(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725099
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
A47J27/00 103H
A47J27/00 103A
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-161200(P2013-161200)
(22)【出願日】2013年8月2日
(62)【分割の表示】特願2009-137946(P2009-137946)の分割
【原出願日】2009年6月9日
(65)【公開番号】特開2013-240699(P2013-240699A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003702
【氏名又は名称】タイガー魔法瓶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092875
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 孝治
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】田窪 博典
【審査官】
豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−194111(JP,A)
【文献】
特開2008−228983(JP,A)
【文献】
特開2007−244558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00 − 36/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に釉薬層を形成した焼物よりなり、その内周面側における釉薬層の表面に金属溶射層を介して非粘着コート層を形成するとともに、その底壁部外周側とアール面部外周側に電磁誘導加熱用の加熱部材を設けてなる電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋であって、上記底壁部および上記アール面部相互の壁部構造を変えることなく、上記アール面部側内周面の金属溶射層の表面を平滑化処理した上で非粘着層を形成することにより、上記底壁部側の加熱性能を上記アール面部側の加熱性能よりも大きくしたことを特徴とする電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋、特に一般に土鍋と呼ばれる焼物タイプの電磁誘導加熱式電気炊飯器用の内鍋の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、内鍋と、該内鍋が収納される炊飯器本体と、上記内鍋の外周面に対向するように配置され、上記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた電磁誘導加熱式電気炊飯器であって、上記内鍋を蓄熱性の高い焼物(セラミック材)で構成するとともに、同内鍋の上記炊飯器本体内に収納された時の上記誘導加熱コイルに対向する外周面部分に電磁誘導加熱可能な金属材料からなる内鍋加熱部材を接合した電磁誘導加熱式電気炊飯器が提供されている。
【0003】
このような電磁誘導加熱式電気炊飯器において使用される内鍋では、その内周面側に、ご飯のこびりつき、焦げつきを生じさせないために、フッ素樹脂の塗布を施すようにしたものがある(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
このような構成の内鍋では、炊飯開始スイッチのON操作によって炊飯動作が開始されると、所定の手順に従って上記誘導加熱コイルに高周波電流が供給される。そして、上記誘導加熱コイルに発生する交番磁界により、同誘導加熱コイルと対向する内鍋外周部分の内鍋加熱部材が電磁誘導可能に結合して渦電流が流れる。
【0005】
そして、同内鍋加熱部材は、この渦電流によるジュール熱により発熱し、その熱が内鍋へ伝達され、上記内鍋の内周面側に施されたフッ素樹脂コーティング層を介して米と水を加熱する。このとき、熱の一部は上記内鍋基材を通して内鍋の底面部から側壁部へと伝わり、内鍋全体が温められて米と水が均一に加熱される。
【0006】
また、内鍋の内周面にフッ素樹脂コーティングが施されていることから、必要な発水性が確保されるので、ご飯の付着しにくい内鍋が得られる。
【0007】
しかし、フッ素樹脂をコーティングした構成の場合、フッ素樹脂がセラミック製の基材表面から剥がれやすく、耐久性、信頼性に欠ける問題があった。
【0008】
そこで、このような事情に対応し、例えばセラミック鍋の表面を金属酸化物を含むアルミナ膜を形成し、該アルミナ膜を介して上面側にフッ素樹脂を塗布し、焼成することによって、フッ素樹脂膜を形成するようにしたものも提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【0009】
このような構成によると、セラミック鍋の表面をサンドブラストすることにより粗化した上で、アルミナ膜を形成しているので、セラミック鍋に対するアルミナ膜の密着性が高くなるので、セラミック鍋とフッ素樹脂との密着性をも或る程度向上させることができる。
【0010】
しかし、上記特許文献2の構成の場合、たしかにアルミナ膜とセラミック鍋との密着性は向上するとしても、あくまでもアルミナはセラミックであり、仮に金属を混合したとしても金属と同等の特性は生じ得ない。したがって、セラミック鍋との密着性が必ずしも十分に高くなるとは言い難い。特に対象となるセラミック鍋が素焼状態のものならともかく、その表面に釉薬層を有するものの場合には、より密着度が向上しにくい。
【0011】
また、フッ素樹脂膜は、単にアルミナ膜上に塗布されているのみであり、最終的に焼成されるとしても、必ずしも両者の間に確実な密着性が維持されるとは限らない。したがって、やはり付着状態の安定性に欠け、剥がれやすいという問題が残されている。
【0012】
また、セラミック鍋の表面にアルミナ等のセラミック膜を形成するためには、プラズマ溶射機やメタリコン溶射機等の高価で大がかりな溶射機を用いて、狭い幅で溶射して行く必要があり、簡易かつ安価なアーク溶射機を用いて溶射することができない。
【0013】
そこで、本願発明者は、このようなフッ素樹脂コート層形成上の問題を解決するために、上述のごとく、内鍋の基体部分を焼物によって形成するとともに、同内鍋の基体内周面に所定の釉薬層を形成し、その上に金属溶射層を形成する。そして、その上で同金属溶射層の上面にフッ素樹脂コート層を形成することにより、フッ素樹脂の金属溶射層に対する密着度を大きくし、ご飯のこびりつきと焦げつきを防止しながら、その信頼性、耐久性を向上させるようにした電磁誘導加熱式電気炊飯器用の内鍋を提案している(例えば特許文献3参照)。
【0014】
このような構成によれば、釉薬層の表面に、さらに金属溶射層を介してフッ素樹脂コート層が形成されているので、釉薬層だけの場合に比べて遥かに内鍋内周面のご飯に対する非粘着性が高くなり、ご飯のこびりつき、焦げつきが生じにくくなる。
【0015】
しかも、フッ素樹脂コート層は、上記金属溶射層を介してコーティングしているので、従来に比べて密着度が大きく向上して、より剥がれが生じにくくなり、特許文献2のフッ素コーティング層の場合に比べて、遥かに信頼性の高いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−413号公報
【特許文献2】特開2008−279083号公報
【特許文献3】特願2009−96100号明細書および図面
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、上記特許文献3のように金属溶射層を形成するようにした場合、次のような課題があることが判明した。
【0018】
すなわち、例えばアーク溶射機等の金属溶射機を用いて内鍋の内周面に金属溶射層を形成する場合、
図5に示すように、内鍋1を軸周りに回転させながら、金属溶射機の溶射ノズルを内鍋1の側壁部1cからR面部1b、底壁部1aと、順次方向(溶射ノズルのノズル角)を変えながら溶射して行く。
【0019】
ところが、この場合、同溶射ノズルが図示のような角度で側壁部1cに向いている時には、側壁部に向けて吐出された金属材料aが側壁部1cの内周面に溶射塗布されるとともに、その一部bがR面部1b側に向いて反射される。
【0020】
そして、その後、同溶射ノズルが側壁部1c側からR面部1b方向に移動してR面部1b部分へ金属材料が溶射される。
【0021】
そして、同R面部1bの金属溶射が終わると、さらに溶射ノズルを底壁部1a側に向けて移動させ、底壁部1aに向けて金属材料cを溶射する。この時も、同溶射ノズルから吐出された金属材料cの一部dが、上記R面部1b部分に向いて反射する。
【0022】
これらの結果、溶射完了後の内鍋1内周面の金属溶射層を観察すると、側壁部1c内周面の金属溶射層2c、R面部1bの金属溶射層2b、底壁部1a内周面の金属溶射2aの内、R面部1bの金属溶射層2bの厚さが最も厚くなり、図示のように、その表面の粗度が高くなっていることが分った。
【0023】
その結果、内鍋1外周側の誘導加熱コイルに通電し、図示底壁部1a外周側第1の加熱部材3aおよびR面部1b外周側第2の加熱部材3bを発熱させた時に、例えば
図6に示すように、金属溶射層2bの厚さが厚く、粗度の高い(凹凸の激しい)R面部1b部分の加熱効率が高く、気泡の発生も活発になって水の上昇流が発生しやすくなり、図中に矢印で示す外周部側から中心部側への内対流が形成されやすくなる。
【0024】
この結果、炊き上がったご飯は、その表面RTの中央部側が広い範囲に亘って低く、外周部が高い凹面形状の炊き上り形状となる。
【0025】
つまり、同構成の場合、内鍋底壁部1a側の加熱量が不足し、側壁部1c側が強く加熱された状態となり、炊きムラが生じる。
【0026】
このような炊きムラは、要するに内鍋のR面部1b側と底壁部1a側とでR面部1b側の加熱性能の方が大きすぎることに起因している。
【0027】
本願発明は、以上の点に着目し、各々の加熱性能を有効に向上させる一方、相対的にR面部側よりも底壁部側の加熱性能を大きくし、底壁部側からの気泡の発生を促進することにより、従来とは逆の中央部側から外周部側に上昇する外対流を形成し、炊き上ったご飯の表面の中央部が盛り上るようにすることによって、効果的に炊きムラを解消した電磁誘導加熱式電気炊飯器用の内鍋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本願発明は、上記の目的を達成するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
【0029】
(1) 請求項1の発明
この発明は、表面に釉薬層を形成した焼物よりなり、その内周面側における釉薬層の表面に
金属溶射層を介して非粘着コート層を
形成するとともに、その底壁部外周側とアール面部外周側に電磁誘導加熱用の加熱部材を設けてなる電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋であって、
上記底壁部および上記アール面部相互の壁部構造を変えることなく、上記アール面部側内周面の金属溶射層の表面を平滑化処理した上で非粘着層を形成することにより、上記底壁部側の加熱性能を上記アール面部側の加熱性能よりも大きくしたことを特徴としている。
【0030】
このよう
に、
焼き物製内鍋の内周面における釉薬層の表面に金属溶射層を介して非粘着コート層を形成するようにすると、ご飯のこびりつき、焦げ付きがなく、非粘着層も剥がれにくい、電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋を提供することができる。
【0031】
そして、その場合において、当該内鍋の底壁部および上記アール面部相互の壁部構造を変えることなく、特に上記アール面部側内周面の金属溶射層の表面を平滑化処理した上で非粘着層を形成するようにすると、アール面部側よりも底壁部側からの気泡の発生が促進され
るようになり、従来とは逆の底
壁部側の広い範囲から外周部アール面部側に効率良く上昇する有効な外対流を形成することができる
ようになる。
【0032】
その結果、同外対流により、炊き上ったご飯の表面の中央部側が広い範囲で盛り上る良好な炊飯が可能とな
り、従来のような炊きムラを
有効に解消することができる。
【0033】
しかも、この発明の構成の場合、そのような作用を、当該内鍋の上記底壁部および上記アール面部相互の壁部構造を変えることなく、上記アール面部側内周面の金属溶射層の表面を平滑化処理するだけの簡単な方法により、有効に実現することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上の結果、本願発明によると、炊きムラのない良好な炊飯性能の電磁誘導加熱式電気炊飯器用の内鍋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本願発明の実施の形態に係る電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋の全体的な断面構造を示す図である。
【
図2】同内鍋の底壁部の構造を炊飯器本体側の加熱手段との関係で示す断面図である。
【
図3】同内鍋の底壁部の要部の構造を拡大して示す断面図である。
【
図4】同内鍋の側壁部の要部の構造を拡大して示す断面図である。
【
図5】従来の電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋の全体的な断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1〜
図4は、本願発明の実施の形態に係る電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋の構成を示している。
【0037】
この内鍋1は、すでに述べたような一般に土鍋と呼ばれるセラミック構造の炊飯用の内鍋であって、例えば
図1に示す内鍋本体(基体)1a〜1d部分は、焼結時の耐熱温度が高く、保温時の蓄熱性が良いコーディエライト系の焼物材料よりなり、図示のような底壁部1a、アール面部1b、側壁部1c、開口部1d、口縁部1f、高台部1eを備えた有底断面形状のものに形成されている。
【0038】
そして、その底壁部1a外周の高台部1e内側には第1の加熱部材3a、同底部1aの高台部1eから側壁部1cに連続するアール面部1bの外周には第2の加熱部材3bが各々接合一体化されている。
【0039】
これら第1,第2の各加熱部材3a,3bは、例えば
図2に示す電気炊飯器本体5(コイル台で代表)側の対応する第1,第2の誘導加熱コイル(ワークコイル)C1,C2によって誘起される渦電流によって自己発熱が可能な、例えば銀ペーストその他の誘導発熱シートよりなっている。
【0040】
そして、この内鍋1は、同内鍋1が収納される図示しない電気炊飯器本体と、収納された内鍋1の上記第1,第2の各加熱部材3a,3bに対向するように配置され、同収納された内鍋1を第1,第2の各加熱部材3a,3bを介して誘導加熱する第1,第2の誘導加熱コイルC1,C2とを備えた電磁誘導加熱式電気炊飯器の炊飯器本体5内に収納セットして使用される。
【0041】
そして、同電気炊飯器本体5内へ内鍋1が収納セットされた状態において、例えば炊飯開始スイッチのON操作等によって炊飯動作が開始されると、所定の手順に従って上記第1,第2の誘導加熱コイルC1,C2に高周波電流が供給され、上記第1,第2の誘導加熱コイルC1,C2に発生する交番磁界により、同第1,第2の誘導加熱コイルC1,C2と対向する上記第1,第2の各加熱部材3a,3bが電磁誘導可能に結合して渦電流が流れる。
【0042】
そして、同第1,第2の加熱部材3a,3bは、この渦電流によるジュール熱によって発熱し、その熱が同第1,第2の加熱部材3a,3bの内側の内鍋1へ伝達され、同内鍋1内の米と水を加熱する。このとき、熱の一部は上記内鍋1の本体(基体)を通して内鍋1の底壁部1aからアール面部1b、アール面部1bから側壁部1c、側壁部1cから開口部1dへと伝わり、内鍋1の全体が温められて内鍋1内の米と水が均一に加熱される。
【0043】
なお、上記側壁部1cの外周には、必要に応じて保温ヒータが設けられる。そして、この側壁部1cは、上記底壁部1aおよびアール面部1bよりも壁厚が厚くなっており、保温時の蓄熱性が高くなるように構成されている。
【0044】
ところで、すでに述べたように、従来の内鍋の場合にも、上記内鍋の内周面にはフッ素樹脂コーティング等の表面処理が施されており、これは各種セラミック系基材よりなる内鍋への吸水を押さえる目的と、ご飯のこびりつきや、焦げつきを押さえる目的との2つの目的でなされているものであるが、フッ素樹脂がセラミック製の基材表面から剥がれやすく、耐久性、信頼性に欠ける問題があった。
【0045】
そこで、本実施の形態では、そのようなフッ素樹脂コート層形成上の問題を解決するために、セラミック基材である底壁部1a、アール面部1b、側壁部1c等の表面に釉薬層4aを形成することによって、同内鍋1の非通水性を維持しながら、しかも、ご飯のこびりつき、焦げつきを効果的に防止する方法として、例えば
図2、
図3に示すように釉薬層4aの表面を、必要に応じサンドブラスト処理した上で、その上にアルミ金属の溶射層2a〜2cを形成する。
【0046】
そして、次に該アルミ溶射層2a〜2cの表面にフッ素樹脂プライマーコート層(第1のフッ素樹脂コート層)4b、フッ素樹脂トップコート層(第2のフッ素樹脂コート層)4cを順次形成することにより、フッ素樹脂のアルミ溶射層2a〜2cに対する密着度および結合力を十分に大きくし、ご飯のこびりつきと焦げつきを防止しながら、その信頼性、耐久性を向上させるようにしている。
【0047】
すなわち、本実施の形態の内鍋1では、例えば
図3の底壁部1aの断面図、
図4の側壁部1cの断面図に示すように、
図1に示す内鍋1の底壁部1aから開口部1dに亘る素焼状態の内鍋本体(基体)の各部(加熱部材3a,3bのある部分もない部分も含めて)の内周面と外周面の両面に、先ず所望の厚さのリチア系の釉薬層4a(外周面の図示を省略)を形成し、それによって安価に内鍋本体部分の非通水性を実現する。その後、その内周面側部分(米と水が収容される部分)に、必要に応じて所定のブラスト処理を行って同釉薬層4aの表面を所定の粗さに粗化する。
【0048】
そして、その上に、上記耐久性の高いフッ素樹脂コーティング層4b,4c形成するための下地処理として、アーク溶射機等の簡易な金属溶射機を用いて、アルミ金属の溶射(吹き付け)を行ない、上記釉薬層4a表面の上記サンドブラストによって形成された凹凸面(粗面)に沿った凹凸のある所望の厚さのアルミ溶射層2a〜2cを形成する。このアルミ溶射層2a〜2cは、上記サンドブラストにより形成された釉薬層4a表面の凹凸面部分に効果的に付着係合して密着性良く生成される。
【0049】
そして、その上で、同アルミ溶射層2a〜2cの上部に、先ずフッ素樹脂プライマーコート層(第1のフッ素樹脂コート層)4bを形成し、特に
図4に示す側壁部1cでは同プライマーコート層4bの表面に水目盛7,7,7をパッド印刷する。
【0050】
その後、その上にフッ素樹脂トップコート層(第2のフッ素樹脂コート層)4cをプライマーフッ素樹脂層コート層4bよりも厚い所望の厚さで形成し、さらに焼成することによって、ご飯のこびりつき、焦げつきがなく、しかもフッ素樹脂が剥がれにくくて、水目盛7のクリアな好適な内鍋1が構成される。
【0051】
この場合、本実施形態では、一例として上記釉薬層4aは、上記のようにリチア系の釉薬を、必要に応じ、素焼状態の内鍋本体(基体)1a〜1dの内外周面全体に付着性が良好となる所定のブラスト処理(例えばサンドブラスト処理)を行った上で塗布し、乾燥させて、その後、焼き付け処理することによって形成するようにしている。もちろん、このブラスト処理は、決して必須の要件というものではなく、しなくても必要な密着強度を得ることができるが、ブラスト処理を行った上で釉薬層4aを形成するようにすると、より内鍋本体に対する釉薬層4aの密着強度が増す。
【0052】
ところで、以上の場合、すでに
図5を参照して述べたように、アルミ金属溶射時の溶射方法に起因して、内鍋アール面部1b内周面の金属溶射層2bの厚さが側壁部1cや底壁部1a部分の溶射層2c,2aよりも厚くなり、その表面の粗度も高くなる。その結果、
図6に示すような中央部側の加熱量不足による炊きムラが生じていた。
【0053】
そして、その原因は、底壁部1aの適度な厚さおよび粗度の金属溶射層2aに比べて、その外周側アール面部1bの金属溶射層2bの厚さは必要以上に厚くなり過ぎ、かつ粗度が高くなり過ぎることにあった。
【0054】
そこで、この実施の形態では、この問題を解消し、相対的に底壁部1a側の加熱性能を向上させて内鍋中央部側の加熱効率をアップさせ、有効な外対流を形成するために、上記アール面部1b側の金属溶射層2bの表面を研摩又はブラスト処理することによって、所定のレベルに平滑化し、その粗度を低下させるようにしている。
【0055】
このような構成によると、アール面部1b側よりも底壁部1a側の加熱性能が増大される結果、底壁部1a側からの気泡の発生が促進され、従来とは逆の底壁部1a側中央の広い範囲から外周部アール面部1b側に効率良く上昇する、
図1のような有効な外対流を形成することができることになり、それに応じて炊き上ったご飯の表面RTの中央部側が広い範囲で盛り上る良好な炊飯が可能となる。その結果、従来のような炊きムラを解消することができる。
【0056】
上記アルミ金属による金属溶射層2bは、内鍋1の釉薬層4aに対する結合時の馴みが良いとともに、従来のアルミナ等のセラミック膜に比べて硬度が低いので、アール面部1bにおける平滑化処理も容易である。
【0057】
また、同アルミ製の金属溶射層2a〜2cは、従来のアルミナ等のセラミック膜と違って簡易かつ安価なアーク溶射機によって容易に溶射して行くことができる。したがって、製造コストも安くて済む。
【0058】
以上のように、この実施の形態の構成の場合、上記内鍋1の底壁部1aおよびアール面部1b相互の壁部構造そのものを特に変えることなく、上記アール面部1b側内周面の金属溶射層2bの表面を平滑化処理した上で非粘着層であるフッ素樹脂コート4b、4cを形成することにより、上記底壁部1a側の加熱性能を上記アール面部1b側の加熱性能よりも大きくするようにしている。
【0059】
この結果、上記アール面部1b側の金属溶射層2bの粗度が下がり、相対的に底壁部1a側からの気泡の発生が促進されるようになり、従来とは逆の底壁部1a側の広い範囲から外周部アール面部1b側に効率良く上昇する有効な外対流を形成することができるようになる。
【0060】
そして、その結果、同外対流により、炊き上ったご飯の表面の中央部側が広い範囲で盛り上る良好な炊飯が可能となり、従来のような炊きムラを有効に解消することができる。
【0061】
しかも、上記実施の形態の構成の場合、そのような作用を、当該内鍋1の上記底壁部1aおよび上記アール面部1b相互の壁部構造を変えることなく、上記アール面部1b側内周面の金属溶射層2bの表面を平滑化処理するだけの簡単な方法により、有効に実現することができる。
【0062】
なお、以上の構成における内鍋1内周面の粗度値Raの関係を総括すると、次のようになる。
【0063】
(1) 側壁部1c:気泡発生の必要がないことから、最も平滑度の高いRa=8〜9
(2) アール面部1b:平滑化前の溶射完了段階ではRa=10〜15の非常に高いレベルにあるので、これを研摩又はブラスト処理することによって、Ra=7〜8程度に落す。
【0064】
(3) 底壁部1a:気泡発生効果を高くし、効率良く外対流を生成させるためにRa=10〜12の高いレベルに維持する。
【0065】
(
参考例)
本願発明の要旨は、上述のようなセラミック製の内鍋において、アール面部1bよりも広面積である底壁部1aの加熱性能を相対的に向上させて気泡発生効果を高くし、内鍋1内に炊飯性能の高い外対流を形成する点にある。
【0066】
したがって、そのために有効な方法として、上記のようにアール面部1bの金属溶射層2bを平滑化する方法の他に、また同平滑化する方法に加えて、上記底壁部1a側金属溶射層2a部分の溶射回数を増やすか又は溶射時間を長くすることによって金属溶射層2a部分の厚さ、粗度を高める、材料を変えるなどの方法、また底壁部1a側第1の誘導加熱コイルC1の方の出力をアール面部1b側第2の誘導加熱コイルC2の出力よりも大きくするなどの方法も必要に応じて採用され、それらを適宜組み合わせて使用される。
【符号の説明】
【0067】
1は内鍋、1aは内鍋底壁部、1bは内鍋アール面部、1cは内鍋側壁部、1dは内鍋開口部、2a〜2cはアルミ溶射層、3aは第1の加熱部材、3bは第2の加熱部材、4aは釉薬層、4bはフッ素樹脂プライマーコート層、4cはフッ素樹脂トップコート層、C1は第1の誘導加熱コイル、C2は第2の誘導加熱コイルである。