し、さらにその上にチタン箔を介してCu層となる銅板を積層し、加圧加熱することで金属層を形成したが、チタン箔及び銅板の代わりにTi/Cuからなるクラッド材を用いることができる。また、アルミニウム板、チタン箔及び銅板の代わりに、Al/Ti/Cuの3層からなるクラッド材を用いることもできる。
また、Cu層に代えてNi層を形成する場合、Ti/Niからなるクラッド材やAl/Ti/Niからなるクラッド材を用いることができる。
さらに、Cu層に代えてAg層を形成する場合、Ti/Agからなるクラッド材やAl/Ti/Agからなるクラッド材を用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
本発明例1〜5のヒートシンク付パワーモジュールを次のようにして製造した。まず、表1に示すセラミックス基板の一方の面に、回路層となる純度99%以上のAl(2N−Al)板を積層する。また、セラミックス基板の他方の面には、Al層となる純度99%以上のアルミニウム板(Siを0.25質量%含有)を積層し、さらにチタン箔を介して無酸素銅の銅板を積層する。ここで、アルミニウム板とセラミックス基板との間には、Al−Si系のろう材箔を介して積層した。次いで、表1に示す条件で加熱処理を行い、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に回路層及びAl層を形成するとともに、Al層、チタン箔、銅板を固相拡散接合して金属層を形成した。そして、パワーモジュール用基板の金属層と表1に示すヒートシンクとをSn−Sb系のはんだ材を用いて接合した。また、回路層の一方の面に、Sn−Sb系のはんだ材を介して半導体素子を接合した。
【0058】
次に、本発明例6〜8のヒートシンク付パワーモジュールの製造方法を説明する。セラミックス基板の一方の面に、Al層となるSiを0.25質量%含有する2Nアルミニウム板を積層し、さらにその上にチタン箔を介して表1記載の金属部材層を構成する金属板を積層する。また、セラミックス基板の他方の面には、Al層となる純度99%以上のアルミニウム板(Siを0.25質量%含有)を積層し、さらにチタン箔を介して表1記載の金属部材層を構成する金属板を積層する。ここで、アルミニウム板とセラミックス基板との間には、Al−Si系のろう材箔を介して積層した。次いで、表1に示す条件で加熱処理を行い、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にAl層を形成するとともに、Al層、チタン箔、金属部材からなる板を固相拡散接合して回路層及び金属層を形成した。そして、パワーモジュール用基板の金属層と表1に示すヒートシンクとをSn−Sb系のはんだ材を用いて接合した。また、回路層の一方の面に、Sn−Sb系のはんだ材を介して半導体素子を接合した。
【0059】
比較例1のヒートシンク付パワーモジュールは、Al層として純度99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)を用いたこと以外は、本発明例1のヒートシンク付パワーモジュールと同様にして製造した。なお、加熱処理は、表1に示す条件で実施した。
【0060】
このようにして製造されたヒートシンク付パワーモジュールの金属層におけるAl層と金属部材層との接合部において、断面観察を行い、Al−Ti−Si層の有無を確認した。
また、ヒートシンク付パワーモジュールに対して、冷熱サイクル試験を行い、試験後のセラミックス基板と金属層との接合率を評価した。
断面観察、冷熱サイクル試験及び接合率の評価は、以下のようにして行った。
【0061】
(断面観察)
Al層と金属部材層との接合部の断面をクロスセクションポリッシャ(日本電子株式会社製SM−09010)を用いて、イオン加速電圧:5kV、加工時間:14時間、遮蔽板からの突出量:100μmでイオンエッチングした後に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてAl層と金属部材層との接合部の観察を行った。そして、EPMA分析装置を用いて、接合部の組成分析を行い、Ti層とAl層との間の接合界面に、Al
3TiにSiが固溶したAl−Ti−Si層が形成されているかどうかを確認した。
【0062】
(冷熱サイクル試験)
冷熱サイクル試験は、冷熱衝撃試験機エスペック社製TSB−51を使用し、ヒートシンク付パワーモジュールに対して、液相(フロリナート)で、−40℃×5分←→125℃×5分の3000サイクルを実施した。
【0063】
(Al層と金属部材層との接合部の接合率評価)
ヒートシンク付パワーモジュールに対し、Al層と金属部材層との接合部の接合率について超音波探傷装置を用いて評価し、以下の式から算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち本実施例ではAl層の面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。なお、セラミックス基板及び金属層にクラックが生じた場合、このクラックは超音波探傷像において白色部で示され、クラックも剥離面積として評価されることになる。
(接合率(%))={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)×100
以上の評価の結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
Al−Ti−Si層が確認された本発明例1〜8では冷熱サイクル試験後の接合率は94.4%以上と高く、接合信頼性の高いパワーモジュールであることが確認された。
一方、Al−Ti−Si層が確認されなかった比較例1では、ヒートサイクル試験後の接合率は、本発明例と比べると大幅に低下した。